『アルジェの男』の話。

 なんだかんだで、けっこーツボはある……のか?
 なんか語りたくなるっつーかツッコミたくなるというか。単にわたしがきりやんスキーなだけか(笑)。

 ジュリアン@きりやんが、わからない。

 彼の野心ってなんなの?

 アルジェにいたときのジュリアンは、「いずれパリで一旗揚げる」話をする。
 きりやんの外見では良くわかんないけど、多分ここでは彼、10代の少年なんだよね? それか、せいぜいハタチくらい?
 なんつーか、クライド@タータンがハタチそこそこだったのと同じくらいわかりにくいよな、と突然『凍てついた明日』の話をしてみる(笑)。

 いつかパリに……と夢を語る若者。
 レオン@じゅりぴょんのことを思い出したりもする、はい突然『マラケシュ』です……って、どっちもオギーか。
 植民地で食い詰めている若者にとって、まだ見ぬ都会はそりゃー夢だろう。

 ジュリアンが語るのは、「パリで贅沢な暮らしをする」こと。
 具体的にどうしたいとは、語られない。

 田舎の少年が「オラ、東京さ行くだ。東京にさえ行けば、ビッグになれるだ」と漠然と考えている。
 それはいいけど、どうビッグになるんだ?
 たとえばアイドルになるとか俳優になるとか、芸能関係は東京でなきゃダメだもんな、だから東京!ってのはわかる。
 そこにしかない業種……でなくても、首都にはあらゆる業種の中心部が集まっているから、地方でトップになるより中心の隅っこに引っかかっておいた方が、未来につながりやすい、と考えるのもアリか。

 しかしジュリアンの「パリに行く」は、「オラ、東京さ行くだ。東京にさえ行けば、ビッグになれるだ」の域を出ていない。
 パリに行ってどうしたいのか、語られていない。

 贅沢な暮らしをする、というのは確かに目的であり、夢である。
 だがそれは、どういう意味でだ?

 一攫千金、遊んで暮らして、それでいてお金持ちになりたいのか。
 やりがいのある仕事でばりばり働いて、その結果として地位や富を得たいのか。
 同じ「贅沢な暮らし」でも、このふたつは天と地ほどチガウ。

 遊び暮らすことが目的なの? なにもせずにお金だけある生活が最終目的?
 ジュリアンが語る夢は小学生の作文以下のリアリティで、それでいったいどうしたいのか、感情移入がしにくい。

 「お金持ちになる」という夢のために、ボランジュさん@リュウ様の運転手をするジュリアン。
 仕事の傍ら学校にも通い、真面目に勉強したそうな。

 そうしてボランジュさんの秘書になり、最終的には政府の書記官になったそうな。
 とゆーとだ、彼の目標は政治家だったのか?

 ジュリアンが真面目に働いたり、勉強したりしているところは書かれている。
 パリに来て5年も経つのに、下町に行ったことなかったそうだ。どんだけ。
 『黒い瞳』でも思ったけど、柴田作品って時の流れ変だよね。ベロゴールスクに赴任して数ヶ月も経っているのに、警備隊の少尉なのに、砦に行ったことなかったんだって。まるで数日前に赴任してきたみたいに「新任のニコライに東の砦を案内してます」って言ってたし。この数ヶ月、砦にも行かずどこを守備していたんだ、って話。
 それと同じ、数ヶ月前にやって来たならともかく、5年間、一緒に飲みに行く友だちもなく、下町や歓楽街も知らなかったらしいよジュリアン。下町はともかく、5年間ぼっちのまま、そんな男嫌だ。
 柴田せんせの中の時間軸はどうなっているんだろう。

 まあそれはともかく、ひたすら真面目だと描かれるジュリアン。
 この真面目さってのが、どうにも目的が見えない。
 いずれ政治家になる、という夢があるならそれを語ってくれなくちゃだわ。
 ただボランジュさんの人形として、言われるまま命令されるままの仕事を日々こなしているだけの人に見える。
 または、ボランジュさんの跡継ぎを狙っているなら、そのことも明確にしてくれなきゃだわ。

 「パリで贅沢な暮らしをする」だけならもう、叶っているんだもの。
 いい服を着ていいものを食べて、セレブなお屋敷で美女と踊ったりしている。
 最初にアルジェで語っていた夢は叶った。
 でも、そのことについての言及はない。
 ナニがしたいの?

 夢は叶っているけど、ジュリアンは別に幸せそうじゃない。
 そりゃそーだ、働き蟻みたいに、毎日ひたすら働くだけ。
 人の数倍働いてるんだから、人の数倍儲かっていても、それほど不思議なことじゃない。

 最後にそれまでのモノを全部捨てるわけだから、ジュリアンが幸せそうではいけないのかもしれないが、苦行僧みたいに見えるんだよなあ、ジュリアン。
 耐えることだけが目的で、なにがしたいのかがさっぱりわからない。

 はっきりと「夢」を打ち出して欲しかった。
 「大統領になって、国を動かしたい」でもいいし、「億万長者になって世界中を旅して回りたい」でもいい。「アルジェ総督になって故郷へ凱旋、俺を見下していた奴らの鼻を明かしたい」でもいい。
 ボランジュさんの下僕を淡々と務めているだけの男には、ちっともわくわくしない、ときめかない。
 真面目で事務仕事ができるだけの男を、何故ああまで褒めそやすのかがわからない。
 すごく小役人っぽい……。
 ボラさんの仕事にすごいアイディアを出すとか、彼の危機を救うとか、なにかしらエピソードがあれば「優秀なのね」とわかるけど、言われた仕事をただ四角四面にこなしているだけじゃあ、どう「すごい」と思えと?

 ボラさんが何故ジュリアンを買っているのかもわからない。
 ジュリアンに隠れた才能があったのかどうかも、描かれていない。生まれの不幸のため発揮できないままでいたが、実はものすごい才能があり、ボラさんの庇護の元で花開いている……という様子もない。

 やっぱ単にボラさんがホモで、好みの美少年を拾い、思いのままに調教して飼っている、ってだけ?
 だからあんなにジュリアンは苦行僧めいているの?
 夢のために努力している人に見えないんだもの。

 アルジェの無学な少年のうちは、「パリで贅沢な暮らしをする」が夢でもいい。
 ただそのあと、ボラさんのもとで知識を得るに従って、なにかしらビジョンを持って欲しいわ。
 その「夢」……えーと、「野望」と言わなきゃなんないの?この話の場合……を語って欲しい。
 その明確な目的のために、手段を選ばず……でもいいし、やりがいを持って仕事をしている、でもいい。
 とにかく言われた仕事をしているだけの小役人とか修行僧は嫌よ~~ときめきがない~~。

 目的もなく日々淡々としているから、それらを全部捨てると言い出しても「はあ?」だし。
 カタルシスが薄い。
 それまでさんざんこだわっているからこそ、捨てるときが大事件。
 目的もわかんないまま過ごしていた日々を捨てると言われても。

 とにかく、ジュリアンがわからない。
 わたしには。

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