こだまっちの自己顕示欲による、悪趣味パフォーマンス発表会に成り下がり、物語として機能していない『仮面の男』

 これを最低限の変更で、最低限の物語の筋を通すには、どうすればいいか。
 よくあるじゃん、マッチ棒パズル。「下図のマッチ棒で作られた四角形を、三角形に変更してください。ただし、マッチ棒を動かしていいのは2本だけです」みたいな?
 できるだけ少ない変更で、別のモノを作る。うーん、せめて3本動かせたらこうできるのに、2本だけかあ、難しいなあ、みたいな?

 今の『仮面の男』のストーリー部分の大きな問題点は3つ。

・主人公フィリップと、ヒロイン・ルイーズの関係
・ダルタニアンの復讐のいびつさによる、性格破綻
・三銃士のフィリップに対する利己的さ

 他にも問題は山ほどあるが、今は無視する。あくまでも、いちばん大きな問題点のみに焦点を当てる。
 原作とか映画とか関係なく、あくまでも今の『仮面の男』の流れを正すことのみを考える。

 この3つの問題を、ふたつの場面を追加することで、解消する。


1.三銃士とフィリップの交流

 カーテン前の短い時間でもいい。三銃士が「仮面の男」フィリップに触れる場面を作る。

 なにしろあのルイの双子の兄弟だ、どれほどひどい男かと思うだろう。何年も仮面を付けて投獄されていたんだ、その経験が人格にも影響を与えているだろうし、どんなまぬけな臆病者か、ひねくれた粗暴者かと思うじゃないか。
 それが、助け出されたフィリップは、ものすごく素直で優しくて、物事に感謝し三銃士を尊敬し、誰が見ても「ええ子や……」とほろりとするよーな男の子だった。
 ああ、この子が王だったらいいのに。フィリップが王ならば、きっとたくさんの人が幸せになれる。
 そう思わせてくれないと、ルイとフィリップを入れ替える意味がない。

 短い時間で、カーテン前で表現可能だと思うよ。
 脱獄のドタバタのあと、アトスの「次に鉄の仮面をかぶるのは……!」の台詞のあと。
 アトスが本舞台に戻り、反対側からフィリップとポルトスとアラミスが登場。
 フィリップは仮面ナシなのも外に出たのもはじめてで、おどおどきょろきょろしている。
 アトスはルイを憎んでいるので、最初フィリップへの目線はキツイ。「本当にルイに瓜二つだ」と、台詞でもわかりやすく観客にトップスターのひとり2役を説明。
 そのルイと同じ顔でフィリップは、助けられた感謝を告げ、ルイのことを悪く言う三銃士に対し「弟を責めないでやってほしい。国を守るために仕方なくやったことなんだろう」と言う。こんな仕打ちをされてなお誰も憎んでいない、フィリップの天使っぷりをアピール。
「でも、心配なんだ。牢獄で囚人たちの話をいろいろ耳にした。弟は良い政治をしているんだろうか。なにが誤解や行き違いがあって、行き過ぎた政治をしているんじゃないか?」……囚われの身でありながらも、国のことを心配している、彼こそが王に相応しい人物であることをアピール。
 最初は厳しい目つきだったアトスもだんだんやわらいでゆき、「それならば君がルイに代わって王になり、このフランスを治めるんだ」とつなぐ。
 思ってもみない展開に驚くフィリップ、宮廷のことも帝王学もなにも知らないと言うフィリップに、三銃士が「任せろ」と言う……フィリップの紳士教育を描く時間はないだろうから、「これから三銃士とフィリップの蜜月があった」と想像させるだけでいい。
 カーテン前の数分の場面で、なんとかなるだろう、三銃士とフィリップ。

 フィリップが怯えて逃げ出そうとし、アラミスに笑顔で恫喝される、今の演出ではなく。
 フィリップの性質の良さに惚れ込んだ三銃士が「君こそが王に」と言い出し、フィリップが怯える→アラミスが「自分の運命を受け止める云々」という話をする→フィリップの銀橋の歌、という流れに。


2.ルイと入れ替わったフィリップの生活

 ここは腹を決めて1場面ちゃんと作る。
 ルイーズに正体を明かしたその次あたり。ダルタニアンはふたりの会話を盗み聞きしていないってことで。
 王となったフィリップは、今までルイがめちゃくちゃやっていたことを全部正していく。
 驚きおののく臣下たち。それまでの場面で「ルイの悪趣味」として使われていたいろんな人たちが、そのときの姿で登場するが、フィリップは全部否定。人間ボウリングもやらないし、淑女選びもしない、それよりも会議をしよう、見直したい政策がいろいろある……と言い出す。
 ここで否定するために、悪趣味場面があったんだ、と思わせる。こだまっちパフォーマンスの数々に、意味を持たせるんだ。ストーリーと関連づけるんだ。
 国王が双子であることを知るのはほんのわずかな人々、真実を知る悪者たちだけが「まさか……!」と思い、画面の隅であわてふためく。
 それを見てダルタニアンが、ルイに双子の兄弟がいることを知る。
 しかし、フィリップの王ぶりはなかなに好ましい。ルイーズもダルタニアンも、フィリップに惹かれていく。
 かなりたくさんの人たちを使った、にぎやかな場面にすることができるだろう。

 こだまっちはダルタニアンを悪役として描き、クライマックスで「実は正義の人なんだよ!」とどんでん返しをしたいらしい。ただし、もれなく失敗している。
 今の『仮面の男』にて、自分に都合のいいときはルイの悪政をスルーしていたくせに、ルイが仇だとわかるなり「悪政を行ったから」とルイを糾弾するダルタニアンはあまりに卑怯だ。ダルタニアンの見せ場のはずが「どの口が言うんだ」とあきれかえってしまう。てゆーか、フィリップと初対面なのに、彼が悪政を行わない保証なんかどこにもナイだけに、ルイを廃する理由にもならないっつーの。
 だから、この場面を挿入し、偽物のルイに気づきながらも黙っているダルタニアンをミステリアスに、なにを考えているかわからないように演出する。
 最後の最後、どんでん返しで「気付いてて黙っていたのは、フィリップの方が正しい王だと認めていたからなんだ!」とあとから思い返して納得させる。

 ルイと同じ顔だけど、ルイとはチガウ。ルイの悪趣味をひとつずつ否定していく様を間近で見ることで、ルイーズはいちいち驚く。そして、ひとつフィリップがなにかするたびに、彼はルイーズに頷きかける。ルイの間違いを正すことが自分の使命、また弟のしでかしたことへの償いなのだと。
 最初は頷きかけられるたびに背中を向けたりしていたルイーズが、徐々にフィリップに、舞台の中央に近付いていき、最後は彼の手を取るところまでいく。
 実際に歩み寄る、手を取る、というわかりやすい行動で、彼女の心が動いていく様を表現。……なにしろこの1場面しかナイので、わかりやすさ第一(笑)。

 この場面の最後に、花道あたりを使って、フィリップの善政のために権力が弱まりつつあるルーヴォアが「あれは偽物だ! 実は陛下には双子の兄が……」とダルタニアンに打ち明け、ミレディが「本物の陛下は三銃士の家に囚われている」と告げ、ダルタニアンが飲んだくれている三銃士のもとを襲撃する場面へつなげる。


 大きな場面ひとつと、カーテン前ひとつ。
 これだけで3つの問題点は解消できる。
 これを入れるために、本筋とは関係ないこだまっちのパフォーマンスをひとつ削るか、短縮すればいい。それ以外の本編はそのまま再利用。
 とってもエコロジー、労力少なく『仮面の男』を救済する方法だと思うんだが。
 時間さえあれば、もっともっと変更したい部分はあるけれど、正直山ほどあるけれど、とりあえず、最低限の変更で、「物語」を救う方法。

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