ムラ版『仮面の男』の演出中心の感想、続き。

 ルイ@キムの悪趣味場面、続いて登場するのは、下品なクチビルソファー。
 初日に張り切って前方席にいたわたしは、舞台を見上げるよーな目線になっていただけに、下唇のタラコぶりに、びびった。

 2階席からならここまで思わないが、下からだと角度的にもすごいよ、下唇の突き出し方。
 大昔にあった『飛べ!孫悟空』という人形劇の三蔵法師のクチビルを思い出した……ニンニキニキニキ。

 そして。
 そして、ごめんよ。
 やはり、キムを思った。
 分厚いクチビルと受け口はキムくんのチャームポイントだと思っているが、それを揶揄するかのよーなクチビルソファー登場に、「演出家はどういう意図でコレを出したのだろう」と混乱した。
 ただのエロアイテム? 他のスターさんならここまで思わなくても、なにしろキムだから、首を傾げる。

 ソファーの上でのエロダンスは、わたしは別にかまわない。
 モロにアレなダンスだけど、タカラヅカ的に今までもあったレベルだと思うし。
 だからあとは、クチビルソファーとの兼ね合いだなあ。下品さが一気に上がるからなあ。

 ルイがソファーで勝者@あゆみとエロエロしていると、周囲にキャスター付きドレスの夜の淑女たちが現れる。こだまっち、キャスター好きだなああ。

 キャスターで制限された動きが非人間的で、効果としては面白いと思う。
 女性の人権なんてなかった時代、偏った美への固執とその道具っぷりを表現するにはアリかもしれん。

 ここの淑女たちが、キャスターでケガをしないか心配しちゃうのは、ただの老婆心か。
 ドレスは衣装ではなく、セットだよな。キャスターのついた衝立みたいなもん。その衝立の後ろに立ち、キャスターを滑らせて衝立と同時に動き、音楽に乗って踊る。
 キャスターでうっかり、自分の足を轢いたりしないかな。スピードもブレーキも、足で床を踏むことで調節しているのだろうし。

 不自由なキャスタードレスを脱ぎ捨てた淑女たちは下着姿になり、クチビルソファーでルイと戯れる。
 赤いソファーと白い下着のコントラストはきれい。


 さて。
 そうしているうちに、背景のただのベニヤ板に、電飾が輝く。
 黄色いランプが点き、矢印が浮かび上がる。

 その矢印の下に、ルイーズ@みみが登場。「可憐な乙女」ポーズを付けたまま静止。

 何故矢印(笑)。
 ヒロインが悪役に見初められる場面なわけだが、とても斬新です。

 こーゆーノリの舞台だから、わたしは別に矢印自体はどーでもいー。新公で削られていたから、世の中的には不評なんでしょうけれど。

 ルイーズをルイが見初めることに、なんのドラマもエピソードも用意する気はなかったってこと、それはそれで潔い。
 ルイは所詮脇役だから、そんなところに時間を使う気はない、てのなら。
 問題は、脇役だからエピソードを端折ったのではなく、主役だろうと万事エピソードは端折られ、ストーリー自体がほとんどなかったってこと(笑)。
 矢印とヒロインの登場方法自体は別に、これでもいいよ。問題はそこじゃないから。溜息。

「美しい。あの娘は誰だ」と、ルイは下着女たちを放り出して言う。

 すると背景のただの板から、真っ赤なクチビルが山ほど登場する。
 背景は「早わかり世界史」で使ったびんぼくさい板。窓がいくつかある。その窓から、つやつやした塩化ビニル製って感じのクチビル・パペットが顔を出す。
 このクチビル・パペットがお喋りをする様子で「説明ソング」を歌い出すんだが……謎のアニメ声。

 いやあ、初日はナニ言ってんだか、まったく聞き取れなくて閉口した。
 ひとりが作ったアニメ声で歌うならまだしも、コーラスでしょ? ナニ言ってんだかさーーっぱりわかんない。

 すごいのは、公演が進むにつれコーラスの精度が上がり、無理をしたアニメ声のコーラスなのに歌詞がはっきり聞こえるよーになったこと。……ジェンヌってつくづくすごい。

 説明ソングが「聞き取れない」ってのがもお、演出家の不誠実さを表しているよね。
 キャストのせいじゃないもん、回転数を変えたレコードみたいな、無理なアニメ声でわざわざ歌わせてるんだもの。

 で、ミレディ@ヒメが登場するんだが、彼女の説明も「ヘタだなあ」と思う。
 「陸軍大臣ルーヴォアの一味」とクチビル・パペットに紹介されるんだけど、この段階で「陸軍大臣ルーヴォア」が登場していない。順番的におかしいんだよね、知らない人の名前を出されても……。
 こんなささやかなところにも、物語の組み立てがヘタなんだってことが表れている。

 背景のただの板に映される、ヒメのドアップ映像はいいと思う。
 ただし、意味がわからないけどな。

 「ル・サンク」を読んではじめて、映像の彼女の動きが他の淑女たちとリンクしていることがわかった。
 息を吸う仕草で淑女たちが吸い込まれるよーに現れ、息を吹くとその淑女たちは吹き飛ばされるそーだ。

 こだまっち、やっぱし大劇場の大きさを理解してないんじゃないか?
 バウサイズでなら本舞台の映像と花道を同時に観られるかもしれないが、大劇場だとこのふたつはものすごーく離れた場所なので、同時には見られないし、関連づけにくいよ?

 映像とは無関係に、噂話をする淑女たちがばたばた現れたり引っ込んだりしている、と思って観ていた。

 んでわたし、ここの「ルイーズの説明ソング」の歌詞が嫌い。

 名前を言うのはいい。
 だが、父と母の話はいらんやろ。

 ふつうに台詞で言うならいい。
 でも歌だ、コーラスだ。そして、こだまっちの悪い癖、「はじめて出てくる耳慣れない単語を、わざわざ歌にする」。
 台詞で言ったあとに歌にするなら耳に入りやすいけど、いきなり歌だから、聞き取りにくい、理解しにくい。先ほどのルーヴォアもそうだけどな。
 ルイーズのフルネームも歌だから、純粋に聞き取りにくいし、名前と姓がわかりにくい。
 士官、とか、パリ高等法院もこうして文字で見れば瞭然だし、台詞として聞くなら意味もわかるが、歌の中で突然脈絡もなく出てくると聞き取れない。

 この歌の中でいちばんはっきり聞こえるのは、ルイーズの名前よりもなによりも、未亡人、というフレーズ。

「あの娘は誰だ」
「彼女の名はルイーズ……(聞き取れない)……未亡人」

 ルイーズが、未亡人だと思える。

 なんでこんなわけのわからないことを?
 大体、「父は士官で、母はパリ高等法院監督官の未亡人」ってナニ? 日本語でお願いします。
 父は士官じゃないの? なのに母の夫は監督官なの? まったく解説になってない。
 その上、「未亡人」と間違った知識を観客に与える。

 観客に「伝える」キモチが感じられない。
 舞台は観客あってのもの、お金を出して観に来てくれる人がいるからこそ、舞台を作れるのだということが、わかっていない。
 いろんなところから、誠意のなさと、自己満足ばかりが伝わってくる。

 こだまっちは「悪趣味パフォーマンス」を責められているけど、そういう大きなところだけじゃなく、いろんなところにも根っこを同じにする、自己愛ゆえの他者への誠意と想像力のなさがある。
 それらが全部合わさって、ここまで不評を呼んだのだろうと思うよ。

 続く。

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