わたしは、『カナリア』を名作だと思ってない。
 当時はどっちかっちゅーと「正塚にしてはつまんない、どーでもいい作品」認識だった。
 「まあ仕方ないよね、ほんとはテロリストの話だったのに、時節柄まずいと全ボツくらい、タイトルだけそのままで、全編あわてて書き直したんだもの。付け焼き刃の突貫工事でとりあえず書いた作品だから、このレベルでも仕方ないよね。ボツくらったっていう、ポスターイメージのカナリアを飼うテロリストの話が観たかったなあ」……って、友人たちと話してたなあ。
 あれがもう、10年前かあ。時が経つのは早いなあ。

 わたしの中では評価低いし、当時一緒に観劇していた友人たちの間でも似たよーな温度だったんだか、いつの間に『カナリア』は名作ってことになっていたんだろう?
 ヒロイン・アジャーニはたしかに演じ甲斐のある役だとは思うけど、主人公のはずのヴィムはチャーリーに合っていたとも思えないし、作品全体を見れば焦点の甘い散漫な話なんだけどなあ。

 友人がチャー様ファンだったんだが、役も作品も、喜んでなかったしな。主演だからうれしいってだけで、それ以外はノーコメント、ヘタに話すと愚痴になる、みたいな。
 そりゃあな、ヒロインこそが主役と言われちゃう作品、喜べるわけないか。チャー様は前回の主演バウも痛々しいコメディで、ファンは「今度こそ、アテ書きシリアスの二枚目のチャー様が見られる!」と期待していただろうに。正塚、空気読もうよ、2作連続コメディはファンが可哀想だよ。

 てな思い出語りからはじめてみる、なにしろ年寄りですから。いつも過去ばかり語りたがるものじゃよ、よぼよぼ。

 そう、わたしが「壮一帆」を最初に知ったのが、そのチャー様ファンの友人の言葉からだった。
 チャー様ファンが苦渋の思いを抱いていた『あさきゆめみし』。2番手とは名前ばかり、扱い的に刻の霊@オサが2番手じゃないの、劇団は下克上したいんじゃないの、と勘ぐっているときに、新人公演でらんとむがその刻の霊役だった。
 新公の役付きでわかることってあるよね。劇団が「将来のトップスター」と大事に育てている子が今さら4番手の役なんかやるわけないじゃん。ああ、やっぱり刻の霊が2番手役なんだ……頭の中将はそれ以下の役なんだ……。
 それを思い知らされた新公。わたしは観ていないのだが、その新公を観に行ったチャー様ファンが、語った。
「チャーちゃんの役をやった子、ぜんっぜん知らない子なんだけど、チャーちゃんそっくりだったの! 目が大きくて、キラキラしてて、きれいなんだけどものすごくヘタ。そんなとこまでチャーちゃんそっくり!」
 チャー様ファンのBE-PUちゃん……ファンだけど容赦ない評価だったよなあ(笑)。

 わたしが壮くんの名前を聞いた最初が、この「チャーちゃんそっくりの、きれいなだけでへたくそな子」(笑)。

 実際に舞台で壮くんを認識したのは『マノン』でしたよ。あのあさこちゃん総受芝居の、空回りホモのミゲル役な(笑)。終演後に「(MVPは)ミゲルだなっ」「ミゲル!!(爆笑)」てな会話をまた別の友人とかわしながら花の道を歩いたもんだった……。鮮烈なデビューだったよ、ソウカズホ。

 でもって、そのBE-PUちゃんの車でよくムラから家まで送ってもらっていたんだが、BGMで流れる花組『エンカレッジコンサート』のCDで、みんな気持ちいい歌ウマさん揃いなのに、ひとりだけものすげー音痴な歌声が混ざっていて、「だ、誰これ?!」と驚いて聞くと、「ああ、それがソウカズホ(笑)」って言われたなー。「そんなとこも、チャーちゃんそっくりでしょ」「そうだね……」って、ああなつかしいなあ。

 あれから10年。
 まさか『カナリア』を、壮くんで観る日が来ようとは。

 えりたんのファーストインプレッションは、「チャーちゃんそっくり」だったんだよなあ。

 だけど、えりたんとチャー様は、芸風がまったくチガウ。
 いや、えりたんの今の芸風が確立したのは、花組に戻ってきてからだけども。

 再演初日にいそいそ観に行ったわけだが、『カナリア』という作品に関しては、初演も再演の今回も、評価は変わらない。
 別に、名作ではないよなあ。もう少しなんとかならんかったんかい、という気がしてならない。いや、悪くないよ? その後いろいろ劣化していくマサツカ芝居を思えば、このころはまだ良かったんだなあ、とか今にして思うよ(笑)。
 でも別に、鳴り物入りで再演するほど名作じゃない。

 そしてキャストも、初演の濃さというかスター勢揃いな豪華さに比べ、今回の再演はいろいろ大変というか残念なところもあるなあ、と思う。

 しかし、だ。

 ヴィムという役に、ソウカズホは合っている。

 チャー様のときに感じた違和感、「なんでチャー様にこの役なんだろう。もっと他に、彼の魅力を出す役があるだろうに」ともどかしく、もったいなく感じた、あの違和感が、ナイ。

 壮くんにアテ書きするとデイヴィッド@『麗しのサブリナ』や劉邦@『虞美人』になっちゃうんだろうけど、壮くんの持つもうひとつの魅力、すなわちドS系美形を満たす役なんだ、ヴィムって。

 や、コメディなんだけどね。まぬけな役なんだけどね。
 だけど、ヒロインを不幸にするのが目的の悪魔で、基本は無表情にクールに決めているわけだから。
 そのSっぽい雰囲気と、どこかまぬけなチャーミングさが、えりたんの二面的な魅力を表しているなと。

 このみょーな魅力はなんだろう、ヴィム。
 このみょーな魅力はなんだろう、ソウカズホ。

 壮くんのハマリ役と言われた猛獣使い@『エンター・ザ・レビュー』。(ただし、ダンスはかなり踊れてなかったんだけど。でも、ハマリ役・笑)
 あのSでクールで悪な美形っぷりを見られるんだ、今回。
 シリアスパートは真面目にかっこいいんだ。

 うっかり教会に連れ込まれ、祈りの言葉を聞いて苦悶するヴィム。なにしろ悪魔だから、教会は天敵。
 ベンチの上で「ぱたん」と力尽きている姿のおかしさ。
 お尻治療のデイヴィッドのおかしさに通じるものがある。お尻を腫れ上がらせて、なお二枚目でいられるのは、宝塚歌劇団広しとはいえ、ソウカズホの他にはない。
 そーゆー彼の魅力満載だ。

 てゆーか、この教会ベンチのヴィム、ズボンの裾がまくれあがっちゃって、ナマ脛ちら見せ、ごちそうさまです(笑)。

 えりたんが、えりたんのまま、自由に暴れている。

 うわ、どうしよう、楽しい。

 作品がどうとか、初演と比べてどうとか、そーゆーことではなく。

 壮くんを見るのが、楽しい。
 だから、『カナリア』自体が楽しい。

 役が多くて、いろんなところまで楽しめることも、確か。
 だから、壮くん以外も楽しい。

 いやあ、おもしろいよ、『カナリア』。

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