思い返すに、いつも安定して好き、だったような。
 きりやんの芸やキャラクタを、信頼していた。
 いちばんのご贔屓さんではない。だけどずっと、好きなスターさんだった。

 ケロゆひ萌えだっただけに、シューマッハには特別な思い入れがある。
 竜堂4兄弟がそのままハマる、キャラの立ちっぷりが好きだった。いろいろと大人な長男、クールビューティ次男、やんちゃな三男、かわいこちゃんで潜在能力兄弟一の末っ子……シューマッハで『創竜伝』を観たいと言っていたなーなつかしいなー。

 そう、きりやんも、わたしの「しあわせの記憶」に結びつく人なんだ。

 昔は良かった、ぢゃないけれど、わたしは年寄りなのですぐ懐古する。今ではない時代を持ち上げてはうだうだする。
 マミさん時代の月組、リカちゃん時代の月組。当時の顔ぶれが好きで、舞台が好きで、わくわく通っていた。そしてもちろん、若かったわたし自身(笑)の記憶と相まって、なんかとてもキラキラした思い出になっている。
 はー、楽しかったなあ、あの頃。しあわせだったなあ、あの頃。

 や、今が悪いわけでも、不幸なわけでもないんですがね。
 過去はいつだって愛しいのです。
 やーねえ、年寄りって。

 ご贔屓のすぐそばにいて、芸風も好きだったきりやんには愛着も半端なく、ご贔屓が星組に組替えになったあとも、ずっと愛でてきた。
 月組での、わたしの中のいちばん、は、ゆーひくんだったけど、ゆーひくんは路線外な人、きりやさんは路線スターど真ん中の人、と、別腹として受け止めていた。立場もキャラもかぶらない人たちなので、平行して愛でることが出来た。
 ……まさかゆーひくんがきりやさんと並ぶ人になるとは、夢にも思ってなかったからなあ。

 『シニョール ドン・ファン』できりやんに盛り上がっていただけに、彼の体調についての噂には不安をかき立てられたし、休演はショックだった。
 病気のことがなければ、彼のジェンヌ人生は大きく変わっていたんだろう。彼だけでなく、劇団的にもいろいろ変更を余儀なくされたんだろうな。

 病気休演以降、「元気な少年」キャラではなくなり、一気に大人びた。
 あのキラキラした少年に会えなくなってしまったのは残念だけど、魅力的な大人の男がそこにいた。
 ファビエルさんにときめいたし、アルジャノンには拳を振り上げて大喜びした。そして、きりやんの役のなかでもっとも萌え狂った薫@『夢の浮橋』!!
 年月と共に、苦みの部分、陰の部分が、彼を魅力的にしていった。

 トップスターになるのは、正直遅すぎたと思う。
 彼のタカラジェンヌとしての、ビジュアルの旬は過ぎてしまったと思う。
 その代わりに、少年時代には表に出ていなかった、濁りのある艶が出てきた。
 芝居や言い回しに独特の癖も強く出るよーになったんで、作品や役によって一長一短になってはいるけど、それも含めて「霧矢大夢」と言える、大きな個性になった。

 いろんなきりやんを見てきたなあと思う。

 そして、今。

 『エドワード8世』のきりやんが、好きだ。

 初主演バウで、耽美な被虐美少年をよりによってきりやんにやらせた、「彼はナニか、みんなとはチガウものを見ているに違いない」と思える大野タクジー先生。
 きりやんのことを「絶世の美少年」、女はもちろん男たちまでもが、彼を征服したいと渇望する「魔性の美少年」だと思い込んでいる、大野せんせー。
 最後のきりやんの役がどんなことになるか、期待9割、ニラニラ笑い1割だったんですが(笑)、最後の最後にきりやんに合ったものをきちんと持ってきてくれて、よかったっす。

 わたしが大人になったあとのきりやさんを好きなのは、彼が善人ではないからなの。

 悪人だという意味ではない。
 善人ではない。
 絵に描いた餅みたいな、記号みたいな「ヒーロー」ではなく、そこになにかしら苦み、エゴ、間違ったモノ、を持っているところ。
 脚本上が薄っぺらいただの「二枚目」だとしても、きりやんの芸風にはどこか棘がある。
 人間が当たり前に持つ濁り。人間が目を背けたいと思う、見ないでキラキラしたものだけ見てみたいと思う、そーゆーモノを、どこかしら滲ませている。
 ただのキラキラタカラヅカの主役様、に収まらない、引っかかり。撫でたときにどこかざらっとする、飲み込んだときにちくっとする、そんな感覚。

 それが、わたしにとっての、きりやんの魅力。

 『エドワード8世』は、デイヴィッド役は、そんなきりやんの「善人ではない」ところ、ざらっとする、ちくっとするところが、たーっぷり味わえる。
 ただきれいとかかっこいいだけなら、手放しで喜んで褒め称えて、それだけで満足できる。でも、ざらつくからひっかかるから、立ち止まる、振り向く。無視できない、気になる。
 もっと、彼を見たい。彼を味わいたい。そう思う。

 観劇が終わって家に帰って、1日、2日と経つうちに、「もう一度観たい」という気持ちになる。
 大野くんらしいよそ見だらけのうるさい芝居だから気が散る(実は誉め言葉・笑)けれど、他は全部シャットアウトして、最初から最後まできりやんだけ見る日を作りたいな。
 それくらい興味深く、おもしろい作品であり、役である。


 長く見てきた。
 いちばんのご贔屓ではなくても、大切なジェンヌさん。素晴らしいスターさん。
 彼の男役最後の芝居が『エドワード8世』で、デイヴィッド役で、良かったと思う。
 全組全公演観劇が基本、ご贔屓はただひとりだけど、それ以外にも大好きジェンヌはたくさんいて、その順位はその都度変わる、ゆるいスタンスの広く浅くなヅカヲタ人生。
 作品と役がイイと、ジェンヌへの愛情度が上がる。
 そんなわたしだから、きりやんのラストステージが、心から楽しめる大野せんせ作品で、『エドワード8世』で良かったと思う。

 うおお、書いてたらまた観たくてたまらなくなっている、『エドワード8世』。

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