宝塚歌劇、2階席の魅力……!
 って、劇団HPの売り文句じゃないけど。

 『ドン・カルロス』は2階席から観ても、おもしろい。

 贔屓のが好きな身としては、とにかく前で観たい。端っこでもいいから、前方席で観たい。
 その思いから、ついがんばっちゃって、1階席でばかり観ていたんだけど。

 リピートするに従って、2階席でも観る機会があった。
 前方席買い続けるお金ナイし(切実)、いろんな角度から観てみたいしで。

 びんぼーだからと当日Bで観たときは、後悔した。
 舞台までが遠すぎて、集中力を持続するのに気力が必要、よっぽどモチベーション高くないと、…………眠い。
 大好きな作品だけど、その、単調なのは確かだからなああ。

 これに懲りて、また1階、前方席にこだわり(笑)。
 次に、友人に誘われ、並んで2階最前列センター付近で観劇した。
 この2階前方席が、なかなかに、楽しかった。
 出演者もよく見えるし、舞台全体もよく見える。
 コスパの悪い2階S席嫌っていたけど、最前列なら楽しいかもー、とか、あくまでもびんぼー人的視点で考えた。

 そして、さらに。
 これまたびんぼーゆえ、S席チケットが買えず、B席に手を出した。
 14列目センター。
 17列目であんだけ舞台が遠くて眠気に襲われたんだ、2階後方は鬼門だわと避けていたんだけどさ、お金ナイんだもん、高いチケット買えないんだもん、でもまっつには会いたいんだもん! と、泣く泣くB席。びんぼーなのがみんな悪い。

 で。
 この、避けていた2階後方席にて、びっくり、感動する。

 たしかに、出演者の顔は見えない。
 まっつなんか顔小さすぎだよ、豪華な衣装と大きな帽子に埋もれて見えねーよ(笑)。
 帽子を深く被っているおかげで、口元しか見えない時間も長いしさ。

 キムくんやみみちゃんの涙も見えないよ。
 男前きんぐも遠いよ、コマくんの唇の下のちょびヒゲも見えないよ。
 ジェンヌを見る、という点では、つまんないなあ、B席。

 しかし。

 舞台演出が、美しかった。

 近い位置で見ると目が点になった青ネギも、書き割り感の強かった舞台セットも、俯瞰して眺めると美しかった。
 や、わたしはもともとキムシンの抽象的な舞台セットが好きなんだが。もともと好きなこと以上に、美しかった。

 ライトの力は、大きい。
 2階席の楽しみのひとつは、照明。ショーでピンスポを追うのが好きだったりするんだけど、今回は芝居の方がおもしろかった。
 舞台の床に映るライトがすげえ。ここまで合わせて、ひとつの場面なんだ、と思った。

 なんつっても、フェリペ二世@まっつ。

 臣下を下がらせ、玉座でひとりになる。
 亡き妻の名を呼んでうじうじする場面、ここの画面がすごかった。

 穴あきの書き割りで王宮を描いてある。全面にきらびやかな絵、ではなく、抽象的に端はすぱっと闇に切り取られている。
 んで、その書き割りの後ろは黄金のカーテンで仕切られていて、書き割りの穴から金色がのぞいている。
 玉座は何故かセンターではなく、上手寄り、舞台の3分の2くらいのところにある。
 主役のカルロス@キムくんがセンターで芝居をする都合だろうと、深く考えずにいた。
 しかし、それだけじゃなかったんだ。

 ひとりきりになった王が、その上手寄りの玉座に坐っている。
 平面的な、書き割りのセット。金色と、闇。玉座と豪華な衣装。

 押しつぶされそうな、孤独感。

 1枚の絵として、美しさに息をのんだ。
 玉座の位置と下手端の闇の描写、舞台の半分以上を占めるなにもない空間……そんなものが全部機能して、フェリペ二世の孤独感が視覚として、伝わる。
 まっつの演技云々だけでなく。
 舞台全体、美術も照明も、すべて合わせて、フェリペ二世の心情、立ち位置、抱えているモノ背負い込んでいるモノを、表している。

 で、これだけでもお、彼の孤独が痛いほど伝わるわけですよ。そこから疑惑に囚われていくわけですよ。
 背景の王宮も消え、暗闇になる。

 ここではじめて、フェリペ二世はセンターに立つ。

 王宮の背景や玉座は、上手寄りの位置にフェリペ二世がいるとこで、彼の孤独を浮き彫りにした。
 背景がなくなり、闇になったときはセンターに立つことで、彼の不安の大きさがわかる。

 この演出に息をのむ思いでした。

 で、次の「幻覚」場面。
 2階席楽しい! と思うひとつは、確実にここの演出だ。

 1階で観たときとぜんぜんチガウ!
 1階だと平面に次々現れる幻覚たちが、2階からだと三次元なの、奥行きがあるの。
 1階で観たときも十分おもしろい演出だと思ったけど、2階での楽しさ半端ねえ。
 最後にカッと輝度の高いライトが照らすとき、ぞくぞくした。

 …………初日からしばらくは、まっつしか見てなかったから、幻覚の演出がどうゆー効果になっているか、わかってなかったのね(笑)。あたふた翻弄される陛下が楽しすぎて、そこしか見てなかったんだもん。
 数日して落ち着いて、はじめて全体を眺めて「え、おもしろいじゃんこの演出」と思い、それからさらにしばらくして2階で観て感動し、さらまたしばらくしてB席で観てさらに目からウロコ、感動する、と。
 なまじ贔屓の場面だから、彼の顔ばっか眺めちゃって、ふつーの人が気づくことになかなか気づけないという(笑)。

 幻覚場面は別アングル欲しいっす。
 まっつの総受っぷりをアップで楽しむアングルと、演出全体を楽しむアングルと……あああ、わたしに目がよっつあれば……っ!!

 フェリペ二世の場面は、B席でなくても2階からなら楽しめると思う。

 2階最前列のときより、後方だからこそ感動したのが、カルロスとレオノール@みみちゃんの、星空デュエット。

 カルロスを拒絶し、ひとり帰路につくレオノール。
 銀橋で切なく愛を歌う。
 レオノールに拒絶され、自室にひとり立つカルロス。
 バルコニーで切なく愛を歌う。
 どちらもひとりきり、視線を合わすこともなく、ただ愛を歌う。

 ふたりを包む、星空の美しさ。

 この場面に星空のライトが使われていることは、初日からわかっていた。あらきれいね、とは思っていた。
 それはどの席にいたってわかる。
 ただ、前方席だとあまり効果は感じられなかった。星空よりも舞台や銀橋の方が近いから、視界がそれだけで埋められてしまう。
 2階1列目のときも、「わかっているきれいさ」を確認したのみだった。

 それが、14列目で観たとき。
 美しさに、涙が出た。

 美しく悲しい歌声に呼応して、劇場中が、星空になる。

 カルロス、レオノールと、シンクロする。
 同じ世界に入る。

 星空が広がったとき、異世界であったはずの舞台上と、同じ世界になるの。融合するの。
 かなしいふたりの心が、自分の心になるの。

 当日Bでは遠すぎる。1階席は角度がチガウ、2階も前方だと近すぎる。
 少し離れて、星空のライト全部が視界に入る、あのあたりが効果絶大なんだと思った。

 あの「入り込む」感覚は、すごいわ。
 自分のいる場所が、別の次元にぐいっと入る、変わる感覚。
 どきどきしたー。


 てことで、2階席楽しいですよ。
 おすすめ!


 でもやっぱり、1階最前列銀橋かぶりつきで観てみたいけどなー(笑)。←

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