タカラヅカがこれほど多くの人を、長く魅了し続けてきているのは、ここが「人生」の縮図だからだろう。
 花組『復活 -恋が終わり、愛が残った-』『カノン』千秋楽、退団者の袴姿を見ながら、苦しくて仕方なかった。


 タカラジェンヌはまるで、わたし自身のアルバムのようだ。
 袴姿のアーサーを見て、彼との出会いが走馬燈のように浮かび上がる。
 彼がまだ研3だった、『エンカレッジコンサート』。
 雄弁な歌声と、無表情。
 表現したいことがあるのはわかる、だけどなにもできずに固まっている。
 そんな彼を、愛でた。
 まだ正しく歌うことだけでいっぱいいっぱい。でも彼の歌は、まだ高みを目指していた。この子、絶対もっと延びる……機会さえ与えられれば。
 そう思っていたところへ、まさかの大劇場本公演でのソロ。適材適所のオギー、『TUXEDO JAZZ』。
 だいもん、ネコちゃん、アーサー。まだ研4、研3のひよっこたち3人に、歌の場面が与えられた。
 エンタメとはナニかを理解しただいもんの歌声、とにかく気合いと熱の入りまくったネコちゃん、
 もっとも端正な歌声ながら、アーサーには表現力が足りていなかった。加えて能面みたいな無表情。
 歌声が心地よい、しかし能面過ぎてこわい……そう、ウケていた。
 それから公演を重ねるたびに「表情」を作ることができるよーになり、学年ゆえ大した役割がないもんだから、もっぱら群舞のすみっこで華を磨き。
 ロケットで、キラキラに満面の笑みを浮かべているのを見たときゃあ、胸熱だったもんなあ。なんだ、笑えるよーになったんじゃん!と。
 その後、歌ウマ男子として、新公で活躍の場を得られるよーになり。

 新公主演、して欲しかったんだ。

 してもおかしくないと、思ったんだ。
 顔はまあ、好き好きとして、タッパはあるし、スタイルバランスいいし、声が良くて歌ウマ、芝居も出来る。
 昔から一貫してアグレッシヴな芸風。上を目指していること、欲していることが、わかる。……実際、望んでもおかしくない位置にいるし。

 新公主演があったなら、まだこの華やかな迷宮で、戦い続けてくれただろうか。

 新公を卒業してから、殻が取れたように、芸風が変わっていった。
 アグレッシヴさがなくなり、まるく、やわらかくなった。

 「男役」であることは、なによりも精神力が必要なんだと思った。
 退団の近い男役の子が、男役ではなくなっていく姿を何人も見ていたけれど、アーサーもまた、『ファントム』あたりから変わっていた。

 アーサーほど貪欲に男役であった子すら、男役を保てなくなるものなのか……と、ショックだった。
 そして、だからこそタカラヅカは、すばらしいところなんだとも、思った。
 並大抵の力では、ファンタジーを保てない。どれほどの心を、努力を要して成立している世界なのかと。

 まだ固い殻を付けたまま、卵からクチバシだけ出した状態のころから、愛でてきた。
 そんなジェンヌの卒業は、人生の縮図を見る思いだ。
 大人になっていった。そして、ここではないどこかへ羽ばたくための変化をはじめた。
 寂しく、愛しく見つめる。見守る。
 そうすることしか出来ない。

 タカラヅカは、すごいところだ。


 もうひとり、アルバムを思わせる、めぐむ。

 めぐむもまた、下級生時代から愛でてきた。
 わたしの運命を変えたオサコン『I GOT MUSIC』。花担でなかったわたしは、下級生までよくわかっていない。出演者の中で「知らない」男の子が、めぐむとしゅん様だった。
 ふたりの見分けはすぐについた。「ぶ○いくな方が、めぐむ」と。
 で、すぐにそれを撤回、謝ることになる。
 次の本公演『落陽のパレルモ』新公ニコラ役で、盛大にオチる。扇めぐむ、かっけーー!!と、東宝まで新公を追いかける(笑)。
 そっからしばらくは、めぐむブーム。

 今だから言う、お茶会も行った(笑)。参加人数が少なすぎて身バレ必至だから、ブログには書けなかったが。
 めぐむさんとのツーショ写真もあります……自分の醜さ・みっともなさが嫌すぎて、二度と見られないけど(笑)、大事な記念。
 ほわわんと喋る、人のよさそーな子でした……。

 大人になるに従って、どんどんかっこよくなっていったね。
 頬が削げて顔がひとまわり小さくなって、芝居をしているときはほんといい男だよね。
 ショーではほわわんとした部分が、多く出ていた気がする。
 余裕を持って、楽しんで舞台にいたイメージ。

 最後の役『復活』のカルチンキンがいい男で、びびった。

 女を黙らせる強引なキス、があるなんて、初見でオペラグラス落とすかと思った……。
 なんなのあの色気! 悪い男があんなに似合うって!! 『蒼いくちづけ』のスター役のすべりっぷりに頭を抱えたのが、嘘みたいだー。
 わーん、やめるのもったいないよ、あんな役が出来るのに!! あんな色気が出せるのに!!

 めぐむさんは、わたしの視界にいるのが当たり前で、どの記憶を紐解いてもふつーにそこにいる、だから今、彼がわたしの視界の外へ卒業していくことが、信じられない。

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