泣きすぎて、やばい。

 『フットルース』初日観劇。

 ごめんなさい。
 わたし、完全ナメてた。油断してた。
 演目発表されたとき、テンション下がりまくった。がっかりした。
 制作発表に行き、「なんだよ、おもしろそうじゃん」と思った。思ったけどそれは、「おもしろそう」であって、2時間半楽しめればいいや、ぐらいの軽い気持ちだった。
 ペンライト振るとか客席参加型とか、正直年寄りにはキツイなとか思ったし、「ふつーがいちばんなんだよ、奇をてらわなくていいんだよ」と思った。

 2幕、途中から泣き通しで、消耗した。

 ハンカチ用意してなかったの!! 泣くとか思ってなかったし、涙腺弱いから大抵ナニ見ても泣くけど、ハンカチいるほど本気で泣くとか思ってなかったの。
 舞台から目を離すの惜しいし、鞄ごそごそとか観劇中にやれないし、でも顔中崩壊してるし、もおどうしようかと。


 アリエル@みみちゃんが、好きだ。

 賢くてクールで、ちょっと怒ってて、……そして、とても傷ついている女の子。

 ワルぶって不良たちとつきあい、でもほんとうの意味では流されることもせず、ひとりぼっちで線路の高架下で詩を書いている女の子。
 電車の騒音の中、やり場のない思いを叫び続ける女の子。

 繊細で、情緒豊かで。

 5年前の事件がなければ、彼女はまったくチガウ女の子になっていただろう。
 これだけ聡明で繊細な子なんだ。彼女の抱えた傷が、痛い。傷だらけで強がる姿が、痛い。

 そして彼女は、彼女の傷の原因の大半である、父親ムーア牧師@まっつを、愛している。
 反抗しながら、泣きながら叫びながら、それでも、愛している。

 アリエルが本当の自分……傷だらけの自分を見せられる唯一の場所で、レン@キムに言い当てられる。「お父さんが好きなんだね」

 不良ぶった外見も、父に振り向いて欲しいため。
 父を傷つけることで、愛を確かめようとしている。
 ……そんな方法を取るしかないところまで、追い詰められている。
 彼女がどれだけ話をしようとしても、父が心を閉ざしてしまっているから。

 父親のいないところで彼女は、父を語る。
 彼女から伝わってくる。「お父さんが好き」

 その次の場面で、ムーアに対してアリエルは叫ぶ「大っ嫌い!!」……好きだって、全身で叫んでるのに。拒絶され、傷つけられ、逆の言葉を叫ぶことしか、できない。

 ちょ……、ナニこの父娘の双片想い状態。

 ムーアは彼なりに娘を愛しているし、アリエルだってパパが大好き。
 なのにお互いがお互いに片想い。
 愛されていない、と傷ついている。

 そうだわたし、父娘萌えってあったんだった。うまくツボに入ったとき、すごい破壊力を生むツボだった。
 ヅカ作品ではなんつっても『Crossroad』。ヘレナ@あすかと父親の関係がツボだった。父親に愛されていない……その渇望と劣等感が少女を歪ませた、ってやつ。

 パパが好き、パパに愛されたい。……パパの傷を、癒してあげたい。
 だけどパパは私の言葉を聞こうとしない。パパは私を理解しない。パパはひとり傷ついたままで、私の手を必要としない。
 愛に飢え、その上、愛する人を救えない無力感に苛まれ。
 同級生たちの意識レベルは彼女よりずっと幼く、同等に語れる者はいなくて。
 ずっとずっと、孤独だった少女。

 いやもお、アリエルが切ない。切なすぎる。

 そんな彼女が、レンと出会った。

 レンもまた、傷ついている少年だった。
 その傷ゆえに、同級生たちよりも大人になってしまった少年だ。

 同じ傷、同じ痛みに引かれ合って、アリエルとレンは惹かれ合う。


 レン@キムが、好きだ。

 心の傷を陽気さで隠すことの出来る男の子。
 アリエルのように不良ぶること、自分を傷つけることで誤魔化そうとはしない。
 それはたぶん、彼の母親@ヒメの影響だろう。強く明るく前向きに、涙も傷も乗り越えていく母と息子。

 そんな彼がアリエルと出会い、それによって自分の傷と向き合う。

 笑って見ないふりをしていた、今まだ血を流し続けている、心の傷。


 傷つき、心を閉ざしたムーアは他者を縛り、支配する。閉ざすこと、固くすることで守ろうとする。心を。

「ひとりにしてくれ」
「あなたはもうひとりぼっちだ」

 レンに言い切られ、胸を突かれるムーア。
 ここで唐突に気づいた。

 これは、父を失った息子と、息子を失った父の物語なんだ。

 かけがえのないものを失い、傷ついたまま、どうやって生きていっていいかわからない、そんなふたりの男の物語でもあるんだ。

 レンは父を失った。その傷が癒えていない。
 ムーアは息子を失った。その傷ゆえに心を閉ざしている。

 レンはムーアの心を開くことで、彼自身が救われていくんだ。

 そして、ムーアは。

 レンの言葉で総崩れになるムーア牧師、そのあと、ひとりうなだれるムーアさんをアリエルが寄り添うように守るように抱く姿が、もお、もお……っ。

 さらにムーアさんは、奥さん@きゃびいと抱き合う場面まであるしね。ここがまたね、もおね……!!


 ムーアが頑なに守ってきたモノ、彼が先鋒となっていたけれど、それは街の大人たち全体の傷でもあったんだ。

 痛みを痛みとして受け入れ、乗り越えること。

 大人たちはまず、それをしなければならなかったんだ。5年前に。
 痛みを否定し、見ない振りをしてきた。すべての歪みはそこからはじまった。
 凝り固まり、ひとつの意識以外は排除する、敵を作り攻撃することで味方同士結束する、そんな歪んだスパイラルの中にいた。

 解放される。
 今。

 ダンスパーティは子どもたちのレクリエーションじゃない、高校のイベントじゃない、傷ついた街全部が、救われるためにあったんだ。


 いや、もお。
 ストーリーっちゅうか、テーマ部分が好みすぎて、たまらんす。

 まあその、これ、この前、観たよ……!という展開だったりするんですけどね、父上!!(笑)
「私は自分を深く恥じている。今でも夫と呼んでくれるだろうか」
 ……同じことをやって、言ってますよ、パパ!
 でも、フェリペ二世よりさらに繊細です、ムーア牧師。

 まつださん、かっこよすぎ。

 スーツ姿やばい。ベスト姿やばい。
 母性本能鷲掴みされますぜ。
 あの背中、抱きしめたい。


 キャストのキャラクタもかわいいし、衣装もセットのセンスもおしゃれ。
 音楽は耳馴染みのあるノリのいいものだし、ダンスがまたたのしい。

 残念な部分もそりゃ皆無ではないが、そんなのを数えるよりも今はただもお、楽しい。

 テーマ根幹がツボ直撃で、キャラとビジュアルと音楽がいいって、もう最高っすよ!!
 うれしい悲鳴、こんなことになるとは……!

 なんでこれ、映像残らないの?! 『H2$』のときは、贔屓や好きな人たちが出ているから、雪組が、タカラヅカが好きだから、なんにせよ映像は必要だと思ったけど、作品自体は好きでもなんでもないから執着はなかった。
 でも『フットルース』はチガウ。

 作品が好きだから、映像残らないとか、ありえないっ!!
 責任者出て来~~いっ、うきゃ~~っ!!

 何年あとでも映像見て、泣きたい作品だよ。

コメント

日記内を検索