観るたびに「嫌い」とか「嫌だ」と改めて確認することがある。
 植爺作の『ベルサイユのばら』にて。

 今回の『ベルサイユのばら-オスカルとアンドレ編-』でも、やっぱりそうだった。

 アンドレの衣装。

 オスカルとアンドレは貴族と平民、身分違いの恋。これが大きな要因、ふたりの恋愛のキモ。

 なのに、誰よりも豪華絢爛な衣装を着ているアンドレ。

 これが、ほんっとーに、心の底から、嫌で嫌で仕方がない。

 軍人でもないくせに、大貴族の将軍様より豪華絢爛な軍服を着て平気でベルサイユを闊歩するアンドレ。

 これが、ほんっとーに、心の底から、嫌で嫌で仕方がない。

 アンドレは、華美な服を着ない。平民だからだし、貴族の屋敷に仕える従僕だからだ。オスカルの幼なじみであり、気安い仲だということをのぞけば、分をわきまえた生活をしている。
 貴族様の家で暮らし、貴族様のお気に入りだからと、虎の威を借る狐のようにカンチガイして、貴族様のような豪華な衣装を着て悦に入る人間ではない。

 なのに……。

 植爺の理念、「役者の格は、豪華な衣装と台詞の行数の多さで決まる」ゆえに。
 アンドレを演じるのが脇の生徒なら、豪華衣装なんか着せない。演じているのがトップスターだから、トップスターの格のためだけに、豪華絢爛衣装。役の意味も物語も無視。
 いつぞやの外伝で、まったく意味もなく星原先輩がスターブーツを履いていたのと同じ。専科様の格付けのためだけに、意味もなく豪華衣装。

 今回の『ベルばら』で、幸いなことにアンドレはあまりひどい描かれ方をしていない。相変わらず変な人だが、人として許されないレベルじゃない。
 ……まあ、その分オスカルがひどいことになっているので、そのせいで目立たないだけかもしんないけど。わたしの直近のアンドレ像が外伝で、史上最低のアンドレだったせいで、マシに見えているだけかもしんないけど。
 とにかく、今回の『ベルばら』、アンドレがマシだ、ひどくない、と思った。

 せっかくひどくないのに、いや、だからこそ、アンドレが、豪華衣装で登場するたびに、萎える。

 軍服姿のオスカルの前に、わざわざ手でマントをひるがえしながら、豪華軍服で現れるところなんか、後ろ頭をハリセンでどつきたいレベル。
 その豪華軍服はなんなんだ。てめーはジャルジェ家の使用人、軍人じゃねーだろ。その軍服はどこの軍隊のものなんだ、答えろ。

 原作でもアニメでも、アンドレが軍人になるのはフランス衛兵隊のみ。原作ではジャルジェ将軍の命令で、アニメでは自分の意志で。
 だから軍服も平隊士と同じ。
 オスカルを見守りたいという自分の意志で、1平民として入隊したアニメでは、アンドレはアランたちと同じ宿舎で暮らしている。そこで他の衛兵隊士たちと衝突したりしつつも、仲間となっていくわけだ。

 それが、植爺版では。

 アンドレの所属、立ち位置はまったく明かされない。
 「近衛隊ではないから、供はいらない」とオスカルに同行を断られる、それだけだ。
 次の場面からは勝手に軍服を着ている。

 衛兵隊に入隊したなら、衛兵隊の軍服を着るべきだ。それ以外の選択肢はない。
 オスカルに供は断られたけど、衛兵隊に入隊したのだから、これまで通りそばにいる、と言わせれば済む。
 なのに、実際には謎の豪華軍服で登場。

 強がって供はいらないとひとりで衛兵隊へ行ったはいいが、心細かった……とオスカルに言わせる植爺が、嫌すぎる。
 どんだけ女々しいんだオスカル。
 30過ぎてひとりじゃ出勤もできねーのか。しかも、自分で望んで転属しておいて。

 そして、オスカルに「心細かった」と言わせたことで、すべて片が付いたと思っている。
 あとはずっと、アンドレがドヤ顔で軍隊にいる。

 つまり、えらそーなこと言ってオスカルは「ひとりじゃ心細い」と「貴族の特権」を振りかざし、「衛兵隊士でもなんでもない自分の従僕」に「衛兵隊士よりも華美な豪華絢爛軍服を着せて特別待遇」にしている、悪い貴族の見本のようなカンチガイ軍人なわけですね!!

 心は自由だとか、衛兵隊士たち相手に言っているキレイゴトが、全部全部ただの嘘っぱち、アホなお嬢様の正義の味方ごっこになる。

 ブイエ将軍もそりゃ、こんなアホ女の顔を見れば、嫌味のひとつも言いたくなるわ……。

 2幕最初の訓練場面、衛兵隊士たちの真ん中で踊るオスカルとアンドレ。
 この場面がまた、嫌いでねえ。

 オスカルはいい。隊長様だし准将様なんだから、豪華な軍服を着て、真ん中で踊っていてもいい。
 でも、アンドレはチガウ。
 アンドレの所属は明かされていないが、アランたち衛兵隊士の口ぶりでは、アンドレも衛兵隊所属なのか?
 そうであってもなくても、隊長様で准将様のオスカル様とお揃いの豪華軍服で踊るのは、明らかにおかしい。

 なんの権限もないはずの新入り平兵士のアンドレが、隊長様と同じ権力をふるっている。
 それは、依怙贔屓以外のなにものでもない。

 つまり、この衛兵隊訓練の場面は、オスカルが、大貴族の権力を利用して、無力な平民たちを支配して悦に入っている図、だ。


 アンドレと衛兵隊士たちの友情も嘘くさい。
 だってアンドレは、衛兵隊士たちとはチガウ、豪華衣装を着ている。彼らとは一線を引いた、上から目線の男だ。それを隠しも恥もしていないから、平気で豪華衣装を着て、貧しい衛兵隊士たちの間にいられるんだ。

 だから、目が見えないアンドレが泣き崩れても、男たちの関係は歪んだものになる。
 「アンドレが可哀想だ」……今まで自分たちを見下してきた男が、みっともないことになっている、ここぞとばかりに哀れんで優越感に浸れるぞ、てか?


 アンドレが豪華衣装を着ている、それだけのことで、なにもかもが破壊される。
 役として、当たり前の衣装を着せる。
 それだけのことが、何故出来ないんだ。

 侍女役を演じるトップ娘役に、侍女の服を着せたキムシンを、その一点だけでも尊敬する。王子との身分違いの恋、という物語なのに、「トップ娘役だから」と豪華ドレスで着飾らせたりしない。……当たり前のことをするキムシンはすごい。
 侍女服だけど、ちゃんと他の侍女たちよりきれいなデザインと質のいい素材で、差別化はしていたし。

 アンドレも、そうすればいいのに。
 アンドレのキャラクタとして正しい範囲で、上質の布地や凝ったデザインの衣装にすればいいだけのこと。どーせトップライト浴びるんだから、脇に紛れることはない。
 衛兵隊と同じデザインの軍服を着せ、でもアンドレだけちょっとちがってるぞ、くらいでいい。
 それが、「だってタカラヅカだもん」「だってトップスターが演じてるんだもん」で許される範囲だろう。

 オープニングや最後のガラスの馬車が、豪華軍服マント付きなのはいいよ、物語とは関係ない「タカラヅカ」な部分だもん。
 そうでない、ストーリー内では、役として間違っていない服装にして。


 間違っているところを上げるとキリのない、植爺『ベルばら』。
 脚本も演出も手を入れず、誰にも迷惑を掛けず、最低限の修正が出来る。それが、アンドレの衣装。


 2006年全ツ版のアンドレ@壮くんは、いっそすがすがしいほどだったなあ……。
 「間違っている」もあそこまで突き抜けたら、成り立ってしまう、という証明をしてみせてくれたよ……遠い目。

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