私とあなたは裏表。@夢まつり宝塚’94
 『風と共に去りぬ』を観ると、無性に、『夢まつり』が見たくなる。

 1994年、80周年に行われたTMPスペシャル『夢まつり宝塚’94』は、捨て身のパロディ公演だった。
 どう捨て身かっつーと、この年劇団は大々的に『風と共に去りぬ』を大劇場で上演しているんだ。天海祐希率いる月組でバトラー編、一路真輝率いる雪組でスカーレット編。前夜祭、役替わり、他組スター特出と、全組巻き込んでのフェスティバル、まさに『風共』祭り状態の年だったんだ。
 その、本公演で『風共』を上演しまくった年のTMPスペシャル……今で言うところの『タカラヅカスペシャル』にて、全組それぞれ『風共』パロディを上演した。
 ただでさえ再演を繰り返している有名作、しかも今年再演したところで、現在のヅカファンならほぼ全員知っる・観ている作品をネタに、全4組が、パロディを。
 ただ衣装を着てコントをやった、というレベルじゃない。

 舞台装置は、本物だ。

 ピティパット家もバトラー邸も、樫の木屋敷の庭園も。本公演で、実際に使った物だ。

 その本気の舞台セットの中で、本物の衣装を使い、パロディをやる。

 どんだけ本気なん。どんだけ捨て身なん。こわい。宝塚歌劇団がこわい……!!
 ……というレベル(笑)。


 忘れもしない、雪組版の「スカーレットがいっぱい」編。
 本公演でスカーレット役のいっちゃんがバトラーとして登場、あの美声で朗々と「さよならは夕映えの中で」を、銀橋を渡りながら歌い、なんてまともなはじまり方……と思ったら、本舞台にスカーレットが、3人。
 背中を向けて登場し、「ファニー・レディ」を歌いながら、ひとりずつ振り返る。

 最初のひとりが、トドロキ。

 はい。
 爆笑されまてました。

 次に振り返るのがタータンで、最後がセンターのタカネくん。このふたりはちゃんと拍手もらってた。

 トドのみが、爆笑。

 ただひとり、男声のままで歌ってたしね。

 トドのインパクトが強すぎて、他のふたりは笑われなかったんだよねえ。


 なつかしくなって、ビデオを発掘。
 封入されている冊子はオールカラー46p、歌詞まで載ってる大盤振る舞い。今と比べると、なんて親切設計。

 トドスカが振り返ったときだけ、拍手少ない……(笑)。

 わたしはトドよりも、古代様のスカーレットを必死にオペラで追ってたんだっけ。その他大勢として登場する古代様を補足するのは大変でなあ……。


 当時のわたしも雪ファンだったので、特に雪組場面に必死だったけれど。

 4組『風共』パロディ競作、もっとも面白かったのは、星組版だ。

 忘れもしない、ふたりのバトラー、飲んだくれスカーレット、そしてそして、ノルさんの代表作だと信じている、秀逸なアシュレ!!(笑)

 演出/中村A 『風と共に去りぬ~私とあなたは裏表~』
  スカーレットが愛したバトラーとは、一体何者だったのだろう…


 今でも友人たちと語りぐさになっている。
 まさかの「バトラーとスカーレット逆転バージョン」。

 性別はそのまま、役割だけが男女逆、という。

 幕が開くと、「街の男」たちがカーテン前で「♪お聞きになった?」と歌い出す。
「バトラー船長とアシュレが?!」
 ケネディ雑貨店で、ふたりが抱き合っているのを見てしまったと言うんだ。
「♪お聞きになった?」「♪嘘でしょ」
 ハッチさんとかヒロさんとか、堂々たる顔ぶれの男たちが歌う……本編でおば様方が噂話に花を咲かせるのと同じノリで。
 まあ、最終的に彼らは「素敵」「いいと思う」とか口々に言いながら退場するんだけど。……ナニこの腐女子目線な男子たち(笑)。

 次にバトラーI@シメさん、バトラーII@マリコさんが登場。

 や、バトラーが大真面目な顔でふたり出てきた段階で、大笑いだったよなあ。
 なのにマリコバトラーがめっちゃ色男全開(なにしろ本公演バトラー経験者ですから!)に、
「どうするんだね、あんなところを街のうるさ方に見られて」
 って、スカーレットIIの台詞を言うもんだから、瞬時に理解できる、スカーレットとスカーレットIIの言い合うあの場面を、バトラーでやるんだってこと!!
「スカーレットの耳に入るのも時間の問題だな」
 ふつーに話しているだけで、おかしくておかしくて。

 しかも、話している内容が。

「しかし、抱かれているのを見られてしまった」
「やめてくれ。抱かれたなんて言うんじゃない。私が抱いたんだ」

 トップスター様と、2番手スター様が、ヒゲのダンディ姿で、大真面目に言い合ってます。

 そして、あの演出。
 ぴこんとライトが走り、ふたりのバトラーが、「♪私とあなたは裏表」を歌い出す……!!

 歌詞そのまま、振付そのまま!!

 スカーレットとスカーレットIIの、あのかわいらしいナンバーを。
 わ、わらいしぬかとおもった……。

 そして次の場面は、もちろん本気のバトラー邸舞台セット、例のテーブルで、飲んだくれるスカーレット@あやかちゃん。

 この、嫉妬に身を焼き酒をあおる、飲んだくれスカーレットの美しいこと!!

 そして、『風共』きっての名場面を、役割逆転したまま、やる。

 飲んだくれスカーレットがバトラーを床に転がし、

「あなたがあたしの腕に抱かれながら、あたしをアシュレだと思っていることは、ちゃんと知っているのよ」
「あたしはこの手でなんの苦もなく、あなたを八つ裂きにすることが出来るのよ」

 ……だもん。

 抱いているのか、スカーレット! バトラーを!!(笑)
 八つ裂きに出来るのか!! くるみ割りOKなのか!

 すごいよスカーレット! 強いよスカーレット!!

 その横で、バトラーIIとアシュレ@ノルさんの回想シーン。

 2幕最初のオハラ農場にて、スカーレットがアシュレに「一緒に逃げましょう」と誘う場面……と、あといろいろ混ざってる。
 首に花を付け、内股で歩くナヨ男アシュレに、色男全開のマリコバトラーが本気で口説きに掛かる。

「ぼくにはメラニーがいるんだ」
「ちがう、君は僕を愛しているんだ」
「愛してなんかいない」
「愛してるんだ」

 ……ヅカの舞台上、それも大劇場で、まさかの、ホモ芝居。
 スカーレットの情熱に、アシュレはつい我を忘れ、激しいキスを……のくだりを、男同士で、やる。

「いけない、こんなことをしてはいけない!」

 寸前で、アシュレが逃げるんだけど。

 客席は笑ってるけど……笑ってるけど、「どうしよう?」「いいのか、これ?」というとまどいも、確実に漂ってたよ……(笑)。

 で、場面戻って飲んだくれスカーレットが、バトラーを力尽くで引きずっていく。

「今夜はいつも、あなたがアシュレの幻を追っているベッドで、二人っきりで休むのよ」

 いやもお、どうしろと(笑)。

 ものすごすぎて。

 今もこの「記念すべき80周年」であるはずのTMPスペシャルだけ、スカステで放送されないのは、このやり過ぎ芝居のせいぢゃないかと、疑っている……(笑)。
 や、最初は著作権の問題で『風共』は放送できない、って話だったけど、今はもう期限切れてるんだよね? ふつーに本編放送してるもんな。
 なのに、このパロだけ放送されてないのだとしたら、そのせいかも、と勝手に思う。
 それくらいギリギリで、面白すぎたもん。

コメント

日記内を検索