わたしの目に映った、レット・バトラー@トドロキを語る。
 月組公演『風と共に去りぬ』

 孤独を愛せない男は、自由を愛することも出来ない。
 バトラーは孤独を享受するゆえに、自由を謳歌している。そこに揺らぎはない。
 だから、彼の前に飛び込んでくるスカーレット@まさおは最初、いじり対象。面白いものを見つけた、と。
 スカーレットを気に入ってちょっかいを出しに行くのも、素直に楽しそう。
 このまま南部が平和で豊かで、スカーレットがバカなお嬢様のままでいたら、きっとバトラーのスタンス、距離感は変わってない。

 だけど、敗戦があった。
 「アシュレ@コマとの約束のために」と恋敵のメラニー@ちゃぴを命懸けで守ろうとするスカーレット。そのがむしゃらなバカっぷりに、バトラーの心が動く。
 ただのバカお嬢様ぢゃないんだよ、スカーレットのバカっぷりは、筋金入り。
 それは、バトラーの「生き方」の揺らぎなさにも通じる。世間常識関係ナシ、自分を貫く生き方。

 それでもまだ本気じゃない。
 バトラーが本気でスカーレットを愛していたら、敗戦の混乱期、彼女をひとりにはしないだろう。
 北軍に捕らえられる前、彼は紙幣を山ほど持ってアトランタに凱旋していたらしいし。そこでスカーレットの消息を追わないあたり、その存在が「二の次」だったことがわかる。
 また、北軍に捕らえられているときの、面会に来たスカーレットへの態度でもわかる。
 まだ彼女を、手のひらの上で転がして、いじって楽しんでるよね。

 それが、変わる。
 スカーレットがしぶとくフランク@ゆうきを利用して生き延びているあたりで。

 妹の婚約者だったフランクと略奪婚、北部の人間との取引。町の人々がわかりやすくスカーレットを責めはじめる。
 それまでスカーレットはわがままさや型破りさを名士夫人方に眉をひそめられていたにしろ、「人としてのライン」は踏み外してなかった。ちょっとこまった人、レベルだった。戦傷者看護のボランティアにも参加していたわけだし。
 でも、略奪婚や敵と通じることは、南部の人々の「人としてのライン」を逸脱するモノだった。

 周囲をすべて敵に回しても、自分の生き方を貫く。
 スカーレットはおバカだから、糺弾されている本当の意味は理解していない。バカだから出来ることだとしても、……結果、彼女はバトラーの近いところにいる。

 なにもかもわかった上で、覚悟の上で、糺弾されつつ己れの道を貫くバトラー。
 なんにもわかってないまま、だけど本能で正しい道を察知して、己れの道を貫くスカーレット。

 「私は酷い女」と泣くスカーレットを責めながら、プロポーズするバトラー。

 この求婚場面が、いちばん泣ける。
 芝居ラストのメラニーの前で泣き崩れる場面や、メラニー死後スカーレットにスルーされて無言で部屋を出て行くところより、泣けるのが求婚場面。

 バトラーは孤独な人。
 ひとりでも、生きていける。生きていく。
 生きていくと、納得していた。それは悟りでもあり、諦めでもある。ただ、「そうなんだ」というだけのこと。

 そんな孤独な男が、自分以外の存在を欲した。
 それが、スカーレット。

 たぶん、彼女は彼に似ている。
 血肉を捨て煩悩を捨て、魂だけに剥いてしまったら、たぶんスカーレットとバトラーの魂は似ている。
 バトラーはそれに、気づいてしまった。

 や、だから最初から惹かれていたんだけれど、いろいろ理由を付けてはそれに気づかないフリをしていた。

 同じ魂を持ちつつも、人間は魂だけで生きるにあらず。
 性格や育った環境など、いろんなモノをまとっている。

 そしてスカーレットは、「悪く転んだバトラー」だ。

 剥き出しのままでは生きられない。それじゃケガをする。バトラーは自分の守り方も、戦い方も知っている。だから調子よく荒波を乗り越え、成功している。
 だけどスカーレットはどうだ。同じことをしているのに、非難囂々、障害を華麗に避けるどころか、自分からぶつかりに行って相手も自分も傷だらけ。
 見てられない。

 そして。

 剥き出しのままでケガばかりしている、バカなスカーレットは、要領よく生きるバトラーの「憧れ」であり「救い」でもある。

 バカだから、見ていられない。
 同じ魂、だけどあちらは「悪く転んだバトラー」。
 でも、そうなの? 転ばずにいる今の自分は、「正しいバトラー」なの?

 スカーレットは、バトラーの「いつか失ったモノ」ではないの?

 スカーレットが欲しい。
 彼女を得たい。
 魂が、欲する。
 孤独に生き続けるバトラーだから、いつか失った自分自身に惹かれた。切望した。

 スカーレットに求婚するバトラーは、殉教者のようだ。

 神というものに、あるいは運命というものに、膝を付いた。
 抗うことをやめた。
 あきらめた。
 知った。

 スカーレットを、愛している。

 その事実の前に、膝を折った。

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