『風と共に去りぬ』はありがたい公演だった。
 ずっとずっと、望んでいた公演だった。

 『風共』云々じゃない。

 わたしは、主演でない轟悠が、観たかった。

 わたしがヅカにハマるきっかけは、トド様だ。ヅカ自体は子どもの頃から観ていたけれど、ハマったのはトド様に一目惚れしてから。
 トド様にハマって、「タカラヅカ」の楽しみ方を知った。
 それまでただ漠然と「差し出されるモノを眺める」だけだったのが、自分から意識して、舞台の上の役者をオペラグラスで追いかけるようになった。
 テレビでもビデオでもろくに映らない。あと30度カメラの向きを変えてくれたら映るのに!!とじれじれした。群舞のポジションに一喜一憂した。1列目の端だと舞台ではよく見えるけど、映像ではまったく映らないんだということを知った。
 当時のトドはきれいだけどいろいろいろいろへたっぴーで、アタマを抱えるようなこともいろいろいろいろあった。
 ろくに台詞もない、出番もないのが当たり前で、はじめて新人公演を観たとき、「好きな人が主役って、こんなにいいものなのか!」と感激した。トドが出ずっぱりなんだもん! いっぱい喋って、いっぱい歌うんだもん!
 新公が終わってまた元の本公演を観たとき、さみしかった。ああまた、群舞のひとりになっちゃった、と。
 それでもトドは劇団推しの若手スターで、下級生時代から大切に育てられていた人だから、ずいぶん優遇されていたのだと思う。でもそんなの、当時のわたしにはわかんないし。
 もちろん、当時の雪組も好きで、雪組で下級生スターやってるトドが好きだった。ミユさん、ユキちゃん、トドロキと3番手トリオの末っ子なのも、安心して見ていられた。
 時代が進み、ひとつずつポジションUPしていくのを、はらはらどきどきわくわく、見守った。

 はじめて好きになった人で、はじめてトップになった人。てゆーか、トド以外の贔屓はトップになってない(笑)ので、彼だけ。
 はじめてだから、なにもわかってない。
 トップスターになる、ということは、「脇役のトドは、もう二度と観られない」のだということを。

 トドは真ん中の向きの人だと思う。ナニが巧いわけではなく、美貌と男役度が高い……てのは、ヅカでは真ん中にどーんと置いておくべき。
 だから彼がトップになったのは正しい。

 トップスターから、専科になる……そう知ったときは、「雪組からいなくなる」とかそーゆーショックとは別に、わくわくもした。
 「タカラヅカの主人公キャラ」以外のトドロキを見られるんだ!って。
 トップの役割は、「白い王子様」。対する2番手スターが、「色悪」。だから2番手はオイシイ、と言われる。
 でもトドは、2番手時代がろくになかった。2作だけ。しかもオイシイ色悪なんかやってない。学ラン着て熱血してる二枚目半と、ヘタレな三枚目で終了。
 あたしはルキーニみたいなトドが見たかったのよーー!! トップになったらルキーニなんて出来ないじゃん!
 また、トドのヒゲのおじさま芝居も好きだったので、渋いおじさま役も見られるんだ、と期待した。

 わたしがいちばん恐れることは、その人が「いなくなる」ことだ。
 トップになれば、待っているのは退団だけ。
 だから演目発表にピリピリした。良い作品か面白そうか以前に、「退団公演っぽい演目かどうか」に気を張った。
 専科になるとわかり、いちばんの不安が解消された。ずっといてくれるんだ。失わずに済むんだ。そう思ったら、あとは大したことじゃない、主演かどうかなんて、格の問題なんて、どーでもいい。

 そしてわたしはトドファンであると同時にヅカファンなので、トップスターの大切さも組構成の重要さもわかってる。トップスターがいる本公演に、「トップより上の立場」で特出することに、複雑な思いを持つ。
 主演のトドが見られるのも、大事に扱われるトドが見られるのも、うれしい。だけどそれと、大切な本公演をジャックされる組とトップスター、てのを眺めるのはまた別のこと。

 トドは好きだけど、主演でなくてもいいんだけどな。
 小劇場で主演してくれるのはもちろん大歓迎だけど、大劇場で主演には、こだわらないんだけどな。
 ……という思いから、その「大劇場で主演」が何作も何年も続くと、「主演以外が見たい」に傾いていく。

 最初に「専科」って聞いたときは、色濃い悪役や、脇のおじさまが見られると思ったんだけど。
 脂ののりきった頃にしか出来ない役ってあるし。
 なのにあれから何年? トドは主役しかしないの?

 あんまりにも主役だけをやり続けるので、もう望むことすらなくなっていた。
 最初なにに期待したのかも、忘れていた。
 トド=主役。はいはい、わかってますよ。

 それでも近年、トド様の進化は素晴らしく、「主役でしかできない、ものすげー濃密度の芝居」を見せつけてくれ、感激しきり。
 主役だけをやり続けてきたから、今のトドがあるのかもしれない。ここまで研ぎ澄まされた役者っぷりを見られるのは、彼がずっと「トップスター」だったからかもしれない。

 トドは主役以外しない……よくも悪くもそれは前提として、わたしのなかに刷り込まれていた。
 昔の望みを忘れるくらいに。

 それが。

 今回の『風と共に去りぬ』で。

 トドロキが、主演ではなかった。

 演目発表になったときのクレジット順からして、そーじゃないかと思っていたけど。
 初日の幕開き、開演アナウンスがまさおだったときに、震撼した。

 トド様が、主役じゃない!!
 大劇場本公演じゃないんだよ、組を背負っての公演だからその組のトップスターがアナウンスする、というスタンスじゃないんだよ、専科主演でも問題のない、別箱公演なんだよ。
 特に、演目が『風共』である以上、バトラー役のトドがアナウンスしてもおかしくないんだ。

 ほんとに、まさお主演、トドは相手役なんだ……。
 感慨深い。つか、感動した。

 ついに……ついに、トドが主役以外をやる日が来た。
 ユキちゃんが卒業したあの日から、主役以外のトドはいなかった。
 時代が今、動いた。

 トドロキが主演でなくなった、主演専科から降りた、これは降格ってことで、ファンならば嘆かなければならないのか? 憤らなくてはならないのか?
 だけどトドの主演舞台は今後もある、今も次の舞台が決まっている。主演だって引き続き見られる。

 轟悠は、新しい可能性を得たんだ。

 『南太平洋』もトド主演とは言いがたい作品だった。あれはうれしくなかった。あたかもトド主演であるかのように宣伝して、フタを開けてみたら彼は助演でしかなかった、なんて。
 でも今回は、クレジットからして彼が「主演」ではないこと、2番目の扱いであることを物語っている。
 だから安心して、「主役の相手役」であるトドの芸を堪能できる。

 これから、若いトップスターを支えるトドが見られるのかもしれない。
 そういう姿も、楽しみにしているよ。
 この有限の花園で、フェアリーであり続けてくれる人。
 まだまだ、彼にはいろんな可能性がある。

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