「中村Bのまっつのイメージって、赤なんだ」

 その昔、友人が言った。
 わたしはそんなこと、特に意識したことなかったんで、すごく意外だった。
 赤?
 まっつに、赤?
 なんだそりゃ。

 『宝塚巴里祭2009』のときだ。
 わたしにつきあって参加してくれた友人が、ニラニラしながら言ったんだ。

 当時のまっつは、花組の中堅。得意な役は、ヘタレ三枚目。下っ端。
 貫禄の色悪おじさまジオラモでは爆笑され、娘のお尻に敷かれたヒョンゴ先生は八の字眉のトホホ顔。美形だけど情けない、そこが味のある芸風。
 バウ主演も下級生に抜かされ、モバタカの「スター紹介」もスルーされた、「路線外」の芸達者。
 小さい・地味、という形容詞が枕詞。

 「赤」なんて花形色とは、対極にあるキャラクタ。

 だからこそ友人は言うわけだ。「中村Bのまっつのイメージって(笑)」と。
 ふつーなら思いもつかない、まっつにコレはナイわー、という色だからこそ、(笑)を付けて。ネタ扱いで。

 巴里祭でいろんな衣装を着ていたけれど、友人のセンサーには「赤」が引っかかったらしい。
「『ファントム』でも赤だったもんね」

 まっつお得意のヘタレ役。
 オペラ座の俳優リシャール。新公主演済みの研9だっつーに、一本物で台詞がふたつだけという扱いだった。
 今の雪組でいうと翔くんの学年とポジションですな。研9で5番手。翔くんと比べると、扱いの差も歴然。
 だけど何故か、赤を着ていた。

 まっつなのに、赤!!
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 群舞センターのまっつ。しかも、ひとりだけチガウ衣装のまっつ。スター!!な、まっつ。
 なにもかもはじめてで、想像もしてなくて、うろたえまくった。

 エスカミリオ役ではなかったけれど、それならただの脇に回すことも出来たろうに、名もなき役だとしても、わざわざ華やかな赤の闘牛服を着せて、センターで踊らせてくれた。
 その、記憶。

 それはわたしにとっても強烈だったけれど、所詮まっつファンのわたしは「赤を着るまっつも素敵」となって納得という記憶の底に沈んだ。しかし「まっつに赤(笑)」と草を生やして眺めていた、ファン以外の人間には、「違和感」として残ったんだろう。
 『宝塚巴里祭2009』を見て、『ファントム』のときのことを思い出したらしい。

 言われるまで、忘れてたよ。
 中村B演出の『ファントム』で、まっつはよりにもよって赤を着ていた。
 それはたしかにそうだけど、やっぱり「まっつ=赤」はチガウんじゃね? もっとまっつっぽい色は他にあるだろ。
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 そんな他愛ない会話を、思い出した。

 『My Dream TAKARAZUKA』「第20場 フィナーレ5(紳士・淑女)」。
 他の男たちは直前の場面と同じ、黒燕尾のままだ。
 だけどまっつは、赤い燕尾服で登場した。

 2度目の銀橋ソロ。
 まさかここで、もう一度ソロがあるなんて思ってなかった。油断していた。
 しかも、わざわざ衣装替えまでして。
 しかも。

 しかも。

 赤で。

 「中村Bのまっつのイメージって、赤なんだ」

 泣けた。

 ナニがどうじゃない。
 ただ、蛇口ひねったみたいになった。
 ありがとうソングでドン引きして出かけた涙もひっこんだっつーのに、この赤燕尾ひとつで滝涙。

 そして、あとでわかったことだけど、この赤燕尾が、未涼亜希の、最後の衣装だった。

 このあとは、大階段パレードがあるだけだ。
 パレード衣装は、まっつ単体というよりも、「パレード衣装」だ。パッケージのうちというか、中身とは別の部分だ。

 ショーの中身、フリースペースの最後の最後に、中村Bはまっつに赤を着せた。
 べつに、着せる必要は特になかったのに。
 他の男の子たちと同じ黒燕尾のままでもよかったのに。他の色だってあったのに。
 赤。
 よりによって、赤。

 揺るがないな、中村B。

 しあわせな気持ちで劇場に通っていた、あのころを思い出したよ。
 わずかな間、群舞のセンターに立った、ひとりだけちょっと豪華な衣装を着せてもらった……そんなことに大喜びしていた。
 台詞がなくても、舞台の上にいる時間が短くても、ライトが当たらなくても、まっつを見ていた。
 それで、しあわせだった。

 そうか、赤か。
 まっつは、赤。
 花形色。センターの色。情熱の色。

 銀橋ソロをせわしなく歌ったあと、まっつはすぐにまた登場する。
 ちぎくんが銀橋にいる間、本舞台に組子たちみんな登場するんだ。
 そのセンターにまっつがいる。

 赤い燕尾を着て。
 黒燕尾の男たちのなか、ただひとり、特別な衣装を着て。

 最後の色が、赤。

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