『相続人の肖像』がすごい!!語り、その3。
 主人公のチャーリーがすごい。めちゃくちゃすごい。

 自分から遺産相続条件を蹴った(私怨)。 なんて可哀想なボク! → 金目当てに政略結婚することにし、自分で相手を選んだ(私利)。 嫌だけど仕方ない、嫌だ嫌だ、ボク不幸。→ 好きな女の子が出来たから、政略結婚したくない(私欲)。 なんという運命の皮肉、不幸なボク! 苦悩!

 見ながら、「???」だった。
 自分で障害を置いて、「障害のために苦しい」とやっている。
 どかせばいいじゃん。
 誰かが置いたわけじゃない。全部自分じゃん。

 ベアトリスと結婚したくない。 → しなければいい。
 政略結婚しないと、破産する。 → 破産しなければいい。
 イザベルと結婚したい。 → すればいい。

 ベアトリスとの婚約は破棄、イザベルと結婚する……というクライマックス、おばーさまが「そんなことしたら破産よーー!!」とパニックになっているのを見て、どんだけイライラしたか。

 破産なわけないじゃん、そもそもベアトリスと結婚する必要がなかったんだってば。と。

 で、イライラしまくってるのに、弁護士くんがしれっと「これで解決ですよ」と「種明かし」、「まあっ、ほんとだわーー!」「ハッピーエンド、すごーい!」となるのを見て、イライラは、ムカつきに変換、ちゃぶ台があったらひっくり返してるわ!!(笑)

 ナニが種明かしよ、んなもん最初からわかってたわーー!!

 チャーリーが勝手に障害作って大騒ぎしてただけじゃん。
 彼が「まともな」思考力を持っていたら、なんの騒ぎにもならなかった。
 ヴァネッサとイザベルは同じ屋敷で暮らし、伯爵家は破産せず、ベアトリスを傷つけることもなく、同じ屋敷で暮らしていれば、いずれチャーリーとイザベルは愛し合ったかもしれない。
 なんの問題もなかったんだ。

 チャーリーがわがままで、アホで、無神経だから、たくさんの人が振り回され、傷ついた。

 いちばんの犠牲者はベアトリスと、その弟ハロルド。
 この善良な姉弟を、完膚なきまでにコケにして、傷つけて、大団円て……。
 そして、このふたりがまた「いい人」で、「きれいに身を引く」ことで、都合良く収めているのにも、不快極まりない。

 ベアトリスとハロルドは「いい人」じゃなくて、「都合のいい人」だよ……作者にとって。薄っぺらぺらな設定。

 相当うんざりしてたんだけどね。
 おばーさまがこの「どんでん返し」で滑稽な言動を取るのよ。で、客席からは笑いが起こったの。

 心が、冷えた。

 あー、だめだ。
 もうダメだ。
 限界超えたわー。

 おばーさまは、チャーリーに負けず劣らず、下劣な人だ。お金のためにカメレオン、態度を変えまくり。
 貴族は「家を守る」使命がある、そのためにやっている……ようには、見えない。
 だって彼女は「お笑い担当」なんだもの。遺産目当てに態度を変えまくる様を、ことさら滑稽に演じ、笑いを取る。
 貴族の使命で、家を守るためにあえて金満者へこびへつらっているというなら、それに対する葛藤を描いてもらわないと。
 ただ彼女は、コロコロ態度を変えて客席を笑わせる、それだけ。

 わたしは、笑えなかった。
 チャーリーとイザベルがくっつけば、遺産が手に入るのだ、ということが最初からわかっているのに、そんな基本設定を金の亡者のおばーさまが忘れているとかありえない。それこそ、「赤信号は止まれの意味」レベルで。
 そんな赤信号レベルの基本設定を「どんでん返し」として持ってくる構成にドン引きだし、そこでことさらコミカルにするのも、アタマが悪すぎる。

 そしてなにより、つまらなさすぎるオチで、そのうえ下劣な言動を、笑いにする演出に、絶望した。

 あかんわこりゃ。

 植爺に対する絶望感と同種だわ。
 人としておかしい、のに、それを「美談」だと思っている倫理観。

 きもちわるい……。

 チャーリーやおばーさまがどんだけアホで下劣でも、ストーリー構成が秀逸で、「こう来たか! 思いもしないどんでん返し!」なら、スカッとしたと思う。
 エンタメってのは、そういうもんだ。
 共感はなくても、カタルシスは味わえる。

 が、脚本クソだし、キチガイしかいないんじゃ、ナニを楽しめというんだ……。

 また、ストーリー的にどんだけありきたりで、先が見えて、どんでん返しにもならない、んなもん最初からわかってたよ!な作品でも、キャラクタに共感できればそれは感動になる。

 共感もなく、ストーリーは破綻しまくり。ストーリーを進めるために、主人公はアホで無神経でその場限りの言動を繰り返す。

 なんなのこれ。
 ほんとに、心からわけがわからなかった。

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