『銀二貫』初日観劇。

 泣いた。

 いや、泣ける話だというのは知ってたけど。
 それでも。

 大泣きした。
 2幕は泣き通し……つか、嗚咽が上がりそうになるくらい、マジ泣き必須。
 おそろしいわ……なんて作品なの……!

 物語の持つ力。

 それに、膝を折る。
 脱帽する。
 舌を巻く。

 地味な日本物、そのなかでももっともビジュアル的に残念な、江戸時代の町人物。
 ドレスや軍服のきらきらしたコスチューム物を求められる「タカラヅカ」で、もっとも人気のないジャンル。
 だからこそ、物語自体に力が必要。

 いや、もう、なんつーか。

 谷正純の本気を見た。

 役者がね、まず、谷せんせのお気に入りばかりなのよ。
 エマさん、みつる、という専科さんはもとより。
 雪組ではいちばんのお気に入り役者じゃないかと常々思っている、がおりを筆頭に。
 にわにわ、桃ひな、あす、あり、まから。
 叶、まち、あんこ……。

 谷作品でお馴染みの面々が、ずらり。
 谷せんせは、キャスティングというか、振り分け権利はかなり強いモノを持っていると聞いているし。まあ、劇団の重鎮だから、さもありなん。
 おかげで雪組に谷作品が来ると、高確率で同じ顔ぶれになる(笑)。
 や、いいよいいよ、その本気っぷりやヨシ!

 『心中・恋の大和路』がそうだったように、音痴皆無、歌ウマだらけ!の舞台ってすげえよ。タカラヅカでこれはすっげーゼイタクっすよ!
 ……って、えっと、たしかみつるさんは歌唱力に不自由しているスターさんのひとり、だったはず……だけど、今回は歌えてるし! てゆーかみつるが壊滅的なのはショーの歌で、芝居歌はそこまでじゃないのよ、演技力で歌っちゃうから!!

 仕事の出来る人たちを集めて、適材適所にがっつり固めて、感動必須の出来上がった原作を使って、「物語」を創る。
 音楽や舞台装置や、役者が加わって、すべてが揃ってようやく、呼吸をはじめる、「物語」という、イキモノ。

 そのイキモノが産声を上げ、歩き出す様に見入った。

 というのもだ。

 主役のかなとくんは、「物語」に乗せられている状態なの。

 産声を上げたイキモノの上に、乗っている。
 かなとくんがそのイキモノなのではないし、そのイキモノを操っているわけでもない。
 乗っている。ただ、上に。

 主役が他の誰かであっても、物語は自力で動き出したかもしれない。
 それくらい、周りのキャストが強力だ。
 かなとくんが自分で立てないとしても、問題なく進むくらい、「物語」が自力で立っている。

 だから、すごい。
 物語が生まれ、立ち上がった。過去の名作とやらでもなく、海外からの輸入名作でもない。
 原作があるにしろ、「ミュージカル」になったのはこれが最初、まったくの新作、誰もまだ見たことのナイ作品。
 その、「新しい、まだナニモノでもないナニか」が産声を上げた。立ち上がった。
 それを目の当たりにする感動。
 ドキドキした。

 かなとくんは乗っているだけと書いた。
 彼でなくても成立するかもしれないとも書いた。
 だが、かなとくんがダメだと言っているわけじゃない。

 かなとくんが自力で立てなくても問題ないほど「物語」が自立している……そう思うのは、かなとくんが、物語に「正しく」乗っているからだ。
 きっと、もっとヘタな人や、感性の違う人が松吉を演じたら、「物語」自体が崩れていたかもしれない。
 周囲と物語をすごいと思わせるほどには、かなとくんは松吉を、真ん中を、きちんと務めている。

 ただ。
 乗りこなしては、いない。

 彼に主導権がナイ。
 彼の乗っているイキモノの操縦桿は、かなとくんの手にナイ。
 それはまだ、誰の手の中にもナイのだろう。

 今はまだ、背に乗って、運ばれているだけの状態だと思う。
 それでもこんだけ泣けるのよ……おそろしい……おそろしいわ……。

 だから思う。
 このまま公演を重ねて、かなとくんが主導権を得るようになれば。

 この「物語」というバケモノは、どこへ向かうのだろう。


 かなとくんが今さら日本物で主演って、ヤだったのよ。
 しかも駄作メーカーの谷作品。『サン=テグジュペリ』みたいな史上に残るレベルの駄作だったらどうするよ? 日本物の雪組、その御曹司かしげの『ささら笹舟』だって、キムくんの『やらずの雨』だってひどかったわ……気の毒だったわ……。
 ヅカヲタには「谷だったら観ない」という層が少なからずいて、「日本物だったら観ない」という層が確実にいて、初主演で駄作に当たるとその後の路線人生の険しさが増すのに駄作の確率が非常に高い演出家あてるのはよせ、と心から思った。
 また、駄作であろうとなかろうと、かなとくんの得意分野は日本物で、苦苦苦と耐える男で、苦手分野がショーとダンスで、舞台で華やかさを出すこと、……なのに地味な日本物で主演しても、今必要なのはそれじゃナイだろ感ゆんゆんというか、ええいっ、れいこに『A-EN』やらせろ、ツンデレ強引ドSで壁ドン顎クイさせてキザりまくらせろ、ショーの真ん中でど派手衣装着て存在感出す訓練させろ……っ、と歯がみした。

 ……のは、事実です、ええ。
 そんなわたしでございますが。

 『銀二貫』を観て、心から、わくわくした。
 この「物語」の力を借りて、れいこはどこへ行くだろう?
 どれほど、成長するだろう?

 実力者たちに担がれた、計算され堅牢に作られた神輿の上で。
 月城かなとは、なにをする?

 ただ担がれているだけでは、いないはず。

 実際、幕開きと終盤では、変化を感じた。
 彼は変わる。
 この「物語」を得て。

 なんかすごいな。
 すごいところにいるな。
 キャストも、そして、観客も。

 そう思える感動。

 だから。

 かなとくん、バウ初主演おめでとう。

 君は正しく、そして幸運だ。
 某物語のキーワードを、ここぞと記す(笑)。ロールプレイングする快感を込めて。

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