わたし、歌がうまい人は、ずっとうまいものだと思ってた。

 文化祭でも新公でも『エンカレ』でもなんでもいい、ぶわっとうまい歌を聴かせてくれた人は歌ウマだと思っていた。
 若い時点でうまいのだから、ここからさらに研鑽を重ね、さらにうまくなる未来しかない! ……のだから、うまい人はうまいままだと思っていたんだ。

 でも、そうじゃないんだね。
 そのときその1曲をうまく歌えたからといって、歌ウマとは限らない。
 たまたまうまく歌えたとか、たまたま得意な曲だったとか?
 理由はわからないが、わずかな機会だけで決めつけてはいけない、ということ。

 当たり前のことなのかな。
 でもわたしは、それに気づくまでけっこう時間がかかった。
 うまく歌を歌える人は歌ウマだと思い込んでいた。
 たとえ1曲だけでもうまく歌えるということは、歌を歌う基本的な才能は持ち合わせているということで、先天的に音痴とか声が出ないとか、そんな状況ではない、ということよね。
 歌うことが出来る素地があるのに、だから実際歌をうまく歌えたときもあるのに、その後「音痴」とか「歌えない」くくりにされてしまうスターがいる不思議。

 なんでなんだろ?
 努力の問題? 歌い込めばうまく歌える、練習が足りないとあまりうまく歌えない?
 うまく歌えたときは努力していて、その後音痴呼ばわりされるようになったのは、お稽古不足?
 タカラジェンヌはみんな努力家で、みんなお稽古しまくっているイメージなので、そのへんはよくわからない。

 なんでなんだろ?
 デビューが「歌ウマ」で、その後「歌ヘタ」になるのは、どうしてなんだろう?
 うまい歌を歌ってみんなから注目されれば、お稽古だってとびきりするだろうし。
 露出が上がるといろんなタイプの歌を歌わなくてはならなくなるから、「たまたま1曲だけうまく歌えた」レベルの人だと、「実は歌苦手」がばれてしまうってことなのかしら。

 このパターンで、いちばん衝撃的だったのが、咲ちゃん。

 彼の鮮烈なデビューは、新人公演『マリポーサの花』。
 研2で突然、当時の雪組3番手、歌ウマのキムくんの役に抜擢された。作中のショーシーンで、歌がどーんと1曲ある。
 そこで、見事な歌唱を披露した。

 圧倒的。
 終演後の客席で「リナレス役の子がすごい」とその話題で持ちきりになるほど。
 や、帰り道でみんな一斉に感想を話し出すじゃん、そこでみんな決まって咲ちゃんのことを口にしているの。
 「本役以上じゃない?」と言う人までいたさ。
 歌ウマのキム以上の歌唱力って……たしかにすっげーうまかったけど、本役以上、てのはナイわー、と見知らぬ人の会話に内心ツッコミつつ歩いた思い出。

 出演者全員が「新公レベル」だから、そこでちょっとうまいと「神レベル!」と錯覚に陥る、基準点が低いからこそ起こる、いわゆる「新公マジック」だとは思うよ。
 それでも、その「新公レベル」の舞台で、中卒研2のお子ちゃまが、場をかっさらっていったことは確か。その舞台で、いちばんの歌声を響かせたことは確か。
 歌ウマであったことは確か。

 「ものすごい子が現れた!」って、あのときはマジそう思ったんだよなあ。わたしだけでなく、あのとき劇場にいた人々は。
 咲ちゃんが歌い終わったときの、拍手の熱が、音が、それを表していた。

 その記憶があるから。
 わたしはずっと思い込んでいたの、咲ちゃんは歌ウマだって。

 その後、どんなにあれれ?な歌を聴いても、「咲ちゃんは歌ウマだから」と思っていた。
 でも気がつくと咲ちゃんは、世間的に「歌に難アリ」スターという認識になっていた。
 周りが「新公レベル」の新公や、じっくり落ち着いて歌える芝居歌はともかく、ショーの銀橋ソロとか、誤魔化しの利かない場で歌う機会が増えるにつれ、咲ちゃんがいるにも関わらず、「雪は歌える人が誰もいない」「音痴から音痴へ歌いつなぐ銀橋」とか言われるようになった。
 「キム以上の卓越した歌唱力」を持つスターにあるまじき評価。
 そしてわたしも、さすがにもう「咲ちゃんは歌ウマだから」とは、思わなくなっていった……世の人々と同じく、「雪のショーって耳に優しくない」と、トホホだった。や、それでも好きだけどね。

 そして思い至るわけだ。
 歌って、ヘタになるもんなんだ。

 咲ちゃんは一時期、ぷくぷく太り続け歌唱力も落ちる一方で、ほんとにどうしたんだ?ってな感じだったけど。
 でも、今は痩せてきれいになったし、歌だって良くなっている。
 歌ウマとまでいかなくても、「音痴キターー!」という破壊力はナイ。

 歌のうまさって、絶対のモノじゃないんだね。
 同じ人が、ヘタだったりうまかったりするもんなんだ。
 にんげんだもの。

 …………そんな、にんげんだもの。を超えて、いつも必ず、安定して、一定レベル以上の歌を聴かせてくれる人が「歌ウマ」なんだろう。

 勉強になったよ……。

 今までは運良く、一度「この人、歌うまい」と思ったジェンヌさんたちは、それ以上にうまくなることはあってもヘタになることがなかったもんで、知らずにいたんだね。
 たまたまだったんだね。

 てな、物知らずなわたしが、ひとつ経験則を得られた……という前振りで、語りたいのは咲ちゃんのことではなくて。
 咲ちゃんがあまりに典型的だったから、例に挙げただけで。

 語りたいのは、きんぐのことだ。(咲ちゃんとばっちり)

 てことで、翌日欄へ続く。


 こんな話題で例に挙げたけれど、咲ちゃんをdisりたいわけじゃないっす。咲ちゃんかわいいよ咲ちゃん。
 今の咲ちゃんは男役としてかっこいいし、歌だってちゃんと歌えているのだから、正直「今だから言える!」という気持ちっす。
 ほんとにトホホなときには、ネタにするのも憚られるもんよ……。
 咲ちゃんのこれからの活躍が楽しみだー。

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