やっぱ劇団は、クリスマスに退団公演をやりたくないんだな、と思った。
 わたしが経営者ならそう考えるし、退団者のファンだとしても、クリスマスは嫌だと思う。

 今年の年間スケジュールで、後半の星組と雪組の公演順が不自然に入れ替えられていた。
 なんで入れ替えたのか想像がつく。
 雪組→星組の順だと、星組の東宝楽がクリスマスになってしまう。
 トップ退団が決まっている星組楽がクリスマスに当たらないように、配慮したんだ。

 トップ卒業千秋楽とクリスマスをブッキングさせなかった。
 よかった、劇団、学習してくれたんだ。

 もうあんな、恐くて不快な思いはしたくないもの。

 「なんで? クリスマス退団の方が盛り上がるじゃん」なんてファジィなことを考えるのは、当日日比谷に行かない人だろう。
 思い出作りなんて次元の話じゃない。
 単純に、警備面のこと。

 昔はともかく、現在のクリスマスは日本中がイベントてんこ盛りだ。日比谷も例外ではない……つーか、むしろ日比谷だからまずい。
 オサ様千秋楽がクリスマスとかぶり、サヨナラパレードが大変なことになった。
 日比谷公園で行われたイベントと、トップ退団千秋楽に集まったヲタたちがガチンコしたんだ。そのカオスっぷりときたら。
 事故が起こらなかったのは、運が良かったのだと思う。

 ほんとうに、恐かった。
 なにか起こるんじゃないかって。
 そして、心から、不快だった。
 大切な人の大切な最後の瞬間を、土足で踏みにじられて。

 ……劇団も、アレはヤバイ、と思ったんじゃないかな。や、ふつーの神経をしていたら、思うだろう。
 退団パレードのための花道を、袴姿の退団者と日比谷イベントの通行人が並んで歩く異様さ。
 退団者の最後の楽屋出って、ファンクラブの人たちがガードと呼ばれる人垣を作って、退団者の歩く道を作るじゃん? ガードで区切られた道は、ジェンヌや関係者だけが歩く道。一般人はガードの後ろを通る。おかしな人が人混みにまぎれていたとしても、ガードがあるから近寄れない。
 どんな人気トップの千秋楽も、それで問題なく乗り越えてきた。
 が、現代のクリスマスで、それは通用しなかった。
 イベント帰りの一般人たちは、ガードを無視して真ん中を歩く。半端ナイ人混みだから、ガード後ろなんかじゃ治まらない、数少ない警備員が誘導しようが関係ない、真ん中に空いた通路があるんだから、そこをずかずか通る。
 袴姿でお花を持った退団者が、一般人の人混みの波に飲み込まれる。
 最後の花道であるはずの通路で、ヅカを知らない・関係ないふつーの通行人から、好奇の目で見られ、真横で指さされたり、肩が当たりそうな近くで携帯でバシャバシャ写真を撮られる退団者。
 ガードとガードの間を通行人が歩くわけだから、ガードに入っているファンクラブの人たちも、その後ろにいるギャラリーも、退団者が見えなくなる。朝から場所取りしていたんだろうに……最後なのに……。
 ヅカファンおとなしいからそこでブーイングしたり暴れたりしなかったけど、ざわざわ広がる困惑と嘆きの声。空気がおかしくなる。
 警備員の怒声、次第に大きくなるファンの不満の声、一般通行人の混乱。

 こわいって。
 やばいって。

 あれ以来、東宝楽がクリスマスにぶつかる公演でのトップ退団は避けられるようになったんだと思う。

 なまじそれまでがクリスマスのトップ退団が多かったから誤解しがちだけど、やばかったのはオサ様のときだから、それ以前にどんだけ多くても関係ないもんね。
 オサ様退団のあと、クリスマス退団したのはキムくんひとりで、キムくんは「宝塚GRAPH」の表紙を1年に2回やることになったりと「劇団の予定外退団」と思われる要素の多い人だ。

 キムがクリスマス退団したんたがら、できるはず、という話ではない。
 そりゃ、やるだけなら別に、クリスマスでも元旦でも、いつだってできるだろうさ。

 ただ、同じ警備をするとして、ごくふつーの日曜日にするのと、クリスマスの日曜日にするのでは、かかる経費がまったく違うのだろう、ということは、誰でも想像がつくと思う。
 そして、日比谷の道端に何千人集めてイベントをする場合、ごくふつーの日曜日と、クリスマスの日曜日では、事故の起こる確率がまったく違うのだろう、ということも、誰でも想像がつくと思う。

 できないからしないのではない、できるけれど、選べるのなら、「したくない」んだ。わざわざ、危険でお金のかかる日には。

 だから、予定通りの退団の場合、クリスマスはあえて外すんだろう。

 今までクリスマス退団でも事故が起こらなかった、から、今後もクリスマス退団していい、とはふつーの企業は考えないだろう。
 急遽、予定外に退団になってしまう場合はともかく、前もって企画できるならクリスマスは外す。
 たとえば、組の公演順を入れ替えてでも。


 年間スケジュールが発表になったときにはもう、みっちゃんの予定は決まっていたんだろう。というか、みっちゃんが星組トップに落下傘就任すると決まったときから、全部予定されていたんだろうなと。演目からなにから、3作退団を示唆するものばかりだった。
 プレお披露目の全ツ『大海賊』とお披露目の『ガイズ&ドールズ』はともかく、そのあとのディズニーやら『こうもり/THE ENTERTAINER!』やらサヨナライベント感満載で、何作前からサヨナラムード盛り上げんのよとびびったくち。任期の3分の2がサヨナライベントって。
 でも、「3作だよ」という劇団からのプレッシャーの大きさゆえに、ファンは急き立てられるように劇場に通ったんじゃないかな。なにがなんでも観なきゃ、今観なきゃ!って。来年観ればいいや、なんて悠長なことは考えず。や、みっちゃんの場合学年もあるけれど。

 えりたんにしろみっちゃんにしろ、イレギュラー就任のトップさんは、それゆえに任期にイレギュラー余地はなく、最初の予定通りに卒業していくのかもしれない。
 みっちゃんの人気ぶりから、3作で卒業はもったいないと思うけど、そこはもう決まっている部分なのかなと。

 えりたんとみっちゃんを「イレギュラー就任」と思うのは、やはり経験からで、劇団がそう公式見解を述べているわけではないけれど。
 前述のキムくんのことや、トップ以外が回る全ツの取り扱いを見ても、そういうことなのかなと。

 経緯はどうあれ、よい舞台を見せてくれてありがとうだし、最後まで充実したフェアリー人生を送って欲しいと思う。卒業していったジェンヌさんたちと同じように。

 クリスマス退団が、今後もないことを祈る。
 どうしても年末公演で退団するなら、あさこのときのように、12月26日以降に楽が来る年限定にして欲しい。
 やっぱ今の時代、クリスマスの人出はものすごいもの。

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