宙組新人公演『エリザベート』観劇。

 一部のキャストは、本役よりも歌唱力が上だと言われていた、期待もレベルも高い新人公演。
 わたしのお目当ては歌ウマルキーニで、それ以外はわりとフラットに眺めていたと思う。
 途中までは。

 背もたれに身体を預けて、椅子に沈み込んで、悠々と観劇。そんなイメージ。ルキーニにだけがっついていたけど(笑)、それでも全体イメージとしては、悠々まったり。
 ご贔屓がいるわけでもない、ぬるいヅカヲタだからねー。

 それが。
 あるときから、ぐぅわばっ、と前のめりになった。
 や、イメージの話なんで、実際に前のめったわけじゃない。
 気持ちが前のめりになった。
 え、今のナニ、わたしはナニを見たんだ? と。

 エリザベート@まどかちゃん。

 本役の少年ルドルフはものすげー美少年ぶりだが、シシィとして登場した新公では、「納得の美少女」というわけでもなかった。
 丸い……幼い……。
 少女というより、子役でしょう、そのむちむちほっぺは。

 歌えるし、芝居も出来るし、別に問題ないのだけど。
 もう少し、きれいだといいなあ。やせてくんないかなあ。漠然とそんな風に思って見ていた。
 まどかちゃんがロリータ風なのはわかっていたけど、シシィとして幼すぎるなあ。ゾフィ@瀬戸花さんにいじめられているところとかも、まるきし子どもでなあ……。
 持ち味は仕方ないか……。スタイルいいから、年齢が上がって痩せてくれば、きっともっときれいに……とか、思わず今ではなく未来に期待をかけようか、てな気持ちだった。

 それが。
 大きく、変化した。

 絶望したシシィがナイフを手にし……だけど、自殺はせずに高らかに自我を歌う……エリザベート役の見せ場、「私だけに」のソロ場面にて。

 歌い出したまどかちゃんの、顔が変わった。

 幼かった。子どもだった。どーすんだこれ、と思った。
 そのまるぷく少女が、どんどん変化した。

 大人に。

 「私」を歌うシシィが変わる。
 子どもから、大人へ。
 わけもわからず駄々をこねるだけだった子どもから、自我を持った大人の女性へと変化していく。

 「嫌よ」「私が選ぶ」「この私」……確固たる、意志。
 「私」とはなに。
 意識しなかった、形のなかったものが、今、名前を付けられて、輪郭を得る。

 私は、エリザベート。

 まどかちゃんのハイライトは、鏡の間じゃない。
 刃物を手に歌う、天空だ。

 刃のような自我。
 意志。
 存在。

 あやふやな存在が、少女が、一個の女性となった。

 ぞわぞわと、産毛が逆立つような感覚。
 変化、というカタルシス。

 それを、見事に見せてくれた。

 え、なにこれすごい。
 面白い。
 星風まどか。この子やっぱり、面白い。

 それ故に、思った。
 新公『エリザベート』、つまんない!

 シシィが「エリザベート」になった。目覚めた。
 ナイフを鞘へ戻し、倒れた。
 それで?
 そのあと彼女はどうなったの?
 彼女は変わった、もう子どもじゃない、彼女はこれからどう生きるの……?
 好奇心がむらむらわき上がるのに、「その後」が描かれない。
 彼女の葛藤、戦いがない。
 自分の武器である美貌に目覚め、それを使うことを知り、ハンガリーで武器を抜き、戦勝を得る。
 ここまでが一区切りでしょう? 「エリザベート」の物語としては。

 なのに、それがないのよ!!
 つまんない!
 わたしにこの女性を、タイトルロールである主人公「エリザベート」の物語を見せてよ!!

 そう思った。
 歯がみした。

 新人公演って、場面ツギハギだから、つまんないなあ。そりゃいつもそう思うけれど、「エリザベートの物語」としてそう思ったのは、はじめてだ。

 そのあとのまどかちゃんは、ロリータ少女ではなく、大人の女性だった。
 暗さというか、濁ったものを抱えた女性。
 彼女は声がいいから、それでいろいろ表現出来るのね。
 美貌という点ではまだまだ磨く必要があるのだろうけど、「ヒロイン」を演じたときの彼女の破裂力はすごいなと。
 真ん中から四方八方へぱーんとはじけるのね。飛び散るのね。打ち上げ花火みたいに。

 これからも楽しみにしてる。
 ……もう少し、痩せてくれることも含めて。

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