『双頭の鷲』思いつくままに。 


 わたしは所詮トドファンなので。
 トドロキの美しさだけで泣ける。

 トド様というと学年からも立場からも芸風からも、骨太さ・男らしさを求められる。
 芸歴何十年、研いくつだっけ。の、駆け出しの若造には表現出来ない貫禄と重み。理事という肩書。そして、若いときから一貫して立役であった芸風。
 英雄で指導者で男くさくて、ヒゲが似合って野太い声で吠えている役が似合う、そんなイメージ。

 そんな役割を担ってきた人だが。
 いや、だからこそ。

 わたしがときめくのは、繊細で傷つきやすくてうつむいている、多感な青年の姿だ。
 『凱旋門』のラヴィックだとか、『オネーギン』だとか。

 『双頭の鷲』のトドは見たかったトドで、さすが『オネーギン』の景子たんだ、ありがとう!!
 2回目の観劇では、他は捨ててトドのみをオペラグラスで追った。
 『オネーギン』もそうだったなあ。「このトド様を一瞬たりとも見逃してはならない!!」と思えたから。

 心の揺れが細かく整った顔に映し出されて、観ていて心臓がハクハクする。
 特に最初の警戒と怯えのある顔が最高っす。反発と自棄に瞬間針が揺れて、またすぐ意志の力で強くこの場に踏みとどまって暗殺者の顔を作り……。
 暴挙に及んでいるけれど、脳筋なのではなく、繊細な文系青年ゆえに爆発してここにいるんだとわかる。

 彼を注視するだけで楽しい。
 泣ける。


 それでも、わたしは根本的にこのテの物語は好みではない。
 わたしはわかりやすいハッピーエンドが好き。死んじゃうENDは相当出来が良くないと、ふつーのハピエンにかなわない。世間の評価がではなく、わたしのなかで。
 特に、「美しく終わるための死にEND」はわたしの中で点数が下がる。
 だって簡単じゃん、手法として。
 生きて美しい・ハピエンで美しい、の方が創るのは困難。生きていたりハッピーだったりするとどうしても、ダサさが含まれるから。現実の泥臭さがあるから。
 どんな物語も、主人公殺してENDにするなら、ドラマチックだったり美しかったり出来る。構成に詰まったら主人公殺して終わらせればいい。主人公死ねば観客泣くし、お手軽感動作の出来上がり。
 『双頭の鷲』は計算された美しい作品なのでお手軽とは思わないが、それでも死にENDだからこそ出来た、というドーピング感はある。

 それに加え、同じ死んで終わりでも、「責任を投げ出して死ぬ」のが好きじゃないんだなあ。
 初日に観たときは、王妃としての再生を、政治と国とを全部まるっと投げ出すことに「ヲイ!」とツッコミ入れたもん。わたしはやっぱ、高貴なるものの義務を果たしてほしいと思うんだよなあ。
 や、原作があるからどうのという話ではなくてね。んなこといったら原作にパパラッチがいて歌い踊っているのかって話で、景子たん作品『双頭の鷲』の話をしているんだから。

 晴興@『星逢一夜』もそうだけど、わたしは「責任を投げ出し、自分だけが得をして終わる」主人公より、「自分にとって死ぬよりつらいことを背負い、自分ではない誰かのために責任を果たす」主人公が好きだ。主人公が死んでいいのは、そのあとだ。真に美しい死にENDは、そういう死に方だと思う。
 「死にENDならなんでも美しい」という観点で作られたもっとも極端な例が、植爺の『外伝 ベルサイユのばら-アラン編-』だと思うし。周囲の人間が「最後まであきらめるな。希望を捨てるな」と言っているのに、肝心の主人公は「もう無理、しんどいのは嫌だ、あとのことは知らない、誰かがなんかしてくれるさ」と言って自殺。それを美談として囃し立てる作品。死ねば正義。みんなどんどん自殺しようぜ!!
 植爺ほどアタマのおかしい死にENDを書く人はまずいないけど、カテゴリ的には『双頭の鷲』も同じになっちゃうのよ。わたしはソレが嫌。

 王妃には明るい未来があったのに、それを投げ出すことにカタルシスを求めていることも、理解しているけれど。本人だけの明るい未来じゃなくて、国の未来がかかっているから、わたしには無責任に思えて残念ポイント。
 や、わたしの好みの話。反対に、「国と国民の未来を投げ出すほどの愛ってステキ!」と萌える人だっていると思うし。ほら、植爺『ベルばら』のスウェーデン国王が「他国の王妃との不倫を貫け!」と臣下に大々的に命令することを「感動」とするように。そんなことしたら戦争になって多くの人が死ぬけど、たったひとりの愛の成就の方が国民の命より大事なんだ!! この狂った展開が感動場面なんだ!! 驚愕するわたしは少数派なんだ! てな風に。
 って、いちいちキチガイ例を出してごめん、でも植爺はわかりやすく狂ってるから、例にしやすくて(笑)。


 と、まあ、完全に好みではなくても好きだし泣けるんだから、すごい作品だとも思っている。
 なにより、このトド様だけでも感謝。
 はー、見られて良かった。

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