あれは1年半ほど前のことでしたか。
 ケツの青い子どもたち、ぷくぷくほっぺとお尻のオンナノコたちががんばってスーツを着て大人ぶる、そーゆーもんだと覚悟して出かける「新人公演」という場において。
 こちらの思い込みを覆すような、見事なおっさんが、そこにおりました。
 ただのおっさんではございませぬ、堂々2番手、色男役。

 等身大の少年だとか子役だとか、あるいは「アイドル系」という便利な言葉で済まされるきれいな青年役、イロモノとしてのじじい役だのヒゲの年配役ならオンナノコたちでも出来ないことはないけれど、「大人の色男」は相当高いハードル。
 まず「男」に見えて、「大人」に見えて、そのうえ「カッコイイ」で、「色気」がある……って、お子ちゃまには難しいですよ!

 きりやんが演じたおっさん色男役を堂々演じたたまきちくん、当時研2。

 研2であの芸達者さ、そしてなにより、おっさん臭さ!

 まったく無名の研2が突然2番手抜擢、堅実な技術で見事に演じきったというのに、誰も「大型新人のキラキラ大スターが現れた!」とは言わない(笑)。
 あまりに堅実におっさんだったので、路線スターとしての抜擢なのか、別格スター候補なのか判断に困るというか。
 なにしろほら、正塚せんせは某新公で研5まっつを突然抜擢、2番手やらせたりしてたし(笑)、あのテのタイプが好きなんだよね、地味な実力派っちゅーか。

 今の子は昔より成長が遅く、昔の研7レベルが、今なら研12くらいにならないと形成されない。
 されど、早熟な子は昔よりさらに早熟な気がする。(脳裏に花組のいまっち氏が浮かんで消えたりな)
 劇団が正しく生徒の適性を判断し、適所で活躍させれば、若い力を武器にすることはできると思うんだ。

 わずか研2の、すばらしいおっさん色男を輩出した月組さん。

 今回もまた、すばらしいおっさん色男がデビューしました。

 新人公演『バラの国の王子』にて。

 商人@輝月くんの、色男ぶりに拍手。

 本役は越リュウ様です。
 ヒロインの父親。
 本公演を観たとき「これって越リュウ2番手ぢゃ……?」と思ったことはナイショですよ、の素敵な比重の役です。
 ぶっちゃけ商人役って、銀橋ソロさえあればいつでも2番手役として認知されると思うのよ、比重的に。王様は出番少ないししどころないし、家臣その1の虎さんも、所詮その他大勢でしかないわけだし。
 ストーリーに絡んでドラマがあって、単体で行動する役。
 番手制度の縛りゆえ、2番手役にすることができなかった役。ヒロインの父親が2番手なんて、キャリエールくらいヅカ的に間違った比重だもの。ヅカだからあえてキャリエールを2番手役にせず『ファントム』を作ったとしたら、2番手役のフィリップはしどころのない役でしかなく、コーラス要因のその他大勢のひとりを狂言回しっぽくして3番手役に、キャリエールは銀橋ソロはおろか歌もろくにない脇の役に落として脇の人が演じます、でもやっぱりストーリー的には重要だから、目立っちゃいます、てな感じ。
 キムシン、がんばって比重いじったんだね、でも成功してないね(笑)。

 脇役扱いだけど、実は相当大きな役、ヒロインの父。
 それを演じたのが、たぶん世間的にまだ無名だよね?の、輝月くん。
 ナチュラルにハンサムなおっさん。新公レベルとはいえ、浮かない演技と姿。だだ漏れる、娘への愛情。ほんとにベル@ゆめちゃんかわいいんだ、かわいくて仕方ないんだこのおとーさん!
 線は細いけど、こんな30男いるよね?てな。

 違和感なくおとーさんでおっさんでハンサムなヒゲ男、彼はまだ、研2。

 ラストの挨拶の際に、さーっと花道の方へ走っていく。上級生ぢゃないの、95期なの(笑)。
 なにも知らずに端っこから生徒さんたちを眺める人は、びっくりしただろうなあ。「えっ、あのおとーさん役の人?! こんな位置なの?!」って。

 みりおくんひとりっ子政策が長年続いたため、若手路線スター育成がかなり滞っている印象の月組だけど、代わりに面白いことになってるなあ。
 おっさん系色男育成なんて、ありがたい話ですよ。
 どっちを見てもアイドル系のぷくぷくオンナノコたちばっかじゃ、芝居が成り立たないもの。男臭い系も必要なんだって。イロモノじゃなく、二枚目の立役が必要なんだって。

 たまきちは若い役をやるといろいろ課題が見えるんだが(笑)、おっさんやると最強だし、輝月くんもこの芸風で突き進んでくれたら将来が楽しみ過ぎる。
 バウとか振り分け見ただけで「ラスボスはさおたさんかふみかか二択じゃんね?」と言われるよーな、素敵なラスボス俳優になってくれるかも! 大人の男で、色気があり二枚目であるというのが必須条件だもの。(例題が花組ばかりで申し訳ない)

 おっさん色男系として期待している鳳月くんが、今回まさかの女役で。
 そして、ふつーにうまいしきれいだし!でうれしい驚きだったけれど、それはさておき男役の彼が見たいわ。

 毎度のケロファンと一緒の観劇だったんだが、食いつくのはやはり、たまきち、鳳月くん、輝月くんですもの。
 でもってこのケロファンはまっつファンでもあるので(笑)、ゆりやくんのこともまったり愛でているのですが……ゆりやくん、大変そうだなあ、いろいろと。

 
 好みのタイプが次々登場してくる、月組新公はたのしいですわほんと。
 新人公演『バラの国の王子』、初主演おめでとーな主演コンビ、ゆうきくんとゆめちゃん。

 野獣@ゆうきくんを見て、この役ほんま出番少ないんやな、と思った。
 主役なのにいつまで経っても出てこないし。
 新公は1度きりの晴れ舞台!という思い込みも強いため、なかなか出てこない主演スターにもったいないことだと思いました。
 
 でもって、本役のきりやんの芝居が演出家のこだわりであることも、よーっくわかった。
 新公の演出もキムシン自身だったわけだが、野獣の喋り方が、一緒。
 きりやんと同じイントネーション、表情の付け方。丸コピ。
 そうか、野獣はこうでなきゃいかんのか……。
 きりやん野獣の、あのちょっと棒読み?な話し方を、ゆうきくんもまんまやってました。
 また、立ち方や歩き方も一緒。あれはキムシンのこだわりなのか……。

 ゆうきくんは身体が大きいので、とっても野獣(笑)な外見。野獣でかっ、と思う、かぶり物の分も含め。きりやさんだと部屋飼いな小型野獣っぽかったけど……って、ひきこもりのシャイボーイ役なわけですけどねー。
 でもやはり、本役さんに合わせた衣装だから、彼個人の魅力を引き立てるデザインではないんだろう。
 ガイジンさんみたいなきりやんの顔だからこそのかぶり物なんだなあ。鼻ペチャ丸顔さんだと、さらにその張りのある若さを強調されちゃうというか。

 ラストの王子様変身時の、ビジュアルの変化はイイですな。あ、王子様だ!と、わかりやすく納得できる。
 かぶり物を取り、ゆうきくん自身の姿になったときには、もっとゆうきくん自身の喋り方で、演じ方で、見たかったな。野獣のときはきりやんまんまでも、かぶり物が同じであるように「型」としてアリだと思うけど、それから解き放たれたときはもっとオリジナルな魅力が見たい。
 と、思ったんだけど、これはゆうきくんの問題ではなく、コピー芝居をさせたキムシンの問題かな。自分の作品にこだわり過ぎだよ、もっと生徒に合った演出にしてあげてよ。

 
 でもってヒロインのベル@ゆめちゃん。
 早熟タイプといえば、彼女もそうだ。94期で研3。しかも中卒。文化祭でヒロインを演じたときからすでに安定した実力を見せていた。
 だから新公初ヒロインとはいえ、実力に不足はない、不安はない。

 でもって。

 この物語って、ベルが主役だよね?

 どうあがいても、もともとの話が。
 女主人公モノで、野獣はその相手役、脇役だよね?

 本公演はきりやんが実力で主役を張っていたけれど、新公になるとそうもいかない、もともとの骨組みが出てしまう。
 なんか、見ていてぽかーんなくらい、女の子が主人公の物語でした。
 ヅカなのに、娘役が主役……てゆーか野獣出て来ねえ……。

 もともと『バラの国の王子』は『オグリ!』と同じ手法で作られた作品で。
 お伽話調で歌と朗読で話が進み、物語を動かす、がんばるのはヒロイン。男主役はナニもしない。
 それでも男主役が主役として成り立つのは、彼に華とハッタリ力があるからだ。
 真ん中にどーん!と踏ん張り、なにをするでもないのに衆目を集め、「彼こそが主役」と納得させてしまう。

 しかし新人公演だからなあ。
 この脚本演出で、野獣主役に見せろっつーのは、酷な話だ。

 てことで、ベル主人公として観てしまいました。
 ゆめちゃんうまいもん、押し出しいいもん。

 彼女に必要なのは、化粧力。

 顔ちっさいし、スタイルのバランスもいい。
 顔立ち自体は端正。
 なのに何故こんなにビジュアルの欠点が目立つんだー。
 晩年の渚あきちゃんや舞風りらちゃんを彷彿とする……って、ゆめちゃん中卒の研3だよ、そんな年齢で何故そんなに老け……ゲフンゲフン、大人な外見なんだ。
 星組の同期、わかばちゃんといい、美形さんは老けやすいのかなあ。目が大きいとシワが出やすいとか聞くもんなあ。

 
 タカラヅカは男役主役でナンボだな、と改めて思いました。
 とくにこの『バラの国の王子』はお伽話調というか、ファミリーミュージカルっぽい作りなので、女の子が主人公で舞台が進むと、なんかタカラヅカを観ている気がしないというか。
 外部のお芝居観てるみたいだった……。お子ちゃまターゲットなので、あえて女の子たちばかりで演じている感じ(バリトンな男性たちが大勢いると子どもたちがこわがるので)。
 ゆりやくんが殻を破るには、ナニが必要なんだろう、と新人公演『バラの国の王子』を見ながら思った。

 早くからそれなりの役付を得てきたゆりやくんだが、長の期になっても主演できず。
 これで何回目?の2番手役。

 今回の王様役はしどころのない役だから、これで世界をひっくり返せというのは酷だけれど、それにしても頭打ち感があるというか。
 せっかくの甘い美形くんなんだもの、羽ばたいてほしいんだけどなあ。

 王様役はもともと裸の王様な役、ただのお人形で人格が見えない役ではあるんだけど、新公はさらにひどい演出なの。

 家来が、いない。

 ちょっと演出家、ここへ坐りなさい(笑)。
 このオモシロ演出はなんなの。

 王様は「王様」という設定があるだけで、家来ナシ。唯一アンリ@からんくんがいるのみ。
 どこへ行くにもひとりぼっち。えらそーにしていても、ひとりぼっち。
 ナニこのぼっち星人。
 いるのはママ@みくちゃんと、悪役顔(こいつきっと裏切るわ!、の)アンリのみって。
 どう見ても、彼がやっているのは「王様ごっこ」。
 国なんかなくて、ママの魔法で自分を王様だと思い込んだ可哀想なオトコノコなんじゃないの?
 てな、素敵演出。

 このまま家来ナシで行くのかと思ったわ(笑)。

 一方、野獣@ゆうきくんには、家来いっぱい。
 本公演と同じ?ってくらい、たくさんうぞーむぞーのコーラス隊。
 ぼっちの王様と、舞台いっぱい家来の野獣。
 ナニこれ。

 後半、野獣の城へ攻め込むぞーってなときになってはじめて兵士たちが登場したけど、あれって、ベルの村人たちやん! 兵士ちゃうやん!
 ベル@ゆめちゃんの取り巻きたち。ベルに振られた腹いせで、ベルを捕らえた?みたいな。
 つーかこの村人たち以外全員野獣コーラス隊なのよね。王様側には人員割いてないの。

 そりゃ、ただ軍服着て立っているだけの兵士役より、歌って踊る野獣コーラス隊に配役した方が、その生徒のためにはなる。新公はお勉強の場だから、その配役は正しい。
 が。

 あまりに極端すぎて……愉快なことに。

 王様は完璧にひとりぼっちのカンチガイ男。
 ちょっとアレな母の歪んだ夢の中で操られ、自分を王様だと思い込んでいる可哀想な人。実際にはもちろん彼は王様でもなんでもないのよ。
 村人動員して野獣の城へ押し入るんだけど、人数少なすぎて、勝てる気がしない以前に、痛々しい。
 何十人の敵の中へ、数人で押し入るんだよ? 画面的に、ちっとも野獣の危機じゃない。王様のカンチガイぶりの方が「大丈夫?!」な感じ。

 そうやって目に映るものと、脚本上の「野獣ピンチ!」な展開が、どう受け止めたらいいのか混乱する。
 あれっぽっちの人数の村人(しかも半数は男装した女の子)、コーラス隊で十分ボコれるっしょ。虎@たまきちひとりでも如意棒振り回したら一掃できそうだ。(彼は孫悟空ではありません)

 この愉快展開は、わざとですか、キムシン?
 ゆりやくんのあの脱力系な持ち味と、この裸の王様役が素敵にマッチ、妙な説得力。
 本役さんの持つ毒や歪みがなく、ただただヘタレな王様なんだもん。

 
 でもって最後に駄目押しの愉快さが。
 年度替わりの新公なので、研7の90期はすでに出演しておらず、今回91期が長を務めている。
 でもって、91期の長はゆりやくん。
 時の流れは速い、もうゆりやくんが長の挨拶しちゃうんだ!とびっくりしたのも束の間。

 この、長の挨拶をするゆりやくんが、もお(笑)。
 テンパっちゃって大変。
 話はぐだぐだで半べそで、いつまでたってもマイクを離さない。
 いやその、長の挨拶は簡潔に、感動的な挨拶は公演の主役に任せようよ。
 まるでゆりやくんが初主演をしたかのような、テンパり方。

 ……がんばったんだね。
 長の期になり、そのなかでも組内首席で、下級生をまとめていかなきゃならなくて。
 すごーくすごーくがんばったんだろう。
 自分のことだけでも大変だろうに、それでも新公の長として、すっごくがんばったんだ。
 それで、無事に幕が下りて、たがが外れちゃったんだね。
 もーナニがなんだか、って感じに喋り続けるゆりやくんに、トホホはトホホなんだけど、やっぱりこの子好きだなと思う。

 ゆりやくんの新公主演、見てみたいんだけどなあ。
 ダメかなあ。
 文化祭で王子様を演じた、あのときのキラメキを思うと、殻を破ることが出来れば、化けられるんじゃ……?とか、思っちゃうんだけどなあ。

 で。
 そのダメっこ炸裂の挨拶をしているゆりやくんを、後ろでまんちゃんが見守っている姿に萌えたんですが。
 ゆりやくんが笑ったときに、まんちゃんも一緒にイイ顔で笑って。
 同期萌えは基本装備です、ええ。 

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