『黒い瞳』の主人公、ニコライ@キム。

 この物語は、彼の成長物語でもある。
 ひとりの少年が、揺れる歴史の中で恋をし、友情を貫き、大人の男となる。

 ラストシーン、愛する少女マーシャ@みみちゃんと踊るニコライを見ると、涙が止まらない。

「叫ぶ声、流す血も、ぼくはもう見たくはない」……血を吐くようにそう訴える青年。
 勝ち戦、敵の死体が累々と続く戦場で、絶望に顔をゆがめる青年。

 戦うこと、傷つけることをこれほどおそれ、嫌悪するこの若者は。

 それでも、また、武器を取るだろう。
 もしもまた、愛する者が危険にさらされたならば。
 マーシャや、ふたりの子どもたちを害する者があるならば、彼らが生きるロシア帝国を害する者があるならば。
 愛する妻に、家族に「行かないで」と泣かれても、剣を取り、戦列に加わるだろう。

 彼自身がどれほど傷ついても。

 ニコライは、そういう子だ。
 そういう、男だ。

 
 それまでは、ハッピーエンドまでしか感じていなかったんだ。
 梅芸楽のニコライがすごく好きで。
 ピュアな少年ぶりがすごくて、愛情過多で。
 マジ泣きしながら「マーシャ~~っ!!」と上手袖へ駆け込んでいく姿に、一緒になって泣いた。

 ラスト、雪のベロゴールスクで「あなたは貴族、私はコサック……」と、結ばれてはいけないのだとうなだれるマーシャをたしなめるニコライ。「そんなことのために、どれほど多くの命が」と。

 貴族の彼がコサックの少女を愛するように、他のみんな、ひとりひとりが身分とか国とか民族とか、そんな壁を越えて誰かを愛すれば、いつかそんな壁はなくなる。
 ただ、目の前の人を愛する。偏見とか差別とかを捨てて。大切な人を、大切だと言う。
 それがいつか、世界を革命する。

 そこまでで、びーびー泣いてハッピーエンド感に酔っていた。
 だけど『黒い瞳』千秋楽。
 念願の下手からの視界と、キムくんの芝居の到達っぷりに、さらにその向こうまで考えた。

 戦いの虚しさを説くこの青年は、それでもまた、剣を取るだろう、と。
 なにもかもわかっていて、間違いは間違いだとわかっていても、絶望しながらでも泣きながらでも、それでもまた、戦うのだろう。

「戦いは虚しい。人殺しはよくない」と、軍を辞めて農民になったりしない。
 女帝陛下の士官として、変わらずに従軍するだろう。務めを果たすだろう。

 それがいいとか悪いとかではなくて。
 ああ、そうなんだ、と思った。

 
 そして。
 そんなニコライを、心から愛しいと思った。

 
 てことで、『黒い瞳』のニコライくんの愛と涙、光と闇をつらつら考える。
 まあぶっちゃけ、どんだけニコライが好きか、語りたいだけなんですけどね(笑)。

 地方貴族のおぼっちゃまで、大都会での生活に憧れる、ごくふつーの男の子。
 両親から、使用人たちから、愛情をいっぱい注がれて育ったんだろう。お金も愛も最初から「ある」のが当たり前のもの、それを求めて殺し合う人々がいるなんて想像したこともないだろう、精神的にも物質的にも裕福に育った青年。

 だから彼はいつもまっすぐで。
 澱みのない、きれいな瞳をしていて。
 真っ白な笑顔で相手を見つめる。

 最初の吹雪での立ち往生場面にしろ、ニコライは決して他人を責めなかった。
 従僕のサヴェーリィチ@ヒロさんを責めたって不思議じゃない、「お前がしっかり道案内しないから」とか、彼が主なんだから、主の身の安全を守れなかった従僕を叱っても責めてもいいはず。
 不運に対して悪態はつくけれど、責任転嫁はしない。甘ったれのぼうやだけど、ほんとうに育ちの良い子なんだ。
 ぎゃーぎゃーうるさいサヴェーリィチに文句を言いつつ、「お前の方が先に死ぬぞ」とか、応戦しつつも結局じいやを心配しているニコライを好きだなーと思う。

 とびきり子どもっぽい話し方なのに、そこに誠実さや純粋さを表現する、キムくんに舌を巻く場面でもある(笑)。

 雪の中で出会った不審な男プガチョフ@まっつに対しても、なんの警戒心も持たない。
 信用できない、と最初から敵愾心剥き出しのサヴェーリィチの横で、なんときれいな笑顔をプガチョフに向けることか。

 プガチョフはたぶん、それまでさんざん疑われ、迫害されてきていると思う。
 サヴェーリィチが特別なわけじゃない、「薄汚いコサック」であるところの彼は、どこへ行ってもサヴェーリィチのような人に理由もなく罵られ、虐げられてきた。
 親切にしてやっているだけなのに、一方的に暴言を浴びせられ、攻撃される。それでもプガチョフはそれをなんとも思っていない……それが当たり前、ふつうなんだ。

 通りすがりの貴族様の為に平伏し身を削って仕えて当然、見返りなどあるはずがない、気晴らしに斬り殺されなかっただけ感謝しろ、って感じだよね、サヴェーリィチの言動からすると。
 それくらい、一方的な立場なのに。
 ニコライはプガチョフにきれいな笑顔を見せる。

 もらった毛皮の外套を抱きしめて、プガチョフが「その気持ちがうれしい」と言うのは、本心だろう。
 物質だけの話じゃない。ニコライの誠実さや思いやりに感動したんだと思う。

 吹雪の中、最初に目線を合わせたその瞬間から、プガチョフはニコライを愛していたと思う(笑)。
「俺を信じるか信じないかは、お前さんたちの勝手だ」と悪ぶって言ったときに、まっすぐに目を見て微笑まれ、「頼むぞ」と言われて。
 あの瞬間、絶対きゅんっとしてる、プガ様。

 プガチョフが知らない瞳。
 知らない……得られなかった、与えられなかった、そんな瞳。そんな笑顔。

 それを惜しげもなく、与えられて。

 「ここまで案内してもらってうれしかった」……素直な言葉で礼を言われて。

 信頼と、感謝。
 人間が他人に対して見せる、尊いモノ、美しいモノ。
 それを相手の身分に関係なく、素直に純粋に表現できる、ニコライという青年の美しさ。

 そういった目に見えないモノだけでも十分、プガチョフはニコライにめろめろだったろうし、彼に感謝しただろう。
 でも、その上ニコライは、物質的なことでも礼をする。
 一杯の酒と毛皮の外套。
 酒はプガチョフから求められたからだけど、外套は、プガチョフの格好を見て、なんの気負いもなく思いやった結果だろう。
 報酬をお金で払うのではない。
 寒そうだ、だから暖かくしてやりたい。そんな、人として当たり前のやさしい気持ち。

 そこで高価な毛皮をぽんっと見知らぬ男へやってしまうのはニコライのおぼっちゃまさ、世間知らずさを表しているわけだけど、なんとも微笑ましい。
 ああ、いい子だ……そう思う。

 しかも外套は、今自分が着ているモノを脱いで渡すんだから、ニコライすげえ。
 外套を抱きしめるプガチョフは、ニコライの体温を抱きしめているわけですよ。脱いだほやほやですから、彼のぬくもりが残ってますってば。
 完璧なまでの、人タラシぶり。
 ニコライくん、今までもさんざんこーやって、男女問わずオトしてきてんぢゃないの……あの甘い美貌で「ニコッ」とやってさー。

 現にプガ様、絶対オトされてるしっ(笑)。

 
 続く。

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