わたしは、ベニーの年齢を知らないのだ。

 そう、はじめて思った。
 星組ドラマシティ公演『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』を観て。

 ベニー、と勝手に呼んでいる、星組2番手スターの紅ゆずるさん。
 しいちゃんへのお花で名前を知り、『それでも船は行く』で舞台姿を知り、そっから先はまったり愛でて来た、長いおつきあいのスターさん。
 『それ船』が2005年だから、もう10年か。

 …………10年か。10年なのか……そうか、そんなに経つのか…………。
 や、マジ意識してなかった。年を取ると「それって去年だよね?」「ナニ言ってんの、5年以上前だよ!」なんてことが日常茶飯事、時間の感覚がおかしいのです。昨日食べたモノは思い出せないのに、10年前のことがつい昨日のことのように思い出せる、年寄りってのは不自由な生き物なのです。

 もう10年経つというのに、わたしは紅ゆずるさんの年齢を、知らなかった。考えたことがなかった。

 実年齢のことじゃないよ?
 紅ゆずるさんの中の人の年齢ではなくて、タカラジェンヌ・ベニーさんの年齢。
 っていうか、ジェンヌはフェアリーです、年齢なんてありません、だからこの場合の「年齢」ってのは、「舞台年齢」。学年でもなく、舞台の上での、キャラクタとしての年齢。

 タカラヅカはスター制度の劇団だ。
 お芝居を上演するけれど、芝居のタイトルで客を呼ぶのではなく、スターの名前で集客する。
 「この作品を上演するため」にオーディションで集めたメンバーで公演するわけじゃない。このスターで、この組で、「次は、この作品を上演します」であって、まずスターありきだ。
 スターは、役になりきって自分を殺してしまうのではなく、「このスターが演じるこの役」を見せるのが仕事。

 だもんで、スターには個々、芸風やら持ち味やら、得意分野がある。
 舞台上の役割に、年齢がある。

 少年役が得意なスター、おっさん役が得意なスター、女性も演じられる、中性的なスター……。

 決めつけるわけではないが、なんとなくの持ち味として、タイプ分けをしてしまう。

 が、どんなスターでも絶対に得意というか、出来なきゃ困るのが「青年」役で、王子様から海賊まで、幅広くいろんなタイプの美青年を演じてこそのタカラヅカスタァ。
 そして、トップ路線のスターは大抵いつもこの「青年」役を演じている。
 多少年齢を上下に振られたとしても、「ヒロインの恋愛対象たり得る、恋愛適齢期の男性」役である。
 それは、路線スターとして真ん中を歩く人ほど、振られる役のタイプが似通ってくる。善人とか悪人とか、主人公の親友とか恋敵とか、立ち位置は違うにしろ、基本イケメンばかり。
 少年寄りの若者であろうと、ヒゲのダンディであろうと、恋愛現役の美青年様。同じカテゴリの役ばかりやるのが、ザ・路線スター。

 だから、考えなかったのも、仕方ない部分はあるのかもしれない。

 わたしは、ベニーの「舞台年齢」を、考えたことがなかった。

 舞台の上の彼は、いくつに見えるのか?
 彼が得意とする年代は、どれくらいなのか?

 てなわけで、ベニー主演で『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』をやる、と知ったときも、ふつーにわくわくした。楽しい舞台になるだろうと。
 パイロットとかドクターとか、コスプレ七変化はビジュアル美麗なベニーさんでなら、とても目の保養になるだろうと。
 なんの疑問もなく。

 『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』が、どういう物語かは、知っている。
 映画を見た。
 このブログにも、感想を書いている。……昔は映画感想も書いてたんだな(笑)。

 もうそれなりにいい年なのに、高校生役だと聞いてなんの違和感もなく「アリだなー(笑)」と思わせてしまうディカプリオ様の主演。
 ディカプリオは本当に若いうちは良かったけど、それなりの大人になったのに顔立ちだけが幼いままで、肌の質感や体格は若くないのに顔だけ少年、というなかなか難しい素材になっていて……たぶん、それゆえ役者として回り道もしたろうけど、それを逆手に取っての高校生役で、これはもう、彼のためにある役であり、作品だなと、よろこんで見に行った記憶がある。

 で、映画は面白かった。
 ちょっとダレる部分もあったけど、ウケたり萌えたりじーんとしたりしつつ、見ることが出来た。

 ミュージカル版は知らないけれど、ストーリーもキャラも知ってる。
 主人公は大人のふりをして詐欺しまくっちゃう、トンデモ高校生でしょ?
 パイロットとかお医者さんとかに化けて違和感ナイ、「大人」に見える高校生なのよね。

 ベニーもよく知っている。
 原作映画も知っている。

 なのに。

 実際に観劇して、驚いたんだ。

 ベニー、高校生に見えないっ!!

 主人公は「大人」に見える高校生……つまり、「高校生」なの。「大人」である前に、大前提として、高校生なの!
 高校生に見えないと、はじまらないの!

 びっくりした……。
 ベニー、って、高校生、無理な人だったんだー……。

 え、でも、ベニーって若い、よね?
 舞台の上で。キャラとして。
 若くてこう、ヘラっとかチャラっとかしているにーちゃん、よね? サービス精神旺盛な気のいいにーちゃん。
 そりゃ最近、大人の役……おっさん役もやってるけど、別に似合ってなかったし、本質は若者役が得意な人、スターらしいイケメンが持ち味なんだろうなと、考えるまでもなく、思っていた。

 若者役がど真ん中なキャラなら、ちょいがんばれば、高校生役くらい、出来るっしょ?
 普段が25歳としても、18ぐらいには、化けれるよね? ジェンヌさん、みんな若い役得意だし。老け役よりも若者の方が、等身大の自分自身で演じられるわけだし。
 ベニーだってバトラー船長やアラルコンが無理でも、等身大の高校生キャラなら楽勝よね……と。
 思い込んでました。


 そうか……。
 高校生、無理なのか……。


 じゃあベニー、いくつなんだろう。
 おっさんも違って、高校生も違う。
 テレビドラマの主役枠年齢、かな……? モラトリアム青年あたりの……?

 こんだけ長くベニーを眺めてきながら、彼の年齢を考えたことなかったよ。
 10年前なら高校生OKでも、今は無理、だって大人になったから? それはアリっちゅーか、ありがちなことだけども。
 ベニーは若い持ち味だから、今でもぜんぜんOKだと思っていたよ。

 真ん中を進むのなら、30歳前後の青年のみが得意であっても、なんら問題はない。タカラヅカ作品のヒーローは、それくらいの年齢だからだ。高校生が出来なくてもかまわない。

 だからそれはいいんだ。

 ただ、わたしが個人的に、驚いたんだ。
 そうかわたし、ベニーの年齢知らないんだ、と。
 こんなに長く眺めて来て……長くってどれくらい……え、もう10年かよ! という思考展開っす。

 年齢を知らないというか。
 ベニーって、年齢なくないか?

 舞台上の彼がいくつなのかわからない……年齢とかいうモノが、ない、ように見える。
 ベニーはただ、ベニーであるというか。

 そして、改めて思う。


 ベニー、妖精さんだな。

 年齢がナイ。
 それってすごくタカラジェンヌ。

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