年を取ると、集中力が続かなくなる。
 わたしももう若くないので、そーゆー意味でも一本モノはつらいのだろう。

 名場面「夜のボート」で、こまったことに集中力の限界が来ていたようだ。なんかぼーっと眺めていた。台詞も歌も全部知ってるから、眺めるだけでも物語に置いて行かれることはない。その安心感もあってつい、油断してしまうんだろう。
 あとになって友人たちと話したところ、ここで寝ていた人もいたので、ちょうど集中力が切れる場所なのかもしれない。

 おぼえているのは、「きりやん、顔が埋まってる……」と思ったことぐらいだ。
 衣装と帽子と容赦ないぶ厚いヒゲで、きりやさんの顔は見えている部分がとても少ない、カラダの小ささと相俟って、きりやんの「見えている部分」の少なさを感慨深く眺めた。

 
 アタマがすっきり動き出したのは、そのあとの「最終答弁」だ。

 若い悪役顔のフランツ@きりやんキターー!!

 悪い。
 このフランツ、悪いデスヨー!! 黒いデスヨー!!

 フランツに対して感じていた「この男、根っこのトコで同情できないってゆーか、けっこーヤな奴じゃね?」という思いが、カタチになって現れる!
 エリザベート@カチャの愛をめぐってトート@あさこちゃんと対立する場面で、フランツってば傲慢さ剥き出し。

 うわっ、ヤな奴こいつ。
 妻をトロフィーとしか思ってなかった歪んだ男が、ナニいい気になって宣言してんのよ。

 悪人フランツが、ツボ過ぎる。うきゃ~~、このフランツ好き。

 一方、トート閣下は。
 悪人に虐められ、旗色が悪くなる可哀想な人。

 ずっと厭世的で寂しげだったトート。シシィを欲しがっているふりをしていたけど、ふりでしかなくて、別に愛していたわけじゃない。
 だけど「シシィから愛されていない」と断言されたら、長い年月費やしてきたプレイ時間が無駄になる。
 しかも、拒絶される理由が「黄泉の帝王だから」って、それって職業差別(笑)じゃん? トート自身を嫌いなら仕方ないけど、「エリートのオレの妻が、フリーターなんか相手にするわけナイだろ」と鼻で笑われてしまったら、がーんとなるわな。

 フランツ悪い奴! トート可哀想!

 ……と、心から思えるこのキャラクタ設定に、大喜び(笑)。
 

 さて、「狂気」をわかりやすく全開に出来る最後の暗殺場面での、ルキーニ@まさき。

 まさきくんは基本「強い」人なので、「狂気」を出すのは苦手なのかもしれないと思った。
 彼が自然に持つのは「毒」であり、黒いモノはふつーに持っているけれど、それらは「狂気」ではないんだな。
 彼の最大の才能、「自己愛を起点とするスター力」は、強い自己肯定によって沸き上がるので、自己否定に走ることで創り出しやすい狂気というものが、結果苦手になるのかなと。
 
 そして、「タカラヅカ」の真ん中を目指すのならば、それは正しい資質だと思う。
 「狂気」を得意とするのは、脇の職人さんに任せた方がいいんですよ、ほんとのところ。
 そっちに行き過ぎると、一般観客に拒絶反応が出るから。
 演技力に重きを置く人には認められ誉められるだろーけど、その分真ん中コース向きではないってことになるから。
 まさきの場合、ただでさえ「毒」が強いので万人に愛されるキャラぢゃないんだから。「アク」ではなく、「毒」ね。アクは強くないよな、まさき。

 ルキーニには「狂気」が必要ってよく言われるけど、初演のトド以外でいわゆる「狂気」を感じたことのあるルキーニはいないです、個人的には。
 だからわたしには、世間で言うところのルキーニに求められる「狂気」ってのがよくわかっていない。7人のうちひとりしかやらなかったことは別に、スタンダードでもなんでもないよねえ。最初だったから、それが必須になってしまったのか?
 
 ルキーニは『エリザベート』という作品のカラーを決める役だと思う。
 だがソレは、ルキーニひとりで決まるのではなく、まずカラーがあり、それに即したルキーニが在る。
 今回の月組2回目の『エリザベート』のカラーには、まさおルキーニが正しいのだろう。
 トドルキーニは、あの初演だからこそ成り立ったルキーニだ。他組の他『エリザベート』に相応しい男じゃない。

 規定演技をそつなくこなすまさおルキーニは、この『エリザベート』を端的に表している。
 全体的に薄いというか、「今までの『エリザベート』を踏襲して作りました」的というか。他はともかくトップスターがかっこいいからそれでいいじゃん的というか。
 なにより、あさこトートに似合ったルキーニだと思う。
 や、もしもマギーがルキーニだったら、と考えて、すげーハマるしうまいだろうけど、あさこトートを中心にした舞台では見たくないと思ってしまった。や、まさきにもマギーにも含みはないが。

 
 と、だらだら語りつつ、あと1回続く。

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