花組『虞美人』に囚われているうちに日々は過ぎ。書くべきことがたまっていくよどうしよう。『虞美人』まだ語り足りてないんだけど(ヲイ)、月組新公の日付までにせめてさわりだけでも触れなくては。
 

 『スカーレット・ピンパーネル』は、とても思い出深い作品だ。
 いや、作品以前に、思い出深い「公演」だ。

 鳴り物入りの海外ミュージカルだが、知名度はイマイチ。
 最初は英語表記だったタイトルがいつの間にかカタカナ表記になっていたり、劇団も「売り方」を試行錯誤していた印象。
 大昔、『エリザベート』初演はどうだったんだろう? 当時は今ほどネットが発達していなかったし、未知の海外ミュージカルに対してヅカファンがどう反応していたのか、よくわからない。

 とりあえず初演『スカピン』は、「鳴り物入りの海外ミュージカル」だと宣伝されているわりに、一般客の反応は鈍かった。チケット発売後にアフタートークが発表されるほどに。

 だけど、なにしろ「鳴り物入りの海外ミュージカル」だ。一般客はともかく、一部の人々には熱い注目を受けていた、のだろう。

 初演初日の、あの劇場内の空気。
 ナニあの緊迫感。

 初日好きで、各組大劇場公演初日を観に行っているけれど、ちょっとナイような、異様な緊迫感があった。
 いちばん近いのは、あさこシシィ@『エリザベート』初日かなあ。あの緊張感はすごかった(笑)。みんな手に汗握ってるんだもん。

 でも作品のわかっている『エリザベート』を、男役のあさこちゃんがどう演じるのかで固唾をのんでいたあの空気とも、やっぱり違っていたと思う。

 『スカピン』初演初日は、やっぱり異様だった。

 そして、幕が上がり、「マダム・ギロチン」の歌声が響いた瞬間の、空気。

 チガウ。
 なんか、チガウ。いつもの、じゃない。なにをもって「いつもの」とするか、それは言葉にはできないんだが。
 感覚でしかないんだが、肌があわだつ気がした。ぞわぞわと。

 あたし今、すごいモノを観ている?!

 という、実感と驚き。目の前の現実と、その現実を目の当たりにしている感動と、不信感(笑)。素直に感動できなくなってるらしいよ、このスレたおばさんは(笑)。

 『スカピン』がどんだけ名作なのかはわからない。冷静に考えればツッコミどころは満載だし、繰り返し観ると粗も気になるし。
 だけど初見ではそんなもんに足を取られることはなかった。それよりも、すごい! ということが感覚を締める。
 理性とか知性とかの理屈部分ではなく、感情とか本能とかの感覚部分が歓声を上げているの。

 で、1幕が終わり、幕間ですでにわたし、「ずるい」って嘆いていたし。
 わたし、つい数日前までこの同じ劇場で『愛と死のアラビア』観てたんですが? 同じカンパニーで同じ劇場で同じ価格で、なんなのこの差! 『愛と死のアラビア』なんぞを10何回観たあたしってナニ?! あたしが可哀想! そう嘆いて、同行のトウコファンに生暖かい目で笑われたっけ(笑)。

 舞台の熱さ。
 演じている側だって、まだ手探り。観客の反応、どう受け入れられるかなんてわかっちゃいない。海外で名作だからって、タカラヅカで名作かはまた別の話。そんなの今までのいろーんな作品でわかっている。
 それでも、舞台と客席で、じわじわと浸食しあっている。双方向に関与しあっている。

 今、すごいことが起こっている。

 それを、肌で感じる感動。
 幕が下りたときの熱狂。
 ひとの感じ方も価値観も人の数だけある。同じなんてことはありえない。だが、そんななかで比較的多数に共通する価値観はあるだろう。『スカーレット・ピンパーネル』はそこに響く力を持っていた。
 多くの人の共通のナニか。
 そこを突かれ、同じ空気を共有した人たちの、爆発的な興奮。

「おもしろかった!」
 素直な声があちこちで上がり、興奮が興奮を呼ぶ。
 誰もがくわくできる冒険活劇。勧善懲悪、単純明快。

 初日だし、出演者のファン、組のファン、宝塚歌劇のファンが多く足を運んでいたと思う。
 その人たちが、胸を張って喜べる、誇りを持って好きだと言える、そんな作品である、という感動。

 わたしは小市民で、好きなモノに対し懐疑的というか悲観的というか、いじりながらオトシながら愛でる癖がある。手放しで「素晴らしい!」と言うより、「ごめんなさい、わたしは好きです」という方が性に合っているというか。
 そんなわたしでも、胸を張って言える、「『スカーレット・ピンパーネル』は面白い」。
 タカラヅカを観たことがない、でもちょっと興味あるな、なんて人に「今やってる『スカーレット・ピンパーネル』はオススメですよ」と堂々と言える。

 そんな作品に出会えたこと、それが今生まれ、そのことの感動に劇場中で酔えるという幸福。

 
 ほんっとに、初演『スカピン』は特別だったんだ。初日のあの空気。
 劇場中の空気が動く、温度が変わる快感って、ハンパないね。
 退団公演とか、キャストの去就絡みで空気が動くことはめずらしくないっちゅーか、ソレがタカラヅカの売りのひとつだと思っているけど、そーゆーのとは無関係に、「この作品すげえ!」で空気がどーんと爆発するのは、わたしのヅカヲタ人生でも稀有なことだ。

 そんだけすごい作品だっつーに、客足にはあまり反応しないようで。
 純粋に、不思議だった。
 この作品で、このクオリティで客が入らないのは何故だ。どんだけ良い作品でも、一般の支持を得られないということか?
 「タカラヅカ」って、ほんとうに斜陽なんだ、やばいんだ、と思った。

 ところが『スカーレット・ピンパーネル』は東宝公演でまさかの大ブレイク。一気に人気公演・人気演目となった、らしい。えええ。

 それってつまり、「知名度」なのかな。
 『スカピン』はやっぱ、一般人にとって無名作品だった。面白いかどうかなんてわからない。
 不景気は深刻で、もう誰も博打はしない。「面白い」とわかったモノにしか、お金は使わない。
 ムラの1ヶ月半は宣伝期間、それらが浸透して東宝公演にて「良いモノは良い」と正しい評価を受けたってことなのか。

 
 初演初日の、忘れられない経験。
 今後、あんな経験を出来るのはいつなのか、見当もつかない(笑)。未知の新作で、その後ブレイクするだけの良作を、実力のあるキャストで上演する、その初日に劇場にいる可能性って、どんだけ低いんだ。

 まあそんなこんなで、初演『スカーレット・ピンパーネル』という公演には、思い入れがありすぎる。
 トウコと星組が好きで、地味にリピートしていた。その印象が強烈すぎて、まずはそれゆえの混乱が生じる、再演月組『スカーレット・ピンパーネル』を愉しむにあたって。

 ……てなことを時系列に書いていきたかったのに、書いている余力がなかった。
 月組初日は思い出がオーバーラップしまくりで大変だったが、次に観たときはそれもなく愉しめて、さらに新公となるともお……(笑)。

 やっぱ好きだ、『スカーレット・ピンパーネル』。

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