ティボルトは、ベンヴォーリオと話すべきだと思うんだ。

 千秋楽は終わりましたが、まだまだ『ロミオとジュリエット』の話です。
 てゆーかまだぜんぜん書き切れていない(笑)。

 以前どっかでちらりと書いたけど。
 ティボルトとベンヴォーリオについて、改めて。

 『ロミジュリ』でいちばん好きなキャラクタは、実はティボルト@ヲヅキだ。
 わたしはまっつファンなので、ベン様No.1なのは揺るがないけれど、純粋にキャラクタだけで見れば、ティボルトが興味深い。

 あくまでも、ヲヅキ氏の演じている、今のティボルトが。

 雪組の『ロミオとジュリエット』は、再演であるせいか、脚本本来のキャラクタと違っている気がする。脚本まんまではなく、初演と変えているというか。
 ベンヴォーリオがちっとも粗忽者に見えないこともそうだし、ティボルトだってすぐにキレる危ない男ではないし、「15のときから女をとっかえひっかえ」でもないだろう。

 ティボルトは生真面目で武骨。
 体育会系の、冗談が通じない人。
 彼がキレやすいのは、真面目すぎるから。笑いの許容量が少なく、ふつーの人が笑って流せるところにもいちいち大真面目に引っかかる。
 戦国武将とか柔道部とか応援団とか、硬派系の集団にいそうなタイプ。つか上司がこのタイプだったら嫌だ、うざそう(笑)。
 女を知るのも早かったし、経験が少なくないのは事実だけど、チャラいのではなく、飢えからくる代償行為。不埒な遊びはしない。ある意味潔癖性。

 ほんとうなら真面目で誠実な人なのに、憎しみに汚れ歪んでしまった。自分が間違っていること、世の中が間違っていることを誰より先に気づき、苦悩している。
 闇から抜け出せないことが、彼をキレやすくしている。
 そうやってはけ口を作らないと、パンクしてしまうから。

 「誰も止められない」と歌い、手にしたナイフを見つめる哀しさ。
 自分の苦しみの根元であるモノにすがるしかない、絶望。

 この生真面目で自分にも世の中にも逃げ場を作れない・赦してやれない不器用な男が、どれほどの渇望でジュリエットを求めていたか。
 ジュリエットの前でだけは、「ドラゴンをやっつけるヒーロー」のままでいられたんだろう。
 子どもの頃の、汚れる前の自分で。

 もともと余裕のないぎりぎりのところで生きている男だから、ジュリエットを失えば精神の均衡を崩す。
 チャラ男がキレるより、真面目人間がキレる方がこわいんだってば。
 義務のために家族のために耐えに耐え何十年こつこつサラリーマンやってきた男がリストラされてブチキレたらこわい、一気に犯罪突っ走りますよしかも鬱憤たまってる分無差別殺人やっちゃいますよてなもんで。

 ティボルトのキレ方はリアルな分、救いがない。

 また、ティボルトに感情移入して、彼目線でこの物語を生きていると。

 マーキューシオ、ウザすぎ(笑)。

 冗談通じない真面目人間からすりゃ、マーキューシオ@ちぎのヘラヘラ茶々入れはカッチーンとくる。
 特に「決闘」場面なんかもお。
 空気読めよ、ティボルト今マジで機嫌悪いじゃん、このタイミングでつまんないこと言うなっつの。

 ティボルトが憎み、殺したいと思っているのはジュリエットを奪ったロミオ@キムだ。だが実際に殺されたのはロミオではなく、マーキューシオ。
 それも当然、日頃からマーキューシオがウザすぎるんだ、ティボルトにとって。

 ロミオはジュリエットのことがなければ眼中にない。しかし、マーさんのことは日頃から大嫌い。
 ロミオを殺すと決めた、今ある世界をすべて壊し、自分自身すら捨てるつもりのティボルトにすりゃ、まずマーキューシオを殺すのは必然。だってこいつ、ウザいんだもん。
 ヒーローに憧れていた少年は、はじめて殺人を犯したのに悪びれることなく仲間たちと祝杯をあげている。ティボルトという真面目な人間が取るリアクションとは思えない。つまりそれくらい、彼はすでに壊れている。
 闇に、堕ちている。

 そのさまが苛酷に哀れで。

 
 悲劇を止める手だてはなかったのか。
 ティボルトはまともな男だったのに。色気がない分(笑)、常識を持ち合わせていたのに。

 憎しみが彼をゆがめ、過剰な暴力に走らせていた。
 両家に伝わる亡霊のような力だから、取り憑かれている彼にはどうすることもできなかったとして。
 直接的にティボルトを苛んでいた「憎しみ」ってナニ?
 ロミオは眼中になかった。それまでの彼を追いつめるものって?

 ええ。
 直接ティボルトを暴力に走らせていたモノって、マーキューシオじゃないの?
 あの男、ウザすぎるんだもん。
 顔を合わせるたび、マーキューシオがいちいち癇に障ることをするから。
 それでキレて乱闘。
 その繰り返しで10何年。

 だからこそ、考えるんだ。
 もしもマーキューシオがいなかったら、って。

 ロミオを殺すつもりで街中を彷徨うティボルト。
 ここでロミオに出会ってしまってはまずい。即ナイフを出して殺しに掛かるかもしれない。
 さらにロミオが「争いは良くない、やめよう」といきなり説教はじめたりしたらもっと最悪。ティボルトの血管がいくつかキレるだろう、マジで。ロミオもそーゆー空気読めない、お花畑なところのある男だし。

 ティボルトを、そしてそのあと起こる悲劇を止めることが出来たのは。

 ベンヴォーリオじゃないかと思うんだ。

 「ロミオを地獄へ」と呪ったあとのティボルトと出会ったのが、ベンヴォーリオひとりなら。

 顔を見るなり相手の嫌がることを言って触れられたくない部分を暴き立て、攻撃してこないだろう。
 とにかくマーさんは、ヘラヘラとバカにした態度取りすぎだもんよ。
 余裕のないときにコレやられたら、相当ムカつく(笑)。
 コレをことさらにはやらないベン様には、あそこまでキレはしないだろう。

「ロミオはどこだ」「こちらも困惑している」……てな会話が可能だったんじゃないか。

 ベンヴォーリオは争いの制止役。それまでも直接的な暴力沙汰になりそうなときは、仲間たちを止めていた。
 「争いは良くない、やめるんだ」という理想主義のロミオではなく、「争いはある、キャピュレットとモンタギューは敵同士」と現実を踏まえた上で、やりすぎはよくない、と判断する男だ。
 また、その後ティボルトが殺されたとき、その亡骸を哀しく見つめた姿からしても、憎しみに染まりきっているわけじゃない。

 現在の困った状況を話し合うことができたのが、ティボルトとベンヴォーリオだった。

 だってふたりとも、ロミオとジュリエットの結婚には反対なんだもんよ。立ち位置は同じなんだよ。
 マーさんがいるからぐちゃぐちゃになっちゃうだけで、利害は一致しているんだから、協定を組むことだって出来たんだ。

 も、マジでマーさんとロミオ抜きで、ふたりで話してくれよ。
 話すという行為は、対人関係を変化させる。自己を見つめさせる。
 ティボルトだって、刹那的な破壊衝動を薄れさせることができたかもしれない。

 手を取り合うまではいかなくても、ティボルトとベンヴォーリオに友情が芽生える可能性はゼロではない。他のキャラとの組み合わせに比べて。

 悲劇を回避することができたかもしれないのに。
 ティボルトとベンヴォーリオは、ちゃんと話すべきなんだよ。
 復讐の手先となる前に。

 そうすれば、チガウ未来もあったろうに。

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