「中村Bのまっつのイメージって、赤なんだ」

 その昔、友人が言った。
 わたしはそんなこと、特に意識したことなかったんで、すごく意外だった。
 赤?
 まっつに、赤?
 なんだそりゃ。

 『宝塚巴里祭2009』のときだ。
 わたしにつきあって参加してくれた友人が、ニラニラしながら言ったんだ。

 当時のまっつは、花組の中堅。得意な役は、ヘタレ三枚目。下っ端。
 貫禄の色悪おじさまジオラモでは爆笑され、娘のお尻に敷かれたヒョンゴ先生は八の字眉のトホホ顔。美形だけど情けない、そこが味のある芸風。
 バウ主演も下級生に抜かされ、モバタカの「スター紹介」もスルーされた、「路線外」の芸達者。
 小さい・地味、という形容詞が枕詞。

 「赤」なんて花形色とは、対極にあるキャラクタ。

 だからこそ友人は言うわけだ。「中村Bのまっつのイメージって(笑)」と。
 ふつーなら思いもつかない、まっつにコレはナイわー、という色だからこそ、(笑)を付けて。ネタ扱いで。

 巴里祭でいろんな衣装を着ていたけれど、友人のセンサーには「赤」が引っかかったらしい。
「『ファントム』でも赤だったもんね」

 まっつお得意のヘタレ役。
 オペラ座の俳優リシャール。新公主演済みの研9だっつーに、一本物で台詞がふたつだけという扱いだった。
 今の雪組でいうと翔くんの学年とポジションですな。研9で5番手。翔くんと比べると、扱いの差も歴然。
 だけど何故か、赤を着ていた。

 まっつなのに、赤!!
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 群舞センターのまっつ。しかも、ひとりだけチガウ衣装のまっつ。スター!!な、まっつ。
 なにもかもはじめてで、想像もしてなくて、うろたえまくった。

 エスカミリオ役ではなかったけれど、それならただの脇に回すことも出来たろうに、名もなき役だとしても、わざわざ華やかな赤の闘牛服を着せて、センターで踊らせてくれた。
 その、記憶。

 それはわたしにとっても強烈だったけれど、所詮まっつファンのわたしは「赤を着るまっつも素敵」となって納得という記憶の底に沈んだ。しかし「まっつに赤(笑)」と草を生やして眺めていた、ファン以外の人間には、「違和感」として残ったんだろう。
 『宝塚巴里祭2009』を見て、『ファントム』のときのことを思い出したらしい。

 言われるまで、忘れてたよ。
 中村B演出の『ファントム』で、まっつはよりにもよって赤を着ていた。
 それはたしかにそうだけど、やっぱり「まっつ=赤」はチガウんじゃね? もっとまっつっぽい色は他にあるだろ。
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 そんな他愛ない会話を、思い出した。

 『My Dream TAKARAZUKA』「第20場 フィナーレ5(紳士・淑女)」。
 他の男たちは直前の場面と同じ、黒燕尾のままだ。
 だけどまっつは、赤い燕尾服で登場した。

 2度目の銀橋ソロ。
 まさかここで、もう一度ソロがあるなんて思ってなかった。油断していた。
 しかも、わざわざ衣装替えまでして。
 しかも。

 しかも。

 赤で。

 「中村Bのまっつのイメージって、赤なんだ」

 泣けた。

 ナニがどうじゃない。
 ただ、蛇口ひねったみたいになった。
 ありがとうソングでドン引きして出かけた涙もひっこんだっつーのに、この赤燕尾ひとつで滝涙。

 そして、あとでわかったことだけど、この赤燕尾が、未涼亜希の、最後の衣装だった。

 このあとは、大階段パレードがあるだけだ。
 パレード衣装は、まっつ単体というよりも、「パレード衣装」だ。パッケージのうちというか、中身とは別の部分だ。

 ショーの中身、フリースペースの最後の最後に、中村Bはまっつに赤を着せた。
 べつに、着せる必要は特になかったのに。
 他の男の子たちと同じ黒燕尾のままでもよかったのに。他の色だってあったのに。
 赤。
 よりによって、赤。

 揺るがないな、中村B。

 しあわせな気持ちで劇場に通っていた、あのころを思い出したよ。
 わずかな間、群舞のセンターに立った、ひとりだけちょっと豪華な衣装を着せてもらった……そんなことに大喜びしていた。
 台詞がなくても、舞台の上にいる時間が短くても、ライトが当たらなくても、まっつを見ていた。
 それで、しあわせだった。

 そうか、赤か。
 まっつは、赤。
 花形色。センターの色。情熱の色。

 銀橋ソロをせわしなく歌ったあと、まっつはすぐにまた登場する。
 ちぎくんが銀橋にいる間、本舞台に組子たちみんな登場するんだ。
 そのセンターにまっつがいる。

 赤い燕尾を着て。
 黒燕尾の男たちのなか、ただひとり、特別な衣装を着て。

 最後の色が、赤。
 新人公演『The Lost Glory―美しき幻影― 』覚え書き。

 新公初ヒロイン、綺咲ちゃんはかわいかった。顔立ちが、というより、全体のバランスがかわいい。ヒロインっぽい持ち味がある人。
 つか、綺咲ちゃんというとほら、棒読み! 大根!という印象からスタートした子だからさー、見るたびに、「うまくなってる!」と思う。
 スタート地点がマイナスだったために、成長がわかりやすいのだとしても、見るたびに「うまくなったなー」と思えるのは楽しい。
 もう棒読みでも大根芝居でもない、ふつうにヒロインしている。歌もうまい。

 んでなんつっても今回感心したのが、彼女の芝居の弱さ。
 芝居力が低いという意味の弱さではなく、彼女の演じる女性に弱々しさを感じるということ。可憐さがあるということ。

 打ちひしがれるディアナ@綺咲ちゃんに、説得力がある!!

 本役さんだと、ちっとも弱く見えなくてなあ。
 なんの非もないのに不貞を疑われ、一方的に責められる可哀想な妻、のはずが、あんまし可哀想に見えないのな……。
 いやアンタ、そんだけ日常的に派手だと、貞淑な妻に見えにくいっちゅーか、同情しにくいっちゅーかね……てな感じ方をしてしまう。
 だけどキサキちゃんだと、ほんとに弱々しい小動物に見えて、一方的に責められると「可哀想!」と思える。

 つまり反対に言うと、カリスマアーティスト、ファム・ファタールには見えない、ってことでもある。
 ふつうに可憐で可愛い。しかし、絶世の美女でも天才でもない。
 いたいけなプリンセス。ねねちゃんのような「女王様!」オーラは今のところ感じない。……そりゃまあ、6年トップの座に君臨したらキサキちゃんも女王様タイプになってるかもだけど。現時点では。

 オットー@まおくんが弱かったので、これくらいこじんまりきれいな子がヒロインの方が、バランスはいいのかも。


 ロナルド@せおっちがいい感じに芝居してました。
 髪型のせいかメイクのせいか、はたまた役柄のせいか、やたらとタータンを思い出した。イケコの『失楽園』のタータンへと、わたしの脳の回路がつながるらしい。
 朴訥とした味わいが、最後の凶行につながる。

 カーティス@紫藤くんは、つるりとした印象。
 別になにが悪いわけではないと思うんだが……なんかこう、届くモノがないというか。つるりと指先をすり抜けて落ちていく。わたしには掴めない。
 もどかしさだけが残る。

 エマ@風ちゃん、ミラベル@美伶ちゃんは、安定の巧さ。ふつーに本公演レベルというか、本役でもおかしくない感じ。
 星組ってナニ気にそーゆー娘さんたちを抱えているような。いやその、トップが6年変わらないとそうなるってことだけかもしんないけど。
 ゼイタクだけど、観客としては眼福である。

 上級生役を演じてた子たちは総じて安定、うまかったし、若手役もよくやっていたなあ。
 パット役はなかなかどーして大役だと思うけど、違和感なく務めていたし、レイモンド役もよく喋り、動いていた印象。

 あ、そだ、オットーの子ども時代役の子、かわいかったー!
 それから、ハリーやった子の顔があちらこちらで目に付いた。記憶に残った。てゆーか、一瞬だけでも名前のある役をやってくれてよかった(笑)。でないと「あの顔」としかわからず、困ったわ……。
 本公演で見えないモノが、新人公演で見える、ことがある。
 だから新公は面白い。
 新公を観劇した上での、『The Lost Glory―美しき幻影― 』の作品感想。

 新公を観て、「トド様ごめん」と思った。
 初日観劇時トド様の生彩のなさに肩を落としたけど、あれはトド様だからあそこまで成り立ってたんだ。力のナイ人が演じたら、フレームアウトしてしまうような役だったんだ。

 と、思ったように。

 本公演で「マカゼの役、すごくオイシイ! こーゆー役こそ、次代のトップ候補、ベニーが演じるべきでは?」と思った、カーティスおぼっちゃま。
 新公では、別に、おいしくなかった……。

 むしろ、ベニーがやっていたロナルドの方が、重要な役に見えた。いやその、元から重要だけど、ちゃんとおいしく見えたっていうか。

 新公の番手というか役の重要度順は、主役イヴァーノ@ことちゃん、2番手ロナルド@せおっちに見えた。
 物語を「動かす」のが、このふたりだからだ。
 オットー@まおくんは、イヴァーノありきで、画面にいなくてもあまり関係ない役だった。

 景子先生の作品の骨組みが、ここでよく見えた。

 主人公は、イヴァーノ。
 物語はすべて、彼が動かす。彼がいなければ、そもそも話が存在しない。
 イヴァーノはいろんなことをしているが、中でももっとも大きな仕掛けとして描かれているのが、ロナルドを使っての三角関係演出。
 イヴァーノが主役だから、彼の一人称、すなわちナレーション・モノローグが多用されるのも道理。
 これでオットーへの愛憎を最初から打ち出していたなら、2番手役というか、相手役はオットーになるのだけど、そうじゃない。景子たんは何故か「オットーを愛しているから許せなかったのだ」というイヴァーノの本心を「最後のどんでん返し」として隠している。
 そのため、ピカレスクロマンとして、イヴァーノが獲物を追い詰める話として進行。獲物は記号でしかない。冷徹に計画を進めるイヴァーノがかっこいい、ということが展開のほとんどになり、オットーの比重は低い。
 ぶっちゃけ、オットーは存在しなくてもイイ。シルエットだけとか、パーティションの向こうにいるとか、「いるけれど、あえて舞台上には出て来ない」演出にしてもイイ。
 イヴァーノの陰謀メインなら、それくらい割り切ってもいいくらいだ。
 オットーの妻、ディアナは必要だ。オットーが舞台上にいなくても、ディアナは華やかに登場し、夫への愛を語り、ロナルドにゆがんだ愛を燃え上がらせる必要がある。
 話を動かすイヴァーノ、彼の道具となるロナルド、錯綜する思いの引き金となる美女ディアナ……この3人がメインキャスト。
 それなら、ディアナとの語らいで心を動かす→ロナルドに撃たれる→オットーはイヴァーノを裏切ってなどいなかったと知る→ディアナの腕の中で死ぬ、というストーリーがきれいに機能する。

 それが、「ぶっちゃけいなくてもイイ」オットーを、「主役のひとり」にしたもんだから、ややこしい。しかも、便宜上は「オットー主役」だもん。
 イヴァーノの一人称小説なのに、オットーが主役、というのは、かなり難しい手法。その上、イヴァーノが能動、オットーは受け身。せめて逆で、語り手が受け身で、主人公が自ら行動する人ならまだ、書きようもあるけど。
 何重にも難しい。
 語りを任される準主役、てのは、もっと第三者的立ち位置の人でなきゃダメだよ。『激情』のメリメとか『うたかたの恋』のジャンとか。
 シシィが語り手も務めて出ずっぱりで、あまり出て来なくてシシィの人生に横からちょっかい出すだけのトートを主人公に物語を成立させる、なんて脚本演出無駄に難しいぞ?

 新公を観て、しみじみ「これ、イヴァーノの物語だよなあ」と思った。
 オットーとディアナの船室の場面とラストのオットーの旅立ちをカットして、クライマックスのオットー・ディアナ・イヴァーノのダンスシーンを完全にイヴァーノ中心にすれば、それだけでOKじゃん?
 浮いた時間は2番手役であるロナルドを描くことにして。彼の場面なら、ヒロイン・ディアナの出番にもなるし。
 ラストシーンはテーマのひとつを担う街の人々の合唱で、彼らが次の人生へとそれぞれ散っていったあと、舞台奥にひとりイヴァーノ(幻影)が立ち、ソロ(歌でもダンスでも)をキメれば完了。

 もともと「イヴァーノの物語」なのに、そこへ取って付けたカタチで押し込まれたオットー役で、あそこまで善戦したしたのは、トド様の力量。
 少なくともラストシーン、「主人公(イヴァーノ)もういないのに、なんで脇役(オットー)がえんえん真ん中で喋ってんの?」という蛇足感はなかった。

 ロナルドは、ちゃんといい役だった。
 ベニーがこの役を「いい役」に見せられなかったのは、彼の対戦相手が「トド様とれおんくん」という、現在のタカラヅカの二大スターだったためだ。
 ベニーだからというより、轟悠と柚希礼音がガチンコ勝負しているところに、割って入って同じ密度で戦える、引き分けに持って行けるジェンヌが、どれほどいるだろうか?ってことだと思う。
 らんとむさんくらいじゃね? ここに入ってなんとかなりそうなの。(ごめん、えりたんはチガウと思うし、テルとまさおはたぶん、ベニーの二の舞……)

 マカゼがおいしく見えたのは、トドVSれおんというステージの外側にいたためだろう。
 カーティスは、ロナウドと同じくイヴァーノに利用される役だが、比重がチガウ。チャールストン場面といい、にぎやかしキャラだ。
 それでも、きちんとにぎやかしを務め、「オイシイ役」に昇華したのはマカゼ氏の功績。新公ではそれすらなかったもの。

 思うのはつくづく、景子タン、なにがしたかったんだろう、ってことだニャ。

 イヴァーノとオットーをW主役として描くならば、イヴァーノの一人称はやめとくべきだ。せっかくレイモンド@みっきぃとかパット@ことちゃんとか、最適なキャラクタがいるのに。
 また、真っ向からふたりを対立させる描き方が出来たのに、していない。
 たとえ一人称がイヴァーノであっても、ソロ歌でばばーんと登場したイヴァーノの次、もったいつけて登場したオットーも一曲歌うべきだろ。比重が同じというならば。
 オットーの登場シーンは、主役のそれではない。タカラヅカ的にも、そしてイヴァーノの登場演出からの流れ的にも、「ここで歌」というところをスルーされて、最初から肩すかしを食らう。
 そしてなんといっても、この作品の「売り」のひとつとなっている、クライマックスのダンスシーン。何故、イヴァーノとディアナが踊るんだ。この時点でイヴァーノはディアナになんの興味もない。
 イヴァーノが踊る相手は、オットーであるべきだ。
 加えて、イヴァーノが腕の中で死ぬ相手は、オットーであるべき。
 イヴァーノの陰謀が、オットーに裏切られたから、という動機付けである以上、彼の関心はオットーに集約しなければおかしい。なのに、変に気が散っている。分散している。

 星組とトドロキというと、『長崎しぐれ坂』という悪例があるから、トップとトドが愛し合うホモ展開を避ける必要があると思う(笑)けど、それとこれとは別だろう。

 景子タン……人事事情のある演出、ヘタやなあ。

 理事様降臨、トップスターとトップ娘役考慮……変にあちこち気を遣って、いろいろいびつになった結果、ってことかな。
 『The Lost Glory』の据わりの悪さって。
 あまりのことに、笑えた。
 めずらしい経験だ。
 歌いながら銀橋を渡ることちゃんを見ているとき、笑えてきたんだ。

 格が、違いすぎる。

 星組新人公演『The Lost Glory―美しき幻影―』

 主演はいちおー、オットー役だということになっている。
 オットーは辛抱役、受け身の役。難しいし、発散系の派手な役ではない。
 準主役イヴァーノは、オイシイ悪役で、役としての強さから派手に目立てる面は大いにある。
 に、してもだ。

 主役はいちおー、オットーなのに。

 主役は、イヴァーノ@ことちゃんだった。
 完全に。
 完膚無きまでに。

 格が違う。次元が違う。
 あまりにその差がものすごくて、それを顕著に表しているのが「銀橋ソロ」で、そのパワーの奔流に、笑えてきた。
 すげえ。
 すっげえな、ヲイ。

 ことちゃんだって足りないところはある。にしても、今彼が持っているモノだけでも、「新人公演」という舞台にはそぐわなかった。
 こんだけものすごい歌を、舞台姿を披露しておいて、パワーを開放しておいて、主役じゃないんですよこの人。
 おかしいでしょそれ。面白いでしょそれ。

 バウ主演経験して、確実に伸びたよね。
 でもって、こういう「好きに発散していいんだよ!」って役、得意だよね? てゆーか抑えるのはかえって苦手だよね? 得意分野で好きなだけ吠えられて、暴れられて、いいね! 気持ちよさそうだね!
 つか、好きなだけ吠えればいいじゃん! 暴れればいいじゃん!
 新公だもん。好きなだけ飛び出せばいいよ。

 うーん、オットー@まおくんが気の毒でした。相手が悪かったとしか。
 途中から彼の存在が薄れて、……まあもともと、いろいろと不自由そうな舞台姿ではあったんだけど、それにしてもわたしの視界からはずれがちで、クライマックスは「あれ? オットーどこいった??」状態だった。
 イヴァーノがロナルド@せおっちに撃たれる場面。
 見事に彼が「主役!!」で、ディアナ@キサキアイリちゃん、ロナルドと三人模様が展開され……途中でふと、正気に返った。あれ? この場面ってオットーいなかったっけ?
 探したけれど、いないっぽい。変だな、トド様はたしかいたと思うんだけど……。
 2回見回して、いることに気づいた。端っこの方に。気づいたときには、真ん中に駆け寄っていった。
 や、いるよなそりゃ。っていうかわたしここ、オットー@トド様見てたよなー。真ん中ももちろん観てたけど、オットーも見ていた。
 でもなんつーか新公は、真ん中の圧が強すぎて、周囲の輪郭を奪っていた。

 イヴァーノがあまりに「主役!!」なので。
 彼が死んだあと、街の人々の合唱で幕が下りると、無意識が判断していて、そのあとオットーが出てきてえんえん喋るのがすげー違和感だった……。
 そういや本公演では、彼が主役だったっけ……。

 相手が悪かったとしか。
 『BUND/NEON 上海』のだいもん思い出したわ。主役吹っ飛ばして、センターがどこかを自分で表しちゃう系。
 それでもまぁくんは、あのイッちゃっただいもん相手によく踏ん張っていたけど、まおくんは……実力という重しがない分、どうしても吹っ飛ばされるよね……。

 改めて、オットーという役の難しさを知った。
 そして、トド様ごめん! と思った。
 初日を観て、トド様が生彩に欠けるとか、れおんくんに負けてるとか思ったけど。
 いやいやいや、この役でれおんくん相手にあんだけ見せてくれたトド様は、やっぱすげえや。これで経験値も実力もなかったら、吹っ飛ばされてたんだ。
 今のれおんくん相手に、この辛抱役でこんだけ向こうを張れるのは、トド様だからだ!

 相手が悪かった、とは思うけれど、まおくんはこれからどこを目指す人なのか、首をかしげたことも確かだ。
 こんだけ苦手なことが多いと、路線スターをやるのは大変だと思う。
 もともとスタイルのいい人だし、今はちゃんと痩せてきれいになった……てことで、彼の売りはビジュアル?
 スタイルの良さや、ホットな持ち味は劇場では武器になる。でも、やっぱ舞台はそれだけじゃないしなー。他のことが不自由過ぎてなー。
 まおくんが、タニちゃん並の華と美貌を持っているなら、真ん中人生もアリかと思うけど……今は彼の向かう方向が、わたしにはわからないっす。

 終演後、晩ごはん食べながらわたしと友人たちは「ことちゃんの実力」「まおくんの実力」について感嘆符をトバして感想を言い合わずにはいられなかったし、そんでもって出た共通の言葉は、
「次のバウ、大丈夫なの……??」
 だった。
 実力面への不安爆発。
 みんな原作スキーだからな……。

 ことちゃんも主演バウを経てどーんと伸びたし、まおくんにもそこを期待すべきでしょう。
 うん。


 見事に名目上の主役を吹っ飛ばして、真ん中ぶんどっちゃったことちゃん。どこの「吸血鬼カーミラ」by『ガラスの仮面』かと(笑)。
 結果的にそうなっちゃったけれど、彼もまだいろいろ課題持ちだよね。
 まあその、そもそも主役吹っ飛ばすなよと(笑)。
 れおんくんのイヴァーノ像をなぞってて同じ方向性なだけに、造形の荒さは気になる。
 そこは真似なくていいんだよ~~、れおんくんはれおんくんだから許されるのであって、あの大味さを取り込んでしまうのはよくない気がするよ~~。

 そして、いつも思うことだけど、あとはビジュアル。
 早く歌声に相応しい美男子になってくれることを願う。心から願う。
 『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き。

 「第5章 伝説(レジェンド)誕生」が終わると、雰囲気をがらりと変えて、「第6章 フィナーレ」がはじまる。
 まずは下手花道に、あんりちゃんセンターにかなとくんとひとこくんがトリオで登場する。

 ここが、ひそかな泣きポイントだったりする(笑)。

 退団仕様群舞であゆっちと対の位置で踊っていたまっつを見て、「そうか……」と思った直後に。
 ペパーミントグリーンのスーツに黄色いシャツのかなとくんを見て、反射的にずきーんとキタのなー。

 『TUXEDO JAZZ』を思い出して。

 中詰めの狂乱のあと、場の雰囲気を変えるための、かわいい若手銀橋。
 まっつはそこでまさかの、「スター!」な扱いで遅れて登場した。
 そんな扱いしてもらったことないから、そんな扱いしてもらえるとは思ってなかったから、うろたえてびびって、「どうしよう!!」状態だった、わたしが(笑)。

 理屈ではなく、あのときを思い出した。
 別に同じ衣装じゃないし、同じ演出でもないのに。
 でもって、かなとくんとまっつはまったく似てなくて、どっちかってーとひとこの方が顔立ちとかサイズ感は似てるのに、そっちじゃなくてかなとくんを見て、だし。や、たんにわたしが、かなとくんしか見てないせいなんだけど(笑)。

 若々しく歌い踊るかなとくん見て、泣けるのだわ。
 『TUXEDO JAZZ』思い出して。
 はー、切ない。


 んで、トリオ銀橋のあとロケットがあって、きんぐとみゆちゃんの銀橋があって。

 次です。
 後半最大の爆弾。

 大階段黒燕尾。

 ここは。こ、こ、はっ、もう、テーブルばんばん叩きながら叫びます、素晴らしいっ!!と。

 生きててよかった、レベルの場面ですニャ。
 ヅカヲタでよかった、まっつファンでよかった。こんなすごいもん見られて、見るために通えて。
 退団でなかったら完璧だったんだけど。(まだ言う)

 カーテンが上がると、大階段。
 黒燕尾の男役たちがもしゃっと真ん中に集まっている。
 その男たちが、音楽に合わせて首を振る。顔の向きを変える。
 外側から、順番に中側へ。
 1、2、3……まっつは最後、4つめの音で、顔を上げる。
 ちぎくんとふたり。
 この群れの中心は、今の段階ではふたり。ちぎくんと、まっつ。
 その、「最後に顔を上げる」のがぞくぞくする。
 これだけのイケメンたちの中、最後の男ふたり、それがちぎまつ。

 その直後、男たちは花が開くように外側へ散り、センターに行儀悪く坐り込んでいるえりたんが現れる。
 ……って、この演出好き。神!!と思う。
 えりたんがテラかっこええ。平澤せんせマジ好き。

 男たちは6本の縦列に分かれる。まっつは下手側で、その縦列には属さない。列と列の間に立つ。上手側のちぎくんと対。

 ここの振付がまた、平澤せんせ全開で。
 クラシカルな黒燕尾なのに、振付は独特。端正さとワイルドさが混ざる感じ。
 平澤せんせ振付のまっつは、大好物。せんせの独特の振りを、いちばん美しく表現するのがまっつだと思っている。贔屓目上等! 盲目上等!
 やっぱ好評だったのか、今回も背中でのフィンガーアクションあり!!
 黒燕尾の背中を見せて、腰の上で指を動かすアレ!!

 まっつは列の中ではなく、イレギュラーな立ち位置。
 トップスター様の真横でもないし、群舞の最前列でもない。けっこー変わった場所だと思う。
 きれいな列になっていないことに、最初は違和感があった。なんでそこなんだろう。や、ちぎくんと対、3番手らしく特別な場所でうれしいけど。
 で、まっつばっかオペラグラスで見ているから最初、気づかなかった。
 「心の砂時計」の指使い美しい~~、背中向けての指使い萌え~~、とか、切り取られた画面の中でうほうほしてたのね。
 でもあるときふと、オペラなしで見たときに。
 あれ? ……他の子たちの「砂時計」も背中の指も……見えにくい?
 座席にもよるんだろうけど。
 1階席から大階段を見上げていると、列の中にいる子たちは、前に立っている子の上半身で、下半身が隠れてしまう。せっかくの黒燕尾姿が、全部見えないんだ。

 だけど、まっつは見える。
 全部。
 爪先から、頭の先まで。
 遮蔽物ナシ、なんのストレスもなく、美しい姿を堪能できる。

 それって、イレギュラーな立ち位置のせいか!!
 列に入らず、なにもないところに立っているからこそなんだ。

 や、端っこから見たらどこにいたって誰かしらかぶっちゃうだろうけど。
 1階センターから見てかぶらない、全身が見える立ち位置。
 そして、大階段センターのトップさんに近い位置。
 ……って、すげえ考えられた、オイシイ立ち位置じゃん!

 こーゆーフォーメーションもアリなのか。導入部分のわしゃっと固まったところから、えりたんがセンターに坐っている演出含め、この黒燕尾場面はニク過ぎる!

 舞台なんてセンターで観たときがいちばん美しいのは当たり前だけど、それにしたってこの大階段黒燕尾は、センターからの眺めが美しい。
 まっつの前に、誰も立ってないんだよ。
 大階段黒燕尾で、誰にもかぶることなく踊る姿、って、すげー貴重。

 『Shining Rhythm!』の黒燕尾は、逆三角形の美しさを堪能させてくれた。
 男役が逆三角形になり、大階段を降りてくる姿は壮観。

 そして今回は。
 6列縦隊で並ぶ男たちの間を、えりちぎまつが、降りてくる。

 わたし、基本まっつしか見てないし、まっつを細胞レベルで欲してるもんで、いつもオペラグラスかじりつきなんだけど、ここだけはオペラを下ろして全体を観てる。

 磨き抜かれた美しい男たち。
 その美男たちの中、特別な3人の男が、歩き出す。
 すべてを従えて。
 空気が動く。
 緊張感。縦隊の間を模様が変わるように。
 選び抜かれた、真のスターが理を動かす。

 この特別感が、ぞくぞくする。
 雪男たちのぴたりとそろった端正さ、そこを崩すように動く3人。
 正の中、和の中に広がる波紋。
 そのうちのひとりが、まっつだということ。我がご贔屓だということ。

 心臓バクバクする。

 かっこいい。
 震えるほど、かっこいい!!
 『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き。

 「第5章 伝説(レジェンド)誕生」で、いちばんのトピックスは、唯一のちぎまつ。

 まっつの動線は、退団者として最後に登場、えりたんセンターで退団同期だけのダンス、みんな出てきて総踊り、このとき上手側。
 んで、すぐに上手袖へ引っ込む。
 出番、短いのだわ。
 そっから先、このクソ長い歌のほとんどに、まっつは関与しない。出て来ない。この歌が苦手なわたしは、ある意味救われている。

 えりたんが組子たちと一通り絡んだあと、まっつは下手から大人数と一緒に出て来る。
 まっつの前を、ちぎくんが歩いている。

 全員が舞台に揃ったら、にわさんの歌で、えりたんのダンスソロになる。
 そして組子たちは、思い思いに坐り込み、えりたんを眺める。

 ここですよ。
 ここ。

 唯一の、ちぎまつ。

 前述の通り、ショーでちぎくんとまっつが絡むことは、相当レア。
 全員集合のときにどさくさ紛れに絡む以外は、基本関与しない。
 ここがその、「どさくさ紛れ」ですよ!!
 ものすげー人口密度の中でしか絡めないふたりの、ものすげー人口密度の中だからこそ、絡んでいる姿ですよ!!

 えりたんを眺めるために、その場に坐るのね。
 単に立ち位置が近かったから、でしょう。他に理由はなさそう(笑)。
 ライトは、ない。
 薄暗いなか、ふたりは坐っている。
 ちぎくんは自然な男子坐り、そしてまっつが、そのちぎくん側に突いた腕に、体重を傾けた坐り方。
 接触するでなし、されどかなり近い位置をキープ。
 ふたりは優しい表情で、踊るえりたんを見ている。

 なつかしい。
 ふたりの位置、坐り方。

 マーキューシオとベンヴォーリオを、思い出す。

 接触するでなし、されど接触しても不思議ではない距離で、坐る男子ふたり。
 互いの存在があたりまえであるような男たち。

 こんなふたりを、見たかった。
 どの公演でも、どの作品でも。
 見たかったんだよ。

 最初に見られたのが、まっつが雪組に来た最初の公演。そして次が、最後の公演って。
 しかもこんな短い間、ライトも当たらない、映像にも残らないなんて。

 はかないなあ。
 ほんとうに、はかない。
 わたしが望んだモノは、そんなに途方もない奇跡のようなモノだったのか? 2番手と3番手が同じ場面に出て仲良くしている、っていう、ただそれだけのことだったのになあ。

 このふたりの画像が欲しい。残って欲しい。
 心から、切望する。
 せめて、ライトを当てて欲しい。
 えりたんの踊る位置により、ごく稀にライトが通り過ぎる、こともある、程度なんだもの。日によってはライト皆無のときすらある。
 組子全員が坐っている、場所によっては常に明るい。だけどよりによってちぎまつがいるのは、常に暗いところだった。
 中村B、番手スターだけライトでピックアップするとか、してほしかったよ。ここだけでも。

 3年以上許されなかった、ちぎまつを、見せて欲しかった。

 ライトも当たらないこのふたりの姿は、映像には残らないだろう。肉眼なら見えても、テレビカメラでは写せないはず。きっとぼんやりした闇の中に沈んでいる。
 他のみんなの位置や関連性、表情も見たいけれど、人生は取捨選択の積み重ねだ、捨てることからはじまるんだ、覚悟を決めて、ちぎまつしか見てない。他のみんなだって、映像には残らないから、今ここで見るしかないのにね。

 えりたんと退団するのはやめて欲しかったよ。
 わたしはえりたんにもすっげー愛着がある。わたしは、えりたんの退団を悲しみたかった。泣きたかった。なのに、まっつのせいでえりたんとの別れを惜しむことができない。そこまで、感情が回らない。
 同じ場面にいるところはすべて、えりたんを見ることが出来ない。
 まっつのバカ。

 えりたんのソロが終わると、ちぎまつは立ち上がり、握手する。くしゃっと笑って。
 握手というか、ぱんっと手を取り合う……感じ?

 それだけ。

 そのあとまっつは、銀橋へ向かうえりたんとハイタッチ。
 えりたんとのハイタッチはアドリブだと、お茶会で言っていた。指示された演出ではない、自発的にやったのだと。
 だからたぶん、ちぎくんとの握手もアドリブかなと思っている。演出家も振付師も、「はい、そこで笑い合って握手して」なんて指示はしてないと思う。

 えりたんの銀橋ソロの間、本舞台にいるまっつたち退団者は立ち上がって踊り、それ以外のみんなは坐って眺めている。
 みんなあんましまっつを見てないね(笑)。必ず凝視してるのって、きゃびぃぐらいだ。わたしが組子なら、他の人あきらめてもまっつだけを見る……ってわけにはいかないか、いろいろと。
 いろいろを捨てて、潔くまっつを見ているきゃびぃに敬礼。

 このショーはえりたんのためのショーであり、この退団仕様場面も、まっつのための場面じゃない。
 まっつのイメージと掛け離れた「退団演出」だからだ。
 まっつにアテ書きしたら、まっつ本人の望むものにしたら、こうは絶対ならないだろうと思う。
 だからこそ、まっつは「えりたんの公演の共演者」であり、仕事としてそこにいるのだなと思う。
 まあぶっちゃけ、「天使みたいな笑顔」「憑きものの落ちたような表情」を、嘘くさいと思っている(笑)。
 嘘くさい……はチガウか。役割を演じている、いつものまっつ、プロの舞台人だなあと思って見ている。
 自分も退団だから天使のようになっている、とは、思えない。彼はたぶん、そんな夢っぽいことは考えず、リアルに役目を果たしていると思う。

 そう思うこと自体が、わたしが「未涼亜希」という人に夢を見ている結果かもしれないが。

 わたしは、わたしが見たいようにまっつを見ているだけだからね。
 そんなわたしには、この場面のラスト、えりたんを囲んでみんなが「いかにも感動的」と笑顔で静止して終わる……その一拍あとが、すごく好き。
 まっつは「ものすごくいい笑顔」でえりたんを見つめ、えりたに向かっているポーズのまま場面終了、ぱんっと暗転する。
 そのライトが落ちた瞬間、余韻もなにもなく、「はい、仕事終了!!」と背中を向けて走り去るまっつの、身もフタもない感じが、めっちゃツボ(笑)。

 なんかすげー切り替えっぷりで。
 くるり!っぷりと、ダーーーーッ!っぷりが、愉快。(ナニこの日本語)

 この押しつけがましい「感動シーン」を「仕事でやっている」感じが、すごくまっつっぽくて、萌える(笑)。
 や、他のジェンヌさんは純粋に自分も感動してやってるんだと思う。でも我らがまっつは、そういう思いが奥底にあるとしても、それよりなにより「仕事だから」と責任感とプライドを持って完璧にこなしている、そーゆー「タカラヅカ的に夢のない」ジェンヌである……と、思わせてくれるのが、いい。
 そう思わせてくれることが、未涼亜希というジェンヌのファンタジー。
 『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き。

 「第5章 伝説(レジェンド)誕生」……わたしはここの「ナニも知らない部外者が作った、素人日記みたいな歌」が生理的にダメ。
 そして、その歌のテイストで作られたこの場面の演出もダメ。

 なので、「『伝説誕生』大好き、この場面の悪口なんて一切認めない!!」という人は、この欄は飛ばして、「その9」へ行ってくださいまし。
 個人の感想なんだ、許して。


 「伝説誕生」にて、まっつは退団者として最後に登場する。
 ゆっくり大物らしく歩いて上手袖から現れ、おもむろに踊り出す。

 白尽くめの衣装に、白いハチマキ。昭和のアイドルみたいな格好。
 初日の翌日だっけ、このハチマキの結び方がおかしくて、ファンからは総ツッコミが入っていたなー。や、終演後会ったまっつファンがもれなく「ハチマキ、ひとりだけ変じゃなかった?!」と言及、みんなソコか~~、とウケたもんだった。
「これからもずっとあの結び方なの?」「誰か教えてあげて、まっつさんそれ変ですよって」「誰が?!」「そんな勇者、ファンにも組子にもいないっしょ?!」……翌日からはふつーになっていて、ほっ。
 誰か勇者がいたのか、たまたまあんときだけ手が滑って(?)あんなみょーな結び方だったのかは、わからない(笑)。

 ともあれ。
 中村Bの心遣いゆえか、トップ娘役のあゆっちよりあとに、退団者として最後にゆっくり出てきたまっつは、とてもいい笑顔で踊っている。

 が。
 歌詞でドン引きしたわたしは、このわざとらしい「退団仕様」に入り込めずにいる。
 泣く準備はできていたのに、むしろ積極的に泣くつもりでいたのに、退団者ファンを満喫するつもりでいたのに、盛大に水を掛けられた。
 だもんで、とても「引いた」気持ちでここを見ている。

 おかげでわたしは、まっつ退団の、実感がわかない。

 今まで見てきた退団者って、「退団オーラ」てのが出て、どんどん透明になっていくというか、手の届かない次元を感じたりするんだけど……まっつには、それがない。
 彼はほんとにまっつで、いつものまっつだ。
 や、めちゃくちゃ美しくてかっこいいけど、そんなの、いつも通りだし。
 「退団だから」美しくてかっこいいわけじゃない。

 「なんか、ふつー過ぎて……」「いつも通り過ぎて……」覚悟して、意気込んでやって来たまっつメイトたちが、みんな出鼻をくじかれて困惑していたっけ。
 あー、みんなもそうなんだー、あたしもあたしも。
 あの人ほんとに辞めるの? そんな感じぜんぜんしないんですが。

 だからこそ、こわいね。……そう話した。
 こんなに「いつも通り」でしかないと、9月になって「まっつはもうこの世のどこにもいない」「もう二度と会えない」となったあとの、喪失感が大きすぎる。
 これが最後なんだ、お別れなんだ、と、自分で努力して自覚しないと。

 なんかひどい歌詞の歌で、他人事みたいに踊っている、あの通常営業の美しい人を、どう受け止めればいいんだ。

 イイ笑顔だけどさー、そんなん、組替え前の『EXCITER!!』でもそうだったよ。そーゆー場面なら、そーゆー顔するよ、プロなんだから。

 えりたんが銀橋に出たあと、退団者だけが立ち上がって踊っていて、他のみんなは坐って眺めてるじゃないですか。
 あそこでまっつが「立って踊っている側」なのが、理解できない。
 辞めるの? ほんとに? なんで? 嘘でしょ?

 中詰めが終わったあとの場面、って、そのショーでのテーマ部分、いちばんの胆ですよ。
 中村Bはパターン通りにしか作らないから、咲ちゃんの銀橋が終わったとき、ライトが点く前からすでに拳握って緊張してたもん、これからすごいのが来るぞ、泣くぞ、感動するぞ、って。
 『Shining Rhythm!』でいえば、「光と影」ですよ、あれくらいすごい場面が繰り広げられると、わくわくどきどきしていたわけですよ。
 それが……これでしょ?

 期待していた分、落下量がハンパなくてなー。

 いちばんの「退団仕様」場面に感情移入できないもんで、肝心の部分がぽっかり抜け落ちたまま、最後のショー作品を迎え、終えてしまった。

 「パリ・ドリーム」も、フィナーレの大階段黒燕尾も素晴らしい。
 ここだけ見れば、まるで『Shining Rhythm!』みたいだ。『Shining Rhythm!』はいいショーだったなあ。
 まだまだこれからも続く、永遠の中の1作。退団? 誰が? 通常公演で、通常まっつだよね?

 えりたん銀橋、そして組子は全員(次の場面に出る3名除く)本舞台で踊っている。
 初日はドン引きしてわかんなかったけど、翌日は舞台を見渡して、「ああ、2番手位置だ」と気がついた。
 白い衣装で全員きれいに並んでいて、あゆっちとまっつだけが、列の前に出ている。

 まっつはついに、2番手にはなれなかった。3番手としても、扱いは悪かった。DC青年館完売させても、写真集が3刷になっても、劇団はがんとしてまっつを大切にはしなかった。

 退団を発表してはじめて、この立ち位置を許されたんだなあ。

 まっつ退団、を「ああ、そうか」と思ったのは、この立ち位置のみかなあ。
 この場面の最初の、退団者ソロの最後に出てきたときより、はるかに「そうか」と思ったよ。

 中村Bには感謝している。中村Bでなければ、ここまではしてくれなかったかも、と思っている。
 だけど、中村Bの「退団演出のセンスの悪さ」には、心から落胆している。
 オサ様退団公演とサヨナラショーを数年根に持ったように(笑)、これから先も「あれはナイわー」と話すんだろうなあ。

 歌謡界の巨匠の例の曲は、ディープなヅカヲタには評判悪い。
 わたしの周囲限定。
 そして、ライトな人には、評判がいい。
 わたしの周囲限定。

 観劇者全員のアンケートを取れるはずもないので、わたしの周囲のごくごく狭い範囲のみの感触だ。

 何故あの歌が生理的に無理なのか、わかる人には説明しなくてもわかってもらえるだろう。
 わかる人だけで共有できればいい。
 わたしはダメだったよ。
 それだけ。

 ジェンヌは純粋だから、わたしのような拒否反応などなく、心から感動してあの歌を歌い、踊っているんだと思う。
 そういう彼らに申し訳ないとは思うが、ジェンヌへの敬意と曲への拒絶感は別モノだ。

 曲も演出も無理だけど、それでも、えりたんのキラキラ笑顔や、組子たちの笑顔やパフォーマンスを眺めて、じーんとする。
 矛盾しているけれど、それはほんとう。
 8月になった。
 なってしまった。

 『一夢庵風流記 前田慶次』『My Dream TAKARAZUKA』東宝初日行ってきました。
 演出的に大きな変更はなく、すっげーささやかな微調整入ってるかなあ、ぐらい。

 なんだけど、個人的に「!!!」だったのは、えりたんが支えナシで松風から降りた!!こと。

 『一夢庵風流記 前田慶次』には、馬の松風が登場する。
 外部のプロの方が演じている、生きた馬。主人公の前田慶次@えりたんが、この馬の松風に颯爽と乗り降りする……場面が、劇中何度もある。
 この松風の乗り降り、たぶん安全性の問題で、「支えをつけること」が決まってるんだと思う。
 大野先生は細心の注意を払って、不自然ではないように松風に人が集まった状態でのみ、慶次を乗り降りさせてきた。
 支えメンバーが集まらないときは、慶次はいつまでも馬上にいる。人が集まったぞー、と思うと、すらりと降りる。
 えりたんはとても軽々と乗り降りしていて、支えなんか不要に思えるけど、それでも絶対誰か2名以上は松風の横に付いた状態でないと乗り降りしないので、そういう「契約」なんだと思って見ていた。

 それが。
 ラストの1回だけなんだけど、えりたんが支えなしで降りるのよ。
 びっくりした。
 そんなこと出来るのか。していいのか、って。

 そして、「つちかった信頼関係」を思って、じーんとした。

 ムラで1ヶ月乗り降りしてきて、「支えなしでも大丈夫」と判断されたんだろうな。
 不要に見えても、不自然でも、絶対に支えの人がはべっていたのに。それが安全上の決まりだったんだろうに。
 そういった縛りを超えられるくらい、互いの絆が強くなっているのかと。


 あー、あと、聚楽第の鉄砲隊の扱いが、見るたびに変わるというか、落ち着かないのは何故?
 初日は金色の幕が落ちると鉄砲隊登場、翌日午前公演は幕なしで号令と共に鉄砲隊登場、午後公演は幕あり。
 ナニがしたいのか、いまいちわからん(笑)。


 それ以外でわたしが気づいたのは、重太夫関係ぐらいかな。登場シーンがザッキー含めより大げさに胡散臭く、あと各種「重太夫メロディ」のアレンジが派手になっていた、印象。そこまでバカっぽくしなくても……ってくらい、わかりやすく(笑)。


 松風はますますノリノリに、どんどん演技過多になっていて、ショー場面のジャンプの高さにびびる(笑)。
 ちょ、松風、松風、やり過ぎやり過ぎ! 馬はそんな風に真上に跳ばないから!! そんな骨格も筋肉もしてないから!(笑)


 松風といえば、松風ぬいぐるみマスコットを鞄につけて観劇していると、いろんな人に話しかけられて、交流の輪が広がります。ほっこり「ヅカファンって、いいなあ」という気持ちになれます。
 や、大抵「買えたなんてすごいですね! いいなあ!」てな導入。
 発売から数時間で売り切れるような生産管理ってどうなの、と劇団のアホさを嘆く……のとは別に、そうやってレアグッズとなりはてた松風だから、知らない人から「あ、松風!」と反応され、会話のきっかけになる。そっから、公演の感想や「壮さん辞めるの惜しいですよね」とかいう話になる……のは、いいかも。
 他愛ないヅカトーク楽しい。
 松風を持っている・松風グッズに反応する=一見さんではないヅカファンである、ってことで、お互い安心して話せるのなー。
 んで、知らない人相手にいきなりディープなことやマイナス意見を振ることもないから、ほんとにただキラキラした美しい思いだけを交わすことが出来る。
 贔屓退団で身も心も疲れ切っているもんで、この「他愛ない、好意だけの会話」ってのが、なかなか染みるのよーー。

 タカラヅカっていいね。
 同じモノを好きで集まった人たちって、いいね。楽しいね。

 ショーもあちこちアレンジ変わってない? 気のせい? 翔くんの銀橋ソロの導入部とかさー。


 まあともかく、ムラと同じにシンプルに劇場だけ変わりました、という印象。
 大野くん、作品大幅改編してくれても良かったんだけどな(笑)。


 ムラでサヨナラショー観て、袴姿のパレード見て、もうすっかり「卒業」を意識にきざんでいる面があって。や、まっつ退団は未だに受け入れられてないんだけど、それとは別チャンネルで。
 もう「終わった」はずなのに、またこうして「別の場所」で同じことをしている……というのが、不思議な気がした。

 もちろん、東宝がラストなのはわかっている。ムラでも「まだ東宝がある」と思っていた。

 でもわたしはムラがホームなので、ムラが終わることが「区切り」になる。
 東宝は「終わったあとに、まだ残りがあった」という感じかな。「まだあったんだ、うれしいな」と特別感を置く……自分の意識を騙す感じ? 最初から「東宝まで」を全部と考えるのではなく。

 もともと東宝は遠い劇場。距離だけでなく、気持ちの面で。
 それが今回さらに大きくなった気がする。

 もう、ここに来ることもなくなるんだなあ。

 そう思うことで、より距離を感じる。
 ムラはホームだから、これからも通うけれど、大阪人のわたしはわざわざ東京まで「すでに観た」公演を観に行くことはない。
 千秋楽より初日が好きなんだもん。ムラで初日を観られる以上、わざわざ東宝まで遠征することはなくなる。
 どんだけ「ムラは公開舞台稽古。東宝が本番。舞台クオリティが高いのは東宝。東宝を観ずに公演を語るな」てな風潮がヅカにあるとしても、だ。
 や、わたしがお金持ちなら、遠征もばんばんするけどさー。いいもの観たいしー。でも現実問題、お金ないんだもん。

 まっつを観るために遠征していたのは、お金があるからではなく、まっつを観たいからだ。
 びんぼーで、生活に余裕なんかまったくないけれど、人生の優先順位に従って、まっつを観に通っていた、というだけのこと。
 まっつがいなくなれば、少ない収入の優先順位で「ヅカ遠征」の位置はかなり下がる。
 仕方ない。わたしはまだ、生きていくつもりだから。生活しなきゃなんないから。

 おかげで、東宝劇場がさらによそよそしい(笑)。
 アウェイだなあ、と思う。
 このアウェイ感のまま、まっつを見送るんだなー。
 仕方ない、今までもがんばって遠征していたけれど、所詮わたしは東西股に掛けられるくらいのお金持ちではなかった。自宅と仕事のあるムラでなら、そこで生活しつつ20回観られても、東京に公演の間だけ1ヶ月住み、ムラと同じ頻度で劇場に通うことは、出来なかった。出来ない以上、東宝はホームにはならず、アウェイのままだ。

 いろんな意味で、さみしい。
 さて、脱線した話を戻す。『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き。


 ミトさんと朝風くんの歌で、えりたんセンターに踊る場面は、花組時代を思い出して、なつかしい。
 ミトさんも朝風くんも好き。
 えりたんの前でまっつがひらひら両手広げて踊る一瞬を、大切に大切に見入っている。
 こうやってまとぶんに絡んだり、してたなあ。なつかしい、あの頃。

 ミトさんの高音が最高潮に達したあと、音楽が変わる。ここが好きでねー。なんかラテンから一気に日本物に変わるというか。ボレロというより、時代劇、『水戸黄門』のオープニングテーマに聞こえる(笑)。
 青天まっつがすり足で扇を片手に去って行く……幻影が見える(笑)。
 この、音楽変わって退場する、だけの動きのまっつが好き過ぎる。
 似合うんだもん、この音楽と振付とまっつ。


 で、にぎやかにスター次々登場!場面が続き。
 まっつの次の登場は、中詰めのラストの総踊り、上手袖から。
 ほんのわずかの間だけ、ちぎくんセンターでまっつがその斜め後ろにいる、という、他の組では当たり前、しかし雪組では大変レアな光景を拝めるので要チェック!

 えりたん登場で、舞台上は大盛り上がり。まっつは上手側で出迎えダンスのあと、アキレス腱伸ばしみたいなポーズでフンフン見守る。
 このあたり、バカっぽくてかわいくていいね!(笑)
 なにを見守っているのか、実はあまりちゃんと見られてないんだけど、たぶん、えりたんのダンスソロ……だよね? あってる?(自信ない)

 そっから銀橋ラインナップになるんだけど……。
 このショーの中で、ある意味いちばんつらい場面かなあ。

 中詰めのテーマ曲を合唱しながら、みんな思い思いに「遊ぶ」場面なの。
 ちぎくんとえりたんは毎回ラブラブ(笑)だし、ともみんとちぎくんも中二男子っぷりを披露、すごくかわいい。その他の子たちも、なにかしらやっている。

 だけどまっつは、ナニもしない。

 ひとり頑なに正面向いて、振付を忠実にやっている。

 なまじ中村B作品は全部同じだから、思い出してしまう。『Shining Rhythm!』を。
 同じラテン中詰めラストの銀橋ラインナップで、まっつは楽しそうに周囲と絡んで「遊んで」いた。
 きんぐと絡み、みみちゃんとは「ちょ、旦那の横でナニやってすか!」とびびるくらい、濃厚に。
 まっつ、きんぐのことはいじるの好きだったものね。『フットルース』とか、きんぐが気の毒になるくらい、ジャイアンぶりを発揮してたもの(笑)。
 そしてみみちゃんのことは、ほんとかわいがってたもんなあ。お茶会で「みみっ子」という呼び方を自然にしていて、ファンが悶えまくったという……。

 その記憶があざやかである分……誰とも絡まずに前だけを見て踊っている姿は……寂しい。
 まっつのあおりを食って、翔くんも誰とも絡めずにいますがな、気を遣ってあげようよ、上級生!!
 や、翔くんには感謝です。にーちゃんにつきあって、前だけ見てえんえん踊ってくれてさー。これで翔くんが反対側のせしこといちゃつきだしたら、まっつひとり取り残されるもん。みんなお隣といちゃいちゃしてるのに、隣を向いて踊っているのに、まっつだけ誰からも向いてもらえない状態になってしまう。

 ここでのまっつは、すげー「前へ」意識を向けてる。
 周囲と絡むことで客を喜ばせるのではなく、自分ひとりの「気」でどこまで表現できるか挑戦してる、みたいに。
 まっつ比ですげーテンションと温度上げて歌い踊ってる。
 だから、オペラグラスでまっつだけを見ている分には、すごくわくわくする。
 「前へ!!」という意識が、アグレッシブでらしくなくて(←)、ときめく。
 でも、オペラ下げて全体見ちゃうと、……寂しいわ。
 「ひとりでどこまでやれるか!」可能性追求もいいけどさ、翔くんと絡んでかわいいところを見せてくれても、いいのよ? つか、ファンは大喜びしますよ?

 隣がきんぐだったら、かわいくちょっかい出してくれたのかなあ……。
 『Shining Rhythm!』から2年。きんぐと翔くんは、こんなに立ち位置が変わっちゃったんだねえ……。きんぐスキーとしては、せつないなあ。

 あー。あゆっちにちょっかい出すまっつ、というのは想定外なので、最初からナニも考えてません。


 めちゃくちゃカッコ良くて、そして寂しい中詰めラストが、ばんっと暗転。
 ここは立ち位置ふつーだから、暗い中はけていく姿もふつー(笑)。
 上手側にいて、素直に上手側にはける。


 で。
 次が、「第5章 伝説(レジェンド)誕生」。

 結局わたし、この場面キライなままです(笑)。初日はドン引きして戻ってこれなかった……けど、リピートしているうちに慣れた。
 慣れたけど、到底愛せない。

 だもんで「『伝説誕生』大好き、この場面の悪口なんて一切認めない!!」という人は、こっから先は飛ばして、「その9」へ行ってくださいまし。「その8」もとばして、「9」ね。

 歌謡界の巨匠の曲さえなければ、良かったのに。つか、あの曲がなければ、こんな演出、こんな場面になってなかったはずだから、ほんとにセンスの合わない音楽って苦痛だ。
 えりたんの望み通りの「組子ひとりずつの顔が見える」「しめっぽくならない、明るい楽しい場面」は、あんなカタチではなく作れたはず。
 あれは、わたしが見たい「タカラヅカ」じゃない。

 ということは置いておいて、センス最悪だと思ってはいるが、中村Bのまっつへの扱いには、涙が出るほど感謝した。

 えりたんがセンターに板付き登場、そこへ退団者が順番に登場する演出で、最下級生のあだちゅうからはじまり、学年順。
 でも、すずちゃんのあとにあゆっちでもなくまっつでもなく、ゆめみさんが登場し、学年順+番手順なんだなと理解した。
 つまり、ゆめみさんのあとがまっつ。番手順なら、3番手のまっつはトップ娘役のあゆっちより立場が下だから。
 そう思って待ち構えていたのに。
 次に登場したのは、あゆっちだった。
 えっ?
 ここで、あゆっち?
 じゃあ、まっつは??
 混乱。まさか、この場面出ないの? とすら、思った。タカラヅカの番手は絶対だもの。トップ娘役が出たということは、それで打ち止めでしょう、ヅカのルールでは。

 その、ルールを破って。

 最後に、まっつが登場した。

 たっぷりと余韻を作って、トップ娘役以上の扱いで。

 まいった。
 これには、まいった。
 まさか、ここまでリスペクトしてくれるとは、思ってなかった。
 上級生だから、という言い訳は立つけれど、それにしても……!

 ありがとう中村B。
 中村Bでなかったら、まっつにこんな扱いはなかったろうと思う。
 最後に大物らしく登場させてくれるより、えりたんとがっつり絡ませてくれたり、ちぎくんとふたりの場面を作ってくれたり、中詰めできんぐの横にしてくれる方が、わたしはうれしかったけど……わたしの願いとはズレているけれど、中村Bは中村Bの感性で、精一杯まっつを送り出してくれようとしているんだね。
 素人の書いた日記みたいな歌をありがたがって重要な場面に使っちゃうような、わたしとは相容れないセンスをひしひし感じつつも(笑)、愛情だけはめいっぱい受け取った。

 ありがとう、中村B。
 『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き……というか、『My Dream TAKARAZUKA』におけるまっつの立ち位置考。というか、雪組における、まっつの立ち位置考(笑)。
 個人的な目線です、ええ。


 前日欄で、「まっつはえりたんセンター場面にしか出られない縛りのある人」と書いた。
 正確には、「まっつは、トップスターがセンターの場面にしか出られない人」だ。
 不思議だが、そういうことになっている。トップが変わっても、扱いが同じなので、「キムだから」「えりたんだから」ではないのだろう。
 焦点は、ちぎとまっつ。


 ちぎくんが2番手、まっつが3番手になって4年目。
 ただの一度も、ふたりが同じ場面に出ないのは、確固たる意図あってのことだろう。
 雪組ショーのお約束。ちぎくんの場面に、まっつを出してはいけない。

 ふつートップ、2番手、3番手はシャッフル可能、トップセンター場面に2番手ががっつり出たり、2番手センター場面に3番手ががっつり出たり、パターンはいくつかある。
 しかし雪組の場合、2番手センター場面に3番手を出してはいけないので、3番手はトップセンター場面のみ登場になる。んで、トップと3番手がいつもペアだと、2番手は単独でごちゃごちゃした場面を受け持つことになる。

 トップ-ちぎ-まっつ、という並びになってはじめてのショー、『ROYAL STRAIGHT FLUSH!!』。
 オープニングや中詰め、フィナーレなどの「総踊り」「全員集合」以外の「まとまった場面」は、ちぎの「アリス・イン・ワンダーランド」、キムまつの「西部」、キムまつの「VIVA! LAS VEGAS!」、そしてキム以下総力戦の「ベトナム戦争」。
 次の『Shining Rhythm!』は、ちぎの「Cool Rhythm」、キムまつの「アンダルシア」、まっつセンターもありの、キムちぎまつ以下総力戦の「光と影」。
 キムくん退団公演の『GOLD SPARK!』は短い上に、みっちゃん投入のため変則的。「オルフェ」は2部構成、前半キムまつ、後半キムちぎ。後半の「赤鳥」は総力戦。
 えりたんトップになってはじめてのショー『CONGRATULATIONS 宝塚!!』は、えりちぎまつ以下男たちの「テキーラ」、ちぎの「伝説のスターSAGIRI」、えりたんの「ラテン」にはまっつソロも含まれてる。
 そして今回の『My Dream TAKARAZUKA』、えりまつの「パリ・ドリーム」、ちぎの「ドリーム・ステージ」、退団仕様の「伝説誕生」。

 見事に、ちぎくん単体、トップとまっつ、に分かれてる。
 まっつをトップ側につけなくてはならない以上、いつもちぎくんは単品。
 最近の流行りなのか、中詰めがやたら長くて、入れ替わり立ち替わりいろんな人がセンターでがちゃがちゃやるけど、そんなときでもちぎくんセンターにまっつが出ることはない。フォーメーションの都合で数小節そうなった、てなことがあるくらい。

 なんだってこう、強固にちぎまつを同じ場面に出すことを拒絶するのか。
 トップセンター場面で、他にたくさん出演者がいるときはふたりとも出していいけど、たとえばトップと2番手、3番手の3人のみでかっつり1場面、とかもない。

 おかげで演出のバリエーション少ないっすよ……。

 ちぎくんの場面に、まっつを出してはいけない。ちぎくんとまっつを並べてはいけない。歌で競わせたり、ダンスで競わせたり、してはいけない。


 芝居でもそうだ。ちぎまつは本公演以外は別箱に分けられ、同じ舞台には立たない。
 本公演の芝居でガチに絡むときは、ちぎくんが女役で、別次元にいるときのみ。
 まっつがはじめて(イベント以外で)雪組公演に出た『ロミオとジュリエット』が最初で最後。ちぎまつが芝居でも芝居内でのショー場面でもがっつり組んでいたのは。
 そっから先は、なし。
 ごくあたりまえに、2番手と3番手が舞台上で絡むことは。

 そりゃ厳密に言えば、別箱でも『ハウ・トゥー・サクシード』はキムちぎまつ全員出ていたし、本公演の芝居で同じ場面に出たり会話したりはある。
 2番手と3番手なんだから、本公演で演じる役は、それぞれ重要な役であり、彼らが共に出る場面は、意味のある場面である。でも、作品全体で見ると他にがっつり絡んだ相手があり、劇団的にはちぎまつを絡めたとは思ってないだろう。

 わけわからんわ。
 なんでこんなに強固な意志で、配置を実行していたのか。
 偶然? ただの偶然が4年間続くの? や、それは無理があるっしょ。
 雪組のあとムラで公演している星組さんのショー観ながら、「2番手ベニーセンター場面に、3番手マカゼが出てるわー。2番手の斜め後ろに3番手がいるわー。いいなあ」と指をくわえてました。……当たり前のことなのに、うらやましくて仕方がない。その前の公演は一本モノだったけど、フィナーレで2番手3番手の男同士のダンスがどーんとあったっけ。うらやまー。
 雪組では、ついになかった。

 ファンはちぎまつ大好物で、ふたりががっつり絡むことを切望していたのにね。
 や、ちぎファンがどうかはわかんないけど、わたしの知るまっつファンはみんなちぎくん大好きで、ちぎまつ希望者ばっかだった。
 『ロミジュリ』が、ベンマーが聖域であるわたしもまた、ちぎくん大好きで、ちぎまつが見たかった。毎回毎回、渇望していた。
 なのに。

 まっつが雪に来て4年。正確には、3年と10ヶ月ですか。
 作品を作る上での注意事項だったんだろうなあ。
 そんなことをして、いったいなにをナニを守ろうとしていたのかは、わからない。
 「下級生センターの場面に出すのは、上級生の矜持が傷つくから可哀想、同期や上級生トップの場面にしか出さないようにしてあげよう」と、優しい劇団が考えてくれたのかな。最初から下級生2番手の下、と、それ以外のすべての面で確定しておきながら、ショーの一部分だけはそんな配慮を、してくれたのかしら。
 それともナニ、まつださんが「下級生センター場面なんか、出たくありません」と駄々をこねたとか? 4年間ずっと、駄々をこね続けた(笑)。そして劇団は従った? やだまつださん何者? それなら「私がセンター場面ください」って駄々こねた方がよくね?

 ふつーに、ちぎくんのサブを務めるまっつが見たかった。
 最初に見たマーキューシオとベンヴォーリオが、可愛すぎたから。萌え過ぎだったから。サイズ感も合い、芝居も合っていた。
 だけど劇団的には「やべ、このふたり並べたらまずいじゃん」という判断だったのか。そこから、方針ひるがえしたもんなー。
 とことんまで、劇団とファンの意識はチガウってことか。


 ちぎくんトップのもと、2番手を務めるまっつが見たかった。
 まあなあ、「並べてはならない」と暗黙のルールで引き離しているくらいなのに、そんな未来がある可能性はすげー低くて、考えるたび心がひりひりしたけれど。
 それでも、願っていたよ。希望していたよ。
 ちぎまつが、舞台でまたがっつり絡んでくれることを。
 『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き……というか、『My Dream TAKARAZUKA』におけるまっつの立ち位置考。
 個人的な目線です、ええ。


 まず、まっつという人は、雪組3番手でありながら、特殊な立場にある。
 2番手より上級生で、劇団がこれ以上扱いを上げる気がない。人気も各種売り上げも「3番手」として遜色ない人であったとしても、劇団は彼を「路線スター」と認める気がない。
 かといって、不景気な昨今、貴重な稼ぎ手なので、主要メンバーから落として売り上げを放棄するわけにもいかない。
 てな、「理想と現実」のギャップ。理想は、まっつなんかとっとと落として、劇団が売りたいスターを華々しく3番手にしたい。が、現実は、その劇団が売りたい人は、実力も売り上げも、まっつに届かない。
 という事情により、「名目上は3番手。しかし、ガチな3番手として扱うのはまずい」という、なんともびみょーなことになった。それが、雪組でのまっつ。
 だもんでまっつは、「1公演の中で、『理想と現実』のバランスを取る」処置を行われる。
 つまり、「半分だけ3番手扱い」をされるんだな。
 芝居で3番手扱いされた場合は、ショーで4番手以下の扱いにする。全ツの場合だと、芝居で2番手扱いなら、ショーでは3番手以下にする。顕著なのが、『仮面の男/ROYAL STRAIGHT FLUSH!!』、『黒い瞳/ロック・オン!』『若き日の唄は忘れじ/ナルシス・ノアールII』。
 反対に、芝居で4番手以下の扱いをされた場合は、ショーでがっつり3番手として扱う。『Shall we ダンス?/CONGRATULATIONS 宝塚!!』。
 『ベルばら』でも、役替わりで扱いを落とすことを忘れない。
 とにかくとても気を遣って、「特殊な3番手なんだぜ」と示す。すげー細心のバランス取り。
 劇団はほんと、ゆみこ退団以来、番手付きジェンヌの扱いに気を遣っている。

 そんなめんどくさい(笑)「取扱注意」シールの貼られた3番手まっつ。
 まっつが芝居もショーもガチに3番手扱いされたのは、ふつーの3番手として扱われたのは、キムシン・中村Bという、まっつ贔屓の演出家による『ドン・カルロス/Shining Rhythm!』のときだけだ。

 でもって、まっつの退団公演でもあるこの最後のショーが、よりによってまっつに優しい中村B。
 『一夢庵風流記 前田慶次』は3番手役なのかどうかよくわかんないけど、とりあえず『My Dream TAKARAZUKA』では、まっつはガチに3番手扱いされている。ありがたや。

 で、こんなややこしい状況の人だということと、このショーにおいてまっつは3番手である、という前提を述べた上で語る。


 『My Dream TAKARAZUKA』で、えりたんに単独で絡むのは相手役のあゆっちをのぞけば、ちぎくんだけなのね。
 ありがとうソングで退団者がピックアップされているけれど、「退団者」というひとくくりだったり、あるいは単品で、なんだよね。
 トップさんと単独で絡むことはない。
 まっつとえりたんのこれまでのヅカ人生を思えば、ふたりを絡めるのはもっとも手っとり早い「感動的な退団演出」だと思う。いくら中村Bが退団作品を作り慣れてないとはいえ、それくらいはわかると思う。
 まっつとえりたんの長いつきあいを知らない、はじめてタカラヅカを演出する人だとしても、「この作品でこのカンパニーを去る、トップと3番手」なら、ふたりを絡めることは考えつくだろう。単に「上から順」に組み合わせただけでも。
 そんな、いちばん簡単な方法を、あえて無視して退団ショーを作る。
 てのはやっぱ、人事的な配慮かなと思う。

 退団するトップスターと絡んでいいのは、次期トップスターのみ。
 劇団がこの公演で終了するわけでない以上、「これから」のことも考えなくてはならない。次の時代につなげなければならない。
 単純に「トップと3番手」というだけでもだし、ましてや、それまでの歴史もあるふたりを「退団仕様」で絡めたりしたら、印象が大きくなりすぎる。
 劇団が印象付けたいのは「えり→ちぎ」であり、「えりまつ」ではない。
 まっつが劇団の「理想と現実」ギャップのない人なら、彼がクローズアップされる演出も歓迎されたかもしれないが、なにしろ「儲けを出して欲しいが、売れたら困る」という、ややこしい立ち位置の人だ。取り扱い注意、劇団が売りたい商品の邪魔になる扱いをしてはならない。

 それゆえに、たとえ同じ場面に出ていても、まっつとえりたんは絡むことなく、えりたんの横や斜め後ろで互いに正面を向いて踊る、という場面のみをえんえん作り続けるしかなかった。
 ありがとうソングでえりまつのハイタッチがあるが、あれはアドリブであって演出ではない(まっつの中の人・談「やりたいからやった」)。
 つまり、演出でのえりまつは皆無。
 また、まっつはえりたんセンター場面にしか出られない縛りのある人だから、余計に大変。えりまつをコンビで使えない、でも、まっつはえりたんと一緒にしか出せない……演出家としては「どうしろと」とアタマ抱えるよなー。

 そんな事情ゆえに、中詰めのえりたんセンター少人数場面は、このおかしな立ち位置のダンスになったのかなと思った。
 なにをするでもなくまっつが、えりたんの斜め後ろで踊る、という。
 苦肉の策やなあ、と。

 それでも、まっつにスパン衣装を着せて、一歩前で踊らせてくれたところに、中村Bの愛情があると思う。
 本来ならまっつは、みんなと同じ衣装で、おなじ列に入れられただろうから。

 この4年間ずーっと「まっつのショーでの取り扱い」を観てきた者としては、これが精一杯の扱いだったんだろうなとは思う。
 願わくば、最後にえりまつが見たかったな。
 えりたんとがっつり組んで踊るまっつ。
 歌でもいい。
 男同士でデュエットダンスでもいいし、仲良くアドリブしまくる系の絡みでもいい。サヨナラショー得意の稲葉くんならやってくれたかなあ。

 タカラヅカはジェンヌ同士の「関係性」も商品の付加価値として売る劇団なので、退団発表があるとファンは「退団する誰々と誰々の絡む場面があるに違いない」と想像する。
 それがヅカの常だから。劇団が売りにし、かつ、ファンが求めるものだから。
 ……でも、まっつに関しては期待できないだろうなあ、と思っていた。まっつのショーにおける立ち位置って、けっこう難しいからさー。
 中村Bはまっつと縁のある、まっつに優しい先生だということにのみ、一縷の望みを持っていたのだけど、やっぱり無理だったか。
 残念。

 あ、全部わたしの個人的見解ですよ、念のため。妄想過多、ただの偏った想像であり、事実無根ですよ、念のため。
 こんな状況もコレで最後だもの。記しておく。
 『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き。


 中詰めはなんと銀の総スパン衣装。すごいね、スター扱いだね。
 派手派手赤スパンドレスのあゆっちをセンターに、上手にちぎくん、下手にまっつ。
 3人はそのまま銀橋へ。まっつは上手側。

 ここの歌声、3人で歌ってるわりに、まっつの声がすごく聞こえる。娘役は基本ハモリ担当になるし、ちぎまつだとまっつの声が芯になるのは必然といえばそうなのかも。

 初日から10日ぐらい経った頃、まっつがものすごく歌詞を大切に歌っているときがあって。
 この銀橋で「君を強く強く抱き寄せて」と歌うときが、やばかった。
 もともとここは両腕を胸に引き寄せる振りになってるんだけど、歌声とその仕草がめちゃ甘で、心臓直撃された……やべえ、マジ死ねる。
 まっつばっかり見てるからなかなか気づかなかったんだけど、ここって3人とも同じ振りってわけじゃないんだね。ちぎくんはもっと元気者っていうか、ちぎくんらしい振りで歌ってて、この「抱き寄せる」ような振りはまっつオリジナルなのか!!と驚愕した。……ぶっちゃけまっつらしくない振りだから(笑)。

 わたしはまっつ画像を使ってオリジナルグッズを作るのが好きなんだけど、このショーで「このまっつの画像が欲しい! この画像でグッズ作りたい!!」を切望するのが、中詰めトリオ銀橋の、決めポーズ。
 ちぎ・あゆっち・まっつの3人が、銀橋に並んでばんっとポーズ決めて終わる、あれ。
 まっつは片手上げて静止。……まっつしか見てないので、他のふたりがどんなポーズで終わっているのかは知らない。同じポーズなのかも。
 でもとにかく、ここのまっつが美しくて。
 決めポーズがどこから見ても完璧に美しい。まっつのサイズ感にもばっちりあってて(重要)、このままフィギュアにしたい、グッズにしたい。誰かこのまっつの画像ください。スカステさんでもTCAさんでも、誰でもいいから撮って~~!
 プラ板使ってストラップ作る~~!!

 決めポーズのあとは、えりたん待ちになるため、3人は本舞台へ移動。
 このときまっつは銀橋から上手花道へ行くのだけど、花道にたどり着いたとき、いったん止まって後ろのあゆっちを先に通すのね。本舞台での立ち位置もあゆっちの方が中寄りだから。
 この「いったん止まって、あゆっちを先に通す」姿がね……愛想なさ過ぎで。ツボる。
 なんつーんだ、立場的には「お嬢様に道を造る執事」「姫をエスコートする騎士」なんですよ。立場が上の女性に紳士的に振る舞う男性の図。
 もっとあざとくすることは、可能だと思うの。
 それこそ、一礼するとか、手を添えるとか、あゆっちがそれに気づかないレベルで、お客に対して「トップ娘役に道を譲る3番手」として色を付けることは可能だと思う。
 なのに、そんなことは一切なし。たぶん、夢にも思ってない。
 あゆっちを先に通せと先生に言われたから、そうした。だけ。ただ単に、順番変えるために立ち止まった。だけ。
 そのサービス精神のなさに、ウケる。あゆっちへのサービスじゃないよ、客へのサービスだよ、お客は「娘役の手を取ってはける男役」とか、そーゆーのが好きなの、そーゆーのを見たいの、それは客へのサービスになるの。でも、なにしろまっつだからね。
 はいはいはい、そうだよね、そうだろうとも、知ってたよ!的な?(笑)

 えりたん登場の総踊りから、えりまつと一部の男たちのみ残って、ダンスシーンになる。
 歌はミトさんと朝風くん。

 ここがねえ……。
 初日はまっつしか見てなかったから、気づかなかった。翌日ようやく全体を見て驚愕。
 ナニこの無意味な立ち位置(笑)。

 センターえりたん。
 それをとりまく男たち。……の、なか、ひとりだけ、一歩前で踊るまっつ。

 ぽかーん。
 なんだこの、おかしな位置。

 えりたんゼロ番に、左右対称にフォーメーションが組んであるのに、まっつだけイレギュラー。
 かといって、ナニか意味があるわけじゃない。

 なんつーか……苦肉の策?

 こんなおかしな位置で踊るより、ごくふつーに「トップと絡む」振付が見たかった。がっつりデュエットダンスとまでいかなくても、男ふたりでなにかしら関係性のあるダンスを。
 別衣装で一歩前に出るくらい特別なポジションの人なら、特別な振付や動線でいいじゃん。背景の人々と同じダンスなら、一歩前に出る必要ないじゃん。
 いまいちルールから逸脱している、特殊例。
 そこに、中村Bの苦肉の策を感じてしまったんだな。
 や、あくまでもわたしだけの考えです。以下次項。
 えりたんがトップであること。
 それがこんなに郷愁をかき立てるとは、思わなかった。

 『My Dream TAKARAZUKA』は、『ラブ・シンフォニー』に似ている。
 中村Bの「トップ退団ショー」の手持ちがソレしかないので似てしまうんだろう。もともと、同じものしか作れない人だし。

 なんかあちこちで、惑乱する。
 ここはどこ?
 今はいつ?

 「第2章 パリ・ドリーム」で、上手端でネコちゃんたちを従えて踊るまっつを見ていると、懐かしい歌声が聞こえてくる。

 ああ、オサ様だ。

 どれだけ愛しただろう、通っただろう、オサ様の花組。
 オサ様というカリスマのもとに、一生懸命なまとぶんがいて、好きに暴れているえりたんがいて。マイペースなみわっちがいて。
 わたしはいつも、まっつを見ていた。オペラグラスでまっつだけを追いかけていた。
 まっつだけの視界に、歌声がかぶる。ああ、オサ様だ。私のトップスター、私の神様。
 オサ様の歌声にのせて、まっつを見ていた。

 「パリ・ドリーム」で歌いながら登場するえりたんの、歌い出しのあたりが、オサ様の声と似ていて。
 どきっとする。
 花組にいるような気がして。

 スーツ姿のえりたんに、オサ様の面影を見て。

 相性良かったよな、オサえり。
 まとぶんが1年半かけてまだ馴染んでいないオサ様と花組に、えりたんは戻ってくるなりすんなり馴染んだ。これがDNAというものか、と舌を巻いた。
 オサ様が楽しそうに、安心した、預けた笑顔でえりたんを見ていた。

 あのころの花組を、思い出す。

 えりたんの歌声を聴きながら、まっつだけを視る。
 この既視感。この日常感。

 記憶が逆流する。遡る。フィルムの逆戻しみたいに。

 そうだ、『TUXEDO JAZZ』。えりたんが花組に戻ってきた、最初の公演。初日、上手花道にトランクを抱えて現れたえりたんは、コートの雪を払ってた。そして、銀橋で再会したみわっちとまりんから、花を贈られるんた。雪組から花組へ。お帰りなさい、花組のえりたん。初日だけの演出。

 その、えりたんとまっつが最初に同じ舞台に立った公演。……や、えりたんが雪に組替えになる前もふたりは同じ舞台に立っていたけれど、わたしがまっつファンになったのは、えりたんが雪組に組替えになったあとだ。わたしが通う花組に、えりたんはいなかった。
 だから、えりたんが花組に戻ってくるのが、ちょっと不安だった。雪組のえりたんは空気読まないキャラで、舞台クラッシャーだったから。
 でも、それは杞憂だった。雪組ではあんなに浮きまくってたのに、花組では「ずっといましたけど、ナニか?」って感じに、馴染んだ。
 さすが花組っ子! 花のえりたん、いいじゃん!
 てな思いだった、その最初の公演。

 白いスーツで踊るまっつを、わたしは見ていた。
 BGMはえりたんの歌声。「♪手探り探す心臓の場所。生きている意味を知りたくて」
 かっこいい歌詞、かっこいい歌声。
 えりたんはこのときたしか、銀橋にいたんだと思う。わたしは本舞台で踊るまっつしか見ていない。

 銀橋のえりたんと、本舞台のまっつ。

 記憶が動く。思い出をめくる。

 オリーブグリーンのスーツで踊るまっつ。トランプのカード。
 ああ、『ラブ・シンフォニー』だ。中村Bの。
 えりたんが銀橋で歌ってた。でもわたしの記憶にはない。わたしはずっと、本舞台のまっつを見ていた。

 映像でなら知ってる、テレビカメラは銀橋のえりたんを映しているから。
 それがわかっているからわたしは、劇場へ行く。何度も通って、まっつを見る。テレビには映らない、映像に残らないまっつを見るために。

 えりたんの歌を聴きながら、まっつを見る。
 それがわたしの日常だった。

 日常だ。
 だから今もまた、同じようにしている。
 えりたんの声を聴きながら、踊るまっつを見ている。

 日常なのに。

 終わってしまうの?

 中詰め、花のセットを背後に登場するえりたん、出迎えるみんな。『ラブ・シンフォニー』しか思い出さないってば。
 あのときはオサ様だった。わかってる、今ここにいるのはオサ様じゃない。
 だけどあの頃を思い出す。
 オサ様を失うことが寂しくて悲しくてたまらなかった、だけどまっつはまだここにいてくれて、まだまっつとの未来を信じられて、ゆーひくんの組替えも発表になってないから、みんな来年からは番手がひとつずつ上がるって信じてて(みわっちなんか新聞に新3番手って書かれてたよな)、……悲しみと高揚とヘビーリピートでランナーズハイ状態の日々だった。

 しあわせだった。
 今思うと、しあわせだったな。
 まっつがいた。まっつがいた。まっつがいた。

 惑乱。
 今はいつ。

 中詰め、ミトさんと朝風くんが歌うなか、えりたんとまっつが踊っている。

 ミトさんのソプラノは、心の弱いところに響く。
 『マラケシュ・紅の墓標』のパリの場面。「素晴らしいわオリガ」。
 白燕尾で羽根扇を持って踊っていたまっつ。
 ううん、スーツ姿で雨を歌うまっつ?
 君の頬の雨。君を救いたい。

 ミトさんの歌声が響く。
 不安で不快な高音。まがまがしさのある高音。

 ねえ、クリフォード。
 君がクリフォードでなかったら、わたしは君を愛してなかったのかも。

 砂漠の薔薇。
 救いたい。やり直したい。
 やり直せるはず。
 星のベドウィン。相似形の君。

 ミトさんの声が好き。
 不快なソプラノ。やすらげない、神経を逆撫でするような音。

 だからオギー、彼女の声が必要なんだよね。
 『TUXEDO JAZZ』、狂乱の夜に歌声が響く。
 心の奥の鍵がこじ開けられる、パンドラの箱が開く。
 狂った女神は贄を求めてる。

 白いスーツのまっつ。奔流の中に消える。


 いやもお、なにがなんやら。

 わたし今、盛大に病んでるんで、ときどきアタマおかしいっす。
 いろんなことが浮かんできて、生きてるのが嫌になる。
 まっつも大変だ。偶像であることを強いられる商売なんて。

 咲ちゃんが音校ポスターのモデルやってた、あのキャッチコピーは秀逸だと思うの。
「君が、誰かの夢になる。」

 まっつはわたしの夢だから、まっつを失うわたしは、夢を失うのよ。
 夢がなくなったら、人生真っ暗闇じゃん?
 ひどいなあ。絶望しかないよ。

 悲しい人間の常で、未来は見えず、考えられず、過去ばかり思い出ばかり見ている。
 だから余計に、わからなくなるのね。

 今がいつなのか。
 なにを見ているのか。

 年寄りには、膨大な過去があるばかりで、未来なんて大してないわけだしね。総じて後ろ向きな話になるわよね。


 今またえりたんと同じ組で、えりたんの歌声を聴きながらまっつを見ている。

 えりたんえりたん。
 えりたんの声好きだよ。先日の不調のときでわかった、えりたんは「壮一帆の声」として、今の声を作っていたんだね。努力と経験で作り上げた声。
 その声と、わたしのまっつの記憶は、こんなに深く結びついている。

 これから先もずっと、わたしはまっつと、えりたんの声を思い浮かべるんだろう。
 こあらった目線のまっつまっつ、『My Dream TAKARAZUKA』その3。

 「第2章 パリ・ドリーム」。
 銀橋渡って本舞台へ。

 この場面の、まっつのダンスが好き。
 や、まっつのダンスはいつも好きなんだけど、改めて。
 登場からこのネコちゃんたちの場面まで、ほぼソロでダンスの見せ場だったりするからなー。
 ダンスソロは、歌以上になかなか機会を与えられないもんだ。
 舞台上にはもちろんまっつ以外もいっぱい登場しているので、まったくのソロダンスではないんだが、ひとり別の役割を得ているので、ソロでの見せ場だと思っている。

 昔のまっつのダンスを思い出す。
 下級生時代の彼は、もちろんヘタではなかったけれど、とりたてて「うまい」とも思わなかった。
 『琥珀色の雨に濡れて』新公でいきなり2番手役に抜擢されたとき、「この役に抜擢される無名の下級生ってことは、ばりばりのダンサーなのかしら!」と期待して、そうでもなかったことにダンサー好きの友人が肩を落としていたっけねえ。
 たぶん、技術的なことじゃなくて、「見せ方」だったんだろうな。『La Esperanza』新公でもダンサー役だったんだけど(なんでオサ様の役なのに、ダンサー設定ばかりなの、マサツカ?!)、役の設定ほど「うまい」印象がなかった。
 名ダンサーののどかちゃんと組んで踊ったタンゴは良かったから、なおさら「見せ方」なんだろうな。
 きっちり踊っているけれど、きっちり過ぎるというか、力の入ったダンス。きちっ、きちっ、「抜く」ことがないというか。
 きれいに踊っているのに、あまり目立たない、てのもあったなあ。地味だから……というか、やっぱ「前に出る」「他人を押し退けても自分!」という意識には欠けていたと思う。
 客席に向かって発散するのではなく、内に向かう。正しく踊り、表現することに忠実。
 それがいつの頃からか、変わってきた。まっつが変わったというより、その求道者的なスタイルが、その道の過程にある境界線を越えたとき、華に匹敵する濃さを得たというか。
 ただただ実用だけを考えて磨き続けられた刀身の輝きが、ある一線を越えたときうっかり宝石並みの光を放つようになってしまった的な。
 地味か派手かと言われたら、やっぱり地味な芸風だ思うけれど、いぶし銀の存在感を放ちだした。
 地味にきれいに、真面目に踊っている……だけにとどまらず、アピるよりも濃くて目に付く個性に昇華されましたよってか。
 自分のスタイル貫いて磨き続けると、こんなところにまでたどり着くんだなと。

 ネコちゃんたちをバックに踊ってるとこが好きでねえ。ウインクてんこ盛りで「ま、まっつ?!」て感じだし。
 ラストのターンがきれいに展開するんだけど、えりたんの登場とかぶっているから、映像には残らないんだろうな。

 ソロで役割を得ていることを喜んでいる、と書いたけれど、ひとりがいいとは思ってない。
 この「パリ・ドリーム」という場面自体が好きで、たくさんいるキャストの中のまっつが好き。
 ジゴロS@えりたんが現れると、物語の中心は彼に移る。それまでの観客の「視点」だったジゴロA@まっつは上手端を通って舞台奥へ回り、他のジゴロたちと合流する。

 「主役でないこと」の、面白さ。
 それが、まっつにはある。

 それまでまっつを照らしていたピンライトが、舞台奥へ向かうまっつの背中を追う。それがやがて、消えるんだ。
 奥へ回り、他のジゴロたちの間にまざるときには、ライトは消えている。
 そして、娘役たちと入れ替わるように、えりたんの方へ出ていくところで、またライトが当たる。ただしこれはピンではない。
 物語のメインになるときにだけ、ライトが当たる。そうでないときは、はずれる。その繰り返しが、面白い。
 基本トップはずーーっとライト当たりっぱなしだからね。消えることはない。そうでないからこその、面白さ。

 まっつを視界の中心にしていることで、物語が明滅する。

 ライトが当たっていないときも、暗転しているわけじゃない、ちゃんと舞台は明るい。ずーっと眺めていられる。
 その上で、ライトの軌跡を追う。

 ライトの当たっていない、後ろのグループで静止しているときとか、後ろ向いてただ立っているところとか。
 物語のフレームの外にいるまっつが、美しい。
 後ろ向いてるところ、まっついつもかなり上の方見てるよね。どこを見てるんだろう。なにを思っているんだろう。その顔を見てみたいと、切に思う。

 次にピンライトがまっつを照らすのは、せしことペアになったとき。
 えりあゆとまつせし、ふた組のカップルダンス。
 ああここで、物語のメインとなって再登場したよ、臙脂のスーツの男が。ピンライトだけを追った「物語」ならば、まっつはここで久しぶりに登場したことになる。この、ドラマ性。

 まっつとせしこの身長はほぼ同じ。ひょっとしたら、せしこの方が高いんじゃ、てなサイズ感。
 それでも余裕の美男美女カップル。大人のエロス。
 デュエットダンスが楽しめるのが、中村Bのいいところだ。他の演出家に比べて、中村Bはデュエダン率が高い。脇の子たちまでみんな、男女で踊らせる。

 まっつはあくまでも「ジゴロA」。美女と踊ってなお、硬質さがある。ダンスに熱があっても、男と女にエロスが漂っていても、カツンと鳴るような硬質さを感じる。
 それは男がジゴロであり、「生きるために愛する」から。

 ペアでなくなり、えりたん中心のダンスになった、ラストの盛り上がりも好き。

 いのりちゃんの歌声がまた、ドラマティック。

 この場面は、わたしの好きな「まっつ」がしこたま詰まってる。
 冷めたように空を仰ぐ仕草も好きだし、肩のラインを見せつける腕の動きが多用されているのもいい。
 そして、ラストのいのりちゃんの歌い出しのとこ、「♪偽りと知りつつ」で、腕を激しく回すとこが好きだなー。
 まっつは基本洗練されていて、小粋にクールに踊るから、時に乱暴に激しく動くときの破壊力がすごい。見ていてぐはぁっ、となる。

 んでラストになるとジゴロたちも女たちも、なんとなく笑ってるよね。わたしの視界はまっつ中心なんで、あくまでもその周辺だけなんだけど。
 あの硬質で低温だったジゴロが、それまでと同じカラーのダンスを踊りながら、カラーは同じでもスイッチがひとつ上、ターボ入った感じになってて、さらに笑顔も入る、ってナニ。
 アダルトでアンニュイなムードに支配されていたけれど、最後にネコちゃんが勝った?
 ジゴロの持つ世界観と、ネコちゃんたちのかわいらしい小悪魔ムードがせめぎ合っていたけど、最後はネコちゃんか。
 なんせ「♪無邪気な子ネコが愛の夢に誘う」だからね。

 いろんなものを超えたところで、笑みを湛えながら踊るまっつがまた、かっこいい。
 美しい。

 かっこいいね。美しいね。
 クールでエロエロだけど、すべて肯定して笑って、真ん中にいるえりたんに集約して、人生賛歌で終わるね。

 ああもお、すごすぎだ、この場面。
 まっつがとても優しく、歌詞を大切に歌っている気がした……とか、それでもって泣けた……とか、言ってますが、すみません、それでもわたし、まつださんになんの期待もしてません。
 「♪君への思いをここに残して」だとか「♪君を強く強く抱き寄せて」だとか。歌詞は歌詞、表現は表現。まっつの中の人が本気でそんなこと思ってるかなんて、信じてない(笑)。
 「♪離れていも君のことを思い続ける」……ナイなー、と思って聴いてる。
 そう思わせるキャラであることも含め、「未涼亜希」というファンタジーだと思う。


 てことで、『My Dream TAKARAZUKA』こあらった目線のまっつまっつ、続き。

 ソロのあと上手袖へはけて、そのあとまた登場。
 舞台奥から登場したえりたんに呼応して、上手から走ってきて下手位置へ。ちぎくんは下手から走ってきて、まっつと交差して上手側へ。えりたんセンターに、ちぎまつシンメ。
 中村Bのナニが好きって、この上から順番、1・2・3ぶりですよ。
 トップセンターで、2番手と3番手ががしっと挟む。タカラヅカの当たり前の姿なんだけど、なにしろまっつは不遇が当然なので、まともに3番手扱いされる中村Bのダンス配置はほんとうれしい。

 んで、えりたんセンター場面。
 ダダダ、ダダダ、で線香花火みたいに隊列崩して動き回るの好き。まっつの背中好きなので、後ろ向きは逃さず凝視。
 えりたんとアイコンタクトしてにこっと笑うのも、周囲の子たちとアイコンタクトするのも好き。

 で、このあとまた、けっこーな距離をダッシュしてはける。えりたんと一緒に上手へ。ほんとよく走る(笑)。

 オープニングの振付好きなんだけど、なかでもすごく「まっつで見てみたい!」という振付がある……まっつのいないところの振付なんだけど。
 銀橋に大ちゃんたちがいて、本舞台はザッキーとまなはるセンターで逆三角形になって踊っているとこ。ここの振付観るたびに、「なんでここにまっつがいないのっ?!」てくやしくなる(笑)。
 特に、最後の「♪ TAKARAZUKA My Dream~~」のとこのアクション、まっつで見たいっ!! 絶対萌えだと思うの、あれ!! まっつ似合うと思うの!!
 顔の前であれこれやるやつ。すげー平澤せんせらしい動きの。ほら、黒燕尾で「砂時計」やってる感じのやつ!(日本語不自由すぎ)

 はい、次の登場はオープニングラストの総踊りです。
 えりたんはすぐに銀橋へ、彼を追うように、本舞台にいる全員が、主題歌を歌いながら銀橋を渡り出す。
 ここ、まっつの移動順番はなかなかやって来ないので、いつまでも本舞台で踊ってるんだけど、ここの勢い任せ、まっつ比で粗い踊り方もビューポイント。
 同じ曲でも、最初のパートを踊っているときの細かさとはチガウよね(笑)。

 オープニングラストのどうでもいい萌えポイントは、銀橋の立ち位置。
 あゆっちよりも、下手側にいる。
 そして、次の場面があゆっちの銀橋ソロなので、オープニング終了の暗転で、みんな左右の袖にはけなくてはならない。
 まっつは、あゆっちより下手側。
 なのに、上手袖にはけなくてはならない。
 つまり、居残るあゆっちの後ろをすり抜けて、真っ暗な銀橋を走らなきゃならないのね。
 みんな自分の近い方の袖にはけるのに、まっつひとり、遠い袖にはけなきゃいけないの。しかも、あゆっちを追い越して。

 まっつ、大変(笑)。

 笑顔でポーズ決めて、でもライト落ちるなりわたわた走るまっつのシルエットを眺めるのがツボ。

 次の場面で、いちばん先に着替えてスタンバらなきゃならないまっつが、いちばん走行距離が長く、袖に戻るのが遅くなっている。
 という、中村Bのポジショニングの悪さが、後半のきんぐの高速移動板付き黒燕尾にも通じてるんだと思う。中村B、あんまし細かいとこまで考えてないでしょー、と。


 「第2章 パリ・ドリーム」……いわゆる、「ジゴロと子ネコちゃん」場面。

 あゆっちの歌が終われば拍手はそこそこに、本舞台上手側を凝視。
 そこに、ジゴロA@まっつ登場。
 臙脂に縦縞、全ツ『ロック・オン!』でも着ていたあの色男スーツを身にまとい、後ろ姿で登場。

 ありがとう。

 もう、もう、ありがとう!!
 全方向に感謝しかない、この場面!
 曲も振付もキャラクタも世界観も、なにもかも好き。ドンピシャ。
 こんだけ素敵な場面を、よくぞ見せてくれましたっ。

 ジゴロまっつの小粋な歌声。
 ショーのどさくさというか、メドレーの一部としてさーっと歌って渡って終わり、ではなく、きちんと1曲、世界観を打ち出して歌う。「銀橋の歌手」だけで終わるのではなく、その歌声を導入として、その次の本舞台でのメイン場面でも、がっつりメインキャストで活躍させる。
 こういう風にまっつをまともに使ってくれるのは、中村Bだけだったなと思う。
 そうさ、まっつは歌声で、ドラマを作れるのさ。そして、その歌の力を裏切らない、ダンスでもがっつり存在感を見せられるのさ。
 番手の壁だか大人の事情だかで、まっつをろくに歌わせない・踊らせない演出家たちは、もったいないことをしたと思うよ。自分の「作品」に対してね。

 本舞台から銀橋へ出てくるときの、口の端を親指でなぞる仕草が好き。エロ過ぎ。
 『Shining Rhythm!』でもやってたけど、あの悪のマタドール様よりもさりげなく、すっとやってるところがまた、ジゴロっぽい。どっちも振付は佐藤先生……『Shining Rhythm!』のときによっぽど気に入ったのか、まっつのエロアピっぷりを(笑)。

 ここの歌声も好き。まっつの、とてもまっつらしいキャラクタと声。
 大人で、濃くて、エロくて。
 「冷たい横顔」と歌う横顔がやわらかに笑っていたりね。
 それまでのやわらかさから、突然鋭角の動き……つーか体操風(笑)になる「生きるために愛して」の振付が不思議なんだが、ここでメンチ切る(大阪弁)のがいいんだな。
 言葉だけ聞いてると美しいというか、感動的よね、「生きるために愛する」……愛がすべてっぽく聞こえるから。
 でもこれ、逆のこと言ってるのよね。だって彼はジゴロだから。
 「愛する」ことが仕事。彼が配管工なら「生きるために工事現場に入って」とか言うようなもん。
 だからここで、目つきが変わるんだな。それまでの軽さが消え、きつい光を湛える。
 「生きるために愛して、すべてを奪って」……ひどい男。
 でも、そのひどいことが「仕事」として成立してしまう、魅力的な男。

 あ、そだ。この銀橋ソロでの、いちばんのトンデモポイントはこの体操風の振りのあと。
 「♪快楽を夢見る」で自分のカラダを愛撫するように手を這わせるまつださん。

 トンデモないですよ! けしからんですよ! スミレコードやばいですよ!!

 めちゃくちゃエロいくせに、本人さら~~っとやって、歌い終わっちゃいますからね。
 まったくもってトンデモないっ(笑)。

 んで、歌が終わると本舞台へ、そのまま下手側でネコちゃんたちを従えて踊る。


 続く!
 まだまだ書き切れてないことはあるし、書いてもUPしてない記事もあるが、とりあえず、『My Dream TAKARAZUKA』のまっつの話。
 客観性ナシ、わたしの目線でのまっつまっつ。

 最初にこのこあらった目線の……をはじめたのって、『TUXEDO JAZZ』だっけ?
 まっつは基本モブのひとりで、されどやたら出番が多くて人の動きも激しくて、で、見失う人続出!……に、ちがいない。まっつを的確に捉えるために、ここはひとつ、登場場面を全部解説しなければ!!てな、みょーな使命感を持っていたっけ。
 実際、「1回しか観劇機会がないので、こあらさんのブログはまっつ探しの予習になります」とかメールもらうことも多くて、ほんといそいそと出番や立ち位置報告に燃えてた。
 それが今はもう、わたしが解説する必要もないくらい、「スター!」として登場し、誰の目にも印象を残す大きな人になった。
 わたしよりも的確にレポートしてくれる人もたくさんいるし、今はブログの時代でもないし、書けるときだけぼちぼちやってこう……てな感じになって何公演。

 これが最後のまっつまっつ。


 「第1章 プロローグ」、えりたんが銀橋で歌い、呼応して本舞台のスクリーンが上がる。
 そこに、ちぎくん以外の主立った人たち全員集合。番手学年順の立ち位置に、まっつはいる。
 青いてらてらの変わり燕尾。キラキラ付きで、キラキラネックレス付き。金髪に前髪あり、ヘッドマイク。
 特徴のある平澤先生の振付、いちばん似合うのは、まっつだと思う。なんつったって、「まっつステップ」のまっつですから!(笑)
 小さな身体が、よく動く。音に忠実というか、とても丁寧に反応する人だと思う。音と動きの距離感が絶妙で、曲線と直線の使い方が気持ちいい。
 なんだかものすごく「まっつらしいまっつ」で、キラキラっぷりと安定感が同時に押し寄せてきてつらい(笑)。

 オープニングの印象は、なんといっても、「よく走ってるなあ」(笑)。
 真ん中で踊って、袖へはける。それが何度もある。
 あー、真ん中ってことだなあと思う。脇で踊る人たちは、自分の立ち位置から自然に流れていく。真ん中の人はキメ場面が終わると一瞬ではけなくてはならないし、また、どちらの袖にもいちばん遠いから、いつもダッシュ。

 最初の板付きからえりたんのターンの間しばらく踊って、えりたんが下手にはける前に、まっつは上手袖へダッシュ。
 次はちぎくんのターン。ちぎくんが銀橋真ん中あたりに来たら、舞台奥をチェック。
 まっつが上手から登場、とことこセリの後ろを歩いてる。
 まっつちっこいし、舞台にはみんないっぱいいるし、セリの後ろを通ってくるときのまっつは埋もれて見えない(笑)。ここは2階席の方がよく見えていいかな。
 ちぎくんがまだ銀橋にいるから、彼に見とれてたら見逃しちゃうぞ、要注意。この「後ろとことこ」と、「セリの上でにっこり」がかわいいんだ!

 ちぎくん銀橋が終わって、まっつがセリの上から走り降りてきてからが、まっつのターン。

 ここで一発目の銀橋ソロがある。
 「上から順番1・2・3」の中村Bらしく、ほんときれいに順番に。

 えりたんが「美しい場所、美しい思い出」と歌い、ちぎくんが「はじまる」と歌った「夢」。
 まっつのパートは「ひたすら歩んだ大切な時」。

 ここの歌声が、いきなりすごい。

 まっつは、いろんな「声」を持っている人だと思う。
 だけど番手の壁でろくに歌を歌わせてもらえないし、ひとつの公演で求められる機会では、役割を決められている。
 「大人の男役」であるまっつは、主役に対する敵役、立ち役、強い役を求められ続けてきた。
 白い二枚目は彼の役目ではない。
 だからまっつは、ひたすら「強い」歌を歌っていた。
 低い声に濁りを入れて、より大人っぽく男っぽく。
 またその音色が美しく艶っぽいので、ますますその歌い方になる。
 それ以外を忘れそうになるほどに。

 それが今、この最後のショーで。

 濁りのない、力みのない、素直な声を、響かせる。

 明るく澄んだ、高い声。
 きらめくような、クリスタルヴォイス。

 芝居の雪丸と同一人物だと思えないような、透明感。

 こんな声、久しぶりに聴いた。

 こんな優しい声、優しい歌い方を、するんだ……。

 声がまっすぐに伸び、広がり、場を満たす。光が見える。キラキラしながら、宙に舞う。

 幕が開いて1週間くらい経った頃かな。
 まっつがすごく、「歌詞」を大切に歌っていた頃があって。や、普段粗末にしているとかじゃなく、まっつ比で、こっちがびびるくらい「歌詞」を大切に、抱きしめるようにして歌っているときがあった。

 「君への思いをここに残して」が優しくてね。
 「思い」でなにかを胸に抱きしめるようにするんだけど、その仕草ごと深くてね。

 どうしちゃったの??
 見ていて、焦った。
 そんな人じゃないでしょう。そんな優しい人じゃない、中の人がどうかは知らないが、舞台の上でそんなに優しいことをする人じゃない。自分の芸を追求することをいちばんとし、その最上級の姿を見せることがファンへの気持ち、誠実さだと背中で語る人だった。
 なのにこんな、直球に優しさを、愛を、感謝や思いやりを示してくるなんて……。

 また、やたらと目線が来る、気がした。見ていると、見てくれる。
 今までぜっっったい(笑)、目線くれない人だったのに。
 そういうサービスはしない人だったのに。
 1回のショーで何度も目が合った気がして、びびりまくった(笑)。

 ……公演前半の何日かだけで、そのあとまたいつものまっつに戻ったけど。
 歌詞の入り込み方も、あのときをピークに、落ち着いていった。

 あの優しい歌声と表情が、焼き付いている。

 透き通るような声で歌い、優しく心を差し出し、抱きしめ、走り去っていく背中。

 オープニングの水色の衣装って、背中にもキラキラ飾りが付いてるのね。
 それが、翼に見えた。

 肩胛骨は、いつか翼があった名残。
 そんな言葉を、思い出す。
 肩胛骨あたりにあるキラキラ飾りが、いつかの翼に見えた。

 彼が、飛び立って、行ってしまう。

 あの翼で。

 去って行く背中を見て、そう思った。

 や、ただ、銀橋から花道通って走って行くだけのことなんだけど。
 それでも、思った。思ってしまった。

 君への思いをここに残して。
 あの翼で。


 まっつの歌声がやたら優しく感じた日、公演終わって劇場出たらとてもきれいな青空が広がってて。
 公演最初ですから初夏ですから、まだまだ陽も長くてね。

 世界がきれいで、空がきれいで、リニューアルされた門とかきれいで、とにかく、なにもかもがきれいで。

 泣けて、仕方なかった。
 そういえば、だいもんショックで雪組千秋楽翌日に出たいろーんな発表について、なにも触れてなかった。

 なんかいっぱい出てたよね……? 結局ちゃんと咀嚼してないままだ。まっつのせいで、タカラヅカに対してアンテナが鈍くなってるのなー。(空が青いのも、郵便ポストが赤いのも、こんなに生きるのがつらいのも、全部まっつが悪い、という勢いで生きてますから。まっつ大変・笑)

 えーとえーと。(今、改めて確認)

 じゅ、14項目もあるの? 7月15日に発表された情報。ただ機械的にWordに貼り付けて保存してあるんだけど。見出し数えてびっくりっす……。

 星組全ツ『風と共に去りぬ』の主な配役。

 バトラー@ベニー、スカーレット@ことちゃんまでは予想通りなので問題なし。
 ただ、アシュレ@みつるが意外だった。

 専科生となったみつるの活躍はうれしい。同じ植爺作でも、わけわかんない元帥役で、わけわかんないことをただ豪華衣装で何行も喋る、それだけの役を押しつけられるより、どんだけいいだろう。
 しかし、アシュレとは、これまた柄違いな……。
 みつるとベニーだったら、みつるの方がバトラー役者だし、ベニーの方がアシュレ役者だよなあ……。

 ベニーはバトラー役者じゃない。
 だけど、ベニーがバトラーなのはうれしい。
 2番手スターは、「これでもかな二枚目役」をやるべきだ。がんがんがんがん、やるべきだ。
 どうもベニーは、「タカラヅカの典型的二枚目役」の経験が少ない気がして。
 れおんくんの印象が強すぎて、わたしの記憶に残ってないだけかもしんないけど。

 7月15日に出た発表で、組替え以外でいちばん話題性が高かったのが『風共』配役だった。わたしの周り限定。
 つーのは、わたしの周りで声高にこのことばかりわめく人がいるせい(笑)。

 ったく、大劇場でも梅芸でも日生でもなく全国ツアーで、スカーレットが主役なわけないじゃん。
 タカラヅカと縁のない地方のお客様に、「女優が主人公の芝居」を見せてどうするのよ。それじゃ宝塚歌劇団の意味がない。
 タカラヅカの主人公は、男性役。そして、タカラヅカのトップスターというのは、男役。
 この「タカラヅカの基本のキ」を崩すはずがない。
 だから絶対バトラーが主人公。そして、スカーレットは男役が演じるだろう。
 それこそ、梅芸でも日生でもなく全ツだから。
 昔はともかく今は、トップ娘役以外をヒロインとして全国を回らないだろうし、スカーレットは特殊な役で、別箱公演であっても、トップ娘役以外の娘役が演じることは、平成以降はなかったはず。
 だから男役スターが演じるだろう。

 この全ツは2番手スターのベニーが主演だからこそ、無冠の娘役をヒロインに抜擢するはずもない。
 で、3番スターのマカゼがスカーレット可能なタイプかどうかを考えた場合、ことちゃんに白羽の矢が立てられるのは、わかりきったことだよね。バトラーがれおんくんならマカゼもありだと思うけど、ベニーだし。
 ……マカゼのスカーレットも見てみたかったけどさー(笑)。

 平成以降の全ツで男役のスカーレットというと、みんなのちにトップスターになっているので、ことちゃんも超路線として期待されてるってことよね。
 君の未来に乾杯。

 そして、実はみっきぃのアシュレが見たかったんだ……てゆーか、演目見たときから期待しまくってたさ……。


 そいでもって、組替え!!
 コマの専科がうれしい。

 いちばんいいのは、雪組に戻って来てくれることだと思ってたんだけど。
 そうか、専科という手があったか!
 じゃあ雪組に来てね! 雪組のみんなとまた、一緒に舞台に立ってね! ちぎコマの同期コンビを見せてね!

 わたしはどうも、月組のコマくんが苦手で。
 まさおとも組とも合ってない気がして。
 うちのコマつんは、もっともっとイイのにー! コマつんのいいとこ、魅力が発揮できてない~~。……という気がしてました。
 あくまでも、わたしの感想。世の中的にどうなのかは知らない。
 扱い的にも、残念で。ふつー組替えしたら、そのときだけでもポジション上がるだろうに、雪組以下の立ち位置に思えてな。上から数えての位置というより、「下級生の下」というのがショックだった。将来的にどうこうはあったとしても、組替え当初ぐらい、もう少しオブラートに包んでくれるかと思ったんだ。
 みーちゃんが組替えして、いきなりだいもんの下に入ったようなもんか……。でもコマつんはみーちゃんより学年上で、Wとはいえバウ・青年館主演もしたスターなんだぞ……めそ。
 龍馬もアシュレもいい役だったけれど、ありがたいけれど、でもやっぱ、わたしには収まりが悪く思えた。

 わたしだけでもなかったのかな。
 だから、こんなに早く月組を出るのかもしれない。
 や、ほんとのとこなんかわかんないので、あくまでも個人の感想です。

 自分の組を持たない、次にどの公演にどんな扱いで出るかわからない、専科スターは、ガチなファンにとってはショックなことかもしれない。
 でも、自分の贔屓が専科に残ってくれたなら、わたしなら泣いてよろこぶし、今からでもそうしてくれたらと願っているくらいだ。うわあああん、まっつのバカ~~!(しつこい)

 どんなカタチであれ、コマつんがこの花園に残ってくれた。それが、うれしい。


 真彩ちゃんと美伶ちゃんトレードっすか。
 歌ウマかわいこちゃんをわざわざ入れ替えるのは、彼女たちを本腰入れて育てるためよね?
 未来に期待。

 ちなつくん、花組は……ちょっとよくわかんないので、様子見。
 彼も新公主演経験者カウントでいいのよね? 栄転だと期待していいのかしら。
 や、実力のあるイイ男なので、活躍して欲しいナリ。

 雪組に来る研2さんは、ますますわからない……。組配属されたばっかだよね? 何故?


 で、花組トップ娘役、かのちゃん。
 中日公演を見る限り、そうなんだろうとしか思えなかったけど、やっぱもうトップになっちゃうんだね。
 同期のみゆちゃんと違い、時期尚早な気がしないでもない。というのも、新公ぐらいしか、ちゃんとお芝居観た気がしてないから。
 新公ではふつうにうまい。でも、タカラヅカは新公だけうまくても意味がない。大劇場本公演で、うまくないと。本公演で「え、今の誰?!」と二度見してしまうくらい実力がアレレな人でも、新公だとふつーに見えるんだもの、周囲との関係で。
 宙組の本公演で、かのちゃんをまともに観た記憶がなくてな……。芝居や存在感をどうこう思えるほど、差別化された役をやってたっけ……。
 バウヒロは、うまくなかった印象……そりゃ周りの人たちもうまくなかったけどさー。

 花組のトップ娘役って、2代続けて「経験値、未知数です☆」な子が就任するのね。んで、トップになってから修行するのかな……。

 あ、でも中日『ベルばら』はふつーにうまかったぞ、うん。んじゃ大丈夫なのかな。

 ちょっと今のところ不安が大きいのだけど、よいトップ娘役さんになってくれることを期待。
 歌ウマさんだもんねー。重要ですわ、ソコ!


 ……こんなとこかな、7月15日の発表についてのあれこれ。自分的には。


 あ、そだ。
 最後に叫ぶ。

 みりだいで、『Ernest in Love』が観たかったっ!!
 『The Lost Glory―美しき幻影― 』感想つれづれ。

 ディアナ@ねね様の美貌と特別感すごい。
 しかし、どうあがいても貞淑な妻には見えない……(笑)。華やかすぎて、美しすぎて、ひとつところに落ち着く感じはまったくない。
 これじゃ、オットー@トド様が疑うのは無理もない……。ということで、役割に合っているのだと思う。
 でもこの「無理もない……」感じゆえに、彼女に同情的になれない(笑)。
 もう少し、感情移入しやすいキャラだったら良かったのにな。

 また、れおんくんとの相性が良すぎて、恋愛感情抜きに同じ舞台に存在するのは違和感ありまくり。

 過去のトド様の「トップコンビの仲を割って入る形」での降臨公演って、仮面夫婦っぽかったコムまー、コンビをこれから組みますのオサふー、だけだから、今回ほど違和感なかったな。
 あさかなはトド様降臨公演でも夫婦役だったし、ウメちゃんは休演でタニウメを引き裂くことにはならなかった。
 んで、ワタ檀は、檀ちゃんはただのお飾り役で、トドの相手役はワタさんだった……から、これまたちょっとチガウし(笑)。
 ここまでがっつりと「コンビ」売りしているトップコンビの間に降臨するトド様を見るのははじめて。

 トップコンビってのは得難いものだな。
 そういう意味でも、トップ専科の主演降臨は問題ありと思えたニャ。


 ことちゃんは声の良さで、他のすべてが吹っ飛ぶ。わたし的に。
 最初の第一声からして、二度見したもん。「え、今のイイ声は誰?!」って。や、ことちゃんだと視覚は捉えてるんだけど、彼の丸い子ども顔(今回、少年役)と聴覚情報が一致しなくてな。
 子役、じゃなくて少年役。少し毒があるのがイイ。ことちゃんはピュアよりもこっちの方がいいと思う。新公はれおんくんの役だよね? いいなー。

 ことちゃんは芝居もショーも大活躍。歌って踊って声出して大忙し。
 てゆーかわたし、初見ではことちゃんファンの「み」さん(左のリンク参照)より、ことちゃんを捕獲している自信あるわ!!(笑)(てゆーか初銀橋見落とすとか、ありえない・笑>「み」さん)

 わたし最近ほんと、「声」と「歌唱力」にポイント置くようになっているので、ことちゃんの実力は得がたいものです。このまま伸びていってくれることを望む。
 ……昔はねー、わたしのこだわりは「声」だけで、歌唱力はあんまし気にしてなかったのよー。なにしろケロファンだったわけだし。あのハスキーヴォイスが大好物だったので、歌がかなり大変なことになってたけど、気にならなかった。
 今は声と滑舌、歌唱力までこだわりが増えたよ……ゼイタクになっちゃったなー。

 星組では、95期のことちゃんが4番手なんだね。
 別格スターも使っているけれど、いろいろ誤魔化しはしているけれど、結局のところ、ことちゃんとはきれいに線引きされている。
 早いなあ、すっきりしてるなあ。星組の強さはこういうところにもあるのかもな。

 てゆーかさ。
 「トップコンビが6年間変わっていない組」の4番手がいちばん若い、って、新人を抜擢している、って、どうなの。
 トップが変わらない=顔ぶれが同じで客が飽きる、という図式がヅカにはあったはず。
 でも星組だけは、「トップコンビは変わらない」でも、「2番手以下は入れ替わる」という思いきりのいい人事を、故意かめぐり合わせかしていて、フレッシュさも失わずに安定政権が続いている。
 つくづく、うまいなあ。
 ……花組の4番手も95期になるのかもしんないけど、現時点では未定だしな。

 やっぱピラミッドがきれいに形作られている組は、安定感がある。
 またことちゃんが、実力という意味で、きちんと番手スターの仕事をこなしてるんだもん。歌もダンスも芝居も。
 あとはビジュアル……。


 みっきぃがなんかまた、どこかで見たみっきぃをやっている。
 シュウシオツキ氏はどこにいてもナニをしていても、あざといなあ。チクショー。←誉めている。
 しーらんはこれまたとてつもなくしーらんである。
 演出家はなんつーか、意外性のない役割を求めるのだなと思ったり、そう思うってことはキャラを裏切らない配役ってやつなのかなと思ってみたり。

 風ちゃんの役回りに既視感。……あ、『落陽のパレルモ』。んじゃトド様がオサ様? とか考え出すとキリがなくなるのでやめる。

 まさこ氏がかっこいい。実にイイ。
 なにがどうじゃないけど、せおっちが目を引く。ハンサムだなあ。
 美城れんはこれくらいの比重がいい。出過ぎると、チガウ。いろいろと。


 初日のトド様に納得がいかないので、後半にまた観に行きたい。……わたしに余力があれば。(東宝通い予定のため、時間も体力もやばい)
 てゆーかチケットないの? 星組さんは相変わらずすごいなあ。

 演目や付加価値(退団公演とか)に関係なく売れている組がある、という事実はうれしい。
 稼げる組が稼いで、稼ぎにならないだろう実験的な演目や、若手や実力派別格にやさしい演目なんかも、企画して欲しいっすよ……。「儲かるから『ベルばら』三昧です!」なタカラヅカじゃ絶望する。


 しかしこの芝居、新公はいろいろ大変そうだな。つか、悪役のことちゃんが楽しみ。
 ……問題は、チケットがないことだ(笑)。
 ともあれ、『The Lost Glory―美しき幻影― 』マカゼさんがかっこいいっす。

 なつかしいなあ。『Kean』で初抜擢されたマカゼ氏(研2)はコチンコチンに固まっていて、どいちゃんとかに「フレッシュ、フレ~ッシュ~!」と囃し立てられてた……よね?
 マカゼというとこの稽古場レポートの「フレッシュ、フレ~ッシュ~!」がずーっと記憶にあり、なにかにつれ思い出す。あと、みょーな抜擢をされていたれんたとか。『Kean』って不思議な公演だったな。

 星組でのトド主演公演では、ニール・サイモン以外、いつもマカゼが関わっている印象。
 『Kean』『コインブラ物語』『南太平洋』……そして今回。劇団推しスターだから、あえてトドの下に置かれるんだろうなあ。トド様作品ではなにかと鍛えられるよね、スター力や真ん中力を。

 そして、毎回確実に、かっこよくなっている。

 カーティス@マカゼ氏、なんかいいわー。好みだわー。
 ヘタレマカゼじゃないのに好みだなんて(笑)。今まで、ヘタレばかりを愛してきたのに。こんなふつーに「かっこいい設定」の男がかっこいいなんて……どういうこったい!

 マカゼはやっぱ、歌わなければ男前なんだよなあ。
 『太陽王』はつらかった……ビジュアルは素敵なんだけど、歌が長すぎた。あんだけ長い長い歌を、そして歌の力だけで場面を終始させる役を、マカゼ氏に振るのは勘弁……マカゼ好きだけど、つらかった……。

 話の中でちょろっと歌って踊るくらいならいいのよ。場面ひとつまるまる彼の歌だけで持たすとか、そういうのでなければ。

 だから今回最強。
 マカゼかっけー! ビジュアルもキャラクタも好み過ぎる。
 二枚目過ぎないゆるさと、誠実さと骨太さがいいの。
 マカゼの体格はいいなあ。この役、華奢な人が演じたらもっとよわよわ繊細キャラになりそう。
 マカゼがあの体格で、あの持ち味で演じることで、ある種の愚鈍さが出て、そこがいいの。より男性的で。

 マカゼがすっごく好みであるだけに……。
 マカゼがこの役で良かった、と思うのは本当なんだけど。

 ベニーとマカゼ、役が逆だった方がいいんじゃ? と、思った。

 ロナルド@ベニーは、イヴァーノ@れおんくんに騙される、ディアナ@ねねちゃんの元カレ。ディアナに未練タラタラで、オットー@トドへの当て馬として利用される。
 もちろん、使い捨てられて破滅。ご愁傷様。
 ……という役。

 えーと。その。見慣れた、逆ギレベニー。

 最近はこのテの役あんまやってなかったけど、ベニーが路線として注目されはじめた頃、このテの役ばかりを立て続けにやっていたこともあり、見慣れた感がひどい。見飽きた感といもいう。
 正直、またこれ?! と思った。

 正確には違うんだろうけど、わずかな差を考えるより、「また」と大雑把に感じてしまうことの方が、早くて強い。
 わたしは保守的な年寄りなので、路線スター様が「いつも同じような白い二枚目」「いつも同じようなオイシイ黒い役」をやり続けることは「見飽きるけど、それでいい」と思ってます。それが「タカラヅカ」だと思っているから。
 でも、路線スター様が、「いつも同じような逆ギレ役」「いつも同じような病んだ役」を続けるのは、「ヅカとして、どうよ?」と思います。
 正統派の二枚目が、たまに、あるいははじめて、「逆ギレ殺人上等な役」をやる分にはいいんだけど、それが「またか」と思うくらい何度も何度もやるってのは……演出家に愛なり配慮なりが欠けている、と思う。

 ロナルドが必要以上にキモチ悪いキャラクタになっているのはベニーのせいで、本来の脚本ではもう少しまともな人だったのかもしれないけど、この役をベニーがやるのは、わたしはうれしくない。
 ベニーの引き出しにある役で、そして2番手という次のトップスターが見えている状況で、「また」と思わせる役を、今またこのタイミングでやらせる意味がわからない。
 まあ、景子たんは一部のお気に入りの生徒以外にはアテ書きしないし、番手やイメージだけで配役したんだろうなあと思う。
 そーいや『ハプスブルクの宝剣』のときも、ベニーの扱いはぞんざいだったっけ。そして主演作である『ジャン・ルイ・ファージョン』では、ベニーでなくてもかまわない役と作品だったっけ……。

 カーティス@マカゼがすごく好きだけど、好み過ぎるんだけど、このカッコイイ役は、ベニーがやる方が良かったんじゃないかなあ。
 役の比重なんて、銀橋ソロひとつで変更可能だし。
 マジにかっこいいベニーをここで印象づけて、次のバトラー役につなげても良かったんじゃあ……?

 ベニーとマカゼって、キャラが対照的なので、創作者側としてなら、いろいろ想像膨らむよなあ。
 わたしなら、このふたりで見たいモノ、いろいろあるけどなー。
 なんかもったいない気がする。単体で、ではなく、ふたりで、どう使うか。


 願わくば、彼らがもう少し、歌えたらなあ(笑)。
 トド様のことはともかくとして。
 『The Lost Glory―美しき幻影― 』って、どうよ?

 えー、きれいでした。
 景子先生の新作ですから。
 問題なくキレイです。期待した通り、キレイです。

 そして。

 薄い、です。
 なにもかもが。

 いやあ、とっても植田景子。いつもの「本公演の」景子たんです。

 トド様にエンジンかかってきたら、またちがうのかもしんない。
 わたしが観たのは初日なので、まだきちんと出来上がってなかったのかもしれない。
 にしても、痛切に、いちばんに感じたのは、あらすじばっかで、本編がどこかよくわかんない。……だった。

 これは、トップスターがいるのに、トップ専科様降臨作品である、という縛りゆえに起こったことだろうか。

 星組トップスター柚希礼音様が、えんえん銀橋で、あらすじを解説している。
 1場面、他の人の話がありました。すると次に、イヴァーノ@れおんくんが出てきて、長々と解説をはじめる。
 んでまた1場面、他の人の話がありました。すると次にまた、イヴァーノが出てきて、説明をはじめる。
 この、繰り返し。
 イヴァーノさんがもー、喋る喋る。なにをどうしてどうなって、これからどうなるのか、とにかく全部台詞で喋る。歌で喋る。
 いやその、解説いらないから、芝居を見せてよ。君が台詞で説明していることを、芝居にして見せてよ。
 あらすじ解説はもういいから、いつ本編がはじまるの??

 えーと。
 イヴァーノの解説部分、ぶっちゃけ、いらなくね?

 オットー@トドたちの、ふつーにドラマやってる部分だけで、イヴァーノはそこに脇役として加わっているだけで、十分じゃん?
 んで、最後の種明かしのときにはじめて、「実はすべて俺のたくらみだったのだー!」とジャーンとやれば済むことなんじゃ?

 なくても話は進むのに、場面切り替えごとにイヴァーノが出てきて、余分な解説をえんえんえんえんはじめるから、作品全体が「まだストーリー開始以前のあらすじ解説? いつ本編はじまるの??」という印象になっちゃった気がする。
 また、本編を演じているトド様より、あらすじ担当のれおんくんの存在感がダンチに強いもんだから、あらすじしか印象に残らないのだ、という気もする。

 ほら、この間の植爺『ベルばら』で、オスカル@かなめ様がまだ登場してないうちに、ジャルジェ将軍@汝鳥サマがえんえんえんえんえんカーテン前であらすじ解説してたじゃないですか。ちょろっと他の人たちが出てきて会話して、また汝鳥サマがあらすじ語って……あーゆー感じっす。
 で、いつ本編はじまるのよーっ、あらすじいらないから、本編見せろ~~!

 星組トップのれおんくんに気を遣いすぎたせい? 彼に出番と台詞を!と思ったら、あらすじ担当になっちゃった?>景子たん

 トド様降臨でなく、「主役と準主役が同じ位の出番と比重」という縛りがなかったら、どんな作品になっていたんだろう。
 イヴァーノがあそこまでしゅっちゅー出てきてあらすじを語るハメにはならなかった、気がする。

 で。
 もひとつ敗因というか、あらすじ感が強かった理由は。

 イヴァーノの目的が、見えなかった。

 オットーを失脚させるため、彼から会社その他を奪うため、イヴァーノがいろいろ画策しているのはわかる。なにしろ自分で全部解説してるから。
 でも、そんだけ喋りまくってるくせに、なんのためにそうしているのかが、わからない。
 オットーを恨んでる? 社長になれると思ってたのに、選んでもらえなかったから? えっと、それだけ?
 イヴァーノがナニを思ってなんでこんなことをしているのか、さっぱりわからないまま80分とか経過するわけですよ。長いっすよ。
 だから彼はただのあらすじマシーン。話を進めるための都合のいい人。

 ラスト10分ぐらいになってようやく、「信じてたのに裏切られた! ラブアンチなめんな!」というオチが語られる。

 えっ、トド様目的だったの?? 愛されてたと思ってたのに、そうじゃなかった、愛してくれないなら滅んでしまえ!てな気持ちだったの??
 ごめん、ぜんぜん、わかんなかった。

 わたしは男同士の愛憎が大好物なので、そうだったらいいなあ、と思って、そっちに妄想したくてうずうずしながら観ていたのに、それでもまったく伝わってこなかった。
 だから、イヴァーノがなにをしたくてこんなにダダをこねているのか、ちっともわかんなかった。
 目的がわかんないまま「次にこんな悪だくみしました」「次はこんなことしちゃうぞ、ふふふ」を語られ続けても、出来事羅列はただのあらすじ、気持ちが見えないと退屈なだけ。
 えええ、れおん様は愛飢え男だったの? 好きの裏返しで復讐してたの?

 それならそれで、早く言ってよーー。

 どーでもいいあらすじ語る暇があったら、「トド様ラブ! 俺を見てくれないトド様が憎い憎い、愛されないなら憎まれた方がマシだ~~、どん底に突き落として俺を一生忘れられなくしてやる~~!!」てな愛の絶唱なりダンスなり、やってくれりゃーいいのに。(役名で言いましょう)

 イヴァーノがオットーを愛していたから、というのは、景子たん的に秘密、クライマックスのどんでん返しのつもりなんでしょう。
 悪役だと思っていた彼が、悲しい愛飢え男だとわかった……そうか彼は根っからの悪人じゃなかったんだ……! てのが、どんでん返しその1だったのね。
 や、それをどんでん返しにするなら、あそこまでイヴァーノをあらすじ専科にしないでよ、長すぎるよ!
 今のイヴァーノの出番と台詞量なら、最初から「トド様が憎い、愛しすぎてて憎い」(だから役名で……)と言わせて、苦悩させまくってくれよ。
 なにがしたいのか、目的をわざと伏せた状態で、あんだけ解説ばっかさせたら作品バランス狂うっての。

 トド様を愛しすぎてコワレちゃったれおんくんとか、それだけですげー食いつきのイイ設定だと思うんですが。
 どうしてそれを「最後までナイショ」にし、「ナニを考えているのかわからない、クールな悪役」にこだわっちゃったのか。

 いろいろともったいないというか、この設定と配役とストーリーで、わたしならこうする、がてんこ盛りっす。
 ああ、じれったい。もったいない。


 とりあえず、次に観劇するときは、「イヴァーノの本心」を念頭に置いて観るよ。
 そうしたら、違って見えるかな。彼があらすじマシーンじゃなくなるかな。てゆーか、2回観ないとわかんない作りにしないでほしいっす。……2回観たら、わかるのよね? 余計フラストレーションたまったりしないよね?

< 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 >

 

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