思い出すのは、ケロちゃんの最後のムラ茶会だ。

 宝塚ホテルの狭い宴会場にきゅうきゅうに押し込まれ、ハコの大きさと収容人数見誤ってね? 通常のテーブル形式お茶会ってもっと余裕あったんじゃ?ってくらい、狭い印象のあったケロのラスト茶会。あんときはさらに、グランドピアノが入ってたしなー。そりゃ狭いか。
 5年前のあのお茶会はまさしく「最後」のお茶会っていうか、すげーサヨナラ・イベントで、最初から最後まで退団の話のみ、本人は泣くわ客は泣き続けるわわたしも泣きすぎて足元おぼつかなくなってるわで、会場中が異様なテンションに満ちていた。

 アレはたしかに行き過ぎってゆーか、異様だったのかもしれないが(他の退団決まった人のムラ最後のお茶会に混ざってみたことは複数あったが、あそこまで極端ぢゃなかった・笑)、それにしてもえーと、退団に関しての話がない、つーのは、おどろいた。

 立樹遥お茶会『My dear New Orleans/ア ビヤント』にて。

 しいちゃんは「ムラ最後のお茶会」であることに言及してはいたけれど、ケロ茶会のときのメインの話題だった、何故、退団を決めたのか、いつ、退団を決めたのかについては、なにも語らなかった。

 お茶会はふつーに「ファンからの質問」にしいちゃんが答えていくんだけど、ふつーに「公演について」と「オフについて」で、テーブルにあらかじめ配布されていた質問用紙だって、いつもお茶会で使用している汎用タイプでしかないよね? 「最後の」という、特別仕様ではないよね?

 ケロはたしか、お茶会に登場してまず、「何故退団するのか」を司会者の仕切り関係なく、とにかく喋り出したぞ? 「いつ退団を決めたのか」を、えんえん語り続けたぞ?
 「これを言わなきゃ」「これだけは伝えなきゃ」という使命感めらめらに。
 で、ゲームもなにもなく、ピアノの生演奏(弾き語りではなく、ピアニスト付き)でケロが歌ったりして、とにかく「退団イベント」って感じでみんなで泣きまくって終了しちゃったぞ?

 ケロみたいに極端なサヨナラ・イベントにしてくれなくてもいいんだが、それにしても、退団に関する質問が一切読み上げられなかった、てのは、意外だ。

 でもって、大抵のジェンヌは言葉を濁して語らないにしろ、お約束の質問であり、話題である、「退団後にどうするのか」ということも、一切出なかった。

 これが「退団公演である」という前提で、芝居やショーについて役作りや感想を語りはしても、直接的な「退団」についての話はない。

 それが、立樹遥という人なんだろう。

 だから彼が何故、退団するのか、いつそれを決めたのか、退団後はどうするのかは、なにもわからない。

 しいちゃんはあまりにいつものしいちゃんで、かっこいー黒尽くめの姿にまぬけな「本日の主役」とプリントされた宴会タスキを掛け、太陽の笑顔で公演や役のことなどを語り続けていた。

 『My dear New Orleans』のアンダーソンさん役については、ルル@あすかとの関係、彼女をどう思っているとか、ルルの死後はどうしたのかとか、そんな話を真面目にしていた。

 わたし自身がアンダーソンさんという人をあまり理解していないので、しいちゃんが語るアンダーソンさん像は、あんまりぴんと来なかった。
 本人が「こう思って演じている」と言うことが正解なのかもしれないが、わたしはけっこう、本人がどう思って演じているかは関係なくて、あくまでもわたし自身がどう思うかのみを重要視するので。

 歓楽街を仕切るボスの役なので、お稽古の最初、しいちゃんは柄悪く演じていたそうだが、景子せんせからこだわり注意があったらしい。景子せんせは細部にこだわる人だ、彼女的アンダーソンさんのこだわりは、「品良く」。

 はい、ここで客席、笑う。

 しいちゃん「なんで笑うんですか!」……演出家注意により、しいちゃんは「品良く」アンダーソンさんを演じているらしい。わたしたちが見ているアンダーソンさんは、景子せんせがこだわった「品のいい」アンダーソンさんなのだ。

 歓楽街を仕切るボス、とゆーとわたしはつい、マルセイユの愉快なあんちゃん、石鹸アーティストのシモンくん@まとぶを思い出しちゃうんだが。
 時代的に20年ほどの時差があるのか? 舞台はアメリカとフランスだけど、アンダーソンさんフランス人だし?
 シモンと比べるとアンダーソンさんはたしかに、品があるわ。セレブな感じ。
 アンダーソンさんをそーゆーキャラに仕立て上げるあたりが、いかにも景子せんせ的ではある。

 下品なギャングの囲われものではなく、貴族に庇護されている高級娼婦のイメージなんだろうな。だからアンダーソンさんはフランス人でなくてはならなかった、と。
 でも、それゆえさらに、アンダーソンさん像がわかりにくくなった、気がする。
 あくまでも、わたしには。
 アンダーソンさんって、やっぱよくわかんない……。

 『ア ビヤント』に関しては、すげー端的に感想言いましたよ、この人。

「サヨナラショー」と。

 うわ、言っちゃった(笑)。
 誰もが思っているだろうけど、いちおー、「一般人も楽しめるショー」としての体裁は取り繕っているのに。
 サヨナラショーだと思って演じてるんだ、出演者。
 や、だからソレは観ている方もわかっていたけど。

 言っちゃうんだなー、と、思った(笑)。

 過去のいろんなしいちゃん舞台を思い出すことも出来るような衣装や場面があってたのしいとかうれしいとか、そんなことを言っていたような。

 
 あまりにふつーにお茶会は進み、ふつーに笑いとかあって、特に「サヨナラ」演出はないのだけど。
 その「知っている」しいちゃんの姿に、なんだか焦燥感をかき立てられていた。

 実は前日、ほとんど眠れなかった。
 退団発表時のショックはショックでしばらくぐたぐた言っていたけれど、その後はわりと落ち着いて現実を受け止めていたんだが、いざお茶会の日が近づくとどんどんこわくなって、当日は仲間たちに「こわい」と言いまくっていた。

 これが、最後のしいちゃん。
 これが、最後のお茶会。

 ナマの「しいちゃん」に会える最後なんだ。

 そう思うと、こわくて、こわくて。

 自分ではふつーにしていたつもりが、いざ握手となるとテンパっちゃって、握手列のわたしの後ろだったkineさんに心配を掛けた。

 しいちゃんになにか言える最後の瞬間だから、舞台のしいちゃんが素敵だってことを伝えようと思っていたのに。あすかちゃんとのダンスがすげーきれいで好きとか、そのへんのことを言うつもりだったのに、いざしいちゃんを目の前にしたら全部ぶっ飛んで、口から勝手に、そのときの本音が出た。

 寂しいです。

 ……とにかくテンパっていて、「寂しい」しか言えなくて、や、ほんとにただ単語だけで。
 寂しいです、だけ言って、うわ、このままじゃ泣き出してしまう、とあわてて逃げた。
 走って逃げた。

 で。
 正気に返る。
 しまった。
 イタリア男kineさんが、しいちゃんにどんな日本人赤面の口説き文句を言うか、聞いてやるつもりだったのに。走って逃げちゃったから、わかんないっ。不覚!
 聞いても教えてくんないしさ。「べつに、ふつうのことを言っただけ」とかなんとか。イタリア男のふつーと日本人女性のふつーはチガウってばよ。

 結局、「寂しいです」しか言えなくて、kineさんの赤面口説き文句も聞き逃して、なんかすごい負け犬感。

 貧血起こしそうだからさっさと糖分補給だ、とケーキにがっつきながら、「本日の主役」タスキを掛けたまま写真撮影+握手をしているタツキさんをぼーっと眺める。……ああ、黒尽くめに白いタスキが無駄に栄える……(笑)。
 

 あなたが与えてくれるものはキラキラ幸福に満ちているし、出会えて良かったと心から思っている。
 しあわせで、うれしくて。
 それは、たしか。

 だけど今、寂しいです。
 ただ、寂しいです。

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