総じて「が、がんばれ」と手に汗握る「新人公演らしい新人公演」であった雪組新人公演『マリポーサの花』

 鮮烈に観客の注目を浴びたのは、リナレス@彩風咲奈くんだ。
 ナイトクラブのステージでのスペイン語の歌を歌い踊ったあとの、あの拍手。「新人公演がんばれ」という意味の拍手ではなく、真実彼の歌声に対する賞賛の拍手だった。
 すげえ。ただ「歌いました」になっている人々の中、「聴かせる」レベルまで歌ってくれるなんて。
 終演後、わざわざ博多から駆けつけてきた(博多?)kineさんと最初に話したのはこのリナレスくんのことだ。

 『凍てついた明日』でもそうだったけど、この子、うまいよね。
 もちろん、まだ声変わり前の少年ではあるんだけど、「子ども」ではなく「青年になる前の少年」なの。タカラヅカに必要なのはファミリーミュージカルの子役ではなく、恋愛モノが演じられる大人の男役なのだから、実年齢はまだ10代であろう彼が、「子役」でないことがうれしい。
 ただ、正塚芝居のリナレスは、女の子か子どもすれすれの喋り方をする。男らしい語尾は使わない。この台詞を言うにはまだ男役として若すぎて、リナレスのキャラ設定を下げてしまった感はある。語尾が「〜〜のか?」ではなく、「〜〜の?」である台詞で、大人に見せるの至難の技だよな。
 幼くなりはしたけれど、それゆえの純粋さで革命を夢見る少年像が見えた。

 舞台姿は、もりえくんにやたら似ていた。スタイルの良さも……顔も。素顔はぜんぜん似ていないのに、何故?

 
 エスコバル@りんきらくんは、そつなくこなしていた。ナニが悪いということはないんだろうけど……地味? 小さいというか、きちんと演じているわりに伝わってくるものが少ない。ネロ@せしるとそれほど友情があるようにも見えないし……。
 芝居の相性がよくないのかな。絡みのあるネロともアリシアとも、あまり噛みあっていなかったような。

 新公では、エスコバルの最後の見せ場である「バスティーユに白旗が!」「フランスばん……ざ、い(バタン)」シーンの演出を変えられていた。
 本公では、ネロを逃がしたあと死んでいくエスコバルの歌の背景に、チャモロの演説が流れる。あくまでも、背景だ。メインはエスコバルの歌であり、その最期だ。
 しかし新公ではチャモロの演説にチャンネルが合っており、ボリュームもこちらが上。エスコバルはその背景になってセリ下がり。……えええ?
 エスコバルの比重が下がってますがな。ジェレミー@『凍てついた明日』に続き、ここでも役の比重を下げられている? りんきらくんって、そーゆーキャラなの?

 
 ヒロインのセリア@みみちゃん。がんばってました。
 『凍てついた明日』でもそうだったけど、きれいで学年的に及第点の演技で、これといって印象に残るものがない……わたし的に。
 まだ研2だし、次のバウヒロもきまっているし、雪組では久々の美少女キャラの若手だし、今後に期待。

 
 アリシア@みなこちゃんは、さすがにうまかった。あのエスコバルが相手なので呼吸が難しかったと思うが、それでも合わせようとがんばっていた。
 
 イヴァン@モーリーは、また子役。これも正塚の台詞マジックだなと思う。この無骨な馬番くんは、大人の男だから味が出るのであって、まったく同じ台詞を子どもがやると、ふつーに「かわいいわね」で、笑える場面にはならない。
 モーリーは自分の意志で子役しかやらないのだろうか? かわいらしい子だから子役を振られがちなのはわかるが、こうして本役が青年なのに、それをわざわざ子ども役に変更してまで子役ばかり演じ続けるというは……本人的にどうなんだろ?
 子役ができるというのはオイシイから、子役専科を狙う(ハツネマヨ枠というか)というのはアリだと思うが、いい加減ふつーに男役やってるのも見てみたい。『ソロモンの指輪』でも子役やってんだからさぁ……。

 雪組に今切実に必要なのは、大人の……壮年以上が演じられる男だ。
 上級生渋系男役欠乏状態なので、新公で大人役を振られる子たちは期待の星、責任重大だよね? そのまま成長すれば活躍の場はあるのだから。

 フェルッティ@しゅうくんは着実にいい男に育ってきている。フランツ@『エリザベート』とドピルパン@『君を愛してる』と、おっさん役を重ね、愛嬌のある大人になってきているのがイイ。
 てか、しゅうくんってまだ新公学年だったんだね……出演してるからおどろいた(笑)。

 イスマヨール@みれいくんは、かっこいい系なおとーさん。本役のマヤさんとはまったくちがう、若くて硬質な愛情あふれるおとーさんだった。新公面子の中ではうまい方だと思う。……けど、わたしはちょっと苦手かなあ、彼の演技。本役のギャングでも感じるんだよなあ……。や、芝居なんて相性だからさー。

「雪組で2番手になるには、まずハマコを倒さなければならない」
「雪組で路線スターになるには、まずはあいようこおねーさまの相手役を務めなければならない」
 など、いろいろジンクスのある雪組だが、ここでもうひとつのジンクス発動。
「雪組新公主演者は、次にハマコの役を演じなければならない」

 『君愛』でのコマがそうだったように、今回はキングがハマコの役だ。
 大統領サルディバルはかっこいいというより間抜けな役なので、甘いマスクのヘタレちゃんな芸風になりつつあるキングが演じるとどんだけ情けないダメダメ大統領になるかと、仲間内で注目されていたキャスティングだが。

 サルディバル@キングは、思っていたよりずっとまともに大統領を演じていた。なにやってもきれい、つーのは強みだよなあ。すらりと長身の、えらく二枚目の大統領。たぶん女性票が強いんだろうなと(笑)。
 神経質で浅はかな感じで、チンピラ風のネロと良いコントラストだったかも。
 ただ、あの海苔のような口ヒゲは、良かったんだろうか?

 しかし、役の少ない芝居だ……。女の子に至っては、ほんとに見せ場がない。

 あずりんはフェルッティの手下1の方。
 見せ場がアレだけなので、これまた演技についてはどうこう思う間もなく。
 ただ、ダンスの立ち位置がよくてびびった。センターが基本ですか、そうですか。
 顔が好きなので、眺めているだけでたのしい。

 れのくんはらぎくんの役。やっぱきれーだなー、この子。あの横柄なアメリカ人役は、美形枠なのか(笑)。

 チャモロが誰なのか、事前チェックしていなかったので、ぐっちょんでおどろいた。
 新公のパワーバランスの中では、まだ英雄枠にハマっていたかな、と。本公はチャモロが登場するなり肩すかしになる(せしるに含みはない、役のイメージ的に専科さんクラスが登場すると思ってしまうから)ことを思えば、ここで最上級生登場は正しい。
 
 そーいや男の子たちは全員戦闘要員なので、その直前の民衆の大コーラスはリナレス以外全員女の子なんだよねえ……。不自然な画面になってしまうが、それもまた新公の醍醐味。

 
 ものすごーく難しい正塚作品だからこそ、この新公を糧にして、いい役者になってくれるんだと未来に期待しまふ(はぁと)。


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