彼もまた、天下を狙う。@虞美人
2010年3月21日 タカラヅカ 勝手に張良さんについて語ってますが、もちろん彼がナニ考えてるかはわかってません。彼の考え方や人生に関して、脚本で解答を語っているわけじゃないしな。
また、役者がどう考えて演じているかも、関係ないっす。
見たいモノを勝手に見て、勝手に語ってこそヅカヲタ(笑)。
てことで今回語るのは、『虞美人』の、衛布さん@みつる。
とにかくぱったばったと人が死んでそれきり出てこなくなる、この作品。
衛布さんも2幕前半であっさりお亡くなりになる。
ここで死んでたらいかんやろう!と思うんだけどねえ。
というのも彼には、二重の意味で役割があるのよ。
張良のくだりでも書いたけれど、この『虞美人』にはテーマのリプライズがいろんなカタチでちりばめられている。
項羽@まとぶんと劉邦@壮くんという、ふたりの武将を対比させることで展開する物語だ、あらゆるところに主人公の影が存在する。
衛布というキャラクタの役割の一つは、「もうひとりの項羽」である。
項羽のテーマソングである「私には羽根がある」だけど、この歌は彼ひとりのものではないのね。
この時代の野心を持つ男たちすべての、テーマソングなの。
そもそも衛布は、「誰もが天子になれる」を歌う男のひとり。
項羽が自分の可能性を信じ未来に希望を掲げて歌うこの歌を、衛布もまた歌っているの。
衛布も項羽と同じように、天下を狙う武将のひとりなんだ。
衛布は、もうひとりの項羽……己れの才覚ひとつで天にその存在を問う漢、なのよ。
それゆえに桃娘パパ@めぐむを裏切り、項羽に付いた。居酒屋に密偵@みとさんを放ち、情報収集していた。
項羽の忠臣のふりをしながら、自分こそが覇者になるべきだと爪を研いでいる。
項羽が「誰も裏切らなかった、裏を掻かなかった」とその人生を昇華させるのと対照的に、衛布は裏切りと卑劣を極めて頂点を狙う。劉邦が人から愛されて力を得るのとも対照的に、人を利用し憎まれて前へ進む。
役割がきちんとあるので、衛布は最初、やたらイイ扱いで登場する。
野望に燃える項羽の才覚を見抜き、瞬時にその側へ付く。さらに、思わせぶりな密偵の存在、「ご主人様に知らせなくては」と大仰な引きまで使う。
項羽を仇と狙う第2ヒロイン桃娘@だいもんを手の内に置く。
項羽のミラーのひとりなんだから、これだけの描かれ方をしていても不思議はない。
そして、衛布の二重の役割のもうひとつは、その第2ヒロイン桃娘の関係者、ということだ。
項羽と劉邦の物語の中に付け加えられた、ドラマティックなサブストーリー、英雄・韓信@みわっちと男装の少女・桃娘のロマンス。
それに、「悪役」として絡むということ。
桃娘の弱みにつけ込んで弄ぶ悪漢。
項羽とも劉邦とも違い、裏切りと卑劣を極めて頂点を狙う衛布に相応しい役割。
この衛布が、桃娘にあっさり殺されること自体は正しいと思う。
悪漢には悪漢に相応しい死を。
戦場で華々しく散るのではなく、宮廷で痴話喧嘩のように女に殺されるのは、彼に似合いの最期だろう。
利用していた娘に殺されて終わるのは、因果応報。
彼の抱いていた壮大な野心が、名だたる武将との立ち会いの末や陰謀劇の勝敗によって断ち切られるのではなく、ちょっとした油断によって簡単にバッドエンドになる。
項羽のミラーとして、正しい最期。
正しいのに、ここで死んでたらいかんやろう!と思う。
だって。
二重の役割を受け持ちながら、あるのは設定だけで、中身がまったく描かれていないんだもの。
ここまで思わせぶりに描いておきながら、彼が実際にナニをしていたのか、ナニをしたかったのかは、まったく描かれていない。
伏線張るだけ張っておいて、回収ナシでエンドって、そんなバカな。
番手制度の縛りもあるし、みつるにそれだけの役割を振ることが許されなかったのかもしれないけれど。
それならなんで、衛布に二重の役割を課したのよ。
桃娘を弄ぶだけの悪者、とするならば、項羽に取って代わる系の野心をクチにしないようにすればよかったのよ。
少年に変装してきた桃娘を見破るのは、別に密偵の注進がなくてもできる。もともと衛布は桃娘の父の部下だったんだから、見破っても変じゃない。
権力になびくただのスケベオヤジっつーことで、権力者項羽の元でぬくぬくしつつ、元上司の姫君をアレするだけのゲス男としても、ストーリーラインはナニも変わらない。
項羽に桃娘の正体をばらさないのも、彼女を支配したいというスケベ心ゆえ、で説明が付くし。
3番手役である韓信と第2ヒロインの当て馬、悪者、という役割だけで十分、衛布というキャラは活きる。ヘタに物語の本筋ともテーマとも関わらず、整合性のあるキャラクタになる。
なのにハンパに、天下を狙う発言を繰り返させてるんだよなあ。
衛布が本筋に関わる必要のない脇キャラだというなら、少なくとも密偵のくだりはなくすべきだ。わざわざ密偵を使ってまでなにかしら壮大な画策をしているよーに描いておきながら、ナニもしていない・描かれないのは変。
密偵の設定を活かすならば、衛布はちゃんとなにかしら本筋に絡まなくては。
項羽のミラーであると同時に、身内にまで狙われている主人公項羽! どうなるのかしら、どきどき! ……という仕掛けもあるわけでしょ、衛布の野心っつーのは。
2幕最初で桃娘にあっさり殺されてエンドなのはそのままでいいから、それまでになにかしら、一箇所でもイイから「衛布がナニを考え、ナニをしようとしていたか」を描く必要があるんだ。
その上で、野心の途中であっけなく殺されてしまうから、「物語」として盛り上がるのよ。
どうせなら、桃娘絡みで。
二重の役割を持つのだから、天下への野心と桃娘との関係、両方に関連するエピソードをひとつ挿入する。
虞姫の信頼を得、項羽とのいちゃいちゃ場面にもBGM係として配置されるほどの桃娘だ、項羽が油断しきっているときに暗殺しろ、他の兵は自分が遠ざけてある、と衛布が桃娘に指図する場面を作る。
1幕最後の盛り上がりのどさくさ、一瞬だけ衛布と桃娘にスポットが当たる、だけでいいから。台詞が数個あるだけ、時間にして1分なくていいから。
桃娘のアゴを持ち上げて、とか、一瞬なのにエロく、ふたりの力関係と目的が観客に焼き付くように。
そーすれば、2幕最初の項羽と虞姫の膝枕でいちゃいちゃ場面も、愛し合うハッピーなふたりと、隙を狙う桃娘でさらに盛り上がるし、そこへやってきた張良@まっつの「項羽は暗殺されるべきではない」の台詞も活きる。
英雄には英雄に相応しい最期がある。
そして、悪漢には悪漢に相応しい最期が。
張良が桃娘に太刀を渡す必要はないから、「何故項羽を殺さなかった」と詰め寄る衛布を、1幕ラストで衛布からもらった小太刀で桃娘が刺し殺す、でいいと思うんだが。
たったそれだけで、衛布の物語と役割は完成すると思うのにな。
でもってみつるなら、見事に奥行きを持って演じてくれると思うのにな。
また、役者がどう考えて演じているかも、関係ないっす。
見たいモノを勝手に見て、勝手に語ってこそヅカヲタ(笑)。
てことで今回語るのは、『虞美人』の、衛布さん@みつる。
とにかくぱったばったと人が死んでそれきり出てこなくなる、この作品。
衛布さんも2幕前半であっさりお亡くなりになる。
ここで死んでたらいかんやろう!と思うんだけどねえ。
というのも彼には、二重の意味で役割があるのよ。
張良のくだりでも書いたけれど、この『虞美人』にはテーマのリプライズがいろんなカタチでちりばめられている。
項羽@まとぶんと劉邦@壮くんという、ふたりの武将を対比させることで展開する物語だ、あらゆるところに主人公の影が存在する。
衛布というキャラクタの役割の一つは、「もうひとりの項羽」である。
項羽のテーマソングである「私には羽根がある」だけど、この歌は彼ひとりのものではないのね。
この時代の野心を持つ男たちすべての、テーマソングなの。
そもそも衛布は、「誰もが天子になれる」を歌う男のひとり。
項羽が自分の可能性を信じ未来に希望を掲げて歌うこの歌を、衛布もまた歌っているの。
衛布も項羽と同じように、天下を狙う武将のひとりなんだ。
衛布は、もうひとりの項羽……己れの才覚ひとつで天にその存在を問う漢、なのよ。
それゆえに桃娘パパ@めぐむを裏切り、項羽に付いた。居酒屋に密偵@みとさんを放ち、情報収集していた。
項羽の忠臣のふりをしながら、自分こそが覇者になるべきだと爪を研いでいる。
項羽が「誰も裏切らなかった、裏を掻かなかった」とその人生を昇華させるのと対照的に、衛布は裏切りと卑劣を極めて頂点を狙う。劉邦が人から愛されて力を得るのとも対照的に、人を利用し憎まれて前へ進む。
役割がきちんとあるので、衛布は最初、やたらイイ扱いで登場する。
野望に燃える項羽の才覚を見抜き、瞬時にその側へ付く。さらに、思わせぶりな密偵の存在、「ご主人様に知らせなくては」と大仰な引きまで使う。
項羽を仇と狙う第2ヒロイン桃娘@だいもんを手の内に置く。
項羽のミラーのひとりなんだから、これだけの描かれ方をしていても不思議はない。
そして、衛布の二重の役割のもうひとつは、その第2ヒロイン桃娘の関係者、ということだ。
項羽と劉邦の物語の中に付け加えられた、ドラマティックなサブストーリー、英雄・韓信@みわっちと男装の少女・桃娘のロマンス。
それに、「悪役」として絡むということ。
桃娘の弱みにつけ込んで弄ぶ悪漢。
項羽とも劉邦とも違い、裏切りと卑劣を極めて頂点を狙う衛布に相応しい役割。
この衛布が、桃娘にあっさり殺されること自体は正しいと思う。
悪漢には悪漢に相応しい死を。
戦場で華々しく散るのではなく、宮廷で痴話喧嘩のように女に殺されるのは、彼に似合いの最期だろう。
利用していた娘に殺されて終わるのは、因果応報。
彼の抱いていた壮大な野心が、名だたる武将との立ち会いの末や陰謀劇の勝敗によって断ち切られるのではなく、ちょっとした油断によって簡単にバッドエンドになる。
項羽のミラーとして、正しい最期。
正しいのに、ここで死んでたらいかんやろう!と思う。
だって。
二重の役割を受け持ちながら、あるのは設定だけで、中身がまったく描かれていないんだもの。
ここまで思わせぶりに描いておきながら、彼が実際にナニをしていたのか、ナニをしたかったのかは、まったく描かれていない。
伏線張るだけ張っておいて、回収ナシでエンドって、そんなバカな。
番手制度の縛りもあるし、みつるにそれだけの役割を振ることが許されなかったのかもしれないけれど。
それならなんで、衛布に二重の役割を課したのよ。
桃娘を弄ぶだけの悪者、とするならば、項羽に取って代わる系の野心をクチにしないようにすればよかったのよ。
少年に変装してきた桃娘を見破るのは、別に密偵の注進がなくてもできる。もともと衛布は桃娘の父の部下だったんだから、見破っても変じゃない。
権力になびくただのスケベオヤジっつーことで、権力者項羽の元でぬくぬくしつつ、元上司の姫君をアレするだけのゲス男としても、ストーリーラインはナニも変わらない。
項羽に桃娘の正体をばらさないのも、彼女を支配したいというスケベ心ゆえ、で説明が付くし。
3番手役である韓信と第2ヒロインの当て馬、悪者、という役割だけで十分、衛布というキャラは活きる。ヘタに物語の本筋ともテーマとも関わらず、整合性のあるキャラクタになる。
なのにハンパに、天下を狙う発言を繰り返させてるんだよなあ。
衛布が本筋に関わる必要のない脇キャラだというなら、少なくとも密偵のくだりはなくすべきだ。わざわざ密偵を使ってまでなにかしら壮大な画策をしているよーに描いておきながら、ナニもしていない・描かれないのは変。
密偵の設定を活かすならば、衛布はちゃんとなにかしら本筋に絡まなくては。
項羽のミラーであると同時に、身内にまで狙われている主人公項羽! どうなるのかしら、どきどき! ……という仕掛けもあるわけでしょ、衛布の野心っつーのは。
2幕最初で桃娘にあっさり殺されてエンドなのはそのままでいいから、それまでになにかしら、一箇所でもイイから「衛布がナニを考え、ナニをしようとしていたか」を描く必要があるんだ。
その上で、野心の途中であっけなく殺されてしまうから、「物語」として盛り上がるのよ。
どうせなら、桃娘絡みで。
二重の役割を持つのだから、天下への野心と桃娘との関係、両方に関連するエピソードをひとつ挿入する。
虞姫の信頼を得、項羽とのいちゃいちゃ場面にもBGM係として配置されるほどの桃娘だ、項羽が油断しきっているときに暗殺しろ、他の兵は自分が遠ざけてある、と衛布が桃娘に指図する場面を作る。
1幕最後の盛り上がりのどさくさ、一瞬だけ衛布と桃娘にスポットが当たる、だけでいいから。台詞が数個あるだけ、時間にして1分なくていいから。
桃娘のアゴを持ち上げて、とか、一瞬なのにエロく、ふたりの力関係と目的が観客に焼き付くように。
そーすれば、2幕最初の項羽と虞姫の膝枕でいちゃいちゃ場面も、愛し合うハッピーなふたりと、隙を狙う桃娘でさらに盛り上がるし、そこへやってきた張良@まっつの「項羽は暗殺されるべきではない」の台詞も活きる。
英雄には英雄に相応しい最期がある。
そして、悪漢には悪漢に相応しい最期が。
張良が桃娘に太刀を渡す必要はないから、「何故項羽を殺さなかった」と詰め寄る衛布を、1幕ラストで衛布からもらった小太刀で桃娘が刺し殺す、でいいと思うんだが。
たったそれだけで、衛布の物語と役割は完成すると思うのにな。
でもってみつるなら、見事に奥行きを持って演じてくれると思うのにな。