ジェラールは「バカ」に弱い。好みのタイプは「バカ」。
 「バカ」というと言葉が悪いので、「純粋」と言い換えればいいのか。

 ジェラールが愛する相手として、マリアンヌとシモンがいる。ふたりは性格はチガウものの、どちらもまっすぐにおバカキャラ。

 さて、じつはもうひとりいるんだ。性格はチガウが、まっすぐにおバカな奴が。

 それが、市会議員モーリスだ。

 ちょっと中断してましたが、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、誰が読んでるんだろうなコレ(笑)、連載4回目です。
 

 とにかくモーリスは、最初から胡散臭い。

 なにしろ市会議員のくせに「アルテミス婦人同盟」の協力者だ。そりゃ無理だろ、善良になんか見えるわけない。

 えー、確認事項ですが、「アルテミス婦人同盟」って、女子中学生サークルレベルだよね? 理想主義の女の子たちが「ごっこ」遊びをしているだけだよね? や、本人たちは真剣だけど、客観的に見て。
 中学生レベルの活動を「至上のモノ」と思い込んでいるからマリアンヌのバカっぷりが潔いわけで。
 ごっこ遊びは微笑ましいけど、大人は本気で相手はしないよね?
 なのに、「理解者」の振りをして女の子たちの間でいい顔をしている。
 うさんくさいだろ。

 彼女たちの活動を本心ではバカにしているくせに、下心ゆえに持ち上げているのが見え見えで、じつに不誠実。
 こんな男に騙されているのが、マリアンヌのバカさをより上げているし、こんなに見え見えな態度でいることがまたモーリスのバカさを上げている。バカの相乗効果。

 シモンとマリアンヌのことは大好きなジェラールだけど、「勘弁してくれ、バカならなんでもいいわけじゃない、俺にだって選ぶ権利はある」ってなもんで、モーリスのことはキライ。
 わかりやすく悪党をやっているのではなく、善人の顔をして実は悪党というのもまた不快だし、マリアンヌを騙しているのもムカつくし、ただ騙しているだけでなく「あわよくばヤッちゃえ」と思っていることも許せない。
 そして、悪党なりに懐が深いとか頭がいいとかならともかく。
 女の子の歓心を買うために、悪党を雇って襲わせ、それを八百長で成敗する作戦、って……どこのコントですか。
 正気とは思えない大作戦を大真面目に、嬉々としてやるモーリス。マリアンヌたちに絡むスコルピオの男たち相手に大仰に見得を切って、上着を脱ぎ、構える様が……いっそ愛しい。あまりにバカで……って、や、ジェラールはここでモーリスを心から見下してますが。

 オサちゃんの演技は日替わりだからそのときによっていろいろある。「作戦だったんだ!」と訴えかけるモーリスに「もっとマシな作戦を考えろ」と言うとき……(内緒話の範疇だが)怒鳴りつけるときもあるし、かまっちゃいらんねーと面倒くさそうにろくに顔も見ないで言い捨てるときもある。が、いちばんキツいのは淡々と、軽蔑+憐憫の目で見下ろすとき。

 う・わー……。
 キツイ。
 これは、キツイ。
 ジェラール、いくらなんでもその目はよせ。君がモーリスを嫌いなことも心底バカにしていることもわかったから、実際モーリスはバカなんだけど、とりあえずそこまで他人を貶めちゃいかんって。

 モーリスがジェラールに対してキレるのも、仕方ない。
 あそこまで全身全霊をあげて全存在を否定されたら、キレるしかない。

 そーしてモーリスの駄々っ子ソング「あいつキライだ、仲間になんかしたくないっ」になり、やはりおバカなモーリスは他の悪党ズに簡単に説得されてしまうのだが。

 問題は、ここまでジェラールが「軽蔑」している相手が。

 ジェラールの罪によって、出た結果なのだ。

 ジェラールはモーリスを嫌っている。バカにしている。
 だがそのバカな悪党の父親が誰かを、知ってしまった。

 シモンから渡された14年前の事件のときの封筒には、ご丁寧にも差出人の名前が載っていたそうな。シモンってどこまでバカだったのかなあ。封筒の名前が自分の住んでいる市の助役であること、しかも他殺体で発見されたこと、に、気づかなかったのかねえ……バカだから、という理由なのかねえ……。

 シモンのバカさはともかく、思いがけずジェラールは、彼を「天使」と呼んだ男の名を知った。

 ピエール・ド・ブロカ……モーリスの父親だ。
 すべてのはじまりとなった事件。

 14年前の地下水道、少年だったジェラールの前でピエールは射殺された。
 撃ったのはスコルピオのリシャール。指示していたのは刑事のペラン。
 ジェラールが口をつぐんだために、犯人も動機もわからないままになっていた事件。

 もしもあのとき、ジェラールに勇気と知恵があれば。
 ピエールの殺人事件をきちんと解決できていれば。

 モーリスは、別の人生を歩んでいた。

 市長目前で死んだ父の無念を晴らすために、モーリスは市長になると言っているのだ。そのためには手段を選ばないと。

 ……ってつまり、モーリスがバカなのって、俺のせいかよ?!

 マルセイユはジェラールの「心の闇」。彼が犯し、葬った罪。
 14年前、自分の命かわいさに逃げた。
 そのことで、ピエールという男の人生を踏みにじった。
 ずっと見て見ぬ振り、忘れた振りをして生きてきたジェラールの前に、はじめて突きつけられた、罪の結果だった。

 ジェラールが「心正しい勇敢な少年」のままだったら。
 弱い者いじめする者を許せない、たとえ年上でも臆せず向かっていき、勝利する。
 そんな「ジョジョ」と呼ばれる少年のままだったなら。

 少年院に入れられたあともシモンと連絡を取り、殺された男のことを調べる。ピエールの死体はどこか別の場所で発見されただろうが、どこの誰かはいずれわかるはずだ。なんせ、14年後のモーリスが「父は射殺された」と言ってるんだから、死体も見つかったし、他殺されたことがわかる状態だったんだろう。
 てゆーか、封筒を見れば一発だってば。

 シモン少年はジェラールの指示に従い、ピエールのことを調べる。そのうちに、彼の息子モーリス少年と出会い、父の死に納得のいかないモーリスも事件の真相解明のために協力するようになる。

 ジェラール、シモン、モーリスの3人の少年で、マルセイユの巨悪に立ち向かう物語が展開したかもしれない。

 だが現実は。
 ジェラールは自分だけが助かることを考え、沈黙し、父を失ったモーリスは人生をゆがめた。

 や、どんなカタチで父の人生が無惨に潰えたからといって、その意志を継ぎ、夢を叶えるために犯罪に手を染めるのは、モーリス個人がまちがっているのであって、ジェラールの責任ばかりではない。
 それは、わかっているけれど。

 でも14年前の事件が発端になっていることだけは、たしかなんだ。

 シモンとマリアンヌ、そしてモーリス。
 バカに弱いジェラールが、マルセイユで出会った三者三様のバカ。

 シモンは「もうひとつの未来」。
 マリアンヌは「失った自分自身」。

 そして、モーリスは、「罪の結果」。

 だから痛い。無視できないほど、彼の愚かさが、ジェラールを追いつめる。

 
 ……つーことで、また翌日欄へ続く。


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