モーリスがバカなのはモーリス本人の責任だ、俺の知ったこっちゃない……そう割り切るには、ジェラールはまともすぎて。
 己れの罪を知るのは、誰より己れ自身だから。
 裁かれなければ無罪なのではない。誰が知らなくても、罪は罪。
 ジェラールは、自分がしたことを知っている。
 自分自身からは、決して逃げられない。

 ただでさえバカに弱いジェラールだ。
 はい、『アデュー・マルセイユ』が恋愛アドベンチャーゲームで、モーリス・シナリオをプレイするならば。
 ここまでのフラグ立てで十分、恋愛スイッチONですよ。
 なまじ反感持ってた分、その大きな感情がマイナスからプラスへ変換された日にゃあ。

 はい、いつまで続くんだコレ、の『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、連載5回目にしてよーやく本命、オレがもっとも萌えているモーリスカプの話です。
 
 モーリスの人生を狂わせてしまったのが自分だと気づいたジェラール。
 気づかされたのは、シモンから渡された14年前のあの封筒。

 はい、その封筒の秘密……というにはあまりにアレな「内側にぴったり貼り付いていたメモ」についてですが。
 封筒自体が二重構造で中に隠されていたとか、メモが書かれた紙自体を使って封筒を作ってあった(分解しないと読めない)とか、言い訳にも「14年間気づかれずにいた理由」があればいいのに……あまりにアホな理由過ぎてこまるよ……。
 まあ、シモンだから気づかなかった、ということで、ジェラールはもちろん封筒を手にしてすぐに気づいたわけです。封筒の名前にも、中のメモにもね。

 そして、殺されたピエールが正義の人であったことを知る。……自分が、その正義の人の命がけの行動を無駄にしてしまったことも。

 すぐに気づくだろうから(メモに気づくのが若干送れたとしても、封筒の名前は一目瞭然だろう)、封筒を受け取った次の場面、石鹸工場でモーリスと再会したときには、わかっていたはずだ。

 バザーの時、敵意を剥き出しにしていたモーリスは、ナニを思ったか、この石鹸工場での再会時は超ご機嫌。
 緑色のリボンの木箱を手に、ジェラールにも営業用スマイルで話しかける。

 うさんくささ、無限大。
 
 ジオラモに説き伏せられたモーリスは、「利用されてるだけなのも知らないで。お前なんかただの生贄の羊だもんね〜〜、フフフ」とゆー、実に浅いハートで優越感に浸っているだけなんだが。

 そのうさんくさいハートフルぶり、素直に感謝しているマリアンヌに対し罪悪感のカケラもなく善人ぶる姿、彼女たちに悪事を手伝わせ(偽札の梱包をさせてるよね? 緑色のリボンを巻かせて)、そしてそんな自分の賢さに悦に入っているモーリスを見て。
 ジェラールはさらにテンションが下がる。

 このバカが、俺の罪の結果だというか……。

 なんてヘヴィな現実。

 あんまりだよなあ。
 ジェラールが卑怯だったせいで、ピエールの家族が不幸になった、として。
 まだ、貧困と差別の中で泣き暮らしていてくれた方が、マシだったんじゃないか?
 それなら、真正面から後悔することも、また償いをしようと思うことも出来た。
 でもなあ。金持ちで地位も名誉もあって、卑劣でバカってのは、なんつーかこー、後悔しにくいっていうのか、償おうというガッツに欠けるというか。
 どうしてくれよう、このバカ男。

 ジェラールはもともと、モーリスに対してはけっこー本音部分が出てしまっている。
 「悪人同士として協力」することになっているのに、バザー会場で敵対台詞を吐いたり、石鹸輸出の会話からモーリスを閉め出したり(や、彼は強引に会話に割って入りますが)と、いちいちいぢわるだ。
 モーリスに対しては「捜査官」としてのカオより「ジェラール本人」のカオが出てしまいがちだった。

 ただでさえそーやって「意識」していた相手なのに。

 ご機嫌モーリスを見て反感が募り、その反感と「罪悪感」がせめぎ合い、ジェラールは混乱する。

 そのうえ、さらに追い打ちがあるのだわ。

 バザー会場でうっかり盛り上がってキスしてしまったマリアンヌは、すっかりジェラールの恋人気分だ。
 もともとモーリスのことを重荷だと容赦なく言っていた彼女は、ジェラールとデキあがったからモーリスを切り捨てるつもり満々。

 えーと、バザー会場での「忘れ物」ってのは、キスだけだったんすかね? それともそのあといろいろいろいろセットだったんですかね?
 キスだけで恋人気分、てのはふつーナイ気がしますが、世間知らずのマリアンヌの場合ソレもありそーでこわい。
 ふつーなら、キスのあといろいろいろいろ一夜あって、それで「この間のこと」と言えると思うんですが。
 まあ、この問題はいずれ考えるとして。(考えるのか)

 「忘れ物」があって、マリアンヌは絶好調。びびるのはジェラール。

 ちょっと待て。
 またしても、モーリスを不幸にするのが俺なのか?

 マリアンヌがモーリスを振るのはぜんぜんかまわない。あんな悪い男は、利用するだけして捨ててしまえ。や、どう取り繕っても、今の状況でマリアンヌから「恋人ができたから、アナタからの個人的な援助は辞退するわ」てのは、貢がせるだけ貢がせて、いらなくなったからポイ捨て、てことでしょう。それはヨシと思う。
 だが、俺が理由ってのは、どうよ?

 マリアンヌはなにもまちがっていない。彼女は節度ある態度を取り、男の好意を逆手に取り、尽くさせてきたわけではない。結果として同じようなことになっていたとしても、尽くしていたのはモーリスの勝手でしかない。

 そうし向けたわけじゃない。
 でもまた、ジェラールはモーリスの人生を曲げようとしている。彼を、不幸にしようとしている。

 ここで、ジェラールには腹をくくって欲しいですわ。

 彼のせいで不幸になったモーリス。本来得るはずだった、まっすぐな道を、ゆがめてしまったモーリス。

 ならば俺が、責任を取る。
 ゆがめてしまった、奪ってしまった、あの男の人生。

 反感、腹立ち、侮蔑。抱いていたマイナスの感情すべてを、大きな憐憫と悔恨へと転換する。

 今、なにもかも奪おう。あの男から。

 モーリスが愛した女、現在の仕事と地位、そして未来の夢。
 すべて、俺が奪おう。

 偽札組織を摘発する。それに加え、ジェラールがモーリスの父を見殺しにしたことをも告白する。
 すべての真実を、明るみに。

 そのうえで、モーリスの未来を引き受けよう。
 モーリスが実際に手を染めた罪の度合いはわからないが、服役することにはなるだろう。
 その彼がなにを思い、今後どんな道を進むのかはわからない。
 それでも、出来る限り支えよう。責任を取ろう。

 それが、14年間罪を封印してきたジェラールの、真の再生だ。

 あの日、地下水道で。
 ジェラールのことを「天使」と呼んだ男の、息子。
 ジェラールの「罪」そのもの。

 モーリスを受け取めることが、ジェラールに科せられた罰だ。


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