そもそもの発端がまちがってしまっているために、その後のジェラールの行動すべてがおかしくなっている『アデュー・マルセイユ』

 シモンに金(と、封筒)をネコババさせたのはジェラール。
 大体、一緒に逃げればいいのにその場にとどまったのもジェラール。
 ヘタを打って見つかったのもジェラール。

 すべて自分が蒔いた種。
 なのにジェラールの脳内では「悪いのはシモン。俺は親友シモンをかばった英雄」ってことになっているのが、どーにも引っかかる。

 ここで引っかかってしまうと、せっかくの「孤独と秘密」が全部ジェラールの独りよがりになってしまう。

 悪いのは自分、他人の罪をかばっているわけではない。つまり自分の意志と判断でいくらでも「秘密」を捨てることができたし、「孤独」でなくなることもできたんだ。
 それをしなかったのは怠惰と無能のせいだろう? 「親友をかばう俺カッコイー」とかの自己陶酔ゆえか?

 少年院に送られても、最初の何年かが過ぎたあとは、どうやら、忘れられていたらしいしな。
 ジェラールをインターポールの刑事がスカウトに来ても、悪者たちは誰も気づかない。そもそも彼を少年院へ入れた悪徳刑事も、14年後に「少年院を出てから行方知れずになっていた」とのんきに思い出すくらい、ジェラール少年はどーでもいい存在だったんだ。
 孤独と秘密もないもんだ。ちょっとした才知がありゃあ、別の道で幸福になることもぜんぜんできたろうに。

 フィリップはどこまで理解してジェラールをスカウトしたのか。
 「友をかばって冤罪で投獄された少年」と思っているんだと思う。「ケンカで逮捕された」だけの少年に「鉄の意志」もなにもあったもんぢゃないからな。友でなくても、なにか大切なモノを守るために、秘密を守り続けているのだと思ったんだろ。
 つまり、フィリップが登場した段階で、ジェラールのマルセイユでの事件は「表向きとはチガウ、裏のある事件」だとICPOは認めているっつーわけだ。
 だからといってICPOが冤罪事件の真相を調べることはしなかったとしても、ジェラールが頼めば、もしくはジェラールの意志があれば、調査することができただろう?
 ジェラールは目の前で殺された「鞄の男」が何者なのか、悪者たちが追っていたモノはなんなのか、そもそも何故自分が少年院に何年も閉じこめられなければならなかったのか、まったく興味がなかったらしい。
 せっかく刑事になったあとも、調べることはせず。
 鞄の男も浮かばれないよな……。

 自分の意志で調査ができたのに、しなかった。マルセイユへも、帰りたくても帰れなかった、のではなく、ただ帰らなかっただけ。
 ジェラールが悪者の目の届かないところへ消えても平気なくらい、彼はもう忘れられていたんだから、故郷へ帰ることはたやすかったのに。
 自分の意志で帰らなかったんだ。

 地下水道事件の真相も調べないし、故郷にも帰らない。ネコババ品を押しつけた友人の様子も伺わない。
 で、本人は「孤独と秘密」と酔う。

 仕事でたまたまマルセイユへ行くことになり、善良なシモンを騙して彼のホテルへ逗留(浮いた経費は着服?)。
 仕事で追っていた事件がこれまたたまたま14年前の地下水道事件と関係があった。
 てゆーか。
 地下水道で殺された鞄の男は、当時の市長の汚職を告発しようとした助役だった。……てことがわかっただけで、「14年前の謎がすべて解けた」になるのは無理だろ。
 だって事件のこと、なにも調べてなかったじゃん? 関係なかったじゃん?

 当時の市長の汚職はどうなった? 14年前と現在のつながりは? 14年間ずーーっとすべての市長はスコルピオや悪徳刑事とつるんでいたのか?
 鞄の男の正体がわかって、わかったことって、モーリスが騙されていたってことだけじゃん。

 市長の汚職まで話を広げると、偽札事件とは別物語になっちゃうんだけどなあ。

 もちろんこれも、二転三転したプロットのなかに、

ジェラールは婦人参政権運動の活動家マリアンヌに出会う。彼女は汚職事件の最中、狙撃された元市長の娘だった。実はジェラールの母もその銃撃戦の流れ弾に当たり亡くなったのだった。

 てなものがあった名残だと思う。

 とにかく、プロットが二転三転……十転するうちに、わけがわかんなくなっちゃったんだね、イケコ自身が。
 これはプロットAのエピソード、これはプロットB、でもこの部分だけプロットAで、そこにプロットCのエピソードの一部分を付け足して、でもAとCは別の物語だったから辻褄は合わなくて……の、繰り返し。

 最初から、事件をひとつにし、主要キャラクタを決めて変更しなければよかったのに。

 プロットAの名残でジェラールとシモンは幼なじみで共に悪事を働いていて、でもプロットBではジェラールは正義の人で窃盗なんかしないから別の事件に巻き込まれて、そのことで14年も経ってからシモンに恩を着せて、プロットCの刑事ジェラールが追っているのは偽札事件なのに、プロットBの市長暗殺事件の一部が尾を引きずっていて……。
 別の話と、別のキャラクタを、ひとつの物語に混ぜるから失敗するんだ。
 ジェラールもシモンもマリアンヌも、プロットごとに別人でしょ? プロットを混ぜて人格めちゃくちゃにして、なにやってんだ?

 ストーリーの「動」部分でもこうやってわけわかんねーことになってるんだけど、そのうえさらに、ジェラールとマリアンヌは、いつからそんな関係に? てな「心」部分での薄っぺらさも露呈してるしなー。
 プロットが二転三転……十転しているうちに、ラヴストーリー書くの、忘れちゃったんだよね? プロットが二転三転……十転しているうちに、友情物語書くの、忘れちゃったのと同じで。

 あまりに書き込み不足で唐突すぎる、ふたりの恋愛。
 べつに恋しなくてもいいんじゃ? みたいな。
 そして、男ができるなり「婦人参政運動」はどーでもヨシ! という、「こんな女がいるから、女の社会的地位が上がらないんじゃん」という見本のよーな言動を、マリアンヌに取らせるしなー。
 なんでそうなるか、というと、オサに「サヨナラ公演らしい台詞を言わせるため」……ジェラールに、ではなく、オサに。

 物語的にもちっとも「故郷」に「永いサヨナラ」と言うような話ではないんだが、オサに「アデュー」と言わせたいがためだけに、内容と関係なく言わせて終わるしな。

 まあ、そこは座付き作者ゆえの愛情なんだろう……。
 作品を壊しても、サヨナラっぽくする、てのは。作品を壊している、ことに作者が気づいていなかったらどうしようという不安は残るけど(笑)。

 ほんとにイケコ、作劇の才能ないよな……。

 世界征服もマッドサイエンティストも変な機械も出てこないから、コワレ度は低い。プロットのつぎはぎだけど、とりあえず同じカラーのエピソードをつないでいるので、見た目もそれほど破綻していない。
 結果、小池修一郎のオリジナル作品としては、驚異的に「壊れていない」という評価になる。
 タカラヅカはステキなところだ(笑)。


 ただの自業自得なのに、被害者だと思い込んで「孤独と秘密」に酔う……そこが盛大に引っかかった『アデュー・マルセイユ』
 初日にソレでアタマ抱えたけれど、翌日には「穴を勝手に補完することでなんとかする」ことにした。

 ジェラールが抱えている「孤独と秘密」を、わたしの理解できるものにすれば、あとはそのままでヨシ。

 ……ので、わたしの中ではジェラールとモーリスの物語ができあがっているんですが、どうしましょう?(笑)

 「14年前の事件」と「現在の偽札事件」がごっちゃになっているから壊れてるんだなー。
 現在の事件を主とするには、回想シーンが無駄に長い。回想シーンを半分にして、マリアンヌとの恋愛場面を入れろ、と思う。わかりやすい恋愛場面がないと、彩音ちゃんの現在の演技力では表現できないってばよ。
 でも現実は、恋愛は忘れられていて、途中から取って付けられて、サヨナラ台詞ありきの使い方しかされていない。

 それなら、別のところに焦点を当ててたのしみましょう。
 どんな作品でもたのしむのがヲタクですから。

 わたしが主と見るのは、「14年前の事件」。
 少年ジェラールの決断と行動。

 親友シモンにネコババさせ、自分が主犯であるにも関わらず「ナニも知らない」と言い張って少年院生活。
 この謎の行動を、「わたし」が気持ちいいように理由付けすることから、すべてはじまる。イケコの意図なんぞ知らん。役者がナニを思って演じているかも知らん。わたしはわたしが納得できるよーに、登場人物の言動を考える。

 ジェラールは心正しい少年。まちがったこと、卑怯なことは許せない。
 ……とゆーことになっていたよね? 石鹸工場の社長が、幼い娘に「見どころのある少年」のことを話して聞かせ、幼い娘が憧れを抱くくらい。

 その「まちがったことは許せない」心正しき少年が、罪を犯した。

 その罪とは?

 地下水道で見知らぬ男からもらった金を、警察に届けず、横領した。
 親友シモンが金に困っていた。なんとかしてやりたいと思っていた。だが、たとえ拾った金であったとしても着服するのはいけないことだ。
 シモンもまともな少年だから、降って湧いた金を前に「警察に行く?」ととまどった声を上げる。
 本来ならここでジェラールは「もちろん、警察に届けるんだ」と力強く言うべきだった。
 母の薬代に困っているシモンが、「このお金、ネコババしてもわかんないよね?」と言い出す可能性はあったにしろ、正義のジェラールならば「盗んだお金で薬を買って、お母さんが喜ぶと思うのか?」てな正論で説き伏せるべきだろう。
 だが、横領を提案したのはジェラールの方だ。
「好きにしていいって言ってたから、いいんだ」
 とまどうシモンの尻を叩き、罪を犯させた。横領の共犯に。

 たしかに、これは罪だ。
 普段のジェラールならまずしない。

 だがこれはまだ、「親友シモンのため」という理由がある。
 実際シモンのためだけにやったことだ。
 ここまでなら、あとで取り返しがつくんだ。
 心正しいジェラールならば、シモンの母の病状が落ち着いてから自首するなりして、決着をつけるだろう。あくまでも、犯人は自分で、シモンは自分に従っただけ。
 「主犯はジェラール」であるために、シモンより先にネコババを言い出した。大金を手にしたままいれば、シモンがそう言い出さない保証はない。そのあとでネコババしたなら、実際に金を使うのもシモンなのだから、主犯はシモンになっしまう。

 金を盗み、その罪をジェラールが着て、自首する。少年院に収容される。
 ……ここまでは流れとしてまちがっていないし、十分アリだろう。

「金に困っている親友を助けたくて、盗みました。反省しています」
 横領は罪だが、少なくともジェラールは正直だ。嘘はついていない。まちがったこと、卑怯なことを許せない正義感の強い少年、というキャラ設定に澱みはない。

 だが。

 ジェラールの罪は、他人の金を横領したことではないんだ。
 そこまでなら、ジェラール的になにもまちがっていない。そのあとに、彼は過ちを犯す。罪を、犯す。

 シモンに金を持たせて逃がしたあと。
 ジェラールは鞄を追っている男たちに捕まってしまう。

 鞄の中身を探している男たちは、ジェラールに詰め寄る。「中身はどこだ」と。

 ジェラールは、嘘をついた。

「鞄は拾った。中身は知らない」
 嘘をつく。つき続ける。

 なんのために?

 金を取ったのは親友のためだった。だが、嘘をついたのは?

 もちろん、自分の命惜しさだ。

 目の前で、鞄の持ち主は殺されている。ジェラールが生かされているのは、鞄と関わった、だがどこまで知っているのかわからない、鞄の中身の在処を知っている、と思われているためだ。

「なにも知らない」
 そう言い続けるしか選択肢はない。
 「中には封筒に入った金が入っていただけだ。それは親友が持って逃げた。金はすぐに使ってしまったはず」……そう真実を口にすれば、そこでジェラールは消される。鞄の男と同じように。そのあとシモンがどうなるかはそのとき次第、また別の問題。
 ジェラールが沈黙を守るのは、自分のためだ。親友のためじゃない。

 まちがったこと、卑怯なことを許せない、正義感の強い少年……そのジェラールが、自分のために、嘘をついた。

 自分のために、他人を犠牲にした。

 誰を?

 ジェラールのことを「天使」と呼んだ男の人生。

 ジェラールが沈黙することで、鞄の男の真実もまた闇の中。彼が命を懸けてまでナニをしようとしていたか、誰にも調べてもらえないまま。
 ジェラールはひとりの男の「命を懸けた行動」をも握りつぶした。

 ただ「秘密」を守るだけなら、それほど追いつめられはしない。若いジェラールの救いになるものはいくらだってあるだろう。
 ジェラールがシモンのために罪を犯したと思い込んでいる母親は、少年院へやってきて励ましてくれる。
 シモンの命を守るために沈黙しているのだと思えば、もっと他に動きようもあった。
 面会に来た人間に頼んで、鞄の男のことを調べてもらうとか、問題の金や封筒について調べてもらうとか。
 シモンにだけはあのあとなにがあり、何故自分が少年院に入れられたか、打ち明けるべきだ。あの日シモンも地下水道にいたことが悪者たちに知れれば、シモンの身も危なくなる。
 少年院の内と外で連携して、事件を解決しなければ、いくらジェラールが「秘密」を守っていたってなんの解決にもならない。シモンは危険なままだ。

 だがジェラールはなにもしなかった。
 頑なに、沈黙を守る。
 なにもかも「なかった」かのように。

 彼が守りたかったのはシモンではない。自分自身だ。
 だから、自分だけが安全であるように、「秘密」を守り通した。沈黙していれば、とりあえず命だけは保証されるから。

 ただ「秘密」を持つだけで、あれほど「孤独」にはならない。秘密を持ったところで、信頼できる人々がいれば問題ないからだ。

 だがジェラールは「孤独」だった。
 鞄の男の人生も、シモンの安全も無視し、自分の命だけを守って「秘密」を持ったときから、心を預けられる者など存在しなくなった。

 母にも嘘をついた。
 親友のことは見捨てた。
 故郷にも、もう帰れない。

 どこにも、居場所はない。

 ジェラールにあるものは、「孤独と秘密」だけだった……。

 
 てなもんなんですがね。わたしが納得できる流れとしては。
 だからポイントは「嘘」であり、その嘘ゆえに葬られた「鞄の男の人生」であり……。

 舞台は14年後に移る。
 以下別欄で。


 何故、ジェラールは故郷マルセイユに帰れなかったのか。

 仕事でなら帰れた、ということは、べつに物理的に帰れない理由はなかったのよ。地下水道での事件はもう「終わった」こと、誰も気にしていない。少年院を出たあといくらでも帰ることができた。仕事でアメリカに行っていたとはいえ、何年間もフリータイムが1日たりともなかったとは思えない。

 ……てな、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、その2です。
 はい、スタート。
 

 「孤独と秘密」ゆえに少年院に長逗留していたジェラール。成人した彼の元へ、ICPOのフィリップがやってくる。
 自らの罪と裏切りゆえに故郷に帰ることのできないジェラールは、フィリップのスカウトにふたつ返事。
 ジェラールにとっての魅力は、「別人になれる」ことだったんじゃないのか。

 正しいこと、に誇りを持っていた潔癖な少年が、自分かわいさに他人を踏みつけにした。
 安全な少年院に逃げ込んで何年も過ごし、その間に無条件に味方になってくれていた母も死んだ。
 過去は苦いだけでしかない。
 ジェラールは過去の自分を捨てた。本名を明かさない訓練所の生活や、最初から「嘘」だとわかっているルイ・マレーという名の男として生きる方が楽だ。

 ジェラールが故郷に帰れなかったのは、そこが彼の「罪の記憶」と結びついた場所だからだ。

 物理的なことならいくらでも解決できる。だが、心の問題はそうはいかない。

 嘘をつき、裏切り、葬った。

 シモンはなにも知らず無事に暮らしているらしい。それくらいは、調べればすぐにわかる。
 だが、地下水道で殺されたあの男は?
 彼の人生を踏みにじった事実は、消えない。
 スコルピオや悪徳刑事に殺されることが怖くて沈黙した。

 マルセイユは、ジェラールの「心の闇」そのものだ。

 いつも、明け方には夢に見る。愛しい故郷、マルセイユ。
 二度と戻れない故郷。二度と戻れない、公明正大だった自分。「まちがったこと、卑怯なことは許せない」と胸を張っていられた少年の自分。
 まちがい、卑怯になってしまった今は、決して帰ることができない……美しい場所。

 14年の時を経て、仕事という名目を得てよーやく故郷の地を踏むことができたジェラール。
 何故、今帰ることができたのか。

 純粋だった少年時代を、粉々に打ち壊すために。

 ジェラールの任務は、偽札組織の摘発。
 そして、マルセイユに渡った目的は、1ヶ月前に偽札騒動があった、ギャング経営カジノの調査。
 つまり。シモンを、調べることが目的。

 シモンが犯人ならば逮捕する。
 美しい故郷マルセイユ。愛していた親友と、誰にでも胸を張れた心の正しい自分自身。

 すべてを、壊すために。

 故郷を葬るために、ジェラールはマルセイユに降り立った。

 訪問することは、あらかじめ手紙で知らせてあった。シモンは無邪気に旧友との再会を喜ぶ。ジェラールもそれに応えてはしゃいでみせる。……それ以降のジェラールのテンションから考えると、不自然なほどに。再会の銀橋だけ大はしゃぎ。

 少年時代のジェラールが、どれほど心正しく頼りがいがあったかを、シモンは誇らしそうにたのしそうに、自分の恋人ジャンヌへ話す。
 それを聞きながらジェラールは、あのころの自分が「まちがったことは許せなかった」のだと、遠い目でつぶやく。シモンにおだてられても、相好を崩すことなく。

 長い時を超えて幼なじみを信用させるために、ジェラールはわざと14年前の事件の話を蒸し返した。

 シモンはなにも知らなかったのに。自分がきっかけでジェラールが少年院送りになったなんて知り、この単純な男はどれほど心を痛めたろう。
 傷つけることが、目的だった。
 罪悪感で目がくらみ、しっぽを出せばいい。偽札組織に関わっているならば。

 恩を着せ、騙すつもりで近づいたジェラール。
 なにも知らず、心からの信頼を寄せるシモン。

 幼なじみの親友同士の愛と裏切りの物語っつったら、これくらいやるもんだろお?
 なんでシモンは「いてもいなくてもいい」「だだのバカ」に成り下がってるんだイケコ。

 調べていくうちに、シモンは無関係……てゆーか、このバカにンな大それたことができるわけないとわかるのだけど。
 そして、少年のまま、純粋なままのシモンの姿に、ジェラールの心は揺れるのだけど。
 シモンを騙していること、利用するつもりでやって来たことは、覆しようもない。

 「孤独と秘密」……歌うジェラールの絶望は深い。いつかこの孤独は報われるのだろうか。

 さて。
 表面上は仲良く幼なじみをやり、シモンのオリオン組を調べる傍ら、ジェラールは昔懐かしの石鹸工場へ足を踏み入れる。
 そこで、マルセイユ帰郷初日に駅前で出会った「アルテミス婦人同盟」のマリアンヌと再会する。
 「マルセイユを愛しているのね」……なにも知らない、見るからに世間知らずの潔癖娘は簡単に言う。肯定するジェラールの、心の闇に気づくはずもなく。

 シモンに対しての疑いは薄れていたにしろ、オリオン組を張っていたのは正しい。カジノ・オリオンでの2度目の偽札騒ぎが起こった。やはり鍵はここにある。
 密輸業者ルイ・マレーを名乗るジェラールに、カジノ・オリオンの常客イタリア・マフィアのジオラモが接触を図ってきた。
 ジオラモの誘いに乗ることで、マルセイユに巣くう密輸組織の中枢に入り込むことに、ジェラールは成功した。

 ソレは奇しくも、14年前の地下水道事件の悪党たちとの再会でもあった。

 14年前の市長汚職と助役ピエール殺害については本編でなにも語られていないので、詳しいことはわからない。イケコのアタマの中ではどーなっていたのかねえ。きっと辻褄なんか存在しないんだろーけど、まあいいや。

 動揺を押し隠すジェラール。「目的は復讐ではない」と自分に言い聞かせる。
 復讐もなにも。過去を葬ったのは自分自身だ。できれば一生、見なかったこと、聞かなかったことにしていたいと思っていた。
 だから自分に言い聞かせる。14年前の事件を調べないのは、今は別の任務中だからだ。過去の自身の罪と向き合うのがこわいわけじゃない。

 いくら今は他の任務中、ったって、14年前の事件と同じ顔ぶれが揃って現れりゃ、なにかしら調べるべきだろ。偽札事件はスコルピオが怪しいと踏んでいるのだから。
 だがジェラールは頑なに14年前の事件を調べない。考えない。

 屈折しきり、闇の中で喘いでいるジェラールの前で、理想家のマリアンヌは「バカだろ、オマエ」と言われても気づかないほどの純粋さでキラキラしている。
 色も匂いもない石鹸みたいと言われて、皮肉だとわからない、誉め言葉だと受け取ってしまうようなバカ娘。
 「正しいことは、正しい」と意気をあげている、「まちがったこと、卑怯なことは許せない」と声に出して宣誓してしまえるよーな、幼さゆえのイタさを持った少女。

 マリアンヌのイタさは、まるであの日のジェラール自身のようで。

 彼女を無視できないのは、彼女がなんとなく、どーしても引っかかってしまうのは、仕方ないことなのかもしれない……。

 
 ……てな感じで、恋愛も同時進行してます、いちおー。
 まだ続きます、以下翌日欄。


 『アデュー・マルセイユ』が、恋愛アドベンチャーゲームなら。
 主人公ジェラールの、公式ダーリンキャラはとりあえず3人だよね?

 公式ダーリン……つまり、説明書に「ラヴ・エンディングあり」と明記されているキャラクタ。

 ギャングのシモン、婦人参政運動活動家マリアンヌ、市会議員モーリス。
 この3人の中からはいどーぞ、お好きなキャラとエンディングを迎えてください。

 1回はエンディングを迎えたあと、2週目のプレイからはジオラモ・エンド、フィリップ・エンドもあり。隠しキャラつーか、オトせるけれど最難関キャラはもちろんジャンヌで。
 全部のエンディングをコンプしたあとなら、禁断の少年院裏バージョンがプレイできるとか、その場合のラヴ・エンディングはペラン刑事のみだ覚悟しとけ、とか。

 まあいろいろ考えられますが(誰か実写取り込みでゲーム作ってくれ……)、王道は、シモンでしょう。

 幼なじみ設定。ベタだけどコレは恋愛ゲームの王道中の王道。
 ねえ?

 つーことで、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、その3です。

 もーすっかりグレているジェラール。すさんでいるジェラール。「心の傷」そのもののマルセイユへ、過去すべてを壊す覚悟でやってきたジェラール。
 シモンに近づいたのも、任務ゆえ。偽札事件に関わっていれば、逮捕するため。

 だけど。

 シモンと一緒に過ごすうち、ジェラールは変わりはじめた。

 マルセイユに巣くう密輸組織にスカウトされる頃には、ジェラールはシモンへの疑いは捨てていたと思う。たとえ彼のカジノで偽札が発見されたとしても。
 むしろ、スコルピオ組の狡猾さの前に、愚直なオリオン組の未来に暗澹たるものを感じていたのでは。
 ホテル・ネプチューンで悪党会議@ジオラモの歌によるキャラ紹介、ののち道で酔っぱらいシモンに会ったときのジェラールは、すでにかなりほだされてる。シモンに。

 ジェラールには、シモンくらい明るいバカが必要だ。

 「孤独と秘密」でがんじがらめ、じめじめしているジェラールを、シモンの晴れ渡った青空のようなバカさで、救って欲しい。

 酔っぱらいシモンのアタマを撫でるジェラール。
 あるときは笑いながら、あるときは真顔で。

 真顔の方が、好みです。

 すっげー真面目な顔で、まとぶのアタマ撫でてるの、オサ様。
 や、あくまでも役の話ですが。

 それまで意識してなかったのに、シモンのアタマをつい、撫でてしまったとき、ジェラールは気づく。
 シモンを、愛していることに。

 ……えー、この場合の「愛」は、友愛でいいですよ、めんどーなので。そーゆー名前で呼んでくれていいです。

 傷つけるために、なにもかも壊すために、来たのに。
 シモンを利用して、うち捨てるつもりでいたのに。
 気が付いたら、彼のことを心配している。彼に笑っていてほしい、信じていて欲しいと思っている……。

 幼なじみだから、というのではなく。
 シモンというひとりの男を、好ましく思っている。

 
 思うんだけど、ジェラールは、バカに弱いんだと思う。
 「純粋」と言葉を換えてもいい。

 マリアンヌにしろ、シモンにしろ、性格は違うがどっちも潔いまでにバカだ。

 「アルテミス婦人同盟」のバザーで、世間知らずお嬢様マリアンヌとうっかり盛り上がってしまうジェラール。
 純粋ゆえに、ひたむきさゆえに全力疾走、あちこち尖っている女の子が、ぽろりと弱音を吐く。

 マリアンヌは、ジェラールのイタい過去の姿。
 純粋すぎて曲がることが出来ず、ぶつかって砕け散ることになった、幼い正義感。
 彼女に対し、苛立ちを感じるのも、またどうしようもなく惹かれるのも、そのため。

 もしも同じシチュエーションで、シモンが弱音を吐いたら、ジェラールは同じようになぐさめ、盛り上がって最後はキスするね(笑)。

 営業停止になった無人のカジノ・オリオンあたりでさ。
 いつもアホ全開のシモンが不意に真顔になって、
「俺だって不安なんだ……」
 とか、言い出して。
 ギリシア神話ダイスキなジェラールが、てきとーなうんちくこねて。や、悲劇で終わるアルテミスとオリオンの神話で女の子を口説くよーな男だから、スコルピオとオリオンの神話でシモンを慰めるぐらいするぞ、きっと(笑)。

 うっかり盛り上がって手なんか握っちゃったふたりが、はっとして離れて。
 んで、最後は、
「忘れ物だ」
 つってジェラールがシモンにキスする、と。ピンスポから暗転へ。

 ……いかん、どう考えてもコントだ……。

 冗談はともかく。
 マリアンヌが「昔の自分」スキルを持った「バカ」ならば。

 シモンは、「もうひとつの未来の自分」スキルを持った「バカ」なんだ。

 もしも14年前、あんな事件がなかったら。
 シモンと一緒にこの街でのどかに育ったならば。
 ジェラールも、シモンのようになっていたかもしれない。

 故郷を愛し、仲間を愛し、この地で商売をして、仁義を守って。

 ジェラールのことをなんの疑いもなく信じ、懐を開き、受け入れる。
 そのまっすぐさ、バカ正直さが、まぶしい。

 バカだと思う。騙されていることも知らないで、と。だがその一方で。

 こんなバカになりたかったと、心が悲鳴を上げる。

 マリアンヌと、シモン。
 ふたりのバカ。

 ジェラールの胸を熱くさせる、「過去」と「もうひとつの未来」。

 マリアンヌにキスをするくらい、心がやわらく、傷つきやすく、弱りはじめているジェラール。
 冷たい石だと思っていた。もう心は動かないと思っていた。なのに今、捨てたはずの故郷でココロが動いている。
 愛したい、愛されたい。

 生きたい。

 14年前、失ってしまったはずのもの。
 自ら、封印してしまったもの。

 そう、揺れ動きはじめたときに。

 シモンが、ジェラールに別れを突きつける。

 はい、なんと見られていたんですね。ジェラールがジオラモの部屋に出入りしているところを。
 ジェラールがスコルピオ組とつるんでいることが、バレてしまった。オリオン組組長のシモンとしては、筋を通さなければならない。

 シモンはなにも知らない。
 スコルピオ以前に、ジェラールはICPOの刑事であり、偽札組織を調べるためにやって来たんだ。シモンを逮捕するつもりで近づいたんだ。
 そのことがバレなかっただけでも、よかった。まだ最悪の状況ではない。
 でも。

「俺を信じてくれ。お前を裏切るようなことはしていない」
 ……口にする言葉の、熱はどこから?
 全部嘘。最初から嘘。なのにこの熱はなに? この痛みはなに?

 傷つけるつもりで近づいたのに。

 今、傷ついているシモンを前にして。
 シモンから別れを告げられて。

 信じて欲しい、失いたくない、と、切望する自分を知る。

 シモンが突きつけるのは、14年前の封筒。ジェラールの運命を変えたもの。
 考え無しの少年だったシモンが、この封筒をずっと持っていた……彼はずっと、ほんとうにずっと、ジェラールのことを想っていたんだ。
 その真心を傷に代えて、流れる血をかつての親友に捧げる。

 ジェラールは、こんなに曲がってしまったのに。
 シモンは見せつける。「もうひとつの未来」を。こんなときにさえ。

 まっすぐに。

 
 ……てなところで、以下翌日以降欄へ続く。


 オサ様CD買ってきました。今BGMはオサ様です。うっとり。
 でもブックレット超ショボイです。カラー写真が表紙だけって……。白い紙にベビーピンクのインクで印刷された歌詞が読みにくいです……。

 しかし梅田キャトレ、5000円近く買ったのに、ゆみこの抽選券くれなかったわ。nanaタンに進呈しようと思ったのに。はっ、オサ様グッズだけぢゃダメなのか……!

 ……てな話ではなく、雪組ドラマシティ公演『シルバー・ローズ・クロニクル』初日観劇してきました。

 予備知識イラナイ派なんだけど、nanaタンが横でいろいろいろいろ言うのでちょろちょろ内容が耳に入ってました(笑)。
 ゆみこの役がめがねっこだとかヲタクだとか、『電車男』みたいな話だとか、かなめくんがさゆちゃんのおにーちゃんでヴァンパイアだとか、ヲヅキがヴァン・ヘルシングだとか、キングがアイドルだとか。

 
 えー。
 話の内容は、小池修一郎オリジナル作だと言っても、誰も疑わないでしょう。

 主人公を助ける若者グループ。
 無理矢理連れさらわれるヒロイン。
 どたばたステージ(祭り)の中での救出劇。
 白衣のマッドサイエンティスト。
 悪役が世界征服を歌う。

 小柳先生がイケコの弟子だということは存じてますが、ここまで同じだと「原案・小池、演出・小柳?!」と思っちゃいますよ……。

 つーことで、小池の「世界征服モノ」オリジナルが好きな人にはオススメ。
 悪役が「野望は世界征服、私は神を超える」系の歌を歌ってくれるとゾクゾクしちゃうの♪ てな性癖の人は是非。

 
 エリオット・ジョーンズ@ゆみこは、ヴァンパイアをはじめとする怪奇モノ・ヲタク。勤め先でもバカにされて、友だちひとりいやしない。カノジョいない歴=年齢、というわかりやすいダメ男。
 そんなエリオットのアパートの隣の部屋に、銀髪の美少女が引っ越してきた。その少女・アナベル@さゆは、エリオットの愛するヴァンパイア映画のヒロインと瓜二つだった。
 そのヴァンパイア映画はエリオットの祖父が原作者で、ヒロインの少女は祖父の恋人だったらしい……。
 はじめてのデートのため、仲間たちの助けを借りイケメンに変身するエリオット。でも、アナベルからのリアクションはナシ。
 それもそのはず、アナベルはハーフ・ヴァンパイアでエリオット祖父の恋人だった、あの少女だ。彼女ははじめからエリオットに会いに来たのだ。エリオットの外見がどうであろうと眼中にナシ。
 ふたりがたのしく仲良くやっている、そのべつのところでは。
 50年前アナベルを追っていたヴァンパイア・ハンター、ヴァン・ヘルシングの孫ブライアン@ヲヅキとその仲間たちが、ヴァンパイアを捕獲して実験材料にし、不老不死でひと儲けしようと画策していた……。

 つーことで、ブライアン@ヲヅキが、「世界征服」を歌います。

 マッド・サイエンティスト・ポジション(やなポジションだ……)は、我らが圭子おねーたまです、端正なスーツに白衣、武器は注射器。無敵です。

 
 この公演を宣伝するとしたら、言うべきコトはひとつ。

「彩吹真央を好きなら、観て損ナシ」

 いろんなゆみこちゃんを見られます。
 ヲタクめがねっこ、おどおどヘタレ、青島@『踊る大捜査線』コスプレ、テル×ゆみタンゴ(腕の中でくるくる)、ヲヅキ×ゆみタンゴ(腕の中でくるくる)、愛輝とか香綾とかにまで腕の中でくるくる、はっきりいっていちばん二枚目じじい姿、なんちゃってヴァンパイア・コスプレ@マント付きと、クールなヴァンパイア姿など、きりがないほど魅力的な姿を見せてくれます。

 いやあ、ゆみこちゃん、髪型失敗してないじゃん!!

 かっこいいっす。かわいいっす。
 ゆみこってハンサムなときとアレなときの差の激しい人だと思っているけど、今回マジきれい、ハンサムです。青島コートのときのカオ、好きだ〜〜。

 ゆみこファンならきっとたのしい。
 ゆみこを見ているだけで、しあわせだろうと思う。

 あと、「雪組ファンなら、観る価値アリ」。

 かなめくんが、めっさ美しいです。
 美貌のヴァンパイアです。クール・ビューティです。

 ヲヅキ、かっこいいです。黒いです。

 組子たちもすげーがんばってます。
 新公学年のひよっこたちがほとんどなんだけど、みんなちゃんと役をもらい、真正面から取り組んでキラキラしてます。

 悪の「手下」コンビ(手下、って社長……せめて「部下」と……)@愛輝・香綾オイシイ。黙って踊ってるときはかっこいいぞ。目立つぞ。でもいつものイケコ定番まぬけ下っ端……。
 そしてオレは、愛輝くんが好きなのかもしれないと、今回も思った……。(何故かオレ女化)『Young Bloods!! 』以来、なんか特別扱い……。
 あーたん、体型を活かしたキャラ作り。いい感じ。
 キング、がんばってます。アイドルです、歌ってます、踊ってます、エリオットの「練習番カノジョ」も演じます。やる気満々、アピってます。目線来ます。でも声が女の子のままです、がんばれー。
 しゅうくんはラストがいい役、新公のときより歌がアレになってる? 初日だからかな。
 みなこちゃん、かっこいー。悪が似合うね。酔っぱらいぶりがすごい(笑)。
 れのくんが喋ってるー。歌ってるー。きれー、かわいー、きゃー。
 れのくんと一緒の男の子ふたりのうち、最後上手端にいた子は誰だ〜〜、もうひとりより確実に「男役」であろうとつたないながらもがんばっていたぞ。
 梓くんのアタマが膨張していた。や、プロローグはエロカッコよかったので、その差が……(笑)。
 あゆちゃん、かわいい……スタイルいいよなー。

 雪組は下級生があんまりわかんないんで、残念だ。てゆーかプログラム買ってないし誰が誰かマジでわからん。組ファンならもっとたのしめるはず。

 
 でも、まあ……その、つまり。
 裏を返せば、「彩吹真央と雪組若手に興味がないなら、観ても仕方ないかも」という、そーゆー作品です……。
 なにしろいつもの小池オリジナルだからなー。

 あと、ゆみこ総受ですが、あまりに狙いすぎていて、萌えません。

 アニメでも、萌え声優ばっかでホモ・カップリング推奨して作られた女子向けに萎えまくるタチなもんで。
 あまりにも「さあどうぞ、こーゆーのが好きなんでしょ?」とお手軽に差し出されると、どーでもよくなります。
 萌えとゆーのはだね、作者に押しつけられるものではないのだよ。ふっ。

 最後、笑われるためだけに出てくるヲヅキにも、かなしいものがあるし。

 あと。
 ヒロインは、そのう、うつくしいひとでないと、この物語は成り立たないと思います。
 ヅカで五等身のヒロインはきついっす……。や、衣装もカツラも悪いから、気の毒なんだけどなー。素顔はキュートなのに、舞台はどーしてあんなにも……あうう。

 わたし的に、いちばんの見どころは、圭子おねーたまVS五峰姐さんです。
 比喩じゃなく、マジでふたり一騎打ち、正面切って武器握って闘いますから。
 お見逃しなく!!


 大変です、ジャンヌ@雪だるまが壊れました……。
 いつもの「これがあたし?!」の場面で、ジャンヌ@みわっちが雪だるまのアタマを叩くと、そのアタマの一部分がぽろっと落ちた。
 声を上げる観客、そしてオリオンの男たち。

 沈黙。
 その瞬間、主役は雪だるま@破片。

 全員が固まり、床に落ちた雪だるまのアタマの一部分を見つめた。

 が、ジャンヌ@みわっちは負けていなかった。ぼーぜんと立ちつくす男たちを残し、いつものよーにぷんすかしながら退場。
 途中出会うジェラール@オサにも、いつものよーに「あたしが雪だるまに見えるっ?!」と噛みついて。

 無言で雪だるまのアタマを拾うシモン@まとぶ。愛しそうに壊れた雪だるまを撫でる手の哀しさよ。そこに満ちる哀愁よ。

 そして、その背中にかけられるジェラールの、重い重いひとこと。

「大変だな」

 場内爆笑。

 ジェラール氏は、笑いませんでした。
 あとからその場にやってきて、壊れた雪だるまを見ても。吹き出してもおかしくないと思うし、また、彼は笑ってもかまわないのに。実際、「大変だな」を笑って言うときもあったのに。
 今日のジェラール氏は、そーゆー日だったようです。オサちゃんの演技が日替わりなのはいつものこと。今回はあまり笑わないジェラール。

「話があるんだ」
 と、シモンが人払いをしてシリアスモード突入。
 今回のジェラールはあまり笑わない人。微笑みを浮かべる程度の穏やかな男。
 そんな彼が、親友から絶交を言い渡される。
 きびしく沈む表情。
 対するシモンの苦悶、発する熱と真摯さ。

 でも。

 ふたりの間には、アタマの欠けた雪だるま。

「信じてくれ。お前を裏切るようなことはしていない」
 沈鬱に訴えるジェラール。その横にある、アタマの欠けた雪だるま。

「あのときの封筒だ。中に小切手が入っている」
 親友から視線をはずしたまま、封筒を差し出すシモン。深い苦悩にゆがむ表情。その横にある、アタマの欠けた雪だるま。

 ……どうしろと。

 ドシリアスな画面の中央が、まさに会話する男たちの中心点が、雪だるまなんだってば。
 
 なにをやっていても、雪だるまが視界に入る……。

 わ、笑えばいいのか? ねえ?

 
 あの雪だるまはどーゆー素材でできてるんでしょうね。
 斜めにすぱっと削げるよーに、一部分が落ちたんですけど。
 そして、中も同じ色でした。外だけを石鹸色に塗ってあるのではなく、中まで同じ……ということは、もともとあの色の素材で作られているってこと?

 いやあ、あまりのことに演出変わったのかと思ったよ。
 ジャンヌが手刀で雪だるまのアタマを落とし、シモンが哀しみに満ちてそれを拾う。欠けた雪だるまの前で、超深刻芝居。
 コントとして完璧じゃん?
 そーゆー演出になったのかと。

 演出変更でないならば、アクシデントなんでしょう。
 明日から雪だるまはどうなってるんだろう? 無事補修されてるのかな?
 そして、アタマがもげる演出は、今後も使われるのかしら?


 ジェラールは「バカ」に弱い。好みのタイプは「バカ」。
 「バカ」というと言葉が悪いので、「純粋」と言い換えればいいのか。

 ジェラールが愛する相手として、マリアンヌとシモンがいる。ふたりは性格はチガウものの、どちらもまっすぐにおバカキャラ。

 さて、じつはもうひとりいるんだ。性格はチガウが、まっすぐにおバカな奴が。

 それが、市会議員モーリスだ。

 ちょっと中断してましたが、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、誰が読んでるんだろうなコレ(笑)、連載4回目です。
 

 とにかくモーリスは、最初から胡散臭い。

 なにしろ市会議員のくせに「アルテミス婦人同盟」の協力者だ。そりゃ無理だろ、善良になんか見えるわけない。

 えー、確認事項ですが、「アルテミス婦人同盟」って、女子中学生サークルレベルだよね? 理想主義の女の子たちが「ごっこ」遊びをしているだけだよね? や、本人たちは真剣だけど、客観的に見て。
 中学生レベルの活動を「至上のモノ」と思い込んでいるからマリアンヌのバカっぷりが潔いわけで。
 ごっこ遊びは微笑ましいけど、大人は本気で相手はしないよね?
 なのに、「理解者」の振りをして女の子たちの間でいい顔をしている。
 うさんくさいだろ。

 彼女たちの活動を本心ではバカにしているくせに、下心ゆえに持ち上げているのが見え見えで、じつに不誠実。
 こんな男に騙されているのが、マリアンヌのバカさをより上げているし、こんなに見え見えな態度でいることがまたモーリスのバカさを上げている。バカの相乗効果。

 シモンとマリアンヌのことは大好きなジェラールだけど、「勘弁してくれ、バカならなんでもいいわけじゃない、俺にだって選ぶ権利はある」ってなもんで、モーリスのことはキライ。
 わかりやすく悪党をやっているのではなく、善人の顔をして実は悪党というのもまた不快だし、マリアンヌを騙しているのもムカつくし、ただ騙しているだけでなく「あわよくばヤッちゃえ」と思っていることも許せない。
 そして、悪党なりに懐が深いとか頭がいいとかならともかく。
 女の子の歓心を買うために、悪党を雇って襲わせ、それを八百長で成敗する作戦、って……どこのコントですか。
 正気とは思えない大作戦を大真面目に、嬉々としてやるモーリス。マリアンヌたちに絡むスコルピオの男たち相手に大仰に見得を切って、上着を脱ぎ、構える様が……いっそ愛しい。あまりにバカで……って、や、ジェラールはここでモーリスを心から見下してますが。

 オサちゃんの演技は日替わりだからそのときによっていろいろある。「作戦だったんだ!」と訴えかけるモーリスに「もっとマシな作戦を考えろ」と言うとき……(内緒話の範疇だが)怒鳴りつけるときもあるし、かまっちゃいらんねーと面倒くさそうにろくに顔も見ないで言い捨てるときもある。が、いちばんキツいのは淡々と、軽蔑+憐憫の目で見下ろすとき。

 う・わー……。
 キツイ。
 これは、キツイ。
 ジェラール、いくらなんでもその目はよせ。君がモーリスを嫌いなことも心底バカにしていることもわかったから、実際モーリスはバカなんだけど、とりあえずそこまで他人を貶めちゃいかんって。

 モーリスがジェラールに対してキレるのも、仕方ない。
 あそこまで全身全霊をあげて全存在を否定されたら、キレるしかない。

 そーしてモーリスの駄々っ子ソング「あいつキライだ、仲間になんかしたくないっ」になり、やはりおバカなモーリスは他の悪党ズに簡単に説得されてしまうのだが。

 問題は、ここまでジェラールが「軽蔑」している相手が。

 ジェラールの罪によって、出た結果なのだ。

 ジェラールはモーリスを嫌っている。バカにしている。
 だがそのバカな悪党の父親が誰かを、知ってしまった。

 シモンから渡された14年前の事件のときの封筒には、ご丁寧にも差出人の名前が載っていたそうな。シモンってどこまでバカだったのかなあ。封筒の名前が自分の住んでいる市の助役であること、しかも他殺体で発見されたこと、に、気づかなかったのかねえ……バカだから、という理由なのかねえ……。

 シモンのバカさはともかく、思いがけずジェラールは、彼を「天使」と呼んだ男の名を知った。

 ピエール・ド・ブロカ……モーリスの父親だ。
 すべてのはじまりとなった事件。

 14年前の地下水道、少年だったジェラールの前でピエールは射殺された。
 撃ったのはスコルピオのリシャール。指示していたのは刑事のペラン。
 ジェラールが口をつぐんだために、犯人も動機もわからないままになっていた事件。

 もしもあのとき、ジェラールに勇気と知恵があれば。
 ピエールの殺人事件をきちんと解決できていれば。

 モーリスは、別の人生を歩んでいた。

 市長目前で死んだ父の無念を晴らすために、モーリスは市長になると言っているのだ。そのためには手段を選ばないと。

 ……ってつまり、モーリスがバカなのって、俺のせいかよ?!

 マルセイユはジェラールの「心の闇」。彼が犯し、葬った罪。
 14年前、自分の命かわいさに逃げた。
 そのことで、ピエールという男の人生を踏みにじった。
 ずっと見て見ぬ振り、忘れた振りをして生きてきたジェラールの前に、はじめて突きつけられた、罪の結果だった。

 ジェラールが「心正しい勇敢な少年」のままだったら。
 弱い者いじめする者を許せない、たとえ年上でも臆せず向かっていき、勝利する。
 そんな「ジョジョ」と呼ばれる少年のままだったなら。

 少年院に入れられたあともシモンと連絡を取り、殺された男のことを調べる。ピエールの死体はどこか別の場所で発見されただろうが、どこの誰かはいずれわかるはずだ。なんせ、14年後のモーリスが「父は射殺された」と言ってるんだから、死体も見つかったし、他殺されたことがわかる状態だったんだろう。
 てゆーか、封筒を見れば一発だってば。

 シモン少年はジェラールの指示に従い、ピエールのことを調べる。そのうちに、彼の息子モーリス少年と出会い、父の死に納得のいかないモーリスも事件の真相解明のために協力するようになる。

 ジェラール、シモン、モーリスの3人の少年で、マルセイユの巨悪に立ち向かう物語が展開したかもしれない。

 だが現実は。
 ジェラールは自分だけが助かることを考え、沈黙し、父を失ったモーリスは人生をゆがめた。

 や、どんなカタチで父の人生が無惨に潰えたからといって、その意志を継ぎ、夢を叶えるために犯罪に手を染めるのは、モーリス個人がまちがっているのであって、ジェラールの責任ばかりではない。
 それは、わかっているけれど。

 でも14年前の事件が発端になっていることだけは、たしかなんだ。

 シモンとマリアンヌ、そしてモーリス。
 バカに弱いジェラールが、マルセイユで出会った三者三様のバカ。

 シモンは「もうひとつの未来」。
 マリアンヌは「失った自分自身」。

 そして、モーリスは、「罪の結果」。

 だから痛い。無視できないほど、彼の愚かさが、ジェラールを追いつめる。

 
 ……つーことで、また翌日欄へ続く。


 その昔、SMAPに「森くん」という人がいた頃。

 友人がこの「森くん」の大ファンでなあ。話をいろいろ聞かされたよ。

「森くんは、タカラヅカの大ファンなの。ひとりで東京にある劇場に観に行ったりしてるんだって!」
 わたしがヅカファンだと知ると、話題はそちらにシフトした。

 友人の関心は、タカラヅカというよりも、「轟悠」だった。
 何故ならば。

「森くんは、轟悠って人の大ファンなの。この人、どんな人?」

 あー、トドですか。
 トドはねえ、「宝塚の『光』」って言われてるコンビの片割れ。光GENJIの某に似てるっつーんで。ヅカでは「ジャニーズ系」で通ってるよ。
 ビジュアル優先で実力はまあ問うな、て感じの人でね。ヅカファン同士でも、トドを好きだというと「ジャニーズ好きなのね」って決めつけられたりするわ。

 写真が見たいというのでてきとーに「グラフ」(当時はカナ表記)とか「歌劇」とか見せた。当時のプログラムは今みたい写真がろくに載っていなかったので。
 ついでに、相棒のユキちゃんの写真も見せる。

 内海に似ている女性がいることまでは予想できても、大沢の顔をした「女性」がいることは考えなかった模様。

「ほんとうに似てる……」

 友人は、絶句していた。
 うん、あのカオで女だなんて、ありえないよねええ。

 友人は大沢のことは好きではなかったらしいが、それでもトドロキのことは「森くんの好きな人」ということで愛着を感じたようだ。
 ヅカを見ようとはしなかったが、わたしになにかとトド絡みの森くんネタを教えてくれた。

「この間森くん、トドロキさんの舞台観に行ったんだってー。感動したってラジオで言ってたよー」

 トド、脇役なんだけどなあ……まだよーやく新公卒業か、てな学年だし……。真ん中以外を見るなんて、森くんホンモノだな(笑)。

「森くん、トドロキさんの髪型真似してみたんだって。本人はすごく似合ってるつもりだったけど、他のメンバーに反対されたって。『トドロキさんはそりゃ似合うかもしれないけど、お前はチガウ、似合わないからやめろ』って」

 どんな髪型を真似たんだ?! 当時のトドはキンキンのパツキンに、刈り上げだぞ?

 他にも森くんは、トドの服装とかポーズとか真似ては、メンバーから止められていたらしい。……当時のトドって、ピンハかカールヘルムだったような……。まだシャネル様の洗礼を受ける前。
 森くん、トドと実際に話したりもしていたんだっけかな。友人がいろいろさえずる話題の中に、そーゆーのもあったかも。
 当時の森くんはハタチ前後。とにかく森くんが無邪気にトドにあこがれている様子が、微笑ましかった。

 森くんがSMAPを脱退したのち、この友人は重い腰を上げてヅカを初観劇した。「宝塚の『光』の内海くんの方が退団しちゃうから、観るなら今しかないよ」とかなんとか言って、連れ出したんだっけか。

 わたしはトドファンだったし、彼女も「森くんの好きなトドロキさん」を見たがっていたから、わたしは必死に「今出たのがトドロキよ」とショーの出番を教えたりした。
 が。

「トドロキさんはどーでもいい。和央ようかさんがステキ」

 華麗にたかこオチして帰っていったな……。

 そのころにはトドは独特の臭味のある男役になっていて、誰も彼を「ジャニーズ系」とは呼ばなくなっていた……。遠い目。

 
 本日放送の『SMAP×SMAPスペシャル』を見ながら、そんなことを思い出していた。

 「トドロキさんはそりゃ似合うかもしれないけど、お前はチガウ、似合わないからやめろ」って言ったの、メンバーのうちの誰なんだろうなあ。その人は当時、トドのカオぐらい知ってたのかなあ。森くんに無理矢理写真とか見せられたりしてたのかなあ。

 トドを好きだというと、「ジャニーズ好きでしょ?」と言って、ジャニの話題を振られて困惑したあのころ。
 今も昔も、ジャニーズはとんとわかりません。
 ヲタクだったので、ヲタク仲間には「え○くり」の光本とか渡されて、たしかに「えみ○り」もトドユキで萌えていたよーだが、同じヲタクでもわたしとは別世界ジャンルの人たちだったし、で、とまどいしきりな日々。
 ……若かったなぁ(笑)。

 
 なんかいろんな人に「今日ヅカの人がスマスマに出るね」と言われ、忘却などしていられない雰囲気でした。わたしがヅカファンだと、周囲の人みんな知ってるからなー(笑)。

 や、らんとむさんがとってもらんとむさんだったので、すばらしいと思いました。

 あさかなタニウメがステキなのは言うまでもなく。


 ちょっとここで、「14年前の事件」を考えてみる。ジェラール側からは十分考え、自分なりの(笑)ストーリーを展開してきたので、「殺人事件」としての。

 『アデュー・マルセイユ』最大の謎、マルセイユ市助役ピエール・ド・ブロカは何故殺されたのか。

 や、いちお、理由だけは本編内で語られています。

 リシャールとペランが探していた「鞄の中身」である、「封筒」には、「市長の汚職を告発するメモ」が隠されていた、と。

 そのためにピエールは、口を封じられた。
 まあ、ここまではわからんでもない。
 ピエールはほんとーに独りで動いていて、彼ひとり殺してしまえば市長は安泰だった、というのもアリでしょう。

 さて、ここで気になるのはその、「汚職をしていた当時の市長」です。
 当時の市長はスコルピオと、そしてペランと通じていた。まあ、それもアリでしょう。スコルピオは悪いギャング、ペランは悪徳刑事。市長と組んで、悪いことをいろいろしていたのでしょう。
 市長の後押しがあるからこそ、理由をこじつけてジェラールを少年院送りにし、スコルピオの息のかかった取調官を付けることができたのでしょう。
 「本当のことを言え、言わないと成人するまでここから出られないぞ」ってのは、悪党一味でないと言わない台詞だよね? ジェラールは「ケンカに巻き込まれた」から院にいるのよね? 「本当のこと」をジェラールが本物の取調官に話してしまったら、悪党も市長もやばくなるから、ずーっと見張っていたのよね? すくなくとも、最初の何年かは。
 権力者の後ろ盾がないと、そこまではできないよね?

 ソレはそれでアリなんだが。
 問題は、その「14年前、市長と通じていた」ことが、現在とどう関係しているかだ。
 作品中で語られていないので、さっぱりわからない。

 ふつーに考えると、おかしいんだもの。

 14年前には市長と仲良しで、悪党としてマルセイユでブイブイ言わせていたであろうリシャールとペランが、現在が一議員と仲良しなだけてのは、彼らがバカという証拠にしかなりませんが、どうなんですか。
 どんだけヘタ打って、こんなに地味にくすぶってんだ?

 14年前は、正直者で通っている評判のいい少年を、問答無用で少年院へ放り込むだけの権力を持っていた悪党たちだよ?
 市長と共犯者だよ?
 市のトップに立つ男の、裏仕事を受け持つ実行部隊の隊長とかをやっていたわけだよ? いざとなったら市長を脅して自分たちが街を支配するくらいできるだろう、裏のからくりを操っていた男たちだよ?

 それが今は、へっぽこモーリスだけがお友だち。

 モーリスがお仲間でも、大した権力はないだろ……。市長選出馬も金の力しか頼るモノがないよーな、人脈も人望もない若造だよ?
 手を組む政治家の格も質も落ちまくってますがな……。

 ペランは警察でも出世してないっぽいしな。
 市長が味方なら、警部といわず、もう少し地位や給料の高いところへ行って、さらに悪事の手助けができただろうに。学歴とか家柄?とかがなくて、警部止まりと就職したときから決まっていたのかな。
 14年前からけっこーいいトシに見えたし、それなりに権限のある立場に見えたから、14年間昇進してないのかな……。それもすごいな。

 14年前はそれなりに権力のある悪党だった、リシャールとペラン。
 しかし、時は流れすっかり落ちぶれてしまった。
 当時の悪の市長はすでにその座になく、現在の市長はまぬけそーな風情だが、悪の誘いには乗ってこない人物である(ちなみに恐妻家)。
 政治家の協力が必要、つーんで、てきとーな人間を物色したら、モーリスだった。……いちばん与しやすそうだったから。つまりバカだったから。てことですか。

 リシャールはマルセイユのギャングとしての覇権を、あのシモンなんかと二分しているわけだし。シモンの年齢からいって、あとから台頭してきたわけでしょ?
 あの、シモンだよ? バカさお墨付きの。
 アレをライバルとして、アレに勝つために、きゅーきゅー言っているんだから、リシャールがどんだけ安い男であるかは、わかるよな。
 「給料が安いから、悪いことをして金を儲ける」という理由で、昔も今も同じことをしているペラン。……14年前はもっと稼げていただろうに、その金はどーしたんだ。未来へなんの投資もしなかったのか。

 なんにせよ、14年前が市長で、今がモーリスごときだなんて、落ちぶれすぎだろ、リシャール&ペラン。

 悪がきちんと悪であることで、主役の格好良さが引き立つわけだが、14年前の事件のせいで、悪役がまぬけ認定されるので、主役がかっこよくなんないよー。

 回想シーンのふたりはとても悪くて、事件も深そうで、かっこいいのにね。
 こんなアホなオチとはね。

 そして、なんにも解決していないのに「謎が解けた」と言うジェラールたちがアホに見えるから、やめてくれ。

 ピエール殺人事件の動機がわかっただけで(実行犯は最初からわかっていたのに、ジェラールが黙っていた)、事件自体はまったく解決していないから。当時の市長はどうした、実行していないだけで、共犯かあるいは主犯だろう?
 殺人を目撃していながら黙秘していたジェラールの行動も、言及されるだろう? 脅されていた、未成年だった、ので罪には問われないだろうが、事件関係者として召喚されるだろう?
 なんの謎も解けていない。
 ピエール殺人事件が解決しなければ、ジェラールはジェラールに戻れない。
 殺人事件の目撃者でありながら、ギャングに脅されて真実を告発できずにいたのだから。

 事件が解決していないのに、「俺は今ジェラール・クレマンそのものだ」とか最後に晴れ晴れ言うのはどうなのよ。
 ただ実行犯が捕まった、というだけじゃない。観客はなんの謎解きも、報告も受けてないよ。

 当時の市長の汚職、それに絡む殺人事件、なんて、やめときゃよかったのになあ、イケコ。
 この事件があったために、みんながアホアホになった。
 現在の悪党との駆け引きだけにしておけば、ボロも出なかったのに。
 プロットめちゃくちゃにして、前のプロットの「削除し忘れ」みたいな事件つぎはぎにして、なんにもいいことないじゃん……。

 
 や、つじつまとか気にせず、オサ様が強引に紡ぐ物語を楽しんでますが。
 脚本にはアラがありすぎるのが気になってな。


 モーリスがバカなのはモーリス本人の責任だ、俺の知ったこっちゃない……そう割り切るには、ジェラールはまともすぎて。
 己れの罪を知るのは、誰より己れ自身だから。
 裁かれなければ無罪なのではない。誰が知らなくても、罪は罪。
 ジェラールは、自分がしたことを知っている。
 自分自身からは、決して逃げられない。

 ただでさえバカに弱いジェラールだ。
 はい、『アデュー・マルセイユ』が恋愛アドベンチャーゲームで、モーリス・シナリオをプレイするならば。
 ここまでのフラグ立てで十分、恋愛スイッチONですよ。
 なまじ反感持ってた分、その大きな感情がマイナスからプラスへ変換された日にゃあ。

 はい、いつまで続くんだコレ、の『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、連載5回目にしてよーやく本命、オレがもっとも萌えているモーリスカプの話です。
 
 モーリスの人生を狂わせてしまったのが自分だと気づいたジェラール。
 気づかされたのは、シモンから渡された14年前のあの封筒。

 はい、その封筒の秘密……というにはあまりにアレな「内側にぴったり貼り付いていたメモ」についてですが。
 封筒自体が二重構造で中に隠されていたとか、メモが書かれた紙自体を使って封筒を作ってあった(分解しないと読めない)とか、言い訳にも「14年間気づかれずにいた理由」があればいいのに……あまりにアホな理由過ぎてこまるよ……。
 まあ、シモンだから気づかなかった、ということで、ジェラールはもちろん封筒を手にしてすぐに気づいたわけです。封筒の名前にも、中のメモにもね。

 そして、殺されたピエールが正義の人であったことを知る。……自分が、その正義の人の命がけの行動を無駄にしてしまったことも。

 すぐに気づくだろうから(メモに気づくのが若干送れたとしても、封筒の名前は一目瞭然だろう)、封筒を受け取った次の場面、石鹸工場でモーリスと再会したときには、わかっていたはずだ。

 バザーの時、敵意を剥き出しにしていたモーリスは、ナニを思ったか、この石鹸工場での再会時は超ご機嫌。
 緑色のリボンの木箱を手に、ジェラールにも営業用スマイルで話しかける。

 うさんくささ、無限大。
 
 ジオラモに説き伏せられたモーリスは、「利用されてるだけなのも知らないで。お前なんかただの生贄の羊だもんね〜〜、フフフ」とゆー、実に浅いハートで優越感に浸っているだけなんだが。

 そのうさんくさいハートフルぶり、素直に感謝しているマリアンヌに対し罪悪感のカケラもなく善人ぶる姿、彼女たちに悪事を手伝わせ(偽札の梱包をさせてるよね? 緑色のリボンを巻かせて)、そしてそんな自分の賢さに悦に入っているモーリスを見て。
 ジェラールはさらにテンションが下がる。

 このバカが、俺の罪の結果だというか……。

 なんてヘヴィな現実。

 あんまりだよなあ。
 ジェラールが卑怯だったせいで、ピエールの家族が不幸になった、として。
 まだ、貧困と差別の中で泣き暮らしていてくれた方が、マシだったんじゃないか?
 それなら、真正面から後悔することも、また償いをしようと思うことも出来た。
 でもなあ。金持ちで地位も名誉もあって、卑劣でバカってのは、なんつーかこー、後悔しにくいっていうのか、償おうというガッツに欠けるというか。
 どうしてくれよう、このバカ男。

 ジェラールはもともと、モーリスに対してはけっこー本音部分が出てしまっている。
 「悪人同士として協力」することになっているのに、バザー会場で敵対台詞を吐いたり、石鹸輸出の会話からモーリスを閉め出したり(や、彼は強引に会話に割って入りますが)と、いちいちいぢわるだ。
 モーリスに対しては「捜査官」としてのカオより「ジェラール本人」のカオが出てしまいがちだった。

 ただでさえそーやって「意識」していた相手なのに。

 ご機嫌モーリスを見て反感が募り、その反感と「罪悪感」がせめぎ合い、ジェラールは混乱する。

 そのうえ、さらに追い打ちがあるのだわ。

 バザー会場でうっかり盛り上がってキスしてしまったマリアンヌは、すっかりジェラールの恋人気分だ。
 もともとモーリスのことを重荷だと容赦なく言っていた彼女は、ジェラールとデキあがったからモーリスを切り捨てるつもり満々。

 えーと、バザー会場での「忘れ物」ってのは、キスだけだったんすかね? それともそのあといろいろいろいろセットだったんですかね?
 キスだけで恋人気分、てのはふつーナイ気がしますが、世間知らずのマリアンヌの場合ソレもありそーでこわい。
 ふつーなら、キスのあといろいろいろいろ一夜あって、それで「この間のこと」と言えると思うんですが。
 まあ、この問題はいずれ考えるとして。(考えるのか)

 「忘れ物」があって、マリアンヌは絶好調。びびるのはジェラール。

 ちょっと待て。
 またしても、モーリスを不幸にするのが俺なのか?

 マリアンヌがモーリスを振るのはぜんぜんかまわない。あんな悪い男は、利用するだけして捨ててしまえ。や、どう取り繕っても、今の状況でマリアンヌから「恋人ができたから、アナタからの個人的な援助は辞退するわ」てのは、貢がせるだけ貢がせて、いらなくなったからポイ捨て、てことでしょう。それはヨシと思う。
 だが、俺が理由ってのは、どうよ?

 マリアンヌはなにもまちがっていない。彼女は節度ある態度を取り、男の好意を逆手に取り、尽くさせてきたわけではない。結果として同じようなことになっていたとしても、尽くしていたのはモーリスの勝手でしかない。

 そうし向けたわけじゃない。
 でもまた、ジェラールはモーリスの人生を曲げようとしている。彼を、不幸にしようとしている。

 ここで、ジェラールには腹をくくって欲しいですわ。

 彼のせいで不幸になったモーリス。本来得るはずだった、まっすぐな道を、ゆがめてしまったモーリス。

 ならば俺が、責任を取る。
 ゆがめてしまった、奪ってしまった、あの男の人生。

 反感、腹立ち、侮蔑。抱いていたマイナスの感情すべてを、大きな憐憫と悔恨へと転換する。

 今、なにもかも奪おう。あの男から。

 モーリスが愛した女、現在の仕事と地位、そして未来の夢。
 すべて、俺が奪おう。

 偽札組織を摘発する。それに加え、ジェラールがモーリスの父を見殺しにしたことをも告白する。
 すべての真実を、明るみに。

 そのうえで、モーリスの未来を引き受けよう。
 モーリスが実際に手を染めた罪の度合いはわからないが、服役することにはなるだろう。
 その彼がなにを思い、今後どんな道を進むのかはわからない。
 それでも、出来る限り支えよう。責任を取ろう。

 それが、14年間罪を封印してきたジェラールの、真の再生だ。

 あの日、地下水道で。
 ジェラールのことを「天使」と呼んだ男の、息子。
 ジェラールの「罪」そのもの。

 モーリスを受け取めることが、ジェラールに科せられた罰だ。


 書きはじめてもう何日も経つし、恋愛アドベンチャーゲームで誰それシナリオとか脱線しつつ進んでいるので忘れがちだが、そもそもジェラール×モーリスの物語のつもりで書いてるんだからね!の、『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、誰も読んでなくても続ける(笑)、連載6回目です。

 公演も半ばを迎え、ジェラールとモーリスの意地の張り合いっつーか仲の悪さはどんどんひどくなってきてます。
 バザー会場の場面、たのしーよー。ふたりが台詞もないままゼスチャーや目線だけでケンカしてしてて(笑)。
 ジェラール、モーリスを騙すのは「仕事」でしょう? ケンカしてどーするよヲイ。
 優秀な捜査官であるはずが、モーリスの前では本音が出てしまうジェラール。
 ただでさえモーリスのことは「特別(にキライ)」だったのに、彼のアホさ加減が自分の犯した罪の結果かもしれない、とわかってしまったジェラール。

 ピエールを殺したのはリシャールとペランだ。
 リシャールたちは、自分たちが殺した男の息子に近づき、仲間面していいように利用しているのだ。

 悪党たちの間で、なにも知らずインテリぶっているモーリス。
 彼のアホさを痛々しいと感じてしまったら、もうOUTだ。

 偽札組織の犯罪を暴くためには、衆人環視のもとでなくてはならない。
 そのためにジェラールは、アルテミスのダンス・コンテスト優勝賞品を偽札とすり替え、市長をはじめとする大勢の前で暴いて見せた。
 ペランがジェラールに罪をなすりつけ、逮捕しようとするのは計算のうち。なにが正しくてなにがまちがっているのかを、警察署の中の隔離された取調室で訴えるのではなく、一般市民の前で。
 モーリスが偽札に関わっていること、なのに駆けつけたペラン警部は不自然にモーリスをかばおうとしていること。
 それらのやりとりを、観客の前で。

 だがそののち何故かジェラールは、せっかく用意した衆人環視の舞台を捨てて、地下水道に移動する。
 本来ならば、観客たちの前ですべてを明らかにしなければならない。ICPOの刑事であることを証し、悪党たちがなにか画策したとしても「一般市民」たちが一部始終を目撃している状況で、真実を突き詰める。
 そのためにお膳立てをしたのに、何故なにもかも捨てて地下水道へ行く? しかも、民間人の少女マリアンヌを連れて。刑事がしていいことではない。

 や、本編はこのへんぐちゃぐちゃだから。
 地下水道に行く理由も、マリアンヌを連れて行く理由もない。
 ダンス・コンテストで鑑定人まで連れてきて偽札を暴いた意味が何処にもない。
 話途中でいなくなるから、市民たちは「どっちが正しいの?」とコーラスするはめに。
 彼らの前で、きちんと決着をつけなければならないのに。
 作者の都合だけで、舞台は一般人の目の届かない地下水道へ。
 百歩譲って14年前の「はじまりの場所」である地下水道に行くことに意義を認めても、マリアンヌを連れて行くことだけはありえない。事件と無関係だとわかっている民間人の少女を、刑事がわざわざ銃撃戦必死の戦場に拉致していくなんて。
 作者がなにも考えていないだけなんだろうけど。

 マリアンヌを愛しているなら、命の危険のある場所へ連れ出したりしない。
 ジェラールはここですでに彼女を利用するつもりだった。

 すべては、モーリスのために。

 市長をはじめとする一般市民の前でモーリスへ疑惑を投げつけ、彼が愛する少女を連れ去り、地下水道へ逃げる。彼が追って来られるように、行き先まで告げて。

 14年前、すべてがはじまった場所。
 ジェラールが罪を犯した場所。
 ピエールを見殺しにしたことから、ジェラールの「孤独と秘密」ははじまっている。
 今、すべてを解き放つときだ。

 マリアンヌを囮にすることで、モーリスを釣ることができた。
 この期に及んでまだ彼女に対し「善人」のカオを貫こうとするモーリスには隙が出来、ジェラールがつけ込むことが出来る。

 モーリスと対峙したあとはマリアンヌのことはどーでもいいので放置、ジェラールはついに真実を口にする。

 14年前この場所で、リシャールとペランがピエールを殺したことを。
 自分がその場にいたことを。

「リシャール本当か?!」
 モーリスはジェラールに銃口を向けることも忘れて、仲間だった年長の男に詰め寄る。

 モーリスの小さなアタマの中は、この瞬間父殺しの実行犯リシャールたちのことでいっぱいだ。
 ここは地下水道。一般人はいない。いるのは、事件関係者とギャングと警官。市民に迷惑はかからない。

 モーリスが、なにをしても。

 何故今この場所で、真実を明らかにするのか。
 せっかく用意した衆人環視の舞台を捨てて、関係者しかいない状況を作ったのか。
 ジェラールの目的は、真実を告げ、モーリスに一旦判断を委ねること、だ。
 
 浅はかな彼が激昂し、リシャールを殺すならば、殺させる。ペランを殺すならば、殺させる。
 どちらかに向かって発砲すれば、まちがいなく彼は「仲間」だと思っていた者たちに射殺されるだろう。悪党たちは自分の身を守るためにはなんでもする。
 そのときは、モーリスを守って闘う。楯にもなる。彼に好きなだけ復讐をさせてやる。

 モーリスは真実を知らされずにいたために、道化となった。ジェラールが真実を隠匿したために。
 モーリスは知る権利がある。真実を得て、自分自身で行動する権利がある。
 彼の決断が、行動が、どれだけまちがっていようと関係ない。真実の上に、自身で選んだのなら、ジェラールはそれを支持する。守る。
 モーリスは14年間、真実を与えられずにいたのだから。

 マリアンヌを連れてこの地下水道に入ったときから、ジェラールは法も職業も、倫理も良心も捨てている。刑事ならばはじめからこんなところに舞台を移していない。

 すべては、モーリスのために。

 この一瞬リシャールたちだけが憎しみの対象となったとしても、事実を整理できるようになればわかるはずだ。
 14年前、ピエールがリシャールたちに殺されるところを目撃していたジェラールは、今までナニをしていたのかと。
 ジェラールが真実を話していれば、こんなことにはなっていないのだと。

 口封じがこわくてジェラール少年が沈黙を通したために、ピエールの命を懸けた告発は闇に葬られた。ピエールを犬死にさせた。
 そのためにモーリスは道をゆがめ、父殺しの犯人だとも知らずにリシャールたちに尻尾を振った。

 モーリスの憎悪を発端とする14年間は、ジェラールが原因だった。

 真実を告げることで、モーリスの銃口はリシャールたちだけでなく、ジェラールにも向けられるかもしれない。
 それでもよかった。
 「真実」を得て、モーリスが自分で選んだことならば。

 撃たれてやる。殺されてやる。
 彼の父親のように。

 この場所で。すべての「罪」が、「孤独と秘密」がはじまった場所で。


 えー、ラブ・ロマンスも佳境となってきました。
 『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、ついにクライマックスです。

 
 モーリスは追いつめられている。偽札製造を秘書の責任に押しつけたとしても、政治家としての道は閉ざされるだろう。その秘書は市民たちの前で逮捕されたのだから、事件自体を闇に葬ることは不可能だ。
 愛する少女からも拒絶され、仲間だと思っていた男たちは父殺しの犯人で、自分は騙されていた。
 夢を失い、愛を失い、居場所すらなくした。

 それがすべて、今目の前にいる男が発端となっている。
 刑事として告発した、というだけでなく。
 14年間、真実を隠匿した男なのだ。

 モーリスの不幸は、すべてジェラールが原因だ。
 14年前の事件、そして現在の事件。
 いつもいつも。
 この男が、俺からすべてを奪い取る。
 父親の名誉も、自身の夢も、愛する女も。

 モーリスの手には、銃。凶器。人の命を奪うことの出来る武器。そう、14年前父がこの武器によって命を終わらされたように。

 復讐することが出来る。
 彼が過ごした14年間の、ゆがんでしまった人生の、復讐。

 せっかく用意した衆人環視の舞台を捨て、関係者(と、囮として使用したマリアンヌ)だけで地下水道へ移動してきたジェラールの目的は、真実を告げ、モーリスに一旦判断を委ねること、だった。

 モーリスが復讐を考えるのなら、それを受け入れるために。
 彼にその機会を与えてやるために。
 職務も倫理も手放した。マリアンヌの命も危険にさらした。

 ただ、モーリスのために。
 彼に真実と選択権を与えることで、償おうとする自分の心のために。

 これは、賭けでもあった。
 真実を知ったモーリスがどうするか。
 ジェラールが殺されるかもしれないし、モーリスが自殺するかもしれない。
 それでも判断をモーリスに任せ……そして。

 タイムリミットが来た。

 ICPOのフィリップ刑事がパリ警察の協力を得て、地下水道へ現れた。
「来てくれたんですね」
「舞踏会の晩には、なにか起こると思っていた」
 ……て、お前ら打ち合わせてなかったんかい!
 と、観客が総ツッコミと化すこの展開。フィリップが独自の判断でやって来なかったら、悪党VSジェラール+オリオン組VS混乱した警官たちの大混戦の銃撃戦、屍累々になっていたところだ。巻き添えを食ってマリアンヌもジャンヌも死んでたんじゃないか?
 作者がなにも考えていないだけなのは一目瞭然だが、本編は結果オーライでなし崩しにハッピーエンドになっている。

 何故ジェラールは、計画をフィリップに知らせず単独で事を起こしたのか。それまであれほどマメに連絡を取り、指示を仰いでいたにもかかわらず。
 彼は刑事としての任務より、自身の償いを優先させたんだ。
 犯人が死のうが逃げようが、関係なし。モーリスの手にしていた偽りをすべて奪い取り、丸裸になった彼に真実を突きつけるためだけに、上司に無断でこの大イベントを行ったのだ。

 これは賭けだった。
 フィリップがジェラールの動きを知り、駆けつけてくるまでの間だけの。

 リシャールやペランを殺すことも、ジェラールを殺すことも、自殺することもできた。
 しかしモーリスはどれを選ぶことも出来ず、フィリップ登場によって逮捕された。

 真実は明かされた。
 ジェラールはもうなにも偽っていない。
 14年間握りしめてきた罪は、告げなければならなかった相手に届いた。
 それでどうするかは、モーリスの問題だ。

 逮捕されたモーリスと、ジェラールはしばし見つめ合う。
 殺された男の息子と、見殺しにした男が見つめ合う。

 抱きしめることが出来たら、よかったのに。

 彼が罪、彼が過去。
 今、未来へ進むために。

 抱きしめることが出来たら。

 これは賭けだった。
 モーリスがジェラールを殺すか、自殺するか。
 だが、どちらにも針は傾かず、双方生きたまま賭けは終わった。
 賭けは、3つめの結果となった。

 これからも生き続けるモーリスを、支える。

 ジェラールが歪めてしまった彼の14年間を、償うために。なにもかも失った彼のこれからの人生を、彼が立ち直るまで陰に日向に支え続けるのだ。
 そのためには、ジェラール自身がまず、立たなければ。自分の足で。ジェラール自身として。

 14年間、孤独な人生を歩んできたのは、ジェラールだけじゃない。モーリスもまた、同じように暗い道を歩いていた。
 ふたりの男はそうとは知らず、同じ道を平行して歩いていたんだ。
 このマルセイユでふたりの道は交わり、今、ひとつになった。

 死んだ方が楽だったかもしれない。
 ジェラールも、モーリスも。
 それでもふたりは死ぬことなく、地下水道をあとにした。罪がはじまり、罪が終わった場所から、光射す地上へ出た。
 だから生きるんだ。

 彼の「美しい故郷」。
 彼の「罪の結果」。
 彼の「罪と罰」。
 彼の「償い」。

 いつかジェラールの心はモーリスに届くだろうか。
 過ごした孤独な日々を、慰め合う日が来るだろうか。
「あのとき撃っておけばよかったのに」
 と、この日のことを笑い話に、酒を酌み交わす日が来るだろうか。

 ふたりの魂の罪人は、「こいつムカつく」とケンカしながら、それでも歩いていく。
 前へ。

 暗い地下水道を出て。過去と決別して。
 

 今、「孤独と秘密」は完全に消えた。
 己れの罪を隠匿し、それゆえに誰にも心を開くことが出来なかったジェラールは、自分の心を縛る鎖から解放された。


 『アデュー・マルセイユ』本編の穴を、わけわかんないところを、自分の想像で自分の都合よく補完していく話、の続き、エピローグです。

「14年間の謎が解けたってワケか」
「ああ。俺の心の鎖も解かれたようだ」
 って会話を、シモンとジェラールはしているけれど、ちょっと待て、14年前殺された男がモーリスの父親だった、つーだけで、他はなんにもわかってないじゃん、なんにも明らかになってないじゃん。
 それで解き放たれるジェラールの「心の鎖」ってナニ?!
 と、観客が総ツッコミと化すこの展開。
 このことの辻褄を合わせたくて、それともうひとつ、ラストのジェラールの台詞の辻褄を合わせたくて、長々と書いて来たよーなもんだ。

 ジェラールが任務を離れ、自分の過去の清算のためにスタンドプレイをしたことに、フィリップは気づいているのか。
 静止した闇の中にいたジェラールを、自由に動くことの出来る場所へ、新しい名前と共に放してくれたのが、このフィリップだ。
「来てくれたんですね」
 達観したものを持つ大人の男へ向けて、ジェラールは深いものを含ませた笑顔を向ける。
「舞踏会の晩には、なにか起こると思っていた」
 愛嬌を込めて、フィリップは答える。なにもかもわかっていたかのように。

  
 そうそう、忘れないでマリアンヌのカンチガイを解いておく。
 舞踏会でキスしてしまったため、また彼女は「私はジェラールの恋人」と思い込んでいる。
 あれほど「女性参政」と意気をあげていたことも忘れ、「そんなのどーでもいい、恋がいちばん大切よ」とすがりついてくる。あまりに愚かな「女」部分を剥き出しにした少女。

 「失った自分自身」であるマリアンヌ。彼女の幼さも愚かさも、昔の自分を見ているようで、苛立たしくもあり、またたしかに惹かれてもいた。
 だが人は、子どものままではいられない。
 少年時代に郷愁はあっても、もうそこに還ることはできない、帰ってはいけないのだ。
 罪も傷も、見て見ぬふりは出来ない。割れた花瓶を継ぎ合わせて割れていないことにするのではなく、割れてもう今はなくなってしまったけれど、美しかったこと、愛していたことを心に刻んでいればいい。

 罪を告白し、魂を解放したあとのジェラールには、マリアンヌのことは男女の感情には結びつかず、むしろ兄が妹を思うような穏やかな感情に昇華されている。
 幼い君にはまだわからないだろうけれど、いつか君も、心の傷を傷と認めて、自分自身を受け止める日がやってくる。

 彼女の愚かさは、ジェラールにもたしかにあった愚かさ。
 否定するでなく蔑むでなく、とても愛しく思う。

「大きな未来に向かって進んでいくんだ。君は君の未来に向かって、僕は僕の未来に向かって。……落ち着いたら手紙をくれ」
 新しい世界で生活することで、少女はきっと彼への気持ちを忘れるだろう。恋に恋していただけだと気づくだろう。
 今、気休めが必要ならばいくらでも、彼女が望む言葉とやさしいキスを与えてあげられる。

 マリアンヌから届く何通目かの手紙は、結婚式の招待状かもしれない。たぶん彼女は、政治家になどならずふつうに、ごく若いうちに結婚するだろうから。

 
 シモンがバカで幸いした。
 彼は「刑事のジェラールがスコルピオ組の潜入捜査のためにマルセイユへ来た」と思い込んでいる。
「この野郎、俺を担ぎやがって!」
 と笑うシモンは、そもそも自分が疑われていたことを、カケラも疑っていない。
 「親友」である自分は、「清廉潔白」である自分は、他人から疑われることなどないと、素直に信じ切っている。

 ジェラールに絶交を言い渡した理由も、「これ以上お前を疑いたくない」だった。
 ひとを疑うことに慣れていないシモン。想像もつかないシモン。

 ジェラールの「もうひとつの未来」であるシモンは、今のジェラールが持ち得ない素直さでキラキラ笑う。

 シモンには、なれなかった。
 だけどもういい。ジェラールはジェラールだ。シモンになる必要はない。
 たしかに罪を犯した。卑怯だった。臆病だった。
 だが、己れの弱さを受け止め、傷として糧としてその魂に刻み、前へ進むことができるのも、他でもないジェラールだからだ。
 幼くまっすぐな誰かでも、純粋で疑心を知らない誰かでもなく、間違いやら歪みや澱みやらを全部持ち合わせたジェラールだからこそ、進む道もある。

 なにも知らず、理解しようともせず、シモンは笑う。

「俺たち、ずっと友だちだもんな」

「ああ、友だちだ」


 バカみたいな会話。
 だけど、それでいい。
 シモンの変わらないバカさに、ジェラールは救われ、惹かれてきたのだから。

 唯一、ジャンヌはすべてを察していたかもしれない。ジェラールの手相を見て「秘密が消えてる」と言う賢い彼女は、なにもかもわかったうえで、バカなシモンを愛するのだろう。

 
 ジェラールの「心の闇」そのものだった美しい故郷マルセイユ。
 それまでここは、「帰りたくても帰れない」場所だった。
 仕事を名目に、純粋だった少年時代を、粉々に打ち壊すためにやってきた。
 帰れない場所ならば、もう二度と意味など持たないくらい、完全に葬り去りたかった。

 だが、己れの罪を認めた今、ジェラールはジェラール自身を取り戻した。

 少年時代の彼も、彼がなるはずだった未来の彼も、彼の罪の結果も、すべてを受け入れた。

 美しい故郷マルセイユ。
 これでいつでも、帰ってくることができる。
 いつふらりと訪れても、親友はあたたかく迎えてくれることだろう。

「アデュー」
 と、彼がつぶやくのは、彼の中の故郷。
 彼の心の闇。彼の幼さ。

 彼を縛っていたのは、事件でも犯人でもなく、彼自身の弱さだから。

 振り返る彼の目に映るマルセイユの人々は、やさしい仲間たちだけでなく、観光客も街の人間も夜の女も、スコルピオの男たちまでいる。
 清も濁も、すべてがみな、美しい光の中にいる。

 光に目をすがめ、愛しそうに見回して。受け止めて。

 だから彼は、永い別れの言葉を口にするのだ。


 今日は花組東宝発売日。
 もちろんパソコンの前に坐り、時間より前からクリックの練習をし、イメージトレーニングも万全に、片手にマウス、片手に携帯でチケ取りに臨みましたが、完敗しました……。
 ふふふ、いつものことよね……。
 今のところ、友会で当たった1公演だけです、東宝。や、後ろから2列目ですけどね。わたしのくじ運ですからね。
 ふふふ、いつものことよね……。
 昨日も昨日でみっちゃんバウ買えなかったしね……こっちは友会もはずれたしね……。
 

 それはさておき、寿美礼サマの写真集『MOMENT』を買いました。

 
 わたしは舞台の上の春野寿美礼しか知らないので、素顔のオサちゃんは出版物でしか見たことがない。お茶会も行ったことないし、スカステのナウオンも基本見ないし。
 2001年発行のパーソナルブック、2004年発行の写真集、そして今回の写真集。あるのはこれだけだ。
 3冊を見比べてみると、別人?ってくらい、ちがっている。

 人間ってのは、これだけ変わるもんなんだなあ。
 トシを取ったとかどっかいじったとか化粧を変えたとかではなくて。
 立場に伴う内面の変化が、こうやって外面に表れるもんなんだなと。

 人間の顔は、本人が作るものなんだなと。

 昔から一貫して言っているように、わたしが春野寿美礼を好きになったのはまず、顔が好きだからです。
 や、好みの顔っつーのがあってだね。オサ、水、おっちょん、まっつ、うきょーさん、あたりの顔が問答無用で好きなのよ。タイプなのよ。
 顔が好みだから、好きになった。や、わかりやすいです。歌がうまいとか演技がどうとか、下級生時代はわかんなかったし。まず顔でしょ?

 最初の、2番手時代パソブの、若い傲慢さのある顔がダイスキだった。
 わたしは彼の、黒さが好きだったの。無邪気に笑っている奥に見え隠れする、「闇」の部分。

 寿美礼ちゃんは、なんかキャラクタにえらく振り幅があった。
 心の底まで真っ白です☆ と笑うことも出来るし、魂の芯まで闇色です、と微笑することも出来た。
 演技だとは思ってない。計算だとも思ってない。
 彼はナチュラル・ボーン、彼は彼に生まれた。ただそれだけのこと。

 「天才」に生まれてしまった。それゆえに持つ「闇」。
 本人がどんなに「いい人」で「やさしくて」「ある意味天然(笑)」であったとしても、関係ない。性格とは別の場所にある、「闇」。
 翼を持つ彼には、地べたを這いずることしかできないモノの気持ちなんかわからないし、わかる必要もない。
 彼はただ、彼であることをまっとうすればいい。

 や、彼が努力していないとか、技術を磨いていないという意味ではなく。

 生まれ持った翼を広げ、羽ばたくことを楽しみだした、若い帝王。
 空は広く、未知の光に満ちていた。

 ……それが、2004年の写真集では、失速していた。
 疲れた顔、無理の見える、不自然な写真集。スケジュールが決まっていたから、仕方なく出版しました、みたいな。
 や、わたしはこの写真集はあまり好きじゃない。購入したときにかなり茶化した感想を書いて、それで封印。
 オサちゃんが痛々しくて、見ていてつらい1冊だった。

 舞台の上のオサちゃんも、なんかえらい方向へ爆走していた。
 誰も愛さない、相手役を見ない。感性の合う役者以外とは、まともに芝居しない。歌にもお化粧にもキツイ癖が付き、痛い芸風になる。

 彼のまとう孤独さと、惑う混沌ぶりに、胸を痛めた。

 相手役ひとりまともに愛せない狭量ぶりにあきれもしたし、また、そんなところも含め愛しいと思った。

 「天才」であると同時に彼は、「アーティスト」なんだと思った。
 彼の才能を活かす環境が必要なんだ。工事現場の騒音と地震のような揺れの中で、繊細なガラス細工を作れといわれても無理だろう。
 清浄なアトリエを用意してやることは、アーティストを甘やかすことではなく、彼の才能を愛する者の義務なんじゃないのか?

 いちばん力がみなぎるはずの人生の夏を、帝王は苦悩のまま過ごした。
 無限に思えた空には限りがあり、現実は彼を失望させる凡庸さだった。

 そして、今回のサヨナラ写真集『MOMENT』。

 あの若い傲慢さを持ち、可能性にキラキラしていた若者が、壁にぶつかり理不尽な苦渋の時を経て、ここにたどりついたんだ。

 美貌という点ではね、若くない分劣っているのかもしれないよ。年齢はたしかに出ているよ。いろんなところに。
 でもね。
 彼のこの「表情」は、若者ではない、小僧っ子ではない、今の大人のハルノスミレだから出るものなんだよ。

 「男役」としての美しいポーズや表情も、くだけた笑顔もリラックスした仕草も、すべて「今」だからあるの。

 彼がいる場所は、幾多の物語をつむぎ、障害を越え、たどりついた楽園なの。

 春野寿美礼の人生が、今、彼にこの「顔」を与えたの。

 立ち読みとかパラ見とか一切無し、集中して読める状態になるまで封印していた。
 そして、儀式のように、通過儀礼のように、心して開いた。

 最初から、ページめくりつつ「やばいな」と思った。
 あ、かわいい。あ、かっこいい。そんなことを思いつつページをめくって。

 水平線を背景に、踊るオサと彩音の姿に、号泣した。
 
 最初の、見開きの写真。
 まっすぐに引かれた境界線、上の空色、下の水色。
 中心線からずれて、背中合わせのオサと彩音。
 広い世界の、ふたり。

 なんだろう、この「物語」性。
 ここに「物語」がある。
 素顔のオサは、舞台でいうところの「男役」ではなく、しかしいわゆる「女性」でもなく。

 だが彼は、舞台装置も衣装も、あの特殊な男役メイクもなく、太陽の光のもと地球の上に直に立ち、相手役の手を取ることで、ここに「物語」を綴って見せた。

 これは「タカラヅカ」だと思った。
 オサは「タカラヅカ」だと思った。

 彼がその翼で征服しようとし、そのくせあるとき閉塞感で立ち止まった、あの空は、ここにつながっていたんだ。

 次のページから、映画のように踊るオサと彩音のショットが続く。
 まぎれもなく「タカラヅカ」である、美しさで。

 そしてそれは、解き放たれたような、生き生きとしたオサ単体の笑顔へと続く。

 なにか得たような、どこかへ旅立つような、なにかにたどりついたような。
 清浄で、そしてどこかしらエロスを含んだ横顔で、この一連の場面は終わる。

 次のページからは、「作り込んだ」男役としての春野寿美礼のポートに終始する。
 その、コントラスト。
 闇の中から白昼に躍り出て、眩暈を起こすような。あるいはまばゆい光の中から深海へ迷い込んだような。

 そうかぁ。
 ここまで、来ちゃったんだねえ。
 こんなところまで到達してしまったのなら、あとは卒業するしかないんだろうなぁ。

 あの、八重歯の男の子がさぁ。
 こんな表情をする大人になってさぁ。

 わたしを魅了してやまない「天才」春野寿美礼。
 彼のこれまでの人生が、生き方が、歩いてきた道が、今ここで、彼の「顔」を作っている。

 好きになったのは、顔が好みだったからだ。
 歌がうまいとか演技がどうとか、最初はわかんなかった。たまたま顔が好きで見ていたら、声も好みだったし、歌はどんどんうまくなっていって、大好きになった。
 顔はもともと好きなんだってば。世の中的に美人だとはまったく思ってないが、わたしは好きでしょーがない顔なんだってば。

 だけど。
 今、この「顔」は。
 好みだとかタイプだとかそーゆーことではなく。

 「春野寿美礼」をつくりあげたすべてものを、すきだとおもう。

 彼がこれまで歩いてきた、出会ってきた、得てきた、捨ててきた、流してきた、抱きしめてきた、すべてのものに、感謝したい。

 なにひとつ、無意味なものはなかった。若い頃の傲慢さも、低迷を感じた時期も、なにひとつ。
 すべてが、ここへたどりつくまでの布石だった。

 彼がここへたどりつくための物語だった。

 
 たかが写真集でねえ……こんなに泣くなんてありえねえ……てか、いちばん好きなページ濡らしちゃったよ……買い直せっつーのか……わーん。


 えー、ところで『ラブ・シンフォニー』のなかの第2章「ラブ・ゲーム」ですが。
 いわゆるカジノのシーン。や、ぶっちゃけダーツのトコと言えば通じるでしょうか。
 アレです、アレ。

 舞台中央にでーんと謎の巨大ダーツボードが立てて置いてあって、それにもたれかかるカタチでオサと彩音がゴロゴロえっちをするという……。

  回 転 円形ベッドを真上から眺めている感じ?

 あの場面の舞台写真が、気前よく売り切れてました。

 舞台写真が数十種類発売され、キャトレにずらっと並んでいるわけです。
 芝居もショーも、いっぱいあるわけですよ、とくにオサ様の写真は。

 一通り眺めたあと、四つ切り写真コーナーに目をやると、そっちにも舞台写真が新たに陳列されてるのね。
 苦悩のジェラールだとか、オサまとだとか、いろいろあるなかに。

 ダーツボードの上で、腰を重ねたまま、身体をくの字に折るオサ×彩音の写真が。

 …………。

 なんか、信じられないモノを見た気がして。
 思わず手にとって、しげしげ眺めちゃいました。

 ダーツの場面の、よりによってコレをグッズ化しますか……。

 その昔フレッド@ワタルとアンソニー@トウコのエロ抱擁写真をグッズ化しただけのこと、あるわ……。

 や、途中で正気に返って、あわててラックに戻しましたがね。
 四つ切りエロ写真をしげしげと手にとって眺める女、になってしまった……ああう。

 なんつーかその写真は、イタズラ書きしたくなるようなデキでした。

 マジックででかでかと、彩音ちゃんの横に「いやぁ〜〜ん♪」(ハートマーク飛ばしまくり)、オサ様の横に喘ぎ声とか「よいではないか、よいではないか☆」とか、そのへんの台詞を、吹き出し付きで。

 アホ系の台詞でも書き込まなきゃってらんないっつーの。
 んなエロ写真どーしろってのよ。

 ん?
 四つ切りがあるってことは、ふつーの2Lサイズのもあるってことだよな?

 そう思い立って、再度写真コーナーを眺めてみたが、他のモノは四つ切りと2Lと両方あるのに、オサあやハァハァ写真だけナシ。

 売り切れてんのかよっ?!!
 みんな正直だなヲイ!!

 四つ切りは値段も高いし敷居も高いから買えないけど、2Lなら買っちゃいますってか。
 ハァハァしちゃいますってか。

 や、オレも2Lあったら買おうと思って探したけどな。
 なかったからな。
 ちぇっ。


 新人公演担当演出家・児玉明子。
 この名前を見ると、途端萎える。
 わたしはこだまっち作品自体はキライではないが、新公演出は勘弁して欲しい。

 こだまっちの新公演出コンセプトは、「本公演の忠実なコピー」だからだ。

 キャラクタから台詞のイントネーションまで、「どれだけ完璧に模倣できるか」を目標にしているとしか思えない。
 その生徒の魅力を伸ばすことは考えない。
 たしかに模倣することで技術を伸ばすことはできるだろう。だが、ただ技術だけが必要な劇団か、ここは? 第一、模倣して得られる技術と、自分の魅力を発揮するための技術がまったく別だった場合、短期間に結果を求められる現代、ちんたら模倣させている場合か?

「仕方ないよ、こだまっちの演出家としての基本姿勢が、『なにかをコピーする』ことなんだから」

 なーんてことをnanaタンと話しながら帰る。
 ははは、そーだよなー、ぱくりっちと呼ばれた作家だもんなー。

 ……って、こだまっちの場合は、笑えない……。

 まあそんなこんなで行ってきました、新人公演『アデュー・マルセイユ』

 こだまっち演出だからもちろん、めざせコピー!! です。

 巧い人や器用な人はほんとーに本役をまんまコピーしてしまうし、下手な人はコピーしようとしても技術が足りずに自爆、巧くてさらに余裕のある人はコピーをしつつも自分なりの味を出す。
 
 わたしの目から見て、今回ぶっちぎりで巧かったのは、シモン@だいもんですわ。

 いやあ最初の方、ジェラール@まぁくんと芸風が合わなさすぎて、どーしようかと。

 まぁくんはスロースターター。大抵最初の方は「大丈夫か、ヲイ」という出来映え。
 反してだいもんは、最初からブースト全開。しかも彼はクラシカルな「タカラヅカ・スタァ」。現代風のまぁくんとの不協和音ときたら。

 おもしろいけど、手に汗握った(笑)。てかだいもん、君の方がすべてにおいて巧いんだから、主役に合わせてやれ。

 だいもんはその実力で、悠々と本役をコピーしていた。

 キャラクタ、表情、仕草、台詞のイントネーション、完璧にコピー。
 またこれが巧い。
 どこの研15だ? 初新公2番手だなんて嘘だよな? 堂に入った演じ方、存在、発声、なによりも、歌唱力。
 まとぶも歌は十分うまくなっているけれど、だいもんはもともと歌手属性キャラだという強みもあるし、周囲の歌がえらいことになっている相乗効果もあり、歌で、ひとり勝ち状態。
 聴かせる聴かせる。うおー、もっと歌ってくれえ。シモンってこんなに歌少なかった? 本公演ではけっこう多いような気がしてたんだけど、なんか聴き足りないよー。もっと聴きたい〜〜。

 男役としての「型」ができあがっているのが強い。
 ふつうに本公演で活躍していそうな、安定した実力。

 あまりに悠々自適で、また、ひとりで巧すぎて周囲と、噛み合っていない。
 浮いてるよ、君……。とくに、ジェラールとの合わなさぶりと来たら……。

 そう考えれば、だいもんも余裕がなかったのかな。終始自分のペースで芝居をしていた気がする。

 演出家がこだまっちでなければなあ。
 だいもんは、巧い。コピーしろと言われたら、本当にそっくりそのままコピーしてみせる。
 そうやって「コピーする」実力があることがわかれば、さらにその上を目指させてやってくれよ。ただでさえだいもんは、今までの新公でも忠実に本役コピーを心がける子だったじゃないか。コピーはもういいよ、次の段階へ進ませてやってくれよ。
 まとぶのシモンは、まとぶだからこそ魅力的なシモンであり、だいもんにはだいもんだからこそ魅力的な、そしてまぁくんジェラールに合ったシモン像があったはずなんだ。
 まとぶシモンのままでは、まぁくんジェラールに合わなかった。丁寧にコピーされたまとぶシモンは、新公の舞台では浮き上がっていた。

 ぶっちぎりで巧かったんだけどな、だいもん……。
 周囲がついてきてないっすよ……。そして、ひとりだけ浮くっつーのは、どんなに巧くても君の方に問題があるっつーことになっちゃうよ。

 
 次に巧かったのは、言うまでもなくマリアンヌ@すみ花ちゃん。

 知性と意志があるように見えたことは、大きい。
 思慮深い女の子に見えた。
 最後のジェラールに「一緒に行きたい」と言うところが、婦人参政運動と恋との間で迷っているのがわかった。
 本役の彩音マリアンヌは、大学受験に失敗してすぐに嫁に行って子供を産んでいるイメージなんだけど、すみ花マリアンヌはほんとーに大学生になってそうだ。

 にしてもしどころのない役だよなあ、マリアンヌって。
 まあ、おバカな描かれ方をした女の子を、バカに見せない、というのは難題だから、それに取り組むのはいいことなのかも? ヅカでは何度でもそーゆー目に遭うだろうから。

 
 本役では、胡散臭い愉快なちょびヒゲ艶男はジオラモだったが、新公ではペラン@マメだった。

 いやあ、胡散臭いです。愉快です。そして、セクシーです。
 たのしそうに表情がくるくる変わり、もったいつけてねーっとりと、二枚目の範疇でユーモラスな悪役を演じています。
 本役の星原先輩はマジでハードな悪役なのに、マメは柔らかさのある色男を好演。

 や、それはいいんだけど……それって本来、ジオラモがやるべきことぢゃないの?

 花組は弱肉強食だから、いいのかな。
 マメが色男ポジション取っちゃったから、ジオラモ@めぐむはちょっと可哀想なことになっていたし。足りなかっためぐむ自身の責任とはいえ。……しかしマメ、容赦ないなー(笑)。

 マメがかっこよくて、ほんとにどうしようかと。胡散臭い色男を演じさせたら、そりゃマメのひとり勝ちだよなあ。

 
 弱肉強食といえば、「アルテミス婦人同盟」でも役割の争奪戦が起こっていた。
 ナタリー@くまくまちゃんが、めがねっこに。

 本役でめがねっこといえば、ソフィー@じゅりあだ。挙動不審な変な女の子。イノシシのように突進して、男を怯えさせるブスキャラ。
 それを、本来しっかりものの美人キャラであるナタリー役が、めがねというアイテムを取ってしまったから、ソフィー役の子はめがねを使えなくなっていた。

 「しっかりものの美人キャラ」の上にめがねまで加え、さらにキツい性格のキャラクタであることを強調していた。

 
 本役のコピー推奨でも、自分なりの味を出すことができたのは、主役クラスの役ではない、ことが大きいのかもしれないが、マメは自在に、そしてくまちゃんは好戦的に(笑)、いろいろやってくれる子たちだなあ。

 つーことで、主演のまぁくんの感想は翌日欄で。


 そもそもこの「作品」が「良かった」部分ってのは、「春野寿美礼退団作品」であることにこだわって作られていることのみだ。

 「オサに似合うのは孤独。オサにせつなげに孤独を歌わせよう」→なんで「孤独」なのかはあとから考えよう。辻褄? オサが孤独ならそれでいいじゃん。
 「オサにヅカならではのラブシーンをさせよう。『忘れ物』だよ、どーだ、うれしいだろ」→恋愛部分ろくに描いてなくても、トップとヒロインは恋愛するっていう前提で観劇してるんだから、無問題。辻褄? オサがラブシーンやってりゃそれでいいじゃん。
 「同時退団じゃないから、ヒロインとは別れる、彼女の未来を見守るようにする。ついでに、残されるファンへのメッセージを込める」→現実の状況を入れることが先決。客はストーリーより「贔屓退団」という自分の都合に酔いに来てるんだから。辻褄? 自分=ヒロインと思える一場面がありゃそれでいいじゃん。
 「最後は『アデュー』って言わせよう」→退団の最後の台詞なんだから、ストーリー考える前から決定済み。辻褄? オサが「アデュー」って言うならそれでいいじゃん。

 こーゆー理由で作られているから、この作品から「オサ退団」というパーツをのぞくと、ただの壊れた駄作になる。
 や、「退団作品」というフィルターがあるから、「ファンのために」作られた部分は「良い」と評価されることになるんだけどね。

 新人公演『アデュー・マルセイユ』は、「オサ退団」というパーツがないので、ただの壊れた駄作、ソレを技術と経験の足りない若者たちでどう料理するか、という、いつものタカラヅカらしい課題を与えられていた。

 新公を観ると、作品のアラがより鮮明になり、「このひでー話を、なんとか盛り上げていたのは本役さんたちの力だったんだな」と思わせることになるのは、いつものこと。
 にしても今回は、「退団」となんの関係もなかったら、そして主役が別人だったら、どーしよーもない話になっていた。

 「見せ場」としてのアテ書きをされているわけだから、そもそもジェラールという役は、オサ以外が演じても意味がないんだよなあ……。キャラ設定もストーリーも破綻してるんだもん……。「孤独と秘密」で「アデュー」と言わせたいためだけに作られたキャラだもん……。

 その、どーしよーもない脚本と役を与えられ、まぁくんが奮闘していた。

 が、別人でした。

 あの人、ジェラールぢゃないです(笑)。

 歌はがんばっていた。
 まぁくん比ですごくうまくなっていたし、努力したこと、丁寧に向き合っていることがわかって好感。
 でも、キャラ的にぜんぜんチガウ(笑)。演じているモノと、演じている人が噛み合っていない。

 また、演出の問題もあったと思う。
 まぁくんが演じているのは「初日」のジェラールだった。

 公演初日と中日を過ぎた現在では、ジェラール@オサは別の人だから。
 他キャラへの対し方、考え方、ぜんぜんちがってるから。
 オサ様は基本「日替わり」だけど、毎回演技がちがうけど、それでも全体を通したカラーはある。そのカラーが、初日と現在では別物になっている。
 そして、わたしはもう「現在」のジェラールに慣れているもんだから、今さら初日のジェラールを見せられても違和感がある。

 あ、ここで笑うんだ。この台詞ってこういう意味だっけ? 今は逆の意味で使ってね?
 ……いちいち違って、とまどう。

 初日と現在では別物ったって、新人たちに「本公演が変わってしまったので、私たちも演出を変えることにしましょう」なんてことは出来ないよな。そこまで求められないよな。
 最初にはじめたモノのままで、最後まで作るしかないよな。

 まあそういうことで、本役よりかなりやさしげなジェラールにはなっていたんだけど。

 それにしても、魂の色が違いすぎる。

 ストーリーもキャラも破綻しているので、要は役者の持ち味勝負だ。

 まぁくんジェラールは、素直で、幼かった。

 見た目の若さだとか技術の足りなさの問題ではなく、彼のジェラールの解釈が、幼かったのだと思う。
 彼が「孤独」と歌っても、それは言葉までの孤独でしかなく、「それは君が今思春期だからだよ、大人になったらわかるよ」という、「少年期の揺らぎ」に見えた。
 ジェラールはもう「大人」で、少年ではないはずなんだが……。年齢的なことではなく、精神的な面で「大人」になっていなかった。
 そこにいるのは傷ついた「少年」で、今はちょっと心を閉ざし気味だけれど、もともと素直でやさしい子なのですぐに打ち解け、初々しく恋をしたりしていた。

 素直で初々しいジェラール……って、それ、ジェラールちゃうやん。

 いやその、それはソレで愛すべきキャラだったんだけどね。

 今まで観た新公のまぁくんの中で、いちばん手こずっているように見えた。
 イケコがただ「オサ退団」のためだけに作ったキャラクタであり、作品であるから、「退団するオサ」以外が演じることはナンセンスなんだ。
 壊れてる分、穴だらけの分を、オサというキャラで満たして嵩上げしている作品なんだもの。
 技術的なことではない、ただ「まぁくんはオサではない」という一点ゆえに、手こずっていた。……気の毒に。

 持ち味勝負するしかないから、まぁくんは今のまぁくんまんまで演じるしかなかった。
 そのために、ジェラールは「少年」になってしまった。
 仕方ない、そーゆー脚本なんだもの。オサがオサである、というだけに頼った作りなんだもの。

 『マラケシュ』にしろ『黒蜥蜴』にしろ、ちゃんと「作品」であり、ちゃんと「キャラクタ」があったそれらの新公の方が、ひとりの人間として演じやすかったのだと思う。
 まぁくんに突出した技術があれば、多少のことはねじ伏せられたかもしれないけれど、そーじゃないからなあ。

 たぶん、だいもんとまぁくん、役が逆だった方が本人たちにはよかったんだろうな。
 だいもんは歌唱力と高温な持ち味で嵩上げしてジェラールを演じたろうし、まぁくんはシモンを演じた方がキャラに合っていて魅力も出ただろう……惜しいなぁ。
 まあ、誰が演じてもジェラールは別人だったろうけどな(笑)。

 それにしても、大変そうだったなあ……。
 そして、今まで見た中で、いちばんダメなまぁくんだったなぁ……。
 もう開き直って、別キャラ認定して演じちゃいなよ。なまじ真似をしようとしてフラフラしているから自爆するんであって。オサ様には絶対なれないし、なる必要もないんだからさ。
 ……演出家が「コピーが基本」のこだまっちでなければなあ……。


 じつは初日を観たとき、ジオラモ@まっつを見て爆笑したあと、猛烈に思ったのよ。新公の、ジオラモ@めぐむが楽しみだ、と。

 だってさ。
 まっつはなんつーかこー、見ていて落ち着かないと言うかむずがゆいというか、いろいろつらいものがあるんだけど、めぐむなら、この役似合うんぢゃね? ぶっちゃけ、まっつよりオヤジ似合うだろうし。
 その昔、オサコンで「若く見える順番に並べ」をやったとき、いちばん老けているとされた扇めぐむくんですから。まっつよりも「老けている」認定を受けてましたから。(ちなみにオサ様は、「アタシはまっつより若い」と断言してました。さらに、そのオサ様よりもその場にいた誰よりも、いちばん「若い」ことになっていたのはみわさんで、まぁくんと一緒にいました。みわっちおそるべし)。

 黒塗りちょびヒゲのめぐむ。……うわ、かっこよさそう。歌もめぐむなら聴き応えあるだろうし。

 と、いちばんの期待を胸に新人公演『アデュー・マルセイユ』を観て。

 ……あれ?(首傾げ)

 実際、すごく、かっこよかった。ジオラモ@めぐむ。
 豊かな体格に黒塗り+ヒゲがオトコマエ。派手なタキシードに葉巻が似合う。てか、ナチュラルに、オヤヂ。若者が無理しているビジュアルではない。

 見た目は、期待したとおりの色男なんだが……。
 どうしちゃったんだ? なんとも精彩に欠けていた、気がする。
 
 ジオラモという役は、「おかしさ」がないとつまんないんだなー、と改めて思った。
 なんとも胡散臭くて、嘘臭い悪役。なにしろ場違いにひとりだけミュージカル仕様。他の悪役たちとちがい、「悪の目的」がない人なので、別のところで個性が必要。
 
 その「胡散臭いちょい悪オヤジ」「どっかユーモラスなちょびヒゲ艶男」というポジションを、ペラン@マメが取ってしまったので、あとから出てきたジオラモはどうにも分が悪い。
 カラダは誰よりでかいのに、なんか地味で、個性が見えなくて、つまんなかった……。

 でもってジオラモの「ひとりミュージカル」の歌って、難しかったんだね。歌手カテゴリのめぐむがまったく歌えていなくてびっくり。まっつも初日は手こずってたもんな。
 

 さて、ジオラモが沈没している分、「悪の親玉」役を務めたのは、おいしかったペラン警部ではなく。

 悪の華クラウディア@きらりだった。
 
 すべては彼女の手のひらの上、だよね? 少なくともジオラモは、彼女の操り人形だよね?
 台詞も歌もほとんどないクラウディアが、その美貌と蠱惑的な微笑みをもって悪党ズの中で君臨してました。

 ジオラモに精彩と個性が消えた分、その横で妖しく笑うクラウディアの美貌と湛えた毒が効いてます。
 いやあ、美しいね、クラウディア。邪悪だね、クラウディア。やらしいね、クラウディア。

 影の支配者が彼女だってのは、いい感じですよ。

 
 さて、もうひとりの悪役、リシャール@らいらいときたら、クールな色男でした。

 本役のはっち組長ほど、「暴力の人」というイメージがない。
 ジゴロ上がりで自分の美貌と美学にこだわりがある、ナルシストゆえに冷酷な人に見えた。
 美術品収集とかが趣味でさ、ワイングラス片手に「美しい……」とか言ってそうってゆーか、塩沢とか子安とかが声をアテるアニメの美形悪役みたいだ。

 嘘くさい二枚目が似合うね、らい(笑)。それでこそらい(笑)。

 
 モーリス@ちゃーは……小物でした。

 本役の壮くんより、さらに小物ってのはすごい(笑)。壮くんも大概なんだが、それを上回るなんて。
 壮くんモーリスはバカのイメージが強いけれど、ちゃーモーリスは小物イメージが強い。
 ふつーの人、に見えるからかもしれない。ふつーのサラリーマン。ふつーの公務員。ふつーだからこそ、魔がさして悪いことしちゃいました、っていうか。
 壮くんってよくも悪くも美貌の人で、華だけはすごーくあるんだよなあ……そして、それゆえにバカ度も跳ね上がるんだよなあ。

 壮くんのキャラを懸命になぞりながら、バカというよりひたすら小物になっているちゃーモーリスの、ひとの好さが愛しい。
 あー、好きだなー、こいつ……(笑)。

 
 で、この面子に胡散臭い色男ペラン@マメでしょ。
 ユニットとして素晴らしいですよ。

 アニメだわ。

 悪の女王・きらり。
 スリットから白い太股をチラ見せしながら、世界征服を企む美女。

 女王の腹心・めぐむ。
 女王の命令を伝える、忠実な部下。対外的には彼がボスであるような振りをし、女王を敵の刃から守る。老け顔だが実はまだ青年。

 悪の宰相・マメ。
 老獪な政治家。人生の愉しみ方を知っているダンディな中年男。

 悪の将軍・らいらい。
 己れの美学に則り冷酷に命令を下す美青年。手には赤い薔薇1輪。醜いモノはキライ。

 悪の王国のペット・ちゃー。
 小型犬。きゃんきゃん吠えて、愛らしい。

 
 や、最高っすね! 鼻息荒くなりますよね! ヤッターマンなんかメぢゃないっすよね! 蹴散らせますよねっ!!

 
 そして個人的に、まっつの衣装は、やっぱりめぐむには入らなかったんだろうな、てのが萌えです。
 『ファントム』の赤い闘牛士衣装に引き続き、タキシードが別物っぽかったのがツボです。
 役の中でいちばん豪華な衣装(オーベロン様除く)ばかりが入らなくて、一段地味な衣装に変更になっているっぽいのがもお……不憫というか、ごめんね小柄で!という気持ちになるというか。(誰の側に立ってものを言ってる?!)
 がんばれまっつ、がんばれめぐむ。

 悪党ズは、本役も新公たのしいなー。


 しゅん様が、萌えキャラ化してますが、いいんですか?!

 新人公演『アデュー・マルセイユ』の話です、はい。

 しゅん様がフィリップ役だというのは、いいんですよ。知ってますよ。
 映画に出てきそうな、「有能」とおでこに書かれたような、トレンチコートが「制服ですが、ナニか?」な、かっこいー捜査官でしたよ。
 本役が立さんだからといって無理に老けることなく、若々しい、でもキャリアは十分、って感じの仕事盛りの男。あー、ケロで見たいな、この役……と、ふと思ってみたり(唐突な)。

 そっちはいいの。「しゅん様、相変わらずオトコマエ〜〜」とぼーっと眺めているだけでよかった。

 問題は。

 アルバイトの、シュバリエ商工会議所所長の方。

 ヘタレめがねっ子キタ〜〜っっ!!

 や、無駄にキャラ立ってますから。無意味に目立ってますから。
 や、芝居において無駄とか無意味とかないですから。それはわかってますから。
 でも、やっぱその目立ち方はなんなの?

 あたしを萌えさせるのが目的?!

 カーテン前コーラス時には、力一杯へこへこオドオド、キョドりながら右往左往。
 あの美貌にダサ眼鏡かけて。あの美貌をくしゃりと崩してなさけな〜い表情浮かべて。

 フィリップのときの、すきっとした二枚目ぶりとのギャップがすごい。
 しゅん様のこのバイト姿見たときは、目が点でしたわよ。
 だってこのあとすぐにまた、フィリップになってしゃきっと現れるんだもん……。

 あああ、かっこいー、しゅん様〜〜。かわいー、しゅん様〜〜。
 まさかしゅん様がめがねっ子してくれるとは思ってなかったわ。

 
 さて、花組を観るときのおたのしみ、我らが巨乳娘ゆまちゃん。
 今回のショーではロケットを卒業してしまい、寂しい限りですよ……や、そのあとのドレス姿はステキなんですけどね……胸の谷間もたのしめるしね……。

 そのゆまちゃんが、レビュースター・ジャンヌ役だというのだから、期待も高まる。
 際立つ美貌と豊かな胸、がトレードマークの彼女だが、演技に関しては不安要素がいつまでもつきまとう。それくらい博多座の『マラケシュ』は強烈だった……。

 ジャンヌのレビュー衣装は、初日に観たときから不満だった。
 露出が極端に低いのだ。
 女の振りをしているが、じつはお○まだから、露出できないのかと、本気で疑ったわ。
 ええい、肩ぐらい見せろ、脚ぐらい見せろ、つか、太股見せろ〜〜!!

 でもいちばん痛烈に思ったのは、その衣装じゃ、胸の谷間が見えないじゃないの、新公のとき!! という憤りだ(笑)。

 みわっちの胸を見るのはあきらめられても、ゆまちゃんの胸が見られないのは残念過ぎるっ。
 露出度を上げろ〜〜。

 新公では衣装変わらないかなぁ……みわっちの衣装は入らない、とかで、ふつーにダルマ姿になってくれないかしら……。
 期待したのになあ。
 胸をぱつんぱつんにふくらませて、同じ衣装なんだもん、ゆまちゃん……。

 ジャンヌ役、ゆまちゃんはがんばっていました。本役みわっちのジャンヌをなぞり、それらしい話し方をしたりしていました。

 ……最初のうちは。

 物語が進むにつれて、どんどん「無理をしている」部分が剥がれていきます。無理……というのは変か。「演技している」と言った方が適切かな。

 気がつくと、ジャンヌは、マリィになってました。

 つまり、演技しているのかしていないのか、ただ地のまま喋っているだけなんじゃないのか、という、あのいつものゆまちゃんです。

 姐さん、ではなく、ふつーに若い女の子、になってました。レビュースターの女の子。若くてぴちぴち、アイドルですとも。男を尻に敷くのも当たり前。なんてったってアイドル。アイドルはやめられない。

 もちろん、それはソレでありなんだけど。
 ジャンヌは姐さんでなければならい、ということはない。かわいい若い女の子、でもまちがいではない。
 ただ……。
 ゆまちゃんが、なにをやっても同じキャラになってしまう、というのはどーしたもんかと思いました。

 アテ書きしてもらえれば、問題ない持ち味だと思うけどね。

 
 期待の美少女、月野姫花ちゃんは抜擢だよね?の、ミレーユ役。本役はすみ花ちゃん。
 配役チェックしてなかったから、幕が開いていきなり姫花ちゃんがいておどろいた。ののすみの役かよ?! すげえなそりゃ。

 かわいー。顔ちっちゃー。
 その可憐な美貌がうれしい。すごーい、歌ってるー、踊ってるー。

 しかし。

 ……演技は、相当やばいっすね……。

 や、学年からすれば仕方ない。これから場数を踏んで成長していくのだ。
 今は表情、発声、滑舌、課題だらけ。つーか、演技以前だろヲイ、状態。

 また、一緒にいるのがののすみとくまくまでしょ? 分が悪すぎるわ。

 ののすみちゃんは納得のヒロインっぷりで、演技力でセンターがどこかを表現しているし、くまくまちゃんは、爆走中だし。

 ののすみよりなにより、くまちゃんの容赦のなさにウケたよ……。トリオなのに、ヒロインは別扱いだから姫花とコンビのはずなのに、並ぶ気なんかぜんぜんなくて、できない姫花を置き去りに自分ひとりちゃーんと「女優」してるんだもん。
 強いなあ、くまちゃん(笑)。大変だな、姫花ちゃん。

 眼鏡をかけても萌えキャラにならないくまちゃんは、そこがかえって味なのだ。彼女の魅力なのだ。
 強い上昇志向と野心がギラギラしていて、ダイスキだ。そのまま突き進んでくれ。

 そして姫花ちゃんも、負けずに羽ばたいてくれ。なんにもできなくておどおどしている姿は、可憐な美少女であるだけにかわいらしいのだし。

 
 ……とまあ、萌えキャラな女の子がいっぱいで、素晴らしいですな、花組。
 あ、しゅん様は男の子だっけ。でも姫ポジ一直線な気もするぞ、彼(笑)。


 今日はケロの誕生日。
 博多『マラケシュ』からオサコンあたりのデータを、整理をするかたわらうっかり読み返しちゃって、わたしがまっつにハマッていく過程を、まざまざと見せつけられる。
 そ、そうか……こーやってあたし、まっつオチしていったんだな……。書いている時点では、自分がまっつを好きだとかハマるとか、まったく予想だにしていないんだよな……。
 すごーく無邪気に、まっつをネタにして遊んでいたり、好きだとか萌えだとか書いてる。まさかそのあと、ここまで堕ちるとは夢にも思わず……ふふふ(涙)。

 ダーリンの誕生日に、今のダーリン(えっ、まっつってダーリンなの?)へハマる過程を追体験するなんて、なんかしみじみしちゃうわー……。
 や、わざと今日なんではなく、ここんとこわりと真面目に倉庫整理してるからさー。fc2の「1日30件しか書き込みできない」という制限が改善されたので、機嫌良くデータをカテゴリ分けしつつ移していってるのよ。
 で、たまたま今日が博多やオサコンだった、という。
 いやあ、改めて読み返すと、この「緑野こあら」って人、ほんとにまっつのこと好きだねっ。バカみたいに好きだねっ。なのに自覚してないんだよ、アホで笑えるよねっ。
 あああ。(アタマを抱えてうずくまる)

 改めて自分が昔書いたモノを読み返すと、感慨も恥ずかしさもひとしおですな。
 それでも、博多『マラケシュ』感想なんか、思い入れの度合いがすごくて、読み返しながらうっかり泣いちゃったりな。あああ、リュドヴィーク好きだ〜〜。当時の想いがよみがえって、切なくて切なくてたまらなくなる。
 春野寿美礼の最高峰は、わたし的には博多版のリュドヴィークだわ……。次点がエロール様。どちらも、哀しさと狂気が、穏やかでありながら激しく揺れ、たまらなく美しい人だった。

 まあ他にも、まっつの投げチューの話とか、バカ満載で素晴らしいしなー。
 鏡の前で投げチューの練習するまっつ、見てみたいよ……。
 まっつオチして2年?経つわけだけど、未だにわかってないよ、まっつのこと。あの恥ずかしいよーな芸風は、わかった上でやってるんでしょうか。それとも大真面目にやって、たんにスベってるんでしょうか……。
 

 19日の深夜、12時になり、20日に日付が変わるなりはりきってケロのmixi日記をチェックに行った。またなにかしら、誘い受日記書いてるかな、と。
 や、はりきりすぎです、早すぎです。まだ日記は書かれてなくて、20日の昼に改めて見に行ったときにはすでに誕生日日記におめでとーコメントが複数付けられていた。
 ち。出遅れた。……や、べつにわたしはコメント付けたりしませんが。好きな人には近づかず、遠くでまったり眺めてます。でも、いちばん乗りになりたかったのよ(笑)。

 あの台風直撃の誕生日から3年。
 ケロちゃんは相変わらずたくさんの人に愛されていて、そしてわたしもまた、のんきにしあわせにヅカファンをしている。

 その、ささやかだけれどとても深い、しあわせを噛みしめる。

 HAPPY BIRTHDAY ケロちゃん。
 しあわせでいてください。


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