びっくりした。

2009/11/25

花組トップ娘役・桜乃彩音 退団会見のお知らせ


花組トップ娘役・桜乃彩音が、2010年5月30日の東京宝塚劇場花組公演『虞美人』-新たなる伝説-の千秋楽をもって退団することとなり、2009年11月26日に記者会見を行います。

なお、会見の模様は当ホームページでもお知らせ致します。

 退団の予感はあっても、発表が今日だとは思っていなくて、モバタカからメールを受け取って驚いた。
 となみちゃんの例があるので、退団発表があるならば発表はDC楽後かなあ、と漠然と思っていた。

 娘役の旬は短く、就任・任期にもタイミングやら運やら、目に見えない要素が山ほどある。
 そんななか彩音ちゃんは、若くしてトップになり円熟期まで過ごすことができた人だと思う。

 クラシカルで品のある、「タカラヅカ」の正統派タイプの美しい娘役トップスターだ。
 大作タイトルロールでの退団は、「有限の楽園」タカラヅカを卒業するに相応しいだろう。

 出来ないこともいろいろあったし、足りないともどかしく思うところもいろいろあったけれど、それでも彩音ちゃんだから見られた、彩音ちゃんだからときめいた役がたくさんある。
 オサファンとして、包容力や魔性を感じさせる役を演じたときの彩音ちゃんにどんだけときめき、また癒されたか。聖少女の清らかさと、妖女の毒を無意識に併せ持つ魅力があったんだよなあ。
 キハとか緑川夫人とか、娘役ではなく「女役」スキルの活きる役がステキだったのはたしかだが、わたしは聖少女役にこそときめいたな。
 クリスティーヌやマリー、ジャズの女の無垢な微笑みと知能や年齢とは無関係な包容力が、どんだけ萌えだったか……。

 だからまあ、キムシンが彩音ちゃんにアテ書きした『黒蜥蜴』はあんなことになっちゃったわけだけど。や、良くも悪くも的確ですよ、アテ書きっぷり。戦争なんてなかったら良かったのにね、お兄ちゃん。
 そのキムシンの『虞美人』で、どんな彩音ちゃんに会えるのかを楽しみにしている。
 その前の『相棒』ポスターのコケティッシュさもステキだしさ。

 
 彩音ちゃんもトップになってからもう丸3年以上、つか、退団時には丸4年以上、5年目に入ってるんだねええ。
 そんなに経つのか……時の流れは速い……。
 いつか別れは来るし、4年というのは区切りになりうる期間だと思うけれど、別れはやっぱりさみしいね。

 過去を振り返ってしみじみしちゃうよ。
 『TUXEDO JAZZ』もう一度見たいなあ、あのまんまのキャストで。あのまんまの光と闇と混沌で。
 『EXCITER!!』は全部で11回観劇です、はい。やっぱフタ桁いったか……。芝居がアレだから観劇回数減ると思ったんだけどなー。

 やっぱダイスキだ、『EXCITER!!』。
 東宝楽、いつもまっつしか見ない場面も、できるだけ全体を見たり、マメを見ていたりした。

「前に観たときが貸切だったから、ゆまちゃんのカツラがアフロじゃないのをはじめて見た」
 と言っていたのは、前楽観劇のkineさんだっけ。
 みつるとふたりで銀橋を渡るときのゆまちゃん、貸切のときは思い切ったアフロヘアなんだよねー。最初に目撃したときは目が点になった……のに、誰も笑わないし反応しないしそのままスルーされて、客席でひとりじたばたした(笑)。
 美人だから、アフロでも笑いにならないんだよねえ。もちろん、いつも髪型の方がなお美しいんだが。

 ところでこの、白い衣装のゆまちゃん。『ドルチェ・ヴィータ!』のかのちかちゃんの衣装かな、とひそかに思っているんだが(笑)、チェリさんが最初に観劇したときに、すげーことを言っていたんだな。
 「ゆまちゃんの、胸が」……ゆまちゃんの美貌と豊かすぎるバストを愛でるのは誰もが同じ、だからここで胸の話をする人は少なくないと思う……が、「胸が衣装の脇から見えるのがすごい」と言ってのけるのは、なかなかナイことではなかろーか。

 この場面、みつるくんの目の下のシワを愛でるのに忙しかったわたしは、「ちっ、ゆまちゃんの衣装、あれじゃ谷間が見えないわ」と自己完結してスルーしていたんだが……衣装の、脇ですと?!

 それ以来、銀橋で踊るゆまちゃんの脇に注目ですよ。……ホルターネックゆえ脇から背中が大きく開いているわけで、胸の丸い膨らみがその衣装の脇から見えるという……え、えろい……エロいですよ、ソレ……。単純に谷間を見せるより、巨乳っぷりがわかるというか。
 チェリさんすげえな、よくそんなとこ見てるよなー。(ヲヅキファンでゆまファンってことは、共通項は巨乳?)
 
 この天才デザイナー@はっちさんの場面はみんな好きだ。
 ピンク娘ふたりもすげーかわいいし、銀橋を渡る5組のカップルもそれぞれ個性的で、ニクイ演出。
 まぁくんと実咲ちゃんの「若さスパークリング♪」で「ママの目を盗んで♪」なカップルぶりが、実はものすごーくツボにハマッている(笑)。いいよなー、あーゆー若さってさあ。郷愁。

 
 ところで、らいらいの投げチュー大安売りぶりにウケたんですが(笑)。
 ウインクは振付に入っている(フジイくん……・笑)らしいので、特になんとも思わないんだが、投げチューまでやってくれるとテンション上がりますな。
 らいは相変わらず、自分を世界一の色男だと思っている節があるのが、大変素敵です。
 ……ちくしょーっ、たしかにいい男だよヲイ。

 らいといえば、ハバナでまっつと絡むときの体格差が、わたしのひそかなツボなわけです。らいでけえ、縦にも横も! そしてまっつちっこい、縦にも横にも!(笑)
 らいがまっつを抱き込む……他になんて言うんだ? 暴れてるまっつをカラダごと止めようとするらいと、それを吹っ飛ばすまっつの無理のある演出が好きだ(笑)。

 
 ファヌン様降臨場面で、「みんなケンカはダメだよー、仲良くしなきゃ」な展開で、舞台構成上の粗っちゅーか、「風呂敷は広げるけどたたむ能力ナシ」のフジイくんらしくやりっぱなしだった、ムラ公演。
 まっつ中心の画面しかわたしの中にないんだが、東宝楽ではストーリーに沿った決着がつくよーになってました。

 横恋慕と浮気心ではじまった争乱に、いつもの人類愛だの再生だの新世界やっちゃうフジイくんの「神の手」が降りたあと、まっつはいきなり恋人のれみちゃん放置して、マメのカノジョのはずのじゅりあと抱き合っていた、ムラの初日から半ばまで。
 ヲイヲイ、別の女に手を出す男がいたから、そしてそれに応える女がいたから、そもそもこんな騒ぎになったのに、改心したあとまた同じことを別の男女でやってるってナニ?! そこは恋人同士で抱き合わなきゃダメでしょう?! 人類皆兄弟っつー意味でも、恋人放置して他の女だけってのは、チガウだろ、と。

 フジイくんがナニも考えず思いつきで人員配置して盆を回したりしてるから、そんなことに。や、退団者の見せ場を配置することしか考えてなかったんだろうけど。

 ムラも後半になると、まっつもわざわざ離れた位置にいるれみちゃんと、アイコンタクトしたり軽くハグしたり、するよーになっていたが。

 東宝楽では、ちゃんと最初から恋人同士で喜びを分かち合っていたり、ケンカをしたらいらいとまっつが和解をしていたりしていた。
 すごい、ここでも出演者が自力で演出の粗を補っているわ!(笑)

 
 このハバナの場面で、だいもんがエロかった、と、終演後に友人から聞かされ、「千秋楽で言われても困るよ、もう二度と見られないじゃん!」「私も千秋楽ではじめて気づいたんですよ!」てな、不毛な会話をしました。
 相手役のくまくまちゃんの両手をふさいだままチューしたり、してたそうです。
 えええ、そんなだいもん見たかったよー!!
 聞けば、アーサーとめぐむの歌場面だった……あそこは高確率でアーサーを、たまにめぐむを見ているので、舞台中央は記憶にないっす……惜しいことをした……。

 だいもんはMr.YUのオフィスあたりでよく眺めてました。商品開発で歌ったあと、群舞にまざってからがまたいい感じにリーマンで(笑)。
 ハバナのエロだいもんも見てみたかった……。黒タキでキザっているのとはまたちがったエロだろーなと想像。

 
 いつかこのショーは全ツで再演したりするんだろーな。
 溜息銀橋はきっと、まとぶさんひとりで客席練り歩きお色気タイムになるんだわとか、想像してみる(笑)。や、全ツ出演者のスター上から3人で客席降りでうふんあはんcome on!やってくれても、さらに豪華かつとんでもなくて素敵だけど(笑)。
 こんだけたのしい派手なショーは、今の使い回し事情から察するに、きっとまたどこかで会える。

 それでも、今の花組で、今のみんなで、このショーを楽しめたことがうれしい。

 本当に、楽しかった。良い作品だった。
 元気で、派手で、ギラギラで、そして、エロっぽくて(笑)。
 クリエイターとしてのフジイくんが息切れしていることもよく見える、粗も穴もあちこちある作品だけど、それでも、楽しくてしょーがなかったことは、事実。

 ありがとう。
 東宝楽。
 友人のドリーさんとパクちゃんは、「ブイエ将軍が酒場でオスカルの身分をバラすのだけがわからない」とゆーてました。
 何回も観ることで、あのものすごい『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』にも耐性を付け、出演者のがんばりを愛でられるよーになったツワモノをもってしても、ブイエ将軍@星原先輩の行動が理解できないと。
 善人として描かれている今回のブイエ将軍。オスカル@みわっちのことを見守っているよーなことを言ってみたり、アンドレ@まとぶんの過ち選択を叱りとばし「聞かなかったことにしよう」とスルーする人格者でありながら何故、最初の登場時にオスカルを陥れるのか?
 女衒酒場……ぢゃねえ、マリーズ@彩音ちゃんの働いている酒場で、貴族に反感を持つ男たちに捧げるかのよーに、オスカルの身分をばらし、自分の身分は秘密にしてひとりで逃げる。オスカルがあそこで嬲り殺されるのを期待しているとしか思えない。
 あの場面は、たしかに謎。
 わたしも、初日に見たときにアゴを落とした。

 が。
 わかるよ今のわたし、ブイエ将軍の行動の謎。

 3回しか観ていない『ベルばら』の3回目はムラ楽で、しかもSS席だった。この公演中、最良の席。
 舞台に近い席だったから、聞こえたんだ。
「今晩はえらく荒れているじゃないか、美しき近衛隊士くん?」と、オスカルの正体をバラしたあと、意外な出会いにびっくりしているオスカルに、

「シッ、早くここを出るんだ」
 と、ささやいてるんだ、マイク無しで!

 世間知らずのおバカなオスカルをたしなめ、守ろうとしているのよ、あそこのブイエ将軍。
 「早くここを出るんだ」と付け加えることで、その直前の台詞もダークじゃなくなる。貴族のお嬢様のくせに治安の悪い場所で飲んだくれているアホさを皮肉っただけで、多少の悪意はあるとしても「オスカルが嬲り殺されればラッキー」という邪悪な衝動ではなく、年長者の親切心で言っているのだとわかる。

 ただ、おつむが若干お花畑なオスカル様は言葉の意味が理解できず、ぼーっとしているから、その後あんなことになるわけだな。

「アレって、そんなこと言ってんのか!」
「ナニか言ってるとは思ってたけど、聞き取れたことなかった!」

 そーなんですよ、びっくりですわねー。

「千秋楽にして、謎が解けた」

 や、わたしも謎が解けたのはムラ楽だし、そっから東宝楽まで観劇予定なかったし、同じ同じ(笑)。

 
 とまあ、出演者が総力を挙げて、植爺脚本のキ○ガイさをカバーしているわけですよ!
 星原先輩までが、アドリブで台詞付け加えたりして、キャラの人格を守ろうとしているんですよ!!
 星原先輩の自発的意志でやっていることなのは、マイクを切られていることでもわかりますな。本来はそんな台詞ナイんですよ。植爺には、あの場でブイエ将軍がオスカルにあんな声を掛けることの意味が理解できていないの。

 はい、ついに『ベルばら』4回目を観劇しました、東宝楽。花組っ子たちのアツいアツい演技を眺めてきました……つかみんな泣き過ぎだ(笑)。

 狂った脚本、狂った演出、それでも出演者たちは健気に心をつないで演技していました。

 東宝版を観て、いちばん感動したことは、カロンヌ伯爵夫人@さおたさん、かっけー!!でした(笑)。

 や、変更点があったことは聞いたよーな気がしていたが、なにしろもうすっかり忘却の彼方。『ベルばら』自体存在も忘れ気味で、ショーしかわたしの海馬に残ってなかったもんで、油断して観ていたらなんかアントワネット親衛隊の台詞が変わっていて、しかも親衛隊長のカロンヌの奥様がもー、すげー格好いいんですよ。
 ナニあの毅然としたオトコマエな大人の女性。絶対貴婦人たちに人気あるだろ、あの人。アントワネット様のシンパなのは建前で、「カロンヌの奥様萌え」でそばに侍っている貴婦人やお嬢様もいると見た(笑)。
 長身できりりとした風情、削げた頬のラインがストイックさを強調。きらきら系ではないものの、落ち着いた美しさがあるし。

 いやあ、この役が男役でキャリアばっちりのさおたさんがやっている意味が、よーっくわかったよ。
 ここまでかっこいい女性がかしずいているなら、王妃様の株も上がろうってもんさ。
 ……植爺は多分ナニも考えてないと思うけど。
 出演者が底上げしてるんだよなあ、ほんと。

 
 フェルゼン@めおくんの大芝居っていうか、ある種異次元入った演技も磨きが掛かっていて素敵だった(笑)。
 まともにやっちゃうと植爺フェルゼンってほんと最悪なだけだから。めおくんぐらいかっとばしてくれるとキモチイイ。
 そりゃこの男にナニ言っても無駄だ、人の話なんか聞いちゃいねえよ! と思わせてくれるのがイイ!

 
 まとぶんと壮くんはなにしろ植爺歌舞伎スキルの高い人たちだから安心して見ていられるし、みわっちは全身全霊でソレに食らいついていく役者スピリッツの持ち主だし、ラストスパートのエンジンの掛かりっぷりはもお、すごかったっす。

 衛兵隊も見事な号泣っぷりだし、酒場のみんなもはじけてたし。

 革命は鳥肌モノの迫力だし。
 
 
 休演者騒動もあったことだし、全員で舞台の上で一途に役を生きている姿に感動しました。
 タカラヅカってすごいね。タカラジェンヌってずこいね。
  
 されど心は『EXCITER!!』を心待ちにしている(笑)。

 日向燦が、美しい。

 えー、マメについては、わたしにとっての出会いから、印象の変化について何度も語ってきました。最初にスカステで見たときにそのまるっこさにびびり、「スカフェって美人がやる仕事じゃないの??」と首を傾げたところからはじまり、舞台でも三枚目一直線であることや、やっぱりまるいフェイスラインとオフのファッションセンスのぶっとび具合や挙動から「外見はアレだが、ハンサムも演じられる人」認識になり。
 最近では「マメ? いい男じゃん」と言い切れるよーになってきていたのだが。

 花組公演、東宝千秋楽。
 袴姿でひまわりのブーケを持ち、挨拶をするまとぶんを見つめるマメのナナメ45度ラインの顔を見ながら、その美しさに、見とれた。

 まぎれもない、「タカラヅカの男役」として美しい人が、そこにいた。

 マメの最後の挨拶は期待を裏切らない愉快なもので、その頭の良さに舌を巻いたし、実際大いにウケた。
 「日向燦を受け入れてくださったみなさま、受け入れざるを得なかったみなさまに感謝を込めて」……うん、ほんとにね、舞台に立つ人、公人であるということは、よくも悪くも観客の立場では受け入れざるを得ないわけで。好きでも嫌いでも、目に入る場所にいるということで。
 すべての人に愛される人なんかいない。光があれば影がある。
 それらをまるっとのみこんで、シビアな真理をさらっと笑いにして、マメはマメらしく卒業していった。

 多くの人が期待するままの「日向燦」を演じて。

 わたしは、ジェンヌとは舞台の上だけものだと思っている。
 もちろん、芸名でいる以上、オフであってもタカラジェンヌという「別のイキモノ」だと思っているので、彼らの背景まで含めて「虚構」だとわかった上で愛でている。
 だから、ジェンヌの真実の顔を想像するのは筋違いだと、自分をセーブしている部分はある。
 マメが本当はナニを求め、ナニを考えていたかなんて知らないし、想像が届くとも思っていない。
 マメが出てきただけで観客が勝手に期待して笑う、シリアスな芝居であってもそーゆー期待と先入観を客が持ってしまっている現状で、その期待に応え続けることを、彼がどう思っていたのかは知らない。「日向燦」というキャラクタを演じることは本願だったろうし、無理をして作っていたわけでもないだろう、それでもその心の奥に負担がなかったのかとか限界を感じなかったのかとかは、一観客であるわたしが考えすぎることでもないはずだ。
 マメがわたしたちに「見せたい」と思っている「日向燦」の姿を、舞台の上の彼を、ただあるがままに受け止める。
 それだけだ。

 マメは、最後までマメだった。「日向燦」だった。

 今までわたしたちが知っていたままの。

 アツすぎる舞台、やりすぎなほどの演技とダンス。
 シャンシャンに似せたお日さま色のブーケを受け取り、それを軽妙に振りながら歩く姿。
 マイクの前で溜息一発、芝居がかった台詞、「余は満足じゃ」。

 「地球に生まれて良かったー!」って、地球かよっ?! というツッコミも含めて。

 最後まで、きちんと演じ通した。観客を、裏切らなかった。
 徹底したエンターティナーだと思う。

 もっともっと、マメを見ていたかった。
 マメのマメらしいお笑いキャラもいいけれど、本当に見たかったのは、二枚目キャラだ。色悪だ。耽美だ。
 毒や狂気、野蛮さを演じられる「役者」だったのに。
 今はまだ、お笑い芸人としてのマメしか求められていないし、活躍の場も限られているけれど、このまま学年が上がれば色気のある大人の男の役割が回ってきただろうに。

 マメらしさを貫いて去っていくマメの、潔さと徹底ぶりに拍手しながらも、心残りが渦巻く。

 
 他の退団者たちもまた、美しい笑顔で去っていった。
 入りから出のパレードまで見届けたけれど、みんなみんなきれいだった。

 みずみずしくきらきらしていた嶺乃くん、いっぱい振り向いていっぱいお辞儀してくれた笑顔のまいちゃん、潔い挨拶と泣き顔のギャップがかわいいレネくん。

 彼らのあとに出てきたマメが、何故か万歳三唱していてほんっとに最後までマメらしくて……だけど袴姿で歩く彼は、とても、美しかった。

 会ったばかりのゆみこファンのお嬢さんと一緒にギャラリーしていたんだけど(なんでこう、世の中ゆみこファンばかりなんだ・笑)、「マメきれい」「きれいですよね」とふたりでさんざん口にする(笑)。

 哀惜を込めて、それでも清々しく楽しく見送っていたつもりだったんだけど。

 最後の最後、車に乗る前にマメは振り返って、沿道を埋めたファンたちに向かって一礼した。

 持っていたブーケをシャンシャンに見立てて、パレードの最後のお辞儀のように。
 いつもいつも、何十回、へたすりゃ3ケタは見てきたかもしれない、いつものお辞儀をしてみせた。
 袴姿で。

 沿道で。
 車の前で。
 最後に。

 決壊。

 笑って、見送っていたのに。平静に、見つめていたのに。
 最後の最後に、ナニをしてくれるんだっ。

 いつもの「またね!」の挨拶を、永遠の別れでするなあああっ(泣)。

 そのエンターティナーぶりがまた、マメで。
 拍手喝采を浴びて去っていくのが、マメで。

 その徹底ぶりに、機知の豊かさに舌を巻くと同時に、ヤラレタ、ちくしょお、という気持ちが残るのはなんだ。
 楔を刺していくというか、ああもお、アンタのこと一生忘れてやらないからねっ、と言いたくなるような攻撃をくらったというか。

 最後の攻撃でぶわっとわたしが泣いていると、一緒にいたお嬢さんも同じように泣いてるし。「アレはないよね」「最後のお辞儀はキた」……マメめ……なんて罪作りなヤツ。

 アンタなんか、アンタなんか、ダイスキなんだからねっ。
 そもそも友人ってのは、感性が似ている場合が多い。
 好きなモノや苦手なモノがかけ離れていると、話が噛み合わなくてつらいからな。
 だから、終演後に語り合う感想が似てしまっても仕方ないのだとは思う。
 思う……が。

「コマが格好良すぎるっ!!」

 と、『雪景色』終演後、ふたり揃って叫んだときは、「まさか」と思ったよ。
 だってあたしたち、並んで『エンカレッジコンサート』を観たとき、ふたりしてコマに大爆笑してたよねえ?
 『雪景色』観劇は、彼女は最前列、わたしはチープに後方で観ていたので、互いがどう感じて観ていたかなんてまったくわかってない。でも、劇場の外で落ち合ったとき、「コマ萌え」と同じ感想をわめくことになり、ふたりして顔を見合わせた(笑)。
 ヲイヲイ、また同じ感想なの? 男の趣味が同じ過ぎるのも考えものよ?
 しかし、

「あんなに青天が似合うなんてっ、かっこいいなんてっ」

 とわめく友人は、筋金入りのゆみこファン。……アータ、単なる青天フェチぢゃあ?
 青天だの町人着物姿を大絶賛するnanaタンとは、よかった、やっぱなにもかも一緒ってわけではないらしい。や、あまりにいつも同じ感想だと気持ち悪いじゃん、お互い(笑)。

 青天コマもかっこよかったけど、わたしは青天フェチではまったくないので、萌えたのは総髪の3幕目です。

 3幕目、タイトルは「夢のなごり」。
 平家落ち武者の最期を、歌と踊りで表現した美しい作品。

 つか、皆殺しの谷キターー!!

 最近丸くなったのか、めっきり殺し率下がってたので、忘れていたよ。そーだった、皆殺しの谷だった。人間の死、しかも自殺にこそ美学を求める人だった。
 昔なつかし『ささら笹舟』オープニングを彷彿とさせる、潔いまでの皆殺しっぷり(笑)。

 なにしろ、集団自決ですから。

 男も女も全員死にますから、自殺しますから。谷がいちばんエクスタシーを感じる死に方なんだろうなー。

 谷せんせの性癖だの嗜好・思考には物申したいこといろいろあるが(笑)、今はソレは置いておく。

 伊予三郎忠嗣@コマ、伊予四郎信嗣@ちぎ。
 このふたりの兄弟が、めちゃくちゃ美しい。

 武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり、とゆー思想に染まった若い男たち。
 三郎四郎(つーと漫才師みたいやな)の名の通り、彼らには兄がいたが、その兄たちはすでに華々しく死んでいる。生き延びることを恥とする彼らは、名誉ある死の瞬間を待ち望んでいる。

 彼らの使命は、主君である平家の若君@りんきらと姫君@みみちゃんを守ること。
 源氏の追っ手が迫った今、ひそかに主を逃がし、影武者たちと集団自決して果てたと追っ手に思わせなければならない。
 若君たちの護衛役はひとりでいい。あとは死ぬことで若君たちを守るのだ。

 この護衛役を、三郎四郎どちらかが務めることになった。それを、立ち会いで決める。

 白刃を手に斬り合う兄弟の、壮絶な美しさ。

 勝った方が死ぬる幸せを、負けた方が生きる苦しみを、得る。

 手加減なしの戦いで、勝利したのは、兄・三郎。
 四郎は若君と姫を連れてその場をあとにし、残った家臣たちはみな自刃していく。
 家臣のしゅうくんとがおり、友同士が互いを刺し、美しい袿をまとって高らかに歌う姫の影武者@さゆちゃんを老武士@汝鳥サマが斬り、返す刀で自刃し、あどけなく歌う若君の影武者@彩風を、三郎自ら手に掛ける。

 残った三郎が自刃しようとしたそのときに、逃げたはずの姫が戻ってくる。
 三郎と姫は愛し合っていた。三郎と共に死ぬために、その手で殺されるために、彼女は戻ってきたんだ。

 愛する姫を懐剣ごと抱きしめることで胸を貫き、姫の血に濡れた刃で自身の首筋を斬る。
 抱き合ったまま、ふたりは雪の中で事切れる。

 ……という、話。

 ここの三郎@コマが。

 好みすぎる。

 『春櫻賦』や『浅茅が宿』でさんざん見かけた衣装てんこ盛りで、画面的に目新しさはなかったんだが、とにかく最初から最後までコマちぎが美しすぎた。
 死の恍惚に取り憑かれた美青年ふたり。
 その破滅の影、濃密な闇の気配に息を飲む。

 が。
 なかでも三郎の闇の深さに、目を見張った。

 愛を語っているときですら、彼の瞳に深淵が見える。
 あの暗さはなに? あの毒はなに?
 途中から、彼から目が離せなくなる。

 もっとも震撼したのは、仲間たちの自刃のとき。

 生死を共にした大切な仲間たちが次々と死んでいく、自殺していく。
 それを一段高いところに立って見つめる三郎。

 死んでいく人たちを見ているヒマ、なかった。
 三郎から視線をはずせない。

 その瞳の、壮絶な闇。

 ぶわーっと、涙が出た。
 ぞくぞくした。
 なんなの、これ。
 なんて眼で、なんて表情で、死を見つめているの。

 憐憫でもない哀惜でもない、運命のような、冷ややかさ。

 たしかに人間でありながら、人間が達してはいけないところにたどり着いてしまったような。

 こわい。
 このおとこ、こわいよ。

 こわくて泣いた。うつくしくて泣いた。

 背筋がぞくぞくして、唇が震える。
 こんな表情、にんげんがしてはいけない……!

 そこへ、彼の愛する姫が戻ってきた。
 彼の顔に、人間らしさが戻る。しかし、共に死ぬ答えを知っているから、彼はまた、人間とは別のところへ行ってしまう。

 姫君もまた、愛する男の手に掛かって死ぬ恍惚に憑かれている。トリップ状態で舞い、酩酊したまま懐剣を出し、男の胸に飛び込んでいく。

 愛する女と最期の舞いを踊る三郎は、やはりもうひとではなくて。
 彼個人の人格を超えたなにかに支配されているようで。

 美しくて、こわくて。

 愛する女を抱擁することで殺し、自らも死するその瞬間。

 恍惚の表情でわらう彼が、こわすぎる。

 …………し、消耗した……っ。
 このもっとも短い3幕目で、心臓ばくばく、涙だーだー、頬ばりばりで、息も絶え絶え。
 勘弁してくれ、予想外だ。つか、お気楽お笑い落語モノぢゃなかったのかよーっ。
 こんなにこんなにこわい話だって、知らなかったよおおお。

 つか、コマってこんなだった? こんな芸風だったっけ? アツくて空回りしてるお笑いキャラぢゃなかった? ネタジェンヌぢゃなかった?

 こんなに耽美ど真ん中な人だった??

 ありえねー。コマなのに。コマなのに~~!!

 狂気と毒と闇。恐怖と紙一重の美。
 わたしが求める「耽美」、「日本物」のすべてが、そこにあった。

 コマ、すげえ。
 思い出すだけで、心拍数上がるわ。
 コマが、かっこいいっ!!

 雪組バウホール公演『雪景色』、Aバージョン観劇。
 この短期間公演で4パターン役替わりって心から勘弁してほしいんだけど。W主演だから、っつーなら、せめてWSみたいに前半後半で主演を替える程度にしてよ。

 おかげで、自分がこれから観る芝居の主役が誰なのか、なにがどうなっているのか、さっぱりわかってないままサバキでチケット買って観劇したさ。

 わたしが観たのは、1幕ちぎ、2幕コマ、3幕コマが主役バージョンだった。……なんてことを知ったのは観劇後であり、観ているときはどっちが主役か知らないままだったさ。
 
 谷せんせの落語モノで3本立て。ヒロインはミミちゃん。主演以外にも、雪組まるまるトリオがなんか役替わりしているらしい、ということぐらいしか予備知識ナシ。
 それだけで観劇して。

 盛大に、コマにときめく。

 な、何故コマ?! 今さらどーしてコマ?!

 もともと雪担だったこともあり、コマのことは長く眺めて来ている。
 最初の記憶は民放のニュース番組の初舞台生特集コーナーだ。首席入団の美少女、花組にそののち配属された瑠音舞佳ちゃんに密着した番組で、彼女のインタビューやら練習風景やらが中心の映像だった。そこに、次席入団のコマも映り込んでいた。
 瑠音ちゃんはたしかにとてもかわいかったけれど、首席だから実力もあるんだろうけど、あまりにふつーに「美少女」だったので、男役なんだし、もう少し少年っぽい方がいいなあ、と漠然と思った。その横にいた、まるまるつやつやしてはいるけど、ちゃんと少年っぽかった黒いレオタード姿のコマくんのことは、記憶に残った。
 その後コマは雪組に配属、順調に抜擢され、早くから路線スターとして位置づけられて来た。タニちゃんみたいな華々しい抜擢ではないが、組ファンならわかるプッシュ具合でいつもいい位置にいる男の子。

 顔立ちはあさこ・きりやん・れおんに似ているという、超路線ぶり。しかし体型と芸風はハマコ似という、すごいんだか残念なんだかという個性、学年を経て見えてくるそのやたらアツい芸風と愉快な空回りっぷり。

 長い間コマは、ネタジェンヌだった、わたしにとって。
 『エンカレッジコンサート』も『エリザベート』新公も、爆笑させてもらった。や、悪い意味ではなく、その力任せの爆走ぶりが愉快でなー。失敗をおそれて制限速度以下でしか走れない人より、クラッシュをおそれずアクセル全開にぶっ飛ばす人の方が好きだ。
 そーゆー意味でコマは、わたしに気持ちのいい笑いをくれる人だった。終演後に友だちと肩を叩き合って「コマ、さいこーっ」と叫ぶ、愛されキャラだった。

 が、いつもコマならなんでもいいってわけじゃなくて。たとえば『凍てついた明日』のデキは、わたし的にはかなりがっかりで、そこでコマ株が暴落したりとそのときどきで印象は違っていた。

 新公でトートとオスカルを演じたものすげースターっぷりのはずなんだが、そのオスカル写真が新聞に載っているのを見て、素で「ベルナール@ハマコがなんでこんな1ページまるまる使ってばーんとカラーで載ってるんだろう?」と首を傾げた過去もある。や、オスカル@コマだとマジに気づかなかったんだ、ごめんよごめんよ。
 頼むコマ、痩せてくれ……!! と、このブログでも何度か書いたよーな気がする。脇の色男は恰幅良くてもいいんだが、路線スター様はスリムな方がいいと思うの、わたし。

 芸風が愉快なことといろいろとハマコ似なこともあり、コマの容姿がどうこうとは、特に思わないまま来た。
 コマってひょっとしてきれいじゃん? と思ったのは、実は『「カラマーゾフの兄弟」トークショー』のときがはじめてだ。ごめんよごめんよ、それまでなんだと思ってたんだ、てなもんだがほんとにねぇもぉ。

 カラマトークショーのときのコマは、美青年風の髪型とロングジャケット効果もあってか、なんかとても涼しげなハンサムくんだったのだわ。
 それで好感度アップしていたところへ、『カラマーゾフの兄弟』本編。

 感想ちゃんと書いてないが、実は『カラマーゾフの兄弟』は、アリョーシャ@コマ萌えだった(笑)、わたし。や、ミーチャ@水くんがいちばん素敵なのは言うまでもないことですけど!

 アリョーシャ、すげーイイ感じなんですけど? ナニ、あのステキな攻男!
 ……ことあるごとに語ってますが、わたしは攻キャラスキー、男は攻認定されたときに好きメーターが動きます。
 三男×長男で、腐った萌え心が燃え上がりました(笑)。

 てなことはあったけれど、その後別段コマをいいと思うこともなく、現在に至る。
 ……至っていた、のに。

 キタ。
 この期に及んで、キタ。

 空前絶後の、コマ萌え(笑)。

 かっこいい~~っっ。
 コマがかっこいい、ステキ過ぎる。

 1幕の横恋慕男がまず、かわいかった。
 小四郎@ちぎのえんえん独壇場のあと、忘れたころに突然登場する、三五郎@コマ。なんかそのときすでに、「ん、なんかかっこいいぞ?」とは思ったけどかっこつけてるときよりも、小四郎が戻ってきて「間男」扱いになってしまってからがもお、かわいすぎる。
 両膝そろえてちょこんと坐り、うなだれている様が……。登場時の二枚目風とは打って変わったヘタレっぷり! お咲@みみちゃんに捨てられるんぢゃないかとおろおろうろうろ、かわいいかわいいかわいい。

 なんかコマがかわいかったわあ、ヘタレ男似合うのかしら、と思っているところへ2幕。
 こちらは正反対のど真ん中クール・ヒーロー。
 罪を犯し、故郷を追われる飾り職人・伊左次@コマ。
 「不器用な男ですから……」と、高倉健さんがやりそーな骨太の二枚目。仲間の罪をかぶり、言い訳せず取り繕うこともなく、すべてひとりを背負って黙って消えていこうとする、そーゆー男。
 無口でクールな彼をめぐって、まー次々と登場してくるの、喋りまくる人たちが(笑)。
 親友の岡っ引き@ちぎがひとりで喋りまくったかと思うと、伊左次に片思いのお嬢様@みみちゃんが出てきて喋りまくり、さゆちゃん他わさわさ出てきてまたしても喋りまくる。

 そんななか、ひとり喋らない彼。
 遠い目なんかして、ふっと「はないちもんめ」を口ずさんだりする彼。

 かかかかかっこいいんですけど、なんかすごくっ?!

 コマだよ? これコマなのに、なんでこんなにかっこいいの?
 涼しげで端正。清潔さがにじむ着物姿にりりしい髷。

 ……日本物だから? じつはコマくん、青天が似合いまくる人だったの? それでこんなにかっこいいの?

 と、ここでも首を傾げていたが。
 ここまではまあ、どーってことなかったんだ、わたし的に。

 本当の意味で、ショックだったのは、コマ萌えしたのは、第3幕。

 うわ、前振りだけで3000字超えちゃった。翌日欄へ続く(笑)。
 年間公演スケジュール一覧を見て、「このバウの主演は誰かしら」と予想したり希望したりするのは、ファンの楽しみのひとつ。

 つーことで、勝手に、ひそかに、ナイショで、夢見てました。

 …………ともちんの、バウ主演…………。

 劇団のやり方として、「売りたい若手」というのがまず念頭にあり、でもこの若手だけじゃとても興行は打てない、実力とか集客とかいろんな意味で、てなときに、都合良くベテランを使ったりする。
 別格スター主演にして、「主演じゃないけどオイシイ役」で「売りたい若手」を出演させるとかな。
 チケットノルマその他の興行責任は主演の仕事、でも劇団が売りたいのは主演じゃなくて別の子。主演は風よけ、その陰で育てたい子に大切に水と肥料をやる……てな、すごく「大人のやり方」を、劇団は容赦なくやったりする。

 劇団がカチャを売りたいことはよーっくわかる、でも彼は(当時)まだ新公主演もしていない身、ひとりっ子で大切に育てられた月組のみりおくんすらやっていない単独主演はいきなり荷が重いだろう。
 ここはひとつ、劇団の過去のやり方に倣って、別格スター主演でカチャ2番手、ポスターにもどーんと載って、彼がいちばん魅力的に見えるオイシイ役で地道に足場を固めるのはアリじゃん?!
 みーちゃんと大ちゃんのW主演とかもいいけど、彼らと2番手カチャだとワークショップ風味になっちゃうかもしんないから、ここはどーんと中堅のともちを……!! 『逆転裁判2』であのくそでかい暑苦しいエッジワースに興味持ったお嬢さんやらお兄さんやら、来るかもしんないじゃないか!!

 と、夢を見ていました。
 ええ、ともちスキーの、ささやかな夢ですわ(笑)。好きな人の主演を希望するのはファンの常。
 番手とか現実とか関係ないもん。わたしが見たいだけだもん。

 番手と現実は、シビアです。

2009/11/19
宙組 
■主演…(宙組)凪七 瑠海

◆宝塚バウホール:2010年3月18日(木)~3月29日(月)
ミュージカル
『Je Chante(ジュ シャント)』
-終わりなき喝采-
作・演出/原田 諒

星組
■主演…(星組)凰稀 かなめ

◆宝塚バウホール:2010年5月7日(金)~5月18日(火)
◆東京特別(日本青年館):2010年5月24日(月)~5月31日(月)
バウ・ミュージカル
『リラの壁の囚人たち』
作/小原弘稔  演出/中村一徳

 いやまあ、ともちのことはわたしひとりが勝手に夢見ていただけで、ふつーに順番から行けば88期の新公主演者みーちゃんと大ちゃんだろうとは思ってました。
 カチャもいずれは主演するスター候補生だし、初舞台からずっとスターだったのは知ってるけど、劇団的に同組内に新公主演した上級生スターがいる場合はあまり急に露骨に逆転させることは避けるのが常なので、みー大のふたりを「今」抜くかどうかは未定だよなと。
 そうか、「今」だったか。
 『エリザベート』主演で対外的に名前を売ったからこそ、「10年に1度のスター」を外側から作り上げるには、『エリザベート』の宣伝効果が薄れないうちにさらに売り込むべきだ。戦略としては正しい。
 だからこそ、あとは中身がついていくかだよなー。
 新人演出家のデビュー作かあ。いい作品になるといいね。

 
 でもって、かなめくんで『リラの壁の囚人たち』かぁ。
 たしかビデオかテレビかで見た、トドロキ目当てに。先にナマで『ツーロンの薔薇』を観ていたため、その前の話になるという『リラ壁』は絶対に観なければならない作品だった、わたし的に(笑)。
 トドの出番の少なさと下手さ、天海の下手さにびっくりして終わった。……ストーリーはぜんっぜんおぼえてない(笑)。
 良い作品だったんでしょーか……おぼえていない、ってことは、とくにおもしろかったわけでもないと思うんだが……。
 ただ時代的にヅカが得意とするあたりなので、「男役」としての美しさを期待できるかなと。

 しかし対ナチス物ブームでも来てるの? 今大劇場で『カサブランカ』やってて、宙バウ雪バウで対ナチス物やるって、あまりに偏りすぎてる気がする。
 レジスタンス3部作の1作目上演ってことは、残りの2作もどっかでやるのだろーか。とするとまたしても偏ったことに……。

 ビデオがどっかにあるはずなんだが、探してみよーかなー。

 
 今回のラインアップ発表で、いちばんアタマを抱えた演目は、宙DC小柳せんせ作品です。

宙組
■主演…(宙組)大空 祐飛、野々 すみ花

◆梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ:2010年3月9日(火)~3月21日(日)
◆東京特別(日本青年館):2010年3月26日(金)~4月2日(金)

ミュージカル
『シャングリラ・水の城(仮題)』
作・演出/小柳奈穂子

近未来。核戦争によって水が汚染され、人々が安全な水源を求めて争いを繰り返す世界。龍王という暴君が水源を支配する国。旅芸人一座に助けられた記憶喪失の男・空(ソラ)は、過去を知るために、一座の踊り子・美雨(ミウ)と共に龍王の宮殿“シャングリラ”へと向かう旅に出る。やがて心を通わすようになる二人。だが、“シャングリラ”で二人を待ち受けていたのは過酷な運命だった……。人間にとって必要不可欠な“水”をテーマに、荒廃した世界の中で運命に立ち向かう人々の姿を描く近未来ミュージカル・ロマン。

 ラノベ作家を夢見る女子高生が書いてそうな話……。
 小柳タンは『シルバー・ローズ・クロニクル』で腐っても小池の弟子であることを見せつけた。つまり、吸血鬼と世界征服とマッドサイエンティストと薬と若者グループという、イケコ・オリジナルの悪いところだけを見事に踏襲してみせた。ヲタクのゆみこはかわいかったが、バンパイアのテルは美しかったが、ソレだけ。ストーリーは破綻していた。

 そっか……あれをまたやるのか……さらに厨な設定てんこ盛りで……。遠い目。

 おもしろいはなしになってくれるといいなあ。(棒読み)

 
星組
■主演・・・(星組)柚希 礼音、夢咲 ねね

◆全国ツアー:2010年4月24日(土)~5月23日(日)

ミュージカル・ロマン
『激情』 
-ホセとカルメン-
脚本/柴田侑宏  演出・振付/謝 珠栄

グラン・ファンタジー
『BOLERO』
-ある愛-
作・演出/草野 旦

 ちえねねで『激情』はすごーくたのしみっす。
 初演時、わたし的にはカルメン@お花様はそのかっこよさに拍手喝采だったけど、ホセ@ずんちゃんがどうにも大こ……ゲフンゲフン、ずんちゃん以外で見てみたかったんだ。や、ずんちゃんの歌はほんっとーに素晴らしかったのだけど。
 あの役をれおんで見られるなんて、願ったり叶ったり。ねねちゃんは……どうなるのか、たのしみにしてまつ。

 
 あと、前回のラインアップ発表時、花組だけで文字数いっぱいだったので書けなかった、月組きりやんお披露目公演『スカーレット・ピンパーネル』
 わたしはきりやんショーヴランを見たかったクチです、黒いきりやん大好物。なので、そのへんはちょっと残念なんだけど、力のある作品をまた観られるのはうれしい。……何年かあとだったらもっとうれしかったと思うけど。や、きりやんと月組に含みはなく、たんに間を置かずの再演を歓迎しない性格だとゆーだけっす。

 きりやん月組の2番手がはっきりしていないので妄想配役もしにくいんだが、そのかはやっぱあかしの役になるんすかね? つか、『Apasionado!!』のお花ちゃんたち、ほとんどはみんなまた女装?(笑)

 月組楽が近づくにつれ、当日券の抽選ついて情報を求める人たちの検索が、このよーな僻地ブログにもぱらぱら現れるようになっていた。過去の例から、未来を予測したいのは人の常。トウコちゃん楽の記録があるもんだから、そこにたどり着いている模様。
 やっぱり、少しでも情報が欲しいもんな。
 老後の楽しみに書いているこの日記、レポ能力はなく、自分の感想・思ったことしか書けないわたしだが、ところどころで自分自身で知ることが出来たことは記録として残したい。
 ……なにしろトシのため、記憶力の低下も著しくてな……よぼよぼ。

 つーことで、月組ムラ楽、当日券事情。

 前楽 当日券詳細確認忘れたので謎(情報求む)、並んだ人数1000人ほど。
 大楽 座席券42枚、立見券100枚、バウ500枚、並んだ人数1400人弱。

 自分がバウで見られたので心からありがたかったが、自分が見られなかったトウコちゃんのときに、なんでバウがなかったのか残念でしょーがない。

 642人が見られたんですよ、月組楽。
 確率0.46。自分が最後尾だったから知ってるけど、1400に満たない数字で終了していたから、正確に計算すればさらにわずかに確率は上昇。
 ふたりにひとり、に近い確率で最後の祭りに参加できた。……映像は所詮映像でしかないから、ほんとのとこ「観劇」できた人の人数はどの楽も等しいんだけど、ナイよりマシの映像参加、バウホール中継有無の基準ってよくわからない。

 ちなみに、トウコちゃんの星楽の記録。

 前楽 座席券55枚、立見券140枚、並んだ人数1100人ほど。
 大楽 座席券42枚 立見券100枚、エスプリ220枚、並んだ人数1500人ほど。

 大楽を見られた人は、たった362人だったんですよ。あさこちゃんの約半分の座席数。
 確率0.24。4人にひとり以下しか、参加することが出来なかった。

 しかもエスプリって環境が劣悪で、画面の映りは悪いわ、座席に段差がないからまともに画面が見えるのはほんの一部の人だけだわで、最悪。「音だけ聞くために行く」みたいなところ。

 この差はなんなんだろう。
 過ぎたことだから言っても仕方ないが、頼むよ劇団、どのスターさんも最後はバウ中継してくれよ、どーせバウ空いてるのに。翌日スカステで放送するために、プロの映像スタッフが劇場内でふつーにカメラ回してるから、映像自体はあるのに。

 これから先のトップさん退団時に、バウ中継があることを、心から祈る。希望する。

 ……今後のチケ取りの参考にする、という意味では、インフル騒動真っ直中だったタニちゃん楽はイレギュラーだと思うので、あまり参考にならないかもしれない。遠出や人混みへの外出を自粛した人、急遽行けなくなった人も多かったろうからなー。
 でもま、忘れてしまわないうちに記録だけ残しておく。

 前楽、大楽のチケット販売数は、座席・立見・エスプリ鑑賞とトウコのときと同数だったと記憶している。
 そして前楽に並んだ人の数は300人、大楽は並びの資料無し。ただ大楽のサバキは買い手市場で、席が悪いとなかなか売れなかったとか。
 たぶん、当日劇場まで行った人たちのほとんどが、エスプリも含めてなんらかのカタチで観劇できたんじゃないかな。インフル騒動のなか、それでも駆けつけた、本気で観たかった人たちがちゃんと観ることができたなら、良かったと思う。

 
 で、実はこの記事の日付(11月18日)の翌日に、ラインアップと一緒にあさこちゃんのラストディ中継についての第一報が出たんだ。
 ブログ書くのが周回遅れになって久しいので、続報が出た今となってはちょっと意味がないんだが、11月19日当日に書いたテキストを元に、うだうだ書いておく。

 『ラストディ』中継は、劇団のサービスなんだと、わたしは思っている。
 儲けなんか大して出ないけれど、ヅカファンへのサービスと宣伝・広告の意味でやっているんだと思う。

 大体サヨナラショー付き公演自体、チケット代は通常まんまのサービスだもんな。やらなくてもかまわないのに、サービスでえんえんえんえんやっているんだから、どんなものでも観られるだけラッキー、やってもらえるだけラッキー。昔のサヨナラショーはもっと簡素にチープにやって終了だったし。
 ソフト化して儲ける前提ができてからだ、あんなにちゃんとした「ショー」になったのは。
 そもそもスタート地点は、ファンサービスだったはず。

 で、その無料のおまけであるサヨナラショーを、そして千秋楽公演自体を中継で全国各地で見られるようにする、ってのは、やっぱりサービスの延長なんだろうなと。
 儲けがすごーく出るからとソレを目的にやっている……と見るには、あまりに消極的だから。
 商売目的なら、商売になるというなら、そのときどきで会場減らしたりとかせず、もっと積極的に「売る」ことを考えるだろう。
 
 それまでナントカ会館とかを使って中継をしていたが、オサ様のときに試験的に映画館を使うことになった。
 グループ企業に映画館があるんだから、ソレを利用しない手はないってことだろう。オサ様のときは試験運転だったので、やたら会場数が多かった。それも、東宝グループの主力映画館を使って、だ。ヅカだけでなく今後もなにかしらそのノウハウを流用することを視野に入れての試みなんだと思った。

 それに安心・期待していたら、なんと、トウコちゃんのときは不可解なほど会場を減らされた。
 東京は劇場から遠く離れた場所。……東京宝塚劇場横だって映画館なのに! 徒歩圏内に映画館あるのに!

 そして関西は、西宮1箇所だけだった。

 いやあ、この仕打ちはひどかったよ。
 関西中継チケットは、プラチナ扱いとなった。
 わたしの周囲は誰ひとり手に入れられなかった。

「中継見るためだけに、東京まで行ったの?!」
 と、驚かれたりあきれられたりしたが、仕方ないじゃん。

 大阪(西宮だが)の中継チケット代 > 大阪-東京の往復交通費+チケット定価 だったんだもの!!

 大阪の中継チケットを買う甲斐性はなかった、そんなにお金持ちぢゃないよ、それなら東京まで行って、定価のチケットで中継を見るよ。涙。
 わたしが行ったのは西新井とゆー、関西人からすりゃ「どこ?」な場所だったけど、それでもサバキ待ちの人たちがずらりと並んでたな、お財布持って。(郊外型ショッピングセンター内で、異様な風景)

 東宝の主力映画館はすべてはずし、多分客足が余り良くない、郊外型のハコばかりを中継に使った模様。関西の東宝シネコンは地価の高い、稼働率のいい一等地ばかりだもんな……だからあえて僻地の西宮1館きりにしたんだ……と、わたしは思った。
 ヅカファンのために、稼げる利便性の高い映画館は使わない。そんなことしたら、映画の本来の儲けが少なくなる。もともと客のいないところを使えよ、ヅカファンはどんなに不便なとこでもわざわざ出かけて行くだろうし? てなもん。

 劇団がサービスでやっていることだから、仕方ないんだろう、と、思った。サヨナラショーやパレードと同じ意味で、伝統だからとファンサービスしているだけだから。

 そして、その「サービス」が低下していること、「ファンなんかこの程度の扱いでいいや」と劇団が思っていそうなことが、不穏な感じだった。
 
 ……トウコのときに懲りたので、タニちゃんのラストディはプレと一般で取れなかったときにあきらめた。東京まではとても行けないよ。
 関西は相変わらず西宮1館だけだったからチケ難、高騰はしてないものの一般で取れなかった人間が定価で見るのは難しかった。で、複数会場があった東京のチケットが、掲示板で値引きされているのを指をくわえて見ていたさ……。

 
 あさこちゃんのラストディ中継も、きっとトウコと同じくらいチケ難になるだろう。西宮1館だけなら、絶対わたしのよーな一般人の手には入らない。
 そう思ったから、多少無理をしても、ムラ楽の当日券に並んだ。
 東宝中継より、ムラをナマで見られる可能性の方が高いって、なんか変。オサ様以前では、ありえないことが今、起こっているんだ。

 
 や、なにしろ周回遅れで書いてるわけだから。
 12月5日の続報で、あさこちゃんの関西中継は2館に増えていたよ。よかったよかった。(でも、オサ様の何分の1? ワタさんやコムちゃんの何分の1?)
 『カサブランカ』は、キャラ萌え作品である。

 つーことで、盛大に萌えてます。

 ラズロ@らんとむ萌え。

 ナニ、あの色男!!

 今までもらんとむさんのことは好きだったと思うし、十分愛でてきたつもりだが。
 しかし、今ここで、この役で、過去最大の萌えが来るとは思わなかったっ。こあらったのらんとむスキー歴において、今最大風速キてます!

 反ナチス運動の指導者、ヴィクター・ラズロ氏。
 ぶっちゃけ出番は少ないわ、見せ場は少ないわ、心情含めて動きが乏しいわ地味だわで、辛抱役だと思う。
 ふつー2番手役ってもっとオイシイもんぢゃないの? ここまで主役主役主役で2番手に割喰わせるってどうなの? と、思うこともたしか。

 されどこの、出番少なくて見せ場少なくて動きの乏しい地味なラズ郎さんに、ハァトがきゅううぅぅんとしますのよ!!(笑)

 ……ギュンター@『マラケシュ』がギュン太だったように、らんとむさんキャラはつい日本名で呼んでしまいます、ラズ郎。理由はないけど、なんとなく。

 や、この役イイって! すげー萌えな役だって! 贔屓でやって欲しい役だって!
 いわばラズロって、フランツ@『エリザベート』キャラじゃん? 難しいことばっかやらされてるわりに美味しくない辛抱役。寝取られ男というか、振られ男というか、優等生ゆえに貧乏くじ引きまくり人生というか、「振られても踏みにじられても君だけを愛している」キャラというか。
 まっつファンのわたしと、某ゆみこファンがハァト撃ち抜かれてハァハァしちゃうわけですよ、こんなキャラクタ好みど真ん中だってば(笑)。

 らんとむの、枯れっぷりがイイ!!

 アツいらんとむはもうさんざん見てきたから。大人で適度に枯れていて、でも情熱がその奥にあるという男は、すげーかっこいいっす。

 ラズロは反ナチス勢力のカリスマ。ヒーロー。
 ……という触れ込みなんだが、ごめん、あんましそんな風に見えないんだ。
 すげー枯れて見えるからかなあ。
 彼のかっこいいところも、リーダーらしいところも描かれているんだけど、一瞬だけで、あとは逃げ回るか人に頼み事をしているか女のことでなんだかんだしているかで、ヘタレ>かっこいい で、ヘタレなイメージの方がかっこいいを上回ってしまっているんだよなー、わたし的に。

 いつも一緒にいるイルザ@ののすみが強く見えるせいだろうか。てゆーか、危険な脱出行にカノジョ連れってあたりですでに、公私混同のダメヲくんっぽく映るとゆーか。
 このへん民族性の違いかな、たとえば日本の英雄なら、戦場に妻は連れてこない。どれだけ妻を愛していも、ソレは心にしまって口には出さず、ひとりで戦いに行く。女連れの指導者なんて、それだけで株が下がる。……良くも悪くも、そーゆー風潮。
 イルザもレジスタンスの女闘士なのかもしれないが、田舎から出てきた世間知らずな女の子に理想だの革命だの植え付けて洗脳して、ついでにちゃっかり手を出しちゃったみたいに聞こえるんだけど、彼らのなれそめ。

 だから、どんだけ台詞でラズロを英雄だと説明されても、なーんかぴんと来ない。
 つか、ラズロって、イルザに依存してるよね?
 イルザはラズロの母に瓜ふたつとかゆー裏設定あるんじゃなかろうか、と勘ぐるくらい、不健康なゆがみを感じる。

「君を愛しているから」
 と告げるラズロのいたいけさときたら……!!

 ちょっとちょっと、わたしを萌え死にさせる気ですか。
 大人の、枯れた男が、大人として口にする愛の言葉が、いたいけな少年の言葉のように聞こえるのですよ、見えるのですよ。
 うっわ、この男マジやべえ。イルザいなかったら、壊れちゃうよ。

 そりゃイルザも、放っておけないでしょうよ……この男のために、昔の男ダマして通行証奪おうとするでしょうよ……。
 自分は愛してもいない男(リック@ゆーひのことだな・笑)に身を捧げてでも、せめてラズロだけでも逃がしたいと思い詰めるでしょうよ。

 なんなのこの、被虐オーラゆんゆんの色男はっ。

 拷問ってナニされたのよ、収容所でナニされたのよ、とオロオロしてしまうくらいの、しどけない色香はなんなのよ。

 ルノー@みっちゃん、シュトラッサー@ともちん、そしてイルザと、攻キャラばかりに囲まれている、可憐なラズロに萌えまくりっす。

 や、ルノーの本命はリックだと思うけど、彼好色S体質だから、目の前にドMな獲物がいたらつい、弄びたくなるんぢゃ? つまみ食いダイスキだし?(笑)

 あー、らんとむさん相手に「可憐」とかいう単語使っちゃう日が来ようとはねえ。長生きはするもんだわ。

 そうやってイルザに精神的に依存しているくせに、彼女がいなければ戦うことなんかできっこないのに、それでも、イルザのために身を引こうとする……その寛大さというか、自分の見えていなさ加減もまた、萌えなのよ(笑)。
 イルザ失ったらアンタ、どれだけボロボロになると思ってんのよ、絶対待ってるのは破滅だってばさ! と総ツッコミ入るだろーに、本人は「イルザがいなくても大丈夫、イルザには幸せになって欲しい」とか、心底思ってるのよ。
 その自覚のなさ、見通しの甘さがもお、ダメダメで愛しすぎる。

 リックも気づいたと思うよ、「あ、この男ダメだ」って。
 なんか聞いてた話とぜんぜん違うぞ、英雄で豪傑なんぢゃねーの? こんな可憐で枯れた色男なわけ? イルザいないとダメじゃん、こいつ。
 ……この男からイルザを奪うわけにはいかないし、イルザもまたこの男から離れられないだろう。

 オレが身を引くしかないじゃん、と、リックも悟るだろう、そりゃあ(笑)。

 天才がなにかしら欠けているのは、世の常で。
 ラズロは世界を救うという使命を天から与えられてこの地に立ったかわりに、根本的なナニかを持たずに生きている、のかもしれない。
 それを埋めるために、愛が……イルザが必要なんだろう。

 ラズ郎さん主役でスピンオフ希望。
 イケコ・オリジナルで、是非!!

 「キミの瞳に乾杯」ならぬ、「オレの守護天使(ガーディアン・エンジェル)」とイルザにささやいてほしいですな。
 イルザも大変だ、彼女を口説く男たちはみんなトンデモな台詞でキメまくる(笑)。
 で、ナチスの軍服二枚目2番手役が、銀橋で世界征服ソングを歌う。
 マッド・サイエンティストと薬と若者グループも忘れずに。

 ラズロさん、ダイスキです。 
 『カサブランカ』は、キャラ萌え作品である。

 物語には、ストーリー主体のものと、キャラクタ主体のモノがある。
 で、『カサブランカ』はキャラ物だと思う。ストーリーのおもしろさだけで真っ向勝負はしてないよね? リック@ゆーひを含めた、キャラクタを好きになってはじめて成立する作品だよね?

 だって、リックを好きでなかったら、タル過ぎるでしょ、この話。

 1時間半にスピーディにぎゅっと凝縮されていたら、まだストーリーにも重点があったかもしれないけど、2時間半かけて表現するにはあまりにストーリー部分が少ない。
 水増しして引き伸ばした分、キャラに萌えてね、ってことっしょ?

 つーことで、素直に、萌えました(笑)。

 リックと男たち萌え。

 リックはもお、お約束みたいな主人公。
 訳ありな過去を1ダースくらい背負っていることもそうだが(笑)、なんつっても登場人物全員から愛され、求められているところが、もお(笑)。

 老若男女問わず、みんなみんなリックが好き。リックが気になる。リックが世界の中心。

 そんだけ一方的に愛され、求められておきながら、当の本人は「オレって孤独」と勝手に殻に閉じこもっているわけですよ!
 みんなが欲しくてたまらないものをあったりまえに持ちながら、「興味ないね」と孤高ポーズ決めてるんですよ!
 それは自由への通行証を持ちながら、ソレのために殺人も当然、全財産投げ出してもいい、って他人が思うシロモノを持ちながら、「こんなのいらねーし」と思っていることと同じ。
 そりゃ「ナニサマのつもりよ?!」となじりたくもなるわな。愛されても「興味ねー」、通行証持ってても「興味ねー」。

 全世界の人がうらやむ境遇でありながら、彼の飢えは癒えない。

 彼の飢えを癒すことが出来るのは、世界でただひとり。
 なにごとにも動じない乾ききった男が、唯一取り乱すのは、ただひとりのこと。

 ……このギャップがたまりません。

 イルザ@ののすみが絡むときだけ、別人になる、しかもそれを隠しもしない、とゆーのが萌え過ぎる(笑)。

 しかもイルザは、リックを愛していないし。

 タカラヅカのお約束としては、「ヒロインは主人公を愛していた。けれど、別れるしかなかった。主人公はヒロインの幸福のためにあえて身を引いた」という展開なんだと思うけど、「愛し合っているのに、別れてエンドマーク」だと思うけれど、この『カサブランカ』ってそうじゃないよねえ? 
 プログラムにも「互いに封印していた気持ちを蘇らせたリックとイルザ」「イルザも又、リックとは別れられないと悟るのだった」とあり、ふたりが真に愛し合っていたと書かれてはいるようだ。作者はそう思って演出しているのかもしれない。
 ……でも、わたしがどう感じたかは別問題。

 パリでのイルザは、たしかにリックを愛していたと思う。だからこそ、その別れでいちばん泣けた。
 ののすみが泣くと、全世界が泣く。
 永遠の別れを決意しながら、涙を堪えて微笑んでキスをねだる姿に泣いた。

 ……でも、カサブランカで再会してからのイルザは、リックのこと昔通りには愛してないよね? 彼女がいちばん愛し、いちばんに考えているのはラズロ@らんとむのことだよね?
 リックから通行証を奪い、ラズロを逃がすためだけに、すべて計算尽くでリックに色仕掛けしたんだよね? アニーナ@アリスが夫への愛ゆえに、ルノー@みっちゃんに身を売ろうとしたように。愛する人を救うために、涙をのんで悪党へ身を差し出したんだよね?

 ヒロインから悪党認識される主人公!!(笑)
 なにソレ、美味しすぎる!!

 いや、イルザにもリックへの愛情やら憐憫やらはあったと思うけれど。それを愛だとゆーことにしても、かまわないんだけど。
 タカラヅカらしく、リックへの愛が真実、ラズロへのキモチはただの尊敬や情にすぎない、としてもいいんだけど。

 わたし的には、リックはイルザに利用されたとする方がより萌えです。

 結婚式を夢見てわくわくとコートの襟を立ててカッコつけて待っていた、そのまぬけさ……ゲフゲフン、もとい、純粋さそのままに、「もうアナタから逃げられない!」と腕の中に崩れ落ちてくる女の言葉をそのまま信じて舞い上がっちゃうなんて、ステキ過ぎるぢゃないですか!! ついさっきまで、他の男のために拳銃向けていた女なのに!!(笑)

 一旦は女の愛の言葉を全部信じて盛り上がって、だけどそのあと、はっと気づくわけだ、「ひょっとしてオレって、ルノーと同じじゃね?」と。ビザが欲しけりゃ一晩つきあえと言う、あの助平親爺と。いやいやいや、ルノーと同じはマズイだろう、いくらなんでも! オレそこまで落ちぶれてなくね?! ……葛藤するリック(笑)。
 で、その反面教師のルノーを巻き込んで、最後の大作戦ですよ。ええ、わざわざルノーを巻き込むんだもん、心理の流れというか、ワケがあったわけですよ! 伏線もばっちりですね!

 最後の飛行場場面でリックがラズロに「それくらい彼女は君を愛していたんだ」と告げる台詞は、全部そのまんま、これこそ真実。
 や、これを言わないとリックとしてはやってられないでしょ。このまま黙って行かせたんじゃ、イルザは、「リックは最後まであたしが自分を愛していたと信じ込んでいたわ、バカな男ね」と思っちゃうじゃん? 先に「オレは全部お見通しだったんだぜ、演技だとわかってて調子を合わせただけだ」と強がっておかないと!
 やせ我慢は男の美学。男の憧れ。ハードボイルド万歳(笑)。

 かわいい男だなあ、リック。
 つか、リックが「いい奴」だってみんな知ってるんだよね。
 リックがアニーナ夫妻を助けたとき、店の従業員たちが「ボスがはじめて情を見せた」と大喜びするけど、あれって「そもそもボスは人情家である」という前提があってこそだよね。本当に冷徹な人が相手だと、喜ぶよりは驚いたり引いたりするだろうし。

「ボスってかわいいよな、クールぶってるけどほんとはいい人だって丸わかりだっつーの」
「しっ。本人は隠してるつもりだから、オレたちも気づかないふりしてやんなきゃ」
「ほんと面倒くさい性格だよなー(笑)」
「無理してツンツンしちゃってさ。いつデレるんだろーな(笑)」
「でもそこがかわいいんだよなー」

 ……てなもんで、みんななまぬるく見守ってるんだよね。
 そんな意地っ張りさん(笑)がついに、殻を破ってやさしさを表現した、ってことで、みんな大喜び、サッシャ@みーちゃんはチューまでしちゃう、と。
 
 みんな知ってる、リックのかわいさ。みんなリックにめろめろ(笑)。

 リックを演じているのがゆーひだから、クールビューティ完璧だから、それゆえさらに際立つかわいらしさ。これがもっとアツかったりハートフルだったりする持ち味の人だったら、ここまでギャップ萌えはできないだろう。
 あの温度の低い乾いた様子と、カッコづけと正反対の行動が愉快でならない。

 美貌も富も、人々の愛と尊敬も、なにもかも持っているのに、心に飢えを抱いたままの37歳。……37にもなって、心は中2のよーなナイーヴさ(笑)。
 いやあ、なんて萌えな主人公なんだ。
 会う人会う人に、「なつめさん、亡くなったって?!」と話しかけられた。

 もうとっくにヅカファンをやめた、観劇しなくなって久しい人からも、現役ヅカファンからも。

 わたしは、なつめさんを知らない。
 わたしにとってのなつめさんは、エッセイ『夢・宝塚』『なつめでごじゃいます!』と、『シベリア超特急』だったりする。
 ……エッセイはともかく、よりによって『シベ超』って!! いやその、当時わたしはわりと映画スキーで、ネタ駄作として語り継がれている伝説の映画ってだけで興味わいたんだよ。どんだけすごい映画なのかと。ヅカファンが「戦争なんてなかったら良かったのにね、お兄ちゃん」とか「すごっすごっつよっつよっ」とか、「ジョルジュモテモテ」とか言って遊んでいる、あんな感じ? 駄作認定したうえでいじってるってゆーか。それでわざわざ見てみたわけだ、誰が出演しているとか知りもせずに。

 そしたらなつめさんが出演していて。
 映画はもお、なにがなんだか(笑)なステキな出来だったけど、そこで男装のようなバーテン姿のなつめさんはものすげーかっこ良かった。
 ひとめで「タカラヅカの人」だとわかる。美人ではないけれど独特のオーラを持つ、美しい身のこなしの女性。
 『シベ超』のトンデモなさ……というか、ファンタジー性を上げるキャストのひとりだったと思う。

 わたしがヅカファンになったとき、なつめさんはすでに花組のトップスターで、『ベルサイユのばら-フェルゼン編-』や『ヴェネチアの紋章』『ジャンクション24』などは、わたしも実際に大劇場で観劇した。で、たしか『ベルばら』ではサイン色紙が当たったんだよな、なつめさんの。わたしのヅカファン人生唯一当たったことのある色紙。

 舞台を観たことはあっても、その魅力は知らないままだった。なんせいちばんの記憶が『シベ超』なわけだし。
 だから訃報を知ったときは、「現役時代を見たことのあるスターさんの訃報」ということで、ショックだった。

 まだ若いのに、舞台を、ダンスを、本人もファンも求めているだろうに……と悼みはしたけれど、それだけだった。

 ほんとうの意味がわかるのは、後日だった。

 いろんな人が、なつめさんの話をする。
 ヅカファンじゃない人、大してわたしと親しいわけじゃない人……わたしはヅカファンだと周囲に隠していないため、「ヅカの話なら緑野にしとけ」と思われているみたいで。
 もうヅカは観ていない、でもなつめさんのことを誰かと話したい、話さなければやりきれない、という人が、今まであんまり話したことないのに、「ヅカファン」という共通言語を求めてわざわざ話しに来たりする。

 誰かと話さずにはいられない、誰かを求めずにはいられない……それほどの、想い。もうヅカファンでもないし、なつめさん自身の舞台も何十年観ていないにしろ。それでも。

 リアルな周囲でも哀しみの声が上がり、ヅカファン仲間たちの間、ブログでもmixiでも、友人たちが哀しみを語っている。
 わたしは、なつめさんをよく知らない。ナマの舞台は観たけれどその魅力は知らないままだった。だから、そのすばらしさについても、そのころの思い出についても、したり顔で語ることはできない。

 ただ。
 哀惜を、追悼を、心の言葉で語り続ける人を見て、一緒にべそをかいた。
 これほど多くの人の心が動いている。
 それほどの人を失ったんだ。その事実が重い。

 あとになって、重く重く、悲しく、ひろがった。

 
 なつめさんをよく知らない、と言うと、「もったいないことしたね」と言われる。
 うん、ほんとにそうだと思うよ。

 だけど、当時のわたしにはその魅力を理解できなかった。
 出会いには、時期というものがある。
 最初好きじゃなかったり、興味のなかった人をあとから好きになることが多々ある。子どもの頃読んでつまらなかった本が、大人になってから良さがわかったり。その逆もしかり。
 すべての人やモノと出会いまくることはできない。

 だから今、「好きだ」と思う人やモノと出会えていることを、大切にしたい。
 今のわたしだから「好きだ」と思えるものも、あると思う。今より若くても幼くても駄目だった、今、だからこそ、大切だと思うもの。思える、もの。
 時期がちがえば、好きになれなかったかもしれない。気づかず、見落としたまま、通り過ぎてしまったかもしれない。
 双方の運命が重なり、はじめて出会うことができた。その奇跡に、感謝したい。


 なつめさんと出会うことはできなかったけれど、なつめさんを大切に思う人たちと出会えた。
 彼女たちの純粋な哀しみの言葉に触れて、その早すぎる死を悼む。 
 『カサブランカ』初見にて、痛烈に感じたのはまずなんつっても、『凱旋門』と『マラケシュ』なつかしいなあ、だった。

 ストーリーつか内容が『凱旋門』とかぶりまくり、視覚情報は『マラケシュ』とかぶりまくりで、自分の中でなつかしさと思い出がせめぎ合って、二重映しに舞台を観た、気がする。
 どの作品が先で原作がどうでインスパイアされて、とかいう話ではなく、単純に「タカラヅカ」で上演された先の2作品とテーマ、あるいは国が同じだったために記憶が蘇った、というだけのこと。今回の舞台『カサブランカ』自体にはなんの関係もない、ただわたし個人の問題。

 でも観ているのがわたしだから、わたし個人の問題というのは大きく、『カサブランカ』が良い作品であると同時に、過去の愛しい作品たちとのオーバーラップはより切ないものになる。

 『カサブランカ』はナチス・ドイツのパリ侵攻前夜に出会い、別れたリック@ゆーひとイルザ@すみ花が、その後フランス領モロッコで再会する物語。
 『凱旋門』はそのナチスのパリ侵攻前夜、まさに世界が崩壊するかもしれないときに恋に落ちたラヴィック@トドとジョアン@グンの物語。
 『マラケシュ』はそれらより10年以上前、ロシア革命よりあとのパリとモロッコが舞台。フランス領であり砂漠(異文化)の入口であったマラケシュやカサブランカは、パリから「最果ての地」として流れ着くお約束の場所らしい。

 物語の時代的には、1920年代『マラケシュ』、1938~1940年『凱旋門』、(1940年ナチスのパリ侵攻)1940~1941年『カサブランカ』という流れですな。

 『カサブランカ』と『凱旋門』とのかぶり方は半端なく、ナチスのパリ侵攻が物語のキーとなり主役カップルが別れに至るのだから、そりゃアンタ同じよーな話になるわ、てなもんで。たしか映画ではイルザもジョアンもバーグマンだよな(笑)。
 つか、この2組のカップルが別れた日って同じ日なんじゃあ……?
 同じパリの街で同じ日に、リックはイルザにすっぽかされて汽車に乗り、ラヴィックはジョアンを安楽死させたんじゃあ? 誤差1日くらい?
 リックとサムはビザを持っていたんだろうねえ。簡単にパリを脱出できたんだから。『凱旋門』のパリにいる外国人たちの多くはビザがないため足止めされ、ナチスに収容所送りにされちゃうわけだな。

 ちなみに、『NEVER SAY GOODBYE』も同時代を描いた物語だが、作品的にかなりアレだし(なにしろ小池オリジナル・笑)、「ピサと亡命者」というモチーフがないこととわたし自身に思い入れがないため、ここでは割愛。
 演出家が同じであるために、演出としてのかぶりは『ネバセイ』にも多く見受けられるけど、それはまた別問題。

 わたしは『凱旋門』が好きでねえ。
 基本駄作芝居にしか主演しない(なにしろ植爺やらイシダやらのお気に入り)トド様が、トップ時代にめぐりあった唯一の佳作だと思ってますのよ。
 ムラで通い倒し、東京にも行き、博多にも行ったさ。あげく二次創作までして、とことん入れ込んでいたさ。
 ラヴィック先生もだけど、「死の鳥」マルクス@ナルセが好きでね……。(そして今、ナルセの面影をまっつに重ねている部分がある……のもまた別の話)
 ナチスと強制収容所、拷問と脱出、亡命者とビザ、平和や自由への想い。
 世界の終わりに愛する人と手を握り合う、はかない恋人たち。
 破滅する人、愛を失う人、逃げ切ることのできた人、主役カップルの話だけでなく、動乱の直中にいる人々を描くことで、「時代」そのものを描く。

 『凱旋門』のすばらしさは、それだけどーんと大作めいているのに実は1本モノではないということにもあるかも(笑)。
 ちゃんとショーと2本立てだったんだよねえ。ショーが短めではあったけど、別に30分とかの荒技でもなく。
 『カサブランカ』も十分2本立ての尺に収めることはできたと思うんだがなあ。同じことやってる『凱旋門』ができたんだから。
 『カサブランカ』がふつーに2本立てのショーと同時上演の芝居なら、もっと名作だったのに、とは思う。ヅカファンらしい視点で(笑)。

 『カサブランカ』冒頭のビザを求めて歌う人々から、わたしのなかの『凱旋門』リンクが反応しまくり。うわー、コレ見たー。なつかしー、と。や、見てないです、別物ですってば(笑)。

 もちろんイケコ自身が『凱旋門』を知っているだけに、「同じ演出にするまい」とがんばっている部分はあるんだろうなと思う。
 しかし、あとから同じモチーフを演出するのは大変だなあ。

 『凱旋門』が文学の香りのする舞台だったのに対し、『カサブランカ』はやはりエンタメなんだなと思う。原作が小説か映画かの違いというより、演出家の持ち味かなと思う。
 演出の派手さと、心理面でのうすっぺらさがものすごーくイケコ作品っぽい。
 人の心の動きを描く・掘り下げるのはイケコの苦手分野。演出の巧さと派手さで誤魔化しちゃうけど、ほんとのとこ「人間」単体は描けないんだよね、小池せんせ。
 でもここはタカラヅカで、2500人収容する大劇場だから、キャラクタの細かい心理を掘り下げるヒマがあったら、どっかんどっかん派手な演出していた方がイイ。
 そーゆー意味で、やっぱイケコはすごく「巧い」作家だと思う。

 演出は巧くて派手だけど、人間を描けないことと「叫び」が感じられないことで、どんだけ大作風でも内容的に「小さくまとまってしまう」のがイケコの欠点のひとつだと思っているが、今回は原作ゆえにその辺もうまくカバーされているなあ。

 2時間の原作を2時間のタカラヅカ舞台にアレンジする。……コレこそが、イケコの正しい使い方ですよ!!
 24時間の原作を2時間にまとめろとか、無理難題を吹っ掛けてはいけません!!(笑)

 内容的に『カサブランカ』と『凱旋門』、視覚的に『マラケシュ』とかぶると書いた。
 『凱旋門』の内容と『カサブランカ』がかぶり、『カサブランカ』の舞台であるモロッコが同じであるため視覚的に『マラケシュ』とかぶる。『凱旋門』-『カサブランカ』-『マラケシュ』であり、パリを舞台にした『凱旋門』とモロッコ舞台の『マラケシュ』自体はなんのかぶりもない……けれど、「最果ての地」「心はエデンを求め、肉体は地に囚われる」あたりが、結局のところいろいろとかぶっているのだなとは思う。つか、たんにわたしに響く作品はどこかしら似た叫びを秘めているのでせう。

 
 演出を「うまい」と思うけれど、なにしろイケコ作品らしい薄さは健在で。
 とどのつまりはコレ、キャラ萌え作品だよね? 作品単体勝負ではなく。ストーリーものでもテーマでもなく。
 それって正しくエンタメだ。

 とゆーことで、キャラ語りへ続く~~。
カサブランカ・ダンディ。@カサブランカ
 ゆーひくん、すみ花ちゃん、本拠地トップお披露目初日、おめでとう。

 宙組公演『カサブランカ』初日、どきどき……だけでなく、けっこう不安も抱きつつ座席へ駆け込む。開演前に花組本立ち読みしたり(購入は某FC入ってる友人を通すので、一般売りでは買えない)友人と会ったりで忙しくて。

 満員御礼のお披露目初日。満ちる熱気と緊張感。
 「宙組の大空祐飛です」のアナウンスに沸き上がる拍手。
 この音は、緞帳の向こうのキャストに届いているはず。……奈落にいるゆーひさんには、届いただろうか? や、リック@ゆーひくん、上手セリからのせり上がり登場だったからさ……あっ、ヒョンゴ@まっつと同じ登場だ。(だからナニ)

 いつもトップお披露目初日は、素直にわくわくしている。不安を感じることはまずないんだけど、今回は多分ゆーひくんだからなんだろうな。
 わたしがゆーひくんを好きな分、いろんなことを考えすぎてしまうんだと思う。

 ぶっちゃけ作品の出来を、いちばん心配していた。

 トップの魅力を生かすも殺すも、作品次第。
 どんな駄作も力技でねじ伏せるのがトップの仕事だが、それはトップとしてのキャリアを重ねてからの話で、お披露目で駄作だったりすると目も当てられない。 
 
 トップお披露目の「駄作」というのは、単に作品が壊れてるとかつまらないとかいうだけに留まらない。いや、壊れててもつまらなくてもイイ。
 トップスターを、盛り立てているかだ、いちばん重要なのは。

 生まれてはじめてトップスターになり、大劇場の真ん中に立つわけだ。
 はじめてなんだから、補助輪は必要だ。なくても立てるにしろ、あった方が安全だ。
 駄作でもイイから、とにかく、トップスターの格好良さを表現する、それだけだ。あとは全部置いておいて、これだけを心してかかってくれれば、「お披露目作品」は成り立つ。
 トップスターは組の中心であり、屋台骨だ。とりあえず彼を中心に船出したんだから、沈没しないためには彼がしっかり踏ん張れるだけの力を得なければならない。

 どうやったら、このトップスターが最も魅力的に見えるか。

 ……お披露目公演を書く演出家が、いちばん最初に考えなければならないことだ。

 それは衣装だったり、役の設定だったり、この仕草、この台詞を言わせることだったり。
 そのスターの格好良さを、いちばん引き立たせることをさせる。そのように演出する。
 他は2の次でいいから、まずそれだけを。

 や、そりゃ作品がイイに越したことはないが、ヅカの場合駄作なのはほぼデフォルト(……)だから、話壊れててもつまんなくてもいいからせめて、スターだけは魅力的に見せてくれという、最低限の心の叫びですな。
 慣れたトップならともかく、初心者マーク付けたトップには、演出の底上げをしてくんないと、駄作が救いようもなくただの剥き出しの駄作になって、誰のファンであるかを問わず観客全部が悲しいことになるので。

 つい昨年、お披露目だってことをなーんも考えずに、スターの魅力や売りなんか一顧だにせず自分が書きたいモノを書きたいよーに書いて、もちろんふつーに駄作でつまんない作品を見せられた記憶が焼き付いているもので。
 頼むよ、駄作なだけでもつらいのに、スターの魅力も無視した作品でお披露目は勘弁してくれよ、と、祈るようなキモチだった。1本モノだと、逃げ場がないし。

 で。

 小池修一郎、すげえ。

 カタチにならない不安を抱いての観劇だったのに。
 イケコが、それをぶーんっと吹っ飛ばした。

 わたしは作家のイケコ自体はあまり得意ではないんだが、それにしたって、やっぱりすごい人だ。
 好みを超えて、彼の非凡さに、舌を巻く。

 うまいわ、この人。

 『カサブランカ』。有名映画が原作。
 ……といっても、無知なわたしは未見です。1942年製作って、干支一巡以上昔じゃん……小説ならともかく、映像作品でその古さだとたぶんもう目にすることはないでしょう。
 「♪ぼーぎーぼーぎー、アンタの時代は良かった♪」と、子どものころテレビを見て口ずさみはしていたけれど、「ぼーぎー」がなんなのかはまったくわかっていなかった。人名とは思ってなかったな、だってまったく知らない音だったから。わたしの周囲では耳にすることもない名前だった。
 もう少し大きくなってから、ソレが「ハンフリー・ボガートのことだった」と知ったけれど、だから曲名が「カサブランカ・ダンディ」だと知ったけれど、知ったからといって「で?」でしかないほど、わたしとは無関係な世界(笑)。

 なのでわたしにとっては、オリジナル新作も同じ。原作、カケラも知りません! ボギーでバーグマンで「キミの瞳に乾杯☆」しか知らぬ! 無教養上等!! 原作熟知してなきゃ楽しめないモノはエンタメぢゃねえ!!

 そんな人間が観劇して。

 面白い。

 ちょっとちょっと、面白いですよ奥さん!(誰)

 見ていて感心したのは、この地味な話を、80人以上のキャストを使って、2500人劇場の舞台に、遜色なく載せていること。

 やろうと思ったらコレ、小劇場で舞台セットはカフェひとつで、キャスト4人くらいでできんじゃね?
 本筋的には十分じゃん?

 なのにそれを、この規模に嵩上げしてミュージカル化って……イケコ、すげえよ。

 地味で動きのないメロドラマを、「大作」に祭り上げる。エンタメにする。
 演出力だけで。

 『NEVER SAY GOODBYE』とか、ほんとはこーゆーものを目指していたのかなと思った。
 アレはせっかくの壮大な話を、地味で動きのないただのメロドラマにしてしまった失敗作だと思うけど。(音楽がいいだけに残念)
 目指していたのは、コレだったのかと。

 そして、最初の話に戻るが、コレはお披露目公演である。
 作品がどうあれ、座付き作家の仕事は「トップスターが魅力的に見える」演出をしなければならない。

 イケコは、コレを見事に果たしていた。

 リック@ゆーひが、かっこいい。

 めちゃくちゃかっこいい。
 とことんかっこいい。

 てゆーか、今のゆーひくんがもっとも魅力的に見える役、衣装、設定、台詞etc.
 よくぞここまで、ってくらい、これでもかとおーぞらゆーひ。

 いやその、ゆーひくんってできる役の範囲がせまい人なので、コレしかないから間違えようがない、つーのはあるかもしれないが、それでも平気で間違えてくるのが劇団じゃん?
 なのにイケコはなりふり構わずど真ん中ストレート来ましたよー!

 あまりにゆーひの比重が大きく、2番手は辛抱役だわ、3番手はメタボオヤジだわ、他のスターに割喰わせちゃってるけど。
 らんとむもみっちゃんも、そーゆーマイナス面で揺らがない実力と魅力を持った人たちだからこそ、これだけの割り振りができたんだろうな。

 役はまったくナイのに、それでも下級生たちの出番も見せ場も多く、思わぬ人が台詞を言ったり歌ったり。
 脇使い、群衆使いの巧さも、さすがイケコ。たしかにモブにしか過ぎないのに、モブでもそれなりにおいしさはあるという。
 また、宙組のコーラス力が活かされてる。

 ヒロインのイルザ@ののすみもまた、相変わらずの女優ぶりだし。

 ののすみが泣くと、全世界が泣く。……何度も使ったこのフレーズまんまに、泣かされる。

 
 良い作品だ。良いお披露目だ。

 新生宙組スタート、おめでとう。
 ちょっと待て。

2009/11/12

星組 退団者のお知らせ

下記の生徒の退団発表がありましたのでお知らせいたします。

(星組)
百花沙里
琴まりえ
梅園紗千
彩海早矢
天緒圭花

   2010年3月21日(星組東京宝塚劇場公演千秋楽)付で退団

美春あやか  2009年11月12日付で退団

 のんきに周回遅れの全ツ『ソウル・オブ・シバ!!』の感想を書いているときに、この報を受けた。

 そんなバカな……。

 それぞれ思い入れも思い出もあるジェンヌさんばかり。

 中日初日はあきらめて、星楽に焦点合わすべき?!(と、あわててたら、某星担kineさんも同じことを言っていた)

 まだこれから見送れる人はともかく、集合日退団ってナニ。と、思わず書きかけ感想投げ出して、文化祭プログラム引っ張り出しちゃったよ。美春あやかちゃんの記憶はそこからスタートしている。
 成績優秀で安定した娘さんで、入団してからもスカフェやったりで活躍してたのになあ。記憶力のないわたしが顔のわかる、わずかな下級生娘役のひとりなのに……。どうして。

 
 みんなもお「まさか」の人たちで、惜しくてしょうがないのだが、その中でも特に。

 特に、あかしの卒業が、ショックだ……。

 あかしなのに、あかしのくせに、あかしだから。
 いっぱいいっぱい書いてきた。
 こんなに早く別れが来るなんて、思ってなかった。

 あかしなのに。
 あかしのくせに。
 あかしだから。

 いなくなるなんて、嫌だ。

 ただもお、「嫌だ」って思う。

 感情による否定の言葉しか、出てこない。

 いやだ。
 いなくなっちゃ、いやだ。
 さあ、第2回 緑野こあらの、宝塚友の会1年間の当選確率発表といきましょう。

 なんで11月なのかとか、数え方とかは去年の記述参照。http://koala.diarynote.jp/200811111519432461/

 自分のための記録! ざっつ自己満足!


 申し込んだ数 80

 去年より増えているのは、公演数が増えたことと、呪いのテープを聴かなくてすむよーになったからと思われます(笑)。
 友会の電話音声は、ホラーゲームに出てくる悪霊の声そのまんまだったからなー。
 ネット入力になり、ストレスなく参加できるようになったので、気軽にエントリーしてますな。

 当選回数 16

 うわー、どーしたこったい、すげえ当たってるぞ?!
 去年は7回しか当たらなかったのに、倍以上の数ですよ!! そりゃ入力数も増えてるけどさー。わたしなら、入力数増えたって当選回数は増えないもんだと思っていたよ。

 当選確率 20%!

 去年は11.9%だったんだよ? やっぱ倍くらい当たってる。
 ちゃんと数えてないものの、「なんか今年はけっこー当たってるなー」と漠然と感じていたが、その通りだったんだ。

 特に新公がよく当たった印象。去年は1回も当たらなかったのに、今年は5回当たってますわ。

 で、さらに。

 良席当選回数 4

 この良席っつーのが、イベントと新公と楽ばかりっつーのがもお。
 どどどどーしたんだ、緑野こあら、運がないのをネタにしていたのに、これじゃちっともネタにならない?!

 「贔屓の公演は当たらない」というのもネタにしていたんだが、『ロシアン・ブルー』楽の超良席と、『EXCITER!!』楽の良席で、ソレも覆されたというか。
 わたしからネタを奪うのが目的?! ってくらい、ピンポイントに当たりました。

 良席当選確率 5%!

 20回に1回は良い席で観られるってことか。去年は100回に1回だったことを思えば、すげー進歩っぷりです。

 不思議なのは、チケット余りまくり公演ではもれなく全滅していたりすること。
 気軽にエントリーできるから、とりあえず参加してみるけど、あとになって「アレ当たってたらさばけなくて大変だったな」というものは、何故かみんなはずれてます。
 みんなが「当たりすぎて困った~~」という公演で、「え? あたし、全滅したよ?!」と言っていて、「やっぱあたしってくじ運ないんだ」と思い込んでいたさ。
 やっぱ抽選って不思議だな。

 「わたしって幸運?!」と喜んでいるが、実はこれくらいの当選確率はふつーなのかな。
 トップさんのサヨナラ公演とか、すごくレアなものはもちろん、かすりもせずはずれてるし。

 
 去年、あまりにくじ運がない、当たらないとここでわめいたから、言霊作用で今年は確率が上がったのかしら。
 そして今年、なんか運が良かった?なんてことをここで書いたから、来年またどん底落ちしたり、するのかしら。

 うおお。
 タカラヅカしか趣味のない寂しい人間なんです、運命の女神様、わたしに最低限のツキを下さい。
 びんぼーなもんで観劇チャンスは友会ぐらいしかないんですよ、頼んます。モミ手モミ手、合掌。
 月組公演『ラスト プレイ』『Heat on Beat!』千秋楽。

 麻月くんが、しっかりした男役のカオをしていて、おどろいた。

 いやその、なんか彼にはヘタレなイメージがあって。きりりとしていてさえ、なんかふにゃっとしたやわらかさがある気がしていて。
 勝手なイメージでしかないんだけど。
 彼が演じてきた役がまた、コメディチックというか、空気読まないかしましい役の印象が強くて。
 彼がまだ音校生のころ某店で偶然見かけて、カオが好みの系統だったゆえ「ああ、あのときの子だ」と初舞台からチェックして、ゆるーく眺めてきて、現在に至る。
 『ハロダン』でいきなりセンターで踊ってたときはびびったなあ。『ハリラバ』でめっちゃ喋って演技してておどろいたなあ。
 ちっちゃくていつまでたっても声変わりしない、永遠の少年だと思っていた。

 子どもだ子どもだと思っていた、ついでにまあ、正直なとこそろそろいい加減声変わりくらいはしてくれてもいいんじゃないかと思っていた、矢先の退団。
 子どもだと思っていたのに、声変わりしてないと思っていたのに、退団挨拶でバウホールのスクリーンに大映しになった彼は、意外なほどしっかりしたカオと声で、しっかりと話した。

 こんなカオだっけ? もっとふにゃっとしてたと思い込んでた。こんな声だっけ? もっと女の子のまんまだと思い込んでた。

 かっこいいなあ。

 なんか、袴姿で挨拶する麻月くんが、みょーにかっこよくて、あせったよ。
 きりっとしていてね。こう、ぴんと張りつめた感じが、端正でね。

 なんだかね。
 突然ね。
 とーとつに、思ったのよ。

 タカラジェンヌって、なんて愛しいイキモノだろうかと。

 や、そんなの今さら言うべきでもない、世の中の常識みたいなことだ、ジェンヌがすばらしいのも、愛しいのも。

 だけど、きりっとかっこいい麻月くんを見て、ぐわーーっと愛しさが涙になってあふれ出た。

 ちっちゃいころから見守って、じれじれしたりわくわくしたり、勝手に一方的に夢を見てさ。麻月くんなんてほんと、一方的なうえにささやかな眺め方だったわけだしさ。彼のなにを知るわけでもなく、ファンの人たちほどちゃんと彼だけを見ていたわけでもなくてさ。
 そんな偏ったわずかな視界の中でも、ジェンヌは変わっていく。どんどん美しくなり、上手くなり、男役は男役に、娘役は娘役になって卒業していく。
 子どもだと思っていた麻月くんが、こんなにかっこいい、男役の顔をして卒業していく。それはなんてすごいことだろう。麻月くんだけでなく、他のジェンヌさんたちすべてが、こんなにかっこよく美しくなって卒業するんだ。その課程を愛でる、愛でることができるタカラヅカって、なんて素晴らしいんだろう、と、思った。

 だって自分は、かっこよくも美しくもないもんな。外見だけの話ではなく、中身っちゅーか生き方もさ。
 あんな風に背筋を伸ばして、すべての人への感謝を告げることなんて、ありえないしさ。そんな潔い生き方してないもんよ。

 タカラジェンヌの卒業は、いつも「愛」と「感謝」を告げる。
 この世で最も美しい言葉を告げる。
 現実がどうあれ、内情がどうあれ、彼らにもきっといろいろあるんだろうけど、それらを飲み込んで乗り越えて、彼らがぴしっと背筋を伸ばし、愛と感謝の言葉で別れを告げる様を、素晴らしいと思う。

 タカラジェンヌ自体が、「夢」だと思う。

 
 うらもえちゃんが「この5年間」と言うのを聞いて、まだたった5年なのかと改めて思う。
 『Young Bloods!! 』は3年前……まだ研2かアレ。ステージひとつセンター務めてたよね。
 そのダンスっぷりから、もっとキャリアがある気がしていた……これからもっと活躍の場も広がったろうにな。

 おときっちゃんはほんときれーなおねえさんで。
 あのルシア@『血と砂』が、こんな大人の女になってさ。昔から歌が得意だけれど、歌い上げるクリアなハイソプラノってわけじゃなく、もっと情感先行の芝居歌の方が得意だったのかなと、続いたエトワール役から思ったりしていた。
 『Ernest in Love』や『ME AND MY GIRL』などのメイド姿がみょーにツボだったんだよなあ。あの華やかな顔立ちが、みんなが同じよーな制服ゆえさらに際立って。
 『血と砂』で役名ついていた子たちの大半は、いつまでたってもそのときの役名でおぼえてしまう。あれほど萌えて通った公演は、あとにも先にもナイからなあ。

 しずくちゃんはバウの巨大スクリーンでアップになってもさらに納得の美貌。
 しっかりした口調に意志をにじませ、「言うべきこと」をきちんと伝えようとしている印象。
 つか、なんてまっすぐな眼差しだろう。
 ゆーほの相手役、美貌の秘書@『ヘイズ・コード』から、わたしにその美貌を知らしめたしずくちゃん。ゆーほスキーだったわたしが、しずくちゃんを床に転がし、ネクタイを緩めるゆーほにどれだけ狂喜乱舞したか……そして床に転がるしずくちゃんの、ストイックなスーツの腰の曲線にハァハァしたか……。真ん中無視して、下手でもつれるゆーほとしずくちゃんだけオペラでガン見してたんだよなあ。
 あそこからはじまって、なんかあれよあれよという間に娘トップ候補になって。
 そして、トップにはならずに卒業してしまうのか。
 7年間のうち、後半だけやたら濃いというか加速装置の付いたようなジェンヌ人生だったのかなと。
 どうして今卒業なのか、言っても仕方ない寂しさが募るけれど、この真っ直ぐな眼差しに射抜かれて、舞台には届かないバウの客席で拍手するしかない。

 あいちゃんはなんかすごく、さばさばした笑顔と挨拶だった。
 あいちゃんファンの友人から、お茶会他で垣間見れるナマのあいちゃんのエピソードを聞くにつれ、舞台から受ける「城咲あい」とのギャップにおどろく。舞台でのエロクールビューティぶりと、ナマのあいちゃんの天然フェアリーっぷりは、ちっともわたしの中でイコールにならない。
 大人っぽくて艶のある大輪の華。舞台しか知らないわたしは、舞台の役とはチガウ最後の挨拶の表情に気圧された。
 こんな子なんだぁ、あいちゃん。知らないままでいたよ。キャリアは短期娘役トップより豊富かも、てなくらいたっぷり極めた人だけど、86期中卒だもんな、まだ若いんだよなあ。
 この期に及んで発見って、まだまだ見せていない顔があったんじゃないかと、舞台でいろんな役を、女の人生を見せてくれたんじゃないかと、卒業が惜しいと思う。

 
 バウホールで退団者を見送るのは、『ベルサイユのばら2001』以来だ。つか、あのときがはじめてのバウ中継だったんじゃなかろうか。
 バウ中継はあったりなかったりするから、なかなか経験することが出来ない。
 ナマ観劇に勝るモノはないが、それでも巨大スクリーンでしっかりと退団者の表情を見られるのは、得難いことかもしれない。
 すぐに外にも出られるから、パレードの位置取りもしやすいしな(笑)。

 東宝はきっと中継ですら見られないだろう、そう思って性根入れて最後のお見送りをした。
 みんなみんな、すごくきれいなの。
 美しい人だ、と、改めて思った。

 月組公演『ラスト プレイ』『Heat on Beat!』大劇場千秋楽。

 チケットなんかもちろんないから、朝から当日券に並んだ。なんとかバウホールのチケットを得て、映像で見収めることが出来た。

 バウの大スクリーンに映し出されるあさこちゃんの姿を見ながら、その端正さに感動する。
 本当に、美しい人だなと。

 タカラヅカのトップスターは、誰もが研ぎ澄まされた美しさを持つ。
 この唯一無二の花園で、唯一無二の花を咲かせた人だ。そしてその花園を去るときに、培われてきた芸と経験が最高位で融合し、有限の楽園を去る妖精だけが持つ透明感を放つ。

 スクリーンに切り取られる姿は、まぎれもなく「宝塚トップスター」だ。
 95年の歴史を刻む、ひとつの到達点ともいえる姿だ。

 わたしとはいまひとつ縁のないスターさんで、いつも遠くから眺めるに留まったけれど、彼のタカラヅカ的な美しさ、格好良さには安心していた。
 相手役のないまま卒業する、そんなイレギュラー状態より、いかにもタカラヅカな世界観のまま卒業して欲しかったと思うけれど、それはもう仕方ない。
 そういえば前月組トップのさえちゃんも、娘役不在で2番手男役に見送られて卒業したんだっけ。……月組の伝統になるのか?(ならないでくれ)

 『マリポーサの花』でも思ったが、『ラスト プレイ』は映像向き作品だ。
 空間をもてあます大劇場より、限られた視界とカット割りされたフレームの中がよく似合う。また、あさこちゃんの芝居も大劇場よりはこーゆーバストアップの画面のでの方が合う気がする。

 反対に、ショー『Heat on Beat!』は映像だとつまらない。
 ショーはやっぱりナマでなきゃ!
 そしてまた、あさこちゃんも。大スクリーンとはいえ、こんな限られた枠の中では精彩を欠く。
 あさこ……いや、スター・瀬奈じゅんは、ナマのステージでこそ、もっとも魅力を発揮する。
 ショースターなんだよなあ。
 しみじみと。

 だから、サヨナラ「ショー」がまた、がつーんと派手で。
 歌とか芝居とか得意な人より、まさしく「ショー」を得意とする人はなんてストロングなんだろう、と思いました。

 ……いやその、「黒い鷲」がちょっとショックで(笑)。
 『SAUDADE』では特になんとも思ってなかったの。ああ、思い出の曲よねえ、いいわねやっぱ、ぐらいの温度感。
 でもその後、我がご贔屓がDSで「黒い鷲」を歌っていて。ご贔屓的には最大級の力を発揮して表現していたのよ、鳥肌モノで感動したのよ。
 しかし……。
 今、あさこちゃんが歌い、踊り、表現する「黒い鷲」でなんというかもお、次元が違うっちゅーかね。表現している、大きさの違いっていうかな。
 歌唱力でもない、もっと別のモノ。
 それが段違い。
 ……もともと別物で、比べるのが間違っているし、比べたいわけでもないが、なんか「ああ、そういうことなのか……」と現実に呆然としました。
 だからといって、ご贔屓への愛が揺らぐわけではなく、ご贔屓の歌う「黒い鷲」の感動が薄れるわけでもまったくないが、それにしたってあさこすげえ。
 そのスターっぷりに、素直に感動しました。

 
 でわたしは、わたしの萌え男・あひくんの最後を見届けたくてはるはる宝塚ムラまで早朝から出かけていたわけなんだが……。

 いやあ、覚悟はしていたけれど、映像だとまったく映らないねっ!

 台詞を言うところやソロなどの見せ場は抜いてくれるけれど、それ以外のところは映らない。舞台にいるのに、肘とか足先とかちらちら見えても、ちゃんと映ることは少ない。
 主役以外のファンは、客席に坐らなきゃダメだよなー。

 で、映像だからか、彼の歌はますますステキに危なっかしくて手に汗握りました(笑)。
 ナマだったらエコー掛かってるから、ここまでハラハラしないで済んだのかも。

 サヨナラショーであひくんが歌った曲は、よくわかんなかった……通常の彼の出演した公演は全部観ているはずだから、それ以外の曲かな、と、ちょっと寂しかった。
 DSの曲なんだね。あひくんひとりのために作られた曲だろうし、あひくんとファンにとっていちばん大切な曲なんだろう。
 と、わかっていても、こーゆーパブリックな場では自分たちの中だけで完結せずに、もう少しパブリックな歌を歌って欲しいなぁ、と自分勝手なことを思ったり。や、観客とはワガママなものなのです。(と、一般論っぽくなすりつける)

 それでも彼がたのしそーに笑っていて、とてもゆるい挨拶をしているのを見て、泣き笑いしました。
 や、挨拶っていうのは、階段降りて来てゼロ番でマイクに向かって話す挨拶ではなく、カーテンコールのときの「退団者、一言挨拶」。

 「楽し過ぎて、笑いが止まりません」だっけ。
 ふつーそこは、「幸せです(笑顔)」だろう、笑いが止まらないって……(笑)。

 袴姿のあひくんが、隣に並んだ黒燕尾(きっとハイヒール)のあさこちゃんよりはるかにデカくて、「あああ、このふたりでもっと萌える関係の芝居とか見てみたかったかも」と、今さらながらに思った。
 トートとルドルフはぜんぜん萌えなかったもん……そーゆーんじゃなくてさあ……。(うだうだ)

 
 ところで、瀬奈じゅんさんの「最後のキスの相手」が、女装きりやんなのは、イイのか? と、大スクリーンにドアップになった、あさきり濃厚キスシーンを見て、思った。つか、びびった(笑)。
 大スクリーンに、ばばーん、ですよ、あの濃厚チュー(しかも長い)がっ!!

 それともうひとつ。

 すべてのプログラムがつつがなく終了し、「ありがとうございました!」と緞帳が閉まるその最後の並びが。

 退団するトップスターの隣にいるのが、組長ってゆーのは、すげーびびった(笑)。
 組長、そこっ?! 立ち位置ソコなの?!

 トップスターの両隣は通常、トップ娘役と2番手男役。
 トップ娘役がいないからって、そこが組長位置っつーのは、すげえ光景だと思った。そんなの、はじめて見た。

 トウコちゃん退団時、花盾持って手を振るその隣が英真くみちょとか、まとぶの横がはっちさんとか水しぇんの横がナガさんとか、それはちょっとというか絶対見たくないというか。
 リュウ様ダイスキだし、彼ならあさこちゃんの隣でもいいんだろうし、いっぱい喋っていっぱい映って泣いて突っ込まれてあわあわして(笑)、すっげーかわいくて萌えだったけど、それとは別に彼の立ち位置にはびびった。嫌だというわけではなく、ただびびった。(ごめん、英真さん、はっちさん、ナガさん)
 カテコでは退団者たちが真ん中に集まって、在団者たちはその周囲に立つ、いつもの陣形になっていたのでふつーの光景に戻っていたんだけど。

 月組はやっぱり、不思議なことになっていたんだと、最後まで見せつけてくれた。

 あさこちゃんたち、ジェンヌはみんな立派に「タカラヅカ」なのにね。
 わたしは普段あまり劇団公式サイトは見ない。ウチのパソコンが古すぎて、あーゆー重いページに行くのは億劫なんだ。
 それでもこの1週間は毎日、パソコンを立ち上げるたびに、まず公式を見に行った。
 花組の休演者が気になって。

 まず、最初の一発目で驚愕した。

2009/11/03
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』
『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

花組  月央和沙
     白華れみ
     瀬戸かずや
     夏城らんか
     白姫あかり
     輝良まさと
     花峰千春
     鞠花ゆめ
     菜那くらら
     羽立光来

※以上10名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、
 11月3日(火)11時公演より休演致します。
 なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。

※また、休演中の朝陽みらいは、11月3日(火)11時公演より復帰いたします。
 10人て!!

 ヅカヲタやってそこそこだけど、一度に10人は聞いたことない。1組80人として、8分の1がいなくなるってこと?!
 それってどんな状態よ??

 で、新公学年ばっかなんですけど、明後日新公なんですけどっ?!
 新公出演者からすりゃ何分の1だ? 出演はどうなるの、お稽古はどうなるの。

 うろたえるばかり。

 友人の観劇報告で、それでも1階からはどこが欠けているのかわからないくらいには、フォーメーション工夫して乗り切っていたと知り、どんだけがんばったんだ、と胸が熱くなった。
 ジェンヌってほんとすごい。

 そして毎日、休演者が増えたり減ったり……。

 じゅりあまで休演した日にゃあ……。

 まっつは誰といちゃつくのよ? と、自分に近いところに引き寄せてうろたえましたね。
 わたしにとって、れみ・じゅりあと聞いて真っ先に浮かぶのは、ショーのハバナでまっつと絡む場面ですから。銀橋カップルより、そっちっつーのがもお……。
 ハバナにて、まっつの恋人@れみちゃん、浮気相手?@じゅりあですから、イタいまっつファン的には!
 この場面がどうなっていたのか、情報はどこにもないしな……。

 そして、本公演はもとより、たった一度の新公が無事に上演できることを心から祈った。……結果的に、れみちゃんたち5名が新公に出演できないとわかり、盛大に肩を落としました。れみちゃん……最後の新公なのに……他の子も無念だろうなあ。

 休演者自身も、そして代役や他の出演者も、みんなみんな大変だったろうなと。
 早く舞台が落ち着くことを祈り、毎日公式チェックしていました。
 生身だもんなあ、つらいよなあ、大変だよなあ。おろおろおろ。うろたえるだけで、なんにもできないけどな。

 
 でもって日記をちっとも日記として日付通りに書いてないもんで、実は今もう宙組公演はじまってるし、宙組さんがまた休演者の嵐で大変なことになってるし。
 あああ、なんてこった……。

 それでもなお、タカラジェンヌはフェアリーである、と、わたしは夢を見続けているけれど。
 妖精さんたちが、元気に夢の国にいてくれることを、心から願っています。

 以下、公式の花組休演者情報コピペ。日記書くヒマなかったけど、毎日コピーだけしてた。自分のうろたえ記録として貼っておく。
2009/11/04
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)


花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
花野じゅりあ(11/4 13:30公演より休演)
白華 れみ
白姫あかり
鞠花ゆめ
菜那くらら
真輝 いづみ(11/4 13:30公演より休演)
美花 梨乃 (11/4 13:30公演より休演)
羽立光来

※以上8名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致します。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。

※また、休演致しておりました 月央和沙、瀬戸かずや、夏城らんか、輝良まさと、花峰千春の以上5名は11月4日(水)13時30分公演より復帰いたします。

2009/11/05
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)


花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
花野じゅりあ
真輝 いづみ
美花 梨乃

※以上3名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。

※また、休演致しておりました 白華 れみ、白姫あかり、鞠花ゆめ、菜那くらら、羽立光来の以上5名は11月5日(木)13:30公演より復帰いたします。

※なお、白華れみ、白姫あかり、菜那くらら、真輝いづみ、美花梨乃は、11月5日(木)の新人公演を休演いたします。

2009/11/05
花組 東京宝塚劇場新人公演 配役変更及び休演者のお知らせ


花組 東京宝塚劇場新人公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』の配役変更及び休演者をお知らせいたします。

【配役変更】
カロンヌ夫人役・・・白華れみ→花奈澪
イヴォンヌ役・・・白姫あかり→花蝶しほ
イレーネ役・・・菜那くらら→桜帆ゆかり
ロセロワ役・・・真輝いづみ→水美舞斗

※白華れみ、白姫あかり、菜那くらら、真輝いづみ、美花 梨乃 以上5名は、休演致します。

2009/11/06
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
花野じゅりあ
美花 梨乃
新菜かほ (11月6日13:30公演より休演)

※以上3名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。
※また、休演致しておりました 真輝 いづみは11月6日(金)13:30公演より復帰いたします。

2009/11/07
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
美花 梨乃
新菜かほ 
紗愛せいら(11月7日11:00公演より休演)

※以上3名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。
※また、休演致しておりました 花野じゅりあは11月7日(土)11:00公演より復帰いたします。

2009/11/08
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
新菜かほ 
紗愛せいら

※以上2名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。
※また、休演致しておりました 美花 梨乃は11月8日(日)11:00公演より復帰いたします。

2009/11/10
花組 東京宝塚劇場公演 休演者の復帰について

花組 東京宝塚劇場公演『外伝ベルサイユのばら-アンドレ編-』『EXCITER!!』を休演させて頂いておりました、新菜かほ、紗愛せいらは、11月10日(火)13時30分公演より復帰いたしますのでお知らせ致します。

 今ごろ『ロシアン・ブルー』の話。や、もっと前に書くはずが、他に書くことが多すぎて後送りにしていたらこうなったという。

 『ロシアの憂鬱』を観ていると、ときどき混乱するのよ、「作者誰だっけ」と。
 もちろん、このがちゃがちゃしたうんちくヲタクっぷりは大野くんでしかありえないけど、キムシン作品を観ている気分になるんだわ。

 ぶっちゃけ、『君を愛してる』と、混同してしまう。

 似てるんだもんよ。
 主人公のキャラクタと、それぞれのキャラ配置、ストーリー、そしてなにより、テーマが。

 むしろ『ロシアン・ブルー』の方が、いつものキムシン節全開だ。

「もう3500年もこうして彷徨っている。見ろ、なにも変わっちゃいない」
「20年経っても 200年経っても 2000年経っても 何も変わりはしなかった!」

 ……そーやって、「群衆」という「顔のない人々の罪」を描き続けるキムシンと、今回の大野くんの描く「群衆」たちが丸かぶりで、混乱してしまう。
 あれ、コレってキムシン作だっけ? と。

 アルバート@水しぇんの祖先たちがロシアを追われた時代も、物語の舞台となっている、わたしたちの現代と陸続きの時代も、なにも変わっていない。
 群衆はいつも「個」ではないということに守られて、自分以外のなにかに責任を転嫁して攻撃する。
 もっとも恐ろしいのは、自らの悪を知りながらそれを押し付ける相手を「誰にしようか」と歌うエジェフ@ハマコではない。
 「責めなければ、自分が責めれるから」と、自分可愛さに他に生贄を求める、「罪なき群衆」たちだ。

 魔女狩りの、恐ろしさだ。
 
 自分が「魔女」だと言われないために、無実の他人を「魔女」に仕立て上げる。
 「魔女」という共通の敵を作り、「正義」の名の下に多勢でひとりをつるし上げる。
 誰かを貶めることで、自分の正しさや安全に酔う。
 名前を持たない、「群衆」「匿名」という安全な位置からしか、攻撃はしない。
 みんながやっているから、自分だけではないから、と個人では責任を負わない。
 悪いのはいつも、自分以外の誰か。

 キムシンが描き続けるテーマを、キムシンの『君愛』と同じようなキャラ配置のコメディで展開するもんだから、観ていて混乱する。あれ、コレってキムシン作だっけ、と(笑)。

 もちろん、キムシンだけが唯一無二のテーマを掲げているわけではなく、彼が主張するものは特別でもなんでもない、ありきたりなものだから、他の作家が同じテーマを掲げて作劇してもなんの不思議もない。
 あくまでも、受け取る側の、「わたし」の問題。

 『ロシアの憂鬱』と『君を愛してる』は、同じ話の別バージョンみたいに思える。
 根っこにあるモノが同じで、同じキャラクタと同じキャストを使って、実験的にふたつの作品を創ってみました、みたいな。
 ふたりの作家の競作、みたいな。

 そうやって比べてみると、ふたりの作家の個性の違いが、すごく面白い。

 「魔女狩り」という辛辣なテーマを「罪のないラヴ・コメディ」に拡散して仕上げているのは同じでも、キムシンはよりファンタスティックに前向きに作ってあるし、大野くんはヲタク知識全開にオシャレに作ってある。

 「魔法」というファンタジーなネタを使っているのは、大野くん。だけど彼は、そーゆー荒唐無稽なものを使って誤魔化しているけど、結局のところシビアで暗い作風だ。
 「魔法」という飛び道具は使っていないけれど、大団円へ持っていく展開ひとつずつがそれと同等の明るい荒唐無稽さを持つのが、キムシン。

 大野くん作品はオシャレで繊細で、他人にツッコミ入れられるのを神経質に拒んでいるかのよーな印象。
 キムシン作品は独特の言語センス(笑)と男性的大らかさを持ち、他人のツッコミ以前に意見もナニも気にしてなさそう。

 前に、『ロシアン・ブルー』は大野くんのヲタク的こだわりが悪い方向に出ていると書いた。
 オシャレにまとめてしまうために、ラストに爽快感がない、悲劇エンドに思えてしまう、と。
 「罪のないコメディ」であるならば、最後はもっとわかりやすくハッピーエンドにするべきだった。たとえそれでオシャレ度が下がってしまっても、アタマ悪い観客におもねることになっても、大衆演劇でエンタメなんだからそこまで譲歩するべきだ。
 と言いつつ、そこにこそこだわって、一歩も譲らないだろう大野くんの作風が好きだ(笑)。
 
 わかりやすいハッピーエンドも書くだろうけれど、ほんとのところ、大野くんの持ち味であり、彼の描きたいモノは、ハッピーエンドではないんだろう。
 表面的にキレイに収まっていても、それだけでは済まない無常感が漂うのが、彼の本領だろう。
 それゆえに『ロシアン・ブルー』……猫を被った『ロシアの憂鬱』は、あーゆー作品になった。
 
 一方キムシンはなー(笑)。
 大野くんが繊細に繊細に、ピンセットでジオラマを組み立てているとしたら、キムシンは巨大な粘土を「うぉおりゃあっ」と台の上でぺったんばったんして、「オレ天才~~♪」と歌いながら素手で本能のまま気分のまま形を作っていくイメージというか。
 作り方、アプローチの仕方はまったくチガウのに、今回はできあがった作品が同じよーなカタチだった、と。

 シルエットは似ているんだけど、よく見ると制作過程や素材がちがうことはわかる。
 粘土で作られた作品は表面になにもないけど、小さなパーツを繊細に組み立てた作品はでこぼこしている。
 でも、ケースに入れられて陳列されていると、よく似たシルエットがいちばんに目について、細部の差はあんましわかんないなあ、みたいな。

 てゆーか粘土作品の方が、よりわかりやすくカタチが作られているような? でこぼこしてないから、なめらかだし?

 『君愛』はわっかりやすい、のーてんきなラヴコメだったねええ。笑って拍手して幕が下りる、はっちゃけたラストシーンだったねええ。

 キムシンは魔女狩りを平気で繰り返す匿名希望の人間たちを、えんえんえんえん作品内で糾弾しているけれど、彼は別に人間キライじゃないんだよね。
 とても図太く明るい、人間讃歌、人生肯定を感じる。
 どれだけ否定的な悲惨な物語を描いても、根っこにある明るさと希望は隠せないというか。
 だからこそ、彼の作品はどこか愚鈍な押しつけがましさがあるというか。

 
 わたしは『君愛』がダイスキで、『ロシアン・ブルー』がダイスキ。
 このふたつの作品が、ほぼ同じキャストで、雪組で水しぇんで上演されたことが、うれしくてならない。

 このふたつの作品をしれっと上演できてしまう、「宝塚歌劇」の奥の深さといい加減さが好き(笑)。
 ムラのいつもの店で、いつものよーにダラダラと、nanaタンと喋っていたわけですよ。
 贔屓のためにびんぼー一直線、贔屓組以外にかけるお金なんてないよねえ、贔屓組以外観るお金ないよねえ。
 とゆー話の流れで。

「あたしなんで、『ZORRO』を4回も観ちゃったんだろう?」

 疑問です。こんだけびんぼーなのに、なんであんな作品を何度も観ちゃったんだろう。ええ、作品としてはどーでもよかったのに。
 首を傾げるわたしに、nanaタンが追い打ちを掛けるのですよ。

「『ベルばら』より、観てるじゃない」

 がーーん……。

 贔屓組の今回の公演、『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』より、贔屓でもなんでもない組の、好きでもない作品をたくさん観ているって……!! わたしがお金持ちならともかく、こんなびんぼーでチケ代にひーひー言ってるのに、なんでそんな分不相応なゼイタクを!!

 いやその、『ベルばら』は3回しか観てないからねええ。同時上演のショー『EXCITER!!』は9回観てますが。

「ほんと、水さん好きなんだねー(笑)」

 花組の次によく観る組が、雪組。水しぇん好きですよ、ええ。水くん目当てですとも。それに『ZORRO』はとなみちゃんラストだったしな。で、トド様も出演していたしな。それで回数観てるんだな。作品はともかく、キャストのために通ったんだな。
 にしてもあんなつまんない作品に……。

 そして、さらに気づく。

「『ロシアン・ブルー』は、5回観た……」

 作品がつまんなくても毎週ムラへ通い、作品が好きだとさらに回数を増やしてしまう。1ヶ月公演なのに5回って、週1以上かよ、しかも新公も別に観ているって、なんでそんなムラ通いしてんのよ、ムラまで片道1時間もかかるのに。
 びんぼーなのに! 贔屓組以外にかけるお金なんてどこにもないのに! 贔屓の出ている『ベルばら』は3回で、贔屓の出ていない『ロシアン・ブルー』を5回ってナニ、そんなのヅカファン的に変!

「ほんと水さん好きだねー。あ、それとも、アタシに会いたかったの?(笑)」

 とほざく、「雪組公演期間は、いつもムラにいます」なゆみこ担は放っておいて、今さらだが『ロシアン・ブルー』の話。

 雪組公演『ロシアン・ブルー』で、わたし的にいちばんの良席は、千秋楽のSSセンターブロック通路側席でした。
 ええ、アメリカ議員さんとその執事が、役職を離れて友人同士としてしっぽり話す、アレが触れそうに目の前な席です。
 友会で当たったんだよ、ハラショー。初日に観て、「あたし、楽のあのあたりの席持ってる~~!」と舞い上がりましたさ。

 あとはびんぼー人らしく、1階の10何列目くらいか、あるいは当日Bでどっちにしろ安く観ていた(物価が低くて助かりました)ので、いつもオペラグラス必須だったのね。
 わたしはとどのつまり水くんスキーで、結局水くんをぼーっと見ていたりする。
 オペラグラスだと、ほんとにその人ひとりとその周辺わずかにしか、見えない。『ロシアン・ブルー』は画面のどこを見てもたのしかったので、あちこち見るのに必死だったし、あずりん中心に見ていた日もあったりしたんだが(笑)、「物語」を見るとなると、やっぱりわたしはアルバート@水しぇんを中心に見ていた。

 それが千秋楽の席だと、オペラグラス不要なわけよ。
 視界が、広いの。
 水しぇん以外も見えるの。

 前方席って、こんなに素晴らしいのか!! と、今さらなことに感動しましたよ。(びんぼーが憎い)

 そして。
 はじめて、気づいたの。

 イリーナ@みなこに。

 今までずっとオペラでアルバートばっか見ていたから、イリーナのことは見ているよーで見ていなかった。ふたりが一緒にいるシーンは、どーしてもアルバートを見てしまうし。
 オペラ無しでふつーにふたりの場面を見てみれば。

 イリーナのいじらしさに、くらくらする。

 アルバートを前にして、イリーナの感情は揺れ動く。
 とくに、「薬」を飲んでしまってから。

 彼女の心の動きが、揺れ方が、リアルで。
 動いて、崩れそうになって、でもなんとか持ちこたえて。強がって。でもふっと崩れて。

 かわいい。
 この子、すっげーかわいい。
 そりゃアルバートも惚れるわ。

 大団円のあとの別れの場面とか、イリーナ見てたら涙が止まらなかった。

 「必ず戻ってくるから」と、アルバートが言うのがわかる。や、そのときその台詞がまだ彼の中になかったとしても、イリーナ見てたらそう言っちゃうって。この子を泣かせないために、言わずにはいられないって。
 「大統領になってでも、戻ってくる」って、言っちゃうよ。

 君のために、奇跡を起こす。……そう、誓うよ。

 だから、泣かないで。

 みなこちゃん、美人さんではまったくないし、苦手な顔立ちなんだけど、やっぱり彼女、巧いわ。
 彼女の芝居が好きだ。
 巻き込まれる。引き込まれる。

 そして、感情移入できる。

 イリーナになって、アルバートに恋が出来る。
 イリーナになって、アルバートに愛されることが出来る。

 千秋楽になって、今までになく感情移入して、ふたりの恋物語にダダ泣きしました。

 もともとアルバート好きだしね。
 「愛の証に大統領になる」と誓う男。
 「愛の証にマリポーサの花を送る」と誓う男も好きだったけど、アルバートも好きよ(笑)。

 彼が戦う相手は、エジェフ@ハマコのようにわかりやすい悪党ではないんだ。
 何故彼の祖先がロシアを追われたか。何故これからイリーナと会うことが、大統領になる必要があるくらい困難なのか。
 何故、灰色の猫はロシアからいなくなったのか。

 アルバートが戦わなければならないものは、そーゆーものなんだ。

 それでも彼は戦うと言うんだ。
 や、もともと戦うつもりで政治家になり、ちょっとくじけていたんだけど、イリーナと出会い、また真正面から戦うことを決意し直すんだ。

 そーゆー男だから、好き。

 また、ちょっとコメディな水しぇんは、生真面目なだけではないおかしみを持っていて、その絶望的な闘いにもゆるさや光を感じさせてくれる。
 彼の握り拳に、夢を見られるんだ。ひょっとしたら、彼の描く未来が来る、のかもしれない、って。

 アルバートが好きで、イリーナが好き。
 このふたりの恋物語に、どきどきする。わくわくする。

 『ロシアン・ブルー』がダイスキ。

< 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 >

 

日記内を検索