『カサブランカ』は、キャラ萌え作品である。

 物語には、ストーリー主体のものと、キャラクタ主体のモノがある。
 で、『カサブランカ』はキャラ物だと思う。ストーリーのおもしろさだけで真っ向勝負はしてないよね? リック@ゆーひを含めた、キャラクタを好きになってはじめて成立する作品だよね?

 だって、リックを好きでなかったら、タル過ぎるでしょ、この話。

 1時間半にスピーディにぎゅっと凝縮されていたら、まだストーリーにも重点があったかもしれないけど、2時間半かけて表現するにはあまりにストーリー部分が少ない。
 水増しして引き伸ばした分、キャラに萌えてね、ってことっしょ?

 つーことで、素直に、萌えました(笑)。

 リックと男たち萌え。

 リックはもお、お約束みたいな主人公。
 訳ありな過去を1ダースくらい背負っていることもそうだが(笑)、なんつっても登場人物全員から愛され、求められているところが、もお(笑)。

 老若男女問わず、みんなみんなリックが好き。リックが気になる。リックが世界の中心。

 そんだけ一方的に愛され、求められておきながら、当の本人は「オレって孤独」と勝手に殻に閉じこもっているわけですよ!
 みんなが欲しくてたまらないものをあったりまえに持ちながら、「興味ないね」と孤高ポーズ決めてるんですよ!
 それは自由への通行証を持ちながら、ソレのために殺人も当然、全財産投げ出してもいい、って他人が思うシロモノを持ちながら、「こんなのいらねーし」と思っていることと同じ。
 そりゃ「ナニサマのつもりよ?!」となじりたくもなるわな。愛されても「興味ねー」、通行証持ってても「興味ねー」。

 全世界の人がうらやむ境遇でありながら、彼の飢えは癒えない。

 彼の飢えを癒すことが出来るのは、世界でただひとり。
 なにごとにも動じない乾ききった男が、唯一取り乱すのは、ただひとりのこと。

 ……このギャップがたまりません。

 イルザ@ののすみが絡むときだけ、別人になる、しかもそれを隠しもしない、とゆーのが萌え過ぎる(笑)。

 しかもイルザは、リックを愛していないし。

 タカラヅカのお約束としては、「ヒロインは主人公を愛していた。けれど、別れるしかなかった。主人公はヒロインの幸福のためにあえて身を引いた」という展開なんだと思うけど、「愛し合っているのに、別れてエンドマーク」だと思うけれど、この『カサブランカ』ってそうじゃないよねえ? 
 プログラムにも「互いに封印していた気持ちを蘇らせたリックとイルザ」「イルザも又、リックとは別れられないと悟るのだった」とあり、ふたりが真に愛し合っていたと書かれてはいるようだ。作者はそう思って演出しているのかもしれない。
 ……でも、わたしがどう感じたかは別問題。

 パリでのイルザは、たしかにリックを愛していたと思う。だからこそ、その別れでいちばん泣けた。
 ののすみが泣くと、全世界が泣く。
 永遠の別れを決意しながら、涙を堪えて微笑んでキスをねだる姿に泣いた。

 ……でも、カサブランカで再会してからのイルザは、リックのこと昔通りには愛してないよね? 彼女がいちばん愛し、いちばんに考えているのはラズロ@らんとむのことだよね?
 リックから通行証を奪い、ラズロを逃がすためだけに、すべて計算尽くでリックに色仕掛けしたんだよね? アニーナ@アリスが夫への愛ゆえに、ルノー@みっちゃんに身を売ろうとしたように。愛する人を救うために、涙をのんで悪党へ身を差し出したんだよね?

 ヒロインから悪党認識される主人公!!(笑)
 なにソレ、美味しすぎる!!

 いや、イルザにもリックへの愛情やら憐憫やらはあったと思うけれど。それを愛だとゆーことにしても、かまわないんだけど。
 タカラヅカらしく、リックへの愛が真実、ラズロへのキモチはただの尊敬や情にすぎない、としてもいいんだけど。

 わたし的には、リックはイルザに利用されたとする方がより萌えです。

 結婚式を夢見てわくわくとコートの襟を立ててカッコつけて待っていた、そのまぬけさ……ゲフゲフン、もとい、純粋さそのままに、「もうアナタから逃げられない!」と腕の中に崩れ落ちてくる女の言葉をそのまま信じて舞い上がっちゃうなんて、ステキ過ぎるぢゃないですか!! ついさっきまで、他の男のために拳銃向けていた女なのに!!(笑)

 一旦は女の愛の言葉を全部信じて盛り上がって、だけどそのあと、はっと気づくわけだ、「ひょっとしてオレって、ルノーと同じじゃね?」と。ビザが欲しけりゃ一晩つきあえと言う、あの助平親爺と。いやいやいや、ルノーと同じはマズイだろう、いくらなんでも! オレそこまで落ちぶれてなくね?! ……葛藤するリック(笑)。
 で、その反面教師のルノーを巻き込んで、最後の大作戦ですよ。ええ、わざわざルノーを巻き込むんだもん、心理の流れというか、ワケがあったわけですよ! 伏線もばっちりですね!

 最後の飛行場場面でリックがラズロに「それくらい彼女は君を愛していたんだ」と告げる台詞は、全部そのまんま、これこそ真実。
 や、これを言わないとリックとしてはやってられないでしょ。このまま黙って行かせたんじゃ、イルザは、「リックは最後まであたしが自分を愛していたと信じ込んでいたわ、バカな男ね」と思っちゃうじゃん? 先に「オレは全部お見通しだったんだぜ、演技だとわかってて調子を合わせただけだ」と強がっておかないと!
 やせ我慢は男の美学。男の憧れ。ハードボイルド万歳(笑)。

 かわいい男だなあ、リック。
 つか、リックが「いい奴」だってみんな知ってるんだよね。
 リックがアニーナ夫妻を助けたとき、店の従業員たちが「ボスがはじめて情を見せた」と大喜びするけど、あれって「そもそもボスは人情家である」という前提があってこそだよね。本当に冷徹な人が相手だと、喜ぶよりは驚いたり引いたりするだろうし。

「ボスってかわいいよな、クールぶってるけどほんとはいい人だって丸わかりだっつーの」
「しっ。本人は隠してるつもりだから、オレたちも気づかないふりしてやんなきゃ」
「ほんと面倒くさい性格だよなー(笑)」
「無理してツンツンしちゃってさ。いつデレるんだろーな(笑)」
「でもそこがかわいいんだよなー」

 ……てなもんで、みんななまぬるく見守ってるんだよね。
 そんな意地っ張りさん(笑)がついに、殻を破ってやさしさを表現した、ってことで、みんな大喜び、サッシャ@みーちゃんはチューまでしちゃう、と。
 
 みんな知ってる、リックのかわいさ。みんなリックにめろめろ(笑)。

 リックを演じているのがゆーひだから、クールビューティ完璧だから、それゆえさらに際立つかわいらしさ。これがもっとアツかったりハートフルだったりする持ち味の人だったら、ここまでギャップ萌えはできないだろう。
 あの温度の低い乾いた様子と、カッコづけと正反対の行動が愉快でならない。

 美貌も富も、人々の愛と尊敬も、なにもかも持っているのに、心に飢えを抱いたままの37歳。……37にもなって、心は中2のよーなナイーヴさ(笑)。
 いやあ、なんて萌えな主人公なんだ。
 会う人会う人に、「なつめさん、亡くなったって?!」と話しかけられた。

 もうとっくにヅカファンをやめた、観劇しなくなって久しい人からも、現役ヅカファンからも。

 わたしは、なつめさんを知らない。
 わたしにとってのなつめさんは、エッセイ『夢・宝塚』『なつめでごじゃいます!』と、『シベリア超特急』だったりする。
 ……エッセイはともかく、よりによって『シベ超』って!! いやその、当時わたしはわりと映画スキーで、ネタ駄作として語り継がれている伝説の映画ってだけで興味わいたんだよ。どんだけすごい映画なのかと。ヅカファンが「戦争なんてなかったら良かったのにね、お兄ちゃん」とか「すごっすごっつよっつよっ」とか、「ジョルジュモテモテ」とか言って遊んでいる、あんな感じ? 駄作認定したうえでいじってるってゆーか。それでわざわざ見てみたわけだ、誰が出演しているとか知りもせずに。

 そしたらなつめさんが出演していて。
 映画はもお、なにがなんだか(笑)なステキな出来だったけど、そこで男装のようなバーテン姿のなつめさんはものすげーかっこ良かった。
 ひとめで「タカラヅカの人」だとわかる。美人ではないけれど独特のオーラを持つ、美しい身のこなしの女性。
 『シベ超』のトンデモなさ……というか、ファンタジー性を上げるキャストのひとりだったと思う。

 わたしがヅカファンになったとき、なつめさんはすでに花組のトップスターで、『ベルサイユのばら-フェルゼン編-』や『ヴェネチアの紋章』『ジャンクション24』などは、わたしも実際に大劇場で観劇した。で、たしか『ベルばら』ではサイン色紙が当たったんだよな、なつめさんの。わたしのヅカファン人生唯一当たったことのある色紙。

 舞台を観たことはあっても、その魅力は知らないままだった。なんせいちばんの記憶が『シベ超』なわけだし。
 だから訃報を知ったときは、「現役時代を見たことのあるスターさんの訃報」ということで、ショックだった。

 まだ若いのに、舞台を、ダンスを、本人もファンも求めているだろうに……と悼みはしたけれど、それだけだった。

 ほんとうの意味がわかるのは、後日だった。

 いろんな人が、なつめさんの話をする。
 ヅカファンじゃない人、大してわたしと親しいわけじゃない人……わたしはヅカファンだと周囲に隠していないため、「ヅカの話なら緑野にしとけ」と思われているみたいで。
 もうヅカは観ていない、でもなつめさんのことを誰かと話したい、話さなければやりきれない、という人が、今まであんまり話したことないのに、「ヅカファン」という共通言語を求めてわざわざ話しに来たりする。

 誰かと話さずにはいられない、誰かを求めずにはいられない……それほどの、想い。もうヅカファンでもないし、なつめさん自身の舞台も何十年観ていないにしろ。それでも。

 リアルな周囲でも哀しみの声が上がり、ヅカファン仲間たちの間、ブログでもmixiでも、友人たちが哀しみを語っている。
 わたしは、なつめさんをよく知らない。ナマの舞台は観たけれどその魅力は知らないままだった。だから、そのすばらしさについても、そのころの思い出についても、したり顔で語ることはできない。

 ただ。
 哀惜を、追悼を、心の言葉で語り続ける人を見て、一緒にべそをかいた。
 これほど多くの人の心が動いている。
 それほどの人を失ったんだ。その事実が重い。

 あとになって、重く重く、悲しく、ひろがった。

 
 なつめさんをよく知らない、と言うと、「もったいないことしたね」と言われる。
 うん、ほんとにそうだと思うよ。

 だけど、当時のわたしにはその魅力を理解できなかった。
 出会いには、時期というものがある。
 最初好きじゃなかったり、興味のなかった人をあとから好きになることが多々ある。子どもの頃読んでつまらなかった本が、大人になってから良さがわかったり。その逆もしかり。
 すべての人やモノと出会いまくることはできない。

 だから今、「好きだ」と思う人やモノと出会えていることを、大切にしたい。
 今のわたしだから「好きだ」と思えるものも、あると思う。今より若くても幼くても駄目だった、今、だからこそ、大切だと思うもの。思える、もの。
 時期がちがえば、好きになれなかったかもしれない。気づかず、見落としたまま、通り過ぎてしまったかもしれない。
 双方の運命が重なり、はじめて出会うことができた。その奇跡に、感謝したい。


 なつめさんと出会うことはできなかったけれど、なつめさんを大切に思う人たちと出会えた。
 彼女たちの純粋な哀しみの言葉に触れて、その早すぎる死を悼む。 
 『カサブランカ』初見にて、痛烈に感じたのはまずなんつっても、『凱旋門』と『マラケシュ』なつかしいなあ、だった。

 ストーリーつか内容が『凱旋門』とかぶりまくり、視覚情報は『マラケシュ』とかぶりまくりで、自分の中でなつかしさと思い出がせめぎ合って、二重映しに舞台を観た、気がする。
 どの作品が先で原作がどうでインスパイアされて、とかいう話ではなく、単純に「タカラヅカ」で上演された先の2作品とテーマ、あるいは国が同じだったために記憶が蘇った、というだけのこと。今回の舞台『カサブランカ』自体にはなんの関係もない、ただわたし個人の問題。

 でも観ているのがわたしだから、わたし個人の問題というのは大きく、『カサブランカ』が良い作品であると同時に、過去の愛しい作品たちとのオーバーラップはより切ないものになる。

 『カサブランカ』はナチス・ドイツのパリ侵攻前夜に出会い、別れたリック@ゆーひとイルザ@すみ花が、その後フランス領モロッコで再会する物語。
 『凱旋門』はそのナチスのパリ侵攻前夜、まさに世界が崩壊するかもしれないときに恋に落ちたラヴィック@トドとジョアン@グンの物語。
 『マラケシュ』はそれらより10年以上前、ロシア革命よりあとのパリとモロッコが舞台。フランス領であり砂漠(異文化)の入口であったマラケシュやカサブランカは、パリから「最果ての地」として流れ着くお約束の場所らしい。

 物語の時代的には、1920年代『マラケシュ』、1938~1940年『凱旋門』、(1940年ナチスのパリ侵攻)1940~1941年『カサブランカ』という流れですな。

 『カサブランカ』と『凱旋門』とのかぶり方は半端なく、ナチスのパリ侵攻が物語のキーとなり主役カップルが別れに至るのだから、そりゃアンタ同じよーな話になるわ、てなもんで。たしか映画ではイルザもジョアンもバーグマンだよな(笑)。
 つか、この2組のカップルが別れた日って同じ日なんじゃあ……?
 同じパリの街で同じ日に、リックはイルザにすっぽかされて汽車に乗り、ラヴィックはジョアンを安楽死させたんじゃあ? 誤差1日くらい?
 リックとサムはビザを持っていたんだろうねえ。簡単にパリを脱出できたんだから。『凱旋門』のパリにいる外国人たちの多くはビザがないため足止めされ、ナチスに収容所送りにされちゃうわけだな。

 ちなみに、『NEVER SAY GOODBYE』も同時代を描いた物語だが、作品的にかなりアレだし(なにしろ小池オリジナル・笑)、「ピサと亡命者」というモチーフがないこととわたし自身に思い入れがないため、ここでは割愛。
 演出家が同じであるために、演出としてのかぶりは『ネバセイ』にも多く見受けられるけど、それはまた別問題。

 わたしは『凱旋門』が好きでねえ。
 基本駄作芝居にしか主演しない(なにしろ植爺やらイシダやらのお気に入り)トド様が、トップ時代にめぐりあった唯一の佳作だと思ってますのよ。
 ムラで通い倒し、東京にも行き、博多にも行ったさ。あげく二次創作までして、とことん入れ込んでいたさ。
 ラヴィック先生もだけど、「死の鳥」マルクス@ナルセが好きでね……。(そして今、ナルセの面影をまっつに重ねている部分がある……のもまた別の話)
 ナチスと強制収容所、拷問と脱出、亡命者とビザ、平和や自由への想い。
 世界の終わりに愛する人と手を握り合う、はかない恋人たち。
 破滅する人、愛を失う人、逃げ切ることのできた人、主役カップルの話だけでなく、動乱の直中にいる人々を描くことで、「時代」そのものを描く。

 『凱旋門』のすばらしさは、それだけどーんと大作めいているのに実は1本モノではないということにもあるかも(笑)。
 ちゃんとショーと2本立てだったんだよねえ。ショーが短めではあったけど、別に30分とかの荒技でもなく。
 『カサブランカ』も十分2本立ての尺に収めることはできたと思うんだがなあ。同じことやってる『凱旋門』ができたんだから。
 『カサブランカ』がふつーに2本立てのショーと同時上演の芝居なら、もっと名作だったのに、とは思う。ヅカファンらしい視点で(笑)。

 『カサブランカ』冒頭のビザを求めて歌う人々から、わたしのなかの『凱旋門』リンクが反応しまくり。うわー、コレ見たー。なつかしー、と。や、見てないです、別物ですってば(笑)。

 もちろんイケコ自身が『凱旋門』を知っているだけに、「同じ演出にするまい」とがんばっている部分はあるんだろうなと思う。
 しかし、あとから同じモチーフを演出するのは大変だなあ。

 『凱旋門』が文学の香りのする舞台だったのに対し、『カサブランカ』はやはりエンタメなんだなと思う。原作が小説か映画かの違いというより、演出家の持ち味かなと思う。
 演出の派手さと、心理面でのうすっぺらさがものすごーくイケコ作品っぽい。
 人の心の動きを描く・掘り下げるのはイケコの苦手分野。演出の巧さと派手さで誤魔化しちゃうけど、ほんとのとこ「人間」単体は描けないんだよね、小池せんせ。
 でもここはタカラヅカで、2500人収容する大劇場だから、キャラクタの細かい心理を掘り下げるヒマがあったら、どっかんどっかん派手な演出していた方がイイ。
 そーゆー意味で、やっぱイケコはすごく「巧い」作家だと思う。

 演出は巧くて派手だけど、人間を描けないことと「叫び」が感じられないことで、どんだけ大作風でも内容的に「小さくまとまってしまう」のがイケコの欠点のひとつだと思っているが、今回は原作ゆえにその辺もうまくカバーされているなあ。

 2時間の原作を2時間のタカラヅカ舞台にアレンジする。……コレこそが、イケコの正しい使い方ですよ!!
 24時間の原作を2時間にまとめろとか、無理難題を吹っ掛けてはいけません!!(笑)

 内容的に『カサブランカ』と『凱旋門』、視覚的に『マラケシュ』とかぶると書いた。
 『凱旋門』の内容と『カサブランカ』がかぶり、『カサブランカ』の舞台であるモロッコが同じであるため視覚的に『マラケシュ』とかぶる。『凱旋門』-『カサブランカ』-『マラケシュ』であり、パリを舞台にした『凱旋門』とモロッコ舞台の『マラケシュ』自体はなんのかぶりもない……けれど、「最果ての地」「心はエデンを求め、肉体は地に囚われる」あたりが、結局のところいろいろとかぶっているのだなとは思う。つか、たんにわたしに響く作品はどこかしら似た叫びを秘めているのでせう。

 
 演出を「うまい」と思うけれど、なにしろイケコ作品らしい薄さは健在で。
 とどのつまりはコレ、キャラ萌え作品だよね? 作品単体勝負ではなく。ストーリーものでもテーマでもなく。
 それって正しくエンタメだ。

 とゆーことで、キャラ語りへ続く~~。
カサブランカ・ダンディ。@カサブランカ
 ゆーひくん、すみ花ちゃん、本拠地トップお披露目初日、おめでとう。

 宙組公演『カサブランカ』初日、どきどき……だけでなく、けっこう不安も抱きつつ座席へ駆け込む。開演前に花組本立ち読みしたり(購入は某FC入ってる友人を通すので、一般売りでは買えない)友人と会ったりで忙しくて。

 満員御礼のお披露目初日。満ちる熱気と緊張感。
 「宙組の大空祐飛です」のアナウンスに沸き上がる拍手。
 この音は、緞帳の向こうのキャストに届いているはず。……奈落にいるゆーひさんには、届いただろうか? や、リック@ゆーひくん、上手セリからのせり上がり登場だったからさ……あっ、ヒョンゴ@まっつと同じ登場だ。(だからナニ)

 いつもトップお披露目初日は、素直にわくわくしている。不安を感じることはまずないんだけど、今回は多分ゆーひくんだからなんだろうな。
 わたしがゆーひくんを好きな分、いろんなことを考えすぎてしまうんだと思う。

 ぶっちゃけ作品の出来を、いちばん心配していた。

 トップの魅力を生かすも殺すも、作品次第。
 どんな駄作も力技でねじ伏せるのがトップの仕事だが、それはトップとしてのキャリアを重ねてからの話で、お披露目で駄作だったりすると目も当てられない。 
 
 トップお披露目の「駄作」というのは、単に作品が壊れてるとかつまらないとかいうだけに留まらない。いや、壊れててもつまらなくてもイイ。
 トップスターを、盛り立てているかだ、いちばん重要なのは。

 生まれてはじめてトップスターになり、大劇場の真ん中に立つわけだ。
 はじめてなんだから、補助輪は必要だ。なくても立てるにしろ、あった方が安全だ。
 駄作でもイイから、とにかく、トップスターの格好良さを表現する、それだけだ。あとは全部置いておいて、これだけを心してかかってくれれば、「お披露目作品」は成り立つ。
 トップスターは組の中心であり、屋台骨だ。とりあえず彼を中心に船出したんだから、沈没しないためには彼がしっかり踏ん張れるだけの力を得なければならない。

 どうやったら、このトップスターが最も魅力的に見えるか。

 ……お披露目公演を書く演出家が、いちばん最初に考えなければならないことだ。

 それは衣装だったり、役の設定だったり、この仕草、この台詞を言わせることだったり。
 そのスターの格好良さを、いちばん引き立たせることをさせる。そのように演出する。
 他は2の次でいいから、まずそれだけを。

 や、そりゃ作品がイイに越したことはないが、ヅカの場合駄作なのはほぼデフォルト(……)だから、話壊れててもつまんなくてもいいからせめて、スターだけは魅力的に見せてくれという、最低限の心の叫びですな。
 慣れたトップならともかく、初心者マーク付けたトップには、演出の底上げをしてくんないと、駄作が救いようもなくただの剥き出しの駄作になって、誰のファンであるかを問わず観客全部が悲しいことになるので。

 つい昨年、お披露目だってことをなーんも考えずに、スターの魅力や売りなんか一顧だにせず自分が書きたいモノを書きたいよーに書いて、もちろんふつーに駄作でつまんない作品を見せられた記憶が焼き付いているもので。
 頼むよ、駄作なだけでもつらいのに、スターの魅力も無視した作品でお披露目は勘弁してくれよ、と、祈るようなキモチだった。1本モノだと、逃げ場がないし。

 で。

 小池修一郎、すげえ。

 カタチにならない不安を抱いての観劇だったのに。
 イケコが、それをぶーんっと吹っ飛ばした。

 わたしは作家のイケコ自体はあまり得意ではないんだが、それにしたって、やっぱりすごい人だ。
 好みを超えて、彼の非凡さに、舌を巻く。

 うまいわ、この人。

 『カサブランカ』。有名映画が原作。
 ……といっても、無知なわたしは未見です。1942年製作って、干支一巡以上昔じゃん……小説ならともかく、映像作品でその古さだとたぶんもう目にすることはないでしょう。
 「♪ぼーぎーぼーぎー、アンタの時代は良かった♪」と、子どものころテレビを見て口ずさみはしていたけれど、「ぼーぎー」がなんなのかはまったくわかっていなかった。人名とは思ってなかったな、だってまったく知らない音だったから。わたしの周囲では耳にすることもない名前だった。
 もう少し大きくなってから、ソレが「ハンフリー・ボガートのことだった」と知ったけれど、だから曲名が「カサブランカ・ダンディ」だと知ったけれど、知ったからといって「で?」でしかないほど、わたしとは無関係な世界(笑)。

 なのでわたしにとっては、オリジナル新作も同じ。原作、カケラも知りません! ボギーでバーグマンで「キミの瞳に乾杯☆」しか知らぬ! 無教養上等!! 原作熟知してなきゃ楽しめないモノはエンタメぢゃねえ!!

 そんな人間が観劇して。

 面白い。

 ちょっとちょっと、面白いですよ奥さん!(誰)

 見ていて感心したのは、この地味な話を、80人以上のキャストを使って、2500人劇場の舞台に、遜色なく載せていること。

 やろうと思ったらコレ、小劇場で舞台セットはカフェひとつで、キャスト4人くらいでできんじゃね?
 本筋的には十分じゃん?

 なのにそれを、この規模に嵩上げしてミュージカル化って……イケコ、すげえよ。

 地味で動きのないメロドラマを、「大作」に祭り上げる。エンタメにする。
 演出力だけで。

 『NEVER SAY GOODBYE』とか、ほんとはこーゆーものを目指していたのかなと思った。
 アレはせっかくの壮大な話を、地味で動きのないただのメロドラマにしてしまった失敗作だと思うけど。(音楽がいいだけに残念)
 目指していたのは、コレだったのかと。

 そして、最初の話に戻るが、コレはお披露目公演である。
 作品がどうあれ、座付き作家の仕事は「トップスターが魅力的に見える」演出をしなければならない。

 イケコは、コレを見事に果たしていた。

 リック@ゆーひが、かっこいい。

 めちゃくちゃかっこいい。
 とことんかっこいい。

 てゆーか、今のゆーひくんがもっとも魅力的に見える役、衣装、設定、台詞etc.
 よくぞここまで、ってくらい、これでもかとおーぞらゆーひ。

 いやその、ゆーひくんってできる役の範囲がせまい人なので、コレしかないから間違えようがない、つーのはあるかもしれないが、それでも平気で間違えてくるのが劇団じゃん?
 なのにイケコはなりふり構わずど真ん中ストレート来ましたよー!

 あまりにゆーひの比重が大きく、2番手は辛抱役だわ、3番手はメタボオヤジだわ、他のスターに割喰わせちゃってるけど。
 らんとむもみっちゃんも、そーゆーマイナス面で揺らがない実力と魅力を持った人たちだからこそ、これだけの割り振りができたんだろうな。

 役はまったくナイのに、それでも下級生たちの出番も見せ場も多く、思わぬ人が台詞を言ったり歌ったり。
 脇使い、群衆使いの巧さも、さすがイケコ。たしかにモブにしか過ぎないのに、モブでもそれなりにおいしさはあるという。
 また、宙組のコーラス力が活かされてる。

 ヒロインのイルザ@ののすみもまた、相変わらずの女優ぶりだし。

 ののすみが泣くと、全世界が泣く。……何度も使ったこのフレーズまんまに、泣かされる。

 
 良い作品だ。良いお披露目だ。

 新生宙組スタート、おめでとう。
 ちょっと待て。

2009/11/12

星組 退団者のお知らせ

下記の生徒の退団発表がありましたのでお知らせいたします。

(星組)
百花沙里
琴まりえ
梅園紗千
彩海早矢
天緒圭花

   2010年3月21日(星組東京宝塚劇場公演千秋楽)付で退団

美春あやか  2009年11月12日付で退団

 のんきに周回遅れの全ツ『ソウル・オブ・シバ!!』の感想を書いているときに、この報を受けた。

 そんなバカな……。

 それぞれ思い入れも思い出もあるジェンヌさんばかり。

 中日初日はあきらめて、星楽に焦点合わすべき?!(と、あわててたら、某星担kineさんも同じことを言っていた)

 まだこれから見送れる人はともかく、集合日退団ってナニ。と、思わず書きかけ感想投げ出して、文化祭プログラム引っ張り出しちゃったよ。美春あやかちゃんの記憶はそこからスタートしている。
 成績優秀で安定した娘さんで、入団してからもスカフェやったりで活躍してたのになあ。記憶力のないわたしが顔のわかる、わずかな下級生娘役のひとりなのに……。どうして。

 
 みんなもお「まさか」の人たちで、惜しくてしょうがないのだが、その中でも特に。

 特に、あかしの卒業が、ショックだ……。

 あかしなのに、あかしのくせに、あかしだから。
 いっぱいいっぱい書いてきた。
 こんなに早く別れが来るなんて、思ってなかった。

 あかしなのに。
 あかしのくせに。
 あかしだから。

 いなくなるなんて、嫌だ。

 ただもお、「嫌だ」って思う。

 感情による否定の言葉しか、出てこない。

 いやだ。
 いなくなっちゃ、いやだ。
 さあ、第2回 緑野こあらの、宝塚友の会1年間の当選確率発表といきましょう。

 なんで11月なのかとか、数え方とかは去年の記述参照。http://koala.diarynote.jp/200811111519432461/

 自分のための記録! ざっつ自己満足!


 申し込んだ数 80

 去年より増えているのは、公演数が増えたことと、呪いのテープを聴かなくてすむよーになったからと思われます(笑)。
 友会の電話音声は、ホラーゲームに出てくる悪霊の声そのまんまだったからなー。
 ネット入力になり、ストレスなく参加できるようになったので、気軽にエントリーしてますな。

 当選回数 16

 うわー、どーしたこったい、すげえ当たってるぞ?!
 去年は7回しか当たらなかったのに、倍以上の数ですよ!! そりゃ入力数も増えてるけどさー。わたしなら、入力数増えたって当選回数は増えないもんだと思っていたよ。

 当選確率 20%!

 去年は11.9%だったんだよ? やっぱ倍くらい当たってる。
 ちゃんと数えてないものの、「なんか今年はけっこー当たってるなー」と漠然と感じていたが、その通りだったんだ。

 特に新公がよく当たった印象。去年は1回も当たらなかったのに、今年は5回当たってますわ。

 で、さらに。

 良席当選回数 4

 この良席っつーのが、イベントと新公と楽ばかりっつーのがもお。
 どどどどーしたんだ、緑野こあら、運がないのをネタにしていたのに、これじゃちっともネタにならない?!

 「贔屓の公演は当たらない」というのもネタにしていたんだが、『ロシアン・ブルー』楽の超良席と、『EXCITER!!』楽の良席で、ソレも覆されたというか。
 わたしからネタを奪うのが目的?! ってくらい、ピンポイントに当たりました。

 良席当選確率 5%!

 20回に1回は良い席で観られるってことか。去年は100回に1回だったことを思えば、すげー進歩っぷりです。

 不思議なのは、チケット余りまくり公演ではもれなく全滅していたりすること。
 気軽にエントリーできるから、とりあえず参加してみるけど、あとになって「アレ当たってたらさばけなくて大変だったな」というものは、何故かみんなはずれてます。
 みんなが「当たりすぎて困った~~」という公演で、「え? あたし、全滅したよ?!」と言っていて、「やっぱあたしってくじ運ないんだ」と思い込んでいたさ。
 やっぱ抽選って不思議だな。

 「わたしって幸運?!」と喜んでいるが、実はこれくらいの当選確率はふつーなのかな。
 トップさんのサヨナラ公演とか、すごくレアなものはもちろん、かすりもせずはずれてるし。

 
 去年、あまりにくじ運がない、当たらないとここでわめいたから、言霊作用で今年は確率が上がったのかしら。
 そして今年、なんか運が良かった?なんてことをここで書いたから、来年またどん底落ちしたり、するのかしら。

 うおお。
 タカラヅカしか趣味のない寂しい人間なんです、運命の女神様、わたしに最低限のツキを下さい。
 びんぼーなもんで観劇チャンスは友会ぐらいしかないんですよ、頼んます。モミ手モミ手、合掌。
 月組公演『ラスト プレイ』『Heat on Beat!』千秋楽。

 麻月くんが、しっかりした男役のカオをしていて、おどろいた。

 いやその、なんか彼にはヘタレなイメージがあって。きりりとしていてさえ、なんかふにゃっとしたやわらかさがある気がしていて。
 勝手なイメージでしかないんだけど。
 彼が演じてきた役がまた、コメディチックというか、空気読まないかしましい役の印象が強くて。
 彼がまだ音校生のころ某店で偶然見かけて、カオが好みの系統だったゆえ「ああ、あのときの子だ」と初舞台からチェックして、ゆるーく眺めてきて、現在に至る。
 『ハロダン』でいきなりセンターで踊ってたときはびびったなあ。『ハリラバ』でめっちゃ喋って演技してておどろいたなあ。
 ちっちゃくていつまでたっても声変わりしない、永遠の少年だと思っていた。

 子どもだ子どもだと思っていた、ついでにまあ、正直なとこそろそろいい加減声変わりくらいはしてくれてもいいんじゃないかと思っていた、矢先の退団。
 子どもだと思っていたのに、声変わりしてないと思っていたのに、退団挨拶でバウホールのスクリーンに大映しになった彼は、意外なほどしっかりしたカオと声で、しっかりと話した。

 こんなカオだっけ? もっとふにゃっとしてたと思い込んでた。こんな声だっけ? もっと女の子のまんまだと思い込んでた。

 かっこいいなあ。

 なんか、袴姿で挨拶する麻月くんが、みょーにかっこよくて、あせったよ。
 きりっとしていてね。こう、ぴんと張りつめた感じが、端正でね。

 なんだかね。
 突然ね。
 とーとつに、思ったのよ。

 タカラジェンヌって、なんて愛しいイキモノだろうかと。

 や、そんなの今さら言うべきでもない、世の中の常識みたいなことだ、ジェンヌがすばらしいのも、愛しいのも。

 だけど、きりっとかっこいい麻月くんを見て、ぐわーーっと愛しさが涙になってあふれ出た。

 ちっちゃいころから見守って、じれじれしたりわくわくしたり、勝手に一方的に夢を見てさ。麻月くんなんてほんと、一方的なうえにささやかな眺め方だったわけだしさ。彼のなにを知るわけでもなく、ファンの人たちほどちゃんと彼だけを見ていたわけでもなくてさ。
 そんな偏ったわずかな視界の中でも、ジェンヌは変わっていく。どんどん美しくなり、上手くなり、男役は男役に、娘役は娘役になって卒業していく。
 子どもだと思っていた麻月くんが、こんなにかっこいい、男役の顔をして卒業していく。それはなんてすごいことだろう。麻月くんだけでなく、他のジェンヌさんたちすべてが、こんなにかっこよく美しくなって卒業するんだ。その課程を愛でる、愛でることができるタカラヅカって、なんて素晴らしいんだろう、と、思った。

 だって自分は、かっこよくも美しくもないもんな。外見だけの話ではなく、中身っちゅーか生き方もさ。
 あんな風に背筋を伸ばして、すべての人への感謝を告げることなんて、ありえないしさ。そんな潔い生き方してないもんよ。

 タカラジェンヌの卒業は、いつも「愛」と「感謝」を告げる。
 この世で最も美しい言葉を告げる。
 現実がどうあれ、内情がどうあれ、彼らにもきっといろいろあるんだろうけど、それらを飲み込んで乗り越えて、彼らがぴしっと背筋を伸ばし、愛と感謝の言葉で別れを告げる様を、素晴らしいと思う。

 タカラジェンヌ自体が、「夢」だと思う。

 
 うらもえちゃんが「この5年間」と言うのを聞いて、まだたった5年なのかと改めて思う。
 『Young Bloods!! 』は3年前……まだ研2かアレ。ステージひとつセンター務めてたよね。
 そのダンスっぷりから、もっとキャリアがある気がしていた……これからもっと活躍の場も広がったろうにな。

 おときっちゃんはほんときれーなおねえさんで。
 あのルシア@『血と砂』が、こんな大人の女になってさ。昔から歌が得意だけれど、歌い上げるクリアなハイソプラノってわけじゃなく、もっと情感先行の芝居歌の方が得意だったのかなと、続いたエトワール役から思ったりしていた。
 『Ernest in Love』や『ME AND MY GIRL』などのメイド姿がみょーにツボだったんだよなあ。あの華やかな顔立ちが、みんなが同じよーな制服ゆえさらに際立って。
 『血と砂』で役名ついていた子たちの大半は、いつまでたってもそのときの役名でおぼえてしまう。あれほど萌えて通った公演は、あとにも先にもナイからなあ。

 しずくちゃんはバウの巨大スクリーンでアップになってもさらに納得の美貌。
 しっかりした口調に意志をにじませ、「言うべきこと」をきちんと伝えようとしている印象。
 つか、なんてまっすぐな眼差しだろう。
 ゆーほの相手役、美貌の秘書@『ヘイズ・コード』から、わたしにその美貌を知らしめたしずくちゃん。ゆーほスキーだったわたしが、しずくちゃんを床に転がし、ネクタイを緩めるゆーほにどれだけ狂喜乱舞したか……そして床に転がるしずくちゃんの、ストイックなスーツの腰の曲線にハァハァしたか……。真ん中無視して、下手でもつれるゆーほとしずくちゃんだけオペラでガン見してたんだよなあ。
 あそこからはじまって、なんかあれよあれよという間に娘トップ候補になって。
 そして、トップにはならずに卒業してしまうのか。
 7年間のうち、後半だけやたら濃いというか加速装置の付いたようなジェンヌ人生だったのかなと。
 どうして今卒業なのか、言っても仕方ない寂しさが募るけれど、この真っ直ぐな眼差しに射抜かれて、舞台には届かないバウの客席で拍手するしかない。

 あいちゃんはなんかすごく、さばさばした笑顔と挨拶だった。
 あいちゃんファンの友人から、お茶会他で垣間見れるナマのあいちゃんのエピソードを聞くにつれ、舞台から受ける「城咲あい」とのギャップにおどろく。舞台でのエロクールビューティぶりと、ナマのあいちゃんの天然フェアリーっぷりは、ちっともわたしの中でイコールにならない。
 大人っぽくて艶のある大輪の華。舞台しか知らないわたしは、舞台の役とはチガウ最後の挨拶の表情に気圧された。
 こんな子なんだぁ、あいちゃん。知らないままでいたよ。キャリアは短期娘役トップより豊富かも、てなくらいたっぷり極めた人だけど、86期中卒だもんな、まだ若いんだよなあ。
 この期に及んで発見って、まだまだ見せていない顔があったんじゃないかと、舞台でいろんな役を、女の人生を見せてくれたんじゃないかと、卒業が惜しいと思う。

 
 バウホールで退団者を見送るのは、『ベルサイユのばら2001』以来だ。つか、あのときがはじめてのバウ中継だったんじゃなかろうか。
 バウ中継はあったりなかったりするから、なかなか経験することが出来ない。
 ナマ観劇に勝るモノはないが、それでも巨大スクリーンでしっかりと退団者の表情を見られるのは、得難いことかもしれない。
 すぐに外にも出られるから、パレードの位置取りもしやすいしな(笑)。

 東宝はきっと中継ですら見られないだろう、そう思って性根入れて最後のお見送りをした。
 みんなみんな、すごくきれいなの。
 美しい人だ、と、改めて思った。

 月組公演『ラスト プレイ』『Heat on Beat!』大劇場千秋楽。

 チケットなんかもちろんないから、朝から当日券に並んだ。なんとかバウホールのチケットを得て、映像で見収めることが出来た。

 バウの大スクリーンに映し出されるあさこちゃんの姿を見ながら、その端正さに感動する。
 本当に、美しい人だなと。

 タカラヅカのトップスターは、誰もが研ぎ澄まされた美しさを持つ。
 この唯一無二の花園で、唯一無二の花を咲かせた人だ。そしてその花園を去るときに、培われてきた芸と経験が最高位で融合し、有限の楽園を去る妖精だけが持つ透明感を放つ。

 スクリーンに切り取られる姿は、まぎれもなく「宝塚トップスター」だ。
 95年の歴史を刻む、ひとつの到達点ともいえる姿だ。

 わたしとはいまひとつ縁のないスターさんで、いつも遠くから眺めるに留まったけれど、彼のタカラヅカ的な美しさ、格好良さには安心していた。
 相手役のないまま卒業する、そんなイレギュラー状態より、いかにもタカラヅカな世界観のまま卒業して欲しかったと思うけれど、それはもう仕方ない。
 そういえば前月組トップのさえちゃんも、娘役不在で2番手男役に見送られて卒業したんだっけ。……月組の伝統になるのか?(ならないでくれ)

 『マリポーサの花』でも思ったが、『ラスト プレイ』は映像向き作品だ。
 空間をもてあます大劇場より、限られた視界とカット割りされたフレームの中がよく似合う。また、あさこちゃんの芝居も大劇場よりはこーゆーバストアップの画面のでの方が合う気がする。

 反対に、ショー『Heat on Beat!』は映像だとつまらない。
 ショーはやっぱりナマでなきゃ!
 そしてまた、あさこちゃんも。大スクリーンとはいえ、こんな限られた枠の中では精彩を欠く。
 あさこ……いや、スター・瀬奈じゅんは、ナマのステージでこそ、もっとも魅力を発揮する。
 ショースターなんだよなあ。
 しみじみと。

 だから、サヨナラ「ショー」がまた、がつーんと派手で。
 歌とか芝居とか得意な人より、まさしく「ショー」を得意とする人はなんてストロングなんだろう、と思いました。

 ……いやその、「黒い鷲」がちょっとショックで(笑)。
 『SAUDADE』では特になんとも思ってなかったの。ああ、思い出の曲よねえ、いいわねやっぱ、ぐらいの温度感。
 でもその後、我がご贔屓がDSで「黒い鷲」を歌っていて。ご贔屓的には最大級の力を発揮して表現していたのよ、鳥肌モノで感動したのよ。
 しかし……。
 今、あさこちゃんが歌い、踊り、表現する「黒い鷲」でなんというかもお、次元が違うっちゅーかね。表現している、大きさの違いっていうかな。
 歌唱力でもない、もっと別のモノ。
 それが段違い。
 ……もともと別物で、比べるのが間違っているし、比べたいわけでもないが、なんか「ああ、そういうことなのか……」と現実に呆然としました。
 だからといって、ご贔屓への愛が揺らぐわけではなく、ご贔屓の歌う「黒い鷲」の感動が薄れるわけでもまったくないが、それにしたってあさこすげえ。
 そのスターっぷりに、素直に感動しました。

 
 でわたしは、わたしの萌え男・あひくんの最後を見届けたくてはるはる宝塚ムラまで早朝から出かけていたわけなんだが……。

 いやあ、覚悟はしていたけれど、映像だとまったく映らないねっ!

 台詞を言うところやソロなどの見せ場は抜いてくれるけれど、それ以外のところは映らない。舞台にいるのに、肘とか足先とかちらちら見えても、ちゃんと映ることは少ない。
 主役以外のファンは、客席に坐らなきゃダメだよなー。

 で、映像だからか、彼の歌はますますステキに危なっかしくて手に汗握りました(笑)。
 ナマだったらエコー掛かってるから、ここまでハラハラしないで済んだのかも。

 サヨナラショーであひくんが歌った曲は、よくわかんなかった……通常の彼の出演した公演は全部観ているはずだから、それ以外の曲かな、と、ちょっと寂しかった。
 DSの曲なんだね。あひくんひとりのために作られた曲だろうし、あひくんとファンにとっていちばん大切な曲なんだろう。
 と、わかっていても、こーゆーパブリックな場では自分たちの中だけで完結せずに、もう少しパブリックな歌を歌って欲しいなぁ、と自分勝手なことを思ったり。や、観客とはワガママなものなのです。(と、一般論っぽくなすりつける)

 それでも彼がたのしそーに笑っていて、とてもゆるい挨拶をしているのを見て、泣き笑いしました。
 や、挨拶っていうのは、階段降りて来てゼロ番でマイクに向かって話す挨拶ではなく、カーテンコールのときの「退団者、一言挨拶」。

 「楽し過ぎて、笑いが止まりません」だっけ。
 ふつーそこは、「幸せです(笑顔)」だろう、笑いが止まらないって……(笑)。

 袴姿のあひくんが、隣に並んだ黒燕尾(きっとハイヒール)のあさこちゃんよりはるかにデカくて、「あああ、このふたりでもっと萌える関係の芝居とか見てみたかったかも」と、今さらながらに思った。
 トートとルドルフはぜんぜん萌えなかったもん……そーゆーんじゃなくてさあ……。(うだうだ)

 
 ところで、瀬奈じゅんさんの「最後のキスの相手」が、女装きりやんなのは、イイのか? と、大スクリーンにドアップになった、あさきり濃厚キスシーンを見て、思った。つか、びびった(笑)。
 大スクリーンに、ばばーん、ですよ、あの濃厚チュー(しかも長い)がっ!!

 それともうひとつ。

 すべてのプログラムがつつがなく終了し、「ありがとうございました!」と緞帳が閉まるその最後の並びが。

 退団するトップスターの隣にいるのが、組長ってゆーのは、すげーびびった(笑)。
 組長、そこっ?! 立ち位置ソコなの?!

 トップスターの両隣は通常、トップ娘役と2番手男役。
 トップ娘役がいないからって、そこが組長位置っつーのは、すげえ光景だと思った。そんなの、はじめて見た。

 トウコちゃん退団時、花盾持って手を振るその隣が英真くみちょとか、まとぶの横がはっちさんとか水しぇんの横がナガさんとか、それはちょっとというか絶対見たくないというか。
 リュウ様ダイスキだし、彼ならあさこちゃんの隣でもいいんだろうし、いっぱい喋っていっぱい映って泣いて突っ込まれてあわあわして(笑)、すっげーかわいくて萌えだったけど、それとは別に彼の立ち位置にはびびった。嫌だというわけではなく、ただびびった。(ごめん、英真さん、はっちさん、ナガさん)
 カテコでは退団者たちが真ん中に集まって、在団者たちはその周囲に立つ、いつもの陣形になっていたのでふつーの光景に戻っていたんだけど。

 月組はやっぱり、不思議なことになっていたんだと、最後まで見せつけてくれた。

 あさこちゃんたち、ジェンヌはみんな立派に「タカラヅカ」なのにね。
 わたしは普段あまり劇団公式サイトは見ない。ウチのパソコンが古すぎて、あーゆー重いページに行くのは億劫なんだ。
 それでもこの1週間は毎日、パソコンを立ち上げるたびに、まず公式を見に行った。
 花組の休演者が気になって。

 まず、最初の一発目で驚愕した。

2009/11/03
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』
『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

花組  月央和沙
     白華れみ
     瀬戸かずや
     夏城らんか
     白姫あかり
     輝良まさと
     花峰千春
     鞠花ゆめ
     菜那くらら
     羽立光来

※以上10名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、
 11月3日(火)11時公演より休演致します。
 なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。

※また、休演中の朝陽みらいは、11月3日(火)11時公演より復帰いたします。
 10人て!!

 ヅカヲタやってそこそこだけど、一度に10人は聞いたことない。1組80人として、8分の1がいなくなるってこと?!
 それってどんな状態よ??

 で、新公学年ばっかなんですけど、明後日新公なんですけどっ?!
 新公出演者からすりゃ何分の1だ? 出演はどうなるの、お稽古はどうなるの。

 うろたえるばかり。

 友人の観劇報告で、それでも1階からはどこが欠けているのかわからないくらいには、フォーメーション工夫して乗り切っていたと知り、どんだけがんばったんだ、と胸が熱くなった。
 ジェンヌってほんとすごい。

 そして毎日、休演者が増えたり減ったり……。

 じゅりあまで休演した日にゃあ……。

 まっつは誰といちゃつくのよ? と、自分に近いところに引き寄せてうろたえましたね。
 わたしにとって、れみ・じゅりあと聞いて真っ先に浮かぶのは、ショーのハバナでまっつと絡む場面ですから。銀橋カップルより、そっちっつーのがもお……。
 ハバナにて、まっつの恋人@れみちゃん、浮気相手?@じゅりあですから、イタいまっつファン的には!
 この場面がどうなっていたのか、情報はどこにもないしな……。

 そして、本公演はもとより、たった一度の新公が無事に上演できることを心から祈った。……結果的に、れみちゃんたち5名が新公に出演できないとわかり、盛大に肩を落としました。れみちゃん……最後の新公なのに……他の子も無念だろうなあ。

 休演者自身も、そして代役や他の出演者も、みんなみんな大変だったろうなと。
 早く舞台が落ち着くことを祈り、毎日公式チェックしていました。
 生身だもんなあ、つらいよなあ、大変だよなあ。おろおろおろ。うろたえるだけで、なんにもできないけどな。

 
 でもって日記をちっとも日記として日付通りに書いてないもんで、実は今もう宙組公演はじまってるし、宙組さんがまた休演者の嵐で大変なことになってるし。
 あああ、なんてこった……。

 それでもなお、タカラジェンヌはフェアリーである、と、わたしは夢を見続けているけれど。
 妖精さんたちが、元気に夢の国にいてくれることを、心から願っています。

 以下、公式の花組休演者情報コピペ。日記書くヒマなかったけど、毎日コピーだけしてた。自分のうろたえ記録として貼っておく。
2009/11/04
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)


花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
花野じゅりあ(11/4 13:30公演より休演)
白華 れみ
白姫あかり
鞠花ゆめ
菜那くらら
真輝 いづみ(11/4 13:30公演より休演)
美花 梨乃 (11/4 13:30公演より休演)
羽立光来

※以上8名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致します。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。

※また、休演致しておりました 月央和沙、瀬戸かずや、夏城らんか、輝良まさと、花峰千春の以上5名は11月4日(水)13時30分公演より復帰いたします。

2009/11/05
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)


花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
花野じゅりあ
真輝 いづみ
美花 梨乃

※以上3名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。

※また、休演致しておりました 白華 れみ、白姫あかり、鞠花ゆめ、菜那くらら、羽立光来の以上5名は11月5日(木)13:30公演より復帰いたします。

※なお、白華れみ、白姫あかり、菜那くらら、真輝いづみ、美花梨乃は、11月5日(木)の新人公演を休演いたします。

2009/11/05
花組 東京宝塚劇場新人公演 配役変更及び休演者のお知らせ


花組 東京宝塚劇場新人公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』の配役変更及び休演者をお知らせいたします。

【配役変更】
カロンヌ夫人役・・・白華れみ→花奈澪
イヴォンヌ役・・・白姫あかり→花蝶しほ
イレーネ役・・・菜那くらら→桜帆ゆかり
ロセロワ役・・・真輝いづみ→水美舞斗

※白華れみ、白姫あかり、菜那くらら、真輝いづみ、美花 梨乃 以上5名は、休演致します。

2009/11/06
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
花野じゅりあ
美花 梨乃
新菜かほ (11月6日13:30公演より休演)

※以上3名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。
※また、休演致しておりました 真輝 いづみは11月6日(金)13:30公演より復帰いたします。

2009/11/07
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
美花 梨乃
新菜かほ 
紗愛せいら(11月7日11:00公演より休演)

※以上3名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。
※また、休演致しておりました 花野じゅりあは11月7日(土)11:00公演より復帰いたします。

2009/11/08
花組 東京宝塚劇場公演 休演者のお知らせ(追)

花組 東京宝塚劇場公演『外伝 ベルサイユのばら -アンドレ編-』 『EXCITER!!』 の休演者をお知らせいたします。

(花組)
新菜かほ 
紗愛せいら

※以上2名は、A型インフルエンザ感染の疑いの為、休演致しております。
なお、復帰時期につきましては、現在のところ未定となっております。
※また、休演致しておりました 美花 梨乃は11月8日(日)11:00公演より復帰いたします。

2009/11/10
花組 東京宝塚劇場公演 休演者の復帰について

花組 東京宝塚劇場公演『外伝ベルサイユのばら-アンドレ編-』『EXCITER!!』を休演させて頂いておりました、新菜かほ、紗愛せいらは、11月10日(火)13時30分公演より復帰いたしますのでお知らせ致します。

 今ごろ『ロシアン・ブルー』の話。や、もっと前に書くはずが、他に書くことが多すぎて後送りにしていたらこうなったという。

 『ロシアの憂鬱』を観ていると、ときどき混乱するのよ、「作者誰だっけ」と。
 もちろん、このがちゃがちゃしたうんちくヲタクっぷりは大野くんでしかありえないけど、キムシン作品を観ている気分になるんだわ。

 ぶっちゃけ、『君を愛してる』と、混同してしまう。

 似てるんだもんよ。
 主人公のキャラクタと、それぞれのキャラ配置、ストーリー、そしてなにより、テーマが。

 むしろ『ロシアン・ブルー』の方が、いつものキムシン節全開だ。

「もう3500年もこうして彷徨っている。見ろ、なにも変わっちゃいない」
「20年経っても 200年経っても 2000年経っても 何も変わりはしなかった!」

 ……そーやって、「群衆」という「顔のない人々の罪」を描き続けるキムシンと、今回の大野くんの描く「群衆」たちが丸かぶりで、混乱してしまう。
 あれ、コレってキムシン作だっけ? と。

 アルバート@水しぇんの祖先たちがロシアを追われた時代も、物語の舞台となっている、わたしたちの現代と陸続きの時代も、なにも変わっていない。
 群衆はいつも「個」ではないということに守られて、自分以外のなにかに責任を転嫁して攻撃する。
 もっとも恐ろしいのは、自らの悪を知りながらそれを押し付ける相手を「誰にしようか」と歌うエジェフ@ハマコではない。
 「責めなければ、自分が責めれるから」と、自分可愛さに他に生贄を求める、「罪なき群衆」たちだ。

 魔女狩りの、恐ろしさだ。
 
 自分が「魔女」だと言われないために、無実の他人を「魔女」に仕立て上げる。
 「魔女」という共通の敵を作り、「正義」の名の下に多勢でひとりをつるし上げる。
 誰かを貶めることで、自分の正しさや安全に酔う。
 名前を持たない、「群衆」「匿名」という安全な位置からしか、攻撃はしない。
 みんながやっているから、自分だけではないから、と個人では責任を負わない。
 悪いのはいつも、自分以外の誰か。

 キムシンが描き続けるテーマを、キムシンの『君愛』と同じようなキャラ配置のコメディで展開するもんだから、観ていて混乱する。あれ、コレってキムシン作だっけ、と(笑)。

 もちろん、キムシンだけが唯一無二のテーマを掲げているわけではなく、彼が主張するものは特別でもなんでもない、ありきたりなものだから、他の作家が同じテーマを掲げて作劇してもなんの不思議もない。
 あくまでも、受け取る側の、「わたし」の問題。

 『ロシアの憂鬱』と『君を愛してる』は、同じ話の別バージョンみたいに思える。
 根っこにあるモノが同じで、同じキャラクタと同じキャストを使って、実験的にふたつの作品を創ってみました、みたいな。
 ふたりの作家の競作、みたいな。

 そうやって比べてみると、ふたりの作家の個性の違いが、すごく面白い。

 「魔女狩り」という辛辣なテーマを「罪のないラヴ・コメディ」に拡散して仕上げているのは同じでも、キムシンはよりファンタスティックに前向きに作ってあるし、大野くんはヲタク知識全開にオシャレに作ってある。

 「魔法」というファンタジーなネタを使っているのは、大野くん。だけど彼は、そーゆー荒唐無稽なものを使って誤魔化しているけど、結局のところシビアで暗い作風だ。
 「魔法」という飛び道具は使っていないけれど、大団円へ持っていく展開ひとつずつがそれと同等の明るい荒唐無稽さを持つのが、キムシン。

 大野くん作品はオシャレで繊細で、他人にツッコミ入れられるのを神経質に拒んでいるかのよーな印象。
 キムシン作品は独特の言語センス(笑)と男性的大らかさを持ち、他人のツッコミ以前に意見もナニも気にしてなさそう。

 前に、『ロシアン・ブルー』は大野くんのヲタク的こだわりが悪い方向に出ていると書いた。
 オシャレにまとめてしまうために、ラストに爽快感がない、悲劇エンドに思えてしまう、と。
 「罪のないコメディ」であるならば、最後はもっとわかりやすくハッピーエンドにするべきだった。たとえそれでオシャレ度が下がってしまっても、アタマ悪い観客におもねることになっても、大衆演劇でエンタメなんだからそこまで譲歩するべきだ。
 と言いつつ、そこにこそこだわって、一歩も譲らないだろう大野くんの作風が好きだ(笑)。
 
 わかりやすいハッピーエンドも書くだろうけれど、ほんとのところ、大野くんの持ち味であり、彼の描きたいモノは、ハッピーエンドではないんだろう。
 表面的にキレイに収まっていても、それだけでは済まない無常感が漂うのが、彼の本領だろう。
 それゆえに『ロシアン・ブルー』……猫を被った『ロシアの憂鬱』は、あーゆー作品になった。
 
 一方キムシンはなー(笑)。
 大野くんが繊細に繊細に、ピンセットでジオラマを組み立てているとしたら、キムシンは巨大な粘土を「うぉおりゃあっ」と台の上でぺったんばったんして、「オレ天才~~♪」と歌いながら素手で本能のまま気分のまま形を作っていくイメージというか。
 作り方、アプローチの仕方はまったくチガウのに、今回はできあがった作品が同じよーなカタチだった、と。

 シルエットは似ているんだけど、よく見ると制作過程や素材がちがうことはわかる。
 粘土で作られた作品は表面になにもないけど、小さなパーツを繊細に組み立てた作品はでこぼこしている。
 でも、ケースに入れられて陳列されていると、よく似たシルエットがいちばんに目について、細部の差はあんましわかんないなあ、みたいな。

 てゆーか粘土作品の方が、よりわかりやすくカタチが作られているような? でこぼこしてないから、なめらかだし?

 『君愛』はわっかりやすい、のーてんきなラヴコメだったねええ。笑って拍手して幕が下りる、はっちゃけたラストシーンだったねええ。

 キムシンは魔女狩りを平気で繰り返す匿名希望の人間たちを、えんえんえんえん作品内で糾弾しているけれど、彼は別に人間キライじゃないんだよね。
 とても図太く明るい、人間讃歌、人生肯定を感じる。
 どれだけ否定的な悲惨な物語を描いても、根っこにある明るさと希望は隠せないというか。
 だからこそ、彼の作品はどこか愚鈍な押しつけがましさがあるというか。

 
 わたしは『君愛』がダイスキで、『ロシアン・ブルー』がダイスキ。
 このふたつの作品が、ほぼ同じキャストで、雪組で水しぇんで上演されたことが、うれしくてならない。

 このふたつの作品をしれっと上演できてしまう、「宝塚歌劇」の奥の深さといい加減さが好き(笑)。
 ムラのいつもの店で、いつものよーにダラダラと、nanaタンと喋っていたわけですよ。
 贔屓のためにびんぼー一直線、贔屓組以外にかけるお金なんてないよねえ、贔屓組以外観るお金ないよねえ。
 とゆー話の流れで。

「あたしなんで、『ZORRO』を4回も観ちゃったんだろう?」

 疑問です。こんだけびんぼーなのに、なんであんな作品を何度も観ちゃったんだろう。ええ、作品としてはどーでもよかったのに。
 首を傾げるわたしに、nanaタンが追い打ちを掛けるのですよ。

「『ベルばら』より、観てるじゃない」

 がーーん……。

 贔屓組の今回の公演、『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』より、贔屓でもなんでもない組の、好きでもない作品をたくさん観ているって……!! わたしがお金持ちならともかく、こんなびんぼーでチケ代にひーひー言ってるのに、なんでそんな分不相応なゼイタクを!!

 いやその、『ベルばら』は3回しか観てないからねええ。同時上演のショー『EXCITER!!』は9回観てますが。

「ほんと、水さん好きなんだねー(笑)」

 花組の次によく観る組が、雪組。水しぇん好きですよ、ええ。水くん目当てですとも。それに『ZORRO』はとなみちゃんラストだったしな。で、トド様も出演していたしな。それで回数観てるんだな。作品はともかく、キャストのために通ったんだな。
 にしてもあんなつまんない作品に……。

 そして、さらに気づく。

「『ロシアン・ブルー』は、5回観た……」

 作品がつまんなくても毎週ムラへ通い、作品が好きだとさらに回数を増やしてしまう。1ヶ月公演なのに5回って、週1以上かよ、しかも新公も別に観ているって、なんでそんなムラ通いしてんのよ、ムラまで片道1時間もかかるのに。
 びんぼーなのに! 贔屓組以外にかけるお金なんてどこにもないのに! 贔屓の出ている『ベルばら』は3回で、贔屓の出ていない『ロシアン・ブルー』を5回ってナニ、そんなのヅカファン的に変!

「ほんと水さん好きだねー。あ、それとも、アタシに会いたかったの?(笑)」

 とほざく、「雪組公演期間は、いつもムラにいます」なゆみこ担は放っておいて、今さらだが『ロシアン・ブルー』の話。

 雪組公演『ロシアン・ブルー』で、わたし的にいちばんの良席は、千秋楽のSSセンターブロック通路側席でした。
 ええ、アメリカ議員さんとその執事が、役職を離れて友人同士としてしっぽり話す、アレが触れそうに目の前な席です。
 友会で当たったんだよ、ハラショー。初日に観て、「あたし、楽のあのあたりの席持ってる~~!」と舞い上がりましたさ。

 あとはびんぼー人らしく、1階の10何列目くらいか、あるいは当日Bでどっちにしろ安く観ていた(物価が低くて助かりました)ので、いつもオペラグラス必須だったのね。
 わたしはとどのつまり水くんスキーで、結局水くんをぼーっと見ていたりする。
 オペラグラスだと、ほんとにその人ひとりとその周辺わずかにしか、見えない。『ロシアン・ブルー』は画面のどこを見てもたのしかったので、あちこち見るのに必死だったし、あずりん中心に見ていた日もあったりしたんだが(笑)、「物語」を見るとなると、やっぱりわたしはアルバート@水しぇんを中心に見ていた。

 それが千秋楽の席だと、オペラグラス不要なわけよ。
 視界が、広いの。
 水しぇん以外も見えるの。

 前方席って、こんなに素晴らしいのか!! と、今さらなことに感動しましたよ。(びんぼーが憎い)

 そして。
 はじめて、気づいたの。

 イリーナ@みなこに。

 今までずっとオペラでアルバートばっか見ていたから、イリーナのことは見ているよーで見ていなかった。ふたりが一緒にいるシーンは、どーしてもアルバートを見てしまうし。
 オペラ無しでふつーにふたりの場面を見てみれば。

 イリーナのいじらしさに、くらくらする。

 アルバートを前にして、イリーナの感情は揺れ動く。
 とくに、「薬」を飲んでしまってから。

 彼女の心の動きが、揺れ方が、リアルで。
 動いて、崩れそうになって、でもなんとか持ちこたえて。強がって。でもふっと崩れて。

 かわいい。
 この子、すっげーかわいい。
 そりゃアルバートも惚れるわ。

 大団円のあとの別れの場面とか、イリーナ見てたら涙が止まらなかった。

 「必ず戻ってくるから」と、アルバートが言うのがわかる。や、そのときその台詞がまだ彼の中になかったとしても、イリーナ見てたらそう言っちゃうって。この子を泣かせないために、言わずにはいられないって。
 「大統領になってでも、戻ってくる」って、言っちゃうよ。

 君のために、奇跡を起こす。……そう、誓うよ。

 だから、泣かないで。

 みなこちゃん、美人さんではまったくないし、苦手な顔立ちなんだけど、やっぱり彼女、巧いわ。
 彼女の芝居が好きだ。
 巻き込まれる。引き込まれる。

 そして、感情移入できる。

 イリーナになって、アルバートに恋が出来る。
 イリーナになって、アルバートに愛されることが出来る。

 千秋楽になって、今までになく感情移入して、ふたりの恋物語にダダ泣きしました。

 もともとアルバート好きだしね。
 「愛の証に大統領になる」と誓う男。
 「愛の証にマリポーサの花を送る」と誓う男も好きだったけど、アルバートも好きよ(笑)。

 彼が戦う相手は、エジェフ@ハマコのようにわかりやすい悪党ではないんだ。
 何故彼の祖先がロシアを追われたか。何故これからイリーナと会うことが、大統領になる必要があるくらい困難なのか。
 何故、灰色の猫はロシアからいなくなったのか。

 アルバートが戦わなければならないものは、そーゆーものなんだ。

 それでも彼は戦うと言うんだ。
 や、もともと戦うつもりで政治家になり、ちょっとくじけていたんだけど、イリーナと出会い、また真正面から戦うことを決意し直すんだ。

 そーゆー男だから、好き。

 また、ちょっとコメディな水しぇんは、生真面目なだけではないおかしみを持っていて、その絶望的な闘いにもゆるさや光を感じさせてくれる。
 彼の握り拳に、夢を見られるんだ。ひょっとしたら、彼の描く未来が来る、のかもしれない、って。

 アルバートが好きで、イリーナが好き。
 このふたりの恋物語に、どきどきする。わくわくする。

 『ロシアン・ブルー』がダイスキ。
 紫苑ゆうリサイタル『True Love』1幕の目玉は、紫苑ゆう演じる、トート@『エリザベート』。

 演出、谷せんせだよね。
 小池(中村B)以外の『エリザベート』、はじめて見た……ことになるのかなあ。

 これがね、すごかった。

 すごいね、面白いの。
 『エリザベート』だけど、『エリザベート』じゃない。

 これは、『トート』だ。

 『エリザベート』っていうタイトルじゃない。『トート』。

 『ガラスの仮面』であったじゃん、亜弓さんが「ジュリエット」をひとり芝居で演じるってやつ。
 「ロミオとジュリエット」ではなくて、「ジュリエット」。ひとりの女性、ジュリエットの一人称で表現される、「ロミオとジュリエット」。

 アレの『エリザベート』版だ。

 主役は、トート。
 トートの、ひとり芝居。
 だからトートの一人称なの、すべて。

 「愛と死の輪舞」で、エリザベートという少女に出会い、恋をする。
 「最後のダンス」での、強引なアプローチ。彼の目線の先に、エリザベートがいる。

 そして、「私だけに」。

 これが、『エリザベート』の1幕最後の場面なの。
 「お前に命許したために、生きる意味を与えてしまった」……トートが銀橋で歌う歌ね。
 相手役のエリザベートは、声だけ出演のせんどーさん。

 『エリザベート』のこの場面は、あくまでもエリザベート主役だ。
 肖像画の白いドレス姿のシシィが毅然と鏡の間に現れ、皇帝と死の帝王をも屈服させるシーン。
 客席に顔を向けているのはエリザベート。
 トートはそんな彼女を銀橋に坐って見つめている。

 それを。

 トートの一人称、トートの目線で、演じて見せた。

 「陛下と共に歩んで参ります、でも私の人生は私のもの」……そう歌うエリザベートを、見つめるトートを。

 銀橋のトートならば顔は見えない。それを、客席に顔を向けて、トートの苦悩をまんま演じて見せた。

「お前しか見えない、愛している……!!」

 その、絶唱。

 
 最初は、たんにヅカ有名曲を歌ってくれるだけだと思っていたの。
 『エリザベート』は定番中の定番だもんねー、ぐらいのキモチで、ふーん、と聴いていた。

 が、途中から、コレただ歌ってるんじゃない、と気づいた。
 エリザベートが、いる。
 舞台の上に。

 ひとり芝居なんだ。
 トート@シメさんの視線の先に、エリザベートがいる。

 そしてここにいるトートは、『エリザベート』という作品の、エリザベートという少女を通して見たトートじゃない。
 主人公が、トートだ。

 そのトートは、熱く、クドく、とんでもなくのたうっていた。

 タカラヅカの舞台で見慣れた「死」、クールなトート閣下では、まったくなかった。

 くどくどギトギトの昭和なシメさんだから、観客を赤面させるのが芸風のシメさんだから、そーゆートンデモトートなのかもしれない。
 でも。

 わたしには、「トートの一人称」だと思えた。
 トートの心、魂を表現したら、こうなんじゃないかって。

 少女と出会い、恋に落ちる。「ただの少女のはずなのに」……その驚愕、とまどい……受容。
 「お前は俺と踊る運命」……狂気と欲望、威嚇、苛立ち。強引な求愛、押し付けるだけのストーム。
 黄泉の帝王である、傲慢な男の姿。人間の少女に過ぎないエリザベートのことは、下に見ている。

 そして、そんなトートが、変わる。

 黄泉の帝王の誘惑をはねのけて、皇帝すら征服して、毅然と「私」を歌うエリザベート。
 その美しすぎる姿を見つめ、トートははじめて、傷つく。
 かなしく、顔を歪める。

 手の届かない輝きをまとったエリザベートに、遠く手を差しのばす。「お前しか見えない」と。

 「あいしている……!」

 しぼりだすような、絶唱の哀しさ。

 
 たった3曲、時間にして十数分?
 それだけで、鳥肌立った。

 あのトートが、狂気と傲慢さを持った黄泉の帝王が、エリザベートの前に、愛の前に屈服した瞬間。
 ぶわっと涙が出た。

 ひとつの、芝居だった。
 物語だった。

 これは『エリザベート』じゃない、『トート』だ。
 トートという、ひとりの男の愛の物語だ。

 ……て、おもしろいよコレ。
 一度ちゃんとやって欲しいよ。『エリザベート』ではなく、『トート』を上演して欲しい、タカラヅカで。
 エリザベートの一人称で描かれているところを全部、トートの一人称に描き直すの。
 トートの心の動きだけを追うの。

 すげーたのしそう。

 『ベルばら』のスピンオフとかやってるヒマがあったら、『エリザベート』の新バージョンやればいいのに。

 
 や、いいもん見ました、シメさんの『トート』。
 「戻れない場所」と、紫苑ゆうは言った。

 シメさんの「タカラヅカ好き」は有名だ。
 「タカラヅカを愛しています」と言って、卒業していった人だ。自分ほど愛している者はいない、生まれ変わってもまた宝塚歌劇団に入る、と宣言した人。

 卒業してなお、変わらぬ姿で劇団の裏方……音楽学校の講師を務め、芸能活動をしていないにもかかわらず、お茶会では1000人からのファンを動員するという、伝説の人。

 そのシメさんが、退団後15年を経て、再びタカラヅカの舞台に立った。
 バウホールで上演された、その紫苑ゆうリサイタル『True Love』千秋楽にて。

 最後のMCで、シメさんは言う。
 15年ぶりだというのに、いい意味でなんの感慨もなく、舞台に立った、と。

 タカラヅカの舞台に立つこと。
 それがシメさんのナチュラルであり、デフォルトであり、まったくもって特別のことじゃない。
 15年ぶりなのに、「当たり前」としか感じられなかったと。

 タカラヅカが好き。男役が好き。
 卒業したけれど、心はずっとタカラヅカに残したまま。
 だってここでしか、生きられない。

 涙ながらに語るシメさんを見て、現実というか、生きることっていうのは残酷だなと思った。
 ほんとうにこの人は、ここでしか生きられないんだろう。また、ここで生きることが相応しい人だ。
 「タカラヅカ」というジャンルもシメさんを必要とし、シメさんも「タカラヅカ」を必要としている。
 世界が求め、個人がそれを欲しているなら、ふつうは大団円だ。需要と供給の美しい調和、才能と生き甲斐の一致。
 どんだけ才能があったって、それを活かす気がないならそれまでだし、どんだけ好きでも才能がなければそれまでだ。
 容姿も含めて、すべての点で、「タカラヅカ」と合致した人だ、紫苑ゆうは。

 辞めたくなかった、ずっとずっとタカラヅカにいたかった。
 それが本音。正直な言葉。

 だけど。

 だけど、シメさんは言うんだ。

「タカラヅカは、永久にいられるところじゃない」

 卒業しなければならない。だってそれが、「タカラヅカ」。シメさんが命懸けで愛した世界。

 そこでしか生きられない人が、そこから旅立たなければならない。自分の意志で。
 そこを愛しているからこそ。

 そこは、有限の楽園。いつかは失う。
 「タカラヅカ」を愛している。だからこそ、「タカラヅカ」を去る。それが「タカラヅカ」だから。

 なんという矛盾。
 そこでしか生きられないのに。そこにはもう、いられない。「タカラヅカ」を愛し、「タカラヅカ」でしか生きられないなら、「タカラヅカ」を守るために続けていくために、「タカラヅカ」と別れなければならない。

 「わたしのすべて」と、そう言い切れるほどのモノを自ら封印して、この人は15年生きてきたんだなと。

 そして今、封印を解いて、舞台に立ち。
 15年前とまったく変わらずに舞台を務め、ここが自分の真の居場所だと再確認する。
 実際、現役ジェンヌと遜色ないスターっぷり、男役っぷりで。

 これなら、いつでも戻れるじゃん?
 いつでも男役やれるじゃん。
 OGでヅカの延長みたいな仕事してる人、いっぱいいるし。舞台もいっぱいあるし。

 ふつーに出来るじゃん。
 ……と、シメさん自身も思ったんだろう。
 そーゆーことを口に出して言い、観客も思わず拍手をした。

 シメさん芸能活動開始宣言?! と。

 公演時間わずか1時間半でチケット代8000円の単独リサイタルを、5日間8公演×500席、発売開始から3分で完売させたスターだ。
 芸能活動をはじめても、不思議じゃない。

 そーゆーことなのかと思った。
 このコンサートは、これからはじまる芸能活動の前振り、宣伝の意味もあるのかと。
 うん、一瞬。
 わきあがった拍手は、同じことを考えた人たちのものだろう。

 だけど。

 拍手を、シメさんはあわてて打ち消した。

「でも、やることは絶対ないですけどね」

 しん、と、途中で不自然に切れる拍手。
 盛り上がりかけた客席が、また緊張感に満ちる。シメさんの言葉を、こころを、聞き漏らさないようにと。
 
「『タカラヅカ』は、戻れない場所なんです」

 どれだけ愛しても。
 そこに相応しい才能と実力があっても。
 そこでしか生きられないとまで思っても。

 そこに永遠にいることはできないし、また、二度と戻れない。

 それが、「タカラヅカ」。

「戻れない場所って、すごいですね(笑)」

 シメさんは泣き笑いのように言う。
 ファンもダダ泣き状態だし。

 永遠じゃない、二度と戻れない……そんな世界だとわかっていて愛し、それゆえに苦しむ。
 それでも、愛することをやめられない。

 なんて残酷なんだろう。
 現実って。生きることって。

 そして、なんて、愛しいんだろう。

 シメさんは言う。

「『タカラヅカ』を、愛して下さい」

 永遠じゃなく、そして、二度と戻れない場所。
 ジェンヌたちはそんなところにいる。わたしたちは、そんなところを、そしてそこで刹那の輝きに生きるジェンヌたちを愛している。

 二度と戻れない場所。
 人生の間の、わずかな時間しかいられない場所。
 だから、愛して。大切にして。誇りを持って。

 「『タカラヅカ』を、愛して下さい」……どれほどの想いをもって、シメさんがこの言葉を口にしているか。

 すべてのジェンヌに。ジェンヌを目指す人に。ジェンヌだった人に。
 すべてのタカラヅカファンに。

 
 ヅカファンになって、21年。
 わたしが20年前の小娘でないように、どんだけ祈っても懇願しても時は戻らないように、ジェンヌの時間も止まらない。「タカラヅカ」の時間も止まらない。

 いつか別れがやってくる世界。
 いつか終わりがやってくる世界。

 だからこそ、愛して。
 今、このときを。

 「戻れない場所」と、紫苑ゆうは言った。

 だからこそ、この人は「タカラヅカ」だ。哀しいほど、「タカラヅカ」だ。

 わたしがシメさんのファンであるかどうかではなく、そんな次元をまるっと超えて、わたしが愛するモノを、カタチにしたら、紫苑ゆうになる。

 泣いた。

 
 その同じ日の夜。
 友人からの、しいちゃんトークショーの報告を読んだ。退団後の立樹遥さんが、はじめてファンの前に姿を見せた、わけだ。
 トークショー開始前の会場写真とか、レポしてくれていて、シメさんリサイタルに行く前にどきどきと眺めていたんだよ。

 今後舞台に立つ予定はない、宝塚の男役が好きだったので、女の人として普通の芝居をすることは考えていない……そう言ったと、教えてもらった。

 テレビの前に飾ってある今年の卓上カレンダーでは、しいちゃんが変わらぬ笑顔を見せていた。(で、そこではじめて「あ、月変わったのに、めくるの忘れてた」と気づいた)

 「『タカラヅカ』は、戻れない場所なんです」

 その言葉の重みを、噛みしめる。

 ああもお、なんて愛しいんだろう。
 なにもかも。
 泣けて仕方がない。
 わたしは、「タカラヅカ」を観た。

 2009年11月3日午後4時、宝塚バウホール。紫苑ゆうリサイタル『True Love』千秋楽。

 東宝花組の大量休演者発表を見て驚愕、彼らのがんばりに心馳せつつも一路聖地宝塚へ。

 「紫苑ゆう」の現役時代は知っているし、好きだったけれど、ほんとうのところそれほどよく見ていたわけじゃない。
 当時のわたしは今のようなヅカヲタではなかったし、贔屓組以外は大劇場を1回観劇するのが手一杯だった。会活動もしていないからなんの情報もないし、スカステもインターネットも存在しない。自分で劇場に行って舞台を観る、それしかなかったから、馴染みのない組とスターさんには疎いままだった。
 それでもシメさんは好きなスターさんのひとりで、シメさん目当てに星組を観ていた。

 でも残念ながら、シメさんのトップ時代の作品と役はわたしの好みではなく、2番手時代にあんなにきゃーきゃー言っていたのに、いざトップになってから熱が引いた感はあった。
 ネッシーさん時代の方が、よく星組とシメさんを観ていた気がする。シメさん時代になってから、2番手さんが苦手なこともあり足は遠のいていた。
 感覚的に「遠く」なってから、シメさんの退団。バウ公演に行きたくて、友だちと指をくわえていたなあ。んなもん、チケット取れるわけないって。

 だからシメさん退団から15年経った今、リサイタルに行ったところで「この歌は**公演の**場面だわ、この台詞は**の**だわ、この振りは**の再現だわ」とか、一切わからない。
 20年近く前に1回見ただけの公演、おぼえてねぇよ。

 『True Love』は「タカラヅカ男役・紫苑ゆう」をわたしたちにもう一度見せてくれる催しであり、現役アーティストの新作コンサートではない。
 だから歌うのはあくまでもタカラヅカの曲。紫苑ゆう自身と、そのファンのためだけに作られたイベント。演出は谷正純。

 ……いやあ、すごかったよ。

 1幕は芝居仕立てではじまる。
 戦争で滅びてしまった国に舞い戻った中世衣装の青年@シメさんが、墓地の十字架の前で過ぎ去った日々に思いを馳せているところへ、墓掘り@未央一氏がやってくる。時代柄、墓は荒らされ、めぼしい金銀は盗まれるのが常。ここにある墓にもナニも残っていないと言う墓掘りに、青年は宝はあると言う。
 ここは、宝の埋まった塚だと。
 宝とは愛だと、青年は言う。

 青年の言葉を受けて、墓掘りは宝の塚に埋まった愛や夢をひとつずつ掘り返していく。

 この演出のベタさ加減がもお、いかにも「タカラヅカ」で。
 で、墓掘りがシャベルで掘り返した「お宝」ってのが、シメさんの在りし日の映像のことで。スクリーンに映る20年前の映像をぼーっと眺めて。
 そのあとで現在のシメさんが歌い踊って。

 最初の十字架だらけの暗い舞台は、とくにナニも思わなかったんだが、青年が「愛だ!」つって墓掘りがひれ伏して、照明と音楽がばばーんと変わってオープニング1曲行きます!てときに、十字架がぴかぴか電飾で輝きだしたの見たときにゃ、眩暈がした(笑)。
 電飾て! ほんとに豆電球が1列に十字架に並び、黄色く点灯するんだよ。

 ダサッ!!(笑)

 バックにも電飾がきらめき、ものすげー昭和な世界が展開された!!

 もう少し美しい、洗練された演出はできなかったのかとクラクラしつつ(笑)、コレこそが「タカラヅカ」だと納得する。

 暗闇に安っぽい豆電球の十字架が何本も浮かび上がる、昭和の遊園地のお化け屋敷風味の演出、きらきらさせりゃーそれでいいのかという背景の電飾群、タイトルをまんま書いた巨大な吊りモノ、「愛」の連呼……。
 ああ、「タカラヅカ」だ、泣けるほど「タカラヅカ」だ。良くも悪くも、ものすげー「タカラヅカ」だ。

 終始このノリで、墓掘りがカーテン前でMCがてら場面をつないでいく。
 主役のシメさんが芝居仕立てだったのは冒頭のみで、あとはふつーに歌い踊る。2幕も墓掘りは出てくるけれど、それ以外の場面がさらにふつーにコンサートっぽくなっている。
 声だけ出演の相手役はせんどーさん。すげーハイソプラノを朗々と聴かせてくれてます。

 お笑い一直線のMC、シメさんと未央さんのコント(どつき漫才)も含め、オシャレとは言い難い、なんとも土臭いリサイタル。

 それらが、最高に、ステキだ。

 このあか抜けない、かわりにあたたかい距離感のあるセンスが、舞台が、とても愛しい。

 シメさんは期待した通りの、現役と言っても遜色も違和感もない、美男っぷり。

 着こなしも立ち姿も声も歌も、ふつーにタカラヅカで、ふつーに男役だ。
 辞めて15年、舞台に立っていないなんて考えられない。
 今もふつーに、大劇場でジェンヌをやっていそうだ。

 これで**歳? あああありえねー。
 マジ、フェアリーでしょこの人。

 共演の未央さんがまた、芸達者で。
 この人、現役時代をまったく存じ上げていないのだが、うまい人だわほんと。
 今も現役の役者さんなんだよねえ?
 「男役」として墓掘り役で歌い、芝居をし、またMCでふつーに年相応の女性としてシメさんとどつき漫才(シメさんがツッコミ)をするので、芸のたしかさがよりわかる。
 男役になると、なにもかも変わるもの。声も姿勢も。

 この人も、今ヅカの舞台にいても、なんの疑問もない。つか、いてくれ。

 
 1幕の『エリザベート』で泣き、2幕の漫才で笑い泣きし、さらに黒燕尾姿に、だーだー泣いた。

 ああもお、なんて「タカラヅカ」なんだ。
 この人はどこまで「タカラヅカ」なんだ。

 紫苑ゆう、のことは、あまり知らない。
 知っているし、好きだったけれど、わたしごときが「好き」とか「知っている」と言ってはいけないだろう。
 それくらい、客席の濃度は濃かった。
 わたしごときじゃ、「あまり知らない」レベルだ。

 だけど、わかる。
 この人は、「タカラヅカ」だ。

 わたしが愛するモノを、カタチにしたら、紫苑ゆうになる。

 それを、思い知った。
 れおんくんは今まさに、上昇気流に乗っているのだなと思った。

 星組全ツ『ソウル・オブ・シバ!!』
 ダンサーを夢見る若者役のれおんくんは、目を惹くまぶしい輝きがある。

 今まで彼の持つ「若さ」は「拙さ」でもあった。若いから足りていない、まあこれからだよな、と俯瞰して、今はワタさんとかトウコちゃんとかすでに「出来上がった」魅力のスターを楽しんできた。
 それが今、彼の「若さ」は「現在形の期待」になっている。

 今、若い。
 そして、今、なにかがはじまりそうで、わくわくして目が離せない。

 無冠の若者がサクセスしていくこの『ソウル・オブ・シバ!!』は、れおんくんの今の魅力を発揮するのに相応しい演目だった。

 いやあ、たのしい。
 もおたのしくてたのしくて、たまらない。
 『ソウル・オブ・シバ!!』、やっぱいいよなあ、好きだなあ(笑)。

 そしてあちこち、なつかしかった。
 初演は通ったし、再演は全ツだから回数は見られなかったけれど、しいちゃん2番手に大喜びしていたなあ。

 
 れおんくんは順調にトップ街道を歩いているというか、もともと王者として生まれ育った人だからブレることなくトップやっているとわたしの目には映る……が。
 こちらもいずれトップになるために大切に育てられてきた人、かなめくん。れおんくんほどの抜擢に次ぐ抜擢の特別コースは歩んでいないものの、十分路線ど真ん中な人なのに。

 かなめくんの、儚さはいったい……(笑)。

 2番手役であるプロデューサー役は、できなかった。
 なので番外のシバ神役となった。
 シバ神はドラマで言うと「キャスト名(特別出演)」と( )付きで表記されるような役。重要で目立つオイシイ役だけど、主役ではない。
 ( )付きで特別出演しちゃうよーな俳優は、そこにいるだけで存在感があり、「えっ、この役者がやってるからには、この役すげー重要よね?」と思わせてしまう。

 ところがかなめくんには、ソレがない。
 まだ彼は(特別出演)には足りていない。
 どれだけ金ぴかの派手な衣装を着ていても、物語世界を超えた位置にいる「神」には見えないんだ。
 『ソロモンの指輪』の天使あたり? 主役の後ろで花を添える役目止まり。

 少ない出番でどーんと印象づけることができない、空気を変えることが出来ないもんで、なんかなさけない出番を増やされてた。
 主人公のお着替えを手伝いに現れるシバ神って……。

 シバ神、安っ。

 神様なのに、タイトルロールなのに、その扱いの安さにウケました(笑)。
 大変やな、いろいろと……。
 や、きれいだよ? もちろん、ものごっつー、美しいさ。

 がんばれかなめくん。それでも雪組にいたときより、確実に大きくなっているのだから。
 今はこんな安い扱いがやっとでも、いつかはきっと登場するだけで劇場の空気を変えられるスターになるよね。

 
 で、シバ神の出番を安直に増やしたからって、プロデューサーが2番手役、準主役なのは変えようがない。
 フジイくんってほんと、骨組みからリメイクすることできないんだね。表面をいじるだけで精一杯。

 とゆーことで。

 あかしが、2番手。

 いやその、今までも新公主演していない別格スターが2番手役で全ツを回ることはあった。ケロとかちー坊とか。
 でもソレは、他に若い路線スターしか出演していなかったためだ。

 路線スターに力がなくて、男役芝居ができなかったり1場面センターを任せられなかったり。事情があって、とりあえずベテランの別格スターが2番手役を担うことはある。
 だけど今回、組の正式2番手が出演しているのに。
 なのに、あかしが2番手って(笑)。

 この現実に大ウケしました。すげーすげーすげー。

 フジイくんが、ちゃんと出演者に合わせて書き直せる人なら、こんなことにはならなかったんだけどねえ。
 表面だけのお茶濁しだから。

 でもおかげで、まさかのあかし2番手姿を拝めました。
 ブラボー!!

 プロデューサー、胡散臭い。違和感なし!!(笑)

 だけど歌は、ひどい(笑)。

 もともとあかしくんは歌は苦手。それはわかってる。
 でも最近はけっこーマシになってき……てないっ、ぜんぜんなってないじゃん、ヲイ。
 単にあんまし歌ってないからボロが出なかったってこと? 最後の新公とか、思ったより歌えてたはずなのに。

 いやあ、あかしダイスキだけど、色男だと思っているけど、それにしたって「ジェラシー」は椅子から転げ落ちるかと思った。
 つか、わたしは勝手に、歌わないと思い込んでた。あの歌は初演のトウコだから歌えたのであって、再演のしいちゃんでもかなり苦しかった。なのに、歌がアレだとわかっているあかしに、あの難曲を歌わせるなんて、アテ書きのフジイくんがするわけないわと思っていて……歌ったから、驚いた。

 歌わせるのかよっ?! なんでっ? 他に表現方法いくらでもあるじゃん!!

 …………チャレンジャーだなあ。

 まあ、タニちゃん無き今、椅子から転げ落ちる歌を歌うスターはあまりいなくなった。
 なつかしい経験、かもしれない。

 タニちゃんの歌で椅子から転げ落ちるのも楽しみのひとつだったので(そのタニちゃんも後年は転げ落ちるほどでもなくなっていたから)、あかしのものすげーヘタっぷりもまた、なんだか楽しかった。

 おもしろいから、いいよ(笑)。

 
 ねねちゃんは……大女優には見え……ゲフンゲフン。
 アイドルの女の子なら、アリだと思うが。
 そう思うと、トップお披露目で同じ役をやったとなみちゃんの姫っぷりはすごかったんだなあ、と。
 ねねちゃんは姫より、お嬢ちゃんの方が似合っている、今のところ。

 美しいし、スタイルも良くてステキなんだけど……大女優(つまり、それなりのキャリアのある大人)とか、シバの女王とかは、なんかチガウ気が……。

 ねねちゃんの弱さもまた、この再々演のパワーバランスを崩す要因のひとつではある(笑)。

 神と人間と、世界はくっきり分けられていたのに……神様が存在感をなくしてしまい、人間界の物語のみが進行している感じ。

  
 んで、なんかやたら目に付くしーらん。野心がきらきらきらきらしてて、可愛くて仕方ない。
 クラブでプロデューサー@あかしに売り込みかけてるよね? ね?

 それと、これまたなんかうれしそうで楽しそうな、水輝涼。
 なんか久しぶりに、ちゃんと歌っている彼を見た。……や、歌「声」だけなら、『ア ビヤント』の陰ソロとかあったけど、舞台でノリノリで歌う姿を見るのはいつぶりやら。
 相変わらず厚みのある歌声と、姿(笑)だ。
 
 どいちゃんはあいかわらずのかわいさと美しさだし、すっかりおねーさんになったコトコトも、すでにおねーさんやマダムすら通り過ぎたももさりも目も奪うが。

 なかなかどーしてショックだったのは、タコ足ドレス姿の組長だったりする……だってエトワールまでするし……。
 他の誰かぢゃあかんかったんか、エト……(笑)。
 『ソウル・オブ・シバ!!』は良いショーだと思う。派手でキャッチーで、観客が取っつきやすい。何度も再演されるのはわかる。
 だが。

 初演のアテ書きの壁は越えられないんだなと、痛感。

 コレは出演者のことを言っているわけじゃない。作者・フジイくんのことだ。

 初演はトド様降臨公演だった。そのため、通常の「タカラヅカ」の力関係・構成で作ったショーではなかった。
 トップコンビがいて、2番手男役がいる、番手や学年できれいにピラミッド状態になった、「タカラヅカ」のお約束。
 初演はそのピラミッドとは別に、もうひとり「主演男役」がいるというイレギュラー公演。
 「主演男役」様であり、トップ・オブ・トップのトド様を無碍な扱いにしてはならず、かといって単純にトップスターをトドにして組トップのワタさんを2番手に降格して作ればいいってもんじゃない。それを簡単にやってしまう植爺とかイシダとかより、フジイくんは世間が見えているんだろう。

 とゆー難しい状況から作り上げられた初演『シバ魂』。
 トップスター・ワタさんと相手役の檀ちゃん、2番手トウコ、そして組子たちのピラミッドはそのままにして、イレギュラーなトドをその「外側」に置いた。
 ワタさんたち人間たちの物語とは無関係に存在する、「神様」として。

 ダンサーを夢見る主人公、彼が憧れる大女優、主人公をショービジネス界へ引っ張り上げるプロデューサー。プロデューサーは大女優に片想い、そして主人公は順調にサクセスし、やがて大女優と愛し合う……。
 トップコンビと2番手男役の役は見事に三角関係。
 彼らの物語とは別次元に存在する、シバ神。

 これは、うまい設定だった。
 今までのどの作家より、トドをうまく使っていた。フジイくんGJ!

 ……そして、次に『シバ魂』は全ツで再演される。
 今度は組子だけだ、トド様はいない。組子とは別の、神様ポジションが空いてしまった、どうしよう?
 新たにトップ娘役となったとなみちゃんのお披露目も兼ねて、トドの演じた「シバ神」を「シバの女神」に変更し、それをトップ娘役に演じさせるという。
 もともとトップ娘役が演じていたヒロインの大女優役もそのままなので、主人公が憧れる女優と導く神を同一人物が演じるなんて「深い」設定になった……と思ったら。

 ヒロインと、「トップ以上の立場の役」をトップ娘役が演じてしまうと、いろいろいろいろ障りがあるんだろうな。それじゃトップスター以上の扱いになってしまうし?
 どんな事情があるのか知らないが、いなくなったトドの役割をそのままとなみちゃんにスライドするのではなく、部分的にやらせただけで、あとは別の人たちに分担し、お茶を濁した。

 それゆえに、「物語」は壊れた。

 ……もともとフジイくんなので、起承転結の起承転、まで書いて広げて盛り上げて、でも決着をつけることは出来ずなしくずしにめちゃくちゃになって終わっていた物語だ。
 まっさらの状態からパワーバランスに沿って作られたときですら壊れていたのに、それを別のバランスで書き直せと言われて、出来るわけがない。
 初演以上にめちゃくちゃになって終了。……それが再演『ソウル・オブ・シバ!!』。

 でもって今回、再々演の『ソウル・オブ・シバ!!』。
 再演段階で相当ヤバい感じに壊れていたのに、まだ上が来た!(笑)

 繰り返すが、再演で壊れたのは「キャストのパワーバランスが変わったため」だ。タカラヅカにはお約束がいっぱい、「いちばん目立つ、いちばん重要な役はトップスターしかやっちゃダメ」「その次が2番手男役とトップ娘役」と、役割の順番が決まっている。
 「トップと同じくらい、トップとはちがうけどオイシイ」トド様の役を、トド様以外が演じることはタブーだった。タカラヅカ的に。だからトドがいなくなると、この役を全部そのまま誰かが演じることも、他の役と兼任することも、できなかった。
 それゆえに壊れたのに。

 再々演でさらに、「2番手男役」まで封じられた!!

 トド-トップスター-トップ娘役-2番手男役……と、重要な役割からふたつも消されて、作品が無事であるはずがない。物語を回すキャラの半分を禁じられたら、物語自体立ち行かなくなる。

 今回のれおくん全ツ『ソウル・オブ・シバ!!』で、何故2番手が禁じられたのかはわからない。
 足を骨折したかなめくんに、プロデューサー役でタップを踏ませるわけにいかなかったのかもしれない。

 トドがいない、だけで通常の「トップコンビと2番手男役」のいるふつーのタカラヅカ布陣だ、ふつーに再演のときと同じようにすればいい。それなら壊れ具合は再演時の程度で済む。
 なのに何故か今回は、2番手男役まで封じられ、さらにパワーバランスがものすごいことになった。

 物語的にプロデューサー役はどう考えたって単独2番手、準主役。
 なのにその役を2番手に演じさせないで、2番手は他の役割で2番手っぽく見せようと取り繕うから、もおぐたぐた。手が付けられない(笑)。

 
 わたし、フジイくんはキャストに合わせて柔軟に自作をアレンジする作家だと思ってきたのね。
 再演されるたびに、ちゃんと微調整されているから、そのへん安心していたの。

 だけど、ちがったんだよね。
 役名を生徒に合わせていじる程度で、作品自体はなんも変えられない人だったんだ。
 根本的な構造自体をいじり、別物へ作り直すことは出来ない人だった。
 そもそも起承転結をきちんと書けない、広げた風呂敷をたたむ能力ないもんなー、フジイくん。

 住む人に合わせて部屋の壁紙の色を変えたり家具を別のモノに置き換えたりは出来ても、リフォームは出来ないよな、設計自体出来ない人には。

 『Apasionado!!』と『ソウル・オブ・シバ!!』と、キャストのパワーバランスが変わるなりめちゃくちゃになっている再演を続け様に見て、目からウロコです気分的に。
 そーだよなー、フジイくんだもんなー、そりゃそーだ、ストーリー収束する構成力のない作家に、ナニを求めてるんだ、できっこないじゃん最初から。ははは。

 「再演でも、フジイくんならステキなアレンジをしてくれるに違いない」って何年も思い込んでいたけれど、ほんと、部屋のカーテンを変える程度のことしかしてくれないマンション管理者だったのよ。
 住む人に合わせてリフォームからやってくれるのは、オギーくらいのもんだった。

 
 とまあ、さんざん好き勝手言ってますが。

 壊れていたって、『ソウル・オブ・シバ!!』は良い作品ですよ?

 「物語」としてはぶっ壊れてるんだけどねー、辻褄合わないことだらけなんだけどねー(笑)、それはもおいいのよ、芝居だったら許容範囲を超えてるけどコレ芝居じゃないから、ショーだから!

 ショー作家のフジイくんは良い作家だし、ショー『ソウル・オブ・シバ!!』は楽しい作品だ。
 これは事実。

 つーことで、楽しみました、再々演『シバ魂!』。

 ……てな話はまた翌日欄へ続く。
 新人公演『ラスト プレイ』感想つれづれ。

 当日にもりえくんがまさかの休演、本公演から代役として舞台に立ったローレンス@鳳月杏くんは、安定したおっさんぶりでした。
 よくがんばったねええ、と、彼の代役本公演を見たわけでもナイのに、新公で彼を見てエールを送っちゃったよ。(単純人間)

 前回の新公でも、ふつーに大人に見えたよなあ、と、今回も「少年が無理して演じてます」な感じはしなかった。周囲がみんな若いから違和感なく彼は大人に見える。
 でも、前回よりラインが丸くなっているなーな気がしたが……衣装や髪型のせいだろうか。

 
 でもって、その悪役チームのベレッタ@瑞羽くん。
 いやあ……愉快なことに(笑)。

 瑞羽くんが喋ってるのはじめて見た……って、新公のたびに言っている気もするが、印象的にはそんな感じなんだもん。
 役が役なので、うまいのかヘタなのかわからん(笑)。
 本役さんよりも、さらに「わかりやすく」変な人に仕上げてきた印象。特徴的な美貌でアレをやると愉快さに拍車が掛かる。

 美貌一発勝負で「変な人」としてキャラを売るのは、顔をおぼえてもらうには、良い役だったのではないかと。
 本役さんもそうだけど、一言喋るたびに笑ってもらって良かったね。
 
 
 瑞羽くんといえば海桐くん……て、わたしにとって並列すべき人ってだけなんだが、その海桐くんは、ピアノ屋さんやってました。
 目がきらきらというか、ピアノ屋さんでコメディな役割の人なのにぎらぎらというかしていて、アンバランスで目を引いた(笑)。
 相棒のピアノ屋@沢希くんは素直にコメディを演じ、笑いを取っていましたな。表情好きだわ。

 
 クリストファー@煌月くんはガタイいいなあ。肉厚なカラダは生身の男としてはアリかもしんないけど、タカラヅカとしてはぶ厚すぎる気がする。顔立ちはきれいなのに、まんまるなフェイスに埋まっちゃってるし……痩せてくれたらかっこいいだろうにあ。
 歌は歌えている方なのかな。前回の新公の方が、芝居の中でじっくり歌えたからかうまい気がする。今回のショーシーンのセンターは、大変な分、実りも多かったろう。

 アメフトやってました、みたいなぶ厚いクリスはイケメン度が下がっている分、自然に裏稼業っぽいかな。そのくせ小物感があるのは、やっぱり幼さが出てしまっているからかな。
 ムーア@珠城くんがおっさんだからか、クリスの「弟分」的な部分がより表に出ていたような。

 長身のムーア、横に大きなクリス、痩身のグラハム……って、本公演と逆の体型ばかりよくぞ揃えたなと(笑)。

 
 看護師@りおんちゃんは、なんかすごくきつかったような。
 優秀でクールな看護師なのはわかるけど、それならもう少し顔立ちを華やかにしてみるとかできつさをやわらげ……るわけにはいかないのかな、あのお化粧が演出家指示かもしれないし。
 あんだけ淡々と仕事して、そこにキャラを加えるのは難しいよな。

 悪者チーム紅一点@ちゅーちゃんはたしかにキレイなんだけど、うまい子だとわかっているので安心感もすごーくあるんだけど、なんでだろ、あんまし目立たなかった。
 ほたるちゃんは「ナニあの美女!」とやたら目を惹いたんだが。さほど台詞や動きがあるわけじゃないから、まずは一発見た目勝負なんだ、この役……。

 ポーリーン@琴音さんは、ちょっと大人っぽく見えて、言っている台詞とのギャップが不思議に思えた。ある程度大人の女の子が言うと、計算高さが感じられるんだなと。まあソレはそれでアリかもしんない。

 
 それにしても、役のない公演だ……。
 大半の人たちが「街の男」とか「街の女」。
 医者その2@千海くんとか、役としての出番あれだけじゃなんとも分が悪いというか。この子の芸風としての鼻息の荒さはいい感じなんだが、今回は抑えた役だからつまんないなー(笑)。
 院長先生@美翔くんは相変わらずステキなおっさんぶりで、いい仕事していると感心しきり。こーゆー美形カテゴリのおっさんはいいよなー。

 研1とか、モブですらろくに仕事ナイなー。
 愛希くん、輝月くんもちょろりとしかわからず。初舞台の新人公演、正塚芝居『薔薇に降る雨』の方が長々と踊る場面があったので、見つけやすかった。しかし2回連続役と出番のない正塚芝居って、大変だな月組研1生(笑)。あと、研1では麗奈くんがやたら目に付いた。目立つ顔だな、やっぱ。

 出演者の半分くらいの人が、舞台半ばで出番終了してんじゃね? 「街の男」とかモブの出番が7場でほぼ終了だから。あと場面8つは役名ついてる人しか出番ナシだし、役名あってもろくに台詞も出番もないし。
 正塚作品は大変だなあ……。

 わたしのように下級生ぜんぜんわかんない門外漢からすると、引っかかりがなくて残念だわ。
 印象的な役があると「あの役の子は誰かしら」とまず役から入るからなー。

 でも今回はなんといっても珠城くん!という、大型(笑)新人スターを痛烈に認識できたので実りはありまくりでしたが。
 これからたのしみだなー。

 ケロメイトでまっつメイトの木ノ実さんと「『スカピン』新公がたのしみっ」と盛り上がりましたよ。
 ぼやぼやしていたら、月組公演自体が終わってしまう……。今ごろ、月組新人公演『ラスト プレイ』の感想、続きです。

 
 ヒロイン?ポジションのエスメラルダ@蘭はなちゃん。

 …………エスメラルダの服って、トンデモなかったんだ……!

 や、本役のあいちゃんだと、気にならなかった。つか、気にしてなかった。いかにも高そうな女が着そうな服だな、としか。センスがいいかどうかより、記号として裏社会の美女が着そうな服と。

 それが、新公を見て、服の悪趣味さに、びびった。

 なにあのひどい服! ムーア@珠城くん、女の趣味悪っ。

 蘭はなちゃん自身はとても若く顔立ち自体は幼いんだけど、服装が大人っぽいもので、着こなせないとすごく「カンチガイしたおばさん」風味になるんだと、思い知った。
 演技以前に、着こなし、身のこなしの話。そして、視覚として最初に「うわ、イケてない格好の女」というのが飛び込んでくると、演技以前に「安い女」というイメージに支配されてしまう……わたしは。

 本公演では、夢にも思わなかったよ。こんなにひどい服装だったのか、エスメラルダ。
 というか、アテ書きだからだよな。「あいちゃんなら美しく着こなせる」という前提であの服なんだろう。
 蘭ちゃんがどうこうではなく、「娘役・城咲あい」は達人の域なんだと再確認。

 値段だけは高そうな悪趣味な服を好んで着る女と、そんな女を恋人にしている男。
 男が浮気をしたらしく、女は怒って出て行ってしまった。男の友人が仲裁に入るが、女はひとりできーきーヒステリー。

 ……というストーリーの流れが、ものすごーく説得力あります、新人公演。
 本公演では、そのへんの流れが実感できず、「あのいい女が別れるとか騒ぎ出すって、ナニがあったの?」「あの真っ直ぐな男が浮気ってそんなバカな?!」と首をひねっていたんだがな。
 この安っぽいおばさんと、ふつーにおっさんなふたりなら、ふつーにあり得そうだ……。

 思わぬところで説得力、これでいいのかマサツカ?!

 蘭ちゃんは本公演のポーリーンはすごくキュートだし、ショーでもかわいいから、等身大のかわいこちゃんは十分こなせるんだと思う。
 これからの課題は、セクシー系衣装の着こなしや大人の女の所作を勉強だなー。や、若手路線娘役は、かわいこちゃんさえできればソレでいいのかもしんないけどさ。本公演ではこんな役はまず回ってこないだろうし。

 でも、記憶を失ったアリステア少年@みりおを、ふたりで支えていこうとムーアとエスメラルダが決心するところ、マジで泣けたんですが。
 もー、このふつーのおっさんとおばさんに感情移入しまくりだよー。うんうん、そうだよねえ。男と女って、子どもでもないままごとでもない、ともに生きる男と女って、こーやって人生荒波乗り越えていくんだよねえ。

 誘拐事件のあと、救出されたエスメラルダがでかいムーアに全身で抱きついているのを見て、また泣けた。
 よかったね。おじさん、すげーがんばったんだよ、奥さん助けるために!!
 小僧っこが若気の至りで暴走して大騒ぎして、こわいもの知らずのはねっかえり小娘を助けるんじゃなくて、分別も足枷もある大人の男女がダイナマイト持ち出すまでの騒ぎをやるから、泣けるんだ。

 ……新公なのに(笑)。
 本公演より、不思議な説得力と、感情移入度。なにこの渋い『人間交差点』な感覚。(通じるよね、『人間交差点』。渋く地味な大人の人間模様を描いたコミック。たしかドラマ化もされてたぞ)
 王子様とお姫様ではない、リアルな感じがたまらん。
 

 もうひとりのヒロイン、ヘレナ@愛風ゆめちゃん。
 こちらも研2の抜擢。マサツカ芝居を懸命にこなしていた。ちょっと固い気はするけど、ヘレナってもともとそんな役だしなあ。

 ときどき花組の仙名さんに見えた。
 ……で、そーいや文化祭のダンス場面で、「あ、仙名さんだ……ん、仙名さんより可憐だわ、誰だろう」と思うとそのたび愛風さんだったことを思い出した。
 やっぱ似てるのか? わたしの目がそうなっているのか?

 仙名さんは入団してからどんどん可憐になってきているから、余計愛風さんとまざっちゃうのかなー。や、ふたりが別の組でよかった(笑)。

 研2の珠城くんも愛風ゆめちゃんも、文化祭に続いてマサツカ芝居なんだね。その点はまだ経験値があるだけ良いのかな。
 正塚せんせのあの独特の台詞回しは、ヅカ的大芝居が染みついた人には難しいみたいだし。(ex.やたらクドい演技になりがちだった某星組『愛短』・笑)

 ヘレナはなんだか、とても寂しそうな女の子に見えた。しょぼんとした背中が印象に残る。
 アリステアが少年だし、ヘレナもまた、恵まれない生い立ちのけなげな少女。
 もっと笑顔の多い役で、ゆめちゃんを見てみたいなー。

 
 エスメラルダもヘレナも、正塚の「ヒロイン衣装」を着ていないので、どっちもヒロインではないんだろうな、とエスメラルダの衣装に着目したために今さら考えたよ、新人公演。
 あのピンクのワンピースなー。もしくは、単色のシンプルな肩出しドレス。あ、大劇場ではもっと華美な衣装に意識的に変更されてたっけ? ……まあいいや。

 
 前回の新公でルキーニ、今回はまさかのマヤさんの役だった宇月くん。
 なにしろ役のない正塚芝居、主要数名をのぞいていちばんイイ役はマヤさんの役に決まっているから、専科さんの役だからと残念がることはない。
 実際オイシイ役なんだけど。

 ……新公は、いくつの設定?

 見た目はふつーにナイスガイ。
 ムーアの仲間。つか、ムーアがおっさんなので、見た目だけならムーアより若い。立ち姿も声も青年。
 なのに一人称「儂」、「この年で階段はきつい」などの台詞。

 いくつなんだグラハム?!

 青年なんじゃないの?
 よくわかんない役になってました。

 いっそ脚本変えて青年にしてしまうとか(一人称「私」、「インテリに階段はきつい」とか)、年配の役なら髪に白いものをまぜるとかヒゲを付けるとかすればいいのに。
 正塚芝居のこだわり? 脚本も変えないし、外見をいじることで役を作る言い訳はさせないってか?

 マヤさんの役は通常オイシイのに、どっちつかずのせいであんましオイシクない……。
 若い男の子の外見で、マヤさんの演技のコピーをして同じ滑稽な台詞を言っても、べつにおもしろくないし……この落ち着きの悪さはナニ?
 宇月くんうまい子なのに。マヤさんの役だとワクテカしたのに。

 
 マサツカ芝居って、新公だからといって演出変更禁止だっけ? 本公演アドリブ禁止みたいな感じで?

 たしかにコピーは上達の基本だから、本来の脚本演出通りに与えられた役を演じることは必要だと思うけど、新人にはハードル高いよな。
 鮮烈なデビューを果たし、終演後は彼の話題で持ちきり、「うまい」「おっさん」「好み」とはみんな口々に言うのに、誰も「きれい」「かっこいい」とは言わない珠城くん……。
 顔立ちは個性的だよねえ、かなり。
 おかげで一度おぼえたら最後、どこにいてもわかるけどさ。
 それは舞台人として大きな武器だろう。美貌はこれから磨けばいいんだし。わたしは好きだ、彼(笑)。

 さて、新人公演『ラスト プレイ』、研2の小僧っこがのびのび芝居できたのは、なんといっても芝居の相棒の、主人公役が経験豊かなスターだったから。

 主演・アリステア@みりおくん。
 この脚本ってムーア主役? と思わせるくらいなのに、それでもがっつり「主演」として踏み止まってくれるのは、彼の力。

 しどころのない役で大変だったと思うけど、さすがの安定感。
 なんにもしない、なに考えてるかわかんない役なのに、その清冽な輝きで説得力を持たせた。
 アリステアが前向きになったときの輝きと、愛らしさが半端ナイ。
 ムーア@珠城くんと出会い、彼についていくことになった場面。なんでも自由にしていいんだと自覚した瞬間の、あの輝きっぷりったら。

 ああ、この子好きだ。と、思った。なんの含みもなく、素直に。

 この子好き、この子かわいい。この子の成長を見守りたい、この子の物語を見たい。そう思わせる、素直な愛らしさ。
 そしてラストシーン、トラウマを克服して旅立っていくときの、まっすぐな輝き。
 心から、「よかったね、行っておいで」と手を振れる。

 あさこちゃんはやっぱ退団という悲しさが見ているこちらにもあるが、みりおくんの場合は別れではなく飛翔だと思える。
 彼がこれからさらに羽ばたくのだ、という期待に満ちた終わり方なんだわ。

 少年成長物語はありきたりだけど、ありきたりになるほど多くの人に求められている物語だ。
 心正しい少年が挫折して、苦難の末正しく立ち上がり、正しく未来へ向かって羽ばたいていく……これはもお、みんなが求める、心地よい物語なんだ。
 みりおくんはこの「心地よい物語の、心地よい主人公」を物語や役割が求めるまんまに表現してくれる。

 彼の「正しい光」が心地いい。
 

 みりおくんはこれで最後の新公だよね、89期。
 ……できれば今回は脇に回って、誰かキャリアのない下級生に主演を譲って欲しかった。
 そしてみりおくんは、おじさんとか悪役とか、普段本公演ではできない役をやって、芸幅を更に広げて欲しかった。
 みりおくんに限らず、ひとりっこ政策には疑問を持っているので、新公主演独占は勘弁してくれと思っている。

 あー、ムーア役のみりお、見てみたかったなああ。
 どんだけかっこよかったろう……。て、みりおくんが演じると青年になってしまうのかな? なんにせよ、彼の基本スキルにない役を見てみたかったな、せっかくの新公だから。

 それでも、みりおくんという揺るがない柱があったゆえに、研2の無名の新人を2番手……というか、相手役に抜擢できたのだから、それでいいのか。
 新人を育てるためには、ベテランと組ませる必要があるからなあ。(主役も相棒も新人だったら、ふたりして大変なことに……遠い目)
 
 
 まんちゃんに役がついていることに、個人的にとーーっても注目していたわけですが。
 ヴィクトール@そのかの役だもんなあ。
 ……演技なのか素なのか、よくわかんないあたり、本役を踏襲というか。
 ヴィクトール@まんちゃんは出オチに近い勢いで、出た瞬間から笑いを取ってましたが、……わ、わかんねー。うまいの、彼?
 

 でもってその相方、ジークムント@ゆりやくん。
 なんつーかもー……この子……。

 終始泣きべそかいているよーな芸風はいったい?!

 前回の新公にて、「ゆりやくんは、まっつに似ている」と多方向から言われ、いちいち否定していたわたしですが、なんかもお、否定するのも難しくなってきました。

 新公プログラムではじめて知ったんだけど、ジークムントって「裏社会の男」なんだ!! そんな解説付けられてるんだ! 本役があひくんなんで、そんなこと、夢にも思わなかったけど。

 新公のゆりやくんも、もお……。
 どこが「裏社会の男」なんだ、あの泣き顔ですごんでるヘタレ男!!(笑)

 まっつとは別に似ていないんだけど、得意分野はちがうんだけど、苦手分野というかみょーなとこが似ている……。

 あのヘタレ感が、めちゃくちゃかわいい。

 ちっとも強そうに見えない……どころか完璧に弱そうで、代わりに人が善さそうでまぬけでヘタレな甘い雰囲気のかわいこちゃん。
 このアホかわいいハンサムくんが、アホかわいい動物系のまんちゃんとふたりで終始出オチのダメコントを繰り広げている様は……。

 かわいい。地団駄踏む勢いで、可愛いっ。
 
 や、ふたりともぜんぜんうまくないんだけど……つか、ゆりやくんは『二人の貴公子』よりも『エリザベート』よりもヘタになったんぢゃないかとか……ゲフンゲフン、いやそのきっとコントは苦手なんだね、ヨシモト芸人じゃなくタカラヂェンヌなんだからコント苦手でも無問題、かわいいからもおいいよなキモチ。

 なんてかわいいイキモノなんだこいつら。

 昔のまっつに似ている、かな。
 今のまっつには似てないと思う。ああしかし、かわいい……(笑)。

 ゆりやくんとまんちゃんって同期だよね。
 このふたり、普段どんな会話してるんだろう……あのテンポの合わないコントは、どこをどうしてあんなことに……(笑)。
 や、そのズレっぷりもまた「自爆!」系のコントとして成り立っていたんだけど。
 
 このまま真っ直ぐ成長して下さい。たのしみですほんと(笑)。
 本公演初日を観て、そりゃいろいろ思ったけれど、さらに、新人公演、どーする気だよこりゃ? と、思ったよ。

 新公配役で知っていたのは主演がいつものみりおくんであることと、ふつーならヒロインの名前が載るところ、2番手男役の名前が併記されていて、男ふたりって変と思ったことと、さらにその併記されている名前が……誰? だったこと。

 それまである程度の番手の役をやってきた子ならわかる。

 宇月くん、ゆりやくん、煌月くん、千海くんあたり? 前回の『エリザベート』新公で番手のある役だった子たち。

 しかし、みりおくんと共に載っている名前は、おぼえがない。誰? 珠城りょう?

 ……調べればわかった、ジュラ役の子だ。そのかに似ていた、研2の子。オレ、感想で「好みの顔」って書いてるよ……。

 って、研2でいきなり2番手?!

 いやその、同じパターンで星組麻央くんがすでに『太王四神記 Ver.II』で新公2番手やってますが、彼はほら、入団前から騒がれていた芸能人関係者で舞台人としてどうこう以前に知名度があった。ヅカも芸能界だから、知名度のある人を抜擢するのは過去いくらでも例がある。
 しかしこの珠城くんって、特別な知名度はなかったよねえ?

 わたしの周囲に月組ファンがいないから、組内で珠城くんが大人気とか実力者として有名とか、耳に届いてないだけという可能性もあるが。
 とりあえず、わたしと周りの人たちは「誰?」状態だった。

 どんな子なのかいまいちわかっていないから、ただ「研2」というだけで初日にアタマを抱えた。
 この芝居を研2の坊やがやる?? 正塚芝居だよ? 研7の子でも手こずる独特の台詞回しと間、衣装の着こなしと立ち姿が必要な作品だよ?
 しかもムーア@きりやんの役って、大人の役だよ、下級生が少年性でどーにかなる役ぢゃないよ、ヘタしたら主役より大変だよこれ……!!

 てなことで、新人公演『ラスト プレイ』

 …………おどろいた。

 堂々たるおっさんがそこに。

 えーと。
 研2、なんだよね?(首傾げ)

 ふつーに体格のイイ、大人の男がいました。
 ふつーにおっさん。ふつーにうまい。

 ふつー? ふつーって? 研2だろ? 舞台経験ほとんどナイよね??

 研7の主演みりおくんより、ふつーにおっさんでしたがナニか?

 つか、この話って、ムーア主役だったんだ??

 新公で本役さんたちのすごさを知るのはめずらしいことではないが。
 この脚本と演出で、本公演にて主役として存在しているあさこちゃんの凄さを思い知りました。
 だってふつーに演じてたら、主役はムーアだわコレ。

 ムーアが物語を動かし、ムーアの感情が高ぶったときが歌になり、クライマックスになる。
 アリステア、ナニもしなさすぎ。

 
 新人公演は、ある意味本公演よりまとまっていた。
 本公演の散漫でどーしよーもない感じ、ひとえに「脚本ひでぇ」の部分が、アリステア@みりおくんのブレのなさで補われていた。

 アリステアは、まっすぐに「少年」だった。

 少年が人生最初の試練につまずき、進路を変える。だけどやっぱり本来の道へ、障害を克服して試練を乗り越えて進んでいく、という正しい「少年成長物語」。

 まだ少年だから女の子とどうこうなくても変じゃないし、大人たちの間でゆらゆらしていても変じゃない。
 モラトリアム真っ直中で、なにをするでもなくうだうだしたり、反応がやたら素直で純粋でも納得。銃とダイナマイトの間に割って入ったりと、突然暴走するのもアリ。

 ムーアがアリステアを拾うのも面倒を見るのも、相手がまだ未成年だから仕方ない。こんな子どもを放ってはおけないだろう。

 ドラマでもよくあるよね、主人公は少年の方だけど、それと同時に彼に関わる大人もが主人公になっていること。視聴者の年齢や好みでどちらに感情移入して観てもヨシという。
 まさにソレで、17歳のアリステアの青さや幼さを見守る38歳ムーアを主役として観るのもアリだろう、という感じでしたよ、『ラスト プレイ』新人公演。

 きりやんムーアが恋人のあいちゃんエスメラルダと女関係でこじれている、という話の流れはリアリティなくて感情移入しにくかったが(きりやんムーアは浮気なんてしません)、新公ムーアはおっさん、浮気しちゃったんだ……ダメだよ、そーゆーことしちゃ。と、すんなり思えた(笑)。

 で、男の浮気によって女との間に生じた亀裂が、ふたりが保護者になっている少年の事故をきっかけに修復され、女のために男が命を懸けることでさらに盛り上がり、少年の心の病気も無事に癒え、オールOK、ハッピーエンド。
 キラキラと旅立つ少年を見守る保護司夫婦の図……で、幕。

 少年サイドの多感な思春期物語は少年サイドで展開し、大人の視聴者は大人主役で大人の物語を楽しんでね!

 という話に思えた。
 みりおくん、若い……。でもって珠城くん、おっさん……(笑)。

 ふたりが最初に出会うところ、アリステアの衣装が謎の若者ファッションなこともあり、彼の少年体型がことさら強調されて、すらりと背の高い大人のムーアとの違いが体型や頭身からもわかった。

 珠城くん、ふつーにスーツ着こなしているし、立ち姿もふつーだ。違和感なく、正塚芝居してるし、歌もうまい。
 ここ数作の正塚芝居の新公主演者たちより、なんかすんなり正塚芝居している気が……。

 子どもに見えない、ことが大きいのだと思う。
 若い男役はまず、ぷくぷくした女の子体型ゆえに、スーツを着ても大人の台詞を喋っても、「少年」にはなっても「おっさん」にはならない。
 芝居が出来たとしても、お顔まるまる、お尻まるまる太股むちむちな女の子のままじゃあ「女子校の文化祭」の延長線になってしまう。
 他はさておき顔と姿がすでに少年や子役ではなく、「男役」であることが大きいよな珠城くん。
 声はそのか系というか、それほど低い訓練された男役声ではないもの。

 研2の時点でふつーに「男役」であり、スーツ着て違和感なく芝居して、及第点の歌唱力を持つ。
 これって、すごい。

「なんか、すごい新人が現れたね!!」

 と、観劇後は仲間たちと盛り上がる。
 珠城くんの学年を知らなかった人も「あれで研2? マジ?!」てなもんだし。

 抜擢が納得の実力派の登場だ、すげえなヲイ。あの子好きだわ、次の新公も観る。これからが楽しみ。
 と、にぎわっているにも関わらず。

「大型新人のキラキラ大スターが現れた、と思えないのもまたすごいね(笑)」

 うん。
 みんな珠城くんに感動して、きゃーきゃー言ってるんだけど、その、彼の持ち味っつーのが「キラキラ華やか美貌の若手スター!」ではなく、「渋い大人の男」だったりするもんだから……。

 とりあえず、わたしを含めた脇スキーたちのハートを見事にゲッチュしました、珠城くん。
 とくにケロファン、食いつき良すぎだ(笑)。
 真ん中スキーの人とまだ話していないので、そーゆー人の目にどう映ったかはわかんないけど、ケロとかまっつとかそのかとかを好きな人たちの琴線に触れる男でしたよ、珠城くんムーア。
 や、彼がどういう路線で育つのかはわかんないし、大型新人大スターとして驀進してくれても歓迎っす。だって大人の男だもの! 大人が演じられる新人ってどんだけ貴重か。

 今後が楽しみですわ。 

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