「世界」が、やさしい。

 やさしい人たちが、やさしい世界に生きている……『君を愛してる−Je t’aime−』感想の続き。

 マルキーズ@となみの誕生日プレゼントをどうしよう、と彼女の妹分のリュシール@シナがジョルジュ@水に相談を持ちかける。

 サーカス団のために日夜尽くしているマルキーズ。経営から雑用まで、なにもかも一手に引き受けている彼女のために。

 毎日みんなのためにおいしいごはんを作ってくれるあのひとに、感謝の気持ちを伝えたい、お祝いをしてあげたい。

 ……てことで、ジョルジュを含めたサーカス団みんながしたことは。

 マルキーズのために、特製ポトフを。

 食事の支度は、「日常」だけど。「あたりまえ」になって、なにも感じなくなってしまいがちなことだけど。
 そのことに、感謝を。

 どれだけわたしたちが、あなたに救われているか、癒されているか。それが「日常」で「あたりまえ」であるか。
 それを今、与えられてきたものと同じカタチを取ることで、ほんの少しでも返したい。

 特製ポトフを前に、顔を覆ってわっと泣き出すマルキーズ。

 やさしい。
 みんなが、やさしい。

 やさしすぎて、泣ける。

 
 さて、やさしいだけで、ジョルジュにもマルキーズにも、なんの力もない。

 サーカスは経営難。
 昔ながらのやり方じゃ、せちがらい現代ではお客が入らない。
 マルキーズはすばらしいスターだけど、スターひとりがどんなに技術や美貌や人望があったって、どーにもならない。トップスターひとりで都心から離れた田舎の2500人劇場がいっぱいになるわけないじゃん、この現代。
「若手の育成なんかやめてしまえ。成長を見守るなんて無駄だ。できあがったスターだけを集めてすばらしい舞台を作る。代わりはいくらでもいる。チケット代は跳ね上がるが、ま、とーぜんだな」
 大手サーカス団のプロデューサー、アルガン@ゆみこは断言する。
 入団人数を減らす、新公学年引き下げ、タレント契約学年引き下げ……ま、とーぜんだな。
 必要なときに必要なスターを集めればいい、組カラー撲滅、組替え特出ワン切りなんでも来い……ま、とーぜんだな。
 びんぼー人は切り捨てて良し。選民のみが愉しむ文化であればいい……ま、とーぜんだな。

 マルキーズは反発。
 サーカスを好きでがんばっている若手、家族のように彼らの成長を見守ること、チームワークと信頼、低料金で大衆が愉しめる文化……それを否定するサーカスは、サーカスじゃない。
 
 だけど、現実は夢だけではどーしよーもない。
 サーカス団は立ち退きを迫られ、解散の危機。

 アルガンはマルキーズの元カレ。マルキーズに未練タラタラ。サーカス団解散は必至だが、その後路頭に迷うだろう団員たちを我が大手サーカス団で引き受けよう。
 仲間たちを守りたかったら、僕と結婚しなさい……うおー、悪役キターッ!!

 だけどアルガンは、真摯に訴える。
 彼は本当に、マルキーズの未来を考えている。沈む船と心中するような彼女の生き方を惜しんでいる。
 「若手育成? 家族? フッ」てな考え方だったのに、「キミを失うくらいなら、信念も破ろう♪」てなもんで、使い物にならない若手くんたちまで全部自分の会社で引き受け、面倒見るってよ。
 彼はただの金の亡者ではない。夢だけ追って破滅する、人生を棒に振る、そんな若者たちを否定する……つまり、心配し、惜しんでいる。

 マルキーズは、彼女の愛するサーカス団を救いたい。でもそのためには、政略結婚を受けるしかない。

 親の遺産を継いでいないジョルジュには、なんの力もない。ただの世間知らずの若造でしかない。
 マルキーズと彼女の愛するサーカス団を救いたい。でもそのためには、遺産を継ぐために政略結婚を受けるしかない。

 ジョルジュとマルキーズ。
 自分のためだけに生きられない彼ら。

 やさしい世界で、やさしい人たちが、そのやさしさゆえにぶつかり、すれ違い、傷ついている。

 誰かを救うために、自分の心を偽り、そのゆえに誰かを偽ることになる……それってやっぱり、まちがってるよね?

 サーカス団を救うために政略結婚、てのは、やっぱりチガウよ、ジョルジュ、マルキーズ。

 登場人物全員そろった、サーカス団の貸切公演にて。
 サーカス団のメンバーは、アルガンに絶縁を叩きつける。
 マルキーズを犠牲にしてまで守りたいモノなんかなにもない。立派な小屋なんていらない、たったひとりでもたのしんでくれる人がいるならそれでいい、どさ回り上等、それがサーカス魂。

 そこへ飛び込んでくるジョルジュは、マルキーズに告げる。
 いちばん大切な言葉。
 すべてのはじまりとなる言葉。

「君を愛してる」

 この物語は、ジョルジュの結婚相手を捜すところからはじまった。政略結婚することで遺産を受け継ぐ、それがすべてのはじまりだった。

 サーカス団の女の子に愛を告白するってことは、相続権の放棄。ジョルジュはすべてを失う。
 それでも。

「どさ回りについていく!」
 サーカス団を守るために偽りの結婚をするのではなく、彼女がなにも失わずに済むようにするのではなく。

 傷つかぬように偽りで守るのではなく、真実ゆえに傷ついたとしても、そのあとの彼女を守り、支える。

 その覚悟を決めての告白だ。

 やさしい世界、やさしい人たち。
 やさしいだけでは済まないのが現実だけど、せめてこの「世界」だけでは、やさしさが力となる、奇跡を起こす、そんな「夢物語」を信じたい。
 
 「君を愛してる」……誰もが使うことの出来る、最小の、そして最大のマジックスペル。

 
 予備知識なく観て、最初にいやぁな予感がしたの。某下品作家の下品なラブコメが、これと同じよーな設定だったから。
 富豪のぼんぼんが、「親の富を継ぐための条件は、とある女に恋を仕掛け、ピー(警告音)したあと捨てること」というありえない条件をのんで女を騙す。だがぼんぼんは、その相手の女に本気で恋してしまう。騙してピー(警告音)したあとに捨ててもかまわない程度の女、だと思っていたのに、彼女は実は大金持ちのお嬢様だった。ぼんぼんと家柄も釣り合う相手だ、ハッピーエンド!
 ……という、最低話。

 上流階級の娘としか結婚できない。でも、主人公が恋したのは貧民の娘。ふたりの障害は、身分の差だけ。……いやいや、彼女は貴族のお姫様だったのです! なーんだ、それならハッピーエンドだ、よかったね!!
 ……という話だったら、どうしよう。

 身分の差、なんて、障害じゃない。
 男がなにもかも捨てれば済むだけのこと。それをしないなら、それだけの思いだったってこと。
 ポイントは、「この恋を選べば、すべてを失う」ということ。
 それでも恋を選ぶかどうか。

 男がなにも失わず、「彼女は貴族のお姫様だったのです!」でハッピーエンドだったらどうしよう。これはものすごーくありがちで、そして、ものすごーくまちがった結末。

 そんなまちがった結末に、某下品作家のようなことをされたらどうしよう?

 いや、キムシンはそーゆーまちがい方はしない人だと思っていたので、そのへんは半信半疑だったんだが。

 やっぱり、まちがわなかったね。
 ジョルジュは愛を選んだ。
 なにもかも失って、サーカス団でどさ回りするってさ。
 それによって弟はじめ迷惑はかけるけれど、できるだけのことはするってさ。

 そのあと怒濤のハッピーエンドになだれ込むのはそれこそお約束だが、肝心なのはジョルジュが一度、本気で愛を選んだこと。相続権を放棄し、マルキーズが貴族じゃないことを承知の上で愛したこと。
 どんでん返しがなければ、ほんとーにふたりでどさ回りしていたんだってこと。

 ハッピーエンドになったふたりは、ちょっとオマエらマジかよ?ってくらい、ラヴラヴ全開。

 あれよあれよと結婚式!
 となぽんウェディングドレス!! かわいー!!

 てゆーか。

 姫抱っこキターッ!!

 でろでろにあまあま、とろとろの水しぇんが、とにゃみ姫抱っこしてドナルドダックみたいな口で笑ってますよ!!

 もー、どーしてくれよう(笑)。

 これは、「ファンタジー」だから。「夢物語」だから。

 やさしい人たちが、やさしい世界に生きている……やさしい人たちがやさしいまま、みんなみんなしあわせになる物語。

 
 ……スカステで花組『エリザベート』放送後に流れた「後日談」らしき『君を愛してる』CMでも、泣かされた。つか、萌えた。
 フィラント×アルガン、公式認定でいいっすか?(笑)


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