恋って。

2008年9月18日 タカラヅカ
 最初に好きになった男の子は、わたしより背が低かった。

 新規更新がトップ画面に反映されないのをいいことに、ちょっくら自分語り(笑)。

 わたしにとって、「背が高い」ことはずーーっと重荷だった。
 一般的に身長は高い方がヨシとされているようだが、それは身体的特徴を巧く人生に活かせている場合のみだと思う。
 身長が高くても低くてもふつうぐらいでも、同じことだ。長身を活かしてスポーツで活躍したり美しい服を着こなしたり、小柄ゆえにできる職業や服装を充実させたりと、結局はその人の生き方次第。体重は後天的にコントロールしやすいが、身長は持って生まれたモノが大きい。

 こんなふうに、生まれてしまった。自分で選ぶことの出来なかった種類のことだから、ひとより背が高いことを受け入れるまでに、あきらめられるまでに、時間が掛かった。
 そりゃわたしより大きな女性もいくらでもいるし、今の時代はさらに長身の女性があたりまえに闊歩しているが、わたしの少女時代、そしてわたしの抱え込んだ狭いちっぽけな社会では、わたしの大きさはけっこうなハンデだった。

 背が高かったせいで嫌な目にはいろいろあったが、恋愛面だけを見ても「このデカ女」と、好きな男子に言われるときの、ダメージのデカさときたら。

 「デカ女」「女オトコ」はずーーっと言われてきたし、大して気にならないくらいに言われ慣れていたんだが、やっぱり好きな子に言われると、つらかった。

 とくに、わたしが好きだったのは、クラスでいちばん小柄な男の子だった。
 仲が良くて、いつも一緒に遊んでいた。反面、いちばんのケンカ友だちでもあった。毎日毎日どつき漫才していた。
 仲がいいので周囲から冷やかされることもあったが、そのとき決まって「こんなデカ女なんか」とその子は言った。まあわたしも「こんなチビ、冗談じゃない」てなことは返していたから、お互い様だが。

 女の方が背が高い、ことは、恥ずかしいことなんだ。
 ソレをネタに冷やかされたり、からかわれたり、笑われたりするんだ。
 わたしも恥ずかしいし、彼も恥ずかしいと思うことなんだ。

 そんな固定観念、どーかしていると思うが、小学生のわたしは本気でそう思った。

 女の子は、自分より背の高い男の子しか、好きになっちゃいけない。
 でなければ、世間に笑われるのだ。後ろ指をさされるのだ。

 冷静に考えればおかしいとは思うが、それでも、けっこうふつーの感覚じゃね?
 自分より背の高いダーリンを想像するのは。

 少女マンガではいつだってヒロインより相手の男の子の方が長身だもの。女の子の方が大きい場合は、わざわざそのことをテーマにしていたりする、くらい、ありえないことなんだもの。
 女子同士で「好きな男の子の話」「どんな子が理想か話」をするとき、ふつーに「あたしより背が高くてぇ」って、言うよな?

 わたしもふつーに「あたしより背の高い男の子」を恋愛対象としていた。
 クラスを見回して、わたしより大きな子がひとりかふたりしかいなくても、「あたしより背の高い男の子」しか好きになっちゃいけないと思っていた。

 恥ずかしい思いをするから。わたしも、その子も。

 思春期ゆえの思い込みの激しさ、自意識過剰さで、そう頑なに思い込んでいた。

 やはり人より大きかった母もまた、

「男の人と出会ったときはまず身長をチェックしたわ。自分より背が高い人でないと、好きにはならない。おとーちゃんとはじめて出会ったときも、『この人、アタシより数センチ背が高い!』って思ったから、つきあったんだもの!」

 と、豪語していた。

 うん、やっぱどーしてもそうなるよね。

 デートのときにぺたんこ靴しか履けないこと、並んで写真を撮るときに猫背になること、数えるとキリがない、劣等感。
 恥ずかしい思いをしたくないから、出会う男の子たちをまず、身長で判断していた。この子は好きになってもいい、この子はダメ。

 つーことで。

 はい、ここでよーやく、ヅカの話になる。

 好きになるからには、わたしより背の高い人でなきゃダメ。

 ええ。
 ヅカにハマった当初、本気でそう思っていました。

 現実世界ですら、男たちの低身長さに悩まされているのよ? 疑似恋愛を割り切ってたのしむバーチャル世界でまで、なんでチビを好きにならなきゃいけないの?

 舞台の男役たちはみんなかっこよくて大きくて、夢の世界だった。
 ええ、みんな大きく見えたんだってば。
 背の高い人しか、タカラヅカには入れないんだと思っていたし。テレビで見るジャニーズは、共演する女優やアイドルと同じくらいの身長のおチビさんばっかだけど、ヅカの男役は娘役よりみんな大きい、長身さんばっかだわ! 背の高い美形がよりどりみどり、みんな長身、ステキ!

 ……ハマったあとで、「宝塚おとめ」を見て男役の身長に愕然とする。

 ほとんどの男役が「168cm」だった。
 168? それっぽっちなの?? 舞台ではもっと大きく見えたよ?

 轟悠の美貌に一目惚れしたわたしは、ページを繰って彼の身長を確認した。
 彼もまた「168cm」だった。

 168か。168。うん、ぎりぎりセーフ。わたしの公称身長と同じだもん、わたしより小さいわけじゃないから、好きになってもいいよね。
 そう、自分に言い聞かせた(笑)。
 自分よりチビは好きにならない……そう、自分に戒めがあったんだってば。

 で、あるときナマのトドロキを目撃し、小ささに、おどろいた。
 
「トドロキって168だよね? アレで公称168? 嘘でしょ?」
「うん、緑野の公称168と反対の意味で、同じくらいには嘘だね」

 一緒にいたツレ(わたしよりアタマひとつ小さい)に、すぱっと切り捨てられたなあ。

 トドが思っていたよりずーーっと小さかったことは「見なかったこと」として、わたしの「自分より小さい人は好きにならない」というMyルールは守り通した(笑)。

 気になるジェンヌは、身長もチェックする。
 ケロちゃんの身長だって、最初に調べたさ。
 公称「169cm」。やった、わたしの公称より大きい。わたしより背が高いから、「好きになってもいい人」だわ!!

 そう安心していたのに。
 『血と砂』初日に、公称身長170cm(もちろんチェック済)のゆーひくんとの身長差が1cmにはとても見えないケロの小柄ぶりに、疑問を持った。
 変だな、ケロは169だから、ゆーひくんと並んでも同じくらいの身長のはずなのに……。
 「おとめ」には、身長167cmと記載されていた。

 ソレって、あたしより小さいってことじゃん?!!

 信じられなくて、過去の「おとめ」を引っ張り出していちいち調べていったさ。だってケロちゃん、昔は169って書いてたもん! わたしがケロちゃんを知った頃は、公式出版物に169って書いてた!!

 答えは、「組替え」だ。
 雪組にいたときは169cm、月組に組替えになって翌年には167cmに変更されていた……。

 そーだよなー……トウコちゃんの公式身長が167cmだもんなぁ。トウコより大きなケロは169cmと表記するしかないよなあ。
 雪組のサバ読みっぷりって……たしかいっちゃんも退団後にどーんと公式身長縮んでたなぁ。

 その後ケロは再度の組替えによって、再びトウコと同じ組になり、でも今さら公式身長を変えることが出来ず月組時代の「167cm」で通し、「ケロとトウコって同じ身長? ……嘘丸出し」と、ファンに溜息をつかせることになったわけだが(笑)。

 自分より小さな人は好きにならない……そのルールが、ケロの「身長サバ読み」によって、崩れ去ったのだ!!
 わーん、ひどいよケロちゃん! 169cmだって言ってたぢゃないか~~!!

 そりゃトドの「168cm」も明らかな大嘘だが、彼は未だに168だと平気な顔で生きている。騙すのも商売のうちなんだから、騙してくれている分には、素直に騙されるさ。
 ケロの場合は、途中で嘘を訂正しちゃったんだもん。罪が重いさ。どーして騙しておいてくれなかったの。

 
 あれほど、「身長」にこだわったわたし。
 ケロの裏切り(笑)のおかげで、そのこだわりも葬り去られた。

 小さいからなんだ、ステキな人はステキなんだっ。好きになってナニが悪い!

 トウコちゃんもきりやんも、好きになった。まさかの小男ブーム。つか、彼らは背が低いからこそ、さらに魅力的なんだと思うようになった。

 いやその。
 わたしがもう思春期の少女ではなく、高身長に特別なこだわりを持たない年齢になってしまったこともある。
 レンアイに多大な夢は持たなくなった。

 そして、人よりデカい自分のことも、あきらめられるよーになった。
 あんなにがんとして拒絶していたヒールのある靴も、履くようになった。

 わたしは、わたしでしかない。
 あの子よりわたしの方が背が高いから……ソレが恥ずかしくてキモチを封印するしかなかった、幼い日のわたしに言ってやりたい。
 背の低い男の子を好きになってもよかったんだよと。いや、いくらそう言われても、自分の中の劣等感はぬぐえなかったにしろ。

 好きになってしまえば、どうしようもないんだ。

 やはり人より大きかった母もまた、

「おとーちゃんとはじめて出会ったときも、『この人、アタシより数センチ背が高い!』って思ったから、つきあったんだもの!」

 と、豪語していたが、大人になった子どもたちから「どー見ても、誰が見ても、父より母の方が背が高いっつーの」と、客観的に突っ込まれていたさ。
 恋は盲目、父に一目惚れした母の目には、「自分より小さな人は好きにならない」というルールを守るために、現実の方が歪められて映ったわけだから。

 
 いろんなものに縛られていた若い頃にまっつに出会っていても、こんなに好きにはなっていなかったんだろうな、という話。
 この年になってから出会えて、よかったんだと思う。

 ……たぶん(笑)。

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