とてもピュアな青年がいた。
 人を疑うことを知らず、憎むことを知らず、彼自身不幸を抱えているのに微笑みを絶やさず、すべてのものにやさしい……天使のような青年がいた。
 彼の職場には、彼をひそかに愛し、彼を手に入れようと虎視眈々とつけねらう女がいた。もちろん美人で女子力が高く、手料理なんか披露しちゃうタイプの女だ。
 また、彼には長いつきあいの親友がおり、心から信頼しあっている……と思っているのはピュアな彼だけで、親友は実はホモで、彼のことを手に入れたくていろいろ策を弄していた。
 表面だけは善人らしくにこにこつきあう狼たちの中で、とにかくピュアな青年は、にこにこ笑って生きていた。
 そこへ、青年に一目惚れした少女が現れる。えーと、すごくピュアな少女、という設定らしい。ピュアでけなげな彼女は、ピュアでけなげなゆえに盗みをはたらいたり、ストーキングしたり、青年の留守宅に何度も勝手に入り、彼の秘密を暴いたり、やりたい放題。ピュア最強。
 だけど青年はなにしろ バカ 天使なので、少女がナニをしたって天使の微笑みで赦し続けるのだ……。てゆーか、青年と少女は惹かれ合っていくのだ。何故?!
 あとから出てきたストーカー女に、青年を取られてたまるものか!! と、職場の女も、親友のホモ男も善人の顔を脱ぎ捨て、戦いを開始する。罠を張り巡らす。
 ピュアでイノセントな純愛物語の、明日はどっちだ?!!

 
 えー、こだまっち最新作『忘れ雪』を観た。

 内容は、愛憎ドロドロお笑いとキ○ガイ満載の昼の帯ドラマだ。東海テレビ制作の。『真珠夫人』とか『牡丹と薔薇』とか。たわしコロッケとか財布ステーキの出てくるアレ。

 ストーカー体質のヒロイン・深雪@みみが彼女の脳内で恋をし、恋人認定した男・一希@キムを現実でじわじわと追いつめる。一希のそばにはもうひとり完璧最強ストーカー体質の女・静香@みなこがいて、彼女も策を弄し手を尽くし一希を追いつめる。さらにそんな出来事すべてを俯瞰した上で一希を独占しようと、ストーカー体質の親友・鳴海@かなめもまた、一希にむらがる女たちを一掃しようと策を練る。
 一希の運命やいかに?!

 ……て、まともな人間率低すぎないっ?!(白目)

 メインキャラは主役以外全員ナチュラルに犯罪体質な人ばっかって……。

 『真珠夫人』だって『牡丹と薔薇』だって、宣伝文句は「純愛」だ。まともな人間がひとりも出てこなくったって、キチ○イしか出てこなくったって、「純愛」だ。
 
 べつに、東海の昼ドラが悪いわけじゃない。確実にニーズはあるのだから。
 ただなあ。
 東海昼ドラは、「わかって」作ってるわけだからなあ。
 キャベツの千切りと一緒にたわし皿に載せて出して「たわしコロッケ召し上がれ」って、視聴者が「笑わない」とは、思って作ってない。むしろ、「笑わせる」ためにやっている。
 「視聴者のみなさん、テレビの前で盛大につっこんでくださいね。ママ友同士で『昨日、大爆笑したわー』って盛り上がってくださいね」という意図で作られている。
 出演者も「来週の展開はまたものすごいことになりますよー、お見のがしなく(笑)」みたいなこと言って、「わかった」上で仕事をしている。
 だからいいんだ。狂った人しか出ない狂ったドラマだとしても、作っている人たちはあえてソレを狙って作っているのだから。

 しかし……。
 やっていることはお笑い昼ドラなのに、スタッフたちは純愛「月9」だと思い込んでいたら、なにかと困るよなあ。

 前期の月9、いわゆる月曜9時のフジテレビのドラマ枠で2008年秋~冬にかけて放送された『イノセント・ラヴ』がそんな感じ。

 冒頭に書いた天使のような青年をめぐるピュアなラヴストーリーは、ドラマ『イノセント・ラヴ』のキャラ紹介っす。
 キャラのとんでもなさもやっていることもストーリー展開も愛憎ドロドロお笑い昼ドラとまったく同じなんだけど、何故か「純愛」ってカテゴリで「せつない恋愛モノ」だと思って作っていそうで、その半端さがすごく気持ち悪かったんだが。

 『忘れ雪』は、『イノセント・ラヴ』と、いちいちかぶって困った(笑)。

 ストーリーラインは違うんだけど(『イノラヴ』の方がマシ)、キャラの立ち位置かぶりまくってるし、それ以上に、笑うしかない話なのに「ピュア」とか思って作ってそうな、とほほ感が同じ。
 いっそ突き抜けてバカドラマに徹してくれれば、たのしめるのに。
 半端は、いかん。 

 爆笑しながら観劇したが、ほんとうの意味で「コレおもしろすぎ、もっぺん観たいかも」というわくわく感に欠けていた。
 とりあえず笑えるけど、気持ちのいい笑いじゃないんだよなあ。
 
  
 とにかく、頭……というか、心?のおかしな人たちばかりなので(笑)、「まともな人がひとりもいない!」「一希大変だなー、ストーカーだらけかよ」と思って観ていたわけだが。

 そのうち、一希まで、壊れ出した。

 長々とリンチされる彼は、途中でお花畑に行ってしまうのだった。や、マジで。マリア様の肖像とか出てくるんだよ! 殴られ過ぎて頭イッちゃったのな。

 そして、いったんお花畑に行ってしまった彼は、そっから先もう完全には戻って来られなかったようで。
 どんどんどんどん、コワレていく!!

 ちょっと、コワイんですけどっ? リナレス、リナレスがいるよ! やばいですよ狂っちゃってますよこの人!

 まともな人が、誰ひとりいなくなった!(白目)

 えー、原作を読んだドリーさんの弁によると、原作での一希の死因はチガウそうです。原作通りなら一希はべつに「ついにコワレた?」ってほどのことはないと思うが、舞台の死因だと、やっぱ精神的にどっかスイッチ入っちゃって、そのせいで死んだ、としか思えないなあ。

 狂った人たちがわーわーやって、それでなんか死んじゃって、それでもいちおー、人が死ねば悲しいわけで、あっけにとられていたとはいえ、周囲に泣いている人もいるしまあこーゆー話なんだと厳粛に受け止めていたのに、その直後の後日談がほとんどギャグだし。
 あまりにのーてんきなうふふあははな人たちに、

 一希、犬死っ?!(白目)

 と、震撼して終わった……。あ、だから犬が物語のキーとなっているのか。(たぶんチガウ)
 ストーカーたちに翻弄され、追いつめられ、狂って死んだ主人公、合言葉は「ピュア」。

 キム……大変だな……。
 

 や、一見の価値あります、マジで。

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