みわっちは、受ですか? 攻ですか?

 どっちもイケる人だと思ってますが。
 ただ、相手によって、「考えるまでもない」ということがあるでしょう?
 あ、生身の話ぢゃないですよ。あくまでも作品、役名。

 nanaタンと、えんえんえんえん駄話してました。花組『ファントム』を観たあと。7月の火曜日は皆勤でnanaタンとムラにいましたからねえ。
 そのときに。

 花『ファントム』で切実なのは、「萌えがない」ことだという話になったのですよ。
 オサゆみは大好物だし、そのオサゆみがあんなに愛し合って、あまつさえがっつり抱擁したりしているというのに。
 萌えない。

 なんつーか今回、致命的に色気とか禁忌とかに欠けるんだよね。
 オサ様はかわいいし、ゆみこもいい芝居してるんだけど。

 そして今回、みわまつそのが終始いちゃついてます。これって相当オイシイはずです。
 なのに、萌えないんですよ。あいつら、健康的過ぎて。

「いっそさあ、みわさんあたり、そのかでも口説いてくれないかしら」

 とゆー「もしも」話に発展。

「みんなでごちゃごちゃやってるときに、どさくさにまぎれて、抱き寄せたりチュー未遂したりアゴ持ち上げたりしてくれれば、それだけでたのしーのに。みわさん、やってくんないかなあ」
「みわっちはサービス精神ありそうだから、ファンの人がお手紙とかでリクエストしたら、『これがウケるのか』って前向きに取り入れてくれそう」
「そんでもって、親友ふたりがややこしい雰囲気になっちゃって、その間でまっつがオロオロするの。見たーい」
「まっつはオロオロするだけ? まざらないの?」
「まざらなくてイイ。そのかに、『じゅりあと別れて、みわさんとつきあいたいんだが、どう思う?』とか真顔で相談されてアタマ抱えるの。その方が萌え〜」
「たのしそー」

 てな、罪のない話題で盛り上がっていたわけだ。
 でも、わたしとnanakoさんの間には、大きな溝があったのだ。

「みわさんはやっぱ、誘い受だよねえ」
「……えっ? ……みわっちって、受なの?」
「受でしょ? なんで?」

「みわっちが、そのかを押し倒すんじゃないの?」

 nanakoさんは、みわ×そので、この話をしていたらしい。

「みわさんはリバだと思うけど、相手によるでしょ? そのか相手になんで攻……っていうか、そのか受が見たいわけ?」
「いや、今回のそのか、すごくかわいいから……ていうか、さすが緑野さん、そのかが受でもいいんだ、と思って聞いてたんだけど?」
「みわさんの誘い受だってば! 誘惑してオトすのよーっ」

 わたしか。わたしだから、そのか受だと思ったってのか。
 そのかとみわっちの組み合わせなら、説明不要でみわ受だと思っていたよ。いちいち確認しなくても、世界の常識だと思って話を進めていたよ。……力関係はみわ×そのでも、アレな関係ではとーぜんその×みわだと。
 絵面的に言っても、ソレしかないよねえ?

 世の中的に、みわさんは受キャラだよね? そのかは攻キャラだよね?
 わたしはよくうっかり、世の中と逆を信奉していたりするんだけど、コレはまちがってないよね?

 と、ここまでたのしく話しておいてだ。
 nanaタンは言い切るのだ。

「わたし、腐女子ぢゃないから、わかんなーい」

 ちょっと待てコラ。


「どうしてみんな、『私のヴァンパイア』を歌いたがるんだろう?」

 各組エンカレに通っていると、似たような曲ばかり聴かされることになるんだが。
 まあ、有名なミュージカル曲や名曲を歌いたい気持ちはわかる。
 が。
 正直『私のヴァンパイア』はよくわからない。
 主題歌でもないだろうし、名曲・名作と名を馳せたものでもないだろうし。たしかに、この歌を歌うえみくらちゃんはかわいかったが、そこ単体でかわいいってだけで作品はトホホだったし。

「正統的に歌に自信のある娘役は『私だけに』を歌い、そこまでの歌手ではない、あるいは柄違いの娘役が『私のヴァンパイア』を歌うんじゃないですか?」
 と、冷静に分析するのはkineさん。

 たしかに、『私だけに』は毅然と歌い上げるかっこいー曲。
 『私のヴァンパイア』はめいっぱいかわいこぶって歌う曲。
 自分の目指す娘役像によって、このふたつの曲にぱっきり分かれるんだろう。

 「わたしは、かわいこちゃん娘役ですっ!」という意志表示だよな。

 たとえば緑野こあらが娘役だったとしたって、『私のヴァンパイア』は絶対に選ばない。んな柄違いもはなはだしい歌はありえない。自分を「かわいこちゃん」だと思ってなきゃンな歌、思いつきもしねえって。や、緑野こあらの話なんか誰も聞いてませんが。

 さて。
 花エンカレで『私のヴァンパイア』を歌った娘役がいた。
 初姫さあやちゃんだ。
 ぶりぶりにかわいこぶって、タカラヅカの娘役らしく清楚に歌うその姿。
 女役ではなく「かわいこちゃん」なんだなということを、印象づけてくれたさ。

 えーっと。

 カルロッタ@初姫さあやの怪演は、どう受け止めればいいのでしょう?(笑)

 情報に混乱が生じたぞー。エンカレのかわいこちゃんぶりと、カルロッタの演技と。
 芽吹、まゆら、りりかあたりがカルロッタを演じるなら、キャラ的になんの混乱も不思議もないんだが。
 よりによって『私のヴァンパイア』のさあやちゃんだから、おどろいた。
 そして、カルロッタキャラOKだと、わたしが勝手に思っている芽吹、りりか両名が可憐の代名詞ベラドーヴァをやっているんだから、わたしと劇団の女の趣味はチガウんだろうな(笑)。

 なんにせよ、すばらしかったです、カルロッタ。いぢわる系美人、てのも役作りとしてアリだよなー。なにもカルロッタは全部おデヴなおばさんでなきゃダメっつーことはない。
 見ていて混乱するくらい思い切りよく悪役を演じてくれて、気持ちよかった。
 殻を破って見せてくれる子がいるから、新公観劇はやめられないんだよなあ。

 
 キャリエール@ふみかは地道にうまかった。大変!なエリックをよく支えてくれたと思う。
 フィリップ@まーくんは、どんどんへなちょこになっていくのが見どころかと。最初はうさんくさい浮きっぷり、熱が上がるとヘタレて見えるという素敵持ち味。こんな弱そうな男を相手に勝てない従者たちも大概だ(笑)。そーいやなんで立ち回りは素手だったんだろう。素手で構え、殴り合う彼らが、ますますへっぽこ風味で大変愉快でした。
 ソレリ@きらりちゃんの華と美貌に感服。うわー、ソレリって目立つ女の子だったんだ、知らなかった。本役では、フィリップ親衛隊3人娘や「ファントム係」の方が派手だったからなあ(笑)。ただし、歌のものすごさにはびっくりした。わずかなフレーズだけなのに、なんて素敵な破壊力。
 ルドゥ警部@しゅん様は、期待通りのクドさとかっこよさ!! なになに、衣装本役とチガウよね? 強そう、仕事できそう。しゅん様、いいなあ。ぽわわん。てか、どこまですっしーに似てくるんだろー。
 若キャリ@だいもん、うさんくせー(笑)。誉め言葉です。だいもんはそのままのキャラクタで突っ走ってくれー。
 メグ@ののすみちゃん、かわいーかわいーかわいー。

 アラン・ショレ@マメへのラヴレターはまたべつに書くとして(笑)、みょーに男を上げていたのは、ジャン・クロード@らいだと思う、わたし的に。
 や、らいは二枚目キャラだと思ってたよ、もともと。正確には、花組らしい鼻息の荒い「二枚目希望っ!」キャラというか。
 それが老け役をやることで、鼻息の荒さが落ち着いた分、色男度が上がったというか。……どれだけ普段やりすぎているかわかる結果だよな……(笑)。

 あとになって、「らいはケロに似ている説」が浮上してきたけど。
 うーん、たしかに、ジャン・クロード役に限っていえば似てるかも。
 らいというと鼻息の荒い二枚目希望ぶりの方が印象強くて、ケロとイコールにならなくてな……もう少し脂が抜けたら、もっとケロっぽく見えるかもしれない……。
 あ、繰り返しますが「ケロに似ている」というのは、ケロファン的に最大の誉め言葉です(笑)。

 今んとこケロに似ている、のは、DNAを引いているゆーひくんをのぞき、純粋に「顔」だけでいうと。
 月組の紫水梗華ちゃん、雪組の麻樹ゆめみちゃんが似ていると思ってます。……ええっ、どっちも娘役でんがなっ?!(笑)
 そこにらいも加わるのかなぁ?

 
 花組は、芝居の苦手な組だと思う。
 新公のレベルは、いつもいちばん低いと思っている。
 主要キャラとか脇の大人役だとか、演技ができる人はできるけど、その周囲になると途端レベルダウンする。だもんで平均点は低い。
 アピール力は強いんだけどねえ。両立はしないもんなのねえ(笑)。
 一芸に秀でていればなんとかなるのが世の中、そしてタカラヅカ。演技がアレでも台詞がきんきんまともに言えなくても、花組はアピール命、目立つこと命でいてくれ。
 いろんな組があって、おもしろいんだから。
 小さくまとまらないで。せせこましく積んだ積み木をぶっこわして、その上で仁王立ちして笑うやんちゃなギャングでいてくれよ。


 わたし的に「疲れる」構成だった『ファントム』新人公演

 問題の出演者たちは。

 えー、まずわたし、プログラムのりせの写真を見て、おどろきました。

 誰コレ。……(間)……えっ、りせ?! まじっすか!!

 りせくん。ナゼにそんなに、太ってしまわれたの? 美貌だけがキミの武器だったんぢゃあ……?
 フェイスラインが別人。
 本公演も観ているけど、従者はわたしいつも決まった人を見ちゃってるからなあ。初日に位置確認したのみで、あとはちゃんと見ていたとは言えないもんなあ。
 変わり果てた姿に、新公で改めて驚いたよ。

 ヴィジュアルはともかく。

 実際に公演を観て、りせくんが歌をがんばったことは、よーっくわかった。練習したんだねえ。
 その昔、マリコさんがトートをやっているときものごっつー太ってたが、「さきちゃんは歌を歌うために、先生の指導でわざと太ったのよ」とファンの人が言っていたから、りせも同じなのかもしれない。
 スマートなままのりせでは、歌えなかったのかな。あのフェイスラインが、声を出すために必要なのかも。

 とゆー、りせエリック。歌はいいんだ。思っていたよりずっと歌えている。それはよかったんだけど……えーと。

 りせ、演技してた?(笑)

 わたしは「りせエリックを見てみたい」と思っていたひとりだ。
 だがそれは、宙『ファントム』の話だ。花組公演の幕が上がる前の話だ。

 まだまともに本公演語りしてないのでアレだが。
 初演の宙『ファントム』と今回の花『ファントム』では、エリックのキャラクタが、別物だ。

 わたしが「りせで見たい」と思ったのは、宙エリック。
 ゆがみと毒を持った無邪気であわれな殺人鬼だ。
 花の、いたいけなお子ちゃまエリックが見たかったわけぢゃないっ!!(笑)

 もちろん、明確な演出意図があって、花エリはお子ちゃまなのだろう。実際脚本も変わっている。
 大人の男もゆがんだ怪人も演じられる役者があえて「いたいけな子ども」を演じる深さもわかる。
 でも、「見た目がガキ」なのも事実。
 ……その「見た目」を、まんま写されても、こまるよ。

 「大人」が「ガキ」だから意味があるのであって、「大人を演じるスキルがないから、まんま子どもです」とやられても、反応に困る。

 えーと。
 りせエリックって、高校生くらいかな? 外見も中身も。うまくいっているときはおとなしいけど、キレると突然怒鳴ったりする男の子。怒鳴るだけで、暴力はふるわない。あ、テーブルの上のモノを落としたりとか、モノにあたることはする。へなちょこだけど、へなちょこだと思われるとムカつくので、学生鞄にはいつもナイフを入れている。使ったことはない。中学のときはいじめられっこだったので、遠くの高校に進学した。今でも家の近所でいじめっこを見かけると黙って遠回りをする。趣味はインターネット。
 ……てゆー感じ?(首傾げ) や、深い意味はないっす。

 歌はよくなっていたけど、それ以外の部分に疑問符がとびかってしまった。
 どういう役作りだったんだろう。わたしにはそれがわからなかった。

 宙の「怪人」エリックが本役だったら、りせも本気でかっこつけて、毒全開で演じてくれたのかなぁ、と、ソレがちと残念だ。
 いや、オサを手本にしてただのヘタレくんにしちゃうくらいだから、たかこが手本だとしても意味はなかったかもしれないが。

 そこにいるのがエリックであるのか、エリックだとしてなにを考え、なにがしたいのかよくわかんなかったんだけど……GOGOりせ! 負けるなりせ!!

 途方に暮れたよーな立ち姿がかわいいぞ(笑)。

 
 でもってヒロイン・クリスティーヌ@きほ。

 きほちゃんのいいところは、いつも戦闘意欲に満ちあふれているところ。

 プライド高いんだろーな、気ィ強いんだろうな、と見ていて思えるところ。
 舞台人として、それらは美点だと思っているよ。

 ただ。

 戦闘意欲満々のクリスティーヌって、役柄的にどうなの(笑)。

 いや、やる気にあふれていてすばらしいっすよ。
 もー、笑顔全開でねー。その笑顔が、「クリスティーヌの笑顔はこうよ、こうっ!!」という気合いのもとにはりついたよーな笑顔でねー(笑)。

 う・わー。
 すごいことになってんなあ。
 と、たのしく注目してました。

 実際、プレッシャーも意気込みもすごかったろうと思うよ。
 本役の彩音ちゃんが歌の実力不問、雰囲気重視のクリスと言われているだけに、本来の歌姫クリスとして実力を発揮することを前提とされていたもんな。
 引くに引けない状況というか。

 見ている側の期待が大きすぎたせいもあるのだろうけれど、最初歌声が安定しないのがとても気になった。
 きほちゃんならもっと歌えるよね? と、思ってしまうから。

 そーしていつでもにこにこ、はりついたよーな笑顔。

 えーっと。
 そーゆー役作りなんだろうか。

 わたしには、クリスティーヌがアタマのゆるい女の子に見えた。

 知能の発達がひととチガウもんだから、なにを言われてもわからない。世界には善意しかないと信じて、いつもにこにこしている。バカにされても笑われても、だまされて毒を飲まされても、腹をたてることすらない。なにもわかっていない。ただ、笑い続ける。
 エリックをこわがらないのも、そのため。
 キャリエールが「危険だ」と言う意味も、まったくわかってない。
 「顔を見せて」とエリックに歌いかけるのも、なにもわかっていないから。そして、顔を見て逃げ出すのも、なにもわかっていないから。
 カラダは大人、でも知能は幼児程度。

 そーゆー役作りも、アリだと思う。
 ドラマとかに出てくるそういうハンデを持って生きる人たちは大抵「天使」として描かれるし。
 クリスティーヌが「天使のように純粋な心を持った少女」だなんて嘘くさい、ほんとーはたんに幼児程度の知能しか持っていないから、計算だとか他人の悪意だとかがわからなかっただけよ。……という解釈もリアリティがある。

 リアリティはあるけど……わたしは、ちょっと引いた(笑)。
 こわいよ、このクリスティーヌ……。
 あの、心の見えない、いつも同じはりついたよーな「天使の笑顔」が……。

 きほちゃん、やっぱなんか、やりすぎてないか……? 「天使」だとか「母性」だとか「慈愛」だとかを表現しようとがんばりすぎて、チガウものに到達しちゃった?
 気合いが入ってるのも見えるんだけど……その力こぶも含め、ありえない「笑顔」がこわいよー。『スカウト』の、気が触れていたときのサーシャと同じ笑顔っつーのは、やばいだろクリス……。

 このちょっとホラーなクリスティーヌと、ヘタレわがままガキのエリックは、似合いといえば似合いだったが、ふたりでいても互いに愛がまったく見えないあたり、どーしたもんかとうろたえた。

 おもしろいなあ、新公。しみじみ。


 なんつーか、疲れる作品だった、新人公演『ファントム』

 出演者以前、物語の構成っちゅーか短縮具合が。
 2時間半の公演を、1時間半強にまとめるのは、そりゃー大変だろうと思う。小柳せんせーとか、いつも見事に失敗しているし。
 ストーリーラインを追うのをあきらめて、ただのハイライト集にするか、それとも初見の人にもストーリーがわかるようにダイジェストにするか。アプローチは複数あるし、実際にどう料理するかはさらに可能性が広がっている。
 はじめて名前を聞く新人演出家・生田大和氏は、「ダイジェスト」を選んだようだ。
 そしてその、「ダイジェスト」の作り具合がね……なんつーかねー……。

 「43字×17行で1Pで、250Pにまとめてくださいね」と言われて書いていた文章が、「すみません、なんか延びちゃって、今数えたら300Pあるんですよー、どうしましょー」なんてことになったとして。それで「仕方ないですねー、じゃあそれでいいです」と言ってもらえりゃいいが、「困ります、50P削ってください」と言われるときもあるわけで。
 その、削るとき、どうするか。
 そりゃーみみっちく、1文字1文字削るのですよ。1行と1〜3文字くらいで終わっている文章があったら、句読点を減らしてみたりひらがなに開いてあった文字を漢字にしてみたりして、44字目が 。 で終わるようにしたりな。句読点は文章末に無理矢理挿入されるから、これで1行稼げたぞ、しめしめ。みたいな。
 場面転換のとき2行開けていたのを1行にするとか、ちょうどページが変わるときに章が変わるように、17行目でその章のラスト、次のページの1行目からは新章の見出し、とか、とにかく余白を作らないように行数操作しまくる。
 それで規定枚数に収まればいいし。
 もし収まらなかったら今度は、文字や行数の話ではなく、文章の内容にもメスを入れる。
 会話のやりとりになっているところを、ひとりで相手の疑問点までも全部一気に説明することにしてみたり。会話やエピソードに開いて進めていた説明を、地の文で概要だけ説明して終わらせたり、サービス会話やシーン程度ならさくっと削ってみたり。
 とにかく、「本筋」に関係ないところを、できるだけ本編のカラーを変えないように削ぎ落としまくる。

 表紙先入稿してある同人誌とかね、勝手にページ数増やせないときとか、自分で段組変えたりポイント数変えたり、とにかくちまちま削るよ。

 ……ソレを、思い出した……。

 『ファントム』の「あらすじ」を書いたら、こうなりました。……って感じなのよ。

 そこにあるのは「本筋」だけ。大本に関わること以外は全部削ぎ落としました。残ったのは「あらすじ」だけです。てか。

 それも、ものすごーく細かい、神経質な削り方。
 場をまるまる削るよりも、1場で台詞を7個削って2場で4個削って、3場で6個削って……というふうに、全体的にちまちまと削ってある。
 物語を進めるための、キャラクタを解説するための、最低限の台詞だけ残して、あとは削る。話の途中であっても以下略、てなふーに削る。

 本公演の脚本を広げ、赤ペンとストップウォッチを持って、「この台詞、削れるな。よし! 5秒短縮に成功。こっちの台詞も削れるな。おお、7秒短縮に成功!」とやっている姿が目に浮かぶよーな……。

 そーやって「本筋」以外残らなかった『ファントム』は、派手なシーンやお遊びシーンがなくなり、それだけならまだきれいな衣装がなくなっただけだからいいけど、さらに余白だとか情緒だとかいうカタチにならないファジィなものまで全部、つまり顔やカラダの肉まで削ぎ落とした、骨だけになった。

 まちがってないよ。
 本筋は残ってるから。骨格標本みたいな姿になっはいるけど、まちがってない。骨はどこも欠けていないし、ゆがめられたわけでもない。
 ただ……。

 疲れた。

 本筋しか、ほんとーに必要な台詞やシーンしか存在しない芝居を1時間半強も見せられて。

 最初から「無駄なモノは一切ない」という作りのものではなく、仕方なく「削ぎ落とした結果」だからさー。「本筋」以外の部分がないと、バランス悪いんだわー。計算されてないんだもん、ぜんぜん。
 リズム悪い、ノリが悪い、つまらな……ゲフンゲフン。

 「まちがってない」から、いいんだけど。
 でもわたし、この略し方、好きぢゃないなぁ……。自分が文章削るときに、「こんなふーにはならないようにしよう」と、反面教師にしたくなるですよ、はい。

 生田氏は真面目な官僚気質で冒険はしないタイプかな。創意工夫より定型重視というか。加点を狙うより、減点をおそれるというか。
 ソレはソレでアリだと思います、はい。

 出演者の話は、また欄を改めて。


 「他に代えが利かない、特徴的な一品モノ衣装を、まっつとめぐむが共用する」のが萌えなのよ!

 あの小さくて華奢なハムスターみたいなまっつの衣装を、でかくてごついドーベルマンみたいな顔のめぐむが着る!!
 それって萌えでしょ? ねえ、萌えだよねええ?!(どっか歪んでます)

 だから、謎のローマ兵士もカルメンも、期待していただけに、しょぼんだったのですよ。ええ。

 『ファントム』新人公演「プチめぐむ総見」話のつづき。
 

 ビストロは黒ジャケットだから別衣装でも見た目にはわからず。いくらでも同じデザインで別サイズがありそーな衣装だもんなー。
 まっつリシャールとは「タイターニア」関連の表情がちがったが、役作りがチガウのかな。本役の方がわたしには「?」なので、素直にクリスティーヌの幸運をよろこんでいるめぐむの方が納得。

 そして、いちばんのおたのしみだった、オーベロン。

 えー、ある意味、期待には応えてくれました。nanakoさんはヘコんでいたが、わたしは大ウケ(笑)。

 さすがにオベ様の衣装はまっつと同じでした。あれほど特別な衣装を、他に差し替えはできなかったらしい。
 だけど。

 かぶりものがチガウ!!

 まっつの金髪ストレートヘアではなく、パーマのかかった金髪ロン毛でした。
 うわっ、イケてねええ!!
 男役が陥ってはならない最大のモノ、「おばさん」に見えるぞ?!

 何故だめぐむ。何故そのかつらを?
 まっつのを借りても良かったんじゃないか? ソレが衣装に合っていることはわかっていただろうに。

 やっぱり、そのう……アタマが大きいんですか、めぐむさん?
 まっつとサイズがチガウのは、カラダのみならず、アタマもLARGEなんすか……?

 カツラがイケてなくて、ビジュアルが相当アレになっていたし、やっぱりオベ様の歌の歌い出しは難しいんだなあと再確認しつつ(まっつも歌い出しはイケてないことが多い)、めぐむオーベロン堪能。

 だって。
 だってさ。
 あのトンデモない、ヤママユガ@どうぶつの森みたいな衣装なのよ?
 なに考えてデザインしたんだ責任者出てこい!な衣装なのよ?

 それでも、めぐむってば、着こなしてるの!!

 や、まっつオベ様との大きなちがいはね。

 めぐむオベ様だと、手がちゃんと出ているのよ!!(笑)

 まっつだと、肘から先しか出てないの、手。だからものすごーく虫くさいというか、着ぐるみっぽいんだけど、めぐむだと衣装になっているのよ。

 すげえ! 手が、手が出てる!! 肘より上が出てるよ、間接がわかるよ!!

 ひとりで、大ウケ。
 ふたりが同じ衣装を着ている! 萌え〜〜!! と、たぶん誰にも理解されない萌えにこころふるえていたわたし。
 まっつの役をめぐむが、とゆーと、どっちも好きな者にしてみれば二度オイシイよなー。

 このおたのしみシーンも、カットされていて、短かった。
 ファントム登場の後はさくっとカット、警官隊VS従者だもん。シャンデリア落ちがないなんてー。オベ様衣装でおびえおののくめぐむが見たかったのにー。

 で、あとは回想シーンのコロスと、ラストシーンのモブぐらいしか出番ナシ。ラストシーンのしどころのなさは本役と同じ、ただコロスは人数が少ないせいか、本役より立ち位置がイイ(笑)。
 コロスはこわい顔で……ゲフンゲフン、シリアスな顔で踊っているので、かっこいーめぐむさんを堪能できますよっと。

 リシャールっていうのはかわいい役なんだなと、めぐむを見て実感した。
 や、だってめぐむさん、あの体格ですげーかわいこぶってるんだよ?(笑)
 大抵にこにこしていて、ムッとしたりなんかもいちいち若々しくて。
 そうか、そーゆー役回りだったのか、リシャールって。めぐむが若ぶってかわいこぶってると、なんか新鮮だ。(オサ様より老けていると太鼓判押されている若手だからな@オサコン)

 めぐむ、あの顔なのになあ。
 美形ではぜんぜんないし、笑っているより怒っている顔の方がかっこよくて、でかくていかつくてちょっといびつな熱があって。
 思い切り鬼畜な役とか見てみたいなー、と思いつつも、ファンシーなリシャール役もたのしかったよー。(ファンシーなのか)
 顔と老け具合に合ってない役が、かわいくて。
 

 いやはや。
 たのしかったですよ、「プチめぐむ総見」!!
 ふたりしかいなかったけど、ふたりしてえんえんめぐむ追いかけて、観劇後もめぐむの話ばっかして!(笑)

 あ、わたし的にめぐむは攻キャラですから!(脈絡なく、立場表明)


「プチめぐむ総見だ!」

 と、nanakoさんとふたりで息巻いた。

 プチもなにも。ふたりしかいないし。

 『ファントム』新人公演、わたしたちは2階A席最前列で並んで観劇っす。友会席なのに、並びで手に入るってなにソレ。そんなの偶然とは言わないわ、必然よね。神様が、わたしたちに「めぐむ総見」をやれって言ってるのよねっ?(笑)

 つーことで、めぐむスキーふたりして新公観劇。や、わたしとnanakoさんでは好き度がちがいすぎるので、一緒に語っては叱られてしまいますね。nanaタンは本気でめぐむファンですよっ(笑)。わたしはあくまでも、めぐむ好き、レベル。ええ、nanaタンの足元にも及びませんとも!

 それでも、めぐむをがっつり見るという共通意識によって並んだふたり。

 めぐむの登場から立ち位置まで、まかせて! なわたしは、まっつファン。
 つまり、まっつの登場のタイミングや立ち位置をおぼえているので(笑)、自ずからまっつの役を演じるめぐむのことはわかるのよ。

 といっても、めぐむひとり見られればそれでヨシなわけではなく、新公全体をたのしむ気満々だから、最初の方はめぐむひとりに注目していたわけてもない。パリのシーンとかね。ふつーに真ん中も見なくては!

 一通り登場人物を見渡し、余裕が出来たのがオペラ座になったころ。

 ええ。
 オペラ座シーンがはじまるなりあたしゃ、隣のnanaタンをつついてたよ。

 めぐむの衣装がチガウ!!

 めぐむがまっつのリシャール役をやるとわかったときから、「衣装」にはわくわくしっぱなしだった。
 リシャールってばとにかく 微妙 ……豪華な衣装を着せてもらってるからさー。
 オーベロンだけは最初からわかっていたけど、カルメンの闘牛服(エスカミリオぢゃなくなったし)と、謎のローマ兵士(兜付き)も実際見てみればステキに豪華(笑)な衣装だった。
 アレをめぐむが着るのかー……てか、服、入るの? めぐむ、まっつよか縦にも横にも、大きいよねえ?

 今回のリシャール衣装の中で、オーベロンを超えてトンデモ服は、謎のローマ兵士だ。初日に見たときは、爆笑したもんよ、まっつ。
 トサカ付きの兜をかぶってるんだけど、それがまっつの細長く幸薄い顔を覆い隠す勢いで、まっつの泣き顔@ニュートラルな表情を誇張して、ものすっげートホホなのっ!(笑)
 うっわー、なさけねー。イケてねー。幸薄さを際立たせているわ。泣き顔(本人的には笑顔)がさらにえらいことになってるわー。と、大ウケした姿。

 あれを、めぐむがやるんだよねっ?! まっつがかぶってトホホ全開なあの兜を、めぐむがかぶるんだよねっ、わくわくっ!!
 まっつとめぐむでは、フェイスラインもちがいすぎて、同じ兜をかぶったらどんなことになるのか、想像するだけでたのしい。

 そーやって、ことあるごとにnanakoさんとネタに……いやその、期待して語り合っていた、謎のローマ兵士姿なのに。

 衣装がチガウって、どーゆーことっ?!

 3兄弟の登場ポイントは熟知しているから、真っ先に反応したよ(笑)。

 めぐむが、謎のローマ兵士ぢゃない! そのかの衣装を着ている!!

 何故?
 なんでわざわざ、ここだけリシャールとラシュナルの衣装を取り替えたの?

 そりゃ、めぐむにはそのかの、派手なエジプト兵衣装が似合っていたけど。大柄で縦横ともに見栄えのするめぐむは、某星組の武将トリオみたくかっこいいのだけど。

 なんでまっつの衣装ぢゃないのよおお?! あの微妙兜姿を見たかったのにぃ!!

「上着はなんとでもなると思うし、やばいのはボトムだけど、まっつのローマ兵士はボトムがタイツだから、サイズ関係ないと思うし。……やっぱり、問題は、かぶりもの?」
「かぶりものが、入らなかった
とか……?」
「アタマが大きいから? 兜の大きさは調節きかないよね?」
「顔全部、頬まで覆い尽くすデザインだから? 頬骨がネックになって、入らなかったとか?」

 あとになって、そんなふーに考察しましたが、ほんとのとこはどうなんですか? 誰か教えて下さい。

 次のおたのしみは、なんといってもカルメン。
 衣装変更が大幅にアリだとわかってしまったから、さらに見逃せない!! まっつと同じ衣装を着るのか? 裾の処理だけでなんとかなるものなのか? お衣装部さんの腕やいかに?!

 と、思っていたら。

 「カルメン」、カットだし。

 めぐむの群舞センターが見られないなんて!! 落胆。

 だいもんなんか、すげー張り切って白い軍服着てるのにさあ……あの人なんであんな格好してるの状態でさあ……せつないなあ。
 あ、闘牛服を着ている人たちはいいのよ、「カルメン」だから。だいもん、かなし……。

 や、出番ほとんど削られたとはいえ、いちおーめぐむは赤い闘牛服を着ています。
 が。

 まっつとは別衣装!!

 やっぱり、入らなかったか!!(笑)
 サイズさえ合えば同じ服を着るのが基本だよね? なのに、特徴的な衣装が2着とも別衣装とは。やっぱ、まっつとめぐむでは体格ちがいすぎるんだよなあ。

 まっつが着ているのは、肩章までしっかりついた、上から下まで金モールだかの縫い取りがある派手派手闘牛服。
 なのにめぐむが着ているのは、飾りのほとんどない地味服!
 なんぢゃそりゃー! いくら他の服にするしかないからって、ソレはないだろ? 群舞用のひとやまいくら衣装でしょ、ソレ!!

 同じような色味の闘牛服、ということで、アレしかなかったのかなあ。しょぼん。

長くなりすぎたので、とーとつにぶった切る(笑)


 何故、バウホールなのか。

 不満だった。
 不思議だった。

 トップスター主演のオギー新作、というだけで、客が入ることがわかりきった公演。
 そこに、そのトップスターが退団発表。

 ……バウホールなんかじゃ、足りるはずがない。

 何故、「観たくても観られない」状態をつくる? ダフ屋を儲けさせるためか?
 商業演劇である以上、需要に釣り合った供給をするべきだろう。『花供養』を日生で1ヶ月も公演した経営観念ゼロ集団に言っても無意味なのか?

 朝海ひかるバウ・スペシャル『アルバトロス、南へ』

 仲間たちのがんばりのおかげで、わたしにもチケットが回ってきた。ありがたく青年館に駆けつける。

 
 
 
 何故、バウホールなのかがわかった。

 
 
 
 これは、バウでやることがテーマのひとつなんだ。

 あの小さな、濃密な空間で演じること。
 それが、必要不可欠なんだ。

 ええ。

 オギー全開。

 ごめんわたし、なめてた。
 最近のオギーはもう、痛いものを作らないのかと思っていた。やさしいもの、わかりやすいもの、世間に迎合した大人なものしか作らないのかと思っていた。
 それは成長だと思う。思うから、さみしいけれど許容していた。

 チガウ。

 オギーは、オギーだ。

 ハコに合わせ、客に合わせて濃度を変えているだけだ。

 ここはバウホール。
 小さな、濃密な空間。
 チケットなんか、ふつーの人には取れない。

 そう。

 ふつーの人なんか、観に来なくてイイ。

 超チケ難を乗り越えて、人脈でも金でもいい、手段を選ばずあの小さな劇場にやってくる情熱を持った人だけをターゲットにした、そーゆー作品。
 ディープなコムファン、もしくはオギーファン、観ていいのは彼らだけ。
 一見さんだとか一般人だとかをふるい落とすために、バウホールなんだ。

 だって、ふつーの人のこと、まったく考えてないよ?
「ついて来られる者だけ、ついて来い」てな作品だよ?
 や、それでもオギーだから、仕掛けをいっぱいして、ふつーの人でもたのしめるように誤魔化しているけど。
 ほんとーのターゲットは、「バウホールに集まるコアなファン」だけでしょ?

 青年館だって、ほんとーは必要なかった。
 コアでディープなファン以外が入り込む余地がある。彼らを置き去りにしてしまう。また、ハコの大きさと環境の悪さが作品の足を引っ張っていたことも事実。なんなんだ、あの音響の悪さ!

 バウホールで、舞台も客席も巻き込んで別次元までトリップすることが、この公演の意図なのだと思う。

 
 1幕は、言い訳のようにふつー。
 そして2幕で、牙を剥く。
 4人のヒロイン、ひとりめ、ふたりめ、さんにんめ、過去のコム出演作品をめぐる物語。
 そして真髄、よにんめのヒロインが現れる物語で、オギー芝居は最高潮を迎える。

 わたしは、コムファンでなくて良かった。

 コムちゃんは大好きだけど、いちばんのご贔屓ではない。
 よかった。

 よにんめのヒロイン、いづるんとの物語でわたしはもう、叫び出しそうだった。
 しゃくりあげる声を抑えるのに必死だった。

 こんなおそろしいものをみせられて、正気でなんていられない。

 コムファンでなくて良かった。
 いちばんのご贔屓じゃないのに、観終わったあとに立てなくなった。泣きすぎて貧血起こすのはわたし的にめずらしいことじゃないけど(迷惑な)、過呼吸起こして手が痙攣起こしたのははじめてだ。

 ファンじゃないのに、ここまでクるのよ?

 あたしがマジなコムファンだったら、死んでるよ!!

 コムが「オギー役者」だということはわかっていた。
 オギーのもっともオギーらしい部分を表現しうる役者だということは、わかっていた。
 オギーがオギー役者のために、オギー作品を書いたら、どうなるのか、ずっと観たいと思っていた。

 こうなるのか。

 あの芝居、タカラヅカでやっていいの?

 やばいだろ。

 オギー、ほんと今まで、手加減して書いてたんだねえ。『マラケシュ』とか他のショー作品とか、ほんとに大衆を意識して、薄めて作ってたんだねえ。

 2幕の毒は明確な刃となって「朝海ひかる」を表現する。

 そして、長すぎるフィナーレで言い訳をする。
 物語の毒がきつすぎたことを、フォローする。

 まったくのフォローにはなってないんだけどね。
 ここで『パッサージュ』やっちゃってるからさあ(笑)。痛さは健在。でも、見た目の美しさで毒を「共鳴する人にだけ」限定して流しているので、健康な人たちには大丈夫だろう。

 
 
 青年館は、散漫すぎる。
 この作品の真骨頂は、バウホールでのみ味わえる。

 この作品は、人を選ぶ。
 だから、無理をして観る必要はない。
 この作品を「必要」だと思う人だけが、どんな手段でもとって、バウホールへ行くべきだ。
 この作品をわからない、つまらない、不要だと思ったって、そんなのぜんぜんかまわない。
 最初から、ターゲットを明確にしているだけのこと。人間の数だけ感性と価値観はあるのだから、観る側が「選ぶ」べきだ。

 
 わたしは、バウホールへ行きたい。


 大輪の華は、ドコに?

 タカラヅカは男役社会。重要度はハンパぢゃない、男役さえ充実していれば、娘役なんかただの添え物だからどーでもいー。

 ……と、いうのはわかっている。わかっているよ。『Young Bloods!! 』だって、男役中心にしか作られていないし、企画されてもいないさ。

 でもさー。
 『Young Bloods!! −魔夏の吹雪−』を観て、痛感したの。
 華のある娘役の必要性について。

 若手ワークショップですから。技術がつたない、見せ方ができていない、という前提は理解している。そのうえでの話ね。

 第2部の「肝心KANAMEショー!!」ってば、今までのサイトー作品の焼き直し基本テイストだから! つまり、スターが演じたモノを、名もなき若手たちがそのままスライドして演じるわけだから!

 ……華のなさ、輝きの少なさに、愕然。

 オリジナルぢゃないもんなー……仕方ないよなー……。若者たちに、若者たちが輝く場面を作ってやればいいのにさー。

 それでも男役は、主役としての場が与えられたかなめくん、力技で輝くせしる、なんか別方向に花開いているそらがいるから、なんとかなっているんだけど。
 娘役がなー。

 えみくらって、かわいかったんだなー。檀ちゃんってほんと美しかったんだなー。

 と、遠い目をしてしまいました……ごめんよぅ、若者たち。トップスターと比べられても、「畑違いよ、勘弁してよ」てなもんだよなあ。

 さゆちゃんや愛加あゆちゃんは、もっとかわいいというか、目を引く輝きのある子たちだと勝手に思い込んでいたので、その地味さにおどいた。
 や、わたしの期待値が高かったせいかもしんないけどさ。

 神麗華ちゃんはうまいと思うし、森咲かぐやちゃんも平均値はふつーに超えていると思うんだけど。でも、別格的な風格が漂っていて、「ヒロイン」系の光は感じられなかったしなあ。
 

 雪組は、手堅くうまいよねみんな。
 各組新公やワークショップ制覇しつつの感想。
 月はおとなしく、花はヘタ(笑)だけど意欲アリ、星は発散型。
 そして雪は堅実。下級生までみんなそれなりに、及第点は押さえている印象。
 そのせいかなあ、抜きんでた「華」が感じられないのは。

 ここで一発、ものすげー美しくて垢抜けた雰囲気の娘さんがいたら、ショー自体が華やいだと思うんだけどなあ。
 美貌、という点で群を抜いているのが男役3人のみ、つーのはなあ。

 にしても、ネコ耳は微妙だったけどな、どいつもこいつも(笑)。

 「ヒロイン」役者は、必要だ。
 さゆちゃんと愛加あゆちゃんがその修行中なんだろうか。ぜひがんばってくれ。
 今回の、芝居の方のあか抜けなさ、もっさりした衣装の着こなしなんかもあわせて、おぼえておくよ。これからの成長がたのしみなように。
「あのイケてなかった女の子たちが、こんなに美しい大輪の華になって……」と、将来ババア懐古モード全開で語れる日が来ることを期待している。


 さいとーくんはほんと、引き出しの少ない人だなあ。
 『Young Bloods!! −魔夏の吹雪−』第2部のショー「肝心KANAMEショー!!」を観て、つくづく思った。

 どこかで観た、過去の齋藤作品のつぎはぎかよ?!

 いやまあ、わたしはさいとーくんテイスト好きだから、焼き直して使い回してくれても、べつにいいっちゃーいいんだけどね。
 ナゼかBGMにエンキ氏が協力していて、琵琶が景気良く鳴りっぱなし。作品の雰囲気作りに役立つ……というより、エンキ氏の演奏に、頼り切った状態。
 コレ、エンキ氏の音楽がなかったら、もっとサムいことになってたんだろうなあ。

 過去作品の焼き直しだから、これといった失敗もなく、ふつーに「ショー」になっていたんではないかと。
 ただ。

 ショーってのはほんと、真ん中の仕事が大きいんだなと。

 真ん中の人が出すエネルギーがハンパぢゃないもんなのね。真ん中が「ふつー」程度の熱量を放出しても、ソレは「負けている」状態になるもんなんだ。

 バウホールでショーをする価値が、わかるよ。
 「真ん中」の力が如実にわかる。

 星『ヤンブラ』は、真ん中がれおんだった。彼はエリート中のエリート、過保護なまでに、「絶対転ばない道」だけを歩まされてきた御曹司だ。
 重ねてきた経験は無駄にはならず、きちんと「真ん中」の仕事をしてみせた。

 花『ヤンブラ』のそのかは、ええっと、「真ん中」教育をカケラも受けていないし、これからも真ん中に立つかどうかアヤしい立場の人。熱量はあったけれど、「ショー作品」の真ん中を締める人ではなかったと思う。経験値をあげたことで、さらにいい男になり、これからさらに活躍してくれることを期待しているけど。こののち「大劇場」の「真ん中」に立つべき人かというと……ええっと。

 月『ヤンブラ』まさきは、そのかと同じく「真ん中」教育をほとんど受けていなかったにもかかわらず、本人の強い強い意志で「ここが真ん中!」を示していた。技術もあるにはあるが、それ以上に力技で輝くことを知っていた。

 3組続けて観てきて、今回で4組目。
 雪『ヤンブラ』かなめくんは、「真ん中」教育を受けてきた人だと認識している。正確には、受けている途中、かな。学年的なこともあるが、現時点でまさきよりはぜんぜん路線ど真ん中のエリートくん。このまま行けば、何年後かにはトップスターになるんだろうな、という線路を順調に走る男の子。

 しかし……。

 薄い。

 芝居の方でも、彼が主役に見えなかった。もちろん、美しさにおいて彼にかなう者はひとりもいないのだけど。
 芝居はせしるが力技で持っていったからなあ。役がオイシイとかいう以前の問題で。

 「真ん中」としての仕事はしている。言われただけのことはちゃんとやっている。
 でも、「それだけ」なんだよなあ。

 空気が動かない。
 彼が自力で空気を動かしていない。場面が変わるから雰囲気が変わるだけで、彼自身のオーラでなにかをしている節はない。

 たとえばトップスターは自分で空気を動かす。発散するエネルギーで、目に見えないレベルの「なにか」を変化させる。
 ソレを、大劇場クラスのハコでやってのけるから、トップスターってのはほんとに尋常じゃないと思うよ。あの広大な空間で、団体客とか一見さんとか、そもそも「舞台を観る意識」のない人までもが一定数混ざっている場所で、空気を掌握するのって、常人に出来ることじゃないって。

 そんなトップスターの仕事とはチガウにしろ。
 バウホールという小さなハコで、観客のほとんどが高密度の意識で舞台に集中している「若手ワークショップ」という恵まれた状況で、「真ん中」が空気を動かさなくて、どうする。

 「言われたこと」だけやってるんじゃなく、「それ以上」のことをなりふりかまわず貪欲にやらないと、「空気を動かす」ことはできないんだよなあ。
 タカラジェンヌはみんな真面目だから、「言われたこと」「やらなきゃならないこと」はほんとに一生懸命やるけど、「それ以上」はやっぱ難しいのかな。
 「それ以上」を出せる人と出せない人に分かれるのかも。
 ふつーの「常識的な人」とか「いい人」には、難しいんだろうなあ。ひととはちがった、あるいはなにかしら「いびつな」ものを持った人が、「それ以上」を出すのかもしれない。

 そのかといい、かなめくんといい、ふつーっぽいもんなあ、感性が。
 超エリート人生、「ワタシ、生まれたときから非凡ですから!」という体制で育てられたれおんや、「ワタシ、性格悪いですけど、それがナニか?」みたいなまさきとはチガウんだろうなあ。
 や、ただの勝手な感想ですよ、いい人悪い人なんて。わたし、誰のことも個人的に知りませんから。

 かなめくんから感じるのは、「ふつーの人」ということ。
 卓越したスタイルや、美貌は充分非凡なんだけど。人間的に、「ふつーの人」の範囲なんだろーなと。

 かなめくんの男役姿はきれーでかっこよくはあるけれど、そこに「きれいでいよう」「かっこよくあろう」という意識は見えるけれど、「このオレの美しさで、ファンを虜にして人生誤らせてやろう」なんて意識はカケラもなさそーだったってこと。
 ファンを「美しさで、よろこばせたい」とは思っていても、「美しさで、泣かせてやりたい」とは思っていなさそーだってこと。

 えーと。
 ファンなんて、破滅させてナンボだよねえ?
 自分の舞台を観るために給料全部注ぎ込んで毎日通い、高価な貢ぎ物して当然、いやむしろそーゆーファンをあたりまえにたくさん抱え込まなきゃダメだよねえ?
 ファンの人生なんか、狂わせまくって、自分のためだけに生きさせなきゃ、ダメだよねえ?
 なにひとつ犠牲にせずにヅカなんて金のかかる趣味、やってらんないよねえ。ファンはなにかしらスターに「捧げて」いるんだよねえ?
 ……そういう結果になることを上等だと思って、「真ん中」に立たなきゃダメだよねえ? きれいごといったって、つまりはそーゆーことなんだし。
 そして、それに見合うだけのモノを舞台の上から「返す」のがスターの仕事だよねえ。

 これからかなめくんがどう育つのかはわからないが、現時点で「真ん中の意識」が薄いように思えた。
 そしてそれが、彼の芸風の薄さになっているのだなと。

 かなめくんがあのスタイルと美貌で、「真ん中」として空気を動かす力を得てくれたら、どれほどすばらしいことになるだろうと思う。
 その未来を、見てみたいと思うよ。心から。

 
 ただ現時点では、あの小さなハコの空気すら動かせない、そもそも動かそうと思っていないように見えることに、落胆する。


 『Young Bloods!! −魔夏の吹雪−』においてさいとーくんは、タカラヅカがやってはいけないものをいろいろと例をあげて教えてくれた。その点、石田昌也と同じだな(チャーリーファンの友人は、未だに「ライト兄弟最悪!」と恨んでるぞ。なんでそんなもんをヅカでやる必要があったんだ?)。

 デリケートな問題、とか一般常識の話ではなく、「タカラヅカ」としての「ビジュアル」の話。

 太平洋戦争とその時代。……ヅカでやるにはあまりにも、美しくない。モンペと坊主頭の時代だよ……。江戸時代の青天以上にひどいな。明治の散切りとどっちがマシだろう……明治の方が女性が華やかだから、そっちのがマシか……。
 日本兵せしるの「長髪」(坊主頭以外は長髪、しかも前髪アリ)が違和感ありまくり。

 野球。……野球のユニフォームって、問答無用でかっこわるいよね……古くさいよね……。ジェンヌが着て痛々しいもののトップ5に入りそうな勢いで無惨な姿をさらしてくれた。かなめとせしるが気の毒っす。

 終戦後の描き方も、オシャレにまとめあげるセンスを持たない人がやると、ものすごーくダサい昭和歌謡な世界になる……。
 レトロ、という魔法のフィルタをかけないと、とんでもなくアレな世界になるんだなぁ。いやその、外部の演歌歌手主演の芝居なら、それでいいんだけど。観客の平均年齢と求めているものに合わせてさ。でもヅカではなー……きっついなー。

 「タカラヅカでコレはないだろ」をしこたま詰め込んで、萌えでコーティングしたトンデモ芝居。
 とにかくみんな、話に詰まると死んでいく素敵展開。

 でもってさいとーくん、W主演でないと、話を描けなくなっている?
 さいとーくんの萌えは「男同士の愛憎」(女は飾り)だから、愛し合い憎み合う男ふたりが同等でないと成り立たないのね。
 かなめとせしる、W主演だよねコレ?
 てゆーか、せしる主役でかなめは狂言回し?
 さいとーくんいつも、受を主役に物語を回すよね?
 それは正しいんだけどね。観客が女性だから、受視点で描くのは。BLでも受視点が基本だし。でもさいとーくん、オトコだもんな、たぶん。オトコでニュートラルが受視点ってすげえ。

 女が飾りだとか言い訳だとか、実体を持たない聖女だったり母親だったりするのは、さいとー作品の常だが。
 それにしても今回、女の子の扱い、ひどすぎるだろ。

 ヒロイン小百合@さゆちゃん、見事に人格ナシ。
 「ヒロイン」と書いたお面つけて突っ立ってるだけのお人形。ありえないパーソナリティ。

 なにもかもにアゴが落ち続けたが、小百合の死にっぷりと、かなめの後追い心中にはマジでアゴが落ちた。
 死ぬ必要はまったくないふたりだが、萌えのためには、死ぬしかなかったのだ。女は邪魔だから無理矢理殺して、後腐れなく兄弟心中GOGO!

 そらくんがあまりにたのしそうに演じている、「ヲイヲイ、いくらなんでもコレはないだろ」米兵とか、書き割りみたいな「お約束」キャラだけでできあがった戦後日本とか、展開のトンデモぶりにセンスの悪さを加えて大暴走!!

 こんなにヤバイ題材を使っていなかったら、わたしはきっと腹を抱えて笑っていたと思うよ。トンデモすぎておもしろい!って。
「ソコで死ぬのかよヲイ!」とか、「心中キターーーーッ!!」とか。
 笑えなかったけどね、今回は。あきれたっちゅーか、途方に暮れた。

「こまった……」
「こまったね」
「どうしよう、コレ」
「どうしよう」
「雪組、大変だ……」
「かなめくん、大変……」

 芝居の幕が下りるなり、わたしとnanakoさんは途方に暮れてそんな会話をしたさ(笑)。

 がんばれ雪組。
 それでもとりあえずは熱演だ。

 キャストが熱演しているだけで、そしてどんな脚本でも人が死ぬだけで、泣く人は泣くから、えーっととにかく、がんばれ。

 にしても。

 圧倒的熱量を放っているのは、せしるだよねえ?

 かなめくんの「壮一帆化」はどこまで進行するんだろう。それが、心から心配だ。


 齋藤吉正に、並以上のクオリティのある芝居が書けるはずもない。−−何様発言だということは自覚しているが、世界の隅っこであえて発言。消費者は貪欲でオキャクサマでナニサマなのだ。

 とゆー大前提をまず、掲げる。「以上」だから「並」も入っているのよ、日本語的に。
 このことに異論を唱える人は少ない、と思うが、どーだろう?
 さいてーレベルの作品だけど、ツボに入るから好き。……とかいうことは、アリだと思うから、それはまた別の話ね。クオリティだけでは一概に評価できない世界だからね。

 ま、そゆことで。

 どーせサイトーくんには、まともなものは書けないんだ。
 だったら、「超ハイクオリティ作品以外は認められない」よーな、デリケートな題材でモノを書かせるべきではない。

 『Young Bloods!! −魔夏の吹雪−』は、どっかで見たよーな、でも架空の国を舞台にするべきだった。

 それなら、なんの問題もないのよ。
 キャラもストーリーもオチも、なにひとつ変えなくていい。ただ、固有名詞を変えればいいの。
「どっから見てもコレ、日本とアメリカで、太平洋戦争で、東京裁判だよなあ」と思わせてヨシ。フィクションつーのはそーゆーもんだ。
 主人公がエーリヒで、その兄がフィリップで、彼らの国が片方アドルフィーネで片方クレールなの。ほーら、ここまでめちゃくちゃに国籍関係ない名前つけて、なんとなくかっこいい軍服着せておけば、問題ナシ。「ファンタジー」だから。「架空の世界」の話だから。

 その「テーマ」を描くために、あえて舞台を別のものにする、という手法はアリなの。
 誰かが「東京裁判のパクリだ」とか言っても無問題。描きたいのは「東京裁判」ではなく、東京裁判を下敷きにした「別のモノ」なのだから。「別のモノ」を描くために、わざわざ架空の世界を舞台にしているのだから。
 そーゆー手法がわからず、なんでもかんでも「パクリ」呼ばわりするバカはスルーしてヨシ。

 母とはぐれてしまった幼児が、泣きながらも母を探して冒険する話、彼の目に映る世間のやさしさや、ときに残酷さを、あたたかい目線でやさしく描く……というテーマを、中国残留日本孤児ネタでやるのはなく、虫の世界のアニメにして『みなしごハッチ』にするよーなもんですよ。や、例が古すぎてナンですが(笑)。

 サイトーくんには、どうしてこんなことがわからないんだろう。
 残留孤児の話にしなくても、『みなしごハッチ』で充分、描きたいテーマは描けるのに。
 もちろん、なにがなんでも残留孤児の話にしなければならないというなら、むしろソレこそが描きたいテーマなのだというなら、とことん本気で、それこそ当事者やその家族にも胸を張って見せられるくらいの設定や準備、事実に裏付けられた作品クオリティを必要とするぞっと。
 そこまでの覚悟もなく、「萌え〜〜」だけで扱っていい題材じゃないだろうに。

 クリエイターなんてものは、常識がなくても性格が悪くても、別にかまわないと思っている。
 善人だけどつまらないものしか作れない人より、変人でもおもしろいものを作る人の方が好きだ。だって友だちになるわけじゃないもん。必要なのは作品だけで、本人じゃない。

 サイトーくんが常識のないオタクなのは、仕方ないことかもしれない。
 でも、その常識ナイ人の「才能」を認めて雇っているなら、創作させているなら、雇い主側が管理すべきだろう。
 こだまっちが盗作するのは病気だから仕方ない、とするなら、彼女を雇っている側がチェックして、盗作でないモノだけを商業作品として発表させればいいのと同じ。

 サイトーはナゼにこうまで野放し?(笑)

 
 ま、いいや。
 「物語」としての『真夏の吹雪』について。

 さいとーくんの、「萌え」だけでできあがった話。

 それは今までとなんら変わりはない。今までだって、なんの関連性もないまま、ナチスドイツとか出てたもんな。「軍服萌え〜〜」なだけで。
 わたしはヲタクだし、「萌え」だけを原動力にする価値を認めている。それはアリだと思っている。
 だから、ほんとーに、「やり方」をなんとかしてほしいと思う。

 軍服萌えも兄弟萌えも兄受も、べつにいいんだよ。野球萌えはわたしには理解できないけれど、ヲタクのたしなみとして他人の萌えにとやかく言う気はないのでアリだと思うし。

 萌えはいいんだよ、萌えは。
 ただ、それをきちんとカタチにしてほしいだけで。

 さいとーくんは同じ話しか描けないから、結局のところこの『魔夏の吹雪』も兄弟心中モノだしな。兄の方が小柄で、同じ女を取り合って、兄の方が裏切って、弟は兄を愛して憎んで、最後は心中だ。
 ひとつの萌えを、なにをネタにして描くかだけの話。
 兄弟設定でなくても、男ふたりがほぼ同じ関係性で愛と憎悪にまみれ、死ななきゃなんないしな。

 どーせ同じ話しか描けないなら、なんで描けば描くほど退化するかな。
 前回の失敗を生かし、少しでも壊れていない話(壊れていることは前提らしい)を作ってくれよ。

 明確な「萌え」、「コレを描きたい」という意欲はわかる。それは、「仕事なんで、なんとなーくてきとーにやりました」よりも鼻息が荒い分、力になる。稚拙すぎるだけで、方向性は間違っていないと思うんだ。

 兄弟萌えも心中も、ぜんぜんOKだよ。
 表面的には仲良し兄弟、でも戦争のどさくさで兄は弟を裏切り、弟の婚約者を自分の妻にした。悪いことはできないもんだ、因果応報のように兄は戦争中の偶発事故の責任を取らされ、罪人となる。一方弟は、終戦をきっかけにすべてを知り、自分を捨てた婚約者と裏切った兄への愛と憎しみに混乱、それでも極刑判決が出るのも時間の問題である兄を助けるべく奔走することになる。さて、ドロ沼兄弟の行く末は?
 ……とゆーストーリーラインだけなら、ワタ×トウで見てみてぇとか思うからな(笑)。
 あ、もちろんトウコが兄設定な。小さい美人の兄と、でかいかっこいー弟で。

 萌えはいいんだから、ツボはいいんだから、商業レベルに達したモノにしてほしいと、切望する。

 さて、『魔夏の吹雪』では、兄がせしるで、弟がかなめ。
 ……このわかりやすい萌え設定に、わかりやすすぎるがゆえに、苦笑。
 どうがんばったって、せしるが兄には見えない。見ていて混乱したもんよ。えーと、せしるは弟だよね? 小さいし、若いし、血気盛んだし。あれ? 兄だっけ?
 何故わざわざ、「観ている者が混乱する」ようなキャスティングを? 上級生で長身で大人っぽいかなめが弟で、下級生で大きくないガキンチョのせしるが兄?
 内容的にも、せしるが弟でなんの問題もない。裏切って死んでいくストーリーラインに、兄であるか弟であるかは関係ない。
 なのにわざわざ、おかしなキャスティングを力技でしている。

 答えは、わかっているよ。
「それこそが、萌え」……なんだよね、さいとーくん?
 兄受はヲタクのスタンダード、大きな弟が攻で美人のにーちゃんが受なのは、ヲタク的常識だからだよな(笑)。
 軍服を着たかっこいーかなめに「兄さん!!」と叫ばせたかったんだよなー。
 ツンデレ美人兄せしるに、慟哭と破滅を演じさせたかったんだよなー。

 萌えだけは詰まっているのだから、ファン的にはこの作品ってOKなのかしら。
 だからこそわたしは、昔のスペインだとか戦国時代の日本だとか、「ファンタジー」で通用する「架空の世界」を舞台にして欲しかったよ。

 惜しいよな。(結局、惜しいのか?! ……いやその、クオリティと好き嫌いは別だから)


「もし、さいとーくんと話す機会があったら、『ガンダムで好きなキャラは誰?』って聞いてみたい」

 と、言ったら、kineさんにウケた。

 『ガンダム』はヲタクの共通言語。とりあえず話題にしておけば、沈黙が流れることはないっつーくらいな。

 そして、「あなたが誰かはあなたがなにを愛するかでわかる♪」(ポルキア@暁のローマ)というよーに、『ガンダム』のどのキャラを好きかで、その人の性格が見えてきたりもする。
 kineさん、腐女子ぢゃないだけで、ヲタク度はわたしと同じくらい深く歴史を重ねているから、この会話がなんの解説もナシで成立する。

「さいとーくんだったら、クワトロって言いそうな気がする……」

 と言ったらさらに、「シャアじゃなくてクワトロですか!!」とkineさんはウケてくれた。

 うん。
 あくまでイメージだけど。
 シャアではなく、クワトロ。

 ……そして、オトコでクワトロファンって、微妙だと思う。や、いろいろと。
 女でクワトロファンならまちがいなく腐女子ですがな(にやり)。

 あ、わたしはブライトファンです、ファーストのころから一貫して。子どものころから地味な脇役が好きだった……。

 さて。

 そのさいとーくんの新作、雪組『Young Bloods!! −魔夏の吹雪−』を観に行った。千秋楽の日の午前公演。

 そして、思った。

 お願いです、世の良識ある人々。

 オタクというものは、非常識で悪趣味で善悪の区別がつかない変態ばかり、だと思わないでください。
 オタクの中にも常識ない人はいますが、全部がそうではありません。一般人の中にも常識のない人がいる、それと同じです。
 オタクだからといって、常識ない人ばかりじゃないんです!!

 同じヲタクとして、声を大にして訴えたい。

 雪組『ヤンブラ』を観て、オタクというものに憤りや嫌悪感を持った人、世の中のオタク全部がさいとーくんみたいぢゃないんです! 信じてください!!

 いやー……。

 すごかったよ、雪『ヤンブラ』。

 芝居を見終わったあと、真剣に、思った。

 齋藤吉正は、もうダメかもしれない。

 わたしは、さいとーくんのヲタクっぷりを支持していたひとりだ。相当アレだと思いつつも、ヲタクならではのおもしろいものを作るクリエイターだったからだ。
 しかし。
 やっていいことと、悪いことがあるだろう?
 こだまっちが「盗作」と「インスパイア」の区別がついていないのと、同じやばさだ。

「雪『ヤンブラ』ってどうだったの?」
「えーと、野球萌えと軍服萌え、それと兄弟萌えで兄受萌え、ついでに兄弟心中萌え話だったよ」
「……えー、それは、いったいどういう……?」
「舞台は、太平洋戦争と、東京裁判」
「ええっ?!」


 「萌え」部分の説明と、「舞台」部分がつながらなさすぎて、聞いた人が混乱していたぞ。

 さいとーくんが常識ない人だってことは、わかっていたつもりだったが……まさか、ここまでだったとは。

 さいとーくんにとって、「宮本武蔵」と「太平洋戦争」は、同じくらいファンタジーなんだな。
 武蔵ならね、もうナニをどうしたってかまわないよ。ファンタジーとしてアリさ。しかし、太平洋戦争と極東国際軍事裁判はファンタジーぢゃないだろ。現実と陸続きだろ。
 数年前、小林公平が「9・11」をネタにショーを作って実に賛否両論、後味の悪いことになった。フィクションなんだからなにをしたってかまわないが、最低限「やってはいけないこと」、それでもやるなら、「細心の注意を払わなければならないこと」が存在する。
 小林公平は単なる浅慮と売名目的で同時多発テロをネタにしたと、わたしは思った。ホットなネタだからいただき!程度の。それも大概だと思ったが。
 さいとーくんてば、それすらない。
 彼にとっては取り扱い注意のデリケートな問題すら、「萌え〜〜」のネタでしかないんだ。

 なにも考えてないだろ。
 「軍服萌え〜」だから、太平洋戦争なんだろ? 「兄弟萌え〜」だから、東京裁判なんだろ?

 そんなもんは、趣味でだけやっておけ。常識があるなら、仕事でやるな。

 いやはや。
 ほんっとーに、脱力したというか、とほほというか。

 なにがよくて、なにがいけないか。
 これはバランス感覚なのかなあ?
 こだまっちだって絶対、「何故『月夜歌聲』が盗作でアウト、『龍星』がセーフ」なのか、根本からわかってないよね?

 実在の国へのあてこすりを盛大にしていた『スサノオ』や、実在の宗教をネタにしていた『炎にくちづけを』がOKで、どうして『ON THE 5th』や『魔夏の吹雪』がダメなのか。
 さいとーくんは、わかっていないんじゃないかと思う。

 その事実に、震撼する。

 たのむよ……オタクの看板背負ってそーゆー非常識ぶりをさらされると、オタク全部が非常識だと疑われかねないよお。ただでさえ日陰の身なのに。

 もちろん、どれほど常識を欠いていても、太平洋戦争・二世問題・東京裁判を扱ったこの『魔夏の吹雪』が追従を許さないほどの名作なら、もうアリだと思う。
 良識派の文句を押さえ込んで、「芸術ですから!」とか「エンタメですから!」とか言い抜けることは可能だと思う。

 だが、現実は。

 目眩がするほど、稚拙で陳腐。

 素人が「萌え〜萌え〜」と言いながら描いた同人誌みたいだ。
 それも二次創作系の。
 ジャンプに載ってる人気マンガのキャラを使って、太平洋戦争と東京裁判やりましたー。軍服萌えで兄弟萌えです〜〜。
 ストーリーも時代考証もテーマもなにもかもめちゃくちゃだけど、ジャンプの人気マンガのファンは買ってね♪ **くんが軍服着てるんだよぉ、かっこいいよぉ。
 ……ジャンプマンガのファン以外はまず、買わないし、見向きもしない。キミの同人誌が好きなんでも読みたいんでもなく、ただキミが勝手に使ったジャンプマンガを好きだから読むんだ。

 パロ系同人なんてそんなもんだけど、同人誌だからそれはいい。(著作権問題は今は置く)
 さいとーくんが同人誌でやってるなら、なにも言わないさ。わたしはさいとー作品好きだから、コミケまでいそいそ買いに行くだろうよ。

 ただ。
 商業誌でやっていいことぢゃないだろ。

 某ジャンプマンガのパロディからスタートしたのに、オリジナルマンガとしての立場を確立した作品だってある。
 シビアな世界だからこそ、作品にほんとーの「力」があれば、「常識」を覆すことは可能なんだ。

 『魔夏の吹雪』の問題点はソレ。

 ひとつ。
 「やっていいこと」と「わるいこと」の判断をして描く。
 「フィクション」「ファンタジー」で言い訳が聞かない事柄だって世の中にはいくらでもある。

 ふたつめ。
 それでもあえて、「常識で考えて『フィクションだから』『所詮タカラヅカだから』で言い訳できないくらいやばい題材」を使って創作したいというなら、誰が観ても口を出せないほどの高クオリティを叩き出す。

 ……それができないなら、最初からやるな。

 
 や、ほんとのとこ。
 なにより嫌なのは、さいとーくんがほんと、なにも考えていないんだろうなってことですよ。
 ここまで常識的にも作品的にも酷いものを作ったのに、本人はきっと、なんの危機感もないんだろうなってこと。
 『青春花模様』と『魔夏の吹雪』と、なんの意識の差もなく作っているんだろうなってこと。

 人間としてやばいよ、ソレ……。

 
 まあどのみち。

 悪のりして作った、ギャグテイストでの本気作品『青春花模様』があのレベルで、シリアス作品として本気で作った『魔夏の吹雪』がコレだもん、作家としても、終わってるだろうから、もうなにか言うだけ無駄なのかもしれん。

 
 これからどうなるのかなあ、齋藤吉正。
 すべてが終わっているわけではないので、なんとか人間になってほしい。今のままじゃ、ただのドーブツだよ。


 緒月遠麻が、カッコイ〜〜!!

 全国ツアー『ベルサイユのばら−オスカル編−』週末は3週連続東京(で、平日はムラ)というスケジュールにヘコんでいるわたしに、友人たちは口を揃えて言った。

「なら、さいたま行くのやめたら? 所詮『ベルばら』でしょ?」

 たかはな見送りと、コム姫アルバトロスのための東下りは仕方あるまい。しかし、間の『ベルばら』って? そこまでする演目か? 現にツレだったはずのドリーさんは海外旅行を取ったぞ?
 さいたまくんだりまで行っても、ひとりぼっちだぞ? 行くの、やめたら?

 うおおお(苦悩)。

 …………行く。
 でも、行く。

 水くんと壮くんと、ヲヅキを見るの!!

 バカみたいなスケジュール組んでまで強行した、理由はソレ。
 ええ。

 理由のひとつに、緒月遠麻が入っております。

 全ツ公演グッズで、唯一購入したのは、ヲヅキのアラン@バスティーユ写真。
 PCの横に、ゆーひカシウス様と並んで飾ってあります。(ええっ、まっつは?! ……その下。今は見えない……まっつ……)

 あああ。
 かっこいー……かっこいーよヲヅキ……。

 新公であまりのかっこよさにクラクラになったアランが再び。しかもミズカルを相手に見られるなんて、もぉ、行くっきゃないでしょう!

 ミズカル相手でも、ちゃんとヲヅキアランは漢でした。
 なんなのあの肉厚さ。
 横に立てばあのオカ……いやその、微妙なオスカル様がちゃんと「男装の女性」に見えるぢゃないか!

 ヲヅキのすばらしさのひとつは、あの体格。
 痩せてないのがいいのー。
 リアルな肉感。もともと巨乳さんだから、あのでかいチチをつぶすと、あの分厚い胸板になるのねー。でも筋肉ぢゃなくて脂肪(なんせ元がチチ)だから、抱きしめられたら弾力があって気持ちいいんだろなー(笑)。
 顔はこれからトシと共にぷくぷく具合が落ち着いていくんだろーけど、カラダはあの厚みを保ってほしいわん。スマートだとか華奢だとかばかりじゃつまんないわよ、いろんな色男がいてくれないと。

 でかくて、ごつくて。
 野性的な色男を演じると、映える映える。

 そして、ヲヅキの魅力のひとつである、誠実な演技。

 荒くれているときでも、静かなときでも、妹にめろめろになっているときでも。
 そのキャラクタの人格が見えるたしかな演技に釘付け。

 ミズカルとの相性もいいよね。
 水くんのナチュラルさに、ヲヅキの濃さがよくマッチしている。

 アンドレがあまりに空気読めてないカンチガイ男ぶっちぎりなので、あたしゃひたすら、アラン×オスカルで夢を見たわ……。お似合いじゃん、あんたら……そのまま出来上がっちゃえよー。

 もっともこの公演は、あちこち見るのが忙しかったので、新公のときほどヲヅキだけガン見していたわけじゃない。
 水くんのことも見ていたし、壮くんが出てくるとツボに入って大変だったし、そのうえ何故か無意識に、まちかをさがしてしまうし……。
 圭子女史のたのしそーな2役ぶりとか、悠なお輝のうさんくささとか、ラギくんのかわいらしさとか、キングのやたらやる気にあふれた姿だとか、リサちゃんのかわいらしさだとか。
 あー、リサちゃんには、フィナーレでウインクされてびっくりした。娘役でもウインクするんだ……わたしだけでなく、別会場で見たkineさんも言ってたから、ほんとにガンガンやってんだなー。いやあ、ときめいちゃったよ、美少女にアピられて! リサちゃんがんばれー!

 フィナーレの薔薇タンは、いろいろ違和感が。

 その、まず、視覚的にね。

 薔薇タンの真ん中といえば、ちっこくて、そのくせめちゃくちゃ濃いぃい巻き舌男でしょう?!

 壮くんがトウコちゃんと同じ衣装着て、「オレってかっこいー!」全開に、サワヤカにきらめいているのが、違和感ありまくり。
 おお、でかいぞー。そして、くどくないぞー。濃くないぞー。
 ウインクもとばしていたそーですが、わたしは横のヲヅキを見ていたので、よく知りません。

 ヲヅキ氏はなんか、怒ってました。

 いや、怒ってるんぢゃなくて、真面目な顔で踊ってたんですけどね。メイクと顔がアレだから、怒ってるよーに見える(笑)。
 アピールは弱いよね。客席見てないし。
 ヲヅキがノリノリでキザってアピって、客席タラシこむよーになれば、無敵だよなあ。や、そんなヲヅキ、ヲヅキぢゃない気もするが(笑)。
 どんくさい誠実さのまま、いてほしい気もするぞ。

 
 作品的には、ペガちゃんがなくなった分の時間で、アンドレがロザリーに余計なお世話を焼くシーンと、衛兵隊のシーンが増え、ムラ版よりずっとまともな作りになっている。アンドレのお節介がいいシーンかどうかは置くとして、ムラ版ではあまりに出番なさ過ぎだったからな。
 オスカルと衛兵隊がわかりあうところで1幕が終わったりして、やっぱり、オスカルのダーリンってアラン? と、わたしをよろこばせてくれたし(笑)。
 ラストはガラスの馬車がないかわりに、幼稚園のお遊戯会のような天国の書き割りが言い訳のように使われていて、最後にガツンと失笑させてくれるし。や、ここのソウドレもまたすごいんだ!(笑)

 ムラ版ほど徹底的に破壊されているわけでもないんだが、それでもムラ版を最初に観たときくらい、大爆笑させてもらった。
 まあ、そのほとんどは壮くんがひとりで持っていった感じだけど。
 すげえや、壮一帆。

 『ベルばら』も、1回観る分にはたのしくていいんだ。腹がよじれるくらい笑えることなんて、日常でも映画を見てもマンガを読んでも、ほとんど経験できないことだからな。
 雪ムラ『ベルばら』だって、最初の1回は涙が出るほど笑い、ひとに話したくてうずうずして、コミュニケーションツールとして上等なものだと思ったよ。
 ただ、繰り返し観ると、どうしても破壊された倫理観や歪みきった世界観に対する嫌悪の方が強く出てしまい、笑えなくなる。

 全ツ『ベルばら』も、1回だからよかったんだ。
 おかしくて、しあわせで、ひとに話したくてたまらなくて、一緒に笑いたくてたまらなくて、ひとが生きていくうえでの大切なことを全部一度にくれたよ。

 無理して、あんなひどいスケジュールで、それでも行って良かった、さいたま。

 ミズカルに会えた。
 ソウドレに会えた。
 そして好みの男、ヲヅキアランに会えた。

 それだけでも、価値があった。

 すばらしきかな、タカラヅカ。

 
 壮一帆が、ステキに大爆笑。

 全国ツアー『ベルサイユのばら−オスカル編−』さいたま市文化センター観劇は、わたしのヅカファン人生の中でも記録に残るタイトスケジュールだった。
 行きバス10時間、東京埼玉間の電車往復1時間半、観劇3時間弱、帰りバス9時間。
 移動していない、動かない地面にいたのは何時間だ? ほんとーに観劇以外なにもせずにとんぼ返り。だって翌8日が星組ムラ公演チケット発売日だったんだもの。
 わたしのよーな一般人が、トップのサヨナラショーを観られるとしたら、梅田のチケット抽選で当てるぐらいしか方法がないもんよ。
 一縷の望みを掛けての体力勝負。結果は。

 白紙を引きました。

 …………。

 ……わーんわーんわーん。

 
 盛大にヘコみつつも、疲れがピークを超していたので、並びに集まった仲間たち相手に、とても陽気にソウドレがどれほどステキかを、語りまくっていたよーな気がする。

 はい。
 みんなのアイドル、壮一帆くんのことですよっ。
 ドリーズ総見のあった『お笑いの果てに』で、わたしたちの腹をよじりきってくれたステキスタァ壮くん。彼のオモシロ個性にわたしたちは釘付けでした。
 その他にも『霧のミラノ』の素敵な浮きっぷりとか、『DAYTIME HUSTLER』のトンデモ熱演とかで、いつもいつもわたしたちの話題をさらうニクいヤツ。リーマンヘアもイカス、オサレさん♪
 美貌の無駄遣いという点では、薄くてスベりつづけるかっしーと並ぶ、こまったちゃん壮一帆。
 わたしと友人たちの間でそーゆーポジションにいる壮くんなんですが。

 全ツ『ベルばら』の、壮一帆は、ものすごーく良かったのだ。

 びっくりだ。
 壮くんの演技がよかったことなんか、はぢめてですよお客さん!(失礼な)

 なにがイイってあーた。

 植田歌舞伎、ハマりまくり!!

 そうか、そうだったのか。
 植田芝居向きの人だったんだ。だから、他の芝居はあんなに浮いて浮いてキツいことになってたんだ。
 ひとりだけ演技ヘタでそのくせ爆走しているよーに見えたのは、ひとりで歌舞伎的芝居をしていたせいだったんだ。

 同じ植田歌舞伎でも、脇役ぢゃだめなのね。脇だと結局空気読めないハンパな芝居になるだけだから。
 主役クラスで、ストーリーと関係ないファンファーレやライトをあびて演じる、「真ん中こその、さらに大仰な芝居」をやってこそ映える人だったんだ。

 もー、プロローグから、ツボ入りまくり。

 ソウドレが白いマントで登場するなりあたしゃ、爆笑をこらえるのに必死。
 すげえよ壮一帆! きらきらしてる! 輝いてるよー!
 壮くんの素晴らしいところって、全身全霊をあげて、「自分スキ!」と叫んでいるところだ。
 いいよなあ、あの自信、前向きさ。オサ様のナルシスぶりとはまたチガウ、前向きで力強い陶酔ぶりがツボ。
 アンドレ役がうれしーんだなあ。よろこびに満ちあふれていて、微笑ましい。

 でも君ソレ、アンドレぢゃないから(笑)。ただの壮一帆だから。
 そのカンチガイぶりがツボに入っちゃって、プロローグからもー大変。

 そのあと、芝居本編に突入すると、壮一帆はさらにパワーアップする。

 ……今までも、壮くんの芝居力の低さというか、ぶっちゃけ大根ぶりには瞠目していたんだけど。

 今回ほどそれが際立っていたことはない。

 ソウドレひとり、盛大に浮きまくり!!

 おいおいおい、おもしろすぎるよキミ、空気読めよ〜〜!!(笑)

 そう。
 相手役が水くんだったことが、破壊力を増したと思う。

 水くんの演技は、かなりナチュラルなのだ。

 主役がナチュラルだから、とーぜん他の人たちもそれに準じた芝居をしている。
 なのに。

 壮くんひとり、植田歌舞伎ぶっちぎり!!

 なんなのコレ! ここまで合ってない芝居する主役とそのダーリンってアリ?!

 2幕になると、抱腹絶倒。
 毒殺シーンですよ、毒殺シーン!
 壮一帆の真骨頂! コレを見ずして壮一帆を語るなかれ、つーくらいすげえ。

「おれはおまえを、ころそうとしたのだあぁぁああっっっ」
 どっかーーん!!

 少年マンガの効果とかを背景に飛び散らせたいですな。「どーんっ!」とか「ばばーんっ」とか。あくまでもひらがなでヨロシク。

 空気読め。たのむから、空気読んでくれ。

 相手役も芝居もなにも見ず感じず、自分の芝居だけを爆走する壮一帆に、ハートを撃ち抜かれました。
 たすけて。
 声殺して笑うのにも限界つーものがね……し、しぬかとおもった……。

 
 ええ。
 すばらしいです、ソウドレ。

 全ツ『ベルばら』を観た人たちが、口を揃えて言うのですよ。

「壮くんが、おもしろかった」

 おもしろいて。
 おもしろいでいいのか、壮一帆?!(笑)

 いいのだ。

 実際、心奮えるくらい、おもしろかったのだから。

「いや、この場合、正しいのは壮くんですよ。他の人は誰も植田歌舞伎やってないから。歌舞伎で正しく歌舞伎を演じていたのは壮くんひとり、正しいのは壮くんひとりです」

 という意見も正しい。
 『ベルばら』は植田歌舞伎。もう死滅してくれもかまわない、古い古い文化。でもま、とりあえず文化は継承する人が必要だ。植田歌舞伎を正しく演じられる人が必要だ。
 壮くんはただひとり、正しく歌舞伎を貫いたのだから、とやかく言われる筋合いはない。

 でもなあ。
 ただひとり、つーのが問題なんだよなあ。

 べつに壮くん、「植田歌舞伎を継承するために、周囲がナチュラルに演じていても、オレひとりでも歌舞伎演技を通してやる!」と使命感に燃えて演じていたわけじゃないでしょう?
 いつもの壮くんらしく、周囲の芝居の空気読んでないだけで(笑)。

 でもソレが、素敵なのよねえ。

 ひとりで浮き上がってるのに気づきもせず、「アンドレ役うれしい!」「オレってかっこいー」「自分スキ!」と盛大に叫び続ける姿が、地団駄踏んで転げ回りたいくらい、ステキ。

 うん。
 マジでわたし、そういう人好き。

 舞台人として、ソレは美点であり、強みだと思う。

 カンチガイでも空回りでも、壮くんは真ん中できらきらきらきら輝いていた。
 それがまぶしい。

 活き活きした人を見るのはたのしい。
 のびのびした人を見るのはしあわせ。

 壮くんは、まちがいなくしあわせをくれたよ。

 いやあ、あれだけ笑えれば、こーやってキーを打っていても、思い出し笑いで幸福になれるって、なんて価値のある人だろう。

 19時間もバスに揺られて、はるばる観に行った甲斐があったよ、全ツ『ベルばら』!

 ソウドレをこの目で見ることができて、よかった!

 壮くんステキ。
 変に小さくまとまったりせず、そのままの芸風で爆走して欲しい。真ん中向けの人だよ、ほんと。変に脇にいると、真ん中の芝居を壊すので問題、つーのも深刻な彼の持ち味だがなー。ゲフンゲフン。

 今、緑野こあら史上最高に、最強に、壮一帆が好きかもしれない。

 

「……で、あの男は何者なんだ?」
「あの男?」
「最近の訓練にまざっている男だ。派手なマントをつけて、謎の軍服を着た……」
「ああ、アレは私の従僕だ。私の父から、私を見守るように言いつけられているんだ」
「従僕……? 見守る……? あんたが赴任したてで俺たちと衝突して苦労しているときは、いなかったよな? なにもかもうまくいっている今になって派手なマントと謎のきらきら軍服で訓練に混ざるのが『見守る』ということなのか? 俺はどこのカンチガイ貴族かと思ったぞ、平民なのか」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、いろいろと感覚が個性的で」
「周りがドン引きしていても、平気で指図してくるし」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、空気読めないだけで」
「どこかカラダが悪いのか? ときどきあきらかに『ワタシを見て!』って感じによろけたりしていたが」
「悪い男じゃないんだ。ただ、その、目が悪いことをなにかと主張したがるだけで……普段は忘れているくせに、ときどきかまって欲しいときにアレをやるんだ」
 軍服を着たふたりの男……いや、ひとりは男装の女性だが……は、顔を見合わせて溜息をついた。
 男装の女性は、ひどく疲れているようだった。
「そういえば、あんたに結婚話が出ていると聞いたが、どうなんだ?」
 男が、男装の女性に聞いた。
「ああ、それはもう断った。断るしかないしな」
「断るしかない?」
「ここにひとりの男性がいる。彼は私が他の男性に嫁いだら生きてはいけないだろうほどに、私を愛してくれている。もし彼が不幸せになるなら、私もまたこの世でもっとも不幸せな人間になってしまう……」
「その男のために、一生誰とも結婚はしないと? その男を愛しているのか?」
「わからない。そんな対象として考えたことはなかった」
「……ひょっとして、あの男のことか? 空気を読めないかまってちゃんの、あんたにつきまとって謎の軍服で訓練に混ざる男」
「彼が片目なのは、私のせいなんだ。私をかばってケガをした」
「それで、あんたの前でわざわざ『目が痛む』ふりをこれみよがしにつづけているのか? あんたはソレを負い目に、結婚も出来ないということか」
「悪い男じゃないんだ。私を愛してくれていることは、たしかなのだし……」
「愛していれば、なにをしてもいいのか? 目のケガを理由に一生あんたをしばりつけるつもりなんだろう?」
「……結婚話が持ち上がったとき、殺されかけた」
「なんだと?!」
「私を他の男に渡すくらいなら、私を殺して自分も死ぬのだと言って、毒を盛られた。未遂に終わったが、ひざまずいて号泣された、これほど愛しているのだと」
「どこのストーカーだ。ソレであんた、言いなりになっているのか」
「仕方ないだろう。悪い男じゃないんだ……ただちょっと、自分本位なだけで」
 疲れ切った男装の女性は、なにもかもあきらめたように続ける。
「彼は私のために生き、私のために片目を失った。私はソレに報いなければならない。彼が不幸になれば、彼を見捨てた私を、私自身が許せない。……彼の好きなようにさせるさ……悪い男ではないんだ……」
「そんなバカな」
 男はいきりたった。
 まちがっている。過去の過ち……かどうかもこの際怪しい……を楯にとって、一生脅され続けるなんて。
「本人は愛だの善意だののつもりなんだろうが、やっていることはただの犯罪だ。空気読めないレベルの話じゃないだろう。なんとかするんだ」
「……どうやって? 彼は一生私のそばにいるつもりだ」
「考えがある。あの通り空気を読めない上に派手好きで注目されたがる性質の男なら、誘導しやすい」
 男は力強く言った。疲れ果てていた男装の女性は男に身を寄せる。軍服が様になるだけあって女性にしては大柄だった(ついでにかなり男顔で顎が長かったりした)が、彼女を抱きしめる男はさらに大きく逞しかった。
「衛兵隊全員で協力しよう。あんたを救うためならよろこんで動くだろう。あんたにも、演技をしてもらわないといけない」
「演技?」
「あの男を、たらしこんでもらう」
「そんなこと」
「やり方は、教える」

 そして。
 運命の日。

 戦場となった街の見通しのいい橋の上に、問題の男は華美な私製軍服を着て立っていた。男の性格を考慮し、少しそれらしげな言葉をかけるだけで、男は嬉々として一段高いところ……橋の上に立ち、隊士たちに命令口調でなにかと言いつけ、悦に入っていた。
 男装の女性も、その新しいパートナーとなった男も、他の衛兵隊士たちも、全員安全な橋の下に立ち、なりゆきを見守った。

 銃声が響いた。1発、2発、3発……なんと12発も響いた。呪いにかかったシンデレラを解き放つ、12時の時計の鐘にも似た音だった。

 男装の女性はそれまでの自分のすべてを捨て、新しい人生を手に入れたのだ。


 水夏希が、気持ち悪い。

 
 えー、ばるばるさいたままで行ってきました。
 全国ツアー『ベルサイユのばら−オスカル編−』を追いかけて。

 自宅から近い、大阪梅田で上演した作品なのに、わざわざ埼玉くんだりまで。
 劇団はなんで、初日だの千秋楽だのを重ねるかね。雪全ツ初日は、宙東宝楽と丸かぶりだったのよ。
 たかはなのお見送りを取ったわたしは、せっかく用意していた梅芸チケットを手放して、はるばる埼玉まで遠征したの。

 『ベルばら』のためなんかに。

 いいえ。

 水夏希のために。

 水ファンですからわたし!! 水くんの出る舞台は全部この目で見なければおさまらないのよ!!

 つーことで地図を片手に辿り着いたさいたま市文化センター、席は感動の3列目!! センター通路横!! すごいわ、ミズカルが目の前よ〜〜!!

 ええ。
 すばらしいお席でした。
 銀橋がないからほんと、舞台が目の前。
 譲ってくれたドリーさんありがとう。ほんとは並んで観るはずだったのに、ドリーさんは素敵に海外逃亡、わたしひとりで『ベルばら』体験。
 一緒に観たかった……心から、一緒に観たかったよ。

 誰かと、この感動を分かち合いたかった!!

 ひとりぢゃ、叫ぶ相手もいねえ!!
 声を殺してつつき合うこともできねえ!!

 雪大劇『ベルばら』を最初に観たときのように、友だちと大爆笑したかったよ!

 すばらしかった、全ツ『ベルばら』。
 わたしゃもう、客席で笑いを我慢するのに呼吸困難でしたよ。死にそうだった。

 
 声高らかに、全世界に向けて叫びたかったさ。


 水夏希、気持ち悪い。
 壮一帆、ステキに大爆笑。
 緒月遠麻、カッコイ〜〜!!


 水くんの気持ち悪さは、意外でした。

 最初のエセフィナーレから、ドン引きした。
 なになに、なんなのアレ?

 オカマがいますよ、みなさん!!

 わたしは水ファンで、水くんのすべてが大好きですが。

 素直に、ありのままに、率直に、気持ち悪かったです、あのオスカル様。

 表情が、「やりすぎ!」ってくらい、女の人なの。
 そして水くんの顔って、女の人の演技をすると、気持ち悪いのね。うん、男だもんね、とーぜんだよね。

 星『ベルばら』に特出したときのミズカルはナチュラルに「女性」だった。オスカル像としてソレはチガウ気もしたが、充分アリだろうと思った。
 そしてそのときは、美しい女性だと思ったんだ。
 天海祐希が演じるキャリアウーマンみたいだと思った。現代ドラマの。
 だから安心していたのよ。水くんは女性も演じられる人、女性になれば充分美人になると。

 なのに……。

 何故全ツでは、オカマになってるの?!

 相手役の問題かもしれない。
 タカラヅカ一の漢ワタさん、タカラヅカ一の濃い男トウコを相手に「男装の女性」を演じることは、そう高いハードルではなかったのかも。
 下級生でえーとえーといろいろ問題アリアリの壮くん相手では、必要以上に女っぽく作る必要があった?
 それであんなにも、「女」を前面に出した役作りになった?

 理由はわからないが。

 やりすぎだからミズカル!! そのカオ、キモいよー!!

 
 水くんは、ほんとうに「演技の出来る人」なんだと思う。
 だから軍服を着た「女」をきちんと演じてしまう。女々しい仕草をしなくても、浮かべているのが「女性の表情」なので、なにをしてもオスカルが男に見えることはない。
 そして、いつもの「男役・水夏希」は技術で作られたものなのだということを、実感する。同じカオでも、男性と女性ではここまで表情がちがうんだ。
 とても、自然に。

 ただ不幸なことに、水くんのカオは、「女性の表情」を浮かべるとオカマになってしまうのだ……オーマイガッ!

 声優の速水奨を思い出した。
 彼は『クーロンズゲート』というゲームでレヴュースタァのアニタという「女性」の役をやっていた。アニタはカラダは男性だが、心は女性だし、その世界では誰もが彼女をふつーに「女性」として認知していた。
 速水奨はほんとーにリアルに、「女性」としての演技をしていた。
 もともとうまい人だと知っていたが、あのときは舌を巻いたさ。これほどうまい人だったのかと。
 オカマではなく、話し方が心底リアルに女性なのよ。それも思慮深くセクシーな美女の話し方なの。

 でもかなしいかな、アニタは男の姿だし、声は男の声なの。

 ミズカルにも、同じものを感じた。
 うまい。うまいよ。
 でも。

 でもかなしいかな、ミズカルは男の顔なの。

 アニタがどれほど自然な「女性」として演技していても、姿と声が「男」なのはどうしようもないように。
 水くんがどれほど自然な「女性」として演技していても、顔が「男」なのはどうしようもないんだ。

 星のときはきれいだったのに……何故にこうもオカマ……。

 
 いやはや、最初からもー、ものすごい破壊力でした。
 わたしの心の支えは、フィナーレにあるという、水とまーちゃんの男女ボレロ。それだけをたのしみに、笑うオカマさん(笑顔凶悪)を乗り切った。

 ええ、ボレロは素晴らしかったですとも。
 うわああぁぁん、水くんかっこいー。つってもメイクが女のままだから、ちょっと微妙(笑)だけど、それでも「男」として演技してくれているから、ステキぃ〜〜。

 男役「水夏希」というイリュージョンのすばらしさを、再確認しました。
 もともとの素材の上に、「技術」であの超色男「水夏希」を創り上げているんだもんよ、ヲトメなチカちゃんが。それはすごいことだよ。

 至近距離で観るミズカルは最高にイケてないオカマさんでしたが、それでもいいんだ。

 わたしは水夏希が好きだっ。

 笑うミズカルにあちこちドン引きしつつも、たのしみましたとも!(ミズカルさん、笑いすぎです)

 
 ……にしてもコム姫は偉大だったな……。


 前日欄を書いていて、思ったんだが。

 アヒラールのしあわせって、キャサリンになって、ジョルジュに抱かれることぢゃなかったのかな、と。

 『NEVER SAY GOODBYE』の話、すまん、他キャラは役名まんまで書くが、アギラールだけアヒラール。だって、あひくん演じるダメダメアギラールという意味だから。

 イケメンで有名カメラマンのジョルジュに恋したところから、アヒラールの人生は変わる。

 彼は最初から、ジョルジュを知っていた。
 ジョルジュ自身の顔も、彼の撮る写真も知っていた。
 初登場したときからそうだったよね。

 やはりコレは、アヒラールくんがひそかにジョルジュの写真集を買っていたってことでいいよね? ジョルジュファンで、発売日にはいそいそと書店に行く。
 書店員にはもうおぼえられていて、「予約の写真集、入荷してますよ。予約特典として、ジョルジュ本人の生写真(サインは印刷)付きです」とか言われて、顔だけ冷静に(心の中では花畑をスキップ)購入してたりな。

「あの人、またジョルジュ写真集うれしそーに買っていったよ」
「予約票の住所、ずいぶん遠いところだよね。なんで近所で買わないのかな。他に店がないわけでもないだろうに。それにときどき、『領収書を……』って言いかけてやめるのよ。普段は領収書取ってるんじゃない、買い物に」
「写真が好きなの? それとも写真家本人? サイン入り生写真にチューしそうな勢いだったけど」
「必死に隠してるつもりらしいんだから、言っちゃダメよ。……でも、あのジョルジュの写真、今晩枕の下に入れるね、アレは絶対」

 それくらい、ジョルジュ大好きだったアヒラール。
 そのあこがれの相手に、ついに会うことが出来た。

 もともと素直でないアヒラールは、好きな子はとりあえずいぢめて関心を買うタイプ。

「カメラは没収だ」
「冗談じゃない、カメラは俺の命だ」
 とゆー会話に発展。

 ジョルジュからカメラを取り上げれば、彼は必死にアヒラールを追うよね。カメラを取り返そうと、どんなことでもするよね。

 好きな人に、追われる。求められる。……ソレってドリームじゃん。

 もともとソッチの気があるアヒラール、「カメラを返して欲しかったら俺の言うことを聞け」と、脳内であーんなことやこーんなことを、ピンクに繰り広げてみる。

 このへんまでは、ジョルジュはただの「あこがれのトップスタァ様」でしかなかったのだが。

 内戦勃発で、ジョルジュという男がどれだけ頑固にかっこいいかを知ることになるわけだ。
 そして、その素敵な男の横に、いつもキャサリンという目障りな女がいることにも、自ずと気づく。

 最初からジョルジュしか見えないアヒラールは、キャサリンを彼から引き離そうとする。

 アヒラールのバカでかわいいところは、素直でない性格のために、自分の欲しいものがまったくわからず、それでも本能のままにまちがった方向へ爆走すること。
 欲しいのはジョルジュ。恋しているのはジョルジュ。
 でもソレに、まっく気づかない。
 ジョルジュが愛している女にこだわり、「この女が欲しい」と思い込む。

 君が欲しいのはキャサリンぢゃないよ。君はねえ、キャサリンになりたかったんだよ。

 そんなにでかい図体して、Sっ気もあるくせにそれ以上にMだったりするから、根が鬼畜なジョルジュにいぢめられたくてうずうずしてるんだよ。

 キャサリンを手に入れることで、ジョルジュに憎まれたかったんだよねええ。彼女を傷つけることで、ジョルジュを傷つけ、また自分も傷つけて欲しかったんだねええ。

 いっぱいいっぱいに声をひっくり返らせて、それでも脚を肩幅以上に無理矢理開いてそっくり返って仁王立ちする、せつないほど安い悪役のアヒラールを見ていると、目頭が熱くなりますよ。

 ジョルジュには、泣けるほど相手にされていないしねえ。ただのバカだと思われてるしねえ。
 なのに彼ひとり、必死にきゃんきゃん吠えたててさあ。
 ……ほろほろ。

 
 あ、コマロフ@ソルーナさんとは、ナニもありませんよ!

 コマロフはアヒラールの真意に気づいていて、高みの見物をしているのです。ニヤニヤと。ときに苦笑して。

 アヒラールは強いオトコマエな男に抱いて欲しい子猫ちゃんですから、コマロフみたいな大人の男に抱いてもらってはイカンのです。それじゃ彼がしあわせになってしまう。
 たとえ最後がアレ(後ろからだまし討ち)であったとしても、その瞬間まで、アヒラールはコマロフを自分のダーリンだと思って満たされてしまうので、コマロフはアヒラールに手を出してはイカンのです、絶対に。
 心がなくても、とりあえず抱きしめられれば満たされてしまう、かなしい子猫ちゃんなんですってば。
 だからダメ、誰も彼に手を触れては。

 アヒラールは誰からも抱いてもらえないまま、ひとりで空回りしているのがイイです。

 コマロフはアヒラールを嫌いなので、すべてを見通した上で、わざと見物しているの。
 自分が抱いた方がアヒラールを傷つけられるというなら、絶対抱いてるって。

 ああ、かわいそーなアヒラール。

 
 と。
 勝手に萌えています。

 ジョルジュ×アヒラール。

 (ジョルジュさんは鬼畜なので、絶対いい仕事しますよ!!)


 えー、わたしは、歌のうまい人が好きですが、ヘタでもあまり気になりません。「ヘタだな」とは思うけど、大抵許容範囲。苦笑しつつ愛でています。
 たとえばワタさんの歌を「ほんまヘタやな」とは思うけど、だからといってそれでワタさんを悪く思うことはない。個性の範囲っすよ。

 うーん、わたしが今まで「許容範囲を超えるヘタさ」だと思ったのはマリコさんぐらいのもんだなー。おかげで当時、星組はいちばん縁遠い組だったよ……。

 現在のタカラヅカにおいて、「歌が下手」といえばタニちゃんですが。

 タニちゃんの歌、実はぜんぜん大丈夫です(笑)。
 や、マジでヘタだと思ってるけどなっ。ムラでヴィセントの歌を最初に聴いたときは椅子から転げ落ちるかと思ったけど。
 でもそれすら、「タニちゃん」を構成する要素。「タニちゃんらしい」ってことで、OKOK(笑)。
 むしろ、「どれだけ破壊的な歌声を披露してくれるか」と、期待している節さえある……。

 そう、「歌声」という点において。

 今回の『NEVER SAY GOODBYE』でいちばんひどかったのって、実はあひくんだよね?

 東宝前楽。
 久々の『ネバー』を観ておどろいたこと。

 タニちゃんの歌が、うまくなっている。

 や、もちろんタニちゃん比だから、他のそうそうたる宙組歌手陣を前にしてどうこう言えるレベルじゃないんだけどさ。

 タニちゃんはまだ、歌えている。かろうじて音程は取れているし、どの曲も一定レベルのヘタさで安定している。
 だから「物語」の中で感情を込めて歌っている分にはなんの問題もない。

 問題があったのは……あひくんだ。

 
 ただの1曲も、まともに歌えたものがないっちゅーのは、なんなんですか?

 何曲あるか、数えてないから知らないけど、ソロパートはもれなく全部、失敗していた。

 すげえ。
 すげえよ、あひ。
 ここまでひどいの、はじめて見た。

 ムラでもひどかったけれど、「東宝に来て、あひくん少しはマシになってるよ」と聞いていたのに、どのへんが?! ムラよりひでえ!!

 
 アギラールというのはそもそも、ひどいキャラクタだ。
 作品の歪みを全部背負わされた、破綻キャラ。最初からイロモノ設定だったヘス@プラハの春の方がよっぽどマシという、安い悪役。
 こんなひでー役だから、どうあがいても破綻はまぬがれないんだが、まあとりあえず露出は高いし、大衆の多くは場面場面の「美味しさ」に惑わされるもんだから、動く背景よりははるかにいい役。
 今まで「宙組名物動く背景」だったあひくんとしては、破格の扱い。

 ムラで見たアギラール@あひは、気の毒なほどテンパっていて、いっぱいいっぱいだった。
 ……悪役なのに、あんなに舞い上がってちゃダメだろ……。気持ちはわかるけど、役と舞台に慣れてくれよ。「遼河はるひ」を見に来てるんじゃなく、「アギラール」を見に来てるんだからさー。

 変だなあ。
 あひくんは今までも、新公主演をしているし、バウ主演だってやってるんだよ?
 たかが大劇場の脇役ぐらいで、なんでそこまでテンパってるの?

 自分が主役だったら、マシなのかな。
 責任も全部自分が取ることになるから。
 自分が失敗して、たかちゃんと花ちゃんの花道に泥を塗っちゃいけないって、それで舞い上がっているのかな?

 ムラ初日があまりにダメダメで、それから日を重ねるごとにマシになっていたのに、たかこ会貸切の日に、史上最悪の出来だったという、アヒラール。
 その話を聞いて、
「大変だねえ、あひくん。アウェイで戦うのは不利だよねえ」
「そうだねえ、客席全部敵だから、雰囲気に飲まれて実力を出せなくなるんだよねえ……って、アウェイぢゃないから!!」
 なんて会話をしましたねええ。

 自分が主役なら、客席も自分のファンが大半だろうけど、今回はそうじゃない。天文学的数値を誇る、たかこファンが客席の大半を占めているとなると……上がってしまって実力が発揮できないのかなー。
 でもさあ、たかちゃんファンはべつに、敵じゃないし(笑)。いちいち、あそこまでガチガチにならなくても。

 あひくんに対し、そういう意味でのダメさを感じたことがなかったので、今回の公演はほんとーにおどろきました。

 「心細さに震える子犬のよーなアヒラール」「一生懸命胸を張っているけど、泣き出しそうなアヒラール」「ノミの心臓あひ」など、いろいろと形容のついた公演でしたよ、アヒラールくん。

 東宝でどのよーに成長しているか、たのしみにしていたんだけど。

 
 子犬っぷり全開かいっ!!(笑)

 
 力、入りすぎ!!
 あの長くない脚(微妙な表現)をめいっぱい開いて立ってるの! いやソレ、開きすぎだから! そこまで開いて立ってるの、変だから!!
 強く見せよう、黒く見せようとして、盛大に自爆中。
 歌はもれなくひっくり返り、なまじ強く黒く歌っているだけに、そのたび聴いていてがくんとなる。
 ただ、どれだけ声がひっくり返っても、そこでキョドってしまわなくなったのは、成長かと。

 遼河はるひ、小物……。

 なんでこんなに、プレッシャーに弱いの?
 本番に弱いの?
 ダメダメぢゃん……。

 あんなにでかくて、美形なのに。
 月組にいたときは、濃くてワイルドな男の子だったのに。
 宙組では、深窓のお姫様育ちですか?

 タニちゃんより歌ひどいなんて、すげえよ。

 
 いやあ、もー。

 ツボりました。

 遼河はるひ、サイコー。

 ダメダメなアヒラールがかわいくてかわいくて。
 あんなひどい役だから、それだけで同情心もあったけれど、そんな役すら持てあましてしまう狭量さに、ヲトメ心を撃ち抜かれました。

「あひくん、かわいー!!」

 と、幕間から叫んでましたよ、あたしゃ。

 ついにわたしが見た最後まで、ダメダメだったアヒラール。
 余裕がなくて、いつもテンパっていて。
「最初からイッちゃってる人、ということで、キャラが確立してよかったんではないかと」
 と、いつものごとくkineさんは新解釈であたたかく見守っているよーですが。
 ははは、そーゆー設定ぢゃないでしょ、アギラール。終始一貫狂人設定だなんて、小池もあひも思ってないぞきっと(笑)。

 いやはや、大変プリティでした、あひくん。
 見事なまでに受。
 あんなでかい図体して、悪役やってて、受。
 きゃんきゃん吠える、よわっちい犬。

 ……いいなあ。大好きだ。

 歌が最高にやばくても、ノミの心臓でも、立ち姿が変でも、あひくん、好きだぞおぉー!!


 東宝『NEVER SAY GOODBYE』を観て、ますますジョルジュがダメになっていたわたしが救いを感じたのは、ムラで観たときジョルジュと同じかそれ以上にダメだった、ヴィセント@タニだった。

 あ、あれ?
 ヴィセントって、こんな人だっけ?

 ムラで観たときヴィセントのことは脚本上のことしか、触れなかった。わたしにとっての逆鱗台詞を吐く無神経キャラとして、「作者のあさはかさを露呈したキャラクタ」としてスルーしていた。
 それまでどれほどかっこよく存在していても、あんな台詞を吐いてそのことについてのなんのフォローもないキャラは、嫌だ。かっこよくなんかない。
 演じている人が誰であっても、もうダメだと思っていた。雪『ベルばら』のロザリーが、まーちゃんがどれほど真摯に演じてもキ*ガイにしかならないよーに、脚本が狂っていたらどーしよーもない。そういう意味で、スルー対象。
 タニちゃんがどうこう以前。

 それが。

 東宝前楽で再会したヴィセントは、ぜんぜんアリなキャラクタになっていた。

 狂ってない。
 アリだよ、あの人!!

 わたしの逆鱗台詞っちゅーのは今さら言うまでもないが、「所詮お前たちは、ただの外国人なんだ」「お前は写真を撮ってるだけだろ」ですわ。
 人として、これだけは言ってはならない台詞。
 これを言ってしまった段階で、その人物はアウト。……もちろん、こーゆー最低なことを言う心の弱く醜い人間だという設定ならアリね。ただ、この作品ではそうじゃなく、こんな台詞を言いながらも「かっこいいヒーロー」として描かれているから逆鱗ポイント直撃。

 ムラで観たときは、ヴィセントはただの無神経男だった。人としてまちがっているのに、それでもヒーローとして描かれた気持ち悪い世界観の登場人物だった。
 こんな気持ち悪い男を、「カマラーダ」とか美しい言葉を使ってなあなあで許してしまうオリンピアーダのメンバーも浅慮で卑怯なつまらない集団に思えた。

 が。

 東宝前楽。
 ヴィセントはふつーに、かっこよかった。

 彼は、歪んでいなかった。
 気持ち悪い世界観の住人ではなかった。

 たしかに同じ台詞を口にする。
 人として言ってはいけないことを言う。

 現代日本でいうなら、「一緒に甲子園を目指す仲間だ!」と言っていたのに、口論した際その仲間に「なんだよお前なんか所詮**のくせに」と国籍のことで罵るよーなもんだ。
 なのにきちんと謝罪もせず、「まあまあ、みんな仲間じゃないか」とお茶を濁して終わり。……「所詮**」って腹の底で思っているからこそ、罵ったのにね。そういう事実は「なかったこと」。……そんな表面だけ取り繕った、卑屈な関係。君たち、そんなんじゃ甲子園なんか行けっこないよ。

 その、人としてまちがっているヴィセントくん。

 東宝では、まちがったことを口にしたあとも、ぜんぜん、悪びれていなかった。

 激昂したからつい言ってしまった、わけじゃない。
 失言じゃないんだ。

 彼は自分がなにを言っているのか、わかったうえで、口にした。

 仲間だとか言いながら、実は仲間たち全部を見下していたこと。信用してなんかいなかったこと。
 それを、本気で、口にしたんだ。

 本当のことだから、悪びれたりしない。
 言ったときも、あとも。「しまった」なんてカオをしない。むしろ思慮深ささえ感じさせる。
 深刻な、大人の男のカオで事態と対峙する。

 そうか。
 君、最初から、誰のことも信じてなかったのか。
 人間なんて所詮そんなもの、かわいいのは自分だけだって思ってたのか。
 根っこの部分の信念だから、ソレを口にすることで悪びれたりキョドったりしないんだ。
 仲間たちの反発を黙って聞いているヴィセントは、やたらとかっこよかった。

 そう。
 わたしの逆鱗ポイントは、「歪んだ地平」なの。「まちがったこと」を「物語上都合がいい」から「正義」として描かれること。

 今回のヴィセントの台詞は人としてまちがっている。こんなこと言わなくてもぜんぜんいいのに、何故ヴィセントにこんな台詞をいわせるのかが謎だった。
 でも、言わなきゃいけない、キ*ガイ台詞。気の毒なタニちゃん、それまでどれだけかっこよく演じてきても台無し。……だったのが。

 まちがった台詞を変えようがないのなら、それを言うキャラを「まちがった人物」にするしかない。
 気持ち悪いのは、まちがった台詞を言うのに「まちがっていない人物」として描かれていることなんだから。

 ヴィセントは、信念を持って他人を信じない男だった。
 都合がいいから、あえて「俺たちは同志だ」とか言って利用していたの。
 そのことを、打ち明けただけ。彼は「まちがった人物」という点において、「まちがっていない」の。

 祖国を守るために、あえて外国人たちを利用していたのか。
 そしてそのことを口にして、罵られても、びくともしないんだ。

 ソレは、アリだ。
 こーゆー男は、アリだ。

 人を信じられない男が、それでも仲間を募って戦った。その強い意志、戦いの中での心の動きに、興味が湧く。

 真実を告げられた仲間たちは最初反発するけれど、それがヴィセントの信念だということに気づき、誰も彼に謝罪や撤回を求めない。
 自分たちが今、ひとつの目的のために手を取り合う必要性だけを考え、改めて絆を強くする。

 「失言」を「なあなあで誤魔化す」ではなく、もっと暗い、しかし激しいものを秘めた場面になってますがな?!

 信念を持って歪んだ男ヴィセント、かっこいいぞ?!

 陰鬱に立つヴィセントはまぎれもなく「大人の男」で、それまでの「陽気さ」や「オリンピアーダのリーダーぶり」からはかけ離れ、戦いの最中銃をかまえているときの鋭さを放つ。
 こちらの顔が、彼の本来の姿だったのか。

 そう答えが見つかり、ヴィセントにはなんの文句もなくなった。
 や、かっこいいよ!
 「所詮外国人」と思っているくせに一緒に戦って、その「外国人」の遺したカメラをあんなに愛しそうにしていたんだぜえ?
 彼の負の部分と、それでも「仲間」としてたしかにあった信頼と、彼の葛藤を思うと萌えるんですが(笑)。

 タニちゃん、ムラのときと演技変わったよねえ?
 このヴィセントはぜんぜんアリだー。

 
 ……わたしにはこう見えた、つーだけのことなんですが。
 それでも、ヴィセントを好きになれてよかった。
 正しく歪んだ男は好きだよ。


 あれは、何年前になる?
 東京宝塚劇場前で、わたしは出てくる生徒さんたちを待っていた。はじめての出待ちってやつ。

 雪組新人公演『天国と地獄』観劇後。

 当時、母の知り合いだった生徒さんを通して、はじめて東宝チケットを取ってもらった。ムラでなら新公も観れるけれど、東宝ははじめて。今も昔もびんぼーだったわたしは、もちろん夜行バスを利用。
 バスの時間まで、他にやることがなかったから出待ちをした。……ごめん、そんな理由だ。積極的な意味で出待ちをしたわけじゃない。
 なんとなくギャラリーにまじっていたわたしは、隣にいた知らない人から話しかけられた。

「和央さんのファンですか?」

 バスまでの時間つぶしに出待ちをしている、とは言いにくい。雪組ファンだから新公はずっと観ているけど、べつに新公学年の誰かのファンってわけでもない。
 うだうだ説明するのもなんだかな、と思ったので、肯定しておいた。

「はい、和央さんのファンです」

 ごめん、そんな理由だ。積極的な意味で答えたわけじゃない。
 でも、たかこのことはずっと見ているよ。わたしがはじめて見た新公ですでに2番手やってたもんな。あのときたかこまだ研3だっけ? 研2だっけか。そのあとタータンが組替えしてきて一時期2番手から3番手に落ちたりしてた。
 それがついに、新公主役するよーになったわけだ、感慨深いよな、と。

「和央さん、よかったですよね」
 とかなんとか、その見知らぬ人の話にてきとーに相槌を打っていた。

 そしてよーやく、たかこが楽屋から出てきた。
 ファンがずらりと並び、たかこがそこを通るのを待ちわびている。

 なのに。

 たかこは自分のファンには目もくれず、端っこのギャラリーの中にすっ飛んでいった。

「きゃ〜〜っ、**ちゃん、来てくれたのぉ〜〜っ?!!」

 ぴょんこぴょんこ跳ねながら、甲高い声できゃーきゅー喋る。
 それは「男役スター」ではなく、ふつーの女の子そのまんまだった。

 ファンもギャラリーも、唖然。
 わたしも、隣の人も言葉を失った。

 さんざん「ふつーの女の子」としてきゃあきゃあやったあとで、たかこはふと我に返り(カオに、「しまった!」と書いてある)、あわててファンが列をなしているところへ「男役スターです!」というカオで戻っていったが……遅いって。

 わたしの中の和央ようか観は、自分がスターだってことを自覚してるんだかいないんだか、いまいちあやしい天然ボケの女の子とゆーことで固定された。

 雑誌のポートを見ても、他のスターが奇抜な「ヅカのスターですが、なにか?」というような衣装で写っているのに、たかこはいつ見てもふつーの白いシャツにジーンズ。
 ……地味っていうより、あまりにもふつー。そりゃきれいに着こなしているけど、周囲がアレだけ派手というか現実無視している中でここまで一般人な格好してるのって……こ、個性的な子だな……かえって。

 新公主演時の終演後の挨拶はいつも、いまいち焦点の定まらない目で、「正直、手も足も出なかったって言うか……」ではじまるし。
 聞くたびに、またかい!と思った(笑)。
 CSやインターネットのある時代なら、まちがいなく叩かれているトホホな挨拶。いったいいつになったら手や足が出るんだ、いつもいつも同じ言い訳をするなーっ、と言われること請け合い。

 とくに、最後の新公では、当時のトップスターのいっちゃんに、舞台上から礼を言った……はいいが、見当はずれの方角に向けて礼をし、そのあとで「あたしってなんでいつもこうなんだろ」と泣き声でパニクっていた。

 とにかく、ものすごーくトホホなたかこちゃん。

 どんくさいというか、なさけないというか、そーゆーところがまた、かわいいというか。

 舞台でのスマートな長身男役スターぶりと、素の天然ぶりのギャップが魅力だった。

 
 2006年7月2日。

 東京宝塚劇場前で、わたしはたかちゃんを待っていた。

 今も昔もびんぼーなわたしは、もちろん夜行バスを利用。東京まで往復18時間さ。もうすっかりいいトシだが、負けないぞっと。

 そうやって、バスの出発時間を気にしながらも、人であふれかえった沿道にいた。

 千秋楽のチケットなど、手に入るはずもない。そればかりか、中継のチケットさえ、手に入れられなかった。
 それでも見送りだけでもしたくて、わたしは早朝から東宝前にいた。

 朝、案の定体調悪くて(なんでイベント時にいつも立てなくなるんだ、このババアは)隅っこでへたり込んでいたが、それでも退団者が現れた瞬間だけは立ち上がって、ギャラリーの後ろから伸び上がって見ていた。

 たかちゃんは、思いもかけないところから現れた。
 予定の行動なんだろうけれど、一般人のわたしには想定外の登場だったからおどろいた。
 他の人たちはみんな帝国ホテル側から現れたのに、たかちゃんだけは反対側、ゴジラ像のある辻から、嫣然と登場したんだ。

 白ジャケット姿で、赤い薔薇を持って。

 どこのホストですかっ?!

 わたしは迷わず、走っていた。
 たかちゃんのいるところへ。
 そして、たかちゃんと一緒に歩く。ガードの人たちの後ろ、さらにギャラリーの人たちの後ろ。いちばん外側を、たかちゃんと同じ速さで歩く。
 たかちゃんは一般女性よりアタマひとつ大きいし、わたしもまあでかいから、人垣があるなしは関係ない。ちゃんと顔が見える。
 たかちゃんが、わたしの2mくらい横を歩いていた。並んで。
 もちろん、わたしとたかちゃんの間には、たくさんの人たちが列を成しているのだけど、それは置いておいて。

 なんて美しい人だろうと思う。

 わたしがずっとPCの壁紙にしていたタキシードの素顔たかちゃん写真を彷彿とさせる姿で現れたのが、ニクい。
 いやその、わたしの思い込みなんかなんの関係もないことはわかっているけれど。
 わかっていてなお、「こうきたか!」とニクかった。

 最後まで、わたしを感嘆させるのだなと。

 
 そして、出待ち。
 わたしとkineさんたちは、某ビルの窓越しに沿道を見ていた。
 どの退団者もわたしたちのいる窓の下を通ってくれるし、中にはわざわざ2階にいるわたしたちの方を見上げてくれる人たちもいた。
 ここにいれば、障害物ナシで退団者を見送れる。
 天候も人混みも関係ない。
 でもわたしは、前もって宣言していた。

「たかちゃんが現れたら、わたし、下に走るかも」

 どんなに楽に眺められたとしても。
 窓越しの見送りは嫌だ。

 そしてやはり、たかちゃんが現れたとわかった瞬間に、荷物全部握って、走っていた。

 少しでも、近くへ。

 開演は1時半だったはずなのに、初夏の1日はすっかり暮れていた。
 世界は暗く、かわりに人工の光が灯されている。

 たかちゃんは劇場前の道を、端から端まで歩いてくれた。
 わたしはその半分の距離を、朝と同じようにたかちゃんと並んで歩いた。
 間に人垣があるが、関係ない。たかちゃんは袴姿でもギャラリーよりアタマひとつ背が高く、幸か不幸かわたしもギャラリーよりは背が高い。

 やっぱり、間は2mくらいかな。
 人で埋め尽くされたパレード道はとてもせまく、退団者が歩ける幅は限られていた。
 そのおかげで、ずいぶんたかちゃんが近かった。

 夜。
 出待ち。
 ファンの人たちが待つ前を歩くたかちゃん。

 ふと、昔のことを思い出した。

 たかちゃんのはじめての新公主演作品『天国と地獄』を観たときのこと。
 わたしはこの場所で、はじめて出待ちってやつをしたんだ。
 べつに、とりたててファンじゃなかった。夜行バスまでの時間つぶしだった。
 たかこはボケボケで、ファンの前を素通りして、友だちと円陣組んできゃーきゃー黄色い声をあげていたっけ。

 そして、今。

 わたしはたかこに会うためだけにやってきて、思ったより終演が遅かったために帰りのバスに間に合わないかも、最悪バスを捨てるしかないのか?と悶々していた。(キャンセル・時間変更できないか手を尽くしたが、できなかったんだわ)

 そうだ、ここだった。
 それまで大して意識もしていなかった「和央ようか」というタカラジェンヌを、強烈に印象づけられた、あの出待ち。

 たかちゃんがふつーに「男役スターですが、なにか?」という態度で出てきていたら、なんの印象もなかったはずだよ。
 あまりにふつーの女の子で、そのふつーさが、トホホさが、好ましかったんだ。
 この子がこれからどう変わっていくのか、見届けたいと思わせてくれた。

 夜。
 バスの時間。
 東宝前。

 ここだ。
 ここからはじまったんだ。

 そしてここで、終わるんだ。

 終わってしまうんだ。

 
 たかちゃんと並んで歩く。
 過ぎた時間、過ごした時間と共に、並んで歩く。

 一緒に歩けるのは、途中まで。
 残りの半分は人がいっぱいでもう人垣の後ろですら歩ける余地がない。

 見えなくなるまで、ずーっと見送った。

 いつまでもしつこくしつこく見送っていた。いい加減人垣が崩れはじめたころ、振り返ると後ろにkineさんがいた。

 えへ。
 ちょっと、照れ笑い。
 一緒にいた友だち放って、走っちゃった。予告していたとはいえ。
 ベソかいてるのも、照れ笑いで誤魔化して。

 すぐに、バスに乗るためにみんなと別れた。
 ちぇっ。ひとりになりたくないような、ひとりになりたいような。

 泣きたいような。

 バカ話でもしたいような。

 
 2006年7月2日。

 新しく旅立つ人たちは、みんなみんなきれいでした。


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