まっつの話。

 『アデュー・マルセイユ』初日、わたしはえんえん、まっつを探した。

 ジオラモという役がイタリアの大金持ちで、悪役だということは聞いていた。
 とゆーことは、ずばりマフィア役だろう。年輩の役で、ヒゲ有りだということも、事前に小耳に挟んでいた。
 それならオープニングのギャングたちの中にも、ジオラモとして出るかしら?
 小池作品なら、オープニングがそのまま物語になっている可能性もあるが、たとえばウルフシェイム@『華麗なるギャツビー』みたいに、群舞の隅っこで小芝居してるかも?(注・ウルフシェイムはヒゲのエロオヤジ・ギャング。当時3番手のタカネくんが演じていた)

 しかし、それらしき人はいない。
 ジオラモはプロローグには出ないのか。しょぼん。
 
 にしても、アルバイトはしているはずだ。ヒゲ無しでスーツの男たちにまざっている?

 巨大な大劇場のてっぺん、B席から必死に探す。
 ……いない。

 まっつは、どこにいるんだろう。
 どこに出るんだろう。

 予習しなくても、まっつならわかると自信を持って予備知識ナシで臨んだことが裏目に出た? わたし、まっつを見逃した?

 ミュージック・ホールの客、インターポール訓練生……どこかにいるはずと必死に探す。
 でも、いない。
 開演30分を過ぎると、いい加減不安にもなる。まっつは? プロローグから、一度も出てないのよ? ルドルフ@『エリザベート』だって、クリフォード@『マラケシュ』だって、ヴィットリオF@『落陽のパレルモ』だって、プロローグには出てるわよ?(出演時間の短いことで有名な役を上げてみました。あ、全部ゆみこの役だ)

 あ、まっつ? と思ってオペラを合わせるたびにちゃーなんですけど、どうよソレ?(ちょっと逆ギレ)

 ここまで焦らされて、よーやく登場したのを見たときにゃあ。

 おっさん役だとは聞いてたけど。ヒゲっつーのも、相手役がとしこさん(!)、つーのも小耳に挟んでたけど。

 実物があんなだとは、夢にも思ってませんでした。

 え、えーと。
 黒塗り。
 成金系艶々タキシード。
 オールバック。
 ゴールド指輪ギラギラ。
 葉巻。
 札ビラ切りまくり。
 愛人とエロエロ絡みまくり。

 ご、ごめんまっつ。見るなり、爆笑した。

 わたしだけぢゃないから! 並んで見ていたチェリさんも同時に吹き出してたから! 幕間に集まった仲間たち、ドリーさん、木ノ実さん、こうめさん、みんなもれなく「笑った」って言ってたから!(フォローになってません)

 な……なんなの、あの、カユさは。

 まっつに釘付け。
 オペラでガン見。

 エロいです。
 エロいですよ、ジオラモ@まっつ。
 ルーレットに興じているのですが、ずーっと愛人のクラウディア@としこさんの腰を抱き、肩を抱き、あちこち撫でくりながら、札ビラ切ってんの。
 仕草のひとつひとつが、大仰で、エロ。
 キザ男、成金男、勘違い男の見本のような、仕草。
 ポーズのひとつひとつ、角度のひとつひとつにこだわりありまくり、「見られている俺」を意識したいやったらしさ。

 す、すげえ。
 まっつ、本気だ。
 本気で演技してる。本気で、作り込んでる。フィルム1コマずつ計算して描き込んだアニメーションみたいだ。

 本気なのはわかった。
 すごいのもわかった。
 ここまで、計算し尽くして、見せ方にこだわってカタチにこだわって、「演技」しているなんて、マジすげえ。

 でも。
 ごめん、笑えたんだわ。

 必死でオヤヂぶっているまっつ。
 大物ぶっているまっつ。
 セクシーぶっているまっつ。

 ど、どうしよう。
 笑える。

 しかもこのジオラモさん、何故かひとりだけ台詞のほとんどが、歌。
 何故ひとりだけ?!(白目)

 これだけ濃い役だと、アルバイトできないのも納得。幕開きから40分出番がないのも仕方ないとあきらめよう。

 天下の春野寿美礼相手に、オヤヂぶるまっつ。
 ジェラール@寿美礼サマの肩を抱いて歌うまっつ。口説くまっつ。

 どうしよう! 愛人(女)以外が相手でも、基本がエロなんだ、このオヤヂ! 男相手でも基本お触りアリで口説くタイプなんだ!
 まっつなのに!!

 まっつが対峙する相手がすごい。
 ヘタレ男モーリス@壮くんは置くとして、存在だけで文句なく悪役@星原先輩&はっちさんだよ?! 彼らと並ぶのよ?
 悪徳警部@星原先輩、ギャング団ボス@はっちさんと「仲間」「同等」というだけでも、まっつ的には笑える事態なのに。

 物語が進むと、わかる。
 この悪役チームのリーダーって、まっつ?!!

 先輩や組長の、上に立たなきゃならんのか、まっつ!

 星原美沙緒より、夏美ようより、格上悪役の、まっつ?!

 なんの冗談だ、ソレは。

 まっつは、がんばっていた。
 「冗談」としか思えないキャスティングでも、力関係でも、がんばっていた。
 本気で演技して、本気で作り込んで、計算し尽くして、見せ方にこだわってカタチにこだわって、「演技」しているってば。

 実際、うまいと思うよ?
 努力もわかるし、うまいとも思うのに……何故か、笑えて仕方がない。

 最高に笑えたのは、前にも書いたが壮くんの頬をつつくまっつ。

 エロオヤヂだから。男相手でも触りまくるから。
 きゃんきゃんうるさい阿呆な若造@壮くんを黙らせるために、エロスキンシップしちゃうわけだから。

 まっつ×壮って。
 なんなの、その微妙なエサは。飛びつけばいいのか、ドン引きすればいいのか、腐女子的にも混乱するわ(笑)。

 相手役のとしこさんだって、本来なら土下座して「お願い」しても鼻であしらわれるよーな、格上のおねーさまだ。その本物のエロ姐御を「愛人」として腕の中で転がさねばならんという難題付き。

 まっつの前に立ちふさがったハードルは、どれほどのものか。

 終演直後にチェリさんがまっつを称した名言。

「精神的上げ底」

 まさに、上げ底。もー、大変。

 ちょい悪オヤジまっつ。
 笑ったけどね。
 ものごっつー笑って、声殺して笑い堪えて、腹筋使いながらも。

 うわああぁぁあん、まっつ好きだーーっ!!

 テリトリー外の役に正面から取り組んでいるまっつが好き。
 笑えるかもしれないけど、無理目かもしれないけど、本気で立ち向かっている姿が好き。作り込んだ演技が好き。

 ビジュアルは美しいじゃん。黒塗りもヒゲもオールバックも似合い過ぎ。
 なんかもー久しぶりにまっつを「美形」だと素直に思ったわ。(久しぶりなのか!)

 終始としこさんとエロエロしているんだけど、そこに愛があるのも素敵。
 ほんとうに愛しそうに、大切そうに触っているの。
 シシリアン・マフィアの大物なら、どんな美女でも思いのまま、「女は若い方が価値がある」と思い込んでいるバカ男だっていくらでもいるだろうに、大して若くないだろうクラウディア@としこさんを、本気で大切にしている。
 永久の愛ではなく、今このときだけの関係かもしれないが、それでも、恋人と呼べる間をあそこまできちんと愛してくれる男なら、上等じゃないのか?
 ドラブルが起こったとき、ジオラモは必ずクラウディアを守るんだ。身を挺してかばうんだよ、いつも、自然に。

 精神的上げ底しまくっているから笑えるけれど、あの誠実な温度感は、まっつならでは。
 今は上げ底でも、経験値を稼いでスキルを身につけ、大人の男にクラスチェンジするんだ。

 まっつを好きで良かった。

 笑いながら、どきどきしながら、今、心からそう思う。

 
 いやその。
 ラストの「弁護士を呼べ!」には、爆笑させてもらったけど。あああ、小池的定番〜〜。
 そしてまっつ。「弁護士を呼べ!」のゼスチャーは、まっつのいつもの決めポーズじゃん……。


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