トゥスンは、バカだ。

 トゥスン@壮くんはバカでうるさくて、よろこんでいても悲しんでいても、キャンキャン騒いでいて。
 そして、キラキラ輝いている。

 彼のその愚かさが、その輝きが、愛しい。

 泣けるほど、愛しい。

 トマス@まとぶのことが大好きで、大好きなことを隠さない、まっすぐな少年。
 育ちの良さが見える、おおらかさ。
 あざやかなブルーの衣装が映える長身と、華やかな美貌。
 なにもかも持ち合わせて、なんの疑いもなく輝かしい明日を信じている。

 ……同じ敷地内のバウホールで、明日を信じられずに破滅していく同世代の若者の物語が上演されてます。
 クライド@『凍てついた明日』の絶望感をちらりと思い出しながらも、トゥスンの前を向いた瞳に切なくなる。

 その無邪気さ、まっすぐさに、彼のこれまでの人生が伺える。

 「やさしく育てた」と公言するママ@邦さんは、「トマスが帰国したら、トゥスンは泣いて悲しむでしょうけど(笑)」と図星を指して、トゥスンをぶーたれさせる。
 てゆーかママ、女官たちの前でソレ言っちゃって、みんなくすくす笑ってますよ。トゥスン、王子様なのに笑われてますがな。
 そしてパパ@星原先輩は、「トゥスンがイブラヒムの4分の1でも政治を理解していればいいのに」と溜息ついちゃいますよ。
 4分の1って、パパ……。容赦無さ過ぎでしょう、そのシビアな数字。

 どんだけバカキャラ認定なんだ、トゥスン。

 だがそこには嘲りはなく、あたたかい愛情が満ちている。

 愛されキャラだな、トゥスン。
 可愛すぎるよな、トゥスン。

 ベドウィン音頭のぱかーっと楽しそうな笑顔だとか、ライフルの射撃準備をしている一生懸命な顔だとか、狙撃に失敗してくやしがって、すねている顔だとか、トマスに誉められて盛大にしっぽ振ってる顔だとか、ママに図星を指されたときのぷんすか顔だとか。
 なにもかもかわいくて、もーどーしよーかと。

 いつでもどこでもハイテンション。

 しあわせいっぱいにしっぽをぶんぶん振っているときも、のーてんきでかわいかったが。

 大好きなトマスが処刑されるとわかったあとの姿がまた……あまりにバカで。
 バカでみっともなくて、キーキーうるさくて。
 ……愛しい。

 パパの足元に這いつくばって、懇願して。
 なにもわかってないの。何故そうなったのか、どうすれば事態を改善できるのか、建設的なことはナニも考えず、ただ感情だけで泣き叫ぶ。

 トゥスンのバカさ加減は、もうずっと愛しかったけれど。

 『愛と死のアラビア』千秋楽。

 後半になると懇願時の台詞が少しずつ増えていて、台本にない台詞はマイクが入らないのか、あまりちゃんとは聞こえないのだけど、トゥスンはいろいろ叫んでいるのね。
 その、ザイド@まりんに連行されるときの、「父上」という呼びかけを除いた最後の台詞が「私の友を殺さないで下さい」なのね。
 この場面で一気に叫びすぎているせいなのか、声は金切り声的に、かすれていて。
 マイクもないまま、それでも叫んでいるの。「私の友を殺さないで下さい」……必死に。

 ここまで言っちゃうとね、パパがつらすぎるでしょう? それは言っちゃダメだよ、トゥスン。
 自分の悲しみに手一杯で、どれだけ父を傷つけ、追いつめているかも理解していない。
 また、いつもの彼なら、尊敬する父に向かって、そこまで酷い言葉は投げないだろう。ブレーキがきかなくなるくらい、コワレて叫んでるんだ。

 ただもう、「いやだいやだ」と。

 駄々っ子だよ。
 一軍の将がしていいことじゃない。
 未来の総司令官がしていいことじゃない。

 目の前の障害に対し、解決策を考える前に脊髄反射で「いやだいやだ」と駄々をこねる子ども。
 その無力さ、愚かさ……「泣いてお願い」すれば、駄々をこねれば、現実が動くと無意識に信じていられる純粋さが、愛しい。
 わたしは大人で、あきらめることとか取り繕うこととかばっかに気を取られる、つまんないヤツだから、這いつくばって哀願できる、泣いて駄々をこねられるトゥスンが、愛しくてならない。

 冷徹な政治家であるムハンマド・アリとイブラヒム@ゆーひが、この甘ちゃんな次男坊を愛しているのは、そんな意味もあるのかと思う。
 彼らはもう、トゥスンにはなれないんだ。
 嫌なことを嫌だと、人目も立場もお構いなく叫ぶことは、一生出来ないんだ。

 子どものように泣いて、駄々をこねて。
 それでも叶わないと知ったトゥスンは、極論へ走る。
 牢獄へ侵入し、トマスを助け出して砂漠へ逃げる。トゥスンのベドウィン騎馬隊は、砂漠では無敵だから無問題。
 父の軍隊だろうとオスマン帝国の軍隊だろうと、関係ない。勝つのは自分たちだ、と、力尽くで願いを叶えようとする。

 家族も国も捨てるってさ。
 ただ、愛のために。

 同じ花組の、ひとつの前の公演では、家族や国のために愛を捨てた男の苦悩を、劇的に描いていたっけねぇ……。
 豊太郎@『舞姫』の絶望感をちらりと思い出しながらも、トゥスンの前を向いた瞳に切なくなる。

 トゥスンの、意気揚々とした顔ときたら!
 自分の行動こそが正しいと信じ、トマスが喜んでくれると信じ、胸を張り宣言する。
 愛を。正義を。人生を。

 その、迷いのない輝き。

 世界の中心が自分であると、なんの疑問もなく信じ切っている、純粋さ。若さ。

 人生に対し、真っ向から駄々をこねられる、強さ。

 トゥスンの輝きは、彼の愚かさを通り越して、ただただ愛しい。……そして、切ない。

 バカだ、こいつ……。こんなことして、残されたパパが、エジプトが、どれだけ困るか、まったくわかってない。自分のわがままでたくさんの人の血が流れるとか、何年も掛けて父と兄が築いてきたものがパァになるとか、なにもわかってない。
 自分を正義の味方だと信じて。白馬に乗った王子様だと信じて。
 子どもの正義、子どもの知恵。
 彼が抱きしめているのは、彼だけの小さな地球。彼が「世界」だと思い込んでいる、彼だけのおもちゃ。

 あまりにバカで、ダイスキで、泣けてくる。

 拒絶されるなんて夢にも思わない、世界は美しいモノだけで出来ていると、信じ切った少年。
 そんな子どもが、はじめて世界に、裏切られる。

 翌日欄に続く。


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