もう何度となく書いてきた気もするけれど。
 それでも書く。

 『麗しのサブリナ』の、ライナス@まとぶんが好きだ。

 間を置いて東宝で観て、またさらにヲトメゴコロを直撃された(笑)。

 夜のオフィスにて、なついてくるサブリナ@蘭ちゃんに言っちゃうわけですよ、真実を。サブリナが障害だったので、騙してパリへ送り返すつもりだったって。
 空っぽの船室に別れの手紙、とライナスの陳腐なシナリオを言い当てるサブリナに、ライナスは必死になって「それだけじゃない」と彼女への慰謝料を言いつのる。
 ライナスとしては、サブリナへの精一杯のキモチ、誠意を表すつもりでアパートや銀行口座を用意していると、お金いっぱいあげるよと言うのだけど。
 サブリナはそんなものを欲しがっていない。最初に「心あるウェイトレス」の話をしたように、彼女はお金なんか求めていないんだ。
 なのに、お金の話しかできなくて。
 賢明に慰謝料を読み上げたライナスに、サブリナは「寛大ね」と微笑みを返す。
 その微笑みは泣き叫ぶよりも哀しく、その言葉は非難よりも厳しい。

 愛する少女にそんな顔をさせて、そんな言葉を言わせて。
 自分の心ひとつコントロールできない恋愛下手なライナスは、激しく傷つく。
 傷つけたのは自分なのに、そのことに傷つく。

 「寛大ね」と言われたときの、ライナスの表情が。
 あまりに痛くて、見ていられない。

 そしてこの男は、自分でその傷を、痛みを、受け止めきれない。自分が何故そこまで傷ついているのか、痛いのか、理解できていないのかもしれない。

 うろたえて、逃げやがった。

 サブリナを傷つけた。
 それによって、自分も傷ついた。
 それがわかった瞬間から、サブリナに、背中を向けた。

 そのあと、ただの一度も目を合わせやしねえ。

 サブリナに船のチケットを渡すときですら、視線をそむけたまま、「はい」と手だけ差し出す。
 なんっちゅーチキンぶり!

 大の男が、30代の大人の男が、22の小娘相手に、逃げ隠れ。目を合わせたら石になるわけでもあるまいし、びびりきって背を向ける。
 こわくてこわくて、縮こまっている。

 ライナスは、逃げたんだ。
 サブリナを傷つけたとわかったあとからはもう、彼女とまともに対峙することができなくなった。視線を合わさない、背中ばかりを向け続けるのは、カラダはそこにあっても脱兎のごとく逃亡したのと同じ。
 この負け犬。

 どんだけ怖いの。
 恋は。
 恋をしている、自分を認めることは。

 大会社の社長で敏腕で通っている、度胸も分別も判断力もある男が、子どものようにおびえて縮こまっている。
 そのみっともなさ、なさけなさ、その愚かさが……愛しくて。
 愛しくて愛しくて、胸が詰まる。

 ライナスがあまりにバカで、かわいくてならない。
 この男を好きだと思う。
 この男を、愛しいと思う。

 そして。

 そのバカなヘタレ男に比べて、サブリナの強さと来たら。

 騙されて利用されて。
 その言い訳にお金なんか用意されて。最初に「心あるウェイトレスの話」をしているのだから、買収に応じろというのは、彼女の「心」を否定することなのに。
 そこまでされてなお、ライナスを見る。顔を上げて、愛する男を見る。
 そして、そのひどい男のために、チケットを受け取る。

 目も合わさない……彼女という被害者の元から精神的に「逃げてしまった」男なんかのために。

 ここのふたりのやりとりは、切ない。
 ヲトメゴコロ直撃。
 これぞ恋愛モノ、心のひりひりする切なさが快感。

 久しぶりに観て、まずはライナスのかわいさにハァハァする(笑)。
 バカでかわいくてたまらん。もー大好き。
 
 んで、その次に観たときには、サブリナの目線を想像する。

 客席にいるわたしは、舞台全体が正面から目に入っているわけだけど。
 人間には想像力があるのよ。
 カラダは客席にいるけれど、舞台を遠く正面から眺めているだけなのに、まるでドラマのようにサブリナの後ろあたりにカメラがある感覚で観るの。
 目で見ている光景から、別の角度の光景を脳内に再構築するの。……人間の目と頭脳ってすごいな。経験からわかるじゃん、こう見えている立ち位置なら、こっちのカメラから見るとこう重なって見えるとか。

「他にもある、銀行口座、アパート、車」
 あわてふためいてファイルを読み上げるライナス、その必死な顔が、突然凍り付く。
 私の顔を見て、彼の表情が変わる。
「寛大ね」
 見たこともない、空っぽの顔。
 魂を失ったみたいに、私を見つめて。
 そして、背中を向ける。
「切符をくださる?」
 見えているのは、背中。そして横顔。彼は決して、私を見ない。
 これが、最後なのに。
 もう二度と会えないのに。
 なのに、私を見てくれない。

 私に、顔を見せてくれない。

 広い背中だけがある。
 私を拒絶する背中だけが。

「さよなら。料理、できなかった……」

 私がなにを言おうと、その背中は振り返らない。
 その顔は、瞳は、私に向けられない。

 わたしがきずつけた、あのひとみを、わたしにやきつけて。
 
 それを最後に、もう彼は私に顔を、瞳を見せてくれないんだ。

 ……という、サブリナ目線カメラ(笑)。
 サブリナに目で見たら、こんな風に映っているだろう、と脳内でライナスの位置や顔や身体の角度を想像するんだ。
 わざと向けられ続ける背中、そらされた視線。

 これがもおっ、すげー痛いっ。
 愛する男にコレやられたら、立ち直れない。どんだけ哀しいか、切ないか。
 それを堪能する。

 ヲトメゴコロ直撃。
 これぞ恋愛モノ、心のひりひりする切なさが快感。

 あああ楽しい。
 『麗しのサブリナ』、楽しすぎるっ。

 恋愛小説読んで大泣きする、あの感覚ですよ。少女マンガでもBLでも、コレが欲しくて読むわけですから。切ない系が大好物なんですよ。

 まとぶんのストレートさに、蘭ちゃんのセンシティヴさが絶妙なマッチ感。
 このカップル、イイ!! 大好き。

 『麗しのサブリナ』はなあ、演出がもう少しなんとかなっていれば、ほんと名作になったと思うのですよ。役の少なさはどーにもならんけど、バウで景子タンあたりの演出で上演してればどんだけ美しい作品になったかと。
 中村Aだと演出力に限界ありすぎて。
 もったいないわー。

 でも、楽しんだわ、わたし(笑)。
 ノベライズしたいわ、この宝塚歌劇花組版の、『麗しのサブリナ』を。切なさ全開で恋愛描写したいわー。

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