新人公演『ファントム』の構成について。

 2幕モノを1幕にまとめての上演だから、あちこちカットがある。そして、それでもなお、通常の新公よりはちょっぴり時間長め。

 演出家は田渕大輔氏。この人、他にナニか演出してたっけ? わたしは初見。

 なんか、すごくうまく短縮されていた。

 前回の再演花新公『ファントム』よりイイ。
 前回はすごくちまちまと台詞や間の部分をカットして、とにかく詰め込むことだけ考えた落ち着かない構成だった。

 オープニングから違和感なく物語が進み「あれ、1幕全部やる気なのかな?」と途中で首をかしげた。
 でもほんとはそうじゃない、わたしが違和感を持たなかった部分でもあちこちカットや変更はされている。
 でもそのカット部分が一定法則に則っているので、雑音にならない。
 たとえば従者たちが町の浮浪者だと説明するあたりはカットだし、カルロッタに従者がいたずらする部分はカットだし。
 なにより、脇の人たちがばたばたする「カルメン」を全カットだし。長々続くファントム誕生秘話のあとの「エリック可哀想ダンス」は短縮だし。
 「オペラ座の怪人」本筋のみを追って、脇のエピソードはさっくりカット。
 前回の「カットはできるだけしない、詰め込むだけ詰め込む」という『ファントム』と好対照。

 本筋だけを追っているので、話はとてもわかりやすい。
 それゆえに、出番や見せ場のある人は限られる。

 主要人物にしか見せ場ナシだもんよー潔いわ……しかしコレ新公なんだけどなー、本公演と同じくらいしどころのない人続出……。
 若者たちにできるだけ広く多くの研鑚の場を、ではなく、劇団が選んだ数名にのみ深く重く研鑚の場を、って意義で構成されたのかな。

 主要人物にのみ興味を持ってみる分には、気が散らなくていい構成だったと思う。
 名もなき脇の下級生目当てだったら、ストレス溜まったろうな。

 
 さて、そんでもってキャストの感想。

 主人公のエリック@鳳くん。
 少年体型なこともあってか、ぼくちゃん喋りに違和感のない男の子。
 らんとむ氏とは違った意味で、健康なファントムだった。
 実力に破綻はないし、安心して見ていられるのはうれしい。ただ、物語が進むにつれ、どんどんわたしはこのエリックくんが遠くなる気がした。
 どんな子で、どんなことが起こるかわからないうちはいいんだけど、話が見えてくるとそこで興味が薄くなるというか。ストーリーは知っているけど、いちおー「はじめて観る」キモチでわくわくと座席にいるわけで、話が展開すればどんどん引き込まれていくべきなんだと思うんだが……えーと。

 なんつーか、ほんとふつーの子なんだなあ、このエリック……と思い、デジャヴを感じた。
 ああそうか、すっかり忘れていたけど、鳳くんってわたしにとってはそういう子だっけ。
 何故か彼はエキセントリックなキャラクタを新公で演じることが多く、そのたびに「ふつーだ」と思い知る。地に足ついた、ふつーの家のふつーの子。ふつーに常識的に、健康に育った男の子。
 悲劇とか天才とか運命とか、そーゆーものとは別の岸で生きている。
 天才役とかを色の濃い役を演じると、そのふつーさに首をかしげてしまう。

 『コード・ヒーロー』とかの、ふつーの青年役はハマってていいんだけどなあ。や、アレは話がぶっとんでいたけど(笑)、ジュニア@鳳くんはあの世界では十分まともなキャラだったなと。

 鳳くんにいちばん欠けているものは、スタイルではなく、実はカリスマ性かもなと思った。
 エリックなんて、『ファントム』なんて、キャストの力技でねじ伏せるキャラであり、作品である。技術だけでなく、問答無用のタカラヅカ力が必要。たかちゃん、オサ様、らんとむと、みんなトップになるべき帝王道を歩んできたカリスマたち、そんな彼らが力技を披露する作品だもんよ。
 ふつーの男の子のエリックは……なんつーか、作品の歪みに負けてしまって、居心地が悪かった。いや、可哀想って意味ではいいんだけど……こーゆーファンタジーのラッピングがされていない、そのまま可哀想な男の子の話を見せられてもなあ、というか。

 このやさしい持ち味のエリックも、アリなんだとは思います。あー、なんか母性本能刺激系の、子犬的なきゅんっとするエリックでした。

 破綻なく問題なくきちんと演じられ、新公の長と主演をきっちりこなしていたと思う。大変だったろうなあ。
 歌はわりと大変そうに思えたんだが……いやそれでも本役さんよりうま……ゲフンゲフン、その、もっと歌えると思ってたんで、ちょっと拍子抜けしたかも。

 鳳くんは本公演の従者がすげーイケメン。エリックの鬘や衣装はバランスが難しいのかもしれない、としみじみ。

 
 クリスティーヌ@みりおんは、鳳くんのエリックにはとても合っていたと思う。彼を損なわない寄り添い方というか。
 高い歌唱力とすっきりした美貌。いろんな意味で薄めなんだけど、この物語の主役はクリスティーヌではなくエリックだから、クリスティーヌはこれくらい地味で堅実な方がイイ。
 年端もいかない少女ゆえ、モノ知らずゆえに純粋なのではなく、ふつーにお年頃の、性質の素直な女性に見えました。
 エリックより年上に見えちゃうのはご愛敬か(笑)。

 
 キャリエール@いまっちさんは、ハードル高くて申し訳ないっす。観る前から「いまっちだから」と構えちゃってる分は確かにある(笑)。
 どんなキャリエールが現れるだろうと、勝手にワクテカしまくっていたので、そのキャラクタと芝居の堅実さに驚いた。
 えーと……すごく真っ当に「キャリエール」やってる……。
 エリックがふつー過ぎるせいもあるかもしれない、それにしてもキャリエールさんも、えらくふつーだ。

 いまっちは今までも老け役をやってきている。
 彼のいいところは、老け役をやってなお、「現役感を忘れないところ」だと思っていた。専科さんや組長の役で、美貌だとか色気だとかではなく、芝居技術のみを求められているときですら、「タカラヅカ男役」である気概を持っていたというか。中年役であろうと老人役であろうと、ファンをときめかせてくれる美貌や色気をきっちり出してくれた。
 だから今回も、なにかしらいまっちらしいプラスアルファのあるキャリエールを期待していたんだが。
 意外に、正攻法なキャリエールだった。

 もちろんすごくうまい。群を抜いてうまい。芝居も、そして、歌も。

 とても押さえたキャリエールさんで、そーゆー役作りなのかと思っていたら、エリックを射殺したあとは突然「いまっちのキャリエール」になっていて、思い切りツボった(笑)。なんつーんだ、突然芝居がどーんっと濃くなって、えーらいこっちゃな感じになっていた。
 えーと、キャリエールさんアレ、狂っちゃったんですか? もう戻ってこないんですか?

 全編このノリかと思っていたんだよ、最後に取っておいたんだね。

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