もしも長年2番手を務めた安蘭けいを2番手退団に追い込み、湖月わたるのあとに柚希礼音をトップスターにしていたとしたら、柚希礼音は人気スターとなり得ただろうか。

 ……考えただけでも、おそろしいですよ。
 トウコを2番手切りしたら、そのあとどんだけ星組と劇団が混乱に陥ったか。

 それと同じことを、劇団はしたわけです。
 長年2番手を務めた彩吹真央を2番手退団に追い込み、水夏希のあとに音月桂をトップスターにした。

 んじゃそこまで音月桂が大事だったかというと、そうでもない。
 キムにはトップ娘役なし、お披露目作は研1ヒロイン役替わり。宝塚歌劇団のトップ制度、スターシステムの否定。

 それがどんだけ雪組と劇団へ打撃となったかは、雪組新体制発表になった翌日の、水くんのサヨナラ公演の人数で、よーーっくわかった。

 サヨナラショー付き公演を、ムラならば当日券で観られる可能性がある。
 朝から並びに行けば、抽選で購入権利を得られる。
 この、サヨナラショー目当てに当日券に並ぶ人たちは、タカラヅカの浮遊層だと思う。
 退団するスターのガチなファンなら会席だったり、高額チケットに手を出したりで、確実に押さえているだろう。
 「観られたらラッキー」「観られなくてもあきらめがつく」程度の意識で、「観るために高額は出せないけど、早朝からムラに並びに行く労力は出してもいい」と思っている、ヅカファン。

 このライトな層が、激減した。

 トウコ、あさこと並び、人気を博したスター・水夏希の当日券に、トウコたちの半数しか、並びに来なかった。

 コアなファンの数に大差はないと思う。前述の通り、当日抽選に並ぶ人たちは、「観られなくてもかまわない」程度の人たちだ。
 ライトなファン、タカラヅカのファン自体が、減ったんだ。

 劇団のやり方に、失望して。傷ついて。憤って。


 『ロミオとジュリエット』の研1ヒロインは、未だになにがしたかったのか、わからない。
 夢華さん抜擢は、あらゆる意味でマイナスでしかなかった。
 ファン心理という点においても、つたないヒロインを見せられた観客にとっても、抜擢された本人にとっても、それを支える他キャストにとっても、そして、それらのマイナスを受けて興行成績も影響しただろうから、利益面でも。
 すべてにおいて、悪い結果になるとわかりきっていた、謎の人事。

 悪いことしかないのに、それでも敢行しなければならなかった理由がわからない。


 失望というのは根が深く、「『ロミジュリ』Wキャストは失敗だった。評判の良かった舞羽美海をトップ娘役にして、軌道修正しよう」とかで、回復できるモノじゃない。
 もともとのファンはどれだけ失望をくり返しても、贔屓がいる限りついていくけれど、それ以外の人心は、離れると生半可なことでは、戻ってこない。
 水くんラストの日に、半数のヅカファンしか集まらなかったように。
 浮動層が雪組を、タカラヅカを見限ってしまったあとでは、なにをしても遅いんだ。


 どこで間違った、というような単純なモノじゃない。
 それは理解しているけれど、今この時点から過去を振り返り、思うことは、「音月桂に、2番手を経験させるべきだった」に尽きるかなと。

 劇団は、御曹司の育て方を間違っている、と常々思う。
 抜擢したいスターがいると、新公主演を独占、バウ主演を独占させる。それではファンが増えないし、本人の技術も早くから頭打ちになる。
 主演は同じカラーの役ばかりになるし、基本、主演のファンしか観ない。本人の引き出しは増えないし、新規ファンも獲得できない。

 そうではなく、主役以外の個性的な役を経験させるべきだ。
 そうして、主演スターのファンに認識してもらい、愛情を注いでもらう。情が移る、という状態でいい。熱烈なファンでなく、贔屓の次に好き、あたりのヅカファンを増やしていく。
 ……つまりそれが、「2番手」ということだ。
 組内での正2番手とは限らない。トップスターの2番手役を多く務めていれば、トップスターのファン、組ファンから愛情を受けることが出来る。

 キムは、2番手をほとんど経験していない。
 水くんトップ時代、2番手役をしたのが全ツ『星影の人』のみだ。これは同じ作品・同じ役を正2番手のゆみこがやっているので、キムの役とカウントしにくい。
 水くんの退団公演でのみ2番手をやっているが、退団公演だけでやったところで、前述の「主演ファンに情を移してもらう」効果は得られない。ファンは贔屓の退団に全力を挙げているからだ。

 劇団の間違った考え方により、キムはいつもひとりで主演していた。
 長い歴史を、上から下へ受け継ぐ形でリレーしてきたタカラヅカなのに、上の人と絡むことがなかった。
 2番手をやらせてもらえなかったために、トップスターとそのときの組ファン、タカラヅカファンから、情を移してもらえなかった。
 そこへ、ゆみこの2番手切り、研1ヒロイン抜擢の疑惑人事という、劇団の失策をすべてかぶる結果となった。

 「2番手でなくても、ファンに情を移してもらえるスターはいる。それができなかったことは本人の魅力の問題で、人事のせいじゃない」とかいう話は、横へ置いておく。
 それを言い出すと、「真のスターならば初舞台生ロケットの中でも輝くはずだ」とかいう、極論につながる。すべての話が「天才なら問題なし」になって終了しちゃうよ。
 本人の資質云々ではなく、どうプロデュースすれば人心が動くかの話。

 キムに、2番手をさせるべきだった。
 コム時代から、壮くんよりもキムを引き上げたい意図が見えていた。そこへ、壮くんの花への組替え。
 ならばいっそ、水くんの2番手を、キムにするべきだった。
 『エリザベート』のルキーニ役をキムにやらせたい強い意志があったのだろうが、それならゆみこは専科から出演という形でも良かった。
 水くんとしっかり組ませ、2番手の仕事をさせるべきだった。

 トップファンは往々にして、2番手に複雑な感情を持つ。2番手とは通常、「次にトップになるスター」であり、現トップは2番手に追われる形になるためだ。その図があまりあからさまだと、トップファンから2番手に情が移りにくい。
 反対に、2番手の学年に余裕があれば、トップファンは心穏やかにいられる。
 トウコファンが、若いれおんを2番手として寛大に眺めていたように、水くんの下ならばキムの若さは純粋に戦力になったろう。


 水ゆみコンビが好きだったし、水くん時代の雪組を悪く言うつもりはない。ブログをさかのぼって見てもらえればわかると思うけど、わたしは水くん時代の作品もみんなおいしく楽しんで観てきた。水ゆみと彼らの時代を観られたことは、良かったと思う。
 それを否定するのではなく、ただ、今この時点から振り返ると、2番手切りという最悪の人事に行き着く遙か以前に、問題があったなと。

 そして、歴史はくり返す。
 キムくんの突然の退団発表は、わたしにとってゆみこの2番手退団と同じ色の失望だった。
 劇団に対する。

 プロデュースの失敗を、全部生徒に負わせるのか。

 キムの才能を、実力を、愛してきただけに、それが悲しい。

日記内を検索