新人公演『麗しのサブリナ』の演出は、あちこちイラッとさせられることが多かった。

 出演者の問題ではなく、演出。

 あのテンポの悪さはナニ?

 特に前半、コメディ場面が軒並み冗長になっていた。
 下級生たちにコメディをやらせるのは難しいから、スベると可哀想だから、時間をたっぷり取ってお笑いをやる時間を与えようっていう、親心?

 すっと流せばいいところを、わざわざ何拍もとって「笑わせる」ための台詞や芝居をさせることに、すごい違和感。

 ふつーにやらせろよー。
 「本公演とはチガウ笑いを」とか、余計なことは考えなくていいから。
 や、少しは考えてもいいけど、前半全部いちいちソレってのは、ウザ過ぎ。

 料理教室、使用人たち、ララビー家もタイソン家も、とにかくみんながみんな、もれなく全員が「笑わせる」ために芝居の流れを止める勢いでナニかやる。
 アドリブではなく、そーゆー演出と脚本に書き換えてある。

 1箇所2箇所なら「新公のお遊び」で楽しめるし、またアドリブならその場の勢いで楽しめることもある。
 が、もともとの演出がソレで、必死にお稽古して披露しているのがわかるだけに、もお。

 本公演も決してテンポがいいとは言えない、盛り上がりに欠けるかったるい芝居だ。
 それをさらにテンポを悪くする、って、演出家はナニ考えてんだ?
 センスがないにも程がある。

 ……ちなみに、新公演出も中村A自身でした……なんて筋の通ったアレっぷり(笑)。

 料理教室のシェフ@アーサーなんか、中村Aのいらん演出がなくても十分愉快に輝けたろうに、テンポが悪くなっているもんだから、やりすぎ感があった。
 生徒たちのキャラが全員本公演と違っているのとかは面白いんだけど、それとテンポの悪さは別。

 なかでも最悪の改編が、デイヴィッド@まゆくんの家族説得場面。

 サブリナ@みりおんとのデートに行くため、タキシードの尻ポケットにシャンパングラスを入れたデイヴィッド。
 彼を家族が説得するわけだが、デイヴィッドは聞く耳持たず。サブリナとのデートに行こうとする。
 それを、ライナス@あきらが引き留めて、わざとソファに坐らせ、グラスを割らせるわけなんだが。

 1回はソファに坐り掛け、でも坐らずに出て行こうとするデイヴィッド。それをライナスが「いいから坐れ」と言い、「わかったよ、味方は兄貴だけだ」とデイヴィッドが坐る。んで、グラスがぱりん!
 ……というのが、本公演の流れ。

 その「用があるから行くよ」「いいから坐れ」を、さらにもう1回やっんたんだ、新公。

 坐り掛けて、思い直して出ていこうとするデイヴィッド、「坐れ」と言うライナス、「坐りたくない気分なんだ」と言うデイヴィッド、さらに「坐れ」と言うライナス……。

 なんのために?

 ここでももちろん、無駄な繰り返しのためにテンポが悪くなっている。同じやりとりを繰り返すことに、意味なんかない。
 演出家は、「笑わせよう」と思ってやっているんだと思う。「志村、後ろ!」じゃないけど、危険がわかっていてそれに気づかないキャラクタを、観客が笑う場面にしているんだよね。

 でも、無邪気な「志村、後ろ!」ではなく、実の兄が弟に大ケガをさせる場面だ。気ままな弟の足止めとおしおきの意味もあるにしろ、23針も縫う大ケガをさせる件を、ギャグとして繰り返すのは、わたしには笑えない。
 さらっとやるからライナスの咄嗟の機転、笑いの範疇なわけで、何度も何度も確信的にケガをさせるよう導くのは、悪意を感じて気持ちが悪い。

 いや、「用があるから」「いいから坐れ」を何回繰り返してもいい。
 「坐りたくない気分なんだ」と言わせるのがわからない。

 坐りたくない、とデイヴィッドが言うことによって、彼がお尻にグラスを入れていることを思い出した? と、わたしには見えた。
 そんなはずはない、だってお尻にケガをしないと話が進まないんだ。そう思っていてなお、一旦坐り掛けて腰を上げ、さらに「坐りたくない」と言葉にして意思表示するってのは、よほどの坐れない事情があるのかと思う。
 サブリナとのデートはナイショだから、グラスを2つ隠し持っていることは家族に知られたくない。だからグラスを取り出すことは出来ないし、かといってお尻に入れたまま坐ったら大惨事になる。だから、坐れない、坐りたくない。
 そーゆー事情かと。

 それを、ライナスが3度坐るように命令する。「味方は兄貴だけだ」……パワーハラスメントによって。
 坐ったら大惨事、大ケガする……命令する方もされる方も、それがわかっていて、する。

「カウリ剣の儀式を要請します」
「疑わしき者の心臓に剣を突き刺し、生き延びれば無罪となる!」
「神の裁きを!!」

「尻ポケットにグラスなんか入れてないんだろう? それなら椅子に坐れ、できるはずだ」
「何度も坐れと命令するのは、尻ポケットにグラスを入れていることを知っているんだ。それでも、無実を示したかったら、椅子に坐れと……大ケガをすることで、彼女への愛を示せという命令? いや、自分の事業を台無しにするボクへの復讐? 兄はそこまでボクを憎んでいるのか……!!」
「神の裁きを!!」

 てなことかと思いました。

 殺すことが目的で行われるカウリ剣の儀式、大ケガさせることが目的で行われるグラスを入れたままの着席。

 なんて残酷な。

 まあそれはうがちすぎ、考えすぎだとしても。

 坐ったら大変なことになるのに、何度も坐りそうになって、その都度セーフなデイヴィッド、で笑わそうとする……って、そのセンスのなさにドン引きした。

 それで笑わせていいのは、「このままじゃケガをしちゃうから、助けるために周囲があたふたする」という繰り返しのみだ。
 助けよう、教えようとしているのに、おバカなデイヴィッドが何度も坐りそうになる、ああ~~坐っちゃダメだデイヴィッド!! よかった間一髪セーフ、てなこと言ってる間にまたピンチ、ダメだってば~~!!
 ならいいけど、今回はその反対。
 デイヴィッドにケガをさせるために、何度も何度も繰り返させる。「危ない!」じゃなくて、「惜しい、もうちょっとで大ケガだったのに!(舌打ち)」って、なんなの、このダークな心理。これをギャグだと思っている演出家にドン引き。

 終始この調子で、改悪されてました、新公の演出。
 笑いを取るために、大切なモノを捨ててしまった模様。
 シリアス場面は変わってないのでいいんだけど、コメディ場面、楽しい場面が悲しいことに……。
 笑いっていちばんセンスや人間性が出るよね。

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