年寄りの昔話、数日前の続き。

 じゃあ『バッカスと呼ばれた男』って、どんな話だったか。

 当時の谷先生作品にありがちだった、女不要、男たちだけの愛憎劇でした。

 「英雄」がダイスキで「皆殺し」が大好きな谷せんせ。
 英雄主人公のために、彼を愛した男たちがばったばった死んでいくのがお約束。女はお飾り、出てくるだけで人格ナシ。作者が描きたいのは「男が惚れる男」なので、女は「主人公を愛している」という記号だけ。主人公は台詞でだけ愛を語るが、他の言動見てりゃわかる、彼はとりたてて女は愛さない。

 このステキな作風の谷せんせの、充実爆走していたころの作品です(笑)。
 
 ただ『バッカスと呼ばれた男』は痛快活劇なので、人は死なない。皆殺しの谷だけど、『アナジ』とその焼き直しの『春櫻賦』で無意味な皆殺しネタはやりまくっちゃったんで、『バッカス』はあえて「誰も死なない戦争」を描く。(その直後のかしげバウで好きなだけ「皆殺し」やってるので、気分は晴れているだろうし・笑)

 だからえーと、腐女子視点語りをはじめますが、そもそも谷作品って女不要の世界観だから。ついそーゆーことになっちゃうのよ、とゆーことでご理解ヨロシク(笑)。

 大貴族ジュリアン@トドはフランス銃士隊隊長で、身分からも地位からも当時のフランス政府の要人だった。幼い国王ルイ14世にもなつかれ、国王に代わって国政を執る王妃(正確には大后、ルイ14世の母)アンヌ@グンちゃんにも頼りにされていた。
 だが彼は突然すべてを捨てて王宮を出てしまう。

 これは、アンヌと愛し合ってしまったせい、だと脚本上は語られている。
 国を治めるべき王妃と許されない愛をかわしている場合ではない、フランスのため王妃自身のために、身を引くしかない。
 そう考えたのだと。

 まあ、そういうことにして、楽しむことも出来る。
 でも大后アンヌ・ドートリッシュって、宰相マザランとデキちゃって公私混同上等だった人でしょう? ジュリアンが身を引かなくても、そもそもそーゆー女性なわけで。
 
 だから。
 ジュリアンは、王妃の恋から逃げるために王宮を出たのだと思いました。

 女社長にパワハラ&セクハラされたら、会社辞めて逃げ出すしかないじゃん? 立場的に、どーしよーもない。
 女社長(バツイチ子持ち)にことあるごとに迫られてる、なんて他の人には相談できないし、公になれば会社的にも醜聞だし。
 女社長には仕方なくイイ顔はしているけれど、別に彼女のことなんとも思ってないし。ただコドモ好きなんで、彼女の息子のことは本気でかわいいと思ってるけど、だからって「新しいお父さんよ、ほほほ」なんて勝手に言われても困るし! オレがいつアンタと結婚するって言ったよ?!
 誰にも真実は告げず、身をくらますしかない。

 てことだと、思いましたよ、わたしは(笑)。

 でも愛国心と幼いルイ14世には愛情を持っているジュリアンは、王妃が好戦的な血も涙もない「戦争上等! 勝ったモノが正義!」政治を続けているのを見かねて戻ってくる。「それ、やりすぎじゃね?」と。
 でも王妃、昔と同様色目は使ってくるけど、政治方針に関しては聞きゃーしねーし。ダメだこりゃ、帰ってくるんじゃなかった……と、思っているときに。

 ジュリアンの前に、いたいけな美青年ラズロ@コム姫が現れた。

 えー、トド×コムだと思ってます、わたし、この物語。
 『風と共に去りぬ』でも『ドリーム・キングダム』でも、美しかったですね、このカップリング。男の夢をそそるビジュアルなのかもしれません(笑)。

 大国フランスとドイツに挟まれた小国アルザスの悲劇。大国の都合・戦争に巻き込まれ、いつもキリキリ舞い。
 リクヴィール侯国の危機を救わんと、ジュリアンは立ち上がる……! わけだが、その理由って。

 ラズロだよね?

 ラズロに一目惚れしたから、縁もゆかりもない国を助けるために命を懸けるんだよね。


 文字数の関係で、突然ぶった切り、翌日欄へ続く~~。
 『バッカスと呼ばれた男』ってつまり、こーゆー話だよね? という話、その2。

 リクヴィール侯国の危機を救わんと、ジュリアンは立ち上がる……! わけだが、その理由って。

 ラズロだよね?

 ラズロに一目惚れしたから、縁もゆかりもない国を助けるために命を懸けるんだよね。
 王妃に想いを掛けられ、逃げ出した男、ジュリアン。つまり彼は、もともと女に興味がないんだ。それより美青年が好きなんだ。

 自由人なジュリアンは、恋を楽しむことを知る男。両想いになることには、あまり興味がない。ラズロには相思相愛の恋人シャルロッテ@みりちゃんがいるけれど、キニシナイ。
 ラズロは従僕、シャルロッテは姫君。ふたりの国、リクヴィール侯国を「バッカスの聖戦」で救い、そのどさくさで、身分違いのふたりの恋を実らせるキューピット役までやっちゃうのさ。
 そして彼は歌う、「シアワセになるのは、私でなくともいい」(主題歌だ!)。

 ホモにはホモがわかるのだろう。

 ジュリアンの周囲には、彼をひそかに(?)愛する男たちがいた。

 ひとりは盗賊マンドラン@トウコ。
 本公演バージョンではジュリアンがラズロを救出するついでに助けてしまったひとり。どうもジュリアンに一目惚れ(笑)したらしいんだけど、なにしろ彼はツンデレ。

 「一緒に行かないか」と誘われたのに、「やなこった」と断る。一緒に行きたいのは見え見えなのに。
 「オレの帰りを待ってくれている女を泣かしたくないんでね」なんて心にもないことを言ってみるのは、さらに誘いの言葉を待っているため。
 もう一声誘ってくれたら、「仕方ないわね、そんなに言うなら一緒に行ってあげるわよ。でもカンチガイしないでよね、アンタが頼むから、仕方なく、一緒に行くんだからねっ」と、つなげるはずだったのに。
 ああら大変、「アンタ、あたしのことが好きだったの?!」とカンチガイした女が現れる始末。マンドランが「しまった!」と思ってもあとの祭り、今さら「ほんとはジュリアン、アンタと一緒に行きたいんだ」とは言えず、「オレが必要なときはいつでも言ってくれ!」と精一杯の譲歩。なんて不器用なツンデレ様。

 強く誘ってもらえなかったのに、地獄耳の情報網で、ジュリアンの動向にはアンテナを立てていた模様。「バッカスの聖戦」でお声が掛かったときの、うれしそうなカオ。「待ってました!」とヒーローソングまで歌って大活躍。

 全ツ版では、ジュリアンのことを最初から大好きな、「仲間」として登場。
 ツンデレではなく、わっかりやすいジュリアン・ラヴのストーカー(笑)。何故それを知っている? 何故そこに現れる?的に、ジュリアンのためだけにうっれしそーに活躍する男となる(笑)。

 どっちのバージョンにしろ、ジュリアンの役に立ちたかったんだね……一緒に行きたかったんだね……なのに、ジュリアンは。
 ラズロの恋を実らせ、リクヴィール侯国を救ったあとは、お祭り騒ぎの中をこっそり去っていくのさ。あわれマンドラン、置き去りさ(笑)。

 そして、もうひとりのホモ男。
 吟遊詩人ミッシェル@タータン。
 ツンデレ・マンドランのライバルキャラ(笑)だからもちろん、正反対の男。自分の気持ちに正直に、ジュリアンへ熱烈アピール!!
 出会った瞬間から、とにかくジュリアン大好き、惚れたぜベイベな言動全開。ロン毛でひらひら衣装のタータンにラヴられるって、すごいなヲイ。
 でもジュリアン様、面食いだから、ミッシェルの過度なモーションを全スルー。
 いやその、タータンが似合う役っつーの別にあるんですよ、オールバックにダブルのスーツとか、烏帽子の公達とか。中世おフランスの耽美キャラのタータン、ってなんの罰ゲームなの、谷せんせ。

 どんだけジュリアンがスルーしても、はしこいミッシェルはめげない・見逃さない。
 「バッカスの聖戦」が成功し、お祭り騒ぎの中ひとり立ち去るジュリアンを見つけ、あとを追ってくる。
 で、調子のイイこの男はちゃっかりジュリアンに告白。
「オマエのそんな生き方が好きだ」
 ……谷せんせ、マジか。男同士の告白シーンを、大劇場でやりましたよまったく。

 まあ、ジュリアンはそれをあーーっさりかわしちゃうんだけどね。世慣れてるもん。
 それでもめげないミッシェル。今まで一度も話題にしたことのない恋愛話をすっげー唐突に振る。
「人の仲立ちばかりして、自分はどうなんだ、恋してるのか?」

「してるさ、壮絶な恋をね」

 ジュリアンは、振り向きもせずに言う。……ついさっき、恋が実って幸せそうな、ラズロの笑顔を見たばかりさ。

 そーやって旅立ったジュリアンが向かう先は、すべての元凶たる王妃のもと。
 や、あの女に釘刺しておかないと、いろいろまずいでしょう。ニュアンスだの空気だのは読んでくれないので、ちゃんと「別れ」ておかないと、あとあとコワイって。
 大丈夫、彼女にはマザラン宰相@コウちゃんがいるから、これからもやっていけるよ。

 こーして、放浪の神バッカスのように、自由なシャンソニエ・ジュリアンは旅を続けるのでした。
 めでたしめでたし。

 
 可哀想なのは、なんといっても独り相撲の盗賊マンドランでしょう。
 ジュリアンのためにあんなにあんなにがんばったのに、置き去りにされて……。

 本公演版でも、「そのうち地獄耳を活かしてジュリアンの消息を突き止めるだろうな」と思ったんだけど。
 ナチュラルに愛のストーカーと化していた全ツ版では、「この世に残らぬ愛もある~~♪」と王妃と別れたジュリアンがふと顔を上げたら、そこの角にマンドランがいて、「よっ、偶然だなっ」と、手を振ってそうだ(でも、全力疾走してきたのか、息が切れている)。と、思った……。

 がんばれ、マンドラン。

 ……って、トド×コムでトウコ×トドな話でしたわ……(笑)。←トウコが攻なのか(笑)。
 『バッカスと呼ばれた男』には、大劇版と1000days版と全ツ版と3種類あった。それぞれ改稿され、脚本からして別物だった。
 が、それともうひとつ。

 新人公演『バッカスと呼ばれた男』があった。

 こちらは改稿はされていないんだが、なにしろ新人公演なのでキャストがチガウ……のはとーぜんだが、キャラクタ配置が別物だったんだ。

 役者のことを考えず、脚本だけで見れば。

・元銃士隊隊長ジュリアン……清廉潔白な武人、つってもおフランスなので華やかな美形。自分の存在が王妃や国のためにならないと判断、身分を捨てて出奔。
・吟遊詩人ミッシェル……ロン毛の美青年。耽美コスプレまかせろ。主人公が武人なので、それと正反対の調子のいい優男。
・宰相マザラン……美形悪役。政治的にも、恋愛的にも、ジュリアンを敵視している。
・盗賊マンドラン……濃いめの色男。トリックスター。ジュリアンに惚れ込み、協力する。
・使者ラズロ……純真無垢な青年。愛する祖国のため、姫君のため、命を懸ける。

 てなキャラクタなわけですよ。

 しかし本公演では、この通りのキャラクタには見えなかった。
 ジュリアン@トドロキはたしかに無骨さもある美形なんだけど、どこか、胡散臭い。
 ミッシェル@タータンのロン毛の耽美コスプレはなんの罰ゲーム?!状態だし、マザラン@コウちゃんに美しさを求めるわけにも……。
 マンドランとラズロはいいとしても、上から3人がキャラ違いすぎて、落ち着きが悪いったら。

 それが、新公では。
 脚本通りのキャラクタになっていたんですよ!!

 ジュリアン@ハマコの包容力。
 おフランス的に美しい……かどうかはともかく(笑)、彼がデキる男であり、人望篤い隊長だったとわかる。人間的な魅力で周囲をまとめて来たんだ。
 子どもたちから「おじさん」呼ばわりが違和感のない、だけど少年の心を持った大人の男。

 そしてそして、なんつっても。

 ミッシェル@レアちゃんの、美貌!!

 ロン毛OK! 耽美OK! つか、「吟遊詩人」っつったらこうでしょ、コレでしょ!!
 金髪がまぶしい、ケーハクな吟遊詩人、プレイボーイの美青年。
 ジュリアンが骨太なおっさんである分、ミッシェルが若い美青年なのがまた眼福なコントラスト。

 花組育ちの、キラッキラのダンサー、蘭香レア。その美貌と華と存在感は、たしかに雪組にはナイもので。
 そのキャラクタが一気に花開いた感。

 一方的にジュリアンになつき、最後は愛の告白をするのに相応しい、キラキラした美形でした。

 でもって。

 マザラン@しいちゃんの、美形悪役ぶり!

 枢機卿の赤が似合う、眦の上がった美貌の悪役。長身に衣装が映え、大きな眼が台詞以上の心情を語る。
 前回の新公主演者が、脇の抑え役にまわるのは賛成。一度真ん中を務めた人の華と実力は、いぶし銀的配置にもっとも映える。

 これだけの色男なら、そりゃアンヌ王妃@まひるちゃんも恋に落ちるわ、と納得。

 太陽のしいちゃん、唯一の悪役。いや、正確には、唯一、成功した悪役。
 当時はまだ悪役が出来たんだねえ……。学年と共にキャラクタが確立していくと、いい人過ぎて悪役が出来なくなっていった……(笑)。

 この3人のバランスが、神。

 「ヒーロー物」として見たかったキャラ配置。
 包容力と男らしさの主人公、キラキラ美形優男の相棒、ダークな色男の悪役。

 痛快活劇『バッカスと呼ばれた男』なら、これが正しいキャラクタなんじゃないの?!

 いやその、雪組の当時のトップから3番手までの相性が良くなかった、ってことなんだけどね。個々の魅力を相殺する並びだったんだ。
 新専科制度で、2・3番手の顔ぶれが変わった途端、雪組のキラキラ度っつーか美貌度が一気に上がったしなー。(トド、ブン、ワタル、コム、ナルセ、かしげ……ってナニその美形尽くし←『パッサージュ』の顔ぶれ)

 『バッカスと呼ばれた男』新人公演は、いろんな意味で興味深かった。
 番手制度であんなことになっていたけれど、脚本本来のキャラクタはこうだよな、という感慨と。

 そしてもうひとつ。

 未来優希、新公主演。ということと。

 
 翌日欄へ続く。 
ただ一度の主演。@新人公演『バッカスと呼ばれた男』
 新人公演『バッカスと呼ばれた男』は、いろんな意味で興味深かった。
 脚本本来のキャラクタ配置の妙を見せてくれたことと。

 そしてもうひとつ。

 未来優希、新公主演。ということと。

 ハマコはその実力ゆえに目立つポジションで活躍してきた子だけれど、「路線」として扱われたことはなかった。脇の実力者、別格スターとして花開くのだと、誰も疑っていなかった。
 また、「新人公演主演」というのは今よりさらに特別なことで、将来トップスターになる可能性が強い人しかできなかった。
 組内の番手は明確で、中堅~下級生まで、ナンバリングできた。
 新公主演は複数回が当たり前で、新公学年を卒業すれば順当にバウ主演が回ってきて、番手のある若手スターとなっていく、ピラミッドがとてもわかりやすくなっていた。

 そんな風潮の中、路線扱いをされたことのない「実力者」が主演する。
 周囲のヅカ友たちが一斉に色めき立ったのをおぼえている。「ありえない」ことだと。「相当めずらしい事件」だと。
 普段は新公見ない子まで、みんな新公に駆けつけたもんなー。これは、見ておかなければならない、と。

 今なら「とりあえず1回主演させておこう」とか「新公主演したって、別に路線じゃないよね」てな感じだけど。
 当時はソレ、なかったし。
 
 ハマコは「微妙路線だけど、他に適任者もいないからとりあえず今回だけ主演させとこう」というカテゴリの人じゃなかった。
 「トップ路線」ではない。あきらかに。はじめから。

 だけど。
 あまりもの実力ゆえに、一度主役をさせよう、と、判断された……んじゃないかな、と思う新公主演だった。

 また聞きだけど、初舞台の『ブロードウェイ・ボーイズ』において、演出・振付のトミー・チューン氏が「センターはこの子以外ありえない」と主張し、譲らなかったせいで、初舞台生ロケットがハマコ中心の謎の並びになったとか。
 飛び抜けた「才能」は、既存のルールを覆すのだという見本のような人、それがハマコ。

 それゆえの、まさかの新人公演主役。

 ハマコにとっての一度きりの新公主演、という意味だけじゃない。
 以来12年、干支がひとまわりしたけれど、ハマコと同じカテゴリでの新公主演はまだ見たことがないんだ。

 新公主演するのは、「将来のスター候補」「“劇団”が、スターにしたい思っている子」「とりあえず回ってきたかな、ま、やらせておくのも良いんじゃね?」あたりの子たちだ。(マギーの新公主演は、Wトップ作品だったゆえ、だと思っている。単独と言い切れる作品ならさせてないだろう)

 ただ一度。例外中の例外。

 ハマコは、枠外過ぎる。

 『バッカスと呼ばれた男』ジュリアン役のハマコは、マジでうまかった。ふつーに「真ん中」にはまっていた。

 わたしは当時の感想を、こう書き記している。

 …この人がセンターに立つ人じゃないというのが、不思議なカンジ。だってここまでうまいんだよ? 今すぐ主役でもいいくらい。
 でも、それと同じくらいに、思った。
 ああこの人は、センターに立つべきではない。
 うまいけど、安定しているけど…チガウ。タカラヅカのトップスターは、こうじゃない。
 何十年か前なら、よかったかもしれないけれど。


 字を大きくしてあるのも、当時の記述のまま。
 ハマコはすごい、ハマコはうまい、ハマコは大好きだ……でも、「真ん中」はチガウ。
 真ん中もぜんぜんOKな実力と存在感だけど……でも、チガウ。

 チガウ、ことが切なくもあり、そして、愛しくもある。

 それが「タカラヅカ」という、特別な世界。「タカラヅカ」の素晴らしさ。
 そして、その「タカラヅカ」に、納得して残ってくれているハマコのありがたさ。

 ある意味、ハマコはわたしにとっての「タカラヅカ」そのものなんだな。

 
 と、今ごろになって何故こんな大昔の作品についていろいろ語っているか。
 ブログにUPしたのは時間経ってからだけど、もとのテキストはだいぶ前からちょこちょこミニパソに書き溜めてあった。ゆみこちゃんで「思い出す」場面の記事と同じように。

 水しぇんのサヨナラ公演『ロジェ』『ロック・オン!』が、はじまる前に。

 ゆみこもハマコもいない雪組を観るのだ、という、心の準備のために。

 
 ちなみに。
 上記の、『バッカスと呼ばれた男』新公の当時の感想文は、こう続いている。

…でも、主演オメデト、見たかったし、見れてよかった、センターに立つハマコちゃん。
 君のことはずっと好きでいるよ。
 この、正しいジュリアンを、おぼえておくよ。

 予備知識は入れていない。
 が、復讐モノだと聞いた。実際、幼い頃に家族を殺され、その復讐のためだけに生きる男の物語だった。

 水夏希退団公演『ロジェ』初日観劇。

 正塚晴彦が、水夏希のために書き下ろした新作。ハードボイルド、男役の集大成、水夏希をかっこよく見せることに焦点を合わせた作品……。

 スーツ姿の水しぇんが、めちゃくちゃかっこいいっす。それはたしか。太鼓判。

 でも、キャラとストーリーは(笑)。

 いやはや。

 ほんっとに、水しぇんアテ書き作品だった。

 復讐モノですよ。ドシリアスですよ。「あの男をこの手で殺すために今日まで生きてきた。復讐のためならどんなことでもする」系の話ですよ。
 なのに。

 主人公ロジェ@水くんは、めちゃくちゃ真面目な常識人だった。

 ふつー復讐モノっつったらだ、暗黒街に身を沈めたり、さんざん手を汚し、目的のためには手段を選ばず、暗く歪んでたりするもんだと思うんだ。

 なのにロジェくんが選んだ道は。

「悪いヤツに復讐するために、ボクはおまわりさんになるっ!!」

 ナニその健全な思考回路?!(笑)

 ……正確には、インターポールの刑事なんですけどね。外人部隊→情報部→ICPOだそうです。
 非合法組織で手段選ばず、ではなく、あくまでも正攻法にお上のもとで犯人探し。
 理不尽に大切な人を殺された過去により、なんかとっても「悪を憎む、正義の人」として開花。お役所仕事しかしないエライさんと熱血にぶつかってみたり。

 ドシリアスな復讐モノって聞いて、殺し屋とかダークサイドの水しぇんを想像していたわたしが浅はかだった、そーだよ、水先輩にアテ書きしてあるんだ、同じ復讐モノでも殺し屋だのマフィアだののわけないじゃん。ズバリ、公務員モノですよ(笑)。

 
 第二次世界大戦終息間際、とある家族が殺された。ひとり生き残ったロジェは、育ての親のバシュレ@まやさんと共に、犯人の男シュミット@ヲヅキを追っている。
 家族殺害から24年経っているそうな。ロジェさんいくつだろう……30代? そのわりに思考回路はかなり若い。
 もともと富豪なのかな、かわいいメイドさん@あゆちゃんのいるお屋敷に住んでいる。マメ知識・ロジェさんの朝食は大変豪華。きっと昼食も夕食も、豪華だと思われる。
 そんなにお金持ちなら、お金の力で闇社会に働きかけて、犯人探しすればいいのに……と思わないでもないが、アツいはぁとを持つロジェはそっち方面には行かない。彼は正義の刑事なのだ。
 復讐相手は戦犯絡みだってことで、ロジェはナチス関係者を追っている。その過程で、戦犯逃亡組織を追う特殊機関の調査員レア@みなこと出会うが……まあ、ぶっちゃけどーでもいい感じ? ついでに、その過程でパリ市警の刑事リオン@キムと協力したりするんだけど、ぶっちゃけどーでもいい感じ?

 真面目なロジェさんは、ひとつのことしか考えられないんだ。

 「犯人のシュミットを見つける!」と決めて24年。どうも、他のことは考えられないらしい。
 女にも興味ないし、友だちもいらないらしい。
 レアはロジェに会ってからなんか服装のテイストが変わったり、どうも彼を意識しているようなんだけど、ロジェ、気にしてないし。
 リオンはロジェのこと好きみたいだけど、ロジェは仕事上のつきあい以上の興味を、リオンにはまったく持っていないようだし。

 ロジェが愛してるのって、家族代わりのまやさんだけ?!(役名で言いましょう)

 真面目で熱血一直線。目的のためにがむしゃら。基本的にいい人。人情家。……でも、誰のことも好きじゃない。

 ……熱烈に恋愛している水しぇんとか、友情めらめらな水先輩が見たかった、り、したんだが。それは『マリポーサの花』でもうやったから、今回はあえてスルーしたのかな。
 しかし、最後まで恋愛ナシ、友情ナシですか。

 舞台はいきなりブエノスアイレス(笑)。や、予備知識ナシなので、いきなりブエノスアイレスと言われ、吹き出した。またしてもブエノスアイレスか! ハリー!!(笑)

 ロジェの人捜しはとんとん拍子で進んで、無事に宿敵シュミット発見!
 どんだけ悪人だ!と思っていたシュミット医師は実はめっちゃいい人で、ついでにヒゲが素敵なナイスミドルで、かわいい看護師@みみちゃんが「先生を撃たないで!(涙)」とかゆってるし。
 復讐することだけを目的に生きてきたロジェさんですが……えーと、ネタバレにもならんよな、みんな最初からわかって観てるよな、悪人に復讐するためにおまわりさんになる思考回路の健全少年ですよ、もちろん、撃てませんとも。

 家族を殺した犯人に復讐する、というのは、ロジェ少年の24年来の「夢」だったんです。
 健全でまっすぐなロジェさんですから、それは鎖とか檻とかですらなく、「夢」というプラス方向のモノだったんです。身を汚したりせず、正義の刑事やってるわけですから。
 30代になってよーやく彼は、子どもの頃の夢に決着をつけ、新しい人生を送る決意をしたのでした。

 ……てことで、最後はなんかやたら前向きっつーか、キラキラさわやかなキャスト全員のお見送りソング。
 旅立つロジェを祝福するがごとく。

 
 とまあ、ほんっとーにひとりの男の物語で、ロジェの復讐の起承転結しか、描かれていない。
 恋愛は? 友情は?

 真面目で融通きかないもんで「オレは復讐に生きるっ」と思い込んだら最後、他にナニも考えられなくなっちゃって、そのままうっかり24年過ごしちゃったピュアボーイ(30過ぎてるけど)。
 「他のこと考えていいんだよ」となったラストシーンからはじめて、周囲をちゃんと見回したっぽい。

 彼が恋愛するのも、親友を得るのも、すべてはこれから。

 ……って、芝居終わっちゃいましたけどっ? 正塚先生、続編はどこで書く気ですか??

 レアのことも、ちゃんと考えたら好意を持てた、のかもしれない。いや、わたしにはよくわかんなかったが、実は好きだったのかも、しれない。正塚的にはあれで恋愛を描いたつもりなのかもしれない。(せんせ、ちょっとそこ坐ってください、恋愛とヒロインの描き方について語り明かしましょう)
 リオンのことは、実はけっこー好きなのかもしれない。でも現時点でロジェは気づいてない。

 ふたりとの関係は、あくまでも「これから」だ。
 今のままじゃ、なにも「無い」。
 ロジェはあまりに自分のことしか考えてない。幼い子どもが自分の都合しか考えられないように。

 彼はまだ、社会生活をまともに送れていない。「他人」と関わることが出来ていない。彼の精神世界には、「自分」と「家族(死んだ家族と、育ての親のまやさん)」しかない。
 小学校で学ぶ人間関係を得られていないまま、30過ぎてしまったらしい。
 家族が殺されたときの年齢で、止まってしまっているのかもしれない。
 「夢」だけに一途に、まっすぐに。生真面目に、堅物に。

 そんな状態の男……就学以前の幼児が、ランドセル背負って「家族以外の、はじめての社会」に足を踏み出す、それがラストシーン。

 タカラヅカという時の止まった花園を卒業する人には、ある意味相応しいネタなのかもしれないが。

 水しぇんにアテ書きして、こんな「自分探し」「男の子の成長物語」を描く正塚すげえな。

 少年のまま30男やってるロジェがかわいいっつーか、そのくせ表面的には「復讐を胸に、ヨゴレタオトナになったこのオレ」的格好付けに満ち満ちていて(笑)、いろいろツボですとも。
 Happy Birthday まっつ!

 昨日も今日も雨、さすがは水しぇんの公演中だわ(笑)。
 雪組公演の感想が途中ですが、まっつの誕生日なので、今日は花組の話。

 わたしがブログをリアルタイム更新できずにいるうちに、集合日になり退団者と配役が発表になり、新公の主な配役が発表になり、人物相関図が発表になり、いろいろと反応したいことだらけだったわけですが。
 

 ちあきさん退団とモバタカメールを見たとき、「ミセスファットがいちばんの餞別、さらにパワーアップとかはやめてくれよ、フジイくん」と痛切に思いました。
 『EXCITER!!』のMr.YU場面に登場する、おでぶなおばさん。アレを餞別にするのは、マメに痴漢役をやらせるのと同じくらい、アレな感覚ですよ……もっとチガウ、良い場面と役を頼みます、マジで。
 

 『麗しのサブリナ』配役は、ストーリーテラー@みわっち以外、名前羅列を見てもなにがなんやらわからず。
 とくに反応もできずにいたが、人物相関図が発表されたおかげで、よーやくポジショニングがわかった。

 ウィリス@まっつって、秘書なのか!

 しかも、マカードル@いちかとペアで。

 ……すみません、男女ペアの秘書で速攻脳裏に浮かんだモノは、アンソニー様@『Paradise Prince』の秘書シャルル@ともちとヴィクトリア@まちゃみ!
 アンソニー様@らんとむの寵愛をめぐって対立する、美しき秘書たち……性別的には男女ペアだが、嗜好的には女子ふたりだったという。

 いやその、それはナイと思いますが、あれくらいキャラ付けしてくれたらいいのになあ。
 まっつにヲカマをやってほしいとは思ってませんが(笑)。

 
 新公の主な配役は、久々にPCに向かって叫んだ(笑)。

 あきらだと?!! なんじゃそりゃーー?!!

 いやその、あきら好きなのでうれしいんですが、正直彼が新公主演できる立場だと(立場?)思ってなかったのでノーマークでした、はい。
 つか、前回の2番手でも?マークだったのに、どーしたこったい。

 どーせまた誰のためにもならないひとりっ子政策を何年もする気なんだろう、と最近の人事にあきらめ気味だったので、光明を見た思いです。

 ただ瀬戸くんは野郎度の高いハッタリ系な人なので、オシャレな恋愛コメディがどこまでハマるかは未知数だよなあ。まゆくんと主演逆だったらよかったのに、と思ってみたり。
 新公は勉強の場だから、持ち味関係なくなんでもやるのが当然だけど、スカステだのネットだので情報が瞬時に行き渡りそれが事実として刷り込まれてしまう昨今、主演の子はたまたま持ち味とチガウ役をやってうまくいかなかった場合、負のレッテルを簡単に貼られちゃうからなー。
 実際に観劇した人だけが実力を知り、成長をじっくり見守る、という時代ではないんだもんなあ。

 なんにせよ、全組通して不遇な90期男役に主演が回ってくることがうれしいっす。
 そして単純に、いっぱい出番のある瀬戸くんを見るのがたのしみだ。主役っていいよねえ、いっぱい出番がある、いっぱい見られる。
 彼の体型が好みなんですよ。新公学年にしてちゃんと「男役」のスタイルになっているのがイイ。どの組であっても、まるまるぷくぷくのオンナノコが男装して甲高い声で喋る新公は、苦手なんすよ、あくまでも、わたしは。原石なんだとしても、もう少しカタチになってから主演して欲しいと思ってしまうナリ。
   
 あきら主演に浮かれるのと同時に。
 なんでアーサーぢゃないのおおおっ?! という、残念なキモチもある。
 アーサーって新公主演にあらゆる意味で向いてると、わたしは勝手に思っている。や、わたしが勝手に。
 なんでアーサーに新公させないんだろ、と、その昔、なんで南海まりに新公ヒロさせないんだろ、と思っていたように、思っていますよ。
 あきらとアーサーで1回ずつ主演してほしかったんだよ……しょぼん。

 ストーリーテラー@アーサーは、なんか濃そうでわくわくしますが(笑)。

 みりおんヒロインもうれしい。
 実力と美貌を兼ね備えた新人ちゃんの、華々しい抜擢ですな。わくわくっ。

 
 まあ、なんやかんや言って、贔屓組公演は全部まるっと楽しみです。
 そして。

 今、いちばんの興味は。

 まっつの黒髪記録がどうなるのか? だったりします。

 2007年はじめの『明智小五郎の事件簿―黒蜥蜴』から、すでに丸3年半黒髪という、ジェンヌにあるまじき記録を持つまつださんが、このままどこまで行くのか、あっさり記録はここで途絶えてしまうのか。
 とても興味深いです。

 もうまっつ=黒とイメージできるっぽいから、そのまま行くとイイよ、と思ってしまいますが。
 本人的にはどうなんでしょう?
 実はいちばん引っかかったのが、リオン@キムの台詞だ。

「どうして俺に話したんだ?!」

 『ロジェ』初日観劇、「復讐」連呼で、ドシリアスでダークな物語っぽく作ってあるわりに、大人になれない少年の心の旅路モノで、ウケた。

 先日欄で語ったが、主人公のロジェ@水しぇんは誰も愛していない……誰ともまともに関わり合えない、未成熟な精神の男だった。

 正塚作品お約束の友情場面……銀橋でロジェとリオンのじゃれているよーな歌が1曲あったりするんだが、ほんとのとこロジェはリオンのことを大して好きじゃない。興味もない。
 復讐に必要だから、便利だから、つきあっているだけ。
 表面上のつきあいであり、こんなのは友人とも友情とも呼ばない。
 銀橋でじゃれ合って1曲歌えば「友情シーン」だなんて、とんでもないっす。

 むしろ、心を開いても預けてもいない相手と、「定番の友情表現」をされると、心寒いっす。

 ロジェは会ったばかりのレア@みなこには、自分の過去をべらべら喋る。同じよーな境遇だからってことらしい。
 が、長年のつきあいらしいリオンには、なにも言わない。リオンはロジェが何故、戦犯探しに必死なのか知らずにいる。

 暴走するロジェに振り回されて、リオンが声を上げても、ロジェはお構いなし。ほんっとーに、心から、リオンのことはどーでもいいんだろう。

 ロジェのリオンへの仕打ちや、仲間であるヴィンセント@咲奈くんへの物言いとかを見ていると、どんどんいやなキモチになる。

 ロジェが大切なのは、自分とその家族だけ。
 あとは全部表面上のつきあい、利用しているだけ。

 いや、それはいいんだ。
 復讐のため、心を病んだ男なら、他人全部利用していても不思議じゃない。

 ただ、こんだけ愛のない男なのに、「友情」「仲間」が存在しているような描き方をされていることが、引っかかった。
 作者自身が、気づいてないんじゃないのか、自分の描いたロジェという男の造形が壊れていることに?

 やたらと「復讐」で「汚れたオレ」を強調する、苦悩ソングを歌ったりするロジェ。
 本当に、言葉だけで書かれている「復讐だけに生きる男」なら、仲間を使い捨ててもいいんだが、言葉でどんだけ悪ぶって深刻ぶっても、実際に目の前にいるロジェは生真面目な人情家で、正義の人だ。
 このまっすぐな男が、リオンやヴィンセントを利用しているだけってのは、おかしい。違和感。

 脚本で強調されているモノと、実際に見えるモノの乖離っぷり。
 それが気持ち悪かった。

 もっとふつーに、ロジェがリオンを好きだとわかるように、なんで描かないんだ? ヴィンセントが仲間だとわかる描き方をしないんだ?
 利用して、振り回しているところしかないなんて。なのに、友情ぶって、仲間ぶって、キモチワルイ。

 その腑に落ちなさが、ブエノスアイレスのホテルでの、ロジェとリオンの会話で解消されるんだ。

 それまでリオンにはなにも知らせていなかったロジェ。
 仇と追ってきたシュミット@ヲヅキの居場所を突き止め、殺しに行こうとするまさにそのときに、リオンに事情を話す。

 話したら、止められるに決まってるのに。

「どうして俺に話したんだ?!」
「どうしてだろうな」

 リオンは刑事だ。私怨による復讐、殺人を認めるはずがない。
 案の定リオンは猛反対し、そんなリオンをロジェは手錠で椅子につないで出て行く。

 ロジェにとって復讐がすべてで、シュミットを殺すことが出来ればあとはどうなってもいいと、多分もう死んでもイイと思って、出て行っている。
 リオンに会うのは、これが最後。

 だから、おそらく。

 知っておいて、欲しかったんだ。
 リオンに。
 自分が何故、ひとりの医師を殺したのかを。それによって死んだのかを。
 自分のクチではもう、語ることが出来ないだろう、その真実を。
 ……別に自殺するつもりはなかったろうから、死ぬと限ったわけじゃなかろーが、それくらいの覚悟だった。

 または、止めて欲しかった、のかもしれない。
 復讐なんて間違ってる、やめろ、と。

 それでも、ロジェは行くんだけど。

 ここではじめて。

 あ、なんだ、ロジェ、リオンのことちゃんと好きだったんだ。と、思った。

 でもそれまでの場面はあまりにも、愛がなかった。興味もなかった。お笑い担当のマキシム@コマと変わらない温度感でしかなかった。

 好意があっても、アレだったのか。
 まともに友人関係築けない人だったのか。
 つか、自分の気持ちに気づいてなくね?

 とわかると、キモチワルイと思っていた部分にひとつずつ、説明が付くようになった。

 真面目すぎて、復讐以外考えられない、対人関係構築以前の子どもなんじゃん。
 好きとか興味とか、自分では理解できないんだ。

 24年前から、心の成長が止まってしまってるんだ。

 だからレア相手も、あんなだし。
 彼女がしきりにモーション掛けてるのに、ぜんっぜんわかってないし。

 なにもかもが、これからだ。
 ロジェはようやく、「他人」を見ることができるようになったんだ。
 今までのような「自分」と「家族」というせまい世界ではなく、世の中に一歩を踏み出したんだ。

 
 そう思って見れば、それまでの「興味ない」「表面だけの友人面」も、かわいらしく、また切なく思える。
 本当は好きなのに、あるいは好きになるはずなのに、こんなふうにしか接することが出来ない、「自分」と「家族」以外の社会単位を知らない幼児なんだ、と。

 新たに一歩、大人の階段を上ったロジェ。彼の人生はこれからだ。
 てゆーか、これからこそを見せてくれ。

 そう思うからこそ、「成長しました」でみんなに見送られて旅立つロジェに、「ちょっと待った!」と思いました(笑)。

 成長して、どう踏み出すのか、せめてもうちょい見せてくれよ。
 ダメ男のMr.YUがチェンジボックスでエキサイターに変身した、そこでエンドマークはあんまりだ、変身してみんなをあっと言わせるまで描いてくれ! と、思ったように。

 どうしたもんかな、と幕間は溜息ついたよ、ハリー(笑)。

 正塚せんせが描いたつもりのものと、わたしが見たモノはチガウってだけかもしれないけれど。
 不思議な光景だ。

 電車の釣り広告に、贔屓の名前がある。
 「MISS 2010年 8月号」に、「未涼亜希」の名前があるんですよ。

 「今、宝塚がアツイ!」という特集、第3回目は花組、つーことで、まとぶん、えりたん、みわっち、まっつ、まぁくんという顔ぶれが載っている。

 なんか、しみじみと、不思議だ。

 電車の中に、まっつの名前があるなんて。

 
 なにしろまっつなので、一般の電車に広告されるような一般雑誌に載ることは、ほとんどナイのですよ。
 ヅカとか演劇とか、もともと関心のある人しか見ない・手にも取らない雑誌ではない、まったく畑違いの情報媒体に、載ること。
 過去にはあったのかもしれないが、わたしがファンになってからは、一度もない。……多分。

 わたしが2004年から買い続けている某雑誌はタカラヅカのページがあるんだが、2010年の6月現在まで78回の掲載枠があったにもかかわらず、まっつは一度も載っていない。まとぶん、壮くん、みわっちは3回以上載ってるし、めおちゃんも載ってるけどな。組は違うけど似たような立場かも?な人たち(番手ではなく番目で呼ばれる人たち)も、複数回載っていたりするけどな。
 でも、まっつは載っていない。
 ヅカ雑誌以外に掲載されるジェンヌは、雑誌側からの指名ではなく、劇団から選ばれていることが多い。そりゃそーだ、雑誌側は「宝塚歌劇団」というブランドを求めて取材依頼をするのであって、個々の商品に興味はない。
 だからブランド側が、「売りたい」と思っている商品……生徒をピックアップするのは当然。
 貴重な宣伝機会を劇団が無駄にするよーな人選はしないだろう……ってことで、売る必要のないまっつが選ばれないのは、わかっていた。
 毎年制作発表(とか、囲み取材)が行われていた『宝塚巴里祭』に主演してなお、まっつのときだけ会見ナシにされたくらい、「売る必要はない」と劇団に烙印を押されている人ですから(笑)。

 それがもお「当たり前」になっていたので、ここで外部の雑誌掲載にもぐり込んでいることが、とても不思議、新鮮な驚きなんですよ。

 「花組」という枠でなにかしら掲載されるときは、5年前からずーっとみわっちまでだったはず。メンバーがこの5年間どう替わって、退団だの組替えだの、出たり入ったりしていても、みわっちまで。
 他組がどう変わろうと、花組では、なにかあれば、それはみわっちまで。劇団発売のポストカードが物語るよーに(笑)。←花組だけ、何年も男役のポスカは新規メンバー投入なしっす。

 みわっちが最終ラインだというより、まっつがストッパーになっているんだとは、思ってますがね……遠い目。

 ストッパーだったはずなのに、前回からプログラムにインタビュー載せてもらったりして、わずかに変化があったわけなんだが、外部雑誌にも混ぜてもらえるとは、思ってなかった。
 
 素直に、ただ、うれしい。

 みわっち以上の人たちは、外部雑誌の取材も今までにいくらでも受けているし、何度も掲載されている。
 また、まぁくんはこれからいくらでもこういう機会に恵まれるだろう。

 でもまっつは、ぶっちゃけ最初で最後かもしんないしっ。や、わたしが知らないだけで最初ではないのかもしれないが、最後かもしんないのは変わらないしっ。

 車内広告に感動して、思わず写真撮ろうかと思ったよ……。
 携帯のカメラなんぞで撮っても、肝心の名前が読める精度で写らないだろうと思い、考え直したけれど。

 
 ほとんどの人がなんの興味もなく、目にも留めないとしても。
 一般の広告にまっつの名前がある、その事実に感動して、電車に乗るたびに感慨深く眺めているのですよ。

 
 え。
 肝心の、雑誌記事についてですか?

 まっつはまっつでした。
 相変わらず、表情の少ない人だ……。「歌劇」や「GRAPH」と同じ、どのポートレートでも同じ顔してるっすよ……(笑)。
 いわゆる「恋愛」にする気がなかったんだろう、レア@みなことの関係。

 『ロジェ』の、ロジェ@水くんの物語において。
 心を閉ざしている……というか、成長の止まっているロジェくん的には、レアのよーなわかりにくい女の子のモーションは、受け入れられなかったんだろう。

 レアは使命に燃えたキャリア・ウーマン。命の危険すらある仕事に就く女性。
 多分、恋愛とか、チャラいことは苦手。自分から男に言い寄るなんて、したことがないし、したいとも思ったことがなかったんだろう。

 だからものすげー不器用さで、がんばっている。
 服を変えてみたり、自分からダンスに誘ってみたり。一緒に帰ると言ってみたり。

 ……わかってやれよ、ロジェ!(笑)

 わかりやすい恋愛にしたくなかった、作者のこだわりなのかもしれないが、それにしてもラヴが薄すぎて……ぶっちゃけロジェが他人を愛していなさすぎて、ヒロインのはずのレアが気の毒だ。
 『Practical Joke』の檀ちゃんを思い出した。主人公が重い過去を抱えていて、恋愛する気はない、オマエに興味はない、ぶっちゃけ迷惑だ、と言い続けているのに、勝手にまとわりついてきて、ひとりになりたいっつっても部屋まで押しかけたり、立ち聞きしたり密告したりストーカーしたり、きーきーヒステリー起こしていた、すごい扱いのヒロイン。
 あの話も、「退団する真琴つばさを格好良く描くコトだけを考えた」とか、ゆってましたっけ、ハリー……。

 まともに恋愛を描く気がないときのヒロインって、そーゆー扱いになるの?
 女の方が勝手に主人公を愛している。愛しているのは向こうだから、勝手に主人公に関わろうとする。すべてが「勝手に」であるため、本筋に関係はない。いなくても支障はない。口説かなくても媚びなくても、女に一方的に愛されるわけだから、主人公はモテるってことで、男としての格が上がる?

 物語においてのキャラの重要度は、「本筋への絡み方」と「主人公の意識」によって決まる。
 このキャラクタがいなければ本筋が立ちゆかない、という重要キャラと、それとは別次元で、主人公が深く意識している(愛でも憎でも)ゆえの重要キャラがある。
 ヒロインという役割ならば、せめてどちらかの意味で重要な位置に配置しないと、意味がない。

 レアは本筋的にはいなくてもいいし、ロジェにも愛されていないため、ヒロインとしての役目を持ってないんだよねえ。

 ロジェがいちばん強く想っているのはシュミット@ヲヅキで、次がバシュレ@まやさんで、あとはその他大勢、だもんなあ。

 ……なんだけど、はたして作者は気づいているんだろうか。
 レアとの関係を、あれで「恋愛」だと思って書いているんだろうか。ベッタベタな恋愛以外の、わかる人にはわかる恋愛だと?

 わかりにくい、とわたしが思うのは、同じような境遇ゆえに心惹かれる、というネタが苦手なせいもあるかな。
 わたしは「同じ立場だから愛する」っての、好きじゃないんですよ。
 某植爺は「同じ立場でないと愛せない」と思い込んでいるよーで、原作を改悪してでも「アナタの姿に、ひとりぼっちの自分を重ねていたのです」だの「平民だけど、実は親が貴族という境遇が同じだから」だの「同じ貴族同士」だの、無理から「同じ」にして、「だから愛した」と結論をつける。
 「自分と同じだから愛した」と繰り返す植爺は、裏を返せば、自分と同じ世界、同じ価値観以外は認めない。違っていたら、愛せない、理解できない。と言っているよーなもので。
 人間はひとりずつ違って当たり前、同じでなければ愛せないなんて、悲しいじゃないですか。
 で、ほんとうに似た魂を持っている者同士が惹かれ合った、とわかるならいいけど、見てもわからないのに勝手に「私たちは似ている」と言われると「えええっ、そうなんですか?」と置いて行かれてしまう。(某『TRAFALGAR』とか・笑)

 同じ境遇だからって、それだけを理由にされてもなあ。もちろん、それゆえに惹かれる場合があるのは理解しているが、「同じであること」を、「これさえあれば、すべての不条理・理不尽・説明不足・描写不足・ご都合主義に理由を付けられる」と免罪符にされてもこまる。

 正塚作品なので、台詞の行間を読むべくこちらの集中力も上がっており、ロジェとレアのやりとりや心の動きにいちいち注目しているし、また彼らが細かい芝居をしていることもわかるんだが、それは大劇向きの表現じゃない。
 あの大きな空間で、キャストと客にナニを求めているんだ、ハリー。

 もう少しなんとかならんかったんかい、と正塚せんせに物申したいキモチはあるにせよ、レアがきーきーヒスる女でなくてよかったっす。
 あの落ち着いた声、佇まいで、不器用にモーション掛けている感じが、いじらしいっす。
 いつか、ラヴラヴにタンゴを踊れる日が来るといいね……って、そんな途方もない未来を夢見るより、もっと別の男探した方が効率的ですよ、と言いたくなるけど(笑)。
 ロジェがあまりにも、「これから」過ぎる男なので。初恋もきっとこれからなんだよ、あの男。30過ぎてるくせに(笑)。

 しかし、レア。
 服の趣味だけは、なんとかした方がイイ。鉄の女のときはふつうなのに、ロジェに惹かれてオンナゴコロゆえに服のテイストを女子っぽい方向へ変えてきた、その勝負服のセンスが悪すぎる(笑)。
 気合いが入ってオシャレをすると、下品なおばさん風の服を着てしまう、てのは、たしかに恋愛慣れしていない女の子っぽくて、微笑ましいけど。
 ロジェって、あーゆー服の女の子は好みじゃない気がする。清楚系の方が良くないか?
 それとロジェって多分、制服着てると見分けがつかなくなるタイプだと思う(笑)。メイドもナースも、コス系全部同じに見えて可愛いもナニもない、職業で把握するのみで個別認識できない、興味もない。それは救いかな、かわいいあゆちゃんもみみちゃんも目に入ってないみたいだし。
 ……がんばれ。レア(笑)。
 正塚せんせって、コマのこと気に入ってるよね?

 と思った、『ロジェ』初日。

 マキシム@コマはバシュレ@まやさんと共にコメディ担当。ギャグを言うのではなく、会話のテンポで笑わせる系。空気が読めないゆえに、自分が笑われていることにも気づいていない真面目で鈍くさい男子。

 『マリポーサの花』でもこのコンビだったよね、コマとまやさん。台詞は一定、アドリブなしで、それでもテンポと空気感だけで笑わせるという。
 気に入られているからこそ、こーゆー役が引き続き回ってくるんだと思う。が。
「それって、みわっちが正塚に気に入られていてファンがうれしいかどうか、ってのと同じ感じの気に入られ方じゃない?」
 と、『マリポーサの花』を数十回観劇した友人が真顔で言っていた、のに、心から同意(笑)。
 みわさんも正塚のお気に入りだと思うけど、ファンがうれしいよーな気に入り方かどうか……。たしかにオイシイ扱いなんだけど、まともな二枚目役をちっともやらせてもらえない、変な役ばかり、てのは、なかなか。

 でも、かわいい。

 ロジェを救えるのは、いっそこーゆー男かもしれない、と思う。

 ロジェに対して湿度と温度のある人々の中、ひとりだけまっったくあっけらかんと接している、空気読めない男。ロジェがどんだけ深刻ぶってもまっったく気づきもしない察しもしない男。
 これくらいどーでもいい距離感の存在の方が、ロジェも気を使わないしマキシムも気を使わない(そもそも使えない)し、双方負担なく一緒にいられるんじゃね?

 人間、ほんっとーに「ひとりになってはいけない」ときがあるじゃん。
 本人はひとりになりたい、と思っても、客観的に見て、今ひとりにしたらまずい、みたいなとき。

 ふつーの人は本人の意思を尊重してひとりにしちゃったり、純粋に雰囲気コワイから遠ざかったりするもんだけど、マキシムなら大丈夫!
 あの男は気づきもせずに、「おなかすきましたねー。晩ごはん、どうします?」とか横でどーでもいい話をしてくれるよ。腹を立ててよそへ行こうとしても、「あれ、どこ行くんですか。ごはん食べに? ボクもつれてってくださいよー」てなふーに、ふつーについて来るよ(笑)。

 まあこの『ロジェ』では、「ひとりにしてくれ」と言うロジェに、レア@みなこちゃんが強引にまとわりついてますが。彼女もがんばっていたけど、あれがいいやり方だったのかよくわかんない。
 だってレア、女の子だから。ムカついても殴れないじゃん? そんなことしたらロジェ、余計苦悩するし。
 精神状態ぴりぴりでぎりぎりのロジェに必要だったのは、癒すことが出来る存在か、あるいは悪い方向へ走り出さないためのブレーキになれる存在。
 虞美人みたいな聖女は現実にはいないから、ここで癒しの女神は登場しない。じゃあせめてブレーキを……てなもんだが、レアはブレーキを掛けるだけでなく、さらに負担までかけている、気がする。や、そうすることしかできなくて、すっごく一生懸命なレアちゃんはけなげだし、正しいことだけするのが人間じゃないし。

 マキシムだったらとりあえず、殴ってもOKじゃん?(ひどい)

「ねえねえ、ナニ食べるんですかー。僕、ガイドブック持ってるんですよ、ほら、そこの店、ここに載って……」
 とかなんとか、空気読まないまま勝手について来て勝手に喋っているマキシムを、堪忍袋の緒が切れたロジェが一発ぶん殴る。
 吹っ飛んだマキシムはそれでもわけわかんなくて「ナニすんですかー」とか言いながら、それでもついて来る。
「いい加減にしないと殴るぞ!」「もう殴ってるじゃないですか」「ついて来るな!」「おなかすいてるから、怒りっぽいんですよ、あの店入りましょう」……噛み合わない会話が平気で続き、結局ロジェが折れる。だって彼、根が善良だから。
 加えて、怒鳴ったり殴ったりしているうちに、発散できたのね。
 
 いいなあ。マキシム×ロジェ。(かけ算はやめなさい。つかロジェさん右?!)

 勝手な妄想会話はさておき、水とコマと正塚とゆーと、『銀の狼』を思い出します。
 バチスタ@コマのために手を汚すレイ@水の関係を、これまた勝手に妄想したなあ、当時。
 や、カップリングではなく(笑)、親子なんじゃないかと。レイがバチスタのためにそこまでするのは、ただの仲間なんじゃなく、息子なんじゃないかと……当のバチスタはなにも知らない、レイも父だと名乗るつもりはない、だけどバチスタのためならなんでもする……みたいな決意は胸にある。という関係を、勝手に夢見た。

 というのも、バチスタを演じるコマくんがあまりうまくなくて……学年相応だったんだけど、大人で囲まれた舞台なので、役に対するコマの足りなさが目に付いた。
 芝居が足りていないゆえに、卑小なキャラクタに見え、「こんな子のために、すべての悲劇が起こったのか」と思うとやりきれなかった。この程度の若者を仲間として重用する、レイの格が下がるっちゅーかね。もっとマシな相手と組めなかったの?と。
 だからそこに、理由が欲しかった。こんな小物を仲間にしているのは、この子が生き別れの息子だからだ。名乗れないけれど、見守りたくて手元に置いているんだ。

 あの当時からすれば、コマくんほんと、芝居うまくなったなああ。
 『銀の狼』では、『ロジェ』でいうところのヴィンセント@咲奈くん的な感じで浮いていたもの。「あ、メインキャラになんかひとり若手が混ざってる」とわかる系で。……さすがに、今の咲奈くんほど外見も芝居も悪目立ちしてなかったとは思うが、まあ、ニュアンス的にあんな感じ。(咲奈くんは学年ほんと下だから仕方ない)

 あの「若手だ」とわかるレベルの芝居をしていた子が、今ではまやさんとふたりしてテンポだけで笑いを取ってるよ……親子に見えた水しぇんと同僚やってるよ……。じーん……。

 
 ロジェは自分で勝手に苦悩して、自分で勝手に悟り開いちゃってるよーにも見えるんだが(笑)、クライマックスの深刻いちばん場面に、あの天然マキシムを放り込んでみたいと思いますよ。
 どんな化学反応があるのか。

 テンポ命の、研ぎ澄まされた会話劇になるかも? マキシムの天然さは、ナニ気に高度な呼吸を必要としているし、もちろんソレは相方にも求められるし。
 水しぇんのナチュラル&リアルな芝居でこそ、ソレを見てみたかったかも。(やってることは、「超真剣な場面で、マッキーがコケて捻挫しちゃいました☆」系のことであったとしてもだ・笑)

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