シュミット役が誰なのかは、チェックしていなかった。

 開演前にプログラムを開いてやったことは、『ロジェ』の「あずりんの出番を探す」ことだ。……正塚ですから! あずりん、どこにいるかわかんないって絶対! という危機感から、ソレだけをした。
 退団者に優しくない正塚晴彦。あずりんごとき無名の下級生に、出番もライトも台詞も、与えてくれるわけがない。ライトの当たらない暗がりとか、帽子を目深にかぶって顔見えませんなモブから、自力で探さなきゃ!

 役のついていないあずりんなので、探すのは名前の束。ひとりずつ行間を空けてある配役にはまったく目をやらなかった。この役の少ない芝居で、わざわざ役がついている人ってのは、配役だの出番だのチェックしなくても、舞台で顔見ればわかる。

 だから芝居の最初の場にすでに出てくる、シュミットさんが誰なのかは未確認のままだった。

 スクリーン越しのシルエットで惨劇を表現、主人公ロジェ@水くんの家族の仇・シュミットは、名前ばかりがやたら連呼される。

 誰がどの役をやっているか知らないから、消去法だ。
 あ、ナガさん出てきた。じゃ、チガウや。
 にわにわ出てきた。じゃ、チガウや。

 まさか、ちぎ? と思ったけれど、ちぎくんも出てきた。だから、チガウ。

 名前だけは繰り返されるけれど、本人が登場しないシュミットさん。
 役回りからなんとなくヲヅキだろうなと察しは付けているけれど、消去法で確信となる。もう他にできる人いないや。

 ロジェがどう考えても30代。シュミットはそれより20は確実に上。つか、ナチスでそれなりの立場のある人だったわけだから、へたすりゃ30くらい上かも。

 ヲヅキ、じじい役?
 出来んことはないだろうが、そんなヲヅキを見たいかというと……うーん。

 それにしても、出てこない。
 いい加減、出てこないとヤバくね?ってくらい経っても、出てこない。
 アルバイトもしてなかったと思うんだが……見かけなかった。

 『ロシアン・ブルー』のときも、ヲヅキがなかなか出てこなくて不安になったが、アレをはるかに超えている。芝居最初のシルエットは、最初過ぎてそこにシュミット本人がいるかどうかまで判別していないし。
 せめてオープニングに出してやるとかすりゃ、いいのに。いやその、今回のオープニングは見事にみんな帽子姿でモブな人たちは顔見えなかったんだけど。

 いらん心配をいろいろしながら、舞台ではさあついに、ご都合主義満載(しっ!)に、ロジェは宿敵シュミットにたどり着いた!!

 診療所から出てくるジャケットなしのスーツ男。個人経営のもぐりの医者ならネクタイ締めてる必要はないだろうに、きっちり背広ネクタイ。しかもベスト付き。
 よかった、よーやくヲツキ登場だ、とその顔を見た途端。

 ヲヅキが、美形だ。

 どーんっ、と、後ろアタマをはたかれました。
 ななななんなのあの美しいヒゲ男はっ?!
 年齢の高い役であることもあり、ヲヅキはヒゲ付きでした。や、これも予想していた、水しぇんの父親くらいの年齢の役なら、ヒゲないとまずいっしょー。
 ヒゲは想定内。だから別に、そこに驚いたワケじゃない。

 ヒゲは口髭だけじゃなく、潔くぐるりとアゴ一周。大人だし、また、なかなかにワイルドかつ、ダンディ。

 悪役、宿敵、のはずなのに。

 なんかとっても、たおやかで、儚げ。
 ぶっちゃけ、すげー受くさかった……(笑)。

 あ、あれ?
 ヲヅキだよね? あれってどっから見ても完璧にヲヅキだよね?
 ヲヅキでおっさん(あるいは初老)役なのに、美しいってナニ?! ぜんぜん現役じゃんあの人、現に美少女ナース@みみちゃんが惚れ込んでるっぽいし。

 てゆーか。

 その美しく、儚げなヲヅキさんを見るなり、わたしはすーーっと納得しました。腑に落ちました。

 シュミットって、ヒロインだったんだ。

 どーりでなー。
 ロジェ、名前呼び過ぎ。夢中過ぎ。
 もう一度会いたくて、探してたんだ。いろんな意味で。

 でもって悪辣非道の冷血漢であるはずのシュミットさん、めっちゃいい人だし。
 ますます上がる、ヒロイン度。

 撃とうとして撃てないロジェ、抵抗しないシュミット。
 なんかもお、恋に落ちるしかないよーなシチュエーション。

 しかもシュミットさん、ロジェの大事な家族@まやさんをてきぱき手当てして、命救っちゃったりするし。
 なんかすげー胸キュンなエピソード目白押しですよ?! これで憎が愛に変わっても、誰も文句言わないんじゃ?!みたいな。

 
 まあ、冗談はさておき。

 シュミット@ヲヅキが、ものごっつー美形でびびりました。
 ヲヅキは雰囲気でいい男になれることは太鼓判だけど、ほんとに顔だけで美形かというと、ええっと、ちょっといろいろ丸すぎるかなと個人的には思っていたんだ。
 それが今回、ヒゲが引き締め効果を発動しているのか、なんの遜色なく美形で。
 あの枯れた儚げな風情といい、漂ういい人オーラといい、好みど真ん中だ。

 うろたえるほど出番はないが、それでもとても大きな、重要な役だ。
 いい男だわ。

 
 芝居の最後、解脱したロジェは何故か街のみなさんに見送られて旅立っていく。
 その中にヲヅキもいるわけなんだが。

 ……ヒゲがないっ。うきゃー。
 なんでヒゲなし? あそこ別人? いいじゃん、シュミット先生が見送ったって。

 「ファンの人たちに、ヒゲのないヲヅキを見せてあげよう」という、演出家の配慮? ……いらんっ、そんな気配りはいらんのだっ、それなら前半、ヒゲ無しでタンゴのひとつも踊らせろ~~。

 
 ともかく。芝居のヲヅキがめちゃ美形でしたよ、ということで。

 初日のわたしの某所でのつぶやきに対し、「オヅキどーでした?」とだけコメントしてきた、ヲヅキファンのチェリさんへ(笑)。

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