『ドン・カルロス』 でナニがうれしいって、トップ娘役演じるヒロインが、地味な女官服を着ている、ということだ。

 最初に観たときに、感動した。

 まず大勢の女官たちが舞台に登場し、その地味な茶色のドレスを見せる。全員同じ服、その上髪をすっぽり覆った白いメイドキャップで、完全に個性を殺している。
 彼女たちが裏方であり、華やかな貴族社会の外側にいることを教える。

 その「裏方」でしかない茶色のドレスとメイドキャップを身につけて、ヒロイン・レオノール@みみちゃんが現れた。
 わきまえた聡明な態度でもって。

 すごい。女官がちゃんと、女官だ。

 ……こんな当たり前のことに、感動した。

 ここはタカラヅカ。
 下働きだろうと馬番だろうと、トップスターが演じるならば誰よりもキラキラの、華美な衣装を着る。
 時代考証をがちがちに守る必要はない。見た目の美しさを優先してよし。
 しかし、貧富差やパワーバランスは、守るべきだと思っている。

 平民の役なのに、王様より豪華な衣装で「身分の低いオレは、貴族のお前とは釣り合わない」とか言われると、興ざめする。
 トップスターだから豪華な衣装、と役の身分を無視するのは、つまり、豪華な衣装がないとトップスターとしての格を保てないと言っているよーなもんだ。
 それが芝居である限り、平民の役も労働者の役も、あるだろう。なのにトップだから、名のあるスターだからと、いつもキラキラ豪華衣装しか着ない、なんて、おかしい。

 豪華な衣装を着られるかどうかで、役の善し悪しを語る人が苦手だ。
 わたしは、中身のある素晴らしい役なら、衣装の豪華さなんか、どーでもいい。

 と、常々思っている。
 そりゃ、キラキラ豪華で美しかったりかわいかったりする衣装を何着も着替え倒し、かつ、内容のある役だといちばんいいけど。
 大切なのは、まず内容。
 トップが豪華な衣装を着替えまくれるから、という理由だけで作品や役を選ばれたり作られたりしたら、その方が嫌だ。
 いつもいつも王様とお姫様しか、主役に出来ない。「タカラヅカってそんなもんでしょ?」とは、思わない。

 みみちゃんはトップ娘役だ。
 しかし彼女が、ちゃんと女官衣装を着て、女官として登場したことが、めちゃくちゃうれしかった。
 豪華な衣装<物語と役
 そう考えられた作品だとわかるからだ。

 レオノールが地味な女官衣装を着て、他の女官たちに混ざっているのは、物語として意味があるんだ。
 主人公カルロス@キムとの立場の差、身分の差がも嫌でもわかる。
 また、カルロスとレオノールが密会していても、堂々と仮面舞踏会で踊っても、ポーザ侯爵@ちぎ他に重要視されないのは女官衣装ゆえだ。
 「主役」にはなりえない、そこにいてもいないものとされる「黒子」認識なんだ。そのために、あの衣装は必要なんだ。

 そして、カルロス。
 貴族たちが「黒子」として個別認識もしない女官の中から、愛する少女の手を取るカルロスの人となりがクローズアップされる。
 女官服のレオノールと、人前で臆することなく踊る。
 貴族たちは、仮面で目元を隠したレオノールのことは、まったく誰かわからないはず。ただ「女官」という以上には。興味もないから、それだけでは区別が付かない。
 カルロスにだけ、意味がある。彼は愛する女性がどんな服を着ていたって、ちゃんと見つけて手を差し出すんだ。

 レオノールにとっても、茶色の女官服は、自分を律する鎖であったはず。
 他の女官たちと同じ服を着、同じように控えて生きる。
 王女フアナ@リサリサのお気に入りの侍女であったとか、今は王妃イサベル@あゆみの腹心であるとか、特別扱いを望めないでもない立場だが、あえて平の女官たちと同じ姿でいる。
 彼女が唯一求めた相手、カルロスの愛をあきらめるために、ことさら身分の違いを大きく打ち出す。
 心が暴走しないように、守る鎧であったはず。

 そしてクライマックスにて、レオノールは自らその鎧を、戒めを破り捨てるんだ。
 女官服を破り、裸足で石垣を登る。
 わきまえた女官、あきらめた人生、自ら課した鎖を、自分自身で解き放つ。


 トップ娘役だからって、ひとりだけブリブリドレス姿で「女官でございます。身分が違います」ってやられなくて良かったよー。

 キムシンはそのへん、安心な人だと思っているけど、今回も改めて思った。
 マンリーコ@たかちゃんに、ボロ服着せた人だもんなー(笑)。
 衣装より、役の方が大切!

 それに、レオノールの衣装は一見他の女官たちと同じだけど、ちゃんとトップ仕様になっている。
 布は模様の織り込まれた豪華なものだし、衣装デザインだってかわいくなっている。
 他の女官は簡素な布地に、簡素なデザイン。同じ色で同じテイストの飾りがついているから、みんな等しく同じモノを着ているよーに見えるけど、ちゃんとレオノールだけ豪華なんだよなー。
 このことを、とても「うまい!」と思う。
 ここがタカラヅカである以上、びんぼー人の役だって、ほんとうに粗末な衣装であってはいけないんだもの。
 レオノールは女官たちと離れてひとり舞台に立つわけで、お客様の目を楽しませるために美しい衣装であることは必須だもの。
 誰より豪華なカルロス王子と並んで、「タカラヅカ」としての世界観がかけ離れていてはいけないもの。

 ちゃんと「黒子」たる女官衣装で、なおかつ豪華で美しい衣装である。
 身分違いであると視覚的にわからせることと、目を楽しませることを、同時に満たしている。
 うまいわー。

 これが一部の演出家作だと、絶対レオノールはキラキラのお姫様衣装で登場してただろうなあ。
 キムシンでよかったよ。


 とまあ、細かいことは置くとしても。

 女官ドレスのみみちゃんかわいい! ってだけでも、十分うれしい。楽しい。

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