○組の未○○希さん。←○を適当な漢字で埋めよ。
 まっつが『宝塚巴里祭2009』出演。

 とわかって、わたしがまずしたことは、500円玉貯金箱を購入です。
 や、ナニゴトもカタチからですから!!

 千里の道も一歩から、塵も積もれば山となる。
 500円玉も、いつかはディナーショー料金に。

 ……前にも500円玉貯金箱持ってたんですけどね。アレはケロちゃん卒業祭りのときに、開けました。
 缶切りを使わないとダメなヤツだから、本気でないと開けられないの。

 今回もまた、本気缶ですよ、ええ(笑)。

 
 さて、なにしろまったりちんたらヅカファンをやって来ているので。
 記憶だけはあるわけだ。

 たとえば、ここ10年の新公主演経験者で、バウホール主演していない研11以上の男役が、ハマコとまっつだけだとか。

 ダブルでもトリプルでも、ワークショップでも。
 男役10年を過ぎているにも関わらず、主演者としてポスターに載り、ひとつの公演の主演を務めたことのない新公主演者。

 10年間、ざーっと数えて50人ほど新公主演経験者がいて、たったのふたり。

 いやあ、レアですねっ。

 研10以下ならね、マギーとかコマとかもいるんだけど。でもって、新公学年内ならさらにいるけどこりゃ当たり前だしね。
 あとは、バウ主演云々以前に退団してるかだしね。

 そしてこのレアなふたり。

 さらに共通点が、出来てしまった。

 『宝塚巴里祭』主演!

 新公主演してるけどバウ主演はなく、なのに何故か巴里祭は来る、と。
 歌手で声と滑舌が良くて、ついでに小柄で。歌ばっか特筆されがちだけど、実はダンスも芝居もイケてるんだぞ、とか(笑)。
 なんか共通項が?

 いやでもその、キャラクタは、違いすぎるがな。

 
 なにがどう、とゆーわけではなく、ただなんか、愉快だなと。

 まっつがまっつであってくれれば、ソレでいい。
 どんどん変わっていく世の中で、流れが急激すぎて途方に暮れる中で、それでもまっつがあの花園に、まっつらしくあってくれたら、これほどうれしいことはない。

 うん。
 巴里祭主演に浮かれてるんですよ。それがなんであれ、もう主演なんてもん、ないのかと思っていたから。

 そしてふと、不安になるのですよ。
 新公主演した途端、バウ主演した途端、憑き物が落ちたように辞めていく人たちのことを思って。

 まっつがまっつとして、少しでも長く、いてくれますように。

 
 でもって。

 当座の不安は、ポスター、どうなんの? だったりします。

 やっぱ「いかにもタカラヅカ・スタァ」な格好、させられるんですか……? 去年のともち、派手派手だったよね?
 まっつは黒燕尾で頼みます……。いっそ寂しいくらいでいいのに……まっつなんだから。(ヲイ)

 他の単独ディナーショーとちがい、巴里祭のいいところは、スカステで毎年放送があること。
 単独のDSだと初回放送以降は、なにかきっかけがないと再放送されないが、巴里祭は毎年過去作品一挙放送やるからなー。毎年見られる~~。見てもらえる~~。

 だからこそ、「著作権」が気になります……。

 演出家、中村Bだもんよ……著作権関係で放送できない曲ばかり、1時間のショーが30分しか放送できません、とか平気でやりそうでこわい。
 頼みますよ、まっつ中心作品なんてどんだけ貴重か。ぶっちゃけ、もうないかもしれないじゃん。……て、『血と砂』のときも思って通いまくったな。なんでそんな人ばっか好きになるんだろう……。

 
 500円玉貯金に励みつつ、さあっ、明日は『太王四神記』千秋楽だっ。
 まっつが、お米のCMに出てました。

 ……夢の話です。
 わたしはほぼ毎朝夢を見ているけれど、まっつが出てくることは稀。
 ひさしぶりに見たまっつの夢は、「テレビの中の芸能人なまっつ」でした。

 なんかのトーク番組に出演しているまっつは、毒舌を繰り広げていた。あの低い声でテンションも高くないまま、ブラックなことを静かに微笑みながらすぱすぱ展開していて、「一般番組でそのキャラですか」とテレビの前のわたしは感心していた。
 芸能界裏トークみたいな感じで(ヅカではなく、芸能界?)、あんまりブラックだからか、途中から筆談になっていた。で、司会者とだけ書いたボードを見せっこしてなんかお互いウケていて、「ヲイヲイそれじゃ視聴者にはなんの話してんのかわかんねぇよ!」と突っ込んでいた。

 はい、そこでCMです。

 いかにも合成臭い緑の森林を背景に、まっつがお米の袋(1kgくらいの小振りタイプ)を持って微笑んでいた。

 うわー、地方CM丸出し、関西でしか流れてないんだろうなコレと思った。で、まっつ番組を録画するためにレコーダのスイッチを入れていたわたしは、「このCMも録画できてるわけだわ、やったわ」と内心ガッツポーズ。だってCMの録画って大変じゃない? いつ流れるかわかんないわけだから。

 ……で、携帯が鳴って目が覚めたわけですが。
 花東宝チケットのお誘いで、ものすげー垂涎のありがたーいお話だったんですが、わたしまだ大阪(の、ベッドの中……)、今日の東宝は無理っす……あああ、まっつ~~!!

 
 しかし、今朝の夢。

 なんで、まっつがお米?!

 中身が詰まってぷっくりふくらんだお米のビニール袋を「CMっぽい持ち方」で掲げてにっこりしているの。
 そのお米も、今よくある変な名前の付いた聞いたことナイやつで、パッケージはダサかった……そして合成丸わかりの背景と相まって胡散臭さ絶大。

 わたしのまっつ観って……?!

 
 てな、朝からまっつまっつなはじまりだったわけですが。

2009/03/20

宝塚巴里祭2009

<タイトル> 「宝塚巴里祭2009」

<構成・演出> 中村 一徳

<出演者> (花組)未涼亜希 他

<料金> 26,000円(各ホテル共・税サ込)

■ホテルグランドパレス
<日時> 2009年7月8日(水)・9日(木)
       ディナー18:00~19:30 ショー19:30~20:30
<場所> 2階「ダイヤモンドルーム」
<前売日> 2009年5月30日(土)10:00~
         ご予約専用電話番号 03-3264-2025
<お問い合わせ> 宴会予約係 03-3264-1166(9時~20時)

■ホテル阪急インターナショナル
<日時> 2009年7月13日(月)・14日(火)
       ディナー18:30~19:45 ショー19:45~20:45
<場所> 4階「紫苑の間」
<前売日> 2009年5月26日(火)10:00~
         特設電話番号(5/26のみ)06-6809-8888
<5/27以降のご予約・お問い合わせ> ホテルイベント係 06-6377-2946(平日10時~19時)


 まっつまっつ来た~~!!

 恒例の『宝塚巴里祭』、今年は花組だからひょっとしたら、と思ってはいたが。
 まっつだー。まっつの歌が聴ける~~。うれしー。

 
 『巴里祭』は毎年恒例の「組の出し物」であって、いわゆるディナーショーではない。
 DSは個人の名前で売り、個人が主役。不定期開催で、劇団がやらせたい人にだけやらせる。主役とバックコーラスという構成。
 でも『巴里祭』は毎年やらなければならないもので、「やる」という前提で、てきとーな人を劇団が見繕う……わけだから、消去法で選ばれる場合だってある。そして出演者もDSより多く、主演とバックというほど役割が隔絶しない。

 意味合いは大きくチガウが、ホテルでディナー込みでの開催なので、ゆっぱり早い話がディナーショー。つまり、高い。

 うわあああ。
 うれしいけど、カネがない~~。

 何回観られるのだろう。
 時間はいいんだ、平日開催だろーとヤクザなわたしには関係ない、ふつーに観に行けますともさ。
 わたしの場合問題はびんぼーであるとゆーことだけだ。

 時間はある。が、金はないっ。←大人として恥ずかしいです、大きな字で言うのはやめましょう。

 てか、チケットって取れるんですかね?
 よくわかんない……。

 
 なんにせよ、『ME AND MY GIRL』に出ない、とわかったことが、うれしかったりな(笑)。
 や、『ミーマイ』の演出家が小池修一郎ならまっつは間違いなくパーチェスターなのでいいですが(笑)、別のせんせなので、バターズビー卿あたりになりそうじゃないですか。
 主要な数役以外がご贔屓の場合、リピートするのキツイっすよ、『ミーマイ』って。や、たんにわたしが『ミーマイ』苦手ってだけなんだけど。
 まとぶと彩音ちゃんのビルとサリーはたのしみにしてるけど、さらにジョン卿@壮くんに期待かけまくってるけど(笑)、壮くんがジャッキーだったりしたらたのしすぎるけど(笑)。

 『ME AND MY GIRL』とみつめおバウと『巴里祭』と、3つに分かれるわけですな、夏の花組。
 組のメインどころは『ミーマイ』で、若手はバウで。……『巴里祭』誰が出るんだ??
 最近の『巴里祭』はスター単独ポスターだけど、ちょっと前までは複数写りの団子売りだったよねえ。まっつもそっちになるんじゃないかと思ってみたり。
 だいもんとかアーサーとか出てくれたら、うれしいなあ。……どのあたりの子が出るのか、見当もつかないわ。

 
 さて。
 これからチケット代、貯めなくては……ただでさえびんぼー生活、どこを切りつめればいいのだろう?
 て、チケット代に決まってるがな。

 今年も「月8回観劇に押さえる」宣言をしているハズなんですが、1月、2月、3月とフタ桁行ってますよ……去年よりペース早いよ。今月までは仕方ないとして(笑)、4月から心を入れ替えて自制するわ、お金貯めるわ!!
 まっつ祭のために!!

 まっつまっつまっつ。
「あなたが好きよ、アルフォンソ」

 わたしにとっての、「女優」遠野あすかは、『Crossroad』のヘレナ役がはじまりであり、やはりそこに行き着くのだと思う。

 お正月の阪急ポスターに抜擢された新進娘役、このポスターに載るってことは劇団はこの子をトップスターにするつもりなんだろう。娘役は研5くらいにはトップになるもんだし、研2の「遠野あすか」って子がトップ射程距離にいても、なんら不思議はない。
 たかちゃんファンだったわたしが宙組を観劇する理由は、なにを置いてもたかちゃんだ。ヒロインがまったく知らない入団したばかりの子でも関係ない、とにかくたかちゃん主演だから観に行った、ドラマシティ公演初日。チケット持ってないから、サバキでGET。
 劇団期待の娘役だとは、わかっていたけれど、阪急ポスターを見る限りはそれほど美人じゃないし、かわいいっていうにはちとファニーフェイスだし。事前の期待なんか皆無だった。

 それが。

 その無名の抜擢新人娘役は、舞台の上でほんとーに変わっていった。花開いていった。

 なにしろ正塚芝居、ヒロインはファンファーレと共に登場したり、ひとりだけ豪華な衣装を着ていたりしない。
 ダサいスカートにブラウス、いかにも学生が持っていそうな、どーしよーもない大きなバッグ。
 「ふつうの」女の子設定だったヘレナは、容赦なくイケてない、垢抜けない女の子だった。

 世間知らずでKYという設定で、本人は無邪気に他人を傷つける。
 それゆえに、主人公のアルフォンソ@たかこの逆鱗に触れるわけだが。

 ヘレナの持つ身勝手さが、いちいち、身につまされた。
 あまりに、リアルで。

 なんの根拠もなく他人を見下し、自己防衛しているくせに、都合良く期待してみて、それが叶わなかった(勘違いだった)とわかったあとの身の翻し方とか、彼女の感情の流れがリアルで、見ていて痛い。
 誰もそんなもの、見たくないよ。人はそーゆー「醜さ」を隠したいと思ってるんだ。とくに、夢の世界であるタカラヅカでは、見たくないもんなんだよ?

 中2病だろソレ、みたいな自己中心的なデリケートさをゆんゆん臭わせているときですら、彼女の抱える歪みや、荒廃が見えた。
 精神に直撃をくらわす系の、痛さで。

 そのどーしよーもないウザい女の子が、運命に翻弄されるうちに、成長していく。変わっていく。
 
 心に抱えた飢えは、そのままに。孤独の深さ、歪みはそのままに。
 ただ彼女は、恋をするんだ。
 自分を嫌い、憎んでいる男に、恋をする。
 自分が死ねば、男が喜ぶんじゃね? てなぐらい、絶望的な相手を、愛してしまう。

 嫌われても憎まれても軽蔑されても、行くところのない彼女は、その男のそばにいるしかない。
 絶望を病んだまま、彼女はそこにいる。

 どこへも行けない彼女は、それでも、愛する男を守るために力の限りを尽くす。
 ヘレナが道を誤った原因は、彼女の父親にあったのだけど、父への反発が、愛情の渇望が、すべてを歪めてしまっていたのだけど、そんなトラウマの根っこにある父親にすら、頭を下げる決心をする。
 アルフォンソを守るためなら、どんなことでもする。

 追いつめられ、研ぎ澄まされていく、男と女。
 ヘレナはずっとアルフォンソを愛しているけれど、アルフォンソはそうじゃない。だけど彼にはもう、ヘレナしかいない。

 無神経で他人を攻撃することでしか自分を守れなかった少女は、ウザくてきれいでもかわいくもなかったそのへんにいそーなふつーの女の子は、舞台の上で、ドラマの中で、あざやかに変わっていった。
 花開いていった。

「きれいだ」
 花を手に笑うヘレナに、アルフォンソが思わずつぶやくように。
 心の闇に歪んでいた少女は、今、美しい花となった。

「嫌いじゃない。オマエのこと嫌いじゃないって言ったんだ」

 泣きそうに怒鳴る男に、少女は微笑む。白い花のように。

「あなたが好きよ、アルフォンソ」

 嫌いじゃない……そう言うことしかできない男に。「好き」と、うつくしいことばを返す。

 ほんとに、きれいに見えたから、すごい。
 あか抜けないなあ、これがヒロインか。そう思った女の子が、同じ舞台の上で、物語の上で。

 そして、駄目押し。
 つか、トドメ。

 その恋をしてきれいになったあとの、精神的に大人になったヘレナの直後に、回想シーンで「最初の、バカで幼いヘレナ」を演じるんだ。で、その次の瞬間また、「大人の美しいヘレナ」に戻る。
 そのあざやかさ。

 舌を巻いた。

 これが、初抜擢・初ヒロインの、研2になったばかりの女の子か。

 すごい子が現れた。
 当時「すごい生意気な子」「たかちゃんのことはすでにバカにしている」「ずんちゃんの相手役になるつもり」などなど、悪い噂は山ほど聞いた(笑)。
 まあもともと噂なんてもん眉唾だと思っているが、それにしたって、どんな悪い噂もわたしには関係なかった。

 あのヘレナを演じた女優ならば、なんでも許せる。

 その後も、あすかちゃんを過大評価しまくり、なにをやっても「あすかちゃんはすごいわ!」と言い続けた。
 ヘレナがあったので、「これはちょっと……」なデキのものを見せられても、「遠野あすかだから、これはすばらしい演技のハズ」と思い込んでいた、節はある(笑)。

 恋は盲目。
 好意も盲目。

 その後あすかちゃんはいろいろと、頭を打ったり回り道したり、さまざまな経験を通してより大きな舞台人に、女優になった。

 好きな役は、たくさんある。
 実は今、スカステで今月放送された『La Esperanza』東宝新公見てたんだけど、やっぱミルバはいいわ、素敵だわ。
 イヴェットだってちょっと類を見ないくらい好きだし、あすかちゃんの演じた役はみんな、ヅカには不要なまでのリアリティがあって、そこが魅力だと思うわ。

 だけど。
 わたしにとってのいちばんは、どうしたって、ヘレナなの。

 そんな最初の、本人的には未熟であろうものを言われても、最初をいちばんと言ってしまうと、その後のすべてを否定してしまうみたいになるけど。
 遠野あすかの軌跡を否定するのでも、今を認めないのでもなくて。

 ただわたしにとっては、ヘレナなの。
 この役がなければ、わたしはこんなにあすかちゃんを好きにはならず、いつか好きになっていたとしても、ずっと遅かったと思う。新公学年の娘役なんて、意識して追わなければ、男役スターの活躍の陰に隠れてしまうものだから。
 
 遠野あすかとの出会い。
 わたしが、もっとも愛するヒロインを演じた、女優。

 人間の闇を、痛みを、そして愛を、演じられる人。

 ヘレナを主人公として、『Crossroad』のノベライズやりたいよ。彼女の歪みとその成長を、文章にしてみたい。 
 野望(笑)。
 あすかちゃんが創り上げたキャラクタを、物語を、わたしというただの一ファン一観客が、どう受け止めたのか。
 いつか描きたいと思う。

 ……『Crossroad』の主人公、アルフォンソの一人称小説はすでに書いた(デュシャンとのラヴ・ストーリーだが・笑)ので、やっぱ次の野望はヘレナだっ。

 特別な特別な、遠野あすかちゃん。
 卒業してしまうんだね……。
 正直、星組通いで時間も体力も財布も燃え尽きていたので。
 観る予定はなかったんだが、kineさんの越リュウ絶賛を受けて、急遽観劇を決めました。まあその、お財布にとてもやさしい市場価格だし。

 「関西で行われている全公演を観る」が基本スタンスのわたしが、観劇をためらったのはやはり、「コンサート」であるという認識ゆえ、でしょう。
 仲間たちとも話していたが、全公演観る、が基本だとしても、スター個人のディナーショーはその「全公演」には含まれない。今回のドラマシティ公演が、ふつーにトップスター主演の月組公演であるならば「公演」にカウントするけれど、あさこちゃん個人の「コンサート」である場合は、ディナーショーと同じカウント。観なくても「全公演観る主義」に反しない。
 わたしを含め「観られる公演は、組を問わず全公演観る」仲間内にも、最初から観る気のない人が多いのは、そのためかな。

 ディナーショーやコンサートは主演者のファンが行くモノであって、バックのコーラスやダンサー目当てに行くには、ちと敷居が高い。
 だとしても、越リュウがすごい、と聞けば、行くでしょうそりゃ!!(笑)
 や、主演のあさこちゃんがかっこいいのは周知のことで、別にコンサートでなくても大劇場で観られるけど、リュウ様が、てのは今回のDCでなきゃ観られないぞ、というならば!!

 つーことで、『SAUDADE』観劇。座席は真ん中通路の2列後ろ。客席降りがウレシイあたり。DCは後ろ過ぎると舞台遠すぎて寂しいし、されどお財布も寂しいし、とせめぎあった結果、予算内の席。

 
 いちばんの感想は。

 ドラマシティの舞台って、広いんだな。

 概念ではなく、ほんとに舞台、床面積のこと。
 DCステージの床面積って、あんなに広かったんだねえ。
 出演者の数が少ないことは確かだが、『A-“R”ex』だって少なかったし、あのときは別に床面積何平米だろう、なんて考えながら観なかった。出演者ひとりあたり1平米を使用するとして、なにもない空間はどれくらいになるのか、なんて。

 『カラマーゾフの兄弟』なんかは、「舞台せまっ」と思ったくらいだから、ほんとに印象の問題なんだろうなあ。

 この公演って、バウホールくらいの小さなハコでやるべきだったんだろう。DCでこれだけ舞台、客席ともに空間を持て余すわけだから、それよりさらに大きなハコ、東京人見でやることを思うと震撼する。が、がんばれ、出演者。

 1幕はダンス・ショー、2幕は出演者全員勝負な群衆芝居。

 前評判通り、越リュウ様は素晴らしかったです。はい。
 とくに長椅子に坐っているところが最高でした。あの場面をぜひポストカードにして販売してください。あの膝にすがりつきに、馳せ参じたいっす。ハァハァ。

 しかし……。
 なんともまあ、中途半端な作品でした。

 円熟期に入ったトップスターと、色気ゆんゆんの組長を配して、これだけ「床面積の広さ」にぼーぜんとさせる作品にしてしまう、つーのはいかがなものか。

 あちこちのパーツはいいので、間近でそこだけ観ているときれいでも、遠くから全体を観るとなんじゃこりゃ、という。

 中通路の後ろは劇場のほぼ中心の段上がり席で、通常は舞台全体を見渡せるそこそこ良い席のはずが、「いかん、この作品は前から数列目以内で観るものだ」と座席チョイスを後悔しました。目の高さ的に、床が見えない席がいいですな。ああ、びんぼーが憎い。

 わたしに神の手があるならば、この作品をこう、おにぎりでも握るようにぎゅっとしたくてしょうがなかった。
 空間も小さく、そして時間も短くし、小さくした分、あのどーしよーもない薄さや浅さを濃くして、「今と同じ作品」だけど、すべてにおいてコンパクトで濃密なものにするの。

 広くて余っていて薄くて浅いことが、残念でならなかった。
 モチーフはいいのになあ。多分、演出の稲葉くんがやりたいのはコレで、それならこんなことしてちゃダメでしょう、みたいなじれったい感じ。や、わたしの勝手な思い込みであったとしても。

 男役・瀬奈じゅん、を、今この時期でないと存在しないあさこちゃんを描きたかったのだろうと思う。

 それは彼がたどってきた軌跡でもあり、記憶と経験が現在を作り、未来へつながっている。
 同じでいることはできない人間の、たまゆらのファンタジーである「男役」の、「今」の姿、その魅力……。

 真ん中で王者として勝者として描くのが基本の大劇場本公では出来ない、中劇場でのコンサートだからこそできる、王者だの勝者だのプラスで光で太陽だけでない表現。
 あさこ氏も、大劇場で小林幸子やっちゃうハッタリ部分だけで形成されたスターじゃない。もっと濃密で繊細な魅力を持った人だ。それを今、彩るキャストにもぬかりなく、万全な備えにて幕を上げた。

 と、意欲は見えたんだけど。

 …………あー…………。

 
 芝居は、どこの『Appartement Cinema』かと(笑)。
 群衆芝居はいいんだけど、それをやるには最低限の舞台人スキルが、全員に必要かと。
 でもってやっぱり、舞台が広いなあ。この芝居、バウサイズだよなあ。
 そして、音楽学校の文化祭って、こんな芝居だよね(笑)。出演者全員に見せ場と台詞があって、特別誰かが主役って感じにキラキラ衣装着ていたりスポット浴びたりしていないの。
 毎年観ている文化祭芝居(正塚演出)となにかとかぶるところがあるわ、実際に文化祭ちっくな人々はいるわで、変なトコでツボった(笑)。

 ちょっといい話、をやるには箱の大きさと演出、キャストの力量にバラつきがありすぎた。

 
 てなことは置いておいて、伯爵@一色氏萌え。

 もともとカオが好きな一色氏ですから、越リュウの次に彼に釘付けで終始しました、この公演(笑)。
 学年のわりに芝居がうまいわけでもなんでもないんだが、それでも学年相応には大人なので、おっさんスキーにはオイシイ人です、はい。

 仲間内で、「ガチャのエリザベートが見たいよね」とゆー話で盛り上がったりしてましたから。
 や、栄えある『エリザベート』タイトルロールに、他組の無名下級生抜擢ってことで、ネットでよくカチャとガチャと混同した記述が目立っていたころに。
 シシィ@ガチャ(一色氏)であるならば、フランツ@越リュウだよね! うわーそれ見てえ!! と、無責任に盛り上がった妄想配役。
 ……きれいだと思うけどな、ガチャシシィ。

 一色氏が若い嫁に冷たいところ、無体なところ、そのくせ最後には「どこのツンデレ?!」な態度で愛を示すのが、たまりませんでした。
 紗幕の向こうの白い花プレイにも、じーん。

 そのかはデジャヴなキャラクタ、おときっちゃんかわいー、あーちゃんとゆりのちゃんは迫力だなヲイ、宇月くんがさわやか、麻月くんはえっとその……早く男役になれるといいね、キャリアのわりに他の下級生たちとの差が……ゲフンゲフン。

 そして、越リュウがこの芝居の……というか、1幕のショーも含めたキーになっているわけだが、なにしろ演出的にいろいろアレなので、効果的でないというかもったいないというか。
 あさこを使って、越リュウを使って、やりたかったことはわかるけど、やれてないってゆーか。ああもどかしい。

 全編通して、かゆいところがかゆいまま終わった模様。むむむ。
 誰が出ているか、知らなかったので。
 デコラティヴな姿で、萬ケイ様やソルーナさんが登場して、びびったよ。そ、そうか、お二方出演してたんだねー。

 『二人の貴公子』は、物語自体は、好きな話でした。演出と主役ふたりのキャラクタに疑問はあるんですが、根っこのストーリーは好き。
 このテの話は、サイトーくんに派手にいやらしくやってもらうか、大野せんせにじっくりねっとりやってもらうか、いっそキムシンにどっかーんと盛り上げてもらった方がいいんじゃないかと思った。

 まあともかく、わたし的にツボったのは、寝取られ男@るうです。
 役名わかんないし、聴き取れないし。つか、おぼえられないし。
 牢番の娘@蘭はなちゃんの婚約者のお金持ちで、パラモン@まさきに牢番の娘を盗られちゃうの。パラモンは王女@しずくちゃんを手に入れるために、牢番の娘を利用して捨てるわけで、るうはほんと、踏んだり蹴ったりですよ。

 パラモン様に捨てられた娘は狂ってしまい、誰のこともわからなくなる。
 そんな娘を、変わらずに愛し続けているのが、寝取られ男なんですよ。
 娘の自傷行為を止めるために、「パラモン」と恋敵の名前で呼ばれることで、偽りの恋人を演じることで、愛する娘を救おうとするのですよ。

 ……それらのやりとりはすべてコメディとして描かれていますが、すっげー良かったよー。
 てゆーか、やっぱわたしるうくん好きかも。
 出演していることも知らなかったので、「え、出てたんだ」とおどろいたくらいだったけれど……いてくれてよかった~~。

 出来事もやってることも悲惨極まりないのに、ヘタレにコメディに、実はいちばんものすごいことをしてるんだよね、この役。
 パラモンもアーサイト@みりおも、人間として男として、寝取られ男の足元にも及ばない(笑)。

 あれ。
 ひょっとして寝取ってない、つか、ヤってないのかな、パラモン?
 愛がないまま娘を抱きしめるときのカオが、エロ邪悪かったので、迷わず森にて「ヤリ捨て」したんだと思いましたが……。
 だから娘は森を狂ったまま彷徨っているのだと。

 プログラムは買っていないが、今公式HPの配役見たら、るうの役名が「求愛者」とある。
 求愛者!! な、なるほど、たしかに求愛者だ。愛を求める者だわ。美しい名前だわ。「寝取られ男」なんて下品な名前じゃないわ。
 たんにわたしの品性がアレだってことですわね、ほほほ。

 でも、パラモンが娘を抱いていた、とゆーことにした方が、わたしの好みです。パラモンの歪みや、娘への愛情の複雑さを想像できるから。愛してはいなくても、情はあったと思う。自分を救うためにすべてを捨てた少女に対し。
 指一本触れずに捨てられる方が、わたしならイヤだ(笑)。

 つーことで、るうは「寝取られ男」ってことで!(笑)

 その牢番の娘@蘭はなちゃんが、素敵でした。
 今まででいちばんかわいかった。
 特に、狂ったあと。
 あからさまな狂人ではなく、ふつーの範疇に見えないこともないのに、たしかに狂っている姿が、かわいらしくて、哀れだった。

 かわいいといえば、侍女@愛風ゆめちゃんもかわいかったなー。

 そして、物語最初に出てくる3人の舞姫……てゆーか、麗百愛。3人のうちのひとり、バレリーナがくるくる踊る踊る。うおー、麗百愛キターー(笑)。
 踊っていると、ほんにきれいだ。

 牢番@ルイスはヒゲが似合うなあ。てゆーか、フェイスラインがすっきりして、オトコマエが上がったと思う。
 綾月、彩央と脇に回って支えているのはいい感じ。

 旅の騎士@ゆりやくんは……がんばれ、いろいろと(笑)。

 専科のおじさま方が出てくれていて、ほんっと助かったが、彼らがいないと「えーとコレ、WSだっけ」って感じだったのはたしかだが。
 彼らと若者たちと、あまりに異質で、ふたつをつなぐものがなくて、そこはどうしたもんかと思った。

 萬ケイ様があまりに若い嫁をもらうので、そのへんでまずびびったりな……(笑)。

 1幕ではあまり出番がなかったペイリトオス@ソルーナさんが、2幕では存在感を増し……というか、裏主役?って感じに持っていくし。
 ペイリトオスの越えてきたモノ、まとうモノとかが、本来の『二人の貴公子』なんじゃないのかなあ。パラモンとアーサイトはどうも「チガウ」んだよなあ。ぶつぶつ。

 なんにせよ、ソルーナさんが、いやらしくて素敵です。
 
 パラモン@萬ケイ様、アーサイト@ソルーナさんでやってくれたら、しっぽ振って観に行くわ、わたし……(笑)。

 
 まさきもみりおも好きだけど、彼らの魅力を活かす作品だったのかというと、かなり疑問。
 お勉強も大切だけど、そろそろ魅力全開になる役や作品が必要な学年じゃないかな。
 男ふたりが激烈に愛し合っている話なんだが、およそ萌えとかけ離れているのは何故だろう……。

 まさき、みりおという当世ヅカ若手きっての美形による、バウW主演公演『二人の貴公子』を観てきました。

 無知ゆえ原作は知りません、予備知識もありません、固有名詞は人名も地名も知らないし聞き取れないしわけわかんない。そんな状況で観劇。てゆーかヒロイン誰だっけ、ぐらい無知。
 いやあ、とにかく固有名詞が耳に入って来ないのがいちばんの問題か。主役ふたりの名前がわかったのが2幕に入ってからだもんよ(笑)。

 舞台は古代ギリシャ。パラモン@まさきとアーサイト@みりおは、テーバイ王の甥で従兄弟同士で親友同士。ふたりともものすげー強い戦士だったらしいが、自国敗戦により捕虜として敵国アテネに連行される。
 仲良しなふたりは、牢獄の窓からアテネ王テーセウス@萬ケイ様の義妹、エミーリア王女@しずくちゃんを見た途端、そろって王女に恋してしまう。女の好みまで仲良しだったらしい。
 が。それまでうざったいくらい仲良しアピールをしていたのに、同じ女に惚れた瞬間から人生泥沼、嫁姑でもここまで罵り合わないぞってくらい、身も世もなく互いを憎みはじめる。なんて極端な。
 ふたりそろって王女の愛を得るために罪を犯し、すったもんだの末に決闘を行うことになる……。

 シェークスピアは大変だなあ……いや、いろんな意味で。溜息。

 まずなんつーか、スターブーツ大安売りに、劇団の気合いを見た。気がした(笑)。

 『銀ちゃんの恋』でヤス@みつるが捨て身で教えてくれたよーに、「これを履くと誰でも脚が長く、スタイルが良くなる」魔法のブーツ。タカラヅカでも限られたスターしか履くことを許されない、禁断のアイテム。
 たとえば『ベルサイユのばら2001』のフェルゼン様@たかちゃんは、あくまでもスターブーツにこだわり、他のフェルゼン様が宮廷靴を履くところでもスターブーツを履き続けた。それくらい、スターにとっては大切なアイテムだ。

 それをまあ、主役のふたりはずーーっと履いているわけだ。
 大劇場でなら違和感ないアイテムでも、この小さなバウホールでだと「大仰なブーツだなあ」とかえって目に付いたりするもんなんだが。

 劇団的に、「当世きっての若手美形スター」は大切にしたいんだろうなあ。土を付けたりしたくないんだろうなあ、と、真実はどーか知らん、勝手な思い込みでしみじみしちゃいました。

 
 なんにせよ、難しい演目を、若手だけでよくがんばりました。
 桜の花のスタンプを連絡帳に押したい感じですね。「よくがんばりました」と。

 しかし、舞台の上の彼らに、置き去りにされた感じではあった。

 主演ふたりがものすごーくがんばっているのは、わかる。
 ふたりとも、美貌も実力も兼ね備えたスターだ。歌も芝居も破綻ない。そんな彼らががんばっていること、意欲的に取り組んでいることは、わかるんだが。

 ……この芝居ってのは、そーゆーもんなんだろうか?

 テーマっちゅーか、本質と、彼らの演技が乖離している気がした。

 まさきは、ものすごい熱量。
 カオ中から、あらゆる液体をあふれさせて、咆吼していた。
 ……もう少し、きれいに演じてくれてもいいんだよ?(笑)てくらい、液体ダダ漏れだった。
 美形なのに。
 ほんとにきれいな子なのに、ここまでやるかー、てくらい、容赦なく汚かった(笑)。
 や、その心意気やヨシ!

 しかし、そこまで熱烈に演じながらも、あのー……ちゃんと相手見て演技してますか?な感じがしたのは、どうだろう……。

 自分を好きなことはわかったから、親友とか王女様も愛そうよ!みたいな。

 クライマックスで彼のタガがはずれるまでは、ふつーにパラモン様は細かく演技しているんだが、アクセルがMAXに達すると細かいことがぶっ飛んで、本能全開になるみたいだ。

 おもしろいなあ、龍真咲。

 役者として、というより、「スター」として、得難い持ち味だと思う。

 彼が不運だったのは、そんな彼の本能に随行して、一緒にぶっ飛んでくれる相方がいなかったことだ。

 みりおくんは、アーサイトというキャラクタとまったく合っていなかった、気がする。
 今までみりおくんの演技力について深く考えたことはなかったし、考えなくてもふつーになんでもよくやっていたし。
 でも今回、悲劇的な最期を迎えるアーサイト役を見て、違和感を持った。

 みりおくんは、健康的すぎる。

 魂が真っ直ぐできれいで、ゆがみがない。
 演技でもって多少のブレは表現するが、根っこの王道さを汚すまでには至らない。

 あまりに王者体質なアーサイトくんなので、どう見ても道を間違えたり、破滅しそうにない。親友のために身を引くなら、そもそも最初からさわやかに「あの子とうまくやれよ、こいつ☆(白い歯キラリ)」と言ってもよさそーなもんだろう、と。

 まさきはひとりで勝手に汚くテンパってるし、みりおくんはなにをしてもきれーだしで、君たちほんとに仲いいのか? と、終始疑問だった。や、本人たちがじゃなくて、役として、芝居として。

 憎み合うほど、愛し合っているように見えなかった。

 そしてさらに、大変なのは。
 ヒロインの王女様がもー、ただ「美しい」という記号が在るのみで、男ふたりについて行けてなかったので、男ふたりの一騎打ちにしかならず、しかもそれが噛み合っていないので、なんともすごいことになっていた、と。

 「男ふたりが取り合うことに疑問がないほど、ヒロインが『美しい』ってだけで、なんの文句もない」……と、某組ファンには言われてしまいましたが。

 う、うん。ここはタカラヅカだから、登場した瞬間「美しい姫だ」と思えることは、すばらしいことなんだが。
 もう少し、芝居をがんばってくれて、さらに歌をがんばってくれても、うれしいぞ、しずくちゃん。

 
 まさきとみりお、ふたりとも好きなので、見ていてすごくたのしかったが、そのたのしさが、予想していたものとは違っていた。
 いやあ、おもしろいなあ、この子たち。
 どちらも若手で、美形で、将来有望なスターなのに、こうまで芸風がチガウっつーのもなあ(笑)。

 で。
 ふつー、美形のコンビ売りはプラスになるもんなんだけど、この子たち、コンビで売ってもあんまし意味ない気がする……。
 こんなにきれいな男ふたりが、激烈に愛し合っている話を演じてなお、萌えとかけ離れているんですが(笑)。

 や、個人的意見に過ぎませんが。
 それにしても、オープニングがかっこいいですな、『ZORRO 仮面のメサイア』

 仮面をつけていても、ゆみこちゃんはアゴのカタチで、キムは唇でわかる(笑)。
 や、まさか2、3番手がまざっているとは思わなかったので、めっさ油断してオペラで「誰がいるのかしら♪」と気軽にアップで見たら、水しぇんの後ろがゆみことキムでおどろいた(笑)。

 
 んで、主人公さんたちの話。

 ……ディエゴさん@水しぇん登場時のKYぶりに、最初からびっくりしました、実は。
 トップスターだから当然なのかもしれないけど、それまでの雰囲気ぶっ壊し、すごく華美な衣装で「出迎えてくれないのか?」とかなんとか言って現れるのが、じゃじゃーん♪な感じというより、雰囲気クラッシャーなだけに感じられて……ゲフンゲフン。

 そして、お友だち♪と信じていたメンドーサ@ゆみこに握手をはねのけられ、「アンタ実は友だちいないんぢゃあ……?」みたいな危惧を抱きました。
 そして、両親殺され、領地没収され、とかものすごいことになってるのに、そのキラキラ衣装でお金持ち然として帰国してきたのもまた、「アンタ実は友だちいないんぢゃあ……?」という危惧に、拍車をかけました。誰も知らせてくれないんだ……。

 当時の移動手段、情報伝達の時差を考えれば仕方ないことなのかもしれないけど、コトがコトだけに、ディエゴののんきさにびっくりしてしまった。

 登場がコレ、つーのが、その後の彼の印象も決定づけてしまう……わたし的に(笑)。
 なんつーんだ、空気読めないおぼっちゃまってゆーかな。
 それはそれでアリだと思っているが、演出家はそういう意図で作っていないだろうこともわかるので、そのへんはちょっとモニョる。
 
 メンドーサとロリータ@となみとディエゴが幼なじみ設定てのが、よくわかりません。
 この人たちがどんな少年時代を送っていたのか、断絶感が強くてピンと来ない。

 ディエゴとロリータがいい関係だったのはわかる。ついでに、ガルシア@ヲヅキとの温度感も。
 しかしそこにメンドーサが加わると、途端わからなくなる……。
 メンドーサひとり、あきらかに異質。
 友だちだったとは、とても思えない……。

 おつむにお花の咲いている幸せカップル・ディエゴとロリータの周囲に、黒い暗雲漂わせて「ロリータ……ロリータ……ボクのモノ……」とただなんとなくうろうろしていただけなんじゃないかメンドーサ、と思ってみたり。
 ロリータは「うざっ、ナニこの根暗男」と思っていたけど、人を疑うことを知らないディエゴおぼっちゃまは「みんな友だち~~♪」と思っていたとか?

 ……どんどんディエゴ様がアレな人に思えてしまう……(笑)。

 ようするに筋が通っていればソレでイイので、ディエゴ様がお花畑な人であっても、別にかまわない。
 浮世離れしてなきゃ、仮面付けて正義のヒーローはやらないと思うから。

 ディエゴ様が少々アレな人で、やることなすことそりゃまずいでしょう、と思っていても、彼の忠犬ベルナルドくん@キムは「…………」なまま、付き従っている、という展開はとても萌えです。

 見た目がかっこいいから、それでイイし、ディエゴ様。ヒゲ最高!!
 お馬鹿おぼっちゃまプレイも素敵です。

 水しぇんの誠実な熱量で、正義を説かれるとそれだけで正しい気がするから、タカラヅカのヒーロー物ってのは、いいよな。
 まさしくトップスターの仕事だ。

 
 気の強いお嬢様ロリータ@となみちゃんは、すごくかわいい。
 アクティヴでじっとしてなくて、トラブル・メーカー……てゆーか、足を引っ張るだけだから、じっとしてろナニもするななとこがまた、かわいいですな。
 てゆーか、ゾロに憧れたからってふつー、コスプレして、追っかけはしません。
 いや、いるよ、そーゆー人。好きなミュージシャンでもアニメキャラでも、コスプレして愛を示す人はいる。が、ヒロインがソレってのは、なかなか素敵だ(笑)。
 その頓狂でズレた感じの突撃感がかわいい。

 ついでに、ベルナルドくんをゾロだとカンチガイしたままのロリータ、というパラレル物語も見てみたいです。
 ゾロを追いかけて隠れ家へやって来たロリータちゃんは、ベルナルドくんを見てなんの疑問もなくゾロだと思うわけでしょ?
 そのまカンチガイして、恋しちゃってくれても、ぜんぜんいいんだけど。でもって、夜の稲妻@みなこと対決だ。
 ほんとはオレがゾロなんだ……と、言い出したくて言えなくて、じれじれするディエゴ様も見てみたい。
 真実が言えないまま(ベルナルドくんは喋れないし)、四角関係、絶体絶命!!(笑)
 ロリータちゃんの侍女たち@さゆ・ミミも巻き込んで、暗黒パワーのメンドーサ大佐も乱入してきて、さあ大変。
 ヒーロー物も正義も横へ置いておいて、恋愛事情のみにじたばたする彼らもたのしそうだ。
 あ、恋愛にもつれまくってる彼らを横目に、美しき総督@かなめ様が美しき奥方@ルーシーちゃんと美しき邪悪姉君@いづるんと、優雅に世間話しながらアフタヌーン・ティとかキメてくれてると、なお萌えですな。

 
 さて、悪役メンドーサ大佐@ゆみこは中間管理職は大変!て感じで、いいですな。
 高笑いと上から叱られる姿ばかりが印象に残ってしまう、ベルクカッツェとかあしゅら男爵とかのポジション?(例が古すぎます)

 悪役はハッタリ効かせてナンボ、彼の場合歌声が説得力になります。

 ロリータちゃんにまーーったく相手にされていないのにひとりで盛り上がっていたり、お約束なところがたまりません。
 前述の通り、昔馴染み設定は想像の範囲外なので、「彼の脳内で」ということにしておきます。

 メンドーサも「オレとロリータのラヴラヴな関係を邪魔する、憎きディエゴ」と思ってるし、ディエゴも「仲良しのメンドーサくん」と思ってたみたいだし、一見アホっぽいロリータちゃんが、実はいちばん人間関係があるがままに見えているのかもしれない。
 人間、自分の見たいモノしか見ないからなー。

 とことん悪役だった彼が、最後に「何故インディアンを憎むのか」を打ち明けます。
 そ、そうだったのか! そんなことがあったのか!! と、素直にショックを受け、彼の心のキズに打たれました。そーゆーシリアスな盛り上げは、ほんと彩吹氏はうまいっす。

 共に両親を異種族に殺され、人生が変わってしまったふたりの男の亡骸の手を、ディエゴがつなげてみせるラストシーンに、泣けました。

 
 なんか全体的にすごーく「タカラヅカを観た」な気分になるのはたぶん、『ベルばら』を観たのと同じテイストを感じているからかも、しれません。
 や、『ベルばら』よりぜんぜんいいけどなっ。
 『ZORRO 仮面のメサイア』で、自分的にけっこーおどろいたことは。

 ベルナルド@キムが、かっこよかった。

 いやその。
 キムくんはいつもかっこいいと思ってますが、なんかその、いつもと違って見えて。
 なんかスタイルも今までより良く見えたんだよなあ。

 アタマに羽つけてるから、それが視覚効果になり、より背が高く小顔にスタイル良く見えているのかしら、と通販ストレッチパンツの宣伝文句みたいなことを考えながら見ていた。

 
 物語は、わっかりやすい勧善懲悪。
 19世紀初頭のスペイン領カリフォルニア。市長の息子で大農園の御曹司ディエゴ@水が7年ぶりに、キラキラな感じでお金持ちらしくスペイン留学から帰ってくると、パパもママも反逆罪で処刑されていたそうな。……そんなことが起こっていても、はるかスペインにいたディエゴには知るよしもなかったらしい。地球は広い。
 正義の人であるパパたちが反逆罪だなんてとんでもない、それは総督オリバレス@かなめやその部下メンドーサ大佐@ゆみこの陰謀だった。
 復讐を誓ったディエゴは、普段はダメダメヘタレおぼっちゃまのふりをし、裏では仮面の救世主ゾロとなって大暴れ。これぞ由緒正しきヒーローの姿。
 行け行けゾロ、悪を倒し、自由と平和を取り戻すのだ!

 
 まあともかく、ヒーローおぼっちゃまディエゴくんはインディアンとのハーフ。そして彼にはベルナルドという、オマエは光オレは影、オスカルに対するアンドレみたいな乳兄弟のインディアンの男がいる。
 ベルナルドくんは、喋ることが出来ない。肉体的なことではなく、子どもの頃のトラウマが原因。
 ベルナルドくんは健気にも、ひとりディエゴくんの隠れ家を守り、彼が帰ってくるのを待っていたらしい。
 ワンコ的でいいですな。喋らないのがまたヨシ。
 や、ひとりではなく、カノジョである夜の稲妻@みなこや、インディアンの仲間たちと一緒か。でもあのお屋敷風な隠れ家は、ディエゴが帰ってこなければベルナルドとカノジョの愛の巣でしかなかったよーな?

 夜の稲妻とかブレイブ・バッファローとかキッキング・ベアとか、名前がすごいのは「昔、『狼と踊る男』って名前の映画があったなあ」てことで違和感はないですが、夜の稲妻も英語表記でないと変な気がします谷せんせ。

 そのベルナルドくんが、やたら美形でオイシク見えました。

「最後になるまでひとことも喋らない、銀橋での歌もない役ってどうなの? アタシがファンだったら、そんなのイヤだ」
 と、終演後にジュンタンが言っているのを聞いて、たしかに、自分の贔屓に置き換えて考えてみると、イヤかも、と思った。(まっつの声が聴けないなんて、絶対イヤ。……まっつにはそもそも本公演でそんなに台詞はない、とゆー前提は置いておいて)
 たしかにタカラヅカのスター制度に置いて考えると、ひでー扱いなのかもな、とも思った。

 わたしは所詮本物のファンではないということだけかもしれんが、ベルナルド役はすげーオイシク見えた。

 世の中には真ん中には惹かれず、あえて「真ん中の、ちょっと脇」を好きになる人が少なからずいてだね、そんな人はあーゆー「喋らずに、主人公を愛し、尽くしまくる美形」つーのにジャストミートすることが結構あるんだよー。副官萌えとか主従萌えとか、執事萌えとか、そーゆーのな。
 声を出さないまま銀橋渡ったり、特異感が大きいし、初見の人の記憶に残る役だと思う。

 そんな「影」の彼がだよ、いざクライマックスの直前に哀しい過去の話だの、カノジョに「子どもが出来たの!」とか言われるだの、うわ、死亡フラグ来たーー!!(笑)とかで、ガンガン盛り上げて来るわけですよ。

 ※死亡フラグ【しぼう-ふらぐ】 死亡する伏線のこと。それまでただの脇役だったのに、突然プライベートな話をしたり、昔語りをしたり、恋人や家族の話が出ると「死亡フラグが立つ」と言う。戦いの前に「戦争が終わったら……」と未来を語り出したらもう確実。「子どもが生まれる」は、その顕著な例。

 そして実際、超お涙頂戴!って感じに、独壇場で死の間際喋りまくるわけですよ!

 オイシイし、見た目もかっこいいしで、ちょっとうろたえました。

 わたしの個人的好みで言うと、最後まで喋らなくてヨシなんだけど。
 贔屓がほんとに一言も声を出さなかったら、それは絶対ヤだから、最後に喋るのしょうがないかなあ。
 喋るにしても、一言だけの方が萌えなんだがなあ。ベルナルドくん、めちゃくちゃよー喋りはるけん、びっくりじゃ。
 んで、せっかく大人っぽくキメてたのに、喋り出すと若返っちゃうのは、ちょっと残念かな。

 それにしても、キムに精神ヤヴァイ系の演技させると、ヤヴァイですってば!(笑)

 『マリポーサの花』『忘れ雪』、そして今回と3本続いて狂気な役であることに、ウケました。
 本気でクるからなあ、この子。
 鳥肌モノの狂気っぷり。

 ……ん?
 どの役も別に、狂ってないはず?
 狂って見えるのは、キム・クオリティ?(笑)

 だとしても、彼の得意分野の演技を見ることが出来て、たのしーです。はい。

 
 罪のない勧善懲悪ヒーローものでありながら、ヒューマンな部分を担わされているあたり、重責だったりするしな。
 インディアン問題を真面目に考えると物語の根底が揺らぐので(悪役総督追い出して終わり、で済む問題じゃない)、そのへんは置いておいて、突然人類愛になる谷せんせお得意の展開は、キライじゃないです。
 ベルナルドくんの物語を突き詰めて考えてみるのは、たのしそーだ。

 フィナーレでのデュエット・ダンスにも心底たまげたが、あまり意味はないんだろうな、なにしろ谷だし。
 広い広い大劇場の舞台に、2番手娘役(次期トップ確定済み)とふたりきりでデュエット・ダンスって、どこのトップスターですか、みたいな扱いだが、なんかちらりとデジャヴが。
 そーいや『春櫻賦』でまひるちゃんと舞台の上にふたりっきりになったことがあったねえ、ケロちゃん……。あんときは「どこの路線スター様な扱い?!」っておどろいたけど、特に意味はなく、あくまでも芝居の演出に過ぎなかったんだよねえ……。
 谷せんせはたまにそーゆーことするよな。

 とりあえず、なんかいつもとはちがった意味で、キムがたのしいわ。
「なんか、夢みたいだねえ……」
 と、トウコファンのBe-Puちゃんとしみじみした、3月13日。
 お互い誠心誠意疲労困憊、駆け抜けたねえ(笑)。

「もう雪組初日なんだね」

 ついこの前、ここでトウコちゃんたちとお別れしたんだ。あれからたった数日で、もう別の公演が幕を開ける。
 それがタカラヅカだとわかっているが、なんとなく不思議な感じ。
 雨が降るのは、水くんの初日のお約束。みんな、傘を忘れちゃダメだよ。

 月バウを観たあとBe-Puちゃんとは別れ、わたしはキティちゃんと一緒に雪組初日。友会で当たった席が、偶然前・後ろだったという(笑)。キティちゃんが前で、わたしが後ろ。
「泣いてたら、後ろからすぐわかるわね」
 と言うわたしに、
「イシダに谷でしょ? こんな演目でどーして泣くの!」
 と言っていたキティちゃんは、案の定、芝居で泣いていた。……や、ほんとにピュアでいい人だ。

 関東在住のはずなのに、どーしてこうも毎週というか週1以上の頻度で会っているのか不思議なジュンタン、「仕事で初日は行けない」とずーーっと言っていたわりに、やっぱり初日にムラにいる気合いのnanaタンとも合流し、なんてにぎやか。

 てゆーか、ごめんよnanaタン。「ゆみこちゃん、プログラムのスチール失敗してる!」て熱弁ふるってたのに、めっちゃ素で「どこが? いつものゆみこじゃん?」って言っちゃって。
 あんまり前もって「失敗!」って吹き込まれてもったいつけられて、期待?させられたあと、じゃじゃーん!と見るに至ったので、その反動もあったと思う。
 ふつーのゆみこに見えたけどなあ。ピュアファンじゃないからわかんないよなあ。
 
 
 でもって、さくっと感想。

 イシダ作ナンチャッテ日本物ショー、『風の錦絵』

 劇場に入り、まず花道にのぼりが立っている(描かれている)ことにテンションが上がる。
 それらしく書いてあるけど内容的には「春一番」とか「春風秋風」とか、風絡みの言葉をてきとーに並べてあるだけ。……なんだけど、芝居小屋風にのぼりが立っていると、わくわくする(笑)。

 そして、幕開きの着流しゴレンジャーのかっこよさにハクハクし、岡っ引きとなみちゃんの可愛さにヤられた(笑)。
 上手端でめろめろになって、周囲から止められているとなみちゃんが可愛すぎる。

 ゆみこちゃんの青天+着流しは似合いすぎる(笑)。
 てゆーか、ミエコ先生が登場するまで、出演していることを忘れていた。あれ、だってオープニングいなかったよねえ?

 でもって、トドロキの美しさに、瞠目した。

 化けモンやわ、あれは……。
 ものごっつー美しい。
 謙信@トドロキに、信玄@水って……。トドVS水って……。
 なんなのこの容赦ない美しさ。かっこよさ。彼らが引き連れている男たちもかっこいいしっ。

 てゆーか、トドロキが登場するまで、出演していることを忘れていた。あれ、だってオープニングいなかったよねえ?

 この風林火山だけでも、わたし的には「来て良かったっ」だわ。
 しかし、謙信と信玄、Wキャストにしてくんないかなー。逆も見たいよー。トド信玄(ヒゲ)と水しぇん美麗謙信……。

 キムとなで1場面、てのはおどろいた。2番手ゆみこがミエコせんせーの相手役だから、順番的にはこれでおかしくないとはいえ、トップ娘役の相手役かー。や、キムはその昔、まーちゃんの相手役もやってたから、今回がはじめてではないけれども。
 つか、キムとな好き。おいしくいただきます。

 猫ちゃん登場にはおどろいた。こーゆーことをするのはサイトーだけだと思っていたので。幕間に、「演出助手にサイトーがいる!」という話になり……というか、みんな「サイトーが関わっているはずだ」と決めつけて探しただろう(笑)。
 でもほんとにサイトー単独演出なら、猫ちゃんの衣装、もっとかわいかったと思うんだ。あの衣装、なんかハンパぢゃね?
 みなこちゃんの猫が意外に可愛くてびっくり(失礼な)。つか、猫顔なんだね、違和感なし。

 小坊主ロケットは、前もってnanaタンが「オープニングがゴレンジャーで、ハゲヅラで『山寺の和尚さん』で小坊主ロケットでセンターがヲヅキで」と、とにかくいろいろいろいろ観る前から教えてくれるので(笑)、それほどインパクトなし。
 ああ、ホントにやったなあ、ぐらい。
 やっぱイシダ的に、おてもやんは絶対登場しなきゃいかんのか……。
 そしてイシダにとってのヲヅキは、短パン穿いてジャイアンな小学生@『青い鳥を捜して』から変化していないのかもしれない……。

 三味線でじょんがらロックを奏でられると、血が沸き立つのを感じるのは、三つ子の魂っつーか、子どもの頃に『銀河烈風バクシンガー』で刷り込まれたせいかもしれん。土方歳三萌えはそっからはじまったよなー(遠い目)。
 刷り込みと言えば、「ソーラン」はすでにワタさんの持ちネタ……というか、わたしの中でカタチが出来上がっているので、「なにもまたソーランにしなくても、他にかっこいい民謡はいくらでもあるだろうに……」と、ちょっと寂しくなった。
 同じイシダ作品とはいえ、セルフコピーというか、初演を超えられないというか。別切り口なのはわかるし、先入観を持つ方が悪いのも自覚しているけれど、わざわざよりによってそんな先入観のあるものをやってくれなくていいのに、とモニョモニョ。
 や、それも最初だけ、もう頭を切り換えて楽しむけどさっ。

 でもって出演者全員での中詰めだー、にぎやかでかっこよくていいなあ、と思っていたら、幕が下りたので、びっくりした。

 中詰めだと信じていたよ。
 終わりなんかい。
 

 えー、ナンチャッテ日本物ショーなので、アトラクションみたいでいいのかも。
 日本物ショーらしい幽玄さだの静謐さなどはまーーったくないが、単純に差し出されるモノにわくわくしているうちに終了する。

 終わってみれば、トドとミエコせんせの出番の少なさにびっくりするし。
 どちらも派手に場と時間を与えられてどーんと登場しているんだが、要になる場面に登場しないと、全体としての印象は、あくまでも「ゲスト」になるんだな。

 そして、実はひそかに、ミエコせんせが笑顔で踊っていたことにおどろいているのだ……。
 表情のあるミエコせんせって……すすすすげー。
うつくしい世界で。@星組千秋楽
 9人の退団者を迎えた蘭のアーチに、光がともる。

 歓声。

 蘭の花で飾られたオープンカーが現れる。

 歓声。

 儀式はまちがいなく、クライマックスに入っていた。
 もう何度となく見送ってきた、サヨナラの光景。
 伝統に守られ、伝統を守り、受け継がれてきた儀式。
 白い服に身を包んだ人々、彼らの作る道の外側で遠く見守る一般ファン。

 パレードがはじまる前に、人員整理をしている劇場スタッフと話した。
 今年から警備に関して警察の締め付けがきつくなったこと。なにか問題が起これば今後、サヨナラパレードは行われなくなること。
「そんなの嫌です、パレードは続けてください」
 と即座に言うわたしと友人たちに対し、劇場スタッフもまた、即答した。
「私たちも、なくしたくありません」
 だからこそ、こうやって何時間も立ち働いて、声を枯らして人波を誘導しているのだと。

 パレードが終わったあと、仕事帰りに駆けつけ、花の道から眺めていたnanaタンと合流した。nanaタンは言う。
「兵庫県警すごいよ、退団者が出てきたら、ガードと一緒にしゃがむんだよ? こんなの他ではありえない」

 いくつもの想い、いくつもの年月が重なって、淘汰され盛り上げられ、たどり着いた究極の形が、このパレードなんだ。

 退団者FCのために何時間も場所取りしている在団組子FCの人たち、何時間も待ち続ける一般ファンの人たち、どれほどの強い想いが重なって、この場が継続されているのか。

 伝統、とひとことに言ってしまっても、それが伝統たりえるには、たくさんの奇跡が重なっている。

 ただもう、美しい、と思う。

 日本の花相場が動くほどの、馬鹿げたほどの花の使い方も。
 何時間も、その一瞬のためだけに努力しつづける人々も。

 なんの生産性もない行動だけど、ひとの想いが集結したこの場を、この瞬間を、とてもつなく美しいものだと思う。

 その美しい場所に、美しい人が現れる。

 トウコちゃんは、トウコちゃんの小さな身体が隠れてしまうほどの大きな花を持って、現れた。
 上がる悲鳴のような歓声。
 拍手と、声。名を呼ぶ声、愛を、感謝を叫ぶ声。

 トウコちゃんは笑顔でゆっくり歩き、そして何故か、ガードに混ざっているトウコ父を無視した。
 他の退団者が一様に、ガードにまざっているトウコ父を見て激しく反応したので、実の娘であるトウコちゃんはどれほどかわいい反応をするのかと期待していたのに……見事に、スルーした。
 わざとだよね? わざと、知らんぷりしたよねえ??(笑)
 なんかもー、らしくって、笑える。

 花盾はもちろん、純白の蘭。オープンカーを飾る花も、純白の蘭。
 安蘭けいの、蘭。

 ……その名前をわたしが知ったのは、もう10年以上まえの新公だった。77期のある娘役さんにチケットを取っていただいて、坐った席の隣にいる人たちが、みんな「安蘭けい」と書かれたチケット袋を持っていた。
 ああ、そんな名前の人がいたなあ、首席入団の人だっけ。
 最初はほんと、その程度の認識だった。
 そして、名前でなく、舞台上での姿を認識した、わたし的には伝説の『風と共に去りぬ』新人公演。

 そこからはじまって、「そんな人」は確実な認識のもと、とてもとても大切な人になった。
 雪組時代の快進撃、雪組3兄弟、まさかの組替え、星組でいきなりバウ主演の五右衛門様、組内2番手、正式2番手。
 ケロとの再会、アイーダ、小次郎、いろんな役を経て、トップ就任へ。
 雪組下級生時代を知るものからしたら、ありえないほどの遠回り、長い道のりで。
 でも、だからこそ、これほど長い間、舞台人「安蘭けい」を見ていられた。

 なつかしい人。

 今、目の前にしていてなお、強く思う。
 なつかしい人。
 わたしのヅカファン人生の大半に、関わっている人。

 これから何度でも、思い出すんだろう。

「あのころは、安蘭けいがいた」

 ずっとずっと。

 
 とりたててパフォーマンスもなく、今まで見送ってきた多くのスターさんと同じように、トウコちゃんは花道を歩き、報道席前で立ち止まってリクエストに応え、オープンカーに乗って、去っていった。

 時間にして、ほんのわずか。

 アーチの奥から現れて、車に乗って去ってゆくまで。

 笑って、手を振って。
 歓声を浴びて。
 光を浴びて。

 伝統の、これまで通りの、そしてこれからも続く、長く長く続くタカラヅカという夢の、星のひとつとして。
 トウコちゃんもまた、紡いでいった。

 規則正しく、見送る人々。
 涙し、声を上げながらも、決して場を乱したりスタンドプレイしたりしない。混乱して事故を起こして、パレードが以後開催できなくしてしまったりは、絶対しない。
 どれほど今、哀しくても。
 別れが耐え難くて、近くへ行きたいとしても。
 与えられた場所で、精一杯見送る。愛を叫ぶ。

 こうして、続いていく。
 夢の花園タカラヅカは、続いていく。

 見送るわたしたちも、たしかに伝統の一部であり、それを守るモノなのだろう。
 点ではなく、線なんだ。
 約束を守ることで、これからも今までと同じことが出来るように、未来へつなげていく。

 安蘭けいと出会えた場所を、護り続ける。

 男役・安蘭けいがいた場所を、護り続ける。

 タカラヅカがこれからも意味ある場所であることが、巣立っていく人々を押し上げる力になるだろう。

 てゆーかもー、ただただ、別れが寂しい。
 あっという間に終わってしまう、パレードの光が愛しくて、哀しい。

 トウコちゃんはいつだってタカラヅカにいてくれたんだから、いなくなるなんて想像つかないってばよ。
 別れがあること、今がその機会であり、他にはありえないのだと、理解していても。

 長かったから。
 ほんとうにずっと、価値ある舞台を見せ続けてくれたから。

 
 美しいなあ。
 トウコちゃんも、彼女を飾る蘭の花も、彼女を見送る白い服の人たちも。力を振り絞る各会の人たちも劇場スタッフも、警察の人たちも。

 世界が美しくて、せつなくて、しあわせだ。

 こんなに大好きでいられて、しあわせだ。

 トウコちゃんも、これからもっともっと、しあわせでありますように。
 あすかちゃんは、どんどんかわいくなる。
 彼女を最初に認識したのは、阪急のお正月ポスターだ。研1の将来有望な子がたったひとりだけ選ばれて、阪急沿線すべてに振り袖写真が張り出される。(男役と娘役が毎年交互に選ばれるので、男役の年だったら、選ばれたのはキムだろうなと)

 そのポスターを見た限りでは、特別「こ、これは……っ」と感嘆するような美少女ではなかった。
 タカラジェンヌはふつーのアイドルのようなビジュアルでない場合が多いので、まあジェンヌ的にふつー? くらいの感覚。
 今ちょっくらそのポスターと同じ写真を使っている99年1月1日号の「TOKK」引っ張り出して来たんだが、わ、若い……(笑)。たしかにかわいい。テレビアイドル的美貌ではないけど、十分ポスターにしてヨシな容姿。
 しかし、ポスター写真はイイとして、本文内にある素顔写真がなかなかショッキング(笑)。もっとマシな写真使ってやれよ、阪急……。

 そこからスタートして、かわいく見えたりちょっと反応に困る容姿に思えたり(『琥珀色…』の頃が最強)、いろいろいろいろ印象を変えながら、いつの間にかあすかちゃんは絶世の美女になっていた。

 タカラヅカ・ヒロインの資質はいろいろあるが、絶対譲れない条件のひとつとして、「高い女」というのが、ある。

 清純で儚げで高貴、という「高さ」もあるし、高慢な鉄の女という「高さ」もある。つまり、そのへんにいくらでもいる、ふつーの女の子じゃだめなんだ。現代のチャラ男がへらへら口説けるよーな女じゃだめ。
 プリンセスであろうと娼婦であろうと、ふつーの男から「高嶺の花」と崇め奉られる系の「高い女」でなくてはならない。

 あすかちゃんの得意分野は「女優」。
 下っ端の売れない女優ではなくて、「大女優」。たとえそれが過去のモノであってもとにかく間違いなく「高い女」だった。ふつーの男じゃ、臆して近寄ることもできやしねえ。

 10年前の阪急ポスターで「ふつー?」と思った、ただ若いだけの女の子が、時を経てさまざまな経験だの回り道だのこなして、まぎれもない「高さ」を持ち、「絶世の美女という表現が遜色ない」ジェンヌになった。

 袴姿でにこにこ笑いながら、あちこちに何度もお辞儀をしながら歩くあすかちゃんを見て、いろんなことを思い出していた。

 わたしが「遠野あすか」に出会って10年間。彼女の「芝居」が好きで、「できる子だ」という思い込みから、勝手に期待してがっかりしたり、やっぱり惚れ直したり、もーいろいろあった。
 それでも、「あすかが、トウコの相手役になる」と思ったとき、うれしくてマジ泣きした。涙が出るとは、自分でも思ってなかった。

 あすかがいたからわたしは、『琥珀色の雨にぬれて』新公を見ることが出来た。あすか目当てで行ったんだもん。そのときはまーーったく興味なかったまっつの色男役を、興味ないなりにナマで見られた、のはあすかのおかげ。
 観劇意欲になる役者、であり続けてくれた、遠野あすかのおかげで、いろんな作品に、そしてジェンヌに出会えた。

 別れの寂しさと、感謝の気持ちがごちゃまぜになって、口からはただ「かわいい」という言葉しか出なかった。
 拍手しながら、「かわいい、かわいい」とだけ口走る。周囲の人も、みんな似たよーなもんだが。
 や、だって、かわいいもの!!

 女優役者である迫力とか美貌とかより、小動物のようなちょこんとしたかわいさだった。
 くりっとした目で、両手で大きな花を持って。

 前楽の前日、貸切公演を観ながらふと、思ったんだ。
 遠野あすかはきっと、女優業を続けるだろう。これほどの役者が、天職を捨てることはありえない。
 彼女の卒業後の予定がどーなっているかなんて知る余地もないが、それだけはなんの疑問も不安もなく、思い込んでいたので、イイ。
 突然思ったのは、あすかがトウコと恋愛する役を見られるのは、これが最後なんだ。ということ。

 トウコだって役者を続けるわけだから、このふたりが今後同じ舞台に立つ未来だって、あるだろう。そこで火花散る演技合戦を見せてくれるかもしれない。
 それについては、なんの不安もない。そんな未来を、楽しみにしていられる。

 ただ。

 あすかとトウコが、「恋」を演じることは、もうないんだ。

 トウコちゃんは女になってしまうから、あすかとは友人とか恋敵とかを演じることはあっても、もう恋人や夫婦は演じられない。
 ……そのことが、とてつもない損失に思えた。

 このふたりの、火花散る「恋」の演技を、見たかったんだよ。
 「愛」だけではない、「憎」や「怨」の演技すら。

 退団は、それを失ってしまうことなんだ、と、今さらながらに気づき、愕然とした。

 タカラヅカという異世界で、花園で、「遠野あすか」で見たかったモノが、たくさんある。
 まだ足りない。
 足りないよ。

 袴姿で、ライトと報道陣のフラッシュの中で、きらきらきらきら輝くあすかちゃんを見て、ほんと、今さら思う。

 覚悟を決めて澄ましていたのに、コトの間際でみっともなくあがく人みたいに、「トウコLOVE」車で去っていく姿を見ながら、痛烈に後悔した。
 や、後悔したからどうなるものでもないのに。

 行かないで。
 まだ、足りない。

 あなたの描く「女性」を、もっと見せて。
 タカラヅカ・トップスター退団日には、日本の花相場が動く。

 昔、テレビで聞いたこのフレーズを、実際に目にするおどろき。
 退団者パレードのために作られた生花アーチはなんと、だった。

 薔薇のアーチは定番だった。や、それでも十分すごいし、ヅカ以外でお目にかかったことないけど。
 薔薇でもすごいのに、蘭って……。

 複数作られた純白の蘭のアーチ。あれひとつ作るだけで、いったいいくらかかるんだろう……。貧乏人には想像できん。

 そのアーチをくぐって、退団者たちが袴姿で現れる。

 退団者はみな、透明な光を放つ。
 不思議なんだけど、退団者オーラとしか言い様のないすがすがしい光を放ち、一種人間離れした美しさを持つ。

 
 最初に登場するのは、まひろ。

 かわいらしいアイドル系の顔立ちに、最後はきりりとリーゼントを作って。

 前楽の、組長による退団者紹介、ひとりめがまひろで、おどろいた。
 まひろしゅんくんは、わたしにとって十二分に「スター」なので、たとえ退団する日が来ても、まずは下級生の紹介があってから何番目かにまひろになる、というイメージがあった。
 そうだ、今回の10名の退団者のなかで、まひろがいちばんの下級生なんだ。それくらい、上級生がたくさん辞めるんだ。

 最初に現れるのが、まひろ。
 そのことがすでに、痛みを持つ。

 この子の「おもしろさ」は、モブにはなかった。重要な役をしたときに発散されるオーラは半端なかった。
 大劇場でモブしかさせてもらえないまま退団は、もったいない。芝居の中心人物を演じる彼を、もっと見たかった。

 
 次が、一輝慎くん。大きな瞳の美人さん。
 つか、いつもやる気に満ちあふれた舞台っぶりで、なにがどうあれ「ここにいる!」と訴えかけてくれていた。
 目線もらって(もちろんカンチガイ目線)幕間に「あの子誰!」とkineさんとプログラムめくったのがつい昨日のことのようだ。

 瞳をきらきらさせつつも、なんかすたすたと現れて、すたすた報道席に挨拶、すたすた車に乗り込んで去っていった。
 うわ、なんて潔い。最後までオトコマエだな。

 
 そして、和くん。
 ほんとにきれいな子だ……。某NHKドラマで見初めて以来、まったり眺めてきた。まるまるしていた下級生時代を経て、『ファントム』新公の熱演っぷり、客席を熱狂させた『炎にくちづけを』新公は、強く記憶に残っている。
 星組にやってきてヘタレ美形くんポジを確立、ここからヒーローへとさらに成長していくんだろうと思っていた矢先だから、残念でならない。

 袴姿もきれいで、品があって、だけどなーんか視線がせわしなくて、かわいくて仕方がない。

 
 はい、ここでちょっとアクシデント。
 最後の退団者パレードは、まず退団者の乗る車が報道席前に停車し、そのあとで退団者が現れる。
 だから、和くんが行ってしまったあと、次の車が定位置にスタンバイするのは当然……なんだが、スタンバイしていた車が、わたわたと門を出て行った。
 え、なんで?
 車を、まちがえたの? でも、停まっていた車、退団者仕様に飾り付けられてたよ? ナンバープレートにハートついてたし?

 退団者を待つはずの車が、カラのまま発車したのを見たのは、はじめて。

 なにごともになかったかのように、次の車がやってきて、パレード再開。

 あ、このへんからだっけ?
 前楽の出でもアイドル(笑)と化していたトウコパパがガードにまざったのは。
 ふつーにトウコ会最前列でしゃがんだトウコパパは、彼に気づいた退団者たちからリアクションもらって、すげーオイシイことになっていた(笑)。

  
 次はエレナ嬢。
 星組名物、エレナ嬢。
 組長の紹介で、舞台姿とは正反対のヤマトナデシコなお嬢さんだと言っていたが、それを納得させるよーなはんなりとした姿だった。

 
「あたしさー、実はかつきちゃんのカオ好き」
「あたしも。きれいだよねー」
 と、パレード見送りながら、今さら告白しあってみる、わたしとジュンタン。わたしは当日抽選はずれたし、ジュンタンは遅刻して並べなかった(笑)ので、1日一緒にだらだらしていた。
 かつきちゃんを最初に個別認識したのは、Myダーリン・ケロちゃんのDSだった。
 ケロを盛り上げてくれた4人のお嬢さんたち、またひとり花園をあとにしてしまうのか……。

 ぱっと目を引く美しさ、花のようなお嬢さんだ、かつきちゃん。
 報道陣のライトやフラッシュ浴びて、まけじと輝いていた。

 
 で。
「次? 次、だよね?」
 と、走る緊張。

 順番からして、次。

 しいちゃん。

 なんかフェイントかけられたのかな。現れる、と一旦盛り上がって、でもじつはまだで、みんなではううと息を抜いた。
 その直後に、拍手が遠く聞こえ、しいちゃん登場だ。

 意外なことに、花は赤だった。
 大きな花盾なんだけど、なにしろしいちゃんだから、負けていない。

 大きな笑顔。
 きらきらの笑顔。

 黒紋付きに袴姿で、花持って歩いていて、だからどう考えたって退団パレードなんだけど……。

 なんだかいまいち、信じられなくて。

 退団、しちゃうの? しいちゃん。
 しいちゃんなのに?

 わたしたちの前にはもちろんトウコ会の人たちが何十人と整列してしゃがんでいるのだけど、彼らかも歓声が上がるんだ。
 愛されてるね、しいちゃん。

 
 ますちんは落ち着きなく、なんかかわいらしい姿を見せてくれた。
 どんな人なのか、舞台でしか知らないわけだから、なんだか意外だ。いやその、姿は舞台と同じ、落ち着いた大人の男(笑)なんだけどなー。

 
 でもってきんさんがもー、かわいすぎ。
 跳ねるようなじっとしていないキャラクタ。かわいいなあこの人、存在に愛情が、ひろがるものが見えている。

 
 そしてついに、トップふたりの順番になる。

 さっき一度お目見えして、すぐに空っぽのまま出て行った車が、再び駐車場から出てきた。
 あすかの車だったんだ!

「たぶん、学年順に駐車してあったんだよ」
 と、ジュンタン。
 タカラヅカは学年順。すべてにおいて。だから、ついあすかの車もふつーに学年順にスタンバイしてあって、トップはあとの登場だから、いったん外へ出して入れ替えなければならなかったのだ、と推察。

 ナンバープレートにハートのシールが付いているのはいいんだが、数字をひとつ隠しちゃってるのは、いいのか? 私有地内ならいいのかな。でもなんで、そんなややこしいことを? シールなんかどこに貼ってもいいだろうに。

 と、首を傾げるわたしの横で。

「トウコ、ラブ」

 ジュンタンが、ナンバープレートの謎を解いてくれた。
 ナンバーは「10-5(はぁとシール)」で……10=トウ、5=コ、はぁと=ラブか!!

 ナンバープレート隠してまで、トウコLOVE?! あすかすげえ!! 最後の最後まで、貫き通すか!!

 一気にテンション上がった(笑)。
 朝から当日券抽選に行ったのですが、案の定はずれました。
 データとして残しておくと、

 前楽 座席券55枚、立見券140枚、並んだ人数1100人ほど。
 大楽 座席券42枚 立見券100枚、エスプリ220枚、並んだ人数1500人ほど。

 前楽のときは、思いの外立見枚数が多かったし、日曜日でこの人数なら、年度末である3月の月曜日に会社を休めない社会人が山ほどいるだろう大楽は、並ぶことの出来る人が限られてくるだろうし、千秋楽の入り、という大行事がある以上、会でのお務めをする人たちは抽選には参加できないから、それほど人数は増えないんじゃないか、抽選倍率はマシになるんじゃないかとか思ったのね。
 同じような条件だった、宙組かしちゃんのサヨナラ楽の当日券に並んだ人がすげー少なかったことも記憶にあるし。かしちゃんは12月の平日が楽で、土日しか休めない就業体制の人は参加しにくい日程だったのよね。

 でもやっぱ、最後の最後だもん、みんな来るよねー。立見もマスコミの分減らされてるしねー。
 前楽と同じくらいの時間に着くように行ったんだけど、並び位置ははるか後方、劇場の3階まで連れて行かれました(前楽は2階だった)。締め切り時間の15分前くらいに行ったんだけどね。……ワタさんのときは1階に並んだと思うんだが、あれはもっと早く行ってたからかな。
 しかし阪急電車で宝塚へ行こうとすると、日曜より平日の方がさらに不便なんだねー。前もって時刻表の検索しておくんだけど、日曜より早く家を出ないと、同じ時間にたどり着けないことがわかった。
 しかも、途中までは通勤ラッシュだし(笑)。通勤ラッシュに揉まれるのなんか、何年ぶりだろう……遠い目。

 抽選が済んだあと、その足で楽屋口へ向かう。
 しいちゃんの入りが済んでしまったことは残念でならないけれど、トウコちゃんはまだ間に合う。てゆーか、抽選に当たると、入りは見られないようにできてるんだよな。二兎を追う者は一兔をも得ず。

 花の道はギャラリーてんこ盛り。
 だけどまあなんとか、楽屋口が見えるところに混ざる。

 でもって。

 …………今回のトウコちゃんの入りのお出迎え、なにか不備があったんだろーか?
 最近ではわたし、たかちゃん、ワタさん、コムちゃん、かしちゃん、オサ様と大楽の入りを眺めて来ているんだが、トップスターが到着して、車から降りて来るときに、組子たちがお出迎えスタンバイをしていないのを、はじめて見た。

 えー、通常というか、上記のスターさんの場合、まずなにかしら仮装したり衣装を付けた組子たちがまず楽屋口に勢揃いし、トップ会ガードやギャラリーたちに黄色い歓声をあびる。
 ナニかしてくれるんだ! でもってもうじきトップさんが到着するんだ! という期待感で盛り上がる。

 コムちゃんのときは、尻ポケットに無造作に突っ込んである携帯を取り出し、水先輩がいろいろ打ち合わせしつつ、組子たちに指示を出す姿が超オトコマエだったっけ。
 や、その姿が生真面目で、いかにも「使命感に燃えた男子」で。

 記憶にある限りそーゆーもんだったから、組子たちが出てこない以上、トウコちゃんはまだまだ来ないなー、と思っていたら、いきなり現れて、おどろいた。

 で、トウコちゃんは自分で歩いてガードの端まで行き、自分で歩いてガードの中央にある花道を通り、楽屋口へたどり着いた……ころに、楽屋入口前に組子たちが勢揃いしていた。
 トウコちゃんが歩いているときに、わたわた出てきて、あわてて整列していたの。

 で、トップ退団大楽入り恒例の、手作り御輿……つーか、台車? みたいなものに、トウコちゃんを乗せた……んだけど、結局ちょっと乗って動いただけで、すぐに楽屋入口へ戻ってきた。時間がない?
 整列した組子たちは、トウコちゃんのための替え歌を歌っていた。「ギャグセンス抜群のトウコさん」とかなんとか、誉め称える歌の第一声がソレでウケた(笑)。いやそのふつー、美貌とか歌唱力とか通常のスキルから誉めないか?

 せっかく御輿も作っていたのに、ほとんど使わないままってのはやっぱ、トウコちゃんの到着時刻が、予定より早くなったとか、そんな感じかな? 組子のスタンバイが間に合わなかったっぽい?
 ほんとなら先に組子が整列し、御輿も用意して、車を降りたトウコちゃんが御輿に乗ってガード中央の花道を行進したんじゃないだろうかと想像。そして、その間に組子たちが歌を歌う、と。
 や、他トップさんはみんなそうだったから。

 時計を見ると、トウコちゃんが楽屋へ完全に入ってしまったときで10時だったので、やっぱ過去の例からも早めだったよーな? 今まで大抵10時入りだったような記憶があるんだが。

 もちろん、トウコちゃんがひとりで到着して、ひとりでファンの人たちの間を歩きたい、と希望したためかもしれないが。
 その希望を尊重して、組子たちはトウコちゃんが入口に到着する頃を見計らって出てきたのかもしれない。

 てなわけで、対組子とのパフォーマンスは少なめ。
 ただ、終始トウコちゃんはにこにこ笑っていたと思う。

 
 さて、そっから先が、長い(笑)。
 これまた近隣過去の5人のトップさんを見送った記憶があるので、トップスターが袴姿で花道を歩き、オープンカーに乗ってサヨナラするのは午後8時過ぎ、と記憶している。
 今、午前10時。……午後8時まで、どうしよう?

 でもって、たかちゃんを見送ったとき、昼からずーーーーっと場所取りしていた経験上、「コツさえわかれば、場所取りはしてもしなくても同じ」だと身に染みている。
 あのときは7時間場所取りしたんだっけ? 見知らぬおばさまにサンドイッチごちそうになったりしながら(笑)。

 でも、そうまでして取った場所と、公演をカテコまでしつこく観た上で劇場から出たときと、大して変わらない場所でお見送りが出来る、ことに気づいてしまったので、もう場所取りはやらない。
 当日の昼からじゃ、やっても無意味。前日とか始発前からやるなら意味があるかもしんないけど。

 つーことで、1駅くらい離れた飲食店で、友人たちとだらだら過ごす。や、宝塚近辺は午前10時くらいはどこも満席で入れなかったの。

 午前10時半から、午後5時までいたかな、その店に(笑)。なんて迷惑な。でも、ずっといたのはわたしくらいで、あとはメンバーが入れ替わり立ち替わりしていたので、オーダーはそれほど途切れてないはず。

 楽を観劇している友人から、速報メールもらったりしながら、まったりと。
 そうか、楽の芝居は前楽ほどぐだぐだではなかったのか(笑)。

 某ファミレスだったので広い店内は適度にガラガラ、隅っこのわたしたちは放置されている感が気楽だった。しかし会計のときは恥ずかしかったわ……わたしひとり、モーニング定食の料金払ってんだもん、夕方の5時過ぎに(笑)。

 んで、小雨の中、6時前に劇場到着。
 狙い通りの場所で、パレードを待つ。

 涙雨かぁ。とか、ありきたりなことを思う。
 『My dear New Orleans』前楽。
 なんかもー、すごいことになってました。

 男たち、総崩れ。

 いちばんひどいのは、もちろんジョイ@トウコ。
 なんかもー、あちこち泣いてるし、クライマックスは泣き通し。
 いやあの、そこで泣いてるのはジョイではなく、トウコでしょ? ジョイという男ならば、そこで泣くことはないよね?
 別れに泣くまではいいけど、その周辺でも泣きっぱしってゆーのはさすがに、キャラクタを超えているよね、もうジョイじゃないよね?

 そして、えらいこっちゃなレニー@れおん。
 年齢がぐっとさがり、駄々っ子になってます。なんなのこのセンシティヴなセブンティーンは? つか、中2病真っ直中なイタさは?
 そこにいるのはレニーじゃなく、れおん自身。テンパっちゃってもー、ぐだぐだ。

 でもってさらに、アンダーソン@しいちゃん。
 あああ、そこに「しいちゃん」がいる~~!!(笑)
 顔だけはね、すげーがんばって「アンダーソン」なのよ。表情だけはかろうじて作ってるんだけど、あとがもお「しいちゃん」なの。
 にじみ出る、いい人オーラ。「手をさしのべてあげたい」「助けたい」って彼の大きな身体の周囲にもやもやとオーラが出てるの。
 クールな台詞を吐きながら、無表情を作りながら、「助けてあーげーたーいー」「やさしくしーたーいー」って、背後にエクトプラズマしいちゃんがいて、アタマの上に心の声の活字が見えるの。

 ちょっと待て。
 主要人物3人が役を離れて「自分自身」でいるって、どうなのよ?

 おもしろいじゃないか。

 幕間にkineさんジュンタンと大ウケしてました。
 男たちぐだぐだ。すでに演技してない。

 それでも、ちゃんと台詞言って演技している彼らはすごいと思うし、「ドーランって、あんだけ泣き続けてもはげないもんなんだ」と感心してみたり。

 演技っていうのは、芝居っていうのは、不思議なものだな。
 ちゃんと台詞言って、規定通りの表情してみせてたって、そのときそのときで「チガウ」ことが、観客にわかってしまう。

 
 星組公演、最後の3日間はムラへ通い詰め。チケットは1枚も持ってなかったが、とにかく行く。で、貸切×2と前楽とを観る。
 貸切は立見ではなく、あくまでも座席にこだわる。

 サイン色紙が欲しかったんだもの!!

 サイン色紙は座席券を持っている人しか、当たらない。だから立見は不可、トウコちゃんのサイン色紙が当たるかもしれない最後のチャンス、なにがなんでも貸切で、座席券よお。

 幕間、半券握りしめて抽選結果を待ちましたよ。

 もちろん、はずれました。

 指をくわえて、商品引き換えテーブルを眺めた……。
 わたし、「毎公演100人以上に当たる」というこのサイン色紙抽選すら、当たったことナイ……当たったのは唯一、ナツメさんのフェルゼン色紙のみ。てソレ何年前だよ、それ以来一度も当たらないってどんだけ。ナツメさん興味なくて、知らない人に色紙右から左へあげちゃったしな……。
 いやその、実は去年の『AQUA5ライブ(バウホール)』チケットは当たったんですがね(ひろみちゃんのトーク&抽選の日だった。当日B席を当ててくれてありがとう!)、nanaタンに譲っちゃったしさー。結局自分ではなにも当たってないのと同じで。
 ほんとにくじ運ないっす……。

 前楽の抽選? もちろん、はずれましたよ。わたしのくじ運で当たるわけないじゃん。
 ただ、kineさんとジュンタンはしっかり当たり、kineさんの引いた神番号はジュンタンへ、ジュンタンの引いたそこそこ番号をわたしに譲ってもらえて、無事立見できました。立見慣れてるから、そこそこ番号でもいちばんいい場所GETできたってばよ(笑)。人生七転び八起き、つか、いつも崖っぷち。

 サヨナラショーまでの時間待ち中に、組長さんがカーテン前で退団者の紹介をしていたんだけど、トウコちゃんの紹介が、「元気を通り越して絶好調、図に乗りすぎるなよ、と釘を刺している状態」とかなんとかだったのね。
 図に乗る? えーと、どうやって?
 『My dear New Orleans』で泣き通していることを「図に乗る」とは言わないだろうし、全編サヨナラショーな『ア ビヤント』で図に乗るのもチガウだろうし……と、首を傾げていたら。

 前楽のサヨナラショーで、わかった。

 妖しいまでに美しいグラパン!!

 わざわざ2曲も前から姿を消して、他退団者たちに「妖しいまでに美しいオマエ」と歌わせておいて、せり上がり背中からの振り返り登場で。
 ……グラパン……。

 やりたかったのか。
 そんなに、いちばん、やりたかったのがコレか!

 ワタさんサヨナラショーでいうところの銀橋ラダメスとアイーダに相当する、衣装まで完璧に準備万端に気合い入れていちばんがんばっちゃったところ、ソレがグラパンなんだね……。
 いやその、あまりにトウコで、トホホな笑いが出ました。
 らしいから、もういいよソレで(笑)。

 たしかにコレは「図に乗るな」と注意入るわなー(笑)。GO!GO!トウコ!!

 トウコちゃんは「スター」である時代が半端なく長かった人だから、名曲・想い出の曲がありすぎて大変だと思った。
 トップになってからの作品と、各主演作だけで手一杯、そこにはずせない「ブルース・レクイエム」入れたり、あすかとの接点曲入れたり、さらに退団者の見せ場入れたらいっぱいいっぱいだ。
 わかっちゃいるけど、「あの曲が入ってない」「あれも聴きたかった」と欲はつのるばかり。ワタさん時代の曲が聴きたかったのよ~~、『ドルチェ・ヴィータ!』~~!!

 しいちゃんがまるで2番手さんのよーに、あすか嬢とボレロ踊っちゃったり、テンション上がりきったまま、「うわーうわー」って思ってるまま、終了してしまった……。

 退団者も多いし、残る組子の出番まで回らなかったんだよなあ、時間その他。
 トウコの歌は山ほどあるわ、あすかちゃんとのゴールデン・コンビ退団だわ、スタークラス、上級生の退団者てんこ盛りだわで、なにもかも濃い。
 サヨナラ・ショーだけで1時間別物作ってくれてもいいよ、ってくらい。
 あー、そういやまひろ、登場するなりコケかけて、素で笑っててかわいかったなあ。

 「星を継ぐ者」を歌うのがれおんてのがまたすごいよな、当時この歌をトウコが歌うことであーだこーだあったなとか、ほんとに「星を継ぐ者」が歌う曲なんだとか思いつつも、トウコちゃんがどっかの寿美礼サマのよーに銀橋を上手から客席へ赤い薔薇を投げていて、最初は細かく1本ずつでそんなペースでまき終わるのかと危惧していたら、やはり最後の下手ではどっかの寿美礼サマのよーに残り全部ばらまいて終了して、「……77期クオリティ?」と首を傾げるハメになっていたり。

 なんかもお、なにもかも嘘みたいだ。

 トウコの、あのトウコのサヨナラ・ショーなんて。

 80周年の『風と共に去りぬ』新人公演から、丸15年。
 タカラヅカは95周年で、トウコは卒業で。

 なにもかも、夢みたいだ。
 日記が追いつかないまま、明後日が星組公演の千秋楽です。

 毎日なんでこう忙しいんだ? 感想書きたいことはいろいろあるのに、まとまった時間とモチベーションが保てない。
 しいちゃんお茶会もまだなんにも書いてないし、トウコちゃんのことあすかちゃんのこと、あとゆーひくんのこととか、書きたいのにー。それから、公演の腐った話も書きたいのにー(笑)。OG公演も、『愛と青春の宝塚』とか『マルグリット』とか観には行ってるのに、とにかく書く時間が……っ。

 油断しているうちにHDDがいっぱいだから、整理しないとまっつ『Brilliant Dreams』がっ、そしてまっつ新公が録画できねえ!! 明日じゃん、放送。
 ドラマ・ヲタクでもあるので、今期ドラマも消化しないと、ぼやぼやしてたらみんな最終回になっちゃうわ!

 (弟が)買ったばっかの『バイオハザード5』だってプレイしたいのに。
 しかし、プレステ3で『バイオ5』、PSPでちまちま『モンハン2G』、DSでさらにマイペースに『逆裁』って、あたしどんだけカプコン・ファンなん? ふと顧みれば、3つのハードですべてカプコンのゲームをプレイ中だわ……。

 
 それでも、今は星組公演中だから。それが、いちばん動かせない芯としてあるから。
 終わってしまう、もう観られなくなってしまう、ことに、焦燥感でぐるぐる回っている。や、その場で回っているだけで、なにも建設的なことは出来ていない(笑)。

 『My dear New Orleans』、ルル@あすかの演技に泣くのはいつものことですが、今日はいきなりレニー@れおんに泣かされた。

 最愛の姉が、恋ゆえに取り乱していて、「オレだけが本当のルルを知っている」神話が音を立てて崩れ、傷心のままルルからの伝言をジョイ@トウコに告げに行くと。

 レニーの悪意のこもった別れの言葉に、ジョイは憤るでなく反発するでなく、「本気で彼女を愛していた」と、どこでもない空間を見つめながらひとりごとのようにつぶやく。
 その瞳から、ただ、涙だけがこぼれる。
 大の男が、表情すら変えず、嗚咽もなく、淡々と話しながら、ただ涙を流す。

 それを見ていたレニーが、崩れた。
「オマエって男は……馬鹿野郎!!」が、泣き声なんですが。
 や、ソコで泣いちゃいかんだろう、レニー! 泣くような男ぢゃないだろうレニー!

 だけど。
 ソコで泣き出すレニーに、泣かされた。

 ひっくり返った声を残して、一気に部屋を飛び出していくレニー。バカな男。ジョイからルルを奪い、表面的には勝ったことになっているけれど、ほんとうの意味で敗北している男。
 その敗北を、泣きながら打ち払おうとする男。

 ああ、そういうレニーもアリだなあ。
 あそこでジョイを見て、泣き出してしまう、そんなレニーも、アリだよ。愛しいよ。

 どこでもない空間を見つめながら、はらはらと涙をこぼすジョイに、もーどーしよーっ!!ってくらい、ダダ泣きしてますが。
 こんな涙を流せる男だから、全米が泣くよーなラヴソングを作っちゃうわけですよ。歌っちゃうわけですよ。
 ジョイ好きだーー!!
 バカでいろいろ欠けていて人間できてないくせに自信家で(脚本的な穴も含めて)どーしよーもない、そしてこうやって、空白の瞳で泣いてしまえるジョイが好きだ。
 つか、トウコが好きだ。

 
 ひょっとしたら、今日がMy楽だったのだろうか。
 明日、明後日と当日券の抽選に参戦します。当たればまだ観られる、はずれたら、今日が楽、か? 明日の午前公演はサバキ出るんだろーか?

 なんか今からドキドキしている。
 わたしのくじ運じゃたぶん、当たらないとは思うけど……い、いやいやいや、言霊言霊、当たる当たる、まだMy楽ぢゃないっ。

 千秋楽はたとえ観劇できなくても、お見送りだけはするんだ。

 明日お会いするみなさん、元気に幸運に、お会いしましょう。

 ……とりあえず、今晩はHDD空けないと、寝られない……。
 お茶会で、スタンディング起きてました。

 場もたけなわ……というか、後半戦に入った頃。
 話もナニもぶった切って、司会者が「お客様がいらっしゃいました」……しいちゃんも、客席も、ぽかん。

 立樹遥お茶会『My dear New Orleans/ア ビヤント』、ゲストならすでにベニーが来ていて。もう誰か来るような雰囲気はまったくなかった。
 同じホテルでお茶会やってるベニーが来るのは想定内だったが、彼以外というとわからない。見当もつかない。

 え、誰?

 しいちゃんもまったく聞いてなかったようで意外そうにしてるし、すべての人々が注目する中、後方ドアが開いた。

 トウコちゃん登場だ。

 どよめく会場。
 えええっ。
 や、だって、トップ様だよ? 下級生茶会へわざわざ現れるなんて、考えたことなかった。

 ほんとに声上がるし、拍手爆発だし、波のように立ち上がる人たち続出だし。
 てか、スタンディングかよ?!
 拍手しながら、みんな立ち上がるのかよ?!

 や、トウコちゃんが通る真ん中あたりの人たちは、わたしたちのテーブルも含め口開けたまま拍手で見送りましたが、遠いテーブルの人たちは立ち上がっていた。

 トウコちゃんはちっちゃい背中を見せて、わたしたちのテーブル横通って、ステージへ上がりました。

 ステージ上で出迎えるしいちゃん、泣き出すし。

 えーと。
 ベニーがやってきて、このお茶会の方向性決まったじゃん。
 お笑いタスキを掛けて、しんみりさせない明るいお茶会にするんだって。
 涙で別れたいわけじゃないんだ。
 それがしいちゃんの、意志であり、決断だったんじゃん。

 ゲストによって決められた方向性は、ゲストによって破られた。

 しいちゃん、泣いちゃった。

 トウコちゃん見て、泣いちゃった。
 そして、当のトウコ様は。

「ナニそれ(笑)」

 と、泣きべそしいちゃんが、大真面目に身につけている「本日の主役」タスキを見て、大笑いしていた。

 ……女王様だわ。女王様がいる!!(笑)

 泣き出したしいちゃんを見て、満足そうなんですが、トウコ様?! うわー、なにこのSプレイ!!
 お茶会でのしいちゃんは通常攻キャラで、どっちかっていうと実はやんわりS入ってる風味の人なんですが、そんな素敵な立役さんをへなへな泣かせるトップスター様ってば、なんて素敵に女王様。

 いやあ、場内大ウケ。

 トウコちゃんは実にトウコちゃんらしく、笑いを取りにいく。ひとりボケツッコミは基本、しいちゃんのツッコミなどアテにしないっ。
 うわっうわっ、はじめて見た、トウコちゃんのひとりボケツッコミ。テレビではいつも見るけど……て、そうかわたし、ナマでトウコちゃん見るの、はじめてだ?

 …………すげー長い間トウコちゃん眺めてきていて、ファンやってきたわりに、一度もナマのトウコちゃん見たことないわ。
 てゆーか一度もないまま終わるのがあたりまえだと思っていた。芸能人とそのファンって、そーゆー距離が当然だし。
 トウコちゃんは昔から、あまりに「スター」だったから。最後まで、ナマの姿を拝むことなんかできないと思い込んでいた。

 ここで、会えるなんて。
 その美しい姿を、華奢で小さな姿を、見られるなんて。
 しかも、こんなに近くで。

 しかも、投げキスするし。

 トウコちゃんの投げキス、ゴチっす!!
 いやその、帰り際にしいちゃん相手にやったんだけど。会場、黄色い悲鳴に満ちる(笑)。

 で、kineさんに聞いたところ、そのせーーっかくのトウコ姫の投げチューを、当の立樹さんは、アタマ下げていて、受け取ってないらしい。
 な、なんてしいちゃんクオリティ(笑)。

 トウコちゃんはあのぶっきらぼうな喋り(笑)でひたすら笑いを取り、しいちゃんはそれに泣き笑いで振り回される、感じに終始した。
 とくに建設的な話はしていない。
 雪組時代、トウコの役を新公でしいちゃんが演じることが何度もあったのでそのときの話を……しようとして、結局話していない。「あったあった」と公演名を挙げるだけで、そのときどんなだったとか、どんなエピソードがあったとかはナシ。
 仲良しゆえの、長いつきあいゆえのぐたぐだで終わってしまった(笑)。

 涙で別れたいわけじゃない、笑ってたのしく明るく終わろう。
 そう決心していた、男役・立樹遥を、安蘭けい様が華麗にぶっつぶす様が、愉快すぎた。

 外向きのカオが瞬間取れて、生身の女の子のカオがのぞいた。

 わたしがしいちゃんのナニを知るわけじゃないけれど、タスキを掛けた瞬間の、自分に言い聞かせるような決断のカオを見たあとに、それが涙となってぽろぽろ壊れ落ちる瞬間は、衝撃だった。

 トウコちゃん、GJ!
 なんかもお、なにもかもが愛しい。

 ホテルロビーの案内板に、「安蘭けいお食事会」と書いてあったのは知っていたけれど、トップさんがお食事会を中座して、わざわざ来てくれるなんて思ってなかったよ。

 泣いてしまったしいちゃんは、そのあと照れたように笑って、また「男役・立樹遥」のカオに戻っていった。
 仕切り直し、みたいな、意志の力でカオを、雰囲気を戻したよ。

 プロだなあ、と思う。
 わたしはぬるいファンでしかないので、しいちゃんがわたしたちに「見せたい」と思っているカオを、そのまま受け止め、見ていたいと思う。
 彼はファンタジー。彼はフェアリー。
 彼は彼自身の意志で、ファンのために「立樹遥」を作るんだ。

 だからわたしは、その「立樹遥」を見ていたいんだよ。

 ずっと。
 七帆ひかるは、トップスターになると思っていた。

 や、なにを知っているわけではないけれど、ただの1ヅカファンとして、観客として。

 石橋を叩いて渡るというか、いちいち回り道して歯がゆい子だけれど、その分堅実に進んでいると思っていた。

 器用ではないのかもしれないし、勢いで突き抜けるタイプでもないのかもしれない。
 それでも劇団は、彼のそんな特質をわかった上で、大切に育てていくんだろうなと思っていた。

 男役としての得難い美貌と、破綻のない実力を評価し、少しずつ課題を与えては上へ引き上げていくのだろうと。
 実際七帆は、それに応え続けていたじゃないか。結果を出してきたじゃないか。
 
 
 『逆転裁判』のミツルギ役の成功も記憶に新しく、つい先日続編の発表があったので、七帆退団は寝耳に水だ。
 ミツルギが出ない『逆転裁判2』? んなバカな。舞台が変わろうと比重が変わろうと、ミツルギは出るべきだろ。ウェスカーがどんな姿だろうと『バイオハザード』に登場しなきゃいけないように。

2009/03/05

宙組 退団者のお知らせ

下記の生徒の退団発表がありましたのでお知らせいたします。

(宙組)
彩苑ゆき
大和悠河     ―すでに発表済み―
美羽あさひ
七帆ひかる
陽月 華     ―すでに発表済み―
華凜もゆる
美牧冴京
香翔なおと
萌野りりあ
咲真たかね


   2009年7月5日(宙組東京宝塚劇場公演千秋楽)付で退団
 

 同じく、『逆転裁判』のヒロイン・まちゃみ退団も、残念だ。まさかここで、ふたりがいなくなるなんて。続編発表時には、思いもしなかったてばよ。

 
 本日は、『バイオハザード5』発売日。
 へなちょことはいえゲーヲタの端くれであるわたしは、必死こいてコントローラ握っていたよ。協力プレイ、なんか勝手がわからなくてやりにくいっす……画面2分割だと狭いしな。親の家の茶の間の、我が家で最大のハイビジョンテレビでプレイしてたんだが、それでも画面小さくなる分ストレスが……。
 リロードの仕方がわからないとか、武器の持ち替えの方法がわからないとか、説明書読めばわかることを知らないままプレイして、何度もふたりしてゲームオーバーになったわ。(説明書読めよ)
 そんなのんきな昼下がり。

 公式見て、びっくりしたさ……。
 
 
 『ファントム』新人公演で、哀切なエリック@七帆、入り込みすぎて美しいカオに鼻水垂らしてまで大熱演していたキャリエール@和に、精一杯拍手を送っていたのが、夢のようだ。
 ついこの間のことなのに。
 彼らが舞台で自在に活躍する未来を、期待していたのに。

 
 トウコちゃん、しいちゃんとたちとの別れを目前に、「あと何回会える(観られる)んだろう……」とうなだれているところなのに。前楽、楽と、当日抽選頼みだから、はずれたらほんとにもう、会える回数って……?(思考停止)

 なんか、どんどん変わっていくなあ。
 寂しいなあ。
 思い出すのは、ケロちゃんの最後のムラ茶会だ。

 宝塚ホテルの狭い宴会場にきゅうきゅうに押し込まれ、ハコの大きさと収容人数見誤ってね? 通常のテーブル形式お茶会ってもっと余裕あったんじゃ?ってくらい、狭い印象のあったケロのラスト茶会。あんときはさらに、グランドピアノが入ってたしなー。そりゃ狭いか。
 5年前のあのお茶会はまさしく「最後」のお茶会っていうか、すげーサヨナラ・イベントで、最初から最後まで退団の話のみ、本人は泣くわ客は泣き続けるわわたしも泣きすぎて足元おぼつかなくなってるわで、会場中が異様なテンションに満ちていた。

 アレはたしかに行き過ぎってゆーか、異様だったのかもしれないが(他の退団決まった人のムラ最後のお茶会に混ざってみたことは複数あったが、あそこまで極端ぢゃなかった・笑)、それにしてもえーと、退団に関しての話がない、つーのは、おどろいた。

 立樹遥お茶会『My dear New Orleans/ア ビヤント』にて。

 しいちゃんは「ムラ最後のお茶会」であることに言及してはいたけれど、ケロ茶会のときのメインの話題だった、何故、退団を決めたのか、いつ、退団を決めたのかについては、なにも語らなかった。

 お茶会はふつーに「ファンからの質問」にしいちゃんが答えていくんだけど、ふつーに「公演について」と「オフについて」で、テーブルにあらかじめ配布されていた質問用紙だって、いつもお茶会で使用している汎用タイプでしかないよね? 「最後の」という、特別仕様ではないよね?

 ケロはたしか、お茶会に登場してまず、「何故退団するのか」を司会者の仕切り関係なく、とにかく喋り出したぞ? 「いつ退団を決めたのか」を、えんえん語り続けたぞ?
 「これを言わなきゃ」「これだけは伝えなきゃ」という使命感めらめらに。
 で、ゲームもなにもなく、ピアノの生演奏(弾き語りではなく、ピアニスト付き)でケロが歌ったりして、とにかく「退団イベント」って感じでみんなで泣きまくって終了しちゃったぞ?

 ケロみたいに極端なサヨナラ・イベントにしてくれなくてもいいんだが、それにしても、退団に関する質問が一切読み上げられなかった、てのは、意外だ。

 でもって、大抵のジェンヌは言葉を濁して語らないにしろ、お約束の質問であり、話題である、「退団後にどうするのか」ということも、一切出なかった。

 これが「退団公演である」という前提で、芝居やショーについて役作りや感想を語りはしても、直接的な「退団」についての話はない。

 それが、立樹遥という人なんだろう。

 だから彼が何故、退団するのか、いつそれを決めたのか、退団後はどうするのかは、なにもわからない。

 しいちゃんはあまりにいつものしいちゃんで、かっこいー黒尽くめの姿にまぬけな「本日の主役」とプリントされた宴会タスキを掛け、太陽の笑顔で公演や役のことなどを語り続けていた。

 『My dear New Orleans』のアンダーソンさん役については、ルル@あすかとの関係、彼女をどう思っているとか、ルルの死後はどうしたのかとか、そんな話を真面目にしていた。

 わたし自身がアンダーソンさんという人をあまり理解していないので、しいちゃんが語るアンダーソンさん像は、あんまりぴんと来なかった。
 本人が「こう思って演じている」と言うことが正解なのかもしれないが、わたしはけっこう、本人がどう思って演じているかは関係なくて、あくまでもわたし自身がどう思うかのみを重要視するので。

 歓楽街を仕切るボスの役なので、お稽古の最初、しいちゃんは柄悪く演じていたそうだが、景子せんせからこだわり注意があったらしい。景子せんせは細部にこだわる人だ、彼女的アンダーソンさんのこだわりは、「品良く」。

 はい、ここで客席、笑う。

 しいちゃん「なんで笑うんですか!」……演出家注意により、しいちゃんは「品良く」アンダーソンさんを演じているらしい。わたしたちが見ているアンダーソンさんは、景子せんせがこだわった「品のいい」アンダーソンさんなのだ。

 歓楽街を仕切るボス、とゆーとわたしはつい、マルセイユの愉快なあんちゃん、石鹸アーティストのシモンくん@まとぶを思い出しちゃうんだが。
 時代的に20年ほどの時差があるのか? 舞台はアメリカとフランスだけど、アンダーソンさんフランス人だし?
 シモンと比べるとアンダーソンさんはたしかに、品があるわ。セレブな感じ。
 アンダーソンさんをそーゆーキャラに仕立て上げるあたりが、いかにも景子せんせ的ではある。

 下品なギャングの囲われものではなく、貴族に庇護されている高級娼婦のイメージなんだろうな。だからアンダーソンさんはフランス人でなくてはならなかった、と。
 でも、それゆえさらに、アンダーソンさん像がわかりにくくなった、気がする。
 あくまでも、わたしには。
 アンダーソンさんって、やっぱよくわかんない……。

 『ア ビヤント』に関しては、すげー端的に感想言いましたよ、この人。

「サヨナラショー」と。

 うわ、言っちゃった(笑)。
 誰もが思っているだろうけど、いちおー、「一般人も楽しめるショー」としての体裁は取り繕っているのに。
 サヨナラショーだと思って演じてるんだ、出演者。
 や、だからソレは観ている方もわかっていたけど。

 言っちゃうんだなー、と、思った(笑)。

 過去のいろんなしいちゃん舞台を思い出すことも出来るような衣装や場面があってたのしいとかうれしいとか、そんなことを言っていたような。

 
 あまりにふつーにお茶会は進み、ふつーに笑いとかあって、特に「サヨナラ」演出はないのだけど。
 その「知っている」しいちゃんの姿に、なんだか焦燥感をかき立てられていた。

 実は前日、ほとんど眠れなかった。
 退団発表時のショックはショックでしばらくぐたぐた言っていたけれど、その後はわりと落ち着いて現実を受け止めていたんだが、いざお茶会の日が近づくとどんどんこわくなって、当日は仲間たちに「こわい」と言いまくっていた。

 これが、最後のしいちゃん。
 これが、最後のお茶会。

 ナマの「しいちゃん」に会える最後なんだ。

 そう思うと、こわくて、こわくて。

 自分ではふつーにしていたつもりが、いざ握手となるとテンパっちゃって、握手列のわたしの後ろだったkineさんに心配を掛けた。

 しいちゃんになにか言える最後の瞬間だから、舞台のしいちゃんが素敵だってことを伝えようと思っていたのに。あすかちゃんとのダンスがすげーきれいで好きとか、そのへんのことを言うつもりだったのに、いざしいちゃんを目の前にしたら全部ぶっ飛んで、口から勝手に、そのときの本音が出た。

 寂しいです。

 ……とにかくテンパっていて、「寂しい」しか言えなくて、や、ほんとにただ単語だけで。
 寂しいです、だけ言って、うわ、このままじゃ泣き出してしまう、とあわてて逃げた。
 走って逃げた。

 で。
 正気に返る。
 しまった。
 イタリア男kineさんが、しいちゃんにどんな日本人赤面の口説き文句を言うか、聞いてやるつもりだったのに。走って逃げちゃったから、わかんないっ。不覚!
 聞いても教えてくんないしさ。「べつに、ふつうのことを言っただけ」とかなんとか。イタリア男のふつーと日本人女性のふつーはチガウってばよ。

 結局、「寂しいです」しか言えなくて、kineさんの赤面口説き文句も聞き逃して、なんかすごい負け犬感。

 貧血起こしそうだからさっさと糖分補給だ、とケーキにがっつきながら、「本日の主役」タスキを掛けたまま写真撮影+握手をしているタツキさんをぼーっと眺める。……ああ、黒尽くめに白いタスキが無駄に栄える……(笑)。
 

 あなたが与えてくれるものはキラキラ幸福に満ちているし、出会えて良かったと心から思っている。
 しあわせで、うれしくて。
 それは、たしか。

 だけど今、寂しいです。
 ただ、寂しいです。
 立樹遥お茶会『My dear New Orleans/ア ビヤント』へ……しいちゃんの、ムラでの最後のお茶会へ行って来た。
 しいちゃんは黒尽くめ。黒シャツに黒パンツ、ジャケットなしのラフだけど適度に端正な服装。垂らしたタイで、芝居の役・アンダーソンさんを意識しているそうだ。
 デニム王として名を馳せた人だけど、わたしがしいちゃんを最初に見かけたころは、いつも黒のスーツをびしりと着たモデルさんみたいなきれーなおねーさんだったから、なんかその頃を思い出してなつかしい。

 お茶会がはじまってすぐ、まだ場が暖まってませんよ(笑)、なときに、お客様がやってきた。
 同じホテルでベニーがお茶会なのをロビーの案内を見て知っていたから、「ベニーちゃね?」とささやきあってはいたんだが。

 ほんとにベニー来た!!

 金髪をタイトなオールバックになでつけたべニーは、神妙な顔でつかつか入ってきた。
 ホストだ、ホストが来た! 何故か『ヘイズ・コード』のときのホストっぷりに直結したんだ、ベニーの姿が。や、今回の彼の役は芝居もショーも基本オールバックだけども。

 大真面目な顔した彼は、「しぃ様LOVE」と書かれたタスキを掛けていた。ポイントは「しぃ様」の小さな「ぃ」ですね。しいちゃんには「しい」と「しぃ」、表記が2種類あり、どちらも正しい感じなので、どっちを選ぶかは本人のフィーリング?
 わたしは『宝塚おとめ』の愛称欄が「しい」なので大きい「い」を使ってますが、しいちゃん本人は小さい「ぃ」を使っているっぽい。……なら、『おとめ』直せばいいのに、放置されているところもまたツボだったりする(笑)。

 そしてさらに、ベニーは大きな白いイルカを抱きかかえていた。

 ホストばりの男ぶりと、たすきと白イルカ。
 どこにつっこめばいいのかわからない姿で彼は、大ウケしているしいちゃんに、さらにもうひとつプレゼントを差し出した。

 「本日の主役」とプリントされた、宴会タスキだ。

「お願いがあるんです、これをつけてください」

 だかなんだか言って、そのアホウなタスキを差し出した。

 しいちゃんはずっとウケていたけれど、一瞬だけ、逡巡した。

「これを?」

 や、だってなにしろ、どっから見ても宴会グッズ。バリバリホストなベニーがそのタスキゆえに愉快極まりない姿になっているように、これをつけたら最後、どうあがいても、シリアスにはなれない。

 一瞬のことだった。
 でもたしかに、逡巡した。

 最後のお茶会で、タスキを身につけるかどうかを。

 つまり、ムラのファンの前に、最後に見せる姿をおちゃらけにするか、シリアスに美しいままにするか。
 や、真のファンはお茶会だけがすべてじゃないし、これからまだまだ退団公演もイベントも続くわけだが。でも、けじめとしての「最後のお茶会」のカラーを決める、重大な選択だよこれは。

 しいちゃんは一瞬だけ迷って、次の瞬間、決断した。

「そうだね、じゃ今日はこれで」
 とかなんとか、台詞はおぼえていないが、にこっと笑って、タスキを受け取った。

 しいちゃんは、一瞬のうちに考えたんだ。
 最後のお茶会を、明るい、たのしいものにしようと。
 最後だからお別れだからと涙涙の会にはするまいと。

 きれいにシリアスに終わりたい気持ちもあったろうし、きっと「ファンはきれいな方がいいのかも?」とか、考えたんだと思う。
 でも、それら全部飲み込んで、乗り越えて、出した結論は。

 笑って別れよう。

 ……だったんだと、思う。

「最後のお茶会にタスキ、いいかもね(笑)」
 たしかそんな意味のことを言っていたと思う。客席も大ウケして、拍手でタスキを肯定しているし。

 実際、「本日の主役」と書かれたタスキを身につけたしいちゃんは、それまでの端正さが嘘のように、いや、なまじ美しいからこそさらに、愉快な姿になった。美貌もオーラも損なわれないが、とにかくみんな笑った。声に出して笑った。
 しいちゃんが笑い、ベニーがかしこまって笑い、客席も大笑いした。

 涙で別れたいわけじゃないんだ。

 しいちゃんは選んだんだ。
「今日一日、記念撮影もこのままだからね(笑)」
 黒尽くめの美形なのに、お笑いタスキ。
 笑ってほしい、と、彼は言う。大きな大きな笑顔で。

 でもってベニー。
 お茶会の方向性を決定づけた、ものすげーことをしでかしたのに、本人はもちろんなにもわかっていない(笑)。
 ベニーのことをしいちゃんが客席に紹介する。
 星組に組替えでやってきたしいちゃんが、ダンスシューズをあげたことからはじまったという。当時研2だかのベニーは、ボロボロのダンスシューズで踊っていたらしい。「靴下が見えそうなくらい」傷んだベニーの靴を、しいちゃんが見かねて、自分の使っていなかった靴をあげたそうだ。
 ……謎が多いなベニー。ボロボロのダンスシューズって、どこの昭和時代少女マンガのヒロイン?!
 でもって、「よかったら、これを使いたまえ」と新しい靴を持って現れるしい様は、どこの王子様?!
 睫毛びしばし目に星とびまくり唇てかてかな少女マンガ絵で、ふたりの出会いが脳裏にあざやかに描けてしまいましたがな!(笑)

 そういえば、わたしが「紅ゆずる」を最初に知ったのは、しいちゃんの外部出演公演『タック』初日の劇場ロビーだった。
 ジェンヌはみんな演出の謝先生宛に連名で花を贈っていた。個人名なんかない。また、しいちゃんへのお花もなかった。なにか暗黙のルールがあるなりして、しいちゃんにはあえて花を贈っていないんだろうなと思った。なにしろタカラヅカはよくわかんないルールがいっぱいあるみたいだし。
 しいちゃん宛のお花は、現役ジェンヌからではなく、別の人たちからばかりだった。

 そんななか。

 ひとりだけ、「立樹遥様」宛のものがあった。「宝塚歌劇団星組 紅ゆずる」。

 誰。

 現役ジェンヌは誰ひとり、トップスターのワタさんですら、謝先生宛で、しいちゃん宛には贈ってないのに。
 空気読まず、ただひとり、堂々と花を入れているこの「紅ゆずる」って誰よ?!(笑)

 いやあ、大ウケしたよね、ロビーで。2005年1月の博品館。
 たしかうれしがって写真撮ったよね、ベニーからの花。

 誰かわかんないし、ひとりだけ明らかに空気読めてないんだけど、それでも、しいちゃんにお花を入れてくれた子に、好意を持たないわけがない。
 我らが友人たち・どりーず内で、顔もわからないまま、ベニー株は上がった(笑)。

 そんなことを、思い出していた。

 ケロが卒業し、すずみんとれおんにはバウ主演が決まり、まとぶが2番手として出演する中日の『王家に捧ぐ歌』再演も決まっていた。番手の付いた人たちが躍進するそんなときに、何故しいちゃんひとり外部出演なのか。女役なのか。
 期待だけでなく、たしかに胸の底にあった割り切れない思い、不安な思いを抱きつつ、とにかく初日に駆けつけたはじめての劇場で、てらうことなくしいちゃんへの愛を叫ぶお花を見つけることができて、どれだけほっこりしたか。

 ベニー自身は知らない。気づいていない。
 たったひとりで入れたお花が、与えた影響なんて、考えもしないだろう。

 最後のお茶会の、方向性を決定づけたことも。
 ベニー自身は知らない。気づいていない。

 ショー『ア ビヤント』で、しいちゃん演じるボスの部下をやっているんだけど、そこでのベニーの役作りは、「ボスのことを好きすぎて、あすかさんに嫉妬している」そうですよ。
 もっとちゃんと説明すりゃいいのに、早口にあわあわ喋って、しかも途中で「私の話なんかどーでもいい」とぶった切るんだもの。喋り出したんだから、最後まで話せ(笑)。

 最後まであわあわしたまま、落ち着くことなくベニーは去っていきました。や、まるで逃げるように。

 大爆笑に震える空気を、残したまま。
 お茶会の空気を、方向性を決定づけたまま。

 涙で別れたいわけじゃないんだ。
 しいちゃんの意志なんだ。

 黒い端正な服に映える、白いタスキ。お笑いタスキ。

 迷いを吹っ切って、タスキを掛けたタツキさんは、凛々しく立っていらっしゃいました。

 あの、太陽の笑顔で。 
「お宅のトーコちゃん元気?」
「元気すぎて困ってる」

 という会話が、ふつーにされている仲間内。

「ナニ、トーコって?」
「猫の名前」
「猫にそんな名前つけてんの? アホちゃう」
「や、子どもにマジで瞳子ってつけよーとしていた人に言われたくないですけど?」
「男の子だったから断念、女の子だったら瞳子だったのに~~」
「男ならケイくんにすれば良かったのに」

 という会話が、ふつーにされている仲間内。
 ええ、我が家の新しい家族の猫を、トーコちゃん呼びしてますがナニか?
 そんな人、きっと五万といるよね。ペットに好きな芸能人の名前付ける人。子どもに付ける人だって、わりといる、と思う(笑)。
 それにしても瞳子ってきれいな名前だよね。本人のあのきらきらな瞳を連想させるだけに、さらにイメージアップ。
 

「あのショーで、エレナ様に気づかないなんて、ありえない」 
 『ア ビヤント』初見でエレナ様に気づかなかったわたしは、会う人会う人にそう言って責められています(笑)。
 や、「エレナ様」だと気づかなかっただけで、白い妖精さんが舞台にいるのは気づいていたよ、そりゃ。
 初日はB席だったのでオペラグラス上げっぱなし、オペラの狭い視界以外はあまり観てない状態で、彼女の登場時にザネリ@れおんをぼーっと観ていたらしいわたしにとって、「いつの間にか、モブに白い妖精の女の子がいる」程度だった。
 で、妖精さんの姿から「下級生にちがいない」と決めつけ、「今は未来ある若者を見ている場合じゃないわ、トウコちゃん見なきゃ! しいちゃん見なきゃ!」とテンパっていた。
 泣きすぎていて、オペラが曇っていたのも事実だが(笑)、ほんとに興味なくてちゃんと妖精さんのカオまでチェックしていなかった。

 2回目以降、ちゃんとエレナ様も見ているが、初見でどうして気づかなかったかも、よくわかった。
 彼女、わたしが初見時にオペラを上げるタイミングの、外にいたんだわ(笑)。

「あすかちゃんを引っ張るところも見ていないっていうの?」
「そんなもん、あすかちゃんの脚を見ているに決まっているだろう!」

「たしかに。あそこは、あすかちゃんの脚を見るわ」

「あすかちゃんの脚と尻は、素晴らしいよね」

 という会話が、ふつーにされている仲間内。

 みんなあすかちゃんダイスキだから。
 彼女の演技力もさることながら、あのプロポーションにも惚れ込んでいるから。

 あすかちゃんが脚見せドレスで登場したら、オペラで美脚を鑑賞するだろう! 人として!

 ……2回目に脚見せドレスあすかをエレナ様が引っ張ってるのを見て、自分の視線の正直さにウケたよ。
 たしかに引っ張っている人がいたことはわかっていたけど、あすかの脚見てたから、そっちは見なかったんだな、わたし(笑)。んで、脚を堪能したあとオペラを下ろして全体を眺めてたんだなー。そりゃ気づかないわなー(笑)。

 や、だから今はちゃんとエレナ様も見てますって。
 

 あまりに「ザ・サヨナラショー」過ぎて、観ていて大変!な『ア ビヤント』。
 平静に楽しもう、泣いてばっかじゃまともにショーとして楽しめないじゃん、ふつーに観るのよふつーに、と気合い入れて観て……抵抗したところで結局、楽屋の場面から大泣きしてしまう。
 いやその、所詮主題歌の「またね またね」で泣けるので、オープニングから泣きスイッチは入るんだけど、落ち着けわたし、と。

 ショーとしてはコレ、どうなのかなあ。
 あまりにも既視感ありまくりで、「構想*年、ついに開幕」てな作り込みは感じられない。
 時間なくて、アリモノだけで間に合わせました感があるってゆーか。

 でも、タカラヅカってのは「いつもの」を楽しむところだから、既視感自体は悪いことじゃない。
 とくに、退団公演なら外ではもう拝めない「タカラヅカらしい」「定番の」「いつもの」タカラヅカ・ショーであるべきだと思う。

 あすかちゃんがもっと出番多くて、トウコちゃんと絡んでくれたら、もっとうれしかったかな。
 なんか意外なほど、ふたりの場面が少なくて。
 クライマックスの大合唱にあすかはいないし、最後のパレードも横から登場して列に混ざるし。
 でもその出番の少なさ、控えめさが、「タカラヅカの娘役」としての花道なのかもしれない……とも、思う。
 理不尽に思えるほどの男役社会……それを理解した上で、支える役割を凛として果たす「娘役」という立場に、その技術、心意気に感動する。
 あー、でもでも、もっともっとあすかも見たかったなあ。

 ショーのストーリーについては、あまり考えが及ばない……というか、考える気にならない。
 藤井くんのショーは好きだけど、彼の作る「物語」はどっちかっつーと苦手だ、ぐだぐだ過ぎて(笑)。想像の余地とか行間を残すとかじゃなく、単に物語としての構成力・収束力がナイ気がする。風呂敷は広げるけれど、たたみ方を知らなくて、最後はぐちゃぐちゃにして空へ放り投げて終わり、とか。
 でもその風呂敷は、風に乗って大気に乗って、ふわりふわりと優雅に自由に踊るように降りて来て、それはソレで楽しいかな、てのがフジイ・ショーのストーリーの常、かな。
 ……でもわたし、ちゃんとたたんでくれる作家の方が好き(笑)。たたむのは、技術と根性いるから、ソレをあえてやってくれる人に軍配を上げるな。 

 出演者と、タカラヅカへの愛情が見える作品だから、もうソレだけでいいっちゃーいいんだけど。
 退団公演なんか、泣くためにあるんだから、思い存分泣かせてくれるフジイ・ショーは正しいよな。うん。

 
 またね。
 って言葉が、なんだかすごく切なくて、大切に聞こえる。

 またね。
 そう言えることの、幸福に、最後になって改めて気づかされるっていうか。

「んじゃ、アビヤント」
「アビヤント」

 という会話が、ふつーにされている仲間内。
 別れの言葉。
 次また劇場で会いましょう。

 またね。
 また、会おうね。 

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