今日はSPEEDのコンサートでした。
 ……って、SPEED?! 今さらあのSPEED?!

 そう、解散以来なにかっちゃー再結成している、レア感のあまりないあのSPEEDです。

 SPEEDでは、わたしはhiroこと島袋寛子ちゃんがいちばん好きでした。
 理由はかんたん。

 友人のWHITEちゃんに、似ているから。

 SPEEDがデビウしたのが、今から7年ほど前ですか。
 そのころ、まだ小学生だったhiroを見て、
「あ、WHITEちゃんだ」
 と、シンプルに思った。
 我が家の家族も、同意見。SPEEDがテレビに出るたび、「WHITEちゃんが出てる」と盛り上がっていた。
 WHITEちゃん自身も、
「誰かに似てるなと思ったら、そうか、アタシか」
 と認めていたし。

 つーことでわたしは、hiroが好きです。
 好きな人に似ている人には、好意持つよねえ?
 その昔、タレントの千葉美加が好きだったんだが、彼女は友人のヤマダさんにそっくりだった。あと、高木美保は友人のイシ子にそっくりだったし、最近では宮地真緒が友人のBe-Puちゃんに似ているので気になる存在。
 友だちに似ている芸能人には、親近感がわく。

 つーことで、SPEEDはけっこう好きだった。
 でも、CDも買ったことないし、ライヴに行くほどのファンでもなかった。またわたしも、そんなトシじゃないし。SPEEDのファンって若そうだもんなあ。わたしなんか、好きって言ってもカラオケで歌うくらい?
 あと、当時のファミ通によく載っていた、SPEEDネタの読者投稿を読むのも好きだったなー。大抵仁絵ちゃんがオチなんだよなあ。
 そうそう、SPEEDオリジナルのアルバ・スプーンが本気で欲しかったなあ(非売品。マジかわいかったのよ。あ、アルバ・スプーンちゅーのは腕時計です。わたしがいつもしている腕時計はスプーンのメタルVer.)。

 でもWHITEちゃんはわたしよりはまともにファンしていたようで、CDも買っていたし、解散後も動向をチェックしていたようだ。

「言っとくけどアタシは、多香子ファンだからねっ」
 と、WHITEちゃん。
「えっ、hiroじゃないの?!」
「自分と同じ顔のファンになってどーすんのよ、多香子よ多香子。美人が好きなのよ」

 たしかに多香子は美人だけど……。
「ドラマには出ないで欲しいなあ、大根すぎ……」
「うるさいっ、美人だからいいのよ!」
「歌も下手だったよね……」
「うるさいっ、美人だからいいのよ!」
 と言うWHITEちゃんは、もちろん檀れい様のファンです。『LUNA』のポスターの、檀れい様の美貌に惹かれてタカラヅカを観はじめたヤツです。

 さて、そのWHITEちゃんから誘われました。
「緑野、SPEEDのコンサート、行く? 懸賞で当たっちゃったんだけど」
 てゆーかわたし、また彼女たちが再結成しているのも知らなかったよ、WHITEちゃんから誘われるまで。
 そしてさらに。
「そんな懸賞、応募してたんだ……」
 そのことに、おどろいてみたり。
「当たると思ってなかったんだもの! 2等のクオカードが欲しいだけだったのに! まさかライブチケの方が当たるなんて」
 WHITEちゃんはくじ運いいから、いろんなものが当たる人なんだよねえ。
「行くのはいいけど、どこでやるの?」
「城ホール」
「で、席はどこ? スタンド?」
「アリーナ」
「……アリーナ? 椅子、あるよね?」
 トシですから、椅子のない世界は鼻白むのだ。理性とばすほど好きなアーティストならともかく。
「あるでしょ、座席番号書いてあるし。アリーナの後ろの方だね、この番号は」
「そいでSPEEDの客層って、どんなん? わしら行ったら、めちゃ浮きまくるんじゃ……?」
 トシですから、若者やガキにまみれるのは鼻白むのだ。理性とばすほど好きなアーティストならともかく。
「そんなの知らない。アイドルだから、臭い男たちがいっぱいいるのかな?」
 アイドルか……。未知の世界だわ……。

 つーことで、いざ未知の世界。

 そもそもコンサート自体、滅多に行かないしな。
 わたしは「物語」好きなので、物語のあるジャンルにまず気持ちが向く。芝居とか映画とか。とくに芝居、ヅカに金がかかりすぎるので、「物語」性の薄いジャンルにまで回らないんだよなあ。
 音楽に物語性がないと言ってるんじゃなくて、芝居や映画よりは薄いと言っているだけよ。ジャンルの立ち位置がチガウんだから、それは当然のこと。
 わたしが大金持ちなら、音楽にも金をかけるんだが。甲斐性なしなので、どこかなにかあきらめて生きていくしかない。

 べつに嫌いで音楽関係のイベントに行かないわけではないので、アリーナのすみっこでもたのしむ気は満々さ。
 もちろん、ヒール着用。
 女子ども相手なら、勝利は確信。フラットな会場でも、いちばん後ろから障害物なしでステージが見える身長さ。
 肉厚なおにーちゃんが前にいたら、さすがに負けるけど。日本人男性の平均身長はヒールを履いたわたしよりはるかに低いわけだから、あまり苦にはならない。

 と、勢い込んでいったのに。
 アリーナの後ろの方は、ちゃんとひな壇になってました、席。
 てことは、だ。

 我に敵なし。

 わたしの席から、ステージをさえぎるモノは一切ありませんでした。
 ヒール履いてくる必要なかったかも。坐っていたら前の人の頭が邪魔だけど、立ったら障害物なんてないよ。

 SPEEDに関しては、わたしはhiro、WHITEちゃんは多香子とお気に入りの子は決まっていた。
 デビウのときからずっと。

 しかし。

 最近、思うんだ。
 わたしたちひょっとして、仁絵ファンじゃないのかって。
 SPEED活動時も、解散後も、hiroや多香子の話はしなくても、仁絵の話はなにかとしてるじゃん、わたしたち!

 今回のライヴの間中、わたしたちが口にする名前はHITOEばっかなんですけどっ?!

「グッズ見た? 仁絵ちゃんのは売れ残ってたよ」
 からはじまって、
「ファンクラブのお知らせ、仁絵ちゃんだけないのね」
「仁絵ちゃんの髪型、マスター!!(注・マスターとは、『木更津キャッツアイ』の登場人物)」
「仁絵ちゃんの谷間がすごい!」
「おっぱい大きいねえ、本物かなあ」
「仁絵ちゃんの背中がまぶしい」
「仁絵ちゃんのソロはあるのかな?」
「仁絵ちゃん、かっこいい」

 とにかく、仁絵ちゃんの話ばっか。
 ねえWHITEちゃん、わたしたち実はHITOEファンよね? わたし、ライヴの間ずーっと仁絵ちゃんのダンスばっか見てたよー。
 hiroの歌は耳で聴いて、目は仁絵ちゃんに釘付けさ。

 仁絵ちゃんの国籍不明年齢不詳のセンスが、わたしたちを惹きつけているのだと思う(笑)。
 GO! GO! HITOE! お笑い系の投稿で、多香子を持ち上げ、絵理子を持ち上げ、hiroを持ち上げ、仁絵で落とす、てなネタで使われまくっているそのキャラが愛しいわ。
 だからこそ、新曲のモー娘。もどきの振り付けはつらかったわ。
 あんなの、HITOEじゃない〜〜っ。
 他の3人は娘。系のことをやってもいいけど、HITOEはダメよ! キャラがチガウんだから。
 リアリーダー・コスでポンポン持ってキュートに踊るなんて、あり得ない!
 他の3人のことは素直に「かわいい」と思ったのに、仁絵ちゃんだけは痛々しく思ってしまった……彼女の美意識とは正反対の格好させられてるよね……?

 なんにせよ、わたしはわたしなりにたのしんで来ました、ひっさびさのSPEED。
 おどろいたのは、「歌える」ことにだ(笑)。そっかー、アイドル・ソングってのは奥が深いわ。CD持ってなくても聴くのが何年ぶりであっても、なんとなく全曲お…
 水曜日と映画の日は、ずらしてほしいなあ。
 水曜日はレディースデー。1日は映画の日。
 そのうえ何故か、梅田ブルクってば同時刻から複数のタイトルを上映、入場はその10分前っていうもんだから、とてもめんどー。
 改札開始から映画館に入るための長蛇の列、もちろんたった10分では3つのスクリーン分の客が全員入りきれるわけがない。
 上映開始時間になっても、まだ行列さ。

 同じ時刻にはじまったのだから、とーぜん終わる時刻もほぼ同じ。
 帰りは帰りで、エスカレータに渋滞発生。エスカレータの速度は一定だから、わずか1.5m四方のエスカレータのとエスカレータの踊り場に、やばいくらいの人口密度。
 エスカレータしか出口ないんだよねえ?
 だったら、スタッフが人員整理しないと、大事故になっても知らないよ?
 映画の日以外は、ここまで混むことがないんで、こんなシステムになってるんだろうけど。

 とにかく、めちゃくちゃ混んでて大変。
 映画の日に映画なんて、見るもんぢゃねえ。

 昼間はダイエーの優勝セールに行っていたので(笑)、映画は1本だけ。
 『閉ざされた森』、監督ジョン・マクティアナン、出演ジョン・トラボルタ、コニー・ニールセン、サミュエル・L・ジャクソン。
 サミュエルおぢさんファンのわたしとWHITEちゃんは、いそいそ見に行ったわけです。
 いや、おもしろそうな映画だしな!

 サミュエルおぢさんはいい。しかし。
 わたし、主演が誰なのか、失念してました。
 トラボルタかよ……。
 ニコラス・ケイジと並ぶ、苦手俳優だったよ。
 スクリーンに大映しになる彼を見て、溜息。ああ、やっぱり好みぢゃない……。

 物語は、難解複雑。
 ジャングルという「密室」で起きた殺人事件。メンバーは7人、発見されたのは3人。そのうち、死亡が1人、負傷が1人、あとの1人は黙秘中。
 生き残った2人がそれぞれ証言をするのだけど、彼らが語る話は、それぞれ別モノ。どちらかが嘘をついている? それとも両方?
 「密室」の中でなにが起こったのか。事件の真相は?

 『HERO』に続く「藪の中」モノだよ。
 人間の「証言」だけを頼りに矛盾を探し、真実を探るの。
 なんせ「密室」の中の出来事だから、当事者たち以外に真実は知りようがない。しかも、生き残ったのはふたりだけだし。
 そしてこの「証言」が、『HERO』と同じで二転三転するのさ。
 もちろん、『HERO』とはぜんぜんちがい、こちらはまっとーなミステリだけどね。映画のジャンルは「サスペンス」と表記されてるね。

 アメリカ軍の中で起こったことなので、出てくるのは軍人たち。
 トラボルタは捜査官だし。コニー・ニールセンは尋問官だし。
 軍服好きの人にはいいかも?(笑)
 わたし的には、コニー・ニールセンの軍服姿がいちばんかっこよかった。端正な美貌の女将校すてき。
 トラボルタひとりが、むちむちなカラダをふつーのシャツとジーンズに包んでます。……イケてねえ。

 噂で聞くほど、わけわかんない話じゃなかった。
 『HERO』も「わかんない」と言う人が多くいるわけだから、世の人たちは「藪の中」系の話が苦手なのかな。
 事実だと思って見ていたことが、次の瞬間には「それは嘘で、こっちが真実」と二転三転するのがダメなのかも。
 ちゃんと見ていれば大丈夫だと思うんだけど……みんな、「映像」には無防備なのね。「映像」で見せられたことは「真実」だと思い込んじゃって、修正が咄嗟にきかないのかしら。

 こみいったプロットの話は大好きなので、とてもたのしく鑑賞。
 だけど、ラストのどんでん返しはそれほど爽快感がなかった。
 今まで積み上げてきたものを全部ひっくり返すラストのどんでん返しで、スカッとさせてくれた最高峰は、最近では『カンパニーマン』だ。
 『閉ざされた森』はそこまでは至らず。ちょっと肩すかしっていうか、「ヲイヲイ」的。
 まあ、気持ちいい方だからいいけど。

 こーゆーネタバレ一切禁止系の映画は、感想書きにくいなあ。
 見終わったあと、わたしとWHITEちゃんは、
「コレってつまり、****モノってことよね」
 と、ひとことで評したんだけど。コレ、言えないしなあ。

 とりあえず、もう一度見たい映画。
 真相を知った上でリピートすると、さらにたのしい映画だと思う。
 「ソレ、変よね?」的な納得いかない点もいろいろあるしな。誰か説明してくれよー。
 最大の疑問は、スタイルズがハーディを呼ばなかったら、どーなっていたのかということだ。結果オーライらしいけど、この最前提がない場合、このミッションはどーオチつける予定だったのよ?

 いちばん笑わせてもらったのが、凄腕の尋問官であるハーディ@トラボルタの「尋問官としての腕を、最初に見せる」ところ。
 ハーディを快く思っていない前任の尋問官オズボーン大尉@コニー・ニールセンに、いきなり聞く。

「彼はキュートか?」

 密室から生き残ってきた兵士ダンバー@ブライアン・ヴァン・ホルトの外見のことを、オズボーン大尉に聞くの。

「答えるんだ、今から俺が尋問する男は、キュートか?」

 このおやぢ、なに言い出すんだ?!
 という、オズボーン大尉の顔も愉快です。

 相手がキュートな男でないと、尋問しないとか言うつもり?! てゆーか、ジャングルで訓練している肉体派軍人相手に「キュート」? ダンバーくんもとーぜん、分厚い体格のにーちゃんなんですが。
 日本とは言葉の感覚がちがうせいでしょう。日本語で「キュートな男」と言うと、ジャニーズ系とかを想像しちゃいますがねー。
 相手の顔立ちなどから性格を読むために、まず聞いたらしいんだが、前置きナシで「キュートか?」とくるもんだから、ややこしい(笑)。
 オズボーン大尉は半信半疑なまま、その質問を肯定する。

 彼は、キュート。

 そっかー、ダンバーくんはキュートな男の子なんだー。
 めちゃごついにーちゃんだけどなー。

 トラボルタがあの油膜の浮いてそーな顔で言うと、とてつもなく濃い台詞だ。
「彼はキュートか?」

 
 母の家の前に、折りたたみ椅子を持参して、坐っているおばあさんがいる。その連れらしいおばさんもいる。
 ……他人の家の前だよ? ふつーの住宅地だよ?
 椅子を出して坐って、ナニしてるの?

「ねえねえアレ、なに?」
 わたしが聞くと、母は
「なんだアンタ、知らなかったの?」
 と言う。どうやら以前から同じ時間に同じよーにいるそうだ。

 答えは、孫が小学校から帰ってくるのを待っている、らしい。

「今はぶっそうだからね。心配なんですってよ」
「それならなんで、学校の前で待たないの? ここにたどりつく前に、ぶっそうなことになるかもしれないじゃん?」
「……それもそうね。何故かしら」
 まあ、よそさまの事情は知らんが……大変だなあ。足が丈夫じゃないからだろうな、あの椅子は。……客観的に見て、すごく変な光景だけどな……ふつーの住宅地の道に椅子を出して坐っているおばあさん……。

「そーいやわたしは、迎えに来てもらったことなんかなかったよね? 幼稚園のときから、一度も」
「そういえばそうね?」
「ずいぶん雑に育てられたよーな」
 たしかわたしは私立の幼稚園に通っていて、集団登下校のコースからはずれている園児は、親の送り迎えがルールだったはずだけど? わたし、いつも自力で登園して、自力で帰ってきたよねえ?
「いいじゃない、無事に育っているんだから」
 そりゃそーだ。

 今はぶっそうな世の中で、子どもたちには危険がいっぱい。
 ……だけどほんとーに、そうなのかな。
 昔から、危険なのは変わってないんじゃないの?

 というのも、わたしが子どものころにも危険はあたりまえにあったからだ。
 わたしのよーなごくふつーのガキですら、ちょくちょくこわいめに遭ったもの。知らないバイクのにーちゃんに追いかけ回されたり、「おかあさんが呼んでるよ」って言ってきた知らないおじさんに手を握られて、どこかへ連れていかれそうになったり。

 いちばんよくおぼえているのは、知らない男の子に首を絞められたこと。
 わたしは小学生だった。夕方だったな。まだ明るかった。家の近所を歩いていて、ゆっくり走ってきた自転車とすれちがった。
 そのすれちがいざま、自転車がわたしの横で急に止まり、乗っていた高校生ぐらいの男の子が首を絞めてきた。
 ……いやあ、びっくり。
 なんでそうなるのか、なにが起こってるのかわからないまま、暴れたんだったかな。どの程度抵抗できたのかわからないけど、気がついたとき男の子は自転車で逃げていき、わたしはアスファルトにへたりこんでた。
 ぜんぜん知らない相手。顔は最初からおぼえてもいないが、ただの通行人、風景にしかすぎない相手だよ。なのになんで、首絞められたの?
 あわてて家に逃げ帰ったよ。さすがに、こわかった。

 しかし、誰にも言わなかった。
 だって言ったら、「叱られる」と思ったもん。
 よくわかんないけど、叱られるのはわたしで、これから自由に外を歩かせてもらえなくなると思った。

 もしも、今くらいマスコミが騒がしかったら、わたしは堂々と親に報告し、警察に届けたと思う。
 だけどあのころは、知識がなかったんだよ。大人に言ってもいいことだと、知らなかったんだ。

 てな、乏しい経験からも、思うんだ。
 今が特別にぶっそうってわけでもないんじゃないかって。
 もちろん、ぶっそうだとは思っているよ。
 ただ、昔もやはり子どもが襲われる危険は多分にあったけれど、それがマスコミにまでは届いてなかったんじゃないかなあ、と。
 多くの子どもたちが、「言ったら叱られる」と口をつぐんでいたんじゃないか?
 今の事件の多さは、子どもたちの危険に対する意識が変わってきているから、ちゃんと事件が事件として報告されている、とゆー要因もあると思うよ。

 そして、大人も意識が変わってきていると思う。
 子どもが「知らない人から、こわいめに遭わされた」と報告したら、「お前に隙があったからだ」「そんなところを歩いているお前が悪い」と子どもを叱りつけて終わりにするのではなく、ちゃんと事態を重く受け止めて警察に届ける、てな。
 今考えても、「知らないおにーちゃんに首を絞められた」と泣きながら報告したとしても、わたしの育ての親であった祖母は、わたしの方を叱ったと思うんだ。
 祖母は古い人だったからねえ。自己を律することのみを、突きつけてきたと思う。隙のあった己を恥じよ!てなもんだ。
 だけどこれくらいマスコミで問題になっていたら、いかに頑固な祖母でも、わたしを叱らずにちゃんと警察に届けてくれたかもな。
 やっぱ時代ってのは、あると思うよ。

 そして、いつの時代も、弱いモノは危険にさらされる。
 毎日持参した椅子に坐り、孫を待つおばあさん。
 あなたの孫も、他の子どもたちも、みんなみんな無事に元気で過ごせますように。

 
 真夜中から、爆笑させてもらった。
 タカラヅカ・デスクトップカレンダーのお誕生日メッセージ。
 ええ、本日がわたくしのバースデーなもんでな。
 去年は旅行中だったので見られなかったから、今年こそはと日付が変わるなり見てみたのよ。

 えーと、トップスター+1の中から選んだ人ひとりの、お祝いメッセージが聞けるわけね。
 元旦にトド様は一足先に聞いていたんで、今回はたかちゃんでした。

 パーソナルカレンダーの表紙かな、これは。
 ドレススーツ姿の男前なたかこ様の写真が現れ、音声が流れる。

 おどろいたのは、いきなり歌い出したこと。
 しかも男役の声で、まじめに歌ってやがるのよ。

「はっぴばーずでー、つー、ゆー。はっぴばーすでー、つー、ゆー。はっぴばーすでー、でぃあ、あなた〜。はっぴばーすでー、つー、ゆー。
 ……宙組の、和央ようかでした」

 ヲイ。
 これだけかいっっ!!

 盛大につっこませていただきました。

 トド様はたしか、真面目につまんないコメントしてたよねえ? あたりさわりのない、ふつーのお祝いの言葉を喋ってたよねえ?
 なのにたかちゃんは、コレかい。
 笑いました。
 らしいというか、なんというか。

 そして、我がパソコンの壁紙は、この美しいたかこ様になりました。
 それまでずっと公演ごとに変えてきて(デスクトップカレンダーのふろく。公演ごとに新しい壁紙を配信してくれる)、『Romance de Paris』は論外だったので未だに『王家に捧ぐ歌』だったんだけどな。
 いやあ、パソコン立ち上げるたびに、美しいたかこ様に見つめられるので、ときめきますわ(笑)。
 ほんまにきれーなにーちゃんやなあ。感心するわ。
 女としてはどーか知らんが、男としてはほんとに美青年だよね、たかこ。顔だけじゃなく、プロポーションも含めて。

          ☆

 で、本日は雪組公演『Romance de Paris』の千秋楽。チープに1階A席で観劇。
 友だちに会ったりなんだりで、けっこうばたばた。
 それにしても、リカコンはほんとに余りまくってるみたいね……いったいどれほどの人に、余って困ってると言われたか。

 今回は全体を見ることを心がけていたので、オペラグラス使わず。使ったのは唯一、ショーの聖歌隊だけ(笑)。せーこちゃんかわいー。

 芝居はえらく熱演で、今まで観たより格段に良くなっていた。
 脚本がダメなのは変わらないが、演技でずいぶん救われている。
 そして、遠い座席から全体を眺めていると、たしかに美しい舞台だと思う。その美しさだけで、まあいいのか、という気分にもなる。

 今日会った友人に、先日電話で作品のヘボさを嘆いたら「ヅカなんかに、いい作品を求める方がおかしい」てな言い方をされてしまったが、それはチガウと思うんだ。
 わたしが求めているのは、ヅカとして「いい作品」だ。
 たとえばライトノベルに、「こんなの現実にあるわけないわ! 男より強い女の子なんているわけないじゃない!」と怒るのが筋違いのよーなもので、そのジャンルであることを踏まえた上で、佳作を求めているんだ。
 でも、彼女に作品としてのイロハな話や構成がどーのという話をしたら「そんな難しいことはわからない」と言われてしまったので、その話題は終了。すまんな、理屈屋で。

 他の劇団でもなく、媒体でもなく、タカラヅカであるうえで、よい作品。
 『王家に捧ぐ歌』なんかは、その代表みたいなもん。他のジャンルならあの歌唱力の低さは致命傷だし、脚本も演出も穴が多いだろうよ。
 だがあの作品は、他のどの劇団であれ、テレビや映画などという他の媒体であれ、創り上げることのできない作品なんだ。
 それが、「作品」というものだと思うんだ。代えがきかない存在。この世でただひとつ、オンリーワンの力。
 わたしが欲しているのは、そーゆーモノだ。

 『Romance de Paris』はたしかに、タカラヅカでしかできない舞台だと思う。
 そこには、美しさしかない。
 これで美しくなかったら、外部の男の人のいるふつーの劇団でやっていたら、救いのないただの駄作だ。今回以上に客は入らないだろう。
 ロングコートを着てフェルト帽をななめにかぶってにやりと笑う、これだけですべてを帳消しにする美しさがないと、終わってる。
 ヅカでしかあり得ない、はアリだと思う。だが、ヅカでしかあり得ないからって、それがヅカとして佳作というわけではないんだ。ほんと。
 佳作になる要素はあるだろうに、それを手抜きとしか思えない具合にぶちこわしているからこそ、『Romance de Paris』はどーしよーもない駄作だ。
 正塚晴彦、やる気あるのか。

 今回いちばん見直したのは、コム姫だ。
 わたしはずっと、コム姫には「姫」という先入観を持っている。真ん中に立つ人ではなく、脇でこそ輝く美形キャラ。アカレンジャーではなく、ミドレンジャー(アオレンジャーでさえない)。
 たしかに、センターに立つ吸引力はないと思う。
 ワタルくんなんかは、わたしの好み云々とは関係なく「真ん中にするしか能がない」と思う。脇にいられても、へたっぴで邪魔だからな。彼はセンターに立つと、実力を越えて輝き出す。それが持って生まれた華ってやつだろう。
 コム姫にはそれを感じない。残念ながら。未だに、感じないんだ。
 だけど今回は、見直した。歌は格段にうまくなっているし(それでも下手だけど・笑)、トップとして「見せる」ことを意識してそこにいることが、わかるからだ。
 そして……楽の挨拶を聞きながら、「なんとも変な人やなあ」としみじみ思った。ひょうひょうとした、とらえどころのない人。
 イメージとしては、「アタマのいいたかこ」みたいな(すまんな、たかこ・笑)。
 ものすごくアタマのいい、しかも喋ることの「できる」挨拶だったので、おどろいたよ。
 言うならば……「男前」だった。
 あれえ? コム姫ったら、「姫」なのに、なんなのその男らしさは。
 三兄弟の末っ子で、魔性の美少年やっていたときとは、明らかにチガウ?

 感動的だったのは、カーテンコールのとき。
 コム姫は退団者の牧勢海くんに、胸のピンマイクを貸してあげていました。
 胸のピンマイクだよ。
 つまり、コム姫の胸に固定されているマイク。
 そのマイクで話すためには、牧勢くんはコム姫の胸に顔を埋めるよーにしなければ、なりません。
 幕が上がるなり、牧勢くんが腰を折ってコム姫の胸に顔を押しつけているので、なにごとかと思った(笑)。
 胸のマイクを貸してあげるトップスターなんて、はじめて見た……。
 その男前な態度はナニ、包容力はナニ?
 姫のくせに!(笑)

 一皮むけたね、コム姫。

 いつか、真ん中が似合うようになるのかな。
 それはそれでいいんだけど、わたしの愛した魔性の美少年は消えてしまうんだね。
 さみしいなあ。

          ☆

 今年もまた、「1万人の第九」の季節がやってきた。
 忙しい日だわ、いつものメンバーでいつもの場所でいつもの先生のもと、練習開始。

 そしてまた、いつものよーに、ぜんぜん歌えません……進歩したい……。

 
 昨日に引き続き、『クロックタワー3』の感想。
 とゆーのも、花組青年館の並びに行く前にプレイしていたのよ。並びに出かける時間の関係で、寝るのはあきらめていたしな。
 第4話の後半から、エンディングまで一気にプレイしました。

 痛切に思ったのは、スタッフが「恐怖をはき違えていること」だ。
 あるいは、わたしが感じる「恐怖」と、スタッフの求める「恐怖」が別のモノだったということだろう。

 全5話構成のこのゲームでわたしがおもしろかったのは、2話まで。3話以降は別。

 2話までの物語にあったのは、「精神的なこわさ」だった。
 見知らぬ夜の街を、自分の足で歩く恐怖。
 美しい町並みなのに、あちこちに残る惨劇の痕。
 死体や血痕から、そこで起こった出来事を想像し、ぞっとしながらも次へ進む。
 これって、精神的な恐怖なのね。人間に想像力があるからこその、こわさ。なにも痛い目には遭ってないにもかかわらず、こわい。
 現れる殺人鬼も、ギリギリ現実の範疇。「まさか、そんな」と思わせる、現実の陰惨な事件の凶悪犯レベル。実際、街で拾う新聞に「連続殺人」として事件が載っていたりする。
 現実だからこそ、こわい。
 幽霊も出てくるし、殺人鬼もどうやら生身の人間ではなく化け物らしいけれど、それでもまだリアリティは存在している。殺人鬼が化け物であっても、それに襲われるのは現実世界の人々だから。ふつうの生活をしている人たちだから。
 日常を徘徊する殺人鬼という恐怖。
 ゴシックロマンに満ちた前世紀のロンドンの街並みに、それはとても美しく融合する。

 ところが、3話以降はがらりと変わる。
 ここでの恐怖は、「追い立てられる恐怖」だ。「実際に痛めつけられる恐怖」だ。
 精神ではなく、「肉体的な恐怖」。
 舞台も場所もどーでもいい。とにかく素っ頓狂なクリーチャーが出てきて、奇声を発しながらヒロインを追いかけ回す。攻撃する。
 ゴシックロマンはどこへ行ったのおぉぉ?!
 魔と日常のあやうい均衡は?
 精神的などきどきは?
 現実にいるかもしれない、とぞっとさせる「殺人鬼」は?
 ……すべてを物語自身がかなぐり捨て、ただの悪趣味なアクションものに変貌。

 先にプレイしていた弟が、
「今、第3話の途中。斧男があまりにバカなんで、途中で止まってる」
 と言って、ソフトを貸してくれた。
 第1話の殺人鬼・ハンマー男も第2話の硫酸男も、十分バカだったのに、なにを今さらなことを言ってるんだ、と思ったよ。
 でも、プレイしてみて納得。
 あまりにバカだ、斧男。
 第2話までの殺人鬼たちは、とんでもない外見をしてはいたけれど、それでもぎりぎり現実の範疇。霧のロンドンを徘徊していてもなんとかOKだった。
 しかし、第3話の斧男は、現実なんかどこにも残ってなかった。異世界ファンタジーRPGのモンスターと同じ。しかも陽気な電波系。舞台もロンドンから、異世界に移転。
 あの、コレ、こわいっすか……? ただのバカに見えますが……。

「3話の斧男にしろ、4話のシザーズ兄妹にしろ、うざすぎ。もっとじっくり探検したいのに、すぐにあいつらが奇声あげながら出てきて、なにもたのしめない」
 はじめて歩く城の中とか、じっくり見てみたいじゃん。ぞっとしたいじゃん。精神的なこわさを堪能したいじゃん。
 なのに、精神的にぞっとしているヒマがない。殺人鬼が陽気にバカ丸出しに現れるので、逃げなくてはならない。
「スタッフはアレを『恐怖』だと思ってるんだろ」
 弟は言い捨てる。
 バカ丸出しの敵(露出狂の変態を想像してくれてOK。そいつらが、「ジョキジョキ〜〜(はぁと)」と叫びながらハサミを振り回したりするノリ)が突然現れて追いかけ回す、アレがスタッフの求める「恐怖」。
 精神的にぞっとさせるのではなく、肉体的にびっくりさせる。それが、このゲームでいうところの「恐怖」。
 びっくり、てのは別に、「恐怖」ではないんだがなあ。
 後ろから「わっ!」とおどかされたら、そりゃドキッとはするけど、ソレ恐怖チガウやん……。

 でもそもそも、『クロックタワー』シリーズというのは、そういうゲームなのかもしれない。
 シザーマンに追いかけられるゲームらしいから。

 それでもまあ、1回限りならどこでびっくりさせられるかわからないから、素直にびっくりどっきりしながらプレイ。そこそこたのしめる。
 でも、2回目はいらねーや。

 それにしてもアクションというのは、自分が成長しなければ勝てないんだよね。
 何度も死んで、自力でコツをおぼえ、腕を上げていく。
 ……だからわたしはへぼゲーマーなんだってば! アクションはダメなのよ、勝てないのよ!
 ラスボス相手に3時間……。
 戦い方を覚えたから、もう一度やればもっと楽に勝てると思うけど、2度と戦いたくないわ。

 2話まではたのしかったし、3話以降もストーリーにツッコミ入れつつ、それなりにたのしくプレイしました。

 『クロックタワー3』からの教訓……「所詮、似たもの家族」。
 正義の女戦士の家系であるという、アリッサの血脈。どうやら彼女の一族は、いろんな意味でやばい人ばかりみたいです。
 悲劇というより、立派な喜劇。
 ツッコミを待つ、捨て身の誘い受ファミリーです。

 そして、花組青年館の発売日。

 結果は、聞かないでください……るーるーるー(涙)。

 
 『クロックタワー3』終了。
 ラスボス倒すのに3時間かかった……指痛え。

 ツッコミどころは多々あれど、たのしかったよ、『クロックタワー3』。

 やはり、いちばんのツッコミは、マニュアルの最初のページを見開き使って、

 監督 深作欣二

 とだけ書いてあることかしらね。

 最初に見たとき、爆笑しましたわよ。
 だってコレ、「ゲーム」なわけよ。そしてコレは「ゲームの遊び方説明書」なわけよ。
 なのに、ゲームの操作説明はまったくせずに、「監督 深作欣二」よ。
 ゲームとしてまちがっているとしか、思えない。

 で、さらに次のページ。
 見開き使って、深作監督のプロフィール。
 だからこれは「ゲームの遊び方説明書」であって……以下略。

 さらに次のページ。
 ゲームを作った人たちが「写真付き」で解説されている。
 だからこれは「ゲームの遊び方説明書」であって……以下略。

 その次のページ。
 シーン紹介として、ゲームの画面写真が載っている。
 まあ、これはまだいい。なくてもぜんぜんかまわないものだがな。

 次のページ。
 ストーリーの冒頭部分の紹介。舞台がロンドンであることの説明。……まあ、こーゆーのはどんなゲームにも載っている。
 問題は、次だ。

 シナリオ担当者(もちろん写真付き)が「テーマを語る」。
 なんだそりゃ?
 だからこれは「ゲームの遊び方説明書」であって……以下略。

 ゲーム・クリエイターが説明書でテーマを語るなよ……。
 それがどんな作品であれ、作者自身がテーマを語ると痛くて寒いだけさ。だって、テーマというのはその作品に触れた人が、作品のなかから独自に感じ取るものであって、作者が解説するのはかっこわるいことこのうえない。作品でテーマを表現する能力がないから、口で言ってます、みたいな。
 しかも、ネタバレしてるし。
 これは「ゲームの遊び方説明書」だから、ゲームをする前に読むモノだ。小説の「あとがき」とはわけがチガウ。
 作者の「テーマ語り」を読んだら、オチもラスボスもなにもかもわかります。……そうでなくてもバレバレの話だけど、説明書で書く必要はないだろう。
 もちろん、雑誌のインタビューだとかコラムだとかでテーマを語るのは別よ。それはそれでひとつの仕事。ただ、作品本体に「テーマはこれこれです。すごいでしょ?」と書くのはやめろ。恥ずかしい。

 めくってもめくっても、「ゲームの遊び方説明」が出てこないんだ、この説明書。
 2ページも使って「レビュー」まであるし。
 作品本体に、「こんなにすばらしい作品なんですよ!」って宣伝エッセイが付いてるの。

 なんつーか……。
 スタッフの顔が見える作品ってのは、総じてヘボ度が高くなるよなあ。

 たとえば書店でさ、「あら、この本おもしろそう」と思って買った途端、
「お買いあげありがとうございます、それ、わたしが書いたんですよ! すごくおもしろいんですよ! テーマは**で、苦労した点は**で……、とくにここ! ここは味わって読んでくださいよ! いいこと書いてあるんだから!」
 と語られたら、引くよねえ?
 そんなこと言われなくても、おもしろければ内容で評価するよねえ? むしろ、作者がしゃしゃり出て語れば語るほど、「言わなきゃわかんないよーな駄作なのか?」と疑うよねえ?

 内容で勝負しようよ。
 大切に作った作品だからこそ、語りたくなる気持ちはわかるけどさあ。

 深作監督を持ってきた以上、彼を持ち上げなきゃならない、てのもあるのかね。
 ゲームの遊び方説明書ではなく、「映画のパンフレット」を意識した作りだってのも、わかるよ。
 でもさ。
 コレ、「ゲームの遊び方説明書」なんだよ。映画のパンフレットじゃなく。
 映画みたいにしたかったのなら、2冊に分ければよかったのに。「ゲームの遊び方説明書」と、おまけの「作品解説パンフレット」。
 1冊のなかでやるから、「自分の作品を自分で褒め称える寒い説明書」になるんじゃん。

 とまあ、ゲーム以前にツッコミどころ満載。

 もっともわたし、マニュアルあんまし読まない人なんで、あとから読んであきれたクチなんですが(笑)。
 基本操作だけチェックしてプレイして、「そんなことできるの? あたし知らなかったよー!」と言って弟によく「マニュアル読め。マニュアルに書いてある」と言われるなあ。

 んでもって、ゲーム自体の感想。
 いちばんの印象は、

 キャラクターの動きがリアル

 ってこと。
 深作監督が演出した生身の人間をモーションキャプチャリングして、作られているらしい。
 これほどリアルなキャラクタを見たのははじめてだ。
 リアクションのひとつひとつが、すっげーリアル。
 そしてヒロイン・アリッサの声がまた、すごいリアル。バーチャルでありながら、生身のような質感。声優さんなのか役者さんなか、ぜんぜん知らないんだけど、うまい人だー。

 ヒロイン・アリッサはなかなかいいキャラだ。
 なんせ「ゲームの遊び方説明書」において、いろいろ語られている。クリエイターによる「設定秘話」が載ってるの。こうこうこうだから、こうしました、てな。テーマとはべつに、キャラまで口で説明してくれてるのさ。
 それによると彼女は「清純な乙女」らしい。
 たしかに見た目はそうだ。しかし、実際にゲームをプレイしてみると……。

 ふつーの女の子のハズのアリッサは、魔のモノとの戦いに否応なくまきこまれていく。
 第1話では、なにがどーなってるのかわからないものの、彼女は前向きに化け物と戦い、勝利する。
 そして第2話。アリッサが魔のモノと戦うことになったのは、すべて宿命だったことが判明。彼女の家系は「正義の女戦士」の家系で、大昔からずーーっと魔のモノと戦い続けてきたのだ。
 ここでアリッサ、いきなり開眼。
「わたし、正義の味方だったんだわっ」
 ええっ? ふつーショック受けませんか? これからずっと化け物と戦うのよ? しかも、大人になったら次の戦士を生むために、結婚して女の子を産むことまで宿命づけられているのよ?
「よーしっ、化け物倒しちゃうぞーっ、だってわたし、正義の味方だもんねーっ!!」
 やる気満々。
 清純な乙女って……。
 こーゆー「戦う宿命」モノの主人公ってさ、最初はまず、その宿命に悩まないか? 正義の心がないわけじゃなくて、人としてさ……。それまでふつーの中学生でしかなかった女の子が、ある日突然、
「あなたは正義の女戦士です。あなたの一生はすでに決められています。さあ、化け物と戦いなさい!」
 って言われたら、悩んだりヘコんだり反発したりするよねえ?
 それでも最後にはその宿命を受け入れ、世界の平和のために雄々しく戦ったりして、感動を呼ぶのがセオリーよね?
 アリッサって……いいキャラだ……。
 第2話からすでに、やる気満々、「かかってきなさい!(鼻息)」状態。
 清純な乙女って、すげえなあ。笑わせてもらったわ。

 全5話構成なんだけど、2話まではとても好みで、おもしろかった。
 アリッサの自宅にはツッコミどころが多すぎて笑いナシでは語れないが、彼女が魔のモノと戦うことになる街は、とてもロマンがあった。
 20世紀半ばのロンドンの街と、夜と霧と殺人鬼という設定は、とても好み。
 昭和の戦後すぐぐらいまで存在した、魔と現実が融合した摩訶不思議空間の香りがするのね。
 石畳の街を自分で歩く高揚感。夜の闇と、街灯の明かり、ぽつぽつと放置されている死体と血のあと。鳴り響くピアノの音。彷徨い続ける、思い…
 コントローラを握っていたら、電話が鳴った。
 日付変更線まであと少し、という時間。
 こんな時間に我が家に電話をかけてくるのは、オレンジかWHITEちゃんのどちらか。でもきっと、今回はWHITEちゃんだわ!

「はい、緑野です」
「こんばんはー」
 名乗らないけどやっぱりWHITEちゃんでした。なんでやっぱりかというと、明日のことで連絡取らなきゃなと思っていたから。

「明日はどうする?」
「は? なに?」
「だから明日」
「明日? なにかあったっけ?」
 WHITEちゃんの声があせりだす。ほんとうに通じていない。
「へ? 明日じゃなかった? 並び」
 彼女に通じないから、わたしもあせりだす。
「並び? なんかあった?」

「だから、花青年館」
「…………ソレ、明後日」

 すみません。
 わたしが勘違いしてました。土曜日だって思い込んでたんだよーっ。

「あぶなかったっ、あたし、明日並びに行ってたよ!」
「行ってもたぶん、孤独だったと思うよ……誰もいないから」

 WHITEちゃんの用件は
「今から行くから!」
 ということでした……。

 どーせ「明後日」並びで会うのに、日付変更線近くなってからウチにくるのね。それって大変じゃないかい、君が。わたしはぜんぜんかまわないけど。
 WHITEちゃんがウチの来るのはいつも夜中。夜行性?

 WHITEちゃんはどこぞの懸賞で当てたという、豪華なペットフードをうちの猫にプレゼントしてくれました。
 猫がソレを食べるところを見たかったそうな。
 粗食で生きているうちの猫は、そりゃーもーものすごい勢いで豪華なエサに食らいついてました。よかったな、猫。WHITEちゃんに感謝しろ。
 つーか人見知りなうちの猫は、わたしの他にはいまいちなつかないんだが、唯一例外としてWHITEちゃんにはなついているのだ。何故。WHITEちゃんはたぶん、大して猫好きではないと思うんだが。

 いつものよーにいろいろくっちゃべって、WHITEちゃんが帰っていったのは午前3時前。

「んじゃ明後日」
「明後日ね」
 別れの挨拶は、次の並びの日の再会を約束する言葉さ(笑)。
 雨が降る……。

 今日はきんどーさんとデート。
 持っていくモノは前日に用意したし、一緒に見る映画も決まったし、あとはでかけるだけよ!

 外は雨……。

 きんどーさんとのデートは、いつもの映画館。
 つまり、自転車で片道40分の場所。

 わたしは悲しくメールを打つ。

「雨が止まない。映画館まで行けないよー」

 きんどーさんからの返事。

「うん。今日は無理だね」

 デートだったのにー。昨日から用意してたのにー。
 つーか、映画も見たかったのにー。
 わーん。雨のバカー。

 ヒマができてしまったので、親の家に猫を連れて遊びに行ったら、そこでまさかの大雨に遭遇。
 窓の外は、滝。
 今度は帰るに帰れなくなった。
 わたしひとりならまだしも、猫を肩に乗せて(猫は外出時には必ずわたしの肩に乗る)帰れるよーな雨量じゃない。
 ぼーぜん。
 無為な時間が過ぎる。
 こんなことなら、おとなしく自宅でコントローラ握っていればよかった……。

 弟は帰宅するなりわたしに、
「で、『エコーナイト』はどうよ?」
 と聞いてきた。
「『エコーナイト』じゃなくて、『クロックタワー3』でしょ?」
「でも似てるだろ」
「……似てる」
 ちゃんと最初のボス戦までクリアしましたさ。死にまくりながらな。

 
 わたしはへっぽこゲーマーである。
 ゲームは大好きだが、とにかくへたっぴだ。
 そのくせ、細かいことが好きだったりする。コンプリートとか完全攻略とかが大好きだ。
 アクションは超絶苦手で、なにもできない。死にまくる。つまり、時間がかかる。
 かといってロープレやシミュレーションなどは、ちまちまコツコツ積み上げていくのが好きだったりする。つまり、時間がかかる。
 なにをやっても、ひとより遅い、時間がかかるのだ。
 なんせ、へっぽこだから!

 なのに弟ときたら、どんどん新しいゲームを買ってくるのよ!
 自分はさくさくクリアできるからって!
 転勤して仕事が楽になったからって!(以前の仕事が過労死必至レベルだったから、たんに人並みの仕事量になった程度だが)

 遊ぶ時間ができたことと、転勤先の周囲にゲーム屋だの大型書店だのと彼の好きな文化を販売する店が多くあるらしく、最近弟は機嫌良く気前よくいろいろ買ってくる。

 ついこの間は、『バイオハザード』の初版を買ってきた。
 いちばん最初の『バイオ』だ。まだあんなに売れるとも、シリーズ化して一大サーガになる果てることも、爪の先ほども考えられていなかった、初期設定版。
 ふたりで説明書を読んだんだが、それだけですでに爆笑だった。
 弟はすぐにプレイして、「腰が抜けそうなほど笑える」と言っていた。現在の壮大な物語から考えると、つじつまが合わなさすぎておもしろいらしい。

「とりあえずジル編はクリアした。まずクリス編のOPムービーを見たあとに、ジル編をプレイしろ。笑えるから」
 という注釈付きで、『バイオハザード初版』はわたしの部屋に届けられた。

 わかった、プレイしてみるよー。つーかまず、メモリーカード探さなきゃ。PS1だろ? 空きブロックあったかなあ。

 そうこうしているうちに。
 本日、さらにもう1枚、新しいソフトが届けられた。

 弟、また買ってきやがんの。

 今度のは『クロックタワー3』だ。

「『クロックタワー』シリーズって、やったことないよ。そこそこ人気あったよね?」
「ぼくもやったことない。でも、パッケージやファミ通の記事ではけっこういい感じ」
「『1』や『2』にくらべて、『3』ってどうなの?」
「シリーズ通してのファンからは、ブーイングがあるみたいだな。基本的に『クロックタワー』は敵から逃げるスリルを味わうゲームだから。『3』は敵と戦うらしい」
「ええ? 戦ったら『バイオ』にならない? メーカーも同じカプコンだし」
「レーベルが同じでも、制作チームが同じということにはならんから、それはどうかな? ま、過去作品をやってないから、『3』もふつうにたのしめるんじゃないかな」

 てな会話をした数時間あとに、弟がわたしの部屋に現れた。
 『クロックタワー3』を持って。

「とりあえず、ひとつめのボス戦までやった。ねーちゃんもそこまでやれ」

 ……わたしも今すぐやるんですか? ソレ、決定事項なの?

 というわたしはそのとき、ニンテンドウ64のコントローラを握っていた。
 ええ、Be-Puちゃんから借りたままの『オウガバトル64』を1からやりなおしてるのよ。前のデータは古すぎるから捨てて、現在のヅカ事情でやりなおし。
 最強は水くん率いるチーム。ウィザードの水くんと、クレリックのかなみちゃんがいいコンビでね。
 ファランクスのケロは、クレリックのトウコと組んでラブラブ道中かと思いきや、ウィザードのゆうひも同じチームなので、まあトライアングル(笑)。てゆーか、ケロはアライメントがカオス寄りなキャラなので言動が荒くて……ウバルドにーさんのやうだわ。
 アサコはアライメントがロウなのでめっちゃ礼儀正しい。とゆーのも、騎士様オサとずっとコンビを組ませていたせいなんだよねえ。
 そしてふと気づくと、たかこがいない……お花様もいない……何故? 水くんとかなみちゃんがいて、どーしてトップコンビを作るのを忘れてるの?! あと、エミクラがいるのにリカちゃんがいなかったりな。チャルさんとか越リュウとかまでいるのに! なんか妙な面子で戦争してるわ、わたし。

 てな取り込み中のわたしの横に立って、弟は『クロックタワー3』を語る。

「感触は『バイオ』というよりも……アレに近いな」
「アレ?」
「……『エコーナイト』」

 はあっ?!

「『バイオ』に似てたらソレ、名作かもしんないけど、『エコーナイト』に似てたりしたらソレ、クソゲーってことぢゃ……っ?!」
「うん、でもなんか、あちこちすげー似てる……」
 弟の顔は微妙に笑っている。
 『エコーナイト』。よりによって『エコーナイト』ですか!
 ファミ通のクロレビで何故か高得点取って殿堂入りしていた、とってもなまぬるい笑いをもよおすホラーゲーム。
 愛すべきクソゲーというか、ヘタレをたのしむゲームというか……わたしたちはけっこー好きだったりするが、アレは客観的に言ってかなりヘタレ感やびんぼー臭さが漂うゲーム。

 弟はわたしの部屋から動こうとしない。
 どうやら今すぐわたしに、彼の目の前で『クロックタワー3』をやってみせろというつもりらしい。
「あの、でも……とりあえずこのマップが終わらないと、セーブできないし」
 だからわたしは今、64やってんだよーっ。『オウガ64』てばリアルタイムバトルだから、一瞬も目が離せない、反射神経必至のゲームなんだってば。手が離せないんだよ、他のゲームどころじゃないんだってばよ。
 弟はすごすご帰っていきました。『クロックタワー3』をわたしに渡し、「明日までに最初のボス戦までやれ」と命令して。
 しかも。
「かなりアクションはシビアだから、ねーちゃんにできるかな(にやり)」
 と、捨てぜりふを残して。
 むっきー。
 明日の夜、弟が仕事から帰るまでに言われたところまでやっておかないと、なんか言われるんだわ! どーせわたしはへっぽこだけど! 弟もわかって言ってるんだろーけど!

 てゆーか弟よ。
 あたしはあんたの何倍も時間がかかるんだってば、なにごとも。
 この間渡された『バイオハザード初版』だってまだ、1度もプレイしてないのに!
 このうえ『クロックタワー』ですか?
 終わらない、終わらないよそんなの!

 そもそも、『オウガバトル64』がちっとも進みません! まだ第1章なのに、ひとつのマップに5時間とかかかってるんですけど? 尋常でないほど遅いよね?! コレ、いったい何章まであるの? 終わるの?

 うわーん。
 ゲームの腕が欲しいよー。

 とりあえず、『クロックタワー3』これからプレイします。

 
「ちょっとぉ、遊び終わったらDISC元にもどしておいてよ! 『バイオ』をやろうと思ったら、“DISC1を入れて下さい”ってメッセージが出るのよ! アンタはもうDISC2だけど、あたしはまだ1なんだからね! いざ戦うぜ!な気分に水を差されるのよ、DISC変更にごそごそするのって!」

「同じ『バイオハザード』のDISC1と2なんて、かわいいもんじゃないか。ねーちゃんこそ、遊び終わったらDISCを元に戻せ。『バイオ』をやろと思ってスイッチ入れて、『どうぶつの森+』がはじまる、あのとほほ感……マジ、腰砕けるぞ」

 緑野家のゲームキューブでは、『バイオハザードCODE:Veronica』(DISC1、2)と、『どうぶつの森+』がプレイされていた。
 片や血みどろ殺し合い、片やほのぼの癒し系。
 1台のハードと、2組のソフトが2軒の家を行き来する。

 
「萌えがない」
 と、オレンジは嘆く。

 東京のオレンジの部屋で、わたしたちがくっちゃべっていたときのことだ。
 オレンジは仕事中、わたしにはずっと背中を向けている。わたしはお菓子をつまんだり、寝転がったりしながら勝手にくつろいでいる。
 仕事中ではあるが、お喋りはできる。まだオレンジが大阪にいたときも、わたしはよく喋りに行っていた。
 わたしはのーなしなので、マンガの仕事は手伝えない。仕事をする彼女の後ろで勝手に喋るのみ。
 オレンジの言葉を信じるならば、そうやって部屋に誰かがいる方が仕事がはかどるのだそうだ。ひとりだと、仕事以外のことをしてしまったりするから。
 見張りみたいなもん? まあ、彼女がわたしに気を遣わせないために、そう言っていない保証はないが。

 とにかく、そーやってわたしたちはえんえん喋っていた。

「萌えがないよー。次のジャンルが決まらないよー」
 と、オレンジが嘆くので、わたしはいろいろと例を挙げてみる。

「ねえねえ、『いでじゅう』は?」
「『いでじゅう』?! どーやってヤるのよ、そんなもん!」
「だから東×部長でー。ほら、ヲトメが大好きなパターンじゃない、受のことを大好きで強引な美形の攻と、かわいい受の、えっちアリのラヴラヴがデフォルトで描けるぞ」
「無理だーっ、『いでじゅう』は無理だー。つーか、原作からすでにアレなものをどーしろと」
「えー、だって部長はえっちの最中の記憶がないんだからさあ。わたしならせつない系のラブストーリー書けると思うけどなあ」
「アタシの絵で、どうしろと……」
「あっ、それなら『勝手に改蔵』は?」
「ますますできるかいっ、不可能じゃ! つーか、どんなカップリングがあるっていうのよ」
「んー、やっぱ砂丹×改蔵? 作者も狙っているよーだし? ほら今、砂丹くん、山田さんとふたりで地球を守って戦ってるし」
「コミックス読者にわからん話をするな! オレの読んでる時点では、そんな話出てない!」
「そーいや大昔に買った『勝手に改蔵』の同人誌は、改蔵×地丹だったなあ」
「えっ、どーやんのソレ。可能なの??」
「せつない系のロマンスだったよ、バリシリアスの」
「改蔵と地丹で何故?!」
「改蔵が地丹に片思いしてるの。オレにないものを持つオマエ……みたいな感じで」
「改蔵と地丹で……。人間の想像力って……」
「それならいっそ、『クロマティ高校』は?」
「『クロ高』かよっ?! 誰と誰でっ?!」
「いや、とくに思いつかないけど……でもアレ、男しか出てこないし。『テニプリ』以上に、カップリングし放題じゃん?」
「確かに野郎しか出てこないけど。やほひになり得るのか?」
「誰かが受かどうかってことで、レギュラーメンバーたちが、会議を開いて相談すると思うわ!」
「そんでもって、名前忘れたけど、あのものすごーく影の薄い、いつもいちばんマトモなこと言ってる彼は、やっばりマトモなことを言うけど、影が薄いから無視されるのね?」
「そうよ。あーでもないこーでもないと真面目に相談したあげく、話が脱線して戻ってこなくなるのよ。そして翌週に『先週のつづきだが……』ってまだ、会議PART.2をやるのよ」
「それでも建設的な話はまったくできず、結局受も攻も決まらないまま……」
「次週では別の話になってるわね……アレ?」
「やほひになってねーよ」
「マンガは無理かなあ。アニメとかは? わたし今、『カレイドスター』のユーリ様の乳首に萌えてるけど!」
「『カレイドスター』は1話を見て、見捨てたよ。で、なによその乳首って」
「いや、ユーリってさあ、カレイドステージのトップスターなわけよ。金髪碧眼の王子様キャラ。ヒロインが落ち込んだときにさりげなくはげましちゃったりする、こそばゆいキャラ。
 ただのツラだけキャラかと思ってたら、突然復讐に燃える悪のプリンスに変身して、今はヒロインたちの敵になってるの。んで、王子様だったときは一切脱がなかったのに、悪役になってからは、露出度高し。裸の胸には、わざわざ乳首が、色をかえて描いてあるの。男の乳首を、いちいち色かえて描くか、ふつー?!」
「……変なアニメ」
「ユーリ様が出てくるたびに笑えるよ。スタッフはたぶん、ユーリのことを“セクスィ〜”だと思って描いてるんだろうな、ってとこが……いや、それはともかく『カレイドスター』って早い話が『ガラスの仮面』だから、ヒロイン・マヤとトップスター亜弓さんとのレズ萌えがたのしいぞ」
「いらん。そんなレズはいらん。それくらいなら、『すいか』を描くわっ。馬場@小泉今日子×早川@小林聡美で!」
「早川受?! アンタのことだから、馬場ちゃん受かと思ってた。片思いする受が好きなはずでしょ?」
「受のことを愛している攻の話よ。女の子の好きなパターンじゃない!」
「馬場×早川を、女の子はよろこぶだろーか……ってゆーかそもそも、『すいか』なんて地味なドラマ、誰が見ているというんだ」
「でももし『すいか』本出して、表紙に『注・やおいです』って書いたらみんな、誤解するだろうねえ」
「やほひ、っていうとふつー、男×男を想像するからね」
「女×女も、アタシ的にはやほひなんだけど。ハートが同じだから」
「しかし、『すいか』で男×男っつったら……」
「男キャラいないもんな、『すいか』。間々田さんと……ほら、北海道に行った男と……あとバーテン? ぐらいしか」
「どうあがいても、間々田さん絡みになるよ」
「間々田さんのやほひ! み、見たくねーっ」
「見たくねーっ」

 萌えがなくては、オタクは生きていけません。
 息をするように、萌えは必要なのです。

 わたし?
 わたしはホラ、ヅカがあるから。オレンジほど萌えに飢えてません。

 飢えてるのは、ヅカホモパロよ。
 いわゆる妄想系じゃなくて、作品パロ。
 『王家…』のパロとか、誰か書いてくれよお。

 
 オレンジの部屋でくだをまいていたら、チェリさんからメールが来た。
 来年のカレンダーの面子が発表になったとのこと。
 卓カレがトウコ/ケロ、ステカレがワタル/ケロ。
「カップリング? 表裏は攻受のこと? いや、トウコは受だけど!」
 ひとりで興奮するわたしに、仕事中のオレンジ(彼女はマンガ描き)は「へー、ふーん、ほー(棒読み)」の合いの手だけは入れてくれる。
「てゆーか、ゆーひはどうなの、何月なの? 次で退団じゃないわよね?」
 基本的にケロ情報しかくれないチェリさん(笑)に、わたしはひとりでぎゃーぎゃー言いながらメールを返す。親切なチェリさんはすぐにわたしの知りたい情報を送ってくれました。
「よかった、ゆーひの卓カレが9月ってことは、次作退団じゃないってことだわ。カレンダーっていうのは、そーゆー意味でも重要でね……」
 解説するわたしに、オレンジは「へー、ふーん、ほー(棒読み)」、彼女はヅカに興味がない。
「よかった、セナゾラが見られるんだわ。セナゾラっていうのはね……」
「へー、ふーん、ほー(棒読み)」
「しかし卓カレ、あさこ/ゆーひってどういうことよ劇団! やっぱり表裏でカップリング? 狙ってるの?」
「へー、ふーん、ほー(棒読み)」
 ……いやいや。相方がヅカに興味なくても、わたしはひとりで会話してます。なんてダメ会話。

「あとねー、10月の終わりにもひとりで星東宝と花青年館観に来て、11月のアタマにはWHITEちゃんとふたりで星東宝観にくるよ。それから12月もたぶん、星青年館のために来ると思う」
「……アンタ、いったい年に何回東京来るの?」
 知りません。

 ということで、星組東宝初日『王家に捧ぐ歌』だ。
 いや、どーしても観たかったからさー。千秋楽はとてもチケット取れないんで、それならせめて初日行っとくか!と。

 ちょっとちょっとケロちゃん、なんですかあーた、その髪型はっ。
 フィナーレの黄色い男5人集のことです。
 ムラではずっとぴっちりオールバックだったケロちゃん。前髪あります、後ろ髪もあります。いきなり「美少年ヘア」です。
 はいー? なにいきなり、若い髪型してんの?!
 うきゃー、すてきぃ。

 と、いきなりフィナーレ、いきなりケロの話題かい。
 いちばんわたし的に、ポイントの高かった出来事なもんで(笑)。

 わたしはつくづく、『王家に捧ぐ歌』が好きなんだと思った。
 もー歌も台詞も展開もおぼえているが、それでも観ている間はずっとわくわくしている。どきどきしている。そして、泣ける。
 感情移入のポイントは、やっぱラダメスかなあ。彼が愛すべきキャラクターであるがゆえに、物語への入り方が深くなる。
 ラダメスもアムネリスも、そしてたぶんウバルドも「世界」も、同じ道をたどっていくんだね。
 戦いと奪取だけが生きる摂理だと信じていた者が、アイーダの信念に触れて、変化する。戦いをやめ、他者と手を取り合い思い合って生きること。まずラダメスが変化し、次にアムネリスが変化する。世界一の強国の元首の変化は、すなわち「世界」の変化につながる。
 もちろんそれは、きれいごとだけど。
 人間の歴史が続く中で、戦いが絶えることなんかないけれど。
 わかっているけれど、わたしはそのきれいごとに涙する。
 そうでなきゃ、タカラヅカなんか好きになってないよ。
 嘘だってわかっていたって、ありえないってわかっていたって、心は欲するのさ。
 うつくしいことを。

 「わかっている」気持ちよさにひたるために、『王家…』を観に行くんだと思うよ。

 最初に観たとき盛大に引いた、「すごっ、すごっ、つよっ、つよっ」も、今では愛してるもん(笑)。

 すっかり聞き慣れてしまっていたから、あちこち音楽や台詞のテンポがちがうことにとまどいました。
 わざとだよね?
 全体的に、メリハリがついている。
 ためるところはためて、巻くところは思いっきり巻いてる感じ。
 うわー、えらくスローテンポに演技してるなー、これで同じ上演時間で終わるんかいな、と思ったら、あるシーンではとってもアップテンポ。
 なるほど、これなら帳尻は合うのかな。

 ムラと東宝の変更点で、思わず爆笑しかけたのは、アムネリス@檀ちゃんの「誘惑のポーズ」がなくなっていたことよ!!

 ムラ・バージョンで、わたしたちのツボをついていた、あの謎のポーズ!!
 2幕の最初の方で、「あなたは誰を愛しているの」とラダメス@ワタルに迫るアムネリス。憂い顔でラダメスにつかまり、胸を反らしてポーズ。
 ……なにをしているのか、最初はほんとーにわからなかった。わたしだけではなく、WHITEちゃんも同じように「?」マークをとばしていた。
 だがあるときCANちゃんが言ったんだ。
「アレは誘惑してんのよ!」
 憂い顔で胸を突き出すことで? さあこのワタクシにむしゃぶりつきなさい!てか?!
 そーやって捨て身で誘惑してるのに、ラダメスはさっと身を引き、指一本触れてくれないのね……ってゆーかアムネリス、そんなまだるっこしい誘惑じゃラダメスに伝わらないってばっ。見ているわたしたちにすら伝わらなかったんだから、あののーみそまで筋肉男にわかるかっつーの!
 爆笑。
 以来、わたしたちはよく『王家…』ごっこをして遊ぶのだけど、アムネリスを表現するときは必ず「誘惑のポーズ」を取ることになっている。

 その、わたしたちの大好きなポーズが、なくなっていたの!! 一大事よWHITEちゃん!
 アムネリスはそこで胸を突き出す代わりに、顎をあげ目を閉じて、「キスしてもよろしくってよポーズ」を取るのよ。
 「誘惑のポーズ」の次は「キスしてポーズ」かいっ。マジで吹き出しかけて、止めるのに苦労した。
 ……大変だな、檀ちゃん。がんばれー。

 これだけ露骨だとさすがに、ちゅーしてポーズの女を振り払う男の真意がよく伝わりますな。はい。
 ラダメス、漢だねえ。

 1階ドセンターに坐っていたので、ケロだけ見るのはやめよう、オペラグラスはできるだけ使わないで、全体を観よう、って心に誓っていたのよ。
 だってわたし、これだけの回数観ているのに、まだ一度もカマンテ@まとぶんをまともに見たことないのよ? まずいじゃん、いくらなんでもソレ! サウフェ@すずみんはそれでもまだ、ちょくちょく見てるんだけど、カマンテは見たことナイ。
 ……ごめん、まとぶん。またいつか、チガウ公演でなら、君のことちゃんと見ると思うわ。ケロと一緒に出てくる以上、今回はまとぶんを見る余裕がない〜〜、うわーん。

 てことで、またしてもオペラグラスはケロ限定。
 いろいろツボが……(笑)。

 1幕の半ば、エチオピア・チームみんなでアイーダ@トウコをいぢめるところ。家臣どもに詰め寄られ、思わず逃げ出すアイーダ。下手のシーンね。
 ここ、最初のウチはふつーだったよね?
 でも公演を重ねるたびにエスカレートしていき、逃げ出したアイーダは何分の1かの確率で、後ろに立っているウバルドにぶつかる。
 ウバルドにーちゃんはそれに味を占めて、わざとアイーダがぶつかってくるだろう位置に立つようになった、とわたしは勝手に思っておりますが。
 でもなウバにーちゃん。

 はじめから手を広げて、アイーダが飛び込んでくるのを待ってたら、あきまへんがな。

 東宝初日。ウバにーちゃんは、アイーダが逃げ出す前から、抱きとめる気満々でスタンバッてましたよ……涙。

 文字数足りないので、次の欄へ続く。

        
「見たい映画があるんだけど……」
 と言ったすぐあとで、WHITEちゃんは言い直した。

「言っておくけど、キャストは関係ないわよ?! 出ている人を見て、あたしを変な目で見ないでよっ?!」
 なんでそんな、先に言い訳するの? べつに、誰が出ていたって「こんな映画が見たいの?」って変な目で見たりしないよ。
 と、思いつつも、ぴあの映画ページをめくる。
 WHITEちゃんが指し示したのは、ニコラス・ケイジの写真。

「ニコラス・ケイジ? WHITEちゃんアンタ、こんな映画が見たいの……?」

 はっ。
 いかん、思い切り怪訝な目をしてしまったっ。

「だから言ったのよ、キャストを見て、あたしを変な目で見ないでって!! ニコラス・ケイジが見たいわけじゃないわよ、監督よ!」
 WHITEちゃんは猛烈な勢いで言い訳をする。ニコラス・ケイジファンだなんて思われたら、沽券に関わる、てなもん。
 うん。わたしも、WHITEちゃんがニコラス・ケイジファンだったりしたら、今後のつきあい方にとまどいを感じることになるわ……って、そこまで言うか?!(笑)
 べつに、ニコラス・ケイジが特別嫌いだとかいうわけじゃない。ただ、この人が主役だと、積極的に見る気が失せる、というだけでな。とりあえず、わたしの周囲の人間はみんな同意見。

「『マルコヴィッチの穴』の監督の作品だから、見たいって言ってるのよ!!」

 ……それなら先にソレを言えばいいのに。
 もったいつけた言い方して、自爆しているWHITEちゃん。

 わたしはよく映画を見るが、パンフレットを買うことはほとんどない。なまじよく見るだけに、そうそう買う気にならないんだ。置く場所がないから。
 とくに、洋画のパンフレットは買わない。1年間に洋画を40タイトル見るとして、パンフレットを買うのは1作か2作だ。いや、まったく買わない年もあるな。なまじ試写会で見ちゃうと、パンフ売ってないしな。
 反対に、邦画は年に10タイトル見るとして、3作くらいはパンフ買うなあ。この差は大きいなあ。
 最近買った洋画のパンフ、って、なにがあったっけ?
 パンフを買いたいと思うものに限って試写で見てるから、ほんとに買ってないよなあ。『カンパニーマン』と『ベッカムに恋して』は試写でなければ、パンフを買っていたと思う。
 今、手近にある洋画のパンフは、『偶然の恋人』と『マルコヴィッチの穴』『アザーズ』『めぐりあう時間たち』のみだ。
 『偶然の恋人』はめちゃくちゃツボで、ヲトメ心がうずきまくったわ。ラブロマンスはこーでなくっちゃね! というときめき。ベン・アフレックの揺れる瞳に落ちた(笑)。
 『アザーズ』はゴシック・ホラーの美しさに惚れ込んで。ニコール・キッドマンは美しい。あと、このパンフ、肝心の部分が袋とじだったのよね。買わなきゃ中が読めない作りだったので、つい買ってしまった。
 『めぐりあう時間たち』は不問。この美しくもかなしい、やるせない物語にわたしが響き合った記念の気持ちで買った。
 そして、『マルコヴィッチの穴』は。
 ……買うしかないでしょう? こんな愉快な映画、興味持つじゃないですか、制作者たちに!!
 こんなみょーちくりんな物語を作った人たちは、ナニモノですか? なに考えてんですか? 興味津々。

 その、『マルコヴィッチの穴』の監督と脚本家の新作。
 それなら、たとえ主演がニコラス・ケイジでも見ますとも!!

 つーことで、『アダプテーション』鑑賞。
 監督スパイク・ジョーンズ、脚本チャーリー・カウフマン&ドナルド・カウフマン、出演ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー。

 『マルコヴィッチの穴』で成功を収めた脚本家チャーリー・カウフマン@ニコラス・ケイジは、次の仕事に取りかかる。スーザン・オーリアン@メリル・ストリープのベストセラー『蘭に魅せられた男』の脚本だ。ハリウッド映画らしくない、地味でも真摯な作品にしようと悪戦苦闘。思うように進まない。追いつめられるチャーリー。
 そんな彼の横で、脚本家志望の双子の弟ドナルド@ニコラス・ケイジ2役は、いかにもハリウッド的なばかばかしい愉快な脚本を書いている。
 現実と虚構が入り乱れる物語は、後半になってものすげーことになるが……。

 変な話。

 いや、表面的なストーリーだけ見れば、どーってことのない物語なんだけど。
 深読みしだすと、とんでもない深淵をのぞき込むことになる。

 とりあえず、モノカキが見ると、あちこち痛いです!(笑)

 主人公のチャーリーのダメ男ぶりときたら! 創作に行き詰まり、どんどんダメ道を転げ落ちていく様が、身につまされまくり。
 今どきのあざとい流行りを使わないで、独自の作品を書きたい。……モノカキなら誰でも思うよね? それが主題じゃないのに、売るためだけに意味のないセックスや暴力を書くのはどーよ、てなもんよね? それよりも、もっと日常っていうか、ありふれているかもしれないけれどじーんとする、よい話を書いてみたいと思うじゃない。売れ線狙いじゃなくて、真にすばらしいものを!書いてみたいと主人公チャーリーは思うわけよ。そんなの、わたしだって書いてみたいよ!
 しかし……。
 書けない……るーるーるー。
 セックスも暴力も銃撃戦もカーチェイスもドラッグも家庭崩壊も不倫もないハリウッド映画なんて!! ストーリーも山場もない、だけど感動的な物語なんて!
 書けないよー、るーるーるー。

 どこまで真実? どこまで創作?
 なにが真摯な訴えで、なにが皮肉なの?
 考え出すと、キリがない。

 追いつめられたチャーリーが受講する、シナリオ講座。そこのカリスマ講師が言う。
「モノローグで心の声を解説するな、馬鹿者!」
 ……ははは、正塚先生、聞きましたか? 脚本において、モノローグの多用は最悪だそうですよ。
「ラストさえ感動的なら、客は多少の不満は忘れる」
「すべて日常の出来事には事件の要素がある」
 などなど、カリスマ講師(この人も実在の人物ですか?)は創作のポイントを語ってくれるんだよなあ。
 それがまた、この映画のトリックと皮肉にもなってるんだよなあ。

 さて、わたしは最初から双子の弟ドナルドの存在を疑っていたんだけど、これはどうなのよ?
 ドナルドなんて、現実にはいないと思ってみていたんだけど? 彼はチャーリーのもうひとつの人格じゃないの?
 もちろん、実在の人物らしく描いてあるし、この映画でのポジションはそれであっているんだろうけど。それでもなお、疑うわ。
 ドナルドをチャーリーのもうひとつの人格として見た場合の、この映画の姿を。

 ややこしい物語なので、もう一度見てみたいものだわ。

 だが。

 ニコラス・ケイジ、最悪……。
 醜い……。

 もちろん、そーゆー役なんだから仕方ないけど。
 デブでハゲで汗かきで人の目を見て話せなくてコンプレックスの固まりで、女を見ると妄想しまくりで、「キモッ」の代名詞のようなオタク男の役なんだから、仕方ないんだけど!
 それにしても、気色悪いよー、うわーん。
 この気色悪いデブ男のオ*ニーシーンが何回あったと思うよー。うわーん。

 マルコヴィッチはよかったなあ。とりあえず彼は、色男だ(笑)。

 
 水曜日だから、WHITEちゃんと映画。

 WHITEちゃんは実家がお菓子屋(びっくりした、今、「犯し屋」って変換された……わたしのワープロって……)なので、しょっちゅう新製品を持っている。んで、わたしはよくそれを味見させてもらうんだ。
 今日は「あさげ」味のポテチと、ストロベリーとモンブラン味のポッキー。
 あさげ味はいまいち。パッケージほどのインパクトはナシ。

「ねえねえそれで、月バウはどうだった?」
「そう、月バウ。緑野が『さららんの足袋がー』って言うから、足袋ばっか気になっちゃったよ!」
「わはは、さららんの足袋、見たの?」
「見たよ。ルフィ夫さんが言うとこの、『すてき足袋』?」
「……そこで何故、ルフィー@ONE-PIECEなの?」
「ルフィ夫さんなら絶対、大喜びすると思うわ、あの足袋」
「なるほどなあ、『すてき足袋』か」
「あるいは『ふしぎ足袋』?」

 てな話をしながら、次の新製品に手を出す。
 モンブラン味のポッキーは「期間限定」の文字があったので、よろこんで小袋をひとつ開封してみたんだけど……。

「甘い……」

 はっきり言って、ゲロ甘。

「WHITEちゃん、これ甘い……」

 小袋にはポッキーが3本入ってたんだけど、わたしは1本で脱落。2本残った袋を彼女に返したんだけど、

「開けたモノを返すな。自分で食え」

 と、突っ返された。
 そう、わたしもWHITEちゃんも、甘いモノが苦手なのだ。

「あたしゃ後悔してるんだ。このポッキーは、食えたもんぢゃねえ」

 ってWHITEちゃん、ストロベリーとモンブラン、2箱ももらってきたくせにぃ。パッケージの写真からして、死ぬほど甘そうですけど?

 食えと言われたから、お茶を飲みつつ、あさげ味ポテチを食らいつつ、無理矢理残り2本を食べる。
 ケーキのモンブランのクリーム部分だけをえんえん食べてる感じ。ゲロ甘。ストロベリーの方は、味見する気にもならない。
 ……甘党の人、おすすめですよ、ポッキーの新製品。ほんと、甘いから。

「コレ、うちの弟ならよろこびそう……」
「そうか、じゃ弟くんにプレゼント」
 そう言ってストロベリー味は、押しつけられたよ。

 恐るべしグリコ。
 さららんのすてき足袋の話が、そこでぶっとんでしまった。
 つーか、ポッキーの破壊力のおかげで月バウの感想、話してる時間なくなっちゃったよ、映画がはじまっちゃって(笑)。

 帰宅してから、問答無用で弟に押しつけたさ。
 WHITEちゃんから君へのプレゼントだ。甘いモノはうちの弟の腹へ。
 甘党のくせに、太らないんだからいいよな。まあ、あの身長で太られても迷惑だけど。

 映画のあと、WHITEちゃんとふたりで晩ごはん食べたんだけど……。

「おなか、微妙にすいてない……」
「ケーキでも食べる?」
「いや。お菓子はもういい!!」
 後を引くよ、破壊力ポッキー。

 それでも、阪神優勝セール、全品30%OFF!! な店で「いちばん割引率が高いのは、いちばん高いモノだよな!」と、値段を見て注文したけれど。……ぜんぜん、食べられるじゃん、おなか!(笑)

 映画の話は翌日欄に。

 

優勝翌日。

2003年9月16日 家族
「優勝ってことは、セールよねっ。お買い物よねっ。なんか掘り出し物ないかな!」

 と言うわたしに、弟がにやりと笑って教えてくれた。

「ぼくはカラープリンタを狙ってるけどな。エプソンの6色インクのヤツ、通常店頭価格29800円だけど、優勝の翌日だけ7700円で販売予定の」

「なにソレなにソレっ、いいじゃんソレ、あたしも欲しいあたしも欲しいっ。絶対買いに行くー! 取っておいてよ!」
「取り置き不可。自分で買いに来い」

 弟の勤務先は、某家電量販店。
 よっしゃあ、狙いはそのプリンタだ!

「他になんか、おいしいモノないの?」
「デジカメのメディアが1001円。これも、ぼくが自分で買おうと思ってる」
「ソレって、シグマリオンも使えるヤツ? んじゃソレもあたし買うー!」

「ところで、なんで7700円なのか、知ってるか?」

 と、弟。
 わたしは首を振る。

「知らない。なんで?」
「やっぱり知らなかったか。ぼくも知らなかったんだけどな。星野監督の、背番号」
「なるほど〜〜」

「んじゃ、なんで1001円か知ってるか?」
「知らない。誰かの背番号?」
「ぼくも知らなかったんだけどな。星野監督の名前」
「なるほど〜〜」

 緑野姉弟、野球に興味なんぞ、まーーーったく、ありません。

 そんな会話をした翌日、つまり今日優勝セール本番。

 売り切れてるじゃないですか、目当てのプリンタ様ってば!! わざわざ買いに行ったのに!

「なんで売り切れなのよーっ、アンタ、余裕で買えるみたいな口ぶりだったじゃん!」
「ぼくも知らなかったんだが、優勝が決定するなり本部が新規客に宣伝メールを送ったらしい。それで朝イチで速攻売り切れた。1台も残らなかったから、ぼくも買えなかった」
「宣伝メールなんてあたし、受け取ってないわよ? あたしだってアンタの店のメルマガ登録してあるけど」
「新規客にだけだってば。アンタが登録したのは何年も前だろ。……てゆーか本部、現場に無断で宣伝打つなーっ、混乱するっつーの!!」
 どーやら朝から大変だったらしい。相変わらず本部と現場の連携が悪いようだ、弟の会社。

 午前中からキタとミナミをうろついたあと、CANちゃんの会社へアルバイトに行ったわたし。

 買ったモノは結局。

「コレ? セブンイレブン限定のガチャガチャ。コレはFROG STYLEっていってね……(8/31の日記参照)」

「阪神と関係あらへんやん!!」

 大阪弁の即ツッコミありがとう、CANちゃん。

「阪神百貨店も、行列だけ見てきたよ。すごかったよー、地下を半周してディアモールまで行って、そのあと地上に出て信号のはるか向こうまでつづいてて……最後尾が見えなかった」

「花バウの発売日と重ならなくて良かったよ……(溜息)」
 と、CANちゃん。

「あとねあとね、戎橋に行って記念撮影してきたー。阪神ユニフォーム・グリコ看板と、『優勝』の文字の入った看板と……」

「緑野ちゃん……アンタ、なにしに行ったの……(溜息)」
 と、CANちゃん。

 わたし?
 たんなるイベント好きですよ!!(笑)
 つーか、7700円のプリンタ様しか買う気なかったんだもん!

 
 その昔、緑野家のおたのしみは、梅田の紀伊國屋書店だった。

「今日は帰りに紀伊国屋に行こう」
 と父が言えば、家族全員が「やったー!」とよろこんだ。
 家族でおでかけした日、帰りに梅田の紀伊国屋に寄る。それが、お決まりのコースだった。

 入口を入るときに、父からおこずかいをもらう。大抵は1000円。クリスマスや誕生日など、特別のときは2000円のこともあった。
 もらったおこずかいは、紀伊国屋で自由に使っていい。どんな本を買ってもいいのだ。
 わたしも弟も母も、同じように1000円もらって、紀伊国屋に入っていった。
 待ち合わせは、1時間後。決められた時間の中で、本を探す。

 それが、緑野家のおたのしみだった。

 家族そろって、本が好きだった。
 紀伊国屋で何時間でも過ごせる連中だった。
 梅田での待ち合わせは、大抵紀伊国屋だった。
 店の中では、ほとんど顔を合わせることはない。母は彼女の本業のコーナーにいるし、わたしはSFやミステリ、あるいは絵本やアートのコーナーにいる。弟はどうやら歴史関係のコーナーにいるらしい。父は旅の本を見ている。
 たった1000円、されど1000円。なにを買おうか、足りない分は自分で出して……父にねだって、もう少し出してもらえないかな。あの画集が欲しいけど、どーしてああも高いんだろう……。

 まだ若かった両親と、子どもだったわたしたち姉弟にとって、大きな書店はとてもたのしめる場所だった。
 約束の時間ぎりぎりまで、好きな本を立ち読みして過ごしていた。
 そして、買った本を大切に小脇に抱え、4人そろって店を出るのだ。
 次に行くレストランで、自分たちが買った本をそれぞれ自慢するのだ。

 あれから何年経っただろう。
 もう、わたしたち家族は、そろって紀伊国屋に行くことはなくなった。
 わたしも弟も成人し、入口でおこずかいをもらわなくても、自分の稼いだお金で好きな本を買うようになったからだ。

 母から電話がかかってきた。
「今、父と千中にいるんだけど、中華街で一緒にごはん食べない?」
 わたしはいいけど、弟は? あいつはどうしてるの?
「自分の家にいるんじゃない? 今日休みだって言ってたから。ふたりで今すぐ千中まで来なさいよ。飲茶の食べ放題のところ、並んでるから!」
 今すぐって、アンタ……。わかったよ、行くよ。弟に連絡して、ふたりで千中をめざす。

 阪神優勝まで秒読みのニュースを尻目に、わたしたちは千中にたどりついた。
「今、千中に着いたとこ。んで、母たち今どこにいるの……」
 エレベータを待つわたしの横で、弟が母に電話をかけている。
「母たち、どこにいるって?」
「田村書店」
 電話を切った弟が言う。
 飲茶の店で並んでるんじゃ、なかったんかい。

 待ち合わせは、大型書店。
 なんか、昔みたいだね。家族4人顔を合わせたけど、またそれぞれ店内に散っていく。もちろんもう、おこずかいをもらったりは、しないけれど。

 今はわたしと弟は同一行動。ふたり並んでミステリだのゲーム雑誌だのをひやかす。……まさか、同じジャンルを読むようになるとは思わなかったよ、あのころは。
「そーいや京極の新刊が出たよなあ」
「何年ぶりよ? もう出ないかと思ってたよ」
 なんて会話をしながらな。
 母は自分の本業から離れ、山の本しか手に取らなくなってるし、父はあきっぽくすぐに坐り込みたがる。
 時は流れるのさ。
 18年前、猛虎とやらが大騒ぎしていたあのころは、緑野家はたのしく紀伊国屋で時間を過ごしていたよ。
 変わらないようで、変わっていくようで。

 それでもたぶん、紀伊国屋は我が家にとって、特別な場所でありつづけるだろうさ。

 
 WHITEちゃんはいつも、夜中に現れる。
 時間は確認していないが、今回もまた夜中に現れた。わたしはオレンジと長電話していたので、玄関にいるWHITEちゃんにそのまま子機を渡し、トイレに駆け込んだ。

「トイレに行きたかったのね?」
 と、WHITEちゃん。
「そうよ。でも、電話中だったから我慢してたの。WHITEちゃんが来てくれて助かったわ」
 わたしがいない間、オレンジと喋っていてくれたから。

 トイレから出て、また受話器を受け取る。オレンジと喋りながら、客間に座布団を出して、WHITEちゃんを迎え入れる。
 電話を切ったのはそのあとだ。んじゃ今はバイバイ、オレンジ、またいずれ話しましょう。

 WHITEちゃんは、東京みやげをわざわざ持ってきてくれたんだ。
 何故、東京みやげ?
 わたしにしろWHITEちゃんにしろ、東京にはしょっちゅう行っているので、今さらわざわざみやげというのも、変。
 だけど、気持ちがうれしい。ありがとうありがとう。

「弟くんと、一緒に食べてね」
 と、わたしてくれたおみやげは、サザエさん一家の人形焼き。
 ……何故、弟?
 わたしひとりで食べちゃいけないの?
 まあいいや、弟にもやることにしよう。
 つーことで、WHITEちゃんとはそのままだらだらお喋り突入。
 彼女がわたしの家をあとにしたのは、午前2時半くらいでした(時計を見た)。

 半日仏壇に供えたあと、人形焼きを持って親の家へ。
 弟と一緒に食べるために。
「弟は何時頃に帰るの?」
 と聞いたところ、
「さっきメールがあって、今日はごはんは食べて帰るそうだから、すごく遅くなるみたいよ」
 と、母。
「ええっ、そんじゃ一緒に人形焼き食べられないじゃん!」
 WHITEちゃんのおみやげを父と母に見せたわたし。肝心の弟がいないんじゃ、封を切れないよ。
「そうねえ。やっぱり弟もそろったときでないと、コレを開けるのはやめた方がいいわねえ」
 と母も言う。
 仕方ないな、人形焼きは親の家に置いて帰ろう。明日の夜になれば、弟と一緒に食べられるだろうし。

 そして、さらに翌日の夜。
 家族4人で外食して帰宅。

「外食すると、喉が渇くなあ」
 と言って弟は、帰って来るなりお茶を飲む。そしてさらに、
「お茶請けもあるし、ちょーどいいよな」
 と、どっかで見た包みを出す。
「ちょっと待ってよ、それって……!!」

 弟がとーぜんの顔をして取り出したのは、WHITEちゃんのおみやげの人形焼き!
 しかもすでに開封済み。
 つーか、あと3個しか残ってないっっ。

「なんで先に食べてるのよーっ、あたしは、アンタがいないから、あえて開けずに待っていたのに!!」
「んなもん、いつまでもあると思う方が悪い。緑野家は弱肉強食だ」
 と言いつつ弟、ワカメちゃんだかカツオくんだかを口に入れる。
 残っているのは、タラちゃんとタマのみ。
「ひどーい、ひどーい、ひどーい!」
 わたしはあわてて、タラちゃんとタマを奪取。サザエさんもマスオさんも、ナミヘイさんもフネさんも残ってない〜〜っ。
 もらったのはわたしよ?! 開封するのもわたしであるべきでしょう?!

 あわてて食べた、タラちゃん。
 ……甘い。

「メープルシロップ味かあ。中にナニも入ってなくてよかった……」
 これでカステラの中にクリームでも入ってた日にゃあ、やってられなかった。
「なんで? 中にナニも入ってないなんて、皮ばっか食べてるよーなもんじゃん」
 と、弟。クリームが入ってなかったのが不服な様子。
「この甘党めっ」
「甘いモノが嫌いだなんて、文化レベルの低いヤツめっ」

 人形焼きの行方。
 大半は、弟の腹の中。

 ……そうね。甘いモノは、ヤツの腹に収まるのがいちばん正しいかな、WHITEちゃん。

 
 でもって、夕方はステージトーク。
 昼から本公演見て、合間にかねすきさんと喋って、ついでに出待ちとかして、さらに夕方はステージトークだよ。忙しい1日だニャ。

 ステージトークの参加は3回目。雪組は2回目。
 最初の1回目は、たんにステージトークっちゅーものに好奇心があった。雪組、いっぽくんととなみちゃん。
 2回目は、やたらと安い券を買えてしまったので、「この値段ならいいよなあ」と気軽に行った、花組、みわっちとあすかちゃん。
 3回目の今回も、実はとっても安い券が手に入ったせいなんだけど……いやいや、もちろんキャストのファンだからですよ、雪組、キムととなみちゃん!!

 なんつーかもう……。
 大爆笑でした。
 参加はまだたったの3回目だけど、ここまで笑わせてもらったのははじめてだ。
 司会のおねーさんも、「ステージトーク史上最大の盛り上がり」と言っていたが、それもあながち嘘じゃないだろう。

 キムちゃんの生トークを見るのははじめてなんだが、予想をまったく裏切らないキャラだ。
 陽気。生意気。剛毅。
 ものおじしないっちゅーか、遠慮しないっちゅーか。
 舞台から感じる「音月桂」まんまのキャラ。
 う・わー、すげえなあ。アンタ、そんなに生意気でいいの? ……もちろんわたしは、大好きだが(笑)。
 よくまわる口、気を読むのに長けた呼吸、場の中心をつくる吸引力。……アタマがいいというか、要領がいいんだろうなと思う。
 自分が場の主役であることを理解し、自分が場を進めようとしている。
 司会者に話題を振られるのを待つだけでは、絶対にない。
 おもしろいキャラクターだ。

 一方、舞台から感じる「白羽ゆり」とはかけはなれたキャラクター、となみちゃん。
 前回のステージトークで、天然の不思議ちゃんに見えたけれど。
 今回もまあ、なんとも愉快な人でした。

 つーかわたし、となみちゃんのファンになりました(笑)。
 舞台の白羽ゆりも好きだけど、生のとなみちゃんも好き。
 おもしろすぎ。かわいすぎ。

 こんな子が妹だったらわたし、幸福の絶頂かも……。かわいいよ……一緒にいるだけで至福だよ……。

 わたしは男役はヴァーチャルな存在として見ているので、生身の姿にはあまり興味が湧かない。リアリティを感じない。
 生身の人間としてかわいがるなら、そりゃあ娘役のかわいこちゃんでしょう!!(笑)
 と、あらためて考えるくらい、となみちゃんがかわいかったっす。
 わたしがもうばばあだってのも大きいかな。若いお嬢さんを「自分とは別のイキモノ」として、かわいいと思うことができる。

 天然だよね、彼女。
 しっかり喋っているわりに、暴走気味。自分でブレーキがかけられないし、また、コントロールもできないみたい。
 感情が全部まるっと外に出ている。
 だけど、性格自体が丸いのか、暴走するさまが善良でかわいいときたもんだ。
 これで性格が悪い場合、ひどい失言や暴言をぽろりとこぼしちゃったりするもんだけど、彼女の場合はその心配はナシ。見ていて微笑ましい本音がほろほろとこぼれ落ちる。
 前回はテンションが上がりまくって、途中で泣き出しちゃったけど、今回はリラックスしているのか、終始表情が明るい。相棒が同期のキムだってことも大きいだろう。ほとんど漫才。

 キムが男役として成長著しく、必殺の流し目でファンを悩殺している、てな意味のことを司会のおねーさんが言った。ファンはもうどきどきよ! みたいなことを。
 キムは「えー、そーですかぁ?」と、けらけら笑っている。
 その横でとなみちゃん、
「ええっ、そうなの? やーん、となみも見たい〜〜、となみもどきどきしたい〜〜」
 と、本気で身もだえ。
 一瞬言葉を失うキムと司会者。ついでに観客。
 次の瞬間、「しまった!」という文字を顔に貼り付けてかたまるとなみ。
 爆笑。
 本気で「やーん」と身もだえだよ……ギャルゲーの萌えキャラ以外でコレをやる女がいるとは思わなかった……。
 かわいい……かわいすぎる……。
 あたしが男だったらマジ、落ちてるって! とりあえず女で、レズでもないから踏みとどまってるけど!(笑)

 なまじ、舞台でしっとりした大人の女を演じる姫役者なだけに、このギャップは魅力だわ。
 ドジっ子に萌える男の気持ちがわかったよーな一瞬……。

 昔からキムのファンだったにもかかわらず、となみちゃんに目をハート型にしてしまいましたわ。
 ああ、かわいー。
 あんな女の子、いいなあ。好きだなあ。

 強制アンケート(無記名)にはもちろん、となみちゃんのことを書きました。
「食べ物の話をするときのとなみさんの、し あ わ せ そ う な 顔 が印象的でした」てな。

 帰りに参加記念品を手渡してもらうとき、いつもそのときの素直な感想をひとこと言うことにしている。
 手渡してくれたのがキムだったので、端的に言いましたさ。
「すっごくおもしろかったです、爆笑しました」
 するとキムちゃんは、胸を反らして「わっはっはっ」と大笑いしてくれました……アンタほんまに男前や……。

 あー、たのしかった、ステージトーク。次があるなら、また行きたいぞ。

 
 たいへんなの、わたしとかねすきさんの意見が対立してしまったの!!

 1日ズレているが、12日の日記を書いておこう。

 さて、12日によーやく、2回目の雪組公演観劇。いつもの1列目の端の方。
 日記にさんざん「へたっぴ」と書いてしまったいっぽくんだけが、ショーで銀橋を通るたび必ず目線をくれる。あの、その微笑みはわたしにですか? ああ、どきどき。美男子に微笑みかけられ、ときめくわたし。ごめんないっぽくん、へただなんて書いて。いや、これからもへただと思う限りそう書くけど。でも君の華と美しさは認めているのよ。ああ、どきどき。えりたんすてき〜(単純)。
 つーか、他の人はまったく目線なんぞくれません。真下なのがわるいの?

 今回の観劇では、わたしはずーっと、ラシッド@じゅりちゃん、ムジャヒド@カシゲのことを考えていました。
 ほんとに、ずーっと。

 軍人ラシッドと、落ちこぼれ外交官ムジャヒドは、昔なじみ。どーやら学生時代からの友人らしい。
 ふたりは現在、対立する立場にある。
 王女ナディアを将軍に渡すか、渡さないか。
 将軍に渡す、が、ラシッド。渡さない、が、ムジャヒド。
 昔話なんぞを交えながら、ふたりは銀橋で対立する歌なんぞを歌う。
 ふたりとも、祖国を思う気持ちは同じ。国王に対する忠誠心も同じ。
 ただ、現在の時点で選ぶ「最良の方法」が別だというだけ。
 ふたりはわかりあえないまま、別れる。

 ところが。

 次にふたりが出てくるときには、すっかり仲良しこよし。
 手を取り合っておるのです。
 いや、たしかにそりゃ、ふたりはもともと仲良しで、忠義に厚い男たちだから、和解するのはかまわない。「最良の方法」がチガウだけだから、どちらかがどちらかの信念に同調することは、十分ありえることでしょう。

 しかしな。
 君らが和解する瞬間は、描かれていないわけで。
 あれほど確固たる意志で口論していた次の瞬間、仲良しこよしだなんて、それはナイだろ?
 なにがあったんだ、お前たち。

 ナニかあったってことか?

 わたしはずっと、この「ナニか」を考えておりました。
 つまり。

 ラシッドとムジャヒドは、どちらが受か、です。

 え?
 つまりはそーゆーことでしょ?
 やったんだよね、このふたり。
 それで仲直りしたんでしょ?
 信念だけでは、言葉だけでは一方通行、平行線。ふたりが手を取り合えることはない。
 ならばボディランゲージ、ベッドでトークだ、べらんめえ。
 ……てことよね?

 そんなことでも考えてないと、この退屈きわまりない芝居をたのしめるはずもないっつーか……ゲフンゲフン。

 それで、かねすきさんに質問。
「ねえねえ、『Romance de Paris』のじゅりぴょんとかっしー、どっちが受だと思う?」
 やほひすきーのまい・そうる・しすたー、かねすき嬢には、なんの説明もいりませぬ。唐突だろーが前後の脈絡がなかろーが、ホモ話を振れば、いつも的確な答えが返るのです。

「えっ、そりゃカシゲさんでしょう?」

 がーーーん……。

「どーしてかっしー? わたしは、じゅりぴょんだと思って見てたよう!」
「ええっ?! だって、カシゲさんにナニができるっていうんですか。あの人は、なにかされてもべつにそのままOK気にしない人だけど、自分でナニかできるわけないでしょう?」
「そりゃそうだけど、今回は能動的に『信じて欲しい、理解して欲しい』って求めているのがじゅりぴょんの役だから、信じてもらうためにカラダを差し出すとか、するよねえ?」
「そうやって差し出されて、さあヤるぞ、と上に乗っかっていても、いざはじまってみれば、じゅりさんにひっくり返されて、下になってるのがカシゲさんでしょ?」
「そりゃそーかもしれないけどっ」

 ああ、なんてことでしょう。
 わたしとかねすきさんの意見が対立してしまいました!!(笑)

 カシゲは、受か攻かで。
 わはははは。

 それにしても、かねすきさん。
 あなたほんっとに、カシゲのこと、バカだと思ってるね……(笑)。
 のーみそがなさすぎて、攻ができないと思ってるのね……イメージとして納得できすぎちゃうけど。

 ええ、わたしも「カシゲをバカだと思っている」点では同意見よ!
 がんばれかっしー、負けるなかっしー。いつもいつも、応援してきた、薄いかっしー(いや、髪の毛のことじゃなくて)。実力だけはあるのに、それがちっとも魅力に昇華できない器用貧乏のかっしー。
 もどかしいカシゲちゃんを、ずっと見守ってきました。
 なにをやっても薄いいい人(いや、髪の毛のことじゃなくて!)。悪役をやっても薄っぺら、ニンに合わない落ち着きの悪さ。どんな役も、頭が悪そうに見える、ひとのよさが丸見えのカシゲちゃん。
 わたしも彼をバカだと思ってるけど……けど、わたし的に彼は攻男なの!

 かねすきさん、わたしたち、ラシッドとムジャヒドのようね。
 思いは同じなのに、それによって表れる行動は逆なの。
 銀橋で対立を歌うラシッドとムジャヒドのように、わたしとかねすきさんはムラで出待ちをしながら対立な会話をするのよ!(笑)

 わたしは「ヘタレ攻」と「空回り受」が好きなのよねー。
 あ、これらは単体で好きなのであって、カップルとしては好きじゃないわよ。ヘタレと空回りのカップルなんて、傍迷惑だからね(笑)。
 カシゲは理想的な「ヘタレ攻」。
 バカ攻は大好きだー。
 『アメリカン・パイ』のグランパなんて、バカ攻の代名詞みたいな愉快なヘタレ男だったじゃん!! すてきよかっしー。ときめくわー。
 バカな男がバカなままで、愛と誠実さ以外なにひとつ持たずに突撃して玉砕するさまが、愛しくてならないの。
 とくにかっしーは、無駄に美貌だけはあるから、ヘタレ度アップ。これだけ美しくて、どーしてヘタレ野郎なのよ。なんて反エコロジーな存在。
 バカなカシゲが、男前で賢いじゅりぴょんを相手に「攻」だってのが、ときめくのだわ。
 男前で賢くて地位も名誉もあるエリート様が攻で、顔がいいだけが取り柄のおバカさんが受だなんて、そんなふつーのBLみたいな展開、つまんないわー。
 賢いラシッドが、バカなムジャヒドを相手に、あえて自分から受になるくらい惚れている、というのが萌えなの。
 ラシッドは賢いから、男らしくて強い人だから、ムジャヒドの度量を理解した上で、わざと攻を譲ってあげているの。ムジャヒドを転がすくらい簡単なのに、それをしない。苦笑しながら、組み敷かれてやるの。ああ、男前。
 そして、バカなムジャヒドはいつもいっぱいいっぱい、目の前のことしか見えない。ラシッドに「攻を譲ってもらっている」ことになんか、まったく気づかずご満悦。

 てな力関係なの、ムジャヒド×ラシッド。ヒゲ男受〜〜。

 ……でもそのうち、ラシッドがムジャヒドを転がして、上下逆転しちゃうかも……?
 はっ、これではかねすきさんの言うとおりカシゲ受にっ?!(笑)

 銀橋の歌のあと、クラブアラベスクに現れるまでの間、ラシッドとムジャヒドにナニがあったか。
 どんなふーに、ふたりはベッドへなだれ込んだか。
 を、いろいろシミュレートして1日が終わる(笑)。
 パロ小説書けますわよ、きっと。このふたりでなら。

 てゆーか。
 わたし、つくづくカシゲファンなんだなあ、と再確認。
 かっしー、ラ〜ヴ。

 
 いつもの映画館の、スクリーンの数は10。
 だけど、いつも見たい映画が見られる時間にやっているとは限らない。

 天気が悪いから、今日は映画はやめておくかなー、時間もないしなー。
 と思ってサイトを見れば、ちょうど1時間後に『座頭市』がある。
 窓を開ければ、雲が切れ、青空が少し見えてきていた。
 んじゃ、行くかな。すっぴんに日焼け止めクリームだけ塗り込んで、自転車にまたがる。

 いつもの映画館のいいところは、服装をかまわずにすむところ。
 近所のおばちゃん、の格好のままでうろついていい場所。
 梅田だと、こうはいかないからねえ(笑)。

 つーことで、『座頭市』鑑賞。
 監督・北野武、出演・ビートたけし、浅野忠信、大楠道代、夏川結衣。

 わたしは北野武が嫌い。
 彼の映画は、趣味に合わない。
 それは、過激な暴力表現のせいだ。
 北野映画を見たのはわずか数本。ビデオでも多少見たけれど、これは自分的には「映画を見た」に数えていないので、カウントに入れていない。だから、「見た」のはほんの数本でしかないんだが。
 見るたびに、「やっぱ合わねえ」と思った。
 どうしてそんな表現をするの、演出をするの。生理的に不快。わたしなら、そんな表現はしない。そうしなくても、同じテーマを描くことはできる。
 どの作品を見ても、わたしが不快になる点は同じであり、そのたび監督がその表現を好きでやっていることがよくわかった。
 よーするに、趣味がチガウんだ。その作品のよい悪いとは別、ただの「好き・嫌い」ってやつ。
 わたしは、北野作品が嫌い。
 ついでに、役者としての「ビートたけし」も嫌いだぞっと。監督として才能はあるんだろーが、役者としては大根じゃん。なにやってもビートたけしじゃん。演技しないですむ役以外は、作品の邪魔になる程度の実力しかないじゃん。と、思っている。

 それでも『座頭市』は気になった。
 浅野忠信が好きだということも大きい。浅野くんが時代劇、凄腕の浪人……という設定だけでヨダレもの(笑)。
 そして、時代劇なのにタップダンスありのミュージカル仕立てだということに、興味大。
 日本の時代劇っていうのは、良質のファンタジーになりうる世界観だと思うんだ。それこそ、『指輪物語』系の異世界ファンタジーね。派手に、エキゾチックに、淫靡に、あざやかに。大風呂敷を広げてエンタメに徹することのできる、すばらしい世界。
 そのにおいを感じて、『座頭市』を見に行ったのだわ。

 んで。

 おもしろかった。
 北野映画ではじめて、おもしろいと思えた。

 わたしがそう言うと、WHITEちゃんは、
「北野武の“はじめての”エンタメ作品だからね」
 と、笑って言った。
 そうか、はじめてなのか、北野武。

 悪党親分@岸部一徳の支配する宿場町に、ワケ有りの強者たちが偶然集まってきた。
 盲目の按摩@ビートたけし、浪人@浅野忠信、親の仇を追う芸者姉妹@家由祐子・橘大五郎たちだ。
 浪人は悪党一味の用心棒に就職し、按摩と芸者姉妹、そして町のちんぴら@ガダルカナル・タカは成り行きで悪党一味と敵対、芸者姉妹の仇がどうやらこの町の悪党一味らしく、対決必至。さあ、どうなる?!

 ストーリーは単純明快。役者たちの顔を見た段階で、すべてがわかる。
 悪役は悪役、善人は善人。死ぬのはこいつらで、生き残るのはこの人たち。全部お約束。
 お約束上等、ワンパタ上等、それがとても小気味よい。
 お約束ゆえの安心感と、そのうえで漂う緊張感と適度のスパイス、リズムの良さと笑い。エンタメであるということを理解した作り。
 とくに気持ちいいのはリズムだわ。ここが「異世界」であり、「観客を愉しませるためにある世界」だということを、考えてあるの。
 だから、下手な時代劇が持つ、かったるさとかウザさがない。テンポ良くさくさくすすむ。
 わたし、北野武の過剰な暴力が嫌いなんだけど、なるほど、時代劇だとそれが気にならないわ。異世界ファンタジーだからね。現代で無駄に残酷に人が殺されるのは理解できないけれど、時代劇はOK。だってはじめからそういう世界観だから。命が今より軽かった時代。人殺しの武器をふつーに腰に下げて歩いていた時代。この世界観で、それに沿った倫理が展開されていることに、不快はない。

 お約束のものを描くのは、あとは技術とセンスだよね。
 北野武はつよい人だと思うから、その感性で強く楽しいモノを描いてくれたら、愉快なモノができるよね。
 ヒーロー・座頭市は、とにかく強い。だけど普段はすっとぼけたおっさん。目が見えないから、というよりは、ぬけたふうのおっさんだから強いようには見えない。だけどほんとはめちゃ強い、というギャップが正しく「ヒーロー」でいい。
 対する浪人、浅野忠信はもー、とにかくかっこいい。いついかなるときも、二枚目、色男。見るからにかっこいい色男が、戦うとなお凄惨にかっこいいのだ。萌え〜。見ていて気持ちいい。
 このふたりの「強い漢」たちの決戦には、期待がふくらむさ。
 正しいエンタメの姿がそこに。

 話題のタップダンス・シーンは、感動。
 日本人だから、タップダンスの神髄は理解できないと思うんだけど、そんなこととは別に、感動したよ。

 拍手と足拍子って、人間が出す、もっとも原始的な「音楽」だよね。
 神に捧げる音であり、人間が人間であるゆえに、感情を持つイキモノであるゆえに、つくる音なんだよね。
 音階を持つ楽器による音楽でなく、リズムだけの音楽。
 きっと、人間がいちばん最初につくった音楽は、手拍子と足拍子だけのものだったと思う。
 その、ヒトとしての根元に響くよ。
 タップダンスは。
 なまじ、時代劇だから。
 タップダンスなんていう文化のない、今よりもシンプルな楽器と音楽しかない時代を表現することに、あえてそれを使ってあるわけだから。
 なんというか。

 生きるちからを感じる。

 ラストのタップ・シーンを見ながら、天神祭を思い出したよ。そして、氏神様である近所の小さな神社のお囃子(天神祭を起源とした、同じお囃子なのよ)を、思い出した。
 現代のタップダンスも、神社のお囃子も、まちがいなく根は同じだ。
 人間であること。
 よろこび、かなしみ、しあわせ、ふしあわせ、感情を持つ、そして生きている、人間であること。
 そーゆーものが、現代のタップダンスと、古来からの祭りのシーンの融合に、感じられた。
 わーん、こーゆーの、好きー。
 一緒に踊りたくなるよー。
 どうしてこれは映画なの? 手拍子したくなるんですけど、ヅカのフィナーレみたいに(笑)。

 役者たちは適材適所。キャスティングを見た瞬間に「にやり」とする、まんまの使い方、そして演技。
 ビートたけしも、大根ぶりが邪魔にならない。彼の持ち味のままでやれる役。しかも、座頭市ってば、顔のアップは最後くらいしかないんだよ? いやあ、わかってるねえ、監督。座頭市のアップなんて、誰も見たくないってば。
 つーか、目の見えない座頭市は、顔ではなくカラダ全体で演技をするわけだから、顔を映す必要はないの。それよりも、彼の曲がった背中や、ときに鋭く動く腕や指を映すのが正しいの。

 ただ、わたしの目にはおせい@橘大五郎が「美女」には見えなかった。なんだ、あのブス? ごついなー、でかいなー、プロレスラーか? と思って見てたよ……。でもまあ、雰囲気あるから、ハリウッド女優みたいに、顔ではなく雰囲気で美女なんだろーな、と思って見ていたよ。
 男だと知って納得。だが、16歳だと知ってびっくり(笑)。

 ああ、時代劇…

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