父が入院しました。
 ので、忙しいです。

 ねえママ、ほんとにそれはわたしがしなければいけないこと? 父がいないのを理由に、わたしに仕事を多く押しつけてない?!
 とか思いつつも、走り回ってました。

 夕飯はわたしが作るはずだったんですが、時間切れ。……理由は「退屈で死にそうだ」と言う、入院1日目の父の相手をえんえんしていたせいです。
 わたしは8時に家を出るんだってば、そしてバスに乗るんだってば。

「父親が入院して手術だって言ってるのに、あんたはタカラヅカなのっ?!」
「だってもうチケット取ってあるんだよっ?!」
「父が入院することは1ヶ月も前に言ってあったでしょ!」
「それは聞いてたけど、“いつ”入院するかは聞いてないっ」
「……そうだったっけ?」
「そうよ」

 伝達不足は毎度のこと。
 いつもいつも「言った」「聞いてない」で騒動になる。
 旅行中のわたしに、ママから「パソコンでわからないとこがあるの、今すぐ教えにきてよ」とか電話が入ったりな。
「今わたしは東京だよっ、なんで教えに行けるのよっ?!」
「東京? なんでっ? 聞いてないわ!」
「行くって言ったじゃない」
「行くのは聞いてたけど、今日だって聞いてない!」
「言ったわよっ。いついつのなになにのときに」
「そんなに前に言われてもおぼえてないわよっ」
「前もって言わなきゃいつ言うのよ?!」
 ……なんて不毛な会話が日々繰り返される。

 うちの家族に伝言機能はありません。
 重要な連絡も、あったりまえにスルーされています。

 そーいや先日の7回忌も、弟は「聞いてない」って言ってたな……。それで彼は不参加。母曰く「何ヶ月も前に決まっていたのに」。アンタが伝達してないんじゃん、いつも……。

 つーことで、娘は病気の父を置いて愛するオサ様のもとへ行ってしまうのですよ。

 注・父の入院は膝の手術のためです。本人も元気です。リハビリの先生が若い女性だとよろこんでました。車椅子に乗る練習をしてはしゃいでました。
 ほんとに元気です。そーでもないと、いくら薄情な娘でも、置いていったりはしません。

春4月。

2003年4月1日 ゲーム
 毛の抜ける季節がやってきた。

 や、猫っすよ、猫。
 うちの猫。

 見た目はアメショーでありながら、チンチラの血を引いているために、こっそりと毛の長いうちの猫。
 抜ける抜ける。
 触ると抜ける、空気中に毛が漂っているのが見てわかる。
 ……ええいっ、不愉快なっ。

 予防策として、ひたすらブラッシングしている。
 どーせ抜ける毛ならば先に抜くのだ。
 とにかく暇さえあればブラッシング。

 ……海の水をコップですくっている気分です。

 いくら梳いても、きりがない……。
 エンドレス抜け毛。

          ☆

 今、ふたつのFFを同時進行しています。
 FF10(10−2じゃないよ、10だよ)とFFTA。

 ワンピの映画を見て、「ワッカだ……」と思ったのことよ。
 そーか、ワッカの声って、どこかで聞いたことあると思ったら、ゾロの声だったんだ。
 わたし、テレビアニメのワンピは見てないからさー、気づかなかったよ……。

 FFTAはキャラの見分けがつきません……敵とまちがえて味方を攻撃したりなんだり。うおーっ、ムーミンばっかしだよーっ。モンブランうぜえっ。マーシュがいないときの方がクエストがたのしいぞっ?! とか、まあいろいろ思いつつ。
 
 さて、映画『ワンピース』の話のつづきである。

 4作目にしてはじめての「映画」で、まっとーに「物語」として創られていて。

 いちばん、心からうれしかったこと。

 「友情」の押し売りがないこと。

 3作目だっけか2作目だっけか。映画館で一度見ただけなんで、よくはおぼえていないんだが。
 ワンピの映画を見て辟易したのは、なにかっちゃー「友情」「友情」言うことだったのね。

 はっきり言って、気持ち悪かったのさ。

 ……わかってるよ。たかが50分とかの枠で、テレビ版より派手なモノを創らなきゃならないんだ、テーマを表現する余裕なんかないってことは。
 余裕がないから、「よーし、いちばん保護者ウケするテーマは、台詞で言っちゃえ!」とゆーのは、わかるんだ。
 キャラをたてて、ストーリー展開させて、そのなかで表現するより、台詞で「オレは仲間を信じる」「信じ合うのが真の友情だ」とか言っちゃえば、1000分の1くらいの労力ですむもんな。30分かけて表現するより、30秒で言っちまえ! てことだろうよ。
 でもわたしには、それがものすごーく、気持ち悪かった。

 ワンピって、こんなマンガだったっけ……?

 友情大安売り。
 べたべたべたべた、まるでひとりで生きられないから群れているよーな、「友情」「仲間」という名の依存関係。ルフィは「友情教」の教祖様ですか?

 ルフィをはじめとするキャラたちの「かっこよさ」は、「自立」していることだと思っていたんだが……。
 みんな自分の都合で一緒にいて、好き勝手な方向を向いている。ひとりでも生きられるけど、「今」「自分の意志」で、「ここ」にいる。
 そーゆー奴らの群れだと思っていたんだが。

 映画のワンピでは、みんな気持ちの悪い依存関係に沈んでいた。

 仕方がないことはわかってるんだけどな。
 ただ、かなしかったのよ。
 「映画」がテレビ版よりさらに「低年齢化」していることが。
 大衆化、ってのは、ほんとつにキツイわなぁ。

 それがこ今回の『デッドエンドの冒険』では。
 ちゃーんと、原作のテイストになっていたんだ。
 「友情」とゆー、見た目だけきれいな台詞でお茶を濁してなかった。
 ルフィは勝手に突っ走っているし、他の連中はそれを止めないし、命がけで助けようともしない。ひとりずつが自分のすることをし、静観したりツッコミ入れたりして、あっけらかんとしている。
 信じているから、なにもしない。「友情」とか言って邪魔をしない。
 台詞ではなく、「行動」で、彼らの信頼関係を表現している。
 それがね、気持ちよかったのよ、わたしには。
 ……ああわたし、ほんとにつらかったのね、過去の3作。涙。

 あと、テーマパーク風の作りに、こだわりを感じた。
 冒頭やレースの序盤部分などで、わたしが連想したのは、「テーマパークのアトラクション」だ。
 椅子に坐ってシートベルト閉めて手すりを握って、コースターが動き出す。あの高揚感。次々と目の前に現れるパノラマ。あのたのしさ。
 絶対、意識して作ってるよねえ? 3D感覚で背景が流れていくアレは。
 ルフィと一緒にわくわくしたよ、冒険のはじまりに。
 正しきバーチャルリアリティ、追体験。座席のままでひとときだけの冒険行。
 前半までは、とってもたのしゅーございました。

 後半っちゅーか、半ばあたりで少々首を傾げておりましたが。
 シュライヤって奴、なんすか?
 なんかこいつ、ワンピの世界観に微妙に合ってない気がしたんだが。

 だって……かっこよすぎ(笑)。

 最初から最後まで美形でシリアスなんて、変だよ??
 美形の復讐鬼なんてなー。
 途中でシュライヤ主役みたいになっちゃって、首傾げたよー。

 そりゃわたしは美形は好きだけどな。美しくてかっこいい男が、過去を背負ってクールでニヒルにキメてくれたらうれしいけどさ。
 ただ、これは『ワンピース』だから。
 どんなに王子様でもサンジの眉が渦を巻いているよーに、どんなに男前でもゾロが腹巻きをしているよーに、どこかツッコミどころがあるのが『ワンピース』。
 なのにシュライヤ、完全無欠の美形キャラっす。
 ……変だ。

 腐女子サービスですか、これって。
 シュライヤはやりすぎだよ、制作者さん。やおひのためだけのキャラは興ざめっす。
 べつに、美形である必要ないもんな。ゲタみたいな顔だとしても、彼の「かっこよさ」や「強さ」は表現できたはず。つーか、それこそが『ワンピース』。

 シュライヤの出番を少なくしていたら、もっと短くできたぞ、この映画。その分、麦わら海賊団の活躍を描けたんじゃないか?
 シュライヤの露出の多さで、バランスが悪くなっている気がした。

 ……かっこいいんだけどなあ、シュライヤ。
 せっかくのかっこいいキャラが「世界観に合わない」あたり、ワンピってのも因果なアニメだなあ(笑)。

 とりあえず腐女子のたしなみとして、「シュライヤは受か攻か。相手は誰か」を考えましたけれど。

 シュライヤがやりすぎでバランス悪いのをのぞけば、終始たのしみました。ほんとアトラクション気分。
 悪の権化を、ルフィがぶっ倒すのを、爽快に眺めました。ああ、エンタメはこうでなきゃなー。
 ルフィは悪い奴を殴るのに、「正義」を振りかざさないのよ。義憤である、と言って自分を正当化せずに、ただ「オレが殴りたいから殴る」と言う。それが気持ちいい。
 カリスマ攻。
 総攻。
 小さいけどかわいいけど、完全無欠の攻様(笑)。

 ところで絵はあれでいいんですか?
 わたし、スクリーンで見るにはつらいレベルだと思ったんですが。
 絵だけで言えば、前作の方がよくなかった?

 帰ってからなにかホモが読みたいなと思って(笑)、ネットの海に漕ぎ出してみたんですが……。
 ルフィ攻って少ないよね……。
 そしてさらに、ル攻ってなんでそう、鬼畜モノになるんですか?
 そりゃルフィは男前で自己中でバカだけど、だからってそんな、鬼畜男にせんでも……。緊縛強姦流血なんでもこいですか……。
 もしくは、だだっ子ガキ攻。
 うーん。むずかしいキャラだよね、ルフィって。
 男前で自然なルフィオさんが読みたいわ。あ、わたしルゾロです。サンジ命のWHITEちゃんとは微妙に嗜好がズレてます(笑)。

          ☆

 じつはよーやく、今ごろになって確定申告しました。はー、やれやれ。
 そしてよーやく病院にも行きました。とっくに薬が切れていて、かなりキツい日々でした(笑)。

 
 本日は前の職場の仲間たちと、某牢獄酒場へ行って来ました。
 すっかり忘れてたけど、松竹ちゃんのお誕生日でした。牢獄に取り憑いているらしい悪霊さんにも祝ってもらいました。
 ……いろいろがんばって差別化するよね、飲み屋も。

 しかし、今回はしみじみとしてしまったよ。

 わたしはオタクである。
 だからたぶん、ふつーの人とはチガウのだろう。
 小心者ゆえ、「ふつうとチガウ」と言われるとひどく傷つくのだが。そうわたしは、「緑野さんって、ふつーの人ですよね」と言われるとほっとしたりする外面第一人間なのだ。
 しかし、このトシで結婚もせず、のほほんと生きているだけでも、もう「ふつう」ではないのだから、認めざるを得ない。残念ながら。むむ。
 まあとにかく、わたしはオタクであり、人生に「オンリーワン」を持っている。

 30過ぎて独身で、この満ち足りた現代日本でのうのうと生きている女で。
 ……そんなやつは自然と、「オンリーワン」を見つけてしまうのではないか。

 そう思ったのよ。

 とゆーのも、わたしより年上の松竹ちゃん。
 松竹ちゃんは某オヤジ歌うたい三人組のボーカルの大ファンである。全国各地にいる仲間たちとともにツアーを追いかける人生を送っている。
 彼女はとてもたのしそうだ。

 そして、わたしよりは年下だが、やはり30過ぎのテルちゃん。
 テルちゃんは某おっさんアーティストにハマり、やはり全国各地にいる仲間たちとともにファン人生が花開いているらしい。
 彼女もとてもたのしそうだ。

 ……そうだよなあ。
 このトシで。なにもなしに生きてはいないよなあ。
 なにか、ものすっげー大好きな、情熱と金と時間をすべて費やして悔いのないナニカを持っていなきゃ、ひとりで生きてないよなあ。
 とっくに結婚して家庭つくってるよなあ。

 松竹ちゃんは昔からそーゆー人だったけど、今回、クールなテルちゃんまでもがそーゆー人になっていたのを見て、愕然としましたのよ。
 そうか、こいつも「こっち側」へ来たか。

 感慨深いわ。

 最年少で唯一既婚者のジュンちゃんが「そーゆーの、よくわかんない」と心底不思議そうにしているのがまた、感慨深さに拍車を掛ける。
 いいんだよ、君はわからなくても。君は「そっち側」で、夫を愛して子どもを愛して、築いて、伝えて、生活していってくれ。君こそが、正しい姿なんだから。
 君になれなかったわたしたちは、君の持つモノ以外に「オンリーワン」を見つけているだけのことなんだ。

 それにしても、インターネットは罪深いなあ。
 松竹ちゃんもテルちゃんも、ネットがなければ道を踏み外してなかったと思うよ。
 同行の志と出会えてしまうことで、後戻りできないところまで進んじゃうんだよねええ。
 人はひとりでは生きられないのだ。

 なんてことを考えた日。

 
 
 キティちゃんは今日もピンクでした。
 上から下までピンク。
 だけど、先日とはチガウ服。
 ……アンタ、いったい何着ピンクの服持ってるのよ?

 えーと、これで何回目だ? イタリア旅行メンバーの会合。
「今度こそ旅行の写真を手に入れるぞ!」
 という趣旨で集まった。

 わたしたちがイタリアへ行ったのは、あのテロ事件の翌月でしたっけねえ。
 そして今はもう、戦争がはじまってるんですが。
 ……なのにわたしたちまだ、あのときの写真を手に入れていないんですね?!

 ネガを紛失していたわたしは、なんとか探しだし、焼き増しを写真屋で受け取ってから待ち合わせ場所に行きました。
 これでもう文句は言わせないわ、わたしは義務を果たしたわ。
 旅行から1年半、よーやくみんな、アルバム整理ができるわねっ。

 ところがキティちゃんが言った。
「ええっ、なんで緑野、写真持って来てんの? アンタ、ネガなくしたって言ってたじゃない。だからあたし、安心してたのに」
 安心だと?
 そう、キティちゃんてば。

「あたし、まだ焼き増ししてない」

 などと言うのだ。
 ええっ?!
 んじゃ、今日もまだ写真は全部そろわないの?!
 そろわない、ってことは、アルバム整理はできないってこと?!

 んじゃ、なんのために今日集まったのよー。

 ネガがどこへいったかわからない、ってわたしが言ったとき、いちばん責めたのは他ならぬキティちゃんさ。
 それが、この始末かい(笑)。

「なんだと? なにやってんのアンタはっ」
 キティちゃんといちばんつきあいの長いフクスケさんは容赦がない。
「ええっ、キティちゃんの分は、まだなの?!」
 遅れてやってきたミジンコくんも悲鳴。

 結局わたしたち、今回もまた、ただ集まってメシを食うだけの会でしたわね。生春巻きはうまかったけどさ。3軒ハシゴして、ひたすら食べて飲んでましたけどさ。

 ……で、次はいつ集まる?

「そうね、夏くらいかしら」
 とキティちゃん。をい。夏まで、写真の焼き増ししないつもり??

 なんか2年越しになりそーな予感……。

 
「愛しているなら、電話に出て……」

 今度は呪いの携帯電話です。韓国発のホラー映画『ボイス』を見てきました!
 韓国では『スターウォーズ2』よりも人気だったとか。

 ……ははは。
 ツッコミどころ満載。見事な誘い受っぷりっちゅーかね。

 こわくないです。

 ツッコミに気を取られていたら、こわがる暇がなかったっていうか。
 改めて感じたのは、「言葉」の重要性。
 呪われた携帯電話から謎のノイズが聞こえるんだが、それが日本語しか理解できないわたしには、ほんとにただの「雑音」でしかないのよ。これがもし、わたしに理解できる「言葉」がノイズまじりに聞こえてきたら、もっとこわかったろうなあ。

 ヒロインはジャーナリスト。ストーカーに追われていた彼女は、携帯電話の番号を変える。それがなんと、呪われた番号だった! 以前その番号を使っていた人間は、みんな不可解な死を遂げている。
 ヒロインは呪われた携帯番号の謎を追うが……。

 全体的に思ったのは、えらく大味だなあ、ということ。
 物語の進み方が、なんとも大雑把。先にレールが敷かれていて、その通りに進むために多少無理があっても話をそっちへ強引に持っていく感じ。……それが見ているわたしには、ツッコミを入れたいところになる。
 とくにオチに関するあたりは……盛大にツッコミ入れたよ、わたしゃ。

 最大の疑問は、韓国では家の内装ってのは、個人が自力でやるものなのか?
 裕福な若奥様は、左官ができるものなのか?

 いやあ……おどろいたよー。
 わたし、部屋の壁紙を貼ったことはあるけど、レンガとコンクリートで壁を作った経験はないからさぁ。「やれ」って言われても、途方に暮れたと思うよ。
 韓国の女性はたしなみとして、誰もがコンクリを捏ねられるのかなぁ。
 あったりまえにコンクリートをこねこねしている姿を見せられると、盛大にツッコミ入れちゃったよ……。
 それとも、わたしが見落としていただけで、彼女は左官をやっていた過去があるのか??
 とりあえず、現代にポーをやられてもこまるなぁって感じっす……。

 ヒロインとその親友の女優さんたち、きれいでした。
 ても、親友の旦那さんは、いまいちでした。おかげでいろいろ、説得力に欠けました、わたし的に。
 親友の娘さんは、もっといまいちでした。でも、演技賞モノ。この子の顔がいちばんこわかった……。

 でも、最高にこわかったのは、なんといってもポスターです。はい。

          ☆

 本日のプチショック。
 心斎橋のお気に入りのパスタ屋さんがなくなっていた……。
 うまくて安くてオシャレで、知る人ぞ知るいい店だったのに。

 
 本日は『卒業』を見てきました。
 主演、内山理名・堤真一。

 この映画は……。
 こまったもんだなー。

 この映画は、あらかじめあることを知っているかいないかで、見方が大きくちがうと思う。
 知っていれば、ある程度たのしく見られるかもしれない。
 知らなければ、……かなり、やばい。

 だがそれって、どうよ?

 わたしはその「姿勢」に首を傾げる。
 映画を見る、という行為には、「前もって情報を得ておく」のが必須なのか? まったくの白紙の状態で見るのはいけないことなのか?

 わたしはあらゆる創造物を、予備知識なしで味わうことにしている。白紙の状態でたのしめてこそのエンタメだと思っている。
 小説であれマンガであれゲームであれ、ドラマであれ映画であれ芝居であれ……その作品中に描かれていることだけがすべてだ。他のところでなされている解説なんぞ、意味はないと思っている。
 たとえば、あとがきで小説の内容を解説したり補足していたりしても、それは認めない。なんであとがきで書くんだ、本編で書けよ。小説内だけで理解できないようなものを書くなよ。と、思う。
 この『卒業』という映画に関してもそうだ。映画中に描かれていたことしか、認めたくはない。

 だから、首を傾げる。
 これは……どうよ?

 なんとも不器用な心理学講師の堤真一の前に、キュートな女子大生内山理名が現れる。彼女は堤に積極的にアプローチ。堤先生はたじたじ。

 これは、よくある話。
 男向けのマンガ等であきるほど見た。男はなにもしていないのに、美少女が一方的に熱烈モーション、てやつな。男が不器用で優柔不断、善良なお人好しであることがお約束。強引に迫られても、断れないのな。そしてそのうちほだされて……てな。
 堤真一は優柔不断なやさしい男をやらせたらピカイチ、ハマるハマる。内山理名もちょっと無神経な強引美少女をやらせたら説得力高し。
 これはもうキャスティングを見た瞬間からの、お約束。予想内のこと。
 問題は。
 この「押しかけ女房系ヒロイン」理名のアプローチ方法だ。

 彼女は、堤先生のアパートの向かいに部屋を借り、そこから毎日双眼鏡を使って先生の生活を観察している。

 ……戦慄。
 「先生、お帰り」とか、ひとりごとを言いながら、双眼鏡をのぞいてるのよ?
 や、やばっ。

 しぶる先生を半ば脅迫してデートに誘い出した理名。帰りに先生が落とした「家の鍵」「なんかのカード」「預金通帳」を拾う。
 それらが大切なものだってことは、誰にでもわかるよね。なのに理名は、先生を追いかけてそれを渡してあげない。先生が探し回る姿を眺めている。

 こ、こわっ。

 「家の鍵」と「カード」は返してあげるけれど、「預金通帳」は返してあげない。拾ったことも教えない。

 それって犯罪……。

 またも半ば脅迫して先生をデートに連れ出した理名。公園や書店、美術館などをめぐる。それらの場所はみな堤先生も好んでよく行く場所だった。
 理名は言う。「あたし、そこでバイトしてたから、先生のことも見かけて知ってたよ」
 ……堤先生の出入りするスポットを探し、わざわざそこでアルバイトを繰り返していた模様。

 監視……?

 とにかく、理名の行動は常軌を逸している。
 こわい。ひたすら、こわい。
 なにか画策しているらしい彼女がよく無言のアップになるのだが、その顔がまた、こわい。

 これって、ストーカーもの……?

 理名ちゃんがかわいらしい女子大生だから許されてるらしいが、やっていることは犯罪だ。
 こわい。
 こわすぎる……。

 酔った堤先生を連れて、理名はついに先生の部屋に入ることに成功。正体なく酔いつぶれた先生をベッドへ運ぶ。
 眠る先生を見下ろす理名。

 ヤ、ヤるんですか?
 ヤっちまうんですかっ?!

 理名も同じベッドに入る。そして眠る堤先生の腕を取り、勝手に腕枕にしてしまう。なんか乙女ちっくなことをつぶやいて。

 こわい……。

 とにかく、理名の行動がすごすぎる。
 変だ。
 やっていることはホラーなのに、演出は「せつないでしょー、泣いていいのよー」という、とってもメロウな感じで統一されている。

 ここまで変質的な行動を取るヒロインが正当化されるためには、なにが必要か。
 恋する少女の純情、ですむ問題じゃない。このままじゃ理名は異常者だ。

 そこで、消去法で答えを出す。

 理名は、堤先生の実の娘である。

 これだ。これしかない。生き別れの娘だから、父のことが知りたくて調べ回っていた。監視していた。気づいてほしくてメッセージを送っていた。
 これならかろうじて許せる。ネコババした預金通帳も、堤が自分のために作っていた通帳だと、口座名を見た瞬間にわかったからつい、取ってしまったんだと納得できる。

 ……ええ、それが真相でした。
 理名は、堤の娘。

 そう、そもそもこの映画、制作発表されたときに明言されていました、「堤真一と内山理名が親子役をやる」と。
 わたしもWHITEちゃんとふたりして、「堤真一ってそんなトシだっけ?」と話したおぼえがある。

 たしかに、「堤真一と内山理名が親子役をやる」というのは最初から明言されていたよ。理名が、気づいてくれない父堤をせつなく見つめる話だと。

 だがな。
 それは、製作発表のことだろ。
 ホムペやその他宣伝媒体で言っていることだろ。

 作品中には、名言してないじゃん!!

 最後のオチの部分まで伏せられてんじゃん。
 理名はミステリアスな美少女って扱いしかされてないじゃん。

 理名が娘だっていうことをオチの部分まで伏せるとしたら、この作品はあまりにホラーだよ。理名の行動、変だもん。年の離れた先生に恋している電波女子大生の話でしかないもん。押しかけ厨の世界がそこに、って感じだよ。
 理名をキチガイとして描きたくない、せつない美少女として描きたいなら、最初にふたりが親子であることを作品中で名言しろよー。

 変だよ。

 作品がミステリの手法で描かれてるのよ。
 伏線が張り巡らされていて、クライマックスで真相解明。
 論理ミステリだから、叙情と相容れない。
 せつなくなるはずのヒロインの行動が、電波なストーカーになっている。

 監督、『13階段』の人なのね……。
 なんかまちがってるよ、アンタ……。

 内山理名という女優を選んだのもまずかったね。ヒロインと作品と、どっちが先に企画があったのか知らないけど。
 彼女、無言の演技できないもん……。黙っていると、ホラーにしかならない。せつなくならないよ……。

 堤真一はほんとにすばらしい誘い受男。すてきなダーリンが見つかるといいね、って感じ。
 いや、個人的に堤さんは攻でいてほしいんだけどな……わたし好みのヘタレ攻。

 堤先生とその恋人夏川結衣の関係には、とてもせつなく「恋愛映画」としてたのしむことができました。
 だから余計、理名のストーカーぶりがこわかった……恋人同士を引き裂くのか?と。

 
 長電話してたら、病院に行きそびれた……へっくしょん!!

          ☆

 彼は、生まれつき他の誰ともちがっていた。カラダに障害があったのだ。
 彼はそのことを恥じていた。みんなと同じ姿をしていないことを、かなしんでいた。
 自分を愛することのできない彼は、いつもひとりで機械いじりをしていた。
 そんな彼の前に、あるアクシデントが起こった。
 彼の住む町へ悪人がやってきて、ひどいことをはじめたのだ。
 彼はなにもできなかった。
 なにかしたい、と思ったのに、なにもできなかった。しようとしなかった。
 どうせボクなんて……そんな思いが、彼をすくませていた。

 そんな彼の目の前を、あざやかに走っていった者がいる。

 知らない少年だ。彼よりも、少し年上。
 「どうせボクなんて」と彼があきらめたアクシデントに向かって、まっすぐに疾走していく。たったひとりで、悪人と戦う。

 誰?

 彼は走り出す。その少年のあとを追って。
 彼があきらめていたもの、渇望していたものを、その少年は当たり前に見せつける。
 その勇気で。その強さで。

 彼は考える。
 ボクも、あの人のようになれるだろうか。
 戦う前からあきらめて、言い訳ばかり考えているボクでも。
 ボクは、変われるだろうか。
 いや、変わりたい。
 あの人のように。

 その日から、彼は少年を追いかけることにした。
 少年は彼を邪険に扱う。どんなに一緒にいたいと言っても、無視されてしまう。それでも彼はあきらめない。一生懸命、あこがれの少年の背中を追いかける。
 どうせボクなんかなにもできない。……そう思うのではなく、ボクにできることはなんだろう、と考えることにした。あこがれの少年にふさわしい存在になりたかったのだ。そうやって、彼は必死に少年のあとを追う。
 そして彼は気づいた。彼のことをいつも無視している少年が、ときおり横目で彼の様子を見ていることを。彼が転んだときは、立ち上がって走り出すまで、立ち止まって待っていてくれていることを。

 こうして彼と少年は出会い、今もふたりで走り続けているのだ。

 
 ……知らなかったんだけど、『ソニック・ザ・ヘッジホック』テレビアニメ化なのね。
 ソニックが人間界に来てしまう、というストーリー解説を読んでちょっと首を傾げる。うーむ?
 第一、大阪では放映するのかしら? 大阪はアニメ不毛地帯だから、放映されないものも多いんだよねえ。

 わたしはゲームショップで働くようになるまで、ゲームというものをまったく知らなかった。
 ゲームショップで働きだしたのだって、わたしの意志じゃない。配置転換で否応なく担当になったんだもん。
 CDタイプのゲームソフトを売りに来たお客さんに、「CDの買い取りは2階のCDフロアで承っております」とか言っちゃうくらい、無知だった。ゲームってのは、カセットしかないって信じてたんだもん。
 そしてそれは、プレステとセガサターンが発売される前の年だった。
 わたしはゲーム機に触ったこともないまま、ゲーム売り場担当として、悪戦苦闘していた。知識がゼロだったもんでな。
 そんなわたしでも毎日ゲームソフトの中で働いているうちに、いろいろおぼえてくる。ゲームをしたことがなくても、商品知識だけは増えてくる。タイトルを言われたらどんなゲームであるか答えられる、店のどの棚のどこに陳列してあるか答えられる、てなふーに。
 気になるタイトルも出てくる。
 そのなかのひとつが、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』だった。
 絵と色とデザインが、なんともわたし好みだったんだ。
 とくに、シリーズの2本目が気になった。
 青いかっこいい系のキャラと、黄色いかわいいキャラが一緒に描いてある。どっちも動物らしいが、なんの動物かはわからない。
 青いキャラが主人公の「ソニック」だということはわかった。じゃあ一緒にいる黄色いかわいいのはなんだろう。
 ミッキーとミニーみたいなもんで、主人公とそのガールフレンドだろうな、と思う。ミニーはぶさいくだけど、ソニックのガールフレンドはめちゃかわいいなあ、と。
 そのかわいいキャラの名は「テイルス」というらしい。ちょうど中古品を買い取ったので、チェックがてら説明書を読んでみた。
 ソニックがハリネズミで、テイルスはキツネかあ。ふーん。え? ……え?

 テイルスって、男の子?!

 あんまりかわいいんで、女の子だと信じ切っていた。ミッキーとミニーだと思いこんでた。
 男ふたりだったのか!!

 途端、興味が湧いた(笑)。
 説明書をはじめから読む。
 『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』の説明書は、最初の部分が絵本のようになっていた。
 ソニックとテイルスの出会いがイラスト入りで描いてある。

 生まれつきしっぽが2本あるマイルスは「テイルス(しっぽの複数形)」という渾名で呼ばれ、周囲からからかわれていた。彼はコンプレックスのかたまりだ。
 そんな彼の前に現れた男、ソニック。
 …………すごいっす。
 テイルスがソニックに一目惚れする物語が、ちゃーんと書いてあるっす。

 ソニックは走る。
 輝く太陽に向かって。

 ソニックは走る。
 胸を張って正々堂々と。

 ソニックは走る。
 立ち止まらずに力いっぱい走り続ける。
(パッケージの宣伝文句ナリ)

 そんなソニックのあとを、テイルスは追いかけはじめる。
 コンプレックスだった2本のしっぽを使って。欠点を武器にすることをおぼえたんだ。コンプレックスを克服したんだ。
 ソニックに出会って、テイルスは生まれ変わったんだ。

 ソニックはクールな男なので、自分にあこがれて追いかけてくる男の子のことなんか、構ってやらない。……でも、ちゃんと目の端で様子を見ている。
 と、説明書に書いてある。……書いてあるんですよ。キャラ紹介に。テイルスのとこには「ソニックが好き」、ソニックのところには「でも、ちゃんとついてきているか横目で見ている」と。
 なんなんすか、これ。
 どこのBLですか?! ラヴラヴですがな!!

 ……プレイしましたよ、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』。メガドライブ本体借りて。
 テイルス、めちゃかわ。
 プレイヤーが操作するのはソニックだけ。
 走り回り、戦うソニックのそばに、テイルスがいる。ただ、いる。いるだけ。彼はなにもしないし、できない。でも、いるの。勝手に動き回ってるの。あとを追ってくるの。ソニックが立ち止まるとテイルスも止まるし、フェイントかけて急に立ち止まったりしたら、通り過ぎたあとにあわてて戻ってくるの。
 か、かわいい……。
 つーか、なんなのこのラヴラヴぶり。
 意味なく、プレーヤー・キャラに美少年がくっついてくるのよ? なにもしないのに、ただいつも一緒にいるのよ?
 制作者はなに考えてこんな愉快なものを作ったんだ??

 以来、ずーーっとずーっと、ソニックシリーズのファンです。

 あ、テイルスは攻ね。
 どんなにかわいこちゃんでも、彼は攻。
 テイルス×ソニック。
 だが、シリーズ3で出てきたナックルズ。彼は受です。ソニック界の、総受。ナックルズ相手なら、ソニックも攻だわ(笑)。

 わたしの愛用しているマグカップは、テイルス×ソニックのイラスト入りです。セガのオフィシャルグッズです。
 テイルスは2本のしっぽをプロペラにして、空が飛べるの。でも、ソニックはふつーのネズミなんで飛べない。では、ソニックが空を飛ぶにはどうするか。

 テイルスがソニックを抱えるの。

「ジェットがジョーを抱いて飛ぶよーなものなのよっ(byサイボーグ009)」
 と萌え解説するわたしに、友人ズは、
「でもネズミじゃん……?」
 と、冷たく言い放ってくれました。むきーっ。

 わたしのマグカップは、テイルスとソニックがふたりで手を握り合って飛んでいるイラストなのよー。宝物よー。
 かの大震災で割れたから、あわててもう一度買いに行ったんだもん。

「ソニックでやおい、って、ソレ、擬人化よね……?」
 なんて、おそるおそる聞かないでよ。
「擬人化してもべつにかまわないけどさー。でもわたし、ネズミのままでもぜんぜんOKよっ。ヤってくれてヨシ! つーか読みたいっっ」

 と、正直に言って、引かれましたわね……盛大に。

 だって、やおひはファンタジーでしょ? 想像力でしょ?
 なんか問題ある?


ドラマ語り。

2003年3月23日 テレビ
 書くことがないので、ドラマの話でもしてみる。

 わたしはいったい、いつからおもしろいドラマを見ていないのだろう。
 なんか、ここんとこずーっと不作ですが。
 オレンジとドラマの同人誌作ってたころがなつかしい。あのころはまだ、おもしろいものもあったんだよなあ。

 今期見ていたドラマを列記してみる。

・月曜日 『いつもふたりで』『メッセージ』『風子のラーメン』
・火曜日 『お義母さんといっしょ』『僕の生きる道』
・水曜日 『熱烈中華飯店』『最後の弁護人』『刑事☆イチロー』
・木曜日 『恋は戦い!』『年下の男』『美女か野獣』
・金曜日 『高校教師』
・土曜日 『赤ちゃんをさがせ!』
・日曜日 『GOOD LUCK!!』

 『HR』はおもしろかったけれど、数回しか見ていない。たんに見るの忘れるんだ。わたし、11時スタートのドラマは見られない体質らしい。そして、見逃してもそれほど惜しいという気もしない……。
 今回、1話を見て「これは見るだけ時間と感性の無駄だ」と思って切り捨てたのは、土曜日のジャニドラマのみ。これは正直、1話を最後まで見るのもつらかった。
 そして、レコーダーが勝手に録画しつづけていなかったら、ほとんどのドラマは最後まで見ていなかったと思う。つまらなかったよ、ほんと。

 いちばんつまらないっていうか、なんかまちがってるんじゃないの? と思ったのが、『いつもふたりで』と『刑事☆イチロー』。
 ……なにがしたかったんだ?
 やりたかったことと、現実がズレてないか?
 無理矢理盛り上げようとして、本筋をねじ曲げているいびつさが全編に感じられた。

 『いつもふたりで』は、「おしゃれな恋愛モノ」にしようとして失敗。おしゃれ、だから、ギョーカイ物で明るくて元気でコメディなの。ドロドロしなくて、友だち恋愛なの。ヒロインはエネルギッシュで前向きで、目を離せないかわいい爆弾娘なの。ダーリンはハンサムでやさしくて不器用なの。
 いや、無理だって。(顔の前で手を振っている)
 やりたいことはわかるけど、ちゃんと企画練った? ものすごーく見切り発車っていうか、表面だけでOK出してない、この企画? 全部上っ滑りしてるよ??
 出版業界があんなワケないじゃん! とかはべつに思わない。フィクションなんだから、自由に表現してヨシ。それとは別に、お手軽感が気になる。すべてテキトーっていうか。
 その結果が空回りの薄ら寒いドラマに。
 ……あのヒロインに共感できるエイリアンは、どれくらいいるんでしょうか。

 『刑事☆イチロー』は……なにがやりたかったのか、誰かわたしに教えてください。
 タイトルの☆はなんなんですか? 明るくおしゃれな若者向けの刑事物かと思ったんですが。
 薄っぺらい、というだけで、べつにおしゃれでもなんでもありませんでした。
 どちらかというと、ド根性物? 陰湿ないじめに耐えて、がんばる田舎青年の話?
 しかもこの「いじめ」が、とても不可解だった。昔の大映ドラマ系っていうのか、トウシューズに画鋲ランクのいじめなんだわ。コレ、マジでやってるんですか? 21世紀に??
 主人公のがんばりを表現するために、いろんなことがゆがめられている不快感。そして主人公も、その現実感のないいじめと同じくらい、妙な行動ばかり取る。
 登場人物すべてがエイリアン。わたしには何故そこでそう言うのか、そう行動するのか、そして物語がそう流れるのかが、まったく理解できませんでした。ちゃんと毎回見ていたのに、毎回「あれ? 1週とばしちゃった?」と首を傾げてしまうくらい、彼らの行動の辻褄が合わなかった。
 ちゃんとプロットたてた? すごくテキトーな感じがするんですけど? ドラマなんか使い捨てだ、ってナメて作ってる??

 目指す路線はわかるけれど、実力不足で沈没したのが、『メッセージ』『熱烈中華飯店』『美女か野獣』。
 この3本はすべて、どんでん返し物。
 問題が提示され、どーしよーもない危機一髪、のところでどんでん返し、大団円へ。ミステリ系っていうか、見ているモノがスカッとするタイプの話。
 ところがどれも、スカッとしないんだわ。
 問題が起こる。問題が展開する。登場人物たちは追いつめられる。どうしよう! もうダメだ! しかしそこでなんらかの出来事が起こる。それによって事態は好転、やったぁ、とニヤリとして終わる。起承転結のはっきりしたドラマ……のはずが、どーしたことだ、「転」の部分が甘い。
 タカオくんはママの言いつけでお買い物に出た。ところが、通り道にいじめっ子が! どうしよう。いじめっ子から逃げたら、お金を落としてしまった! どうしよう! 途方に暮れるタカオくん。ママに叱られる。もう陽が暮れる。絶体絶命だあ。……あれ? あんなところにお金が落ちてる。ラッキー☆ タカオくんは拾ったお金で無事にお買い物を済ませ、ママに誉められました。めでたしめでたし。
 てなレベルの話ばかりなんですけど?
 どんでん返しが全部「偶然」なんですけど?
 こまっていたいら、偶然、都合のいい出来事が起こってハッピーエンド!!
 おいおい。
 窮地をひっくり返すのは、「登場人物の力」でないと、意味ないんだってば。神様でも偶然でもなく、創意工夫、知恵と勇気で乗り越えるからこそ、おもしろいんだってば。
 全部「偶然」で「ラッキー☆」でハッピーエンド……ひでえ。

 たんにおもしろくなかったのが、『恋は戦い!』と『GOOD LUCK!!』。とっても浅い物語。1話を見たらすべてがわかってしまう。予定調和。
 まあ、『恋は戦い!』のダサさや失笑を誘う作りに比べれば、『GOOD LUCK!!』の方が断然マシですが。つっても、予算もチガウだろーしなぁ。

 『風子のラーメン』は、なんでわたし見てたんだろ。対象年齢チガウだろーに。悪くはないけど、おもしろくもなかった。つーか、まったく盛り上がらないまま終始した、ローテンションドラマ……。ものすごーくNHK。
 『赤ちゃんをさがせ!』は……も、どーしよーもないよな。さすがNHKとしか言いようがない脱力ドラマ。この現代に、このセンスでドラマを作ることに感動した。植田理事長がこの現代に『おーい春風さん』等を上演してしまうのと、同じものすごさ。

 死にゆく高校教師モノが何故2本も? 『僕の生きる道』と『高校教師』。
 意欲は買うが、どちらもつまらなかった。
 死に向かう話は、痛くて好みのテーマなんだがなあ。
 感動モノを意識するあまり、絵に描いた餅になっていたというか。
 どちらも、かゆいところに手が届いてない。もう少し、なんとかできたような気がするよ。がんばってるのになあ。
 見れば見るほど、冷めてしまった……。

 『お義母さんといっしょ』は、予定通りに話が進んだの? 途中で二転三転してない? ふらふらしまくってる印象。
 1話はおもしろかった。2話もまだよかった。しかし、3話以降はダメダメ。路線がどんどん変わっていった気がした。なんで?
 1話のままの嫁姑モノで突っ走ってほしかった。からりと晴れ上がったバカップル……とゆーか、バカ嫁姑で。言いたいことが言えないのが嫁姑、という常識を打ち破り、言いたい放題ケンカし放題、あげくの果てに「裁判」。そして裁判所に行ってやってることと言えば、犬も喰わないよーな痴話喧嘩。
 このあたりまでは、おもしろかったのになー。
 そのあとは、ただの嫁姑ものに成り下がった。夫を殺す必要あったのか? 次男はなんであんなに簡単プーに改心するんだ? 当初の伏線をすべてぶちこわしてないか? 横やりでも入ったのか?
 ヘンなの。
 3話以降はただのキチガイドラマ。みんなキーキー叫んでます。

 そして、結果としていちばんマシだったのが『最後の弁護人』てのはいいとして、『年下の男』がくるってのは……どうよ、って感じだわ(笑)。
 この2本の話はまたいずれ。

          ☆

 昨日書いたミステリの作者が故人だということに、プチショック。
 若すぎるよ、早すぎるよ……。


 突然ミステリが読みたくなった。
 なんでもいいから、「殺人事件」と名の付いた小説が読みたかった。

 そうして手に取ったのが、『ベルガード館の殺人』ケイト・ロス著。

 予備知識はなにもありません。タイトルも作者名も、聞いたこともなし。有名なんすか? わたし、最近とんと疎くて。

 19世紀初頭の貴族の館で起きた殺人事件を、社交界きっての伊達男が探偵役になって調べる……とゆーあらすじをちらっと眺めて、この本を読むことに決めた。

 ……大当たりでした。
 めちゃくちゃたのしい(笑)。

 つーか、わたしの頭の中には、花組のみなさんが闊歩しています!
 19世紀っすよ! お貴族様っすよ!
 探偵役はロンドン社交界きっての色男、黒尽くめのダンディ。彼のファッションを、紳士たちはこぞって真似し、淑女たちは狂喜乱舞するのよー。
 これは寿美礼ちゃんでしょう。おさ様以外の誰がやるのよーっ、と、現在彼に夢中なわたしの頭は、自動変換いたしました。

 物語は、由緒正しき貴族のおぼっちゃまが、家名のために意に染まぬ婚約をするところからはじまる。
 この善良で世間知らずのおぼっちゃまがゆみこ。
 ゆみこの従兄弟で、ハンサムで世慣れた遊び人があさこ。
 ゆみこおぼっちゃまは、遊び人あさこに連れ出されて、いかがわしい店に入る。いつもならそんなことしないけど、なにしろ彼は今日、愛する両親と家の名誉のために、顔も知らない女と婚約したのだ。ヤケにもなるさ。
 飲んだくれてカモにされて、さんざんな目に遭っているゆみこをさりげなく助け出したのが、おさ様だ。
 世間知らずのゆみこは知らなかったけれど、あさこに言われて、自分を助けてくれた人が社交界きっての伊達男、みんなのあこがれの人おさ様だと知る。……ここであさこが、「あのおさ様と、いつの間にそんなに親しくなったんだ」と、ゆみこにジェラシーめいた態度を取るのがツボです(笑)。そうか、おさ様にやさしくしてもらえる、てのは嫉妬されるよーなことなのか。
 すっかりおさ様に心酔したゆみこ、たった一度、わずかに言葉を交わしただけのおさ様を、結婚式の介添人に指名、自分の屋敷に彼を招く。まああ。強引だわ。たった一度の逢瀬で、そこまでしますか。
 社交界の華ではあっても、実は身分をもたないおさ様は懐具合が悪い。いきなり名門貴族のおぼっちゃまから結婚介添人に指名されて、訳がわからないけど今ちょーど金がないから招かれてしまおう。と、従僕のらんとむを連れて、タイトルになっている「ベルガード館」へ。
 そこは緊張感あふれる人々の坩堝。
 ゆみこの結婚は、決して祝福されたものではないのだ。どうやら彼の家族は、脅迫されているらしい……。
 そこで殺人事件が起こるわけだが、なんとおさ様の従僕、らんとむが容疑をかけられてしまった。おさ様はらんとむの無実を証明するために、真犯人を捜さなければならない!!

 ヒロインはふたりいる。
 ゆみこの従姉妹で、意志の強い、凛とした美少女。おさ様はひと目見たときから、彼女に惹かれる。……これはやはり、ふーちゃんになるんでしょうなあ。
 そして、ゆみこの婚約者。ゆみこの家を脅迫し、無理矢理婚約させてしまった男の娘。おどおどとした気の弱い少女。ちょっと両目が離れ気味なんだって。……あすかちゃんよね(笑)。

 ゆみこの両親は、組長と副組長の出番でしょう。これぞ貴族の見本、という感じの夫婦。誇り高く公正で理知的なハッチさん、貞淑で慈悲深いその妻梨花さん。

 それに対する悪の化身、目的のために手段を選ばずのしあがってきた男、脅迫によって自分の娘あすかと、貴族のおぼっちゃまゆみこを結婚させようとする商人が、もちろん、ちはる兄貴。

 ハッチさんの妹のヒステリー女と、あさこの父親でプレイボーイの大佐は、適当な上級生に。
 おさ様のワトソン役となる医者は、専科のおじさまに。

 おさ様の従僕らんとむは、元下町の掏摸。抜け目がなくてかわいい若者。おさ様命(笑)。

 いやあ、キャスティングもたのしいし、物語もたのしかった。
 とくに、おぼっちゃまとその婚約者の恋!!
 「脅迫」によって仕方なく婚約させられたふたりなんだけど、結局恋に落ちちゃうのね。
 でも、「あの人は嫌々結婚を承諾したんだ」とお互いに思っているもんだから、誤解に誤解を重ね、読んでいるこっちはとってもじれじれ。ミステリより、こっちの方が気になったわ。

 とにかく、登場人物もやたらと多いし、見せ場も多いし、華やかだし、大劇場向きですわ。
 主人公の伊達男と令嬢の関係をもっとクローズアップすれば、十分イケると思います。主人公至上主義だし。会話もいちいちかっこいいし。……時代モノだから、どんなにもったいつけたキザな言い回しもOKなんだもん。
 あの優雅な台詞を、おさ様に言ってもらいたいもんだわ……。うっとり。

 そして、愛のミステリである、というのがものすごくツボだ。
 「動機は愛」。
 やっぱコレだなあ。最強だわ。

 プロットのこみいった恋愛小説、としての側面もたのしめました。
 幸運な出会い。

 
「派手な服を着た女が来るから、誰かと思ったら、なんだ、緑野か」
「あんたに言われたくないわ。なんなのよ、その格好」

 ……わたしとキティちゃんの第一声です。
 挨拶もなく、これが互いに掛ける、最初の言葉です。

 キティちゃんは、ココちゃんとデイジーちゃんと一緒に花バウを観に来ていました。そしてわたしは、未来ちゃんとデートのため、ムラへ来ていました。

 わたしとキティちゃんは、どうも、ケンカでもしているようなやりとりをよくするようです。
 キティちゃんはナチュラルに「こわそう」に見える人です。あと「えらそう」とか、「お高そう」とか。本人は、のんきなお人好しなんだけどね。外見が、そんなふーに見えてしまう。
 キティちゃんの仲良しで、同じ会社で働いているココちゃんは、いつも彼女におびえています。ココちゃんにとってキティちゃんは、仲良しで一緒にいると楽しいけど、その反面とっても「こわい人」らしい。
 だからココちゃんは、その「こわい人」であるキティちゃんを相手に、わたしがポンポン言い合うのを見て、不思議だったようです。
「緑野さんって、いっつもあんなふうにキティさんに言うんですか……?」
 と、最初のうちはすくみあがっていたそうな。
 ココちゃんの目には、わたしも同じように「こわい人」に映っていたのかもしれない。

 わたしはべつに、ことさらキティちゃん相手に「すごい言い方」をしているつもりはないんだが……。
 冒頭の会話が、会って最初の言葉じゃあ、善良なココちゃんにおびえられても仕方ないか、と、反省……。

 でもさでもさ、わたしの口が言いすぎるとしたら、それはキティちゃんの言葉にも問題はあるわよね?
 顔を見るなり、「派手な服の女」って、なによそれ。いつもと変わらない格好してただけですけど。まあ、マニッシュを通り越してボーイッシュだったかもしんないけどさっ。派手じゃないもん。紺が基調だったもん。
 そう言うキティちゃんは、上から下までピンク一色だった。彼女はなにがあっても絶対フェミニン。ジーンズなんか穿いたこともないというお嬢様。わたしと、服の趣味は正反対。また、似合うものも正反対。
 服から小物まで全部ピンク一色の女に、服装のことでつっこまれたくないわ!

 注意。
 わたしとキティちゃんは、とっても仲良しです。
 今日もまた、自分の連れの存在を忘れるくらい、きゃーきゃー喋ってしまいました……すまん、未来ちゃん。今日はわたし、あなたをエスコートしなきゃなんないのにっ。

 とってもかわいらしい未来ちゃんを紹介すると、キティちゃんは「ふーん」と品定め。そーゆー目つきで人を見るからアンタ、こわい人だと誤解されるんじゃないの?
「緑野の友だちにしては、ずいぶん雰囲気がちがうね」
 上から下まで眺め倒したあとで、なにを言いますか、この女は。なんて失礼な。
「どーゆー意味よ、それ」
 ……またしても、ケンカにしか見えないやりとり。
 いや、本人同士はぜんぜん、そんな気ないっす。だってこれ、日常だもん。わたしとキティちゃんは、いつもこう。
 ……未来ちゃん、こわがってなかったかしら。おろおろ。

 仲良しなのに、なーぜーか、ケンカしてるみたいな会話になるのよねえ。わたしとキティちゃん。
 キティちゃんも首をひねっていたよ。
「あたしと緑野が喋ってると、周りが引いてない? ふつーにしてるだけなのに」
 と。
 ……わたしら、そんなに口悪いかな??

 エリザベートのドレスを着たいという未来ちゃんをエスコートするのが、本日の目的ナリ。
 かわいくて若い女の子が着飾るのを見るのはいいもんだよ。すっかりおばさんモードです、はい。
 おばさん、とゆーより、オヤジか……?

 
 レクター博士に、どんなイメージがありますか?

 よーやく見に行きました、『レッド・ドラゴン』。エドワード・ノートン、アンソニー・ホプキンス主演。

 連続猟奇殺人事件を追うFBI捜査官ウィル・グレアムは、病院の精神科に幽閉されている殺人鬼ハンニバル・レクター博士に意見を求めることになった。「噛みつき魔」という渾名で呼ばれる今回の事件の犯人に、レクター博士に近い異常性を感じたためだ。
 「人喰いハンニバル」を逮捕したのが、他でもないグレアムだ。レクター博士とグレアムは宿敵同士なわけですな。檻の内と外で繰り広げられる心理戦、なにも持たない囚人のはずのレクター博士は、何故かすべてを見通しているような言葉を発する。つーかレクター、「噛みつき魔」とタブロイドを通じて文通していたりと、まったくもって油断がならない。
 「噛みつき魔」はレクターの大ファンで、すさまじい愛情で彼の情報を集めている。ちなみに「噛みつき魔」という渾名が気に入らず、「レッド・ドラゴン」という名を自ら現場に残したりもしている。
 噛みつき魔改め「レッド・ドラゴン」が敵、レッド・ドラゴンにシンパシーを感じ協力したりしながらもグレアムに助言したり、グレアムをもてあそぶのがたのしくて仕方ないらしいレクター博士が敵でありながら味方(またその逆)、そしてわれらがヒーロー、視点であり探偵役であるグレアム捜査官。
 男たちの熱ぅい、三つどもえの戦い。

 グレアム役のエドワード・ノートンはOKです。繊細そうな二枚目。よっしゃあっ、って感じ。
 レッド・ドラゴン役もまあ、あんな感じ。

 でもさ。
 レクター博士って、どうよ?

 わかってるよ。
 アンソニー・ホプキンスがすばらしいことは。
 『羊たちの沈黙』の彼の演技がものすごいからこそ、このシリーズがシリーズとして、ここまで存在するんだということは。
 ホプキンスこそが作品の「顔」であり、彼あってのことだという事実は。

 でもさ。
 ……わたしは、不満なんだ。
 だって、イメージちがうんだもん。

 レクター博士は、あんなんじゃないぃぃぃいっ。

 原作だけを考えてください。レクター博士ってのは、どんな姿をしていると思いますか?

 ハゲ頭のじじいですか?

 わたしやWHITEちゃんにとってレクターは、「美形」なのよ……。
 年齢はもちろん壮年には達しているけれど、あくまでも「美形」なのよ。
 彼の行動には美学があり、その知性は人間の倫理や常識を超えたところにあるのよ。
 そしてそれは、「美しく」なければならないのよ。

 アンソニー・ホプキンスがすばらしい俳優であることとは、別の話なんだよ。

 『サイコメトラーEiji』に出てくる、もろ「レクター博士」な天才殺人鬼(名前忘れた)、彼こそがわたし的には「原作のレクター博士」ですよ……。
 あ、『サイコメトラーEiji』ってたしか、ドラマもあったね。ジャニタレのプロモーション目的の。アレとは関係ない、原作の話ね。(原作は萌えがいっぱいです・笑)

 とくこの『レッド・ドラゴン』では、レクター博士のじじいっぷりに違和感があった。
 だって、シリーズの「最初の話」なんだよ? 映画第1弾の『羊たちの沈黙』より昔の話なんだよ?
 なのに、『羊たち…』よりはるかにじじいのレクターなんて……。
 『レッド・ドラゴン』はある意味、レクターとグレアムの恋愛モノなのにぃ。グレアムが美形なのはとーぜんとして、レクターもなんとかしてくれぇ……というのが本音だ。
 グレアムは「レクターを逮捕した男」。犯罪者の心理を「想像」することによって、逮捕する捜査官。つまり、他の誰より「犯罪者に近い」ものをその心に秘めている。
 グレアム自身は、ふつーに善良な良き社会人で良き家庭人なんだけど。そんな彼が、「レクター」を精神のどこかに飼っている……。だからこそレクターを逮捕することができたし、またレクターも彼に一目置いている。
 こちら側とあちら側の戦い。正常と異常の戦い。
 ふたりの天才の戦い。
 ……だからこそ、最高にスリリングで、エロティック。
 『羊たちの沈黙』『ハンニバル』で、女性捜査官クラリスが、そのままグレアムの位置にいるように。ふつーなら、男と女で表現する類いのものを、『レッド・ドラゴン』では男同士でやっているのさ。
 だからいいのにぃ。

 アンソニー・ホプキンス……。
 レクターとグレアムは、同世代でいてほしいのよ、せめて。レクターが年上なのはわかるが、ダブルスコアだとテーマが変わってくるじゃん。老練なじじいと、若造の戦いじゃないでしょ? 同じ場所に立つ男たちの戦いでしょ?

 それだけが、かなしいのです。

 映画はたのしかったです。はい。
 レッド・ドラゴン側をほとんど描いている余裕がなかったのはわかるし、最低限の表現でうまくまとめていると思う。
 びっくり系のサスペンスも適度に作用していました。へたに血まみれにしないあたりがセンスいいよね。
 クライマックスの盛り上がりも、たのしかったよ。

 エドワード・ノートンがイメージぴったりの繊細ないい男であるだけに、アンソニー・ホプキンスの醜いじじいぶりがかなしい……せめて彼が美老人ならばまだ……。

 ま、腐女子のたわごとだけどな。
 世間の評価は知らないんで。

  
 うっきゃー、寿美礼ちゃんラ〜ヴ!!

 とゆーだけで、デイジーちゃんと電話で盛り上がる。
 赤坂ACTも行くこと決定です。
 理屈はこの際置いておきましょう。
 おさファンは昇天必至です、『不滅の棘』。

 
 本日は映画+観劇+仕事の3コンボ。多忙ナリ。
 そのうえ、帰宅するなりデイジーちゃんから煩悩爆発TEL。ふたりでおさ語りGOだ。
 なんて長くて濃い1日。

 
 永遠の生命を持った男の、愛と慟哭の物語。『不滅の棘』。
 正しくヒーローもの。
 問答無用で、主人公ただひとりの人生を描いている。
 欲張りすぎて失敗する作品が多い中、主人公ひとりだけの物語にしてしまったのが勝因かと。
 ひとり芝居に描き直すことも可能な作りのミュージカルでした。

 テーマはべつに深くもなんともありゃしません。
 めーっちゃ「ありがち」で「お約束」で「普遍的」なものです。
 だからいいんです。

 世の人々が大好きな「お約束」というのは、「金よりも愛が尊い」です。これが基本で、あとはこのバリエーションです。
 「金」の部分には、「うらやましいもの」全部があてはまります。「若さ」「美しさ」「権力」「地位」なんでもよし。
 一般に、「物語」はこれらを「否定」することで成り立ちます。
 たとえば「若くなくても、君は素敵」「外見的な美しさより、心の美しさの方が大切さ」「悪の権力者と戦う!」「与えられた地位を捨てて、夢に生きる」など。
 『不滅の棘』で描かれる「不老不死の美貌の男」は、このお約束の「金」の部分を持ち合わせているわけですね。ならばやることはひとつ、「金」部分の全否定です。
 「不老不死」で「美貌」で「誰からも愛される」……しかし彼は「孤独」で「不幸」なのだ。
 「不老不死」とくれば、お約束、「限りある命こそが素晴らしい」。「金」は否定してこそ「物語」です。

 あとは、この「お約束」をどう描くか。
 これが「物語」の醍醐味です。

 
 『ひとり芝居・不滅の棘』は、真っ向勝負で「お約束」に挑んでいます。
 主人公のエリイは意志に反して不老不死になってしまった美貌の若者。
 幕開きから、彼の孤独と慟哭が全開です。
 なんせ「金」部分を全部持ち合わせてしまっているわけですから。超絶お金持ちの美人さんがしあわせいっぱいハッピーなだけの物語なんぞ、誰も見たくありません。すべてを持ち合わせた人間が実は孤独だったりしてはじめて、観客は感動するんです。
 エリイは孤独。エリイは悲劇。これが大前提。
 白。
 世界は白。
 エリイの目に映る、色のない世界。彼の孤独、彼の慟哭を映した世界。
 登場人物も背景も、なにもかも白一色。わたしたち観客は、エリイの目に映る絶望を、そのまま見せられるわけです。
 だってわたしたちは、不老不死ではないのですから。つまり「金」を持っていないのです。「金」を持っていることが幸福で、それ以外は不幸だと言われたら、観ているわたしたちの立つ瀬がありません。わたしたちが持ち得ないものを持っているエリイには不幸になってもらわなければ。そして、「金」を持っていないわたしたちこそが幸福なんだ、という結論に着地してくれなくてはなりません。
 しかし、テーマをただ叫ぶだけでは「物語」ではありません。
 どれほど彼がかなしいのかをエピソードを交えて表現していかなければ。
 とゆーことで、幕開きで全開だったエリイの孤独は一旦ナリを潜めて、元気な現代物の殻をかぶって物語は進みます。

 舞台は現代(正確にはちょっくら昔だけど)のプラハ。
 ブルス男爵家の財産をめぐる、100年にも渡る長い裁判が行われている。100年前に死んだブリーダ・ブルスの財産を受け取るのは誰だ?
 なんせ100年前のことなので、ブリーダ・ブルスの真意などわかりようがない。なのに、その「100年前のこと」を見てきたかのように語る男が現れる。男の名はエロール・マックスウェル、超絶スーパースター様。彼は裁判の原告被告両方に近づき、なにかを得ようとしている様子。
 エロールは何故、100年前のことを知っているのか? 弁護士助手のアルベルトは彼のたくらみを暴く。100年前の書類と、今生きているエロールの筆跡が同一のものである。これはエロールがブルス男爵家の財産を目当てに、書類を偽造した動かぬ証拠!!
 ミステリならば、これでよし。アルベルトは探偵役。
 しかし観客は知っている。
 エロールこそが、幕開きで壮絶な孤独にあえいでいた、不老不死の青年エリイなのだ。
 100年前彼は、ブリーダ・ブルスと愛し合った。書類は偽造でもなんでもない、彼自身が100年前に書いたものだ。

 この裁判とそれをめぐる事件を通して、一貫して描かれるのが、エロール=エリイの孤独。慟哭。
 スーパースター様で、女たちに騒がれて、なにもかも持ち合わせている美貌の若者は、なにゆえにか、壮絶な孤独にあえいでいる。絶望している。
 彼の華やかさと、かなしみの対比。

 事件と、彼をとりまく女たちで「物語」を回し、正しい「お約束」の結末に着地する。

 すなわち、

「限りある命を大切に生きよう!!」
「人は必ず死ぬ。でも、それだからこそ、命は尊いんだわ!」
「わたし、今日からもっとやさしくなるわ」

 とか、観客に思わせる、正しきエンタメの姿よ。

 
 お約束に徹し、舞台上を主人公の心象としての「白」に統一してまで「ひとり芝居」にし、主人公をひたすらかっこよく美しく、そしてかなしく、終始した。
 ブラボー。
 素晴らしいです。

 なんつっても「ひとり芝居」なので、主人公エロール=エリイ役の寿美礼ちゃんの役割の大きさは、並大抵ではありません。
 よくもやった、演じきった。
 主人公に説得力がなければ、すべてコケる作品だった。
 なんせ「スーパースター様」だよ。自分で自分をスタァだと名乗って失笑されないオーラが必要。

 なんつーか、「正しき花組のトップスター」の姿を見たよ。

 「スーパースター様」としての「唯我独尊! 俺の前にひざまずけ!!」な姿と、その孤独っぷりに、ヤラれました。
 好みっす。アンタもー、わしの好みっすよー。
 いちばんの見せ場は、派手こいショー・シーンでもなければ、美しい姿で愛だのかなしみだのを歌うところでもなく、あの椅子のシーンだと思うよ。
 真っ白な舞台に痛い、黄色い椅子。そこに背を向けたまま坐った姿。顔は見えないし、背中も見えない。椅子の背と、腕、頭のてっぺんがちょいと見えるかな程度の露出。
 そして呼ぶのは、今はもういない女の名。

 想像力、という力。

 顔もなにも見えない状態で、観客は想像する。
 彼のかなしみを。

 ……ええ。想像しましたとも。
 なにもかも持ち合わせた、超俺様なスーパースター様の、真の顔を。
 疲れ果てた老人のような、苦悩と哀しみに満ちた寝顔を。

 も、萌え〜〜。

 
 ひとり芝居だったんで、他の登場人物たちの比重は軽いです。
 エロール=エリイの「運命の恋人」であったブリーダ・ブルスも、幕開きにちょろりと出てくるだけ。印象は薄いです。しかも出てきた瞬間から「恋・最高潮!」なもんで、唐突といえば唐突です。
 でもわたしゃ、それで十分です。
 ひとり芝居っすから! 舞台全部が白一色の段階で、「これはエロール=エリイの物語」ってことで納得。彼の「ファム・ファタール」としてのイメージってことで、薄くてもOK。そればかりか、残像があればいいくらいだ。
 むしろ、弁護士助手で探偵役のアルベルトくんが突然歌い出したことの方が違和感あったよ。
 だって彼、ただの脇役でしょ? 探偵役でしょ? 突然愛の歌、歌われてもな……びっくりしたよ。
 そこではじめて、「そーいやこの男、二番手男役だっけか」と思い出した……すまんなあさこ……ハッチさんと2個イチでしかなく、君を個別認識してなかったよ。(もちろん、あさこちゃんが演じている、ってことで注目はしていたが、あまりに影が薄いのでスルーしていた)

 エロール=エリイをとりまく女たち、という構図は大変よかったです。
 ただ、タカラヅカだから、トップ娘役のふーちゃんの処遇に首を傾げたりはするんだけどな。
 老女も中年女も妖艶な未亡人も小娘も、なんでも来い!! な、エロール=エリイが素敵。来るもの拒まず、差別はせず、な態度が、彼の孤独を一層印象づけるよ……。

 
 ここで問題です。
 究極の女たらしエロール=エリイ様は、妖艶な未亡人タチアナとの一夜のあと、なーぜーか、服をしっかり着込んでおられました。
 そして、タチアナは大層ご立腹。彼との情事に傷ついたようです。

「あの男、服脱がなかったんじゃない?」
「自分はネクタイしめたままで、女だけ脱がせたのよ」
「そりゃ女も怒るわなー」

 てな話を、わたしとかねすきさんはしておりました。
 ここまではいい。
 問題は次だ、かねすきさん。

「そればかりか、挿れてやらなかったんじゃない?」

 ……かねすきさん……。
 そこまで、言いますか……。年頃のお嬢さんが……。

「挿れてもやらなかったんじゃ、女も怒るよー、ひどーい」

 エロール=エリイ様、真実はどうですか?


 本日はかねすきさんとデート。
 花組バウホール公演ナリ。
 これでワークショップ、全組制覇だ!!

 人気の花組だから、定価を出すつもりでいたのに、またしてもチープなお値段ですんでしまいました。
 全組制覇して、かかった値段は……あれ? よくおぼえてないや。たぶん、12000円でおつりが来るはず。価格破壊の恩恵ですかな、植田理事長(皮肉)。
 

 それにしても花組『おーい春風さん』。

 ……すごかったっすよ!!

 わたしとかねすきさん、悶絶しかかり。
 月組『長い春の果てに』の初日のようでした。

 『春風さん』って、あんな話だっけか??

 観ていない方のために、解説しておきましょう。

 親に売られた角兵衛獅子の子どもたちがいます。親方に置いて行かれたと思った彼らが、ひもじさと心細さに泣き出すと、子どもの神様であるお地蔵様が登場。彼らに愛を与えて癒してあげるのです。
 そこへ「主役」の親方登場。親方は子どもたちを足蹴にします。それに怒ったお地蔵様が、親方を懲らしめようとするのですが……被害者のハズの子どもたちは、なんと泣きながら親方をかばうのです。
 そう、子どもたちはみんな、親方の「お手つき」なのです。どんなに乱暴されても理不尽に扱われても、彼らは親方を愛しているのです。お地蔵様がどんなにやさしく愛してくれたとしても、彼らの愛は親方にのみあるのです……。
 悲しい愛の姿がここに。
 やさしい男の愛にすがればいいのに、あえてヤクザな男の鬼畜愛に身も心も溺れていくかなしい受たち……。
 そんな、せつないラブストーリーでした。

 って。
 いいのか?
 いいのか、コレ?!

 親方役は、我らがちはる兄貴です。
 出てきた瞬間、場をかっさらいました。
 主役です。
 彼が主役なのです。
 それまでの子どもたちのあわれな様子やけなげな様子は、すべて彼のキャラクタを際立たせるための布石だったのです。

 兄貴、フェロモン全開。

 それまでの世界観を見事にちゃぶ台返し。
 別世界を繰り広げます。

 あの頬の傷はなんなんですか。
 一座を率いる前は任侠の世界にいた人ですね?
 暗い過去や禁じられた過去を、1ダースは背負ってますね?
 おまけに、ロリコンでショタコンですね?
 子どもたち全員、あなたのお手つき、アンタ児童虐待の性的異常者ですね? そこに愛はあっても子ども相手は大人としてどうよ? な、イケナイ男ですね?

 ……びっくりした……。

 そもそも、主役の愛音羽麗ちゃんが、えらく「年長」な役作りであることに首を傾げていたのよ。
 「子ども」ではなく、「少年」だったの。
 宙組のあいりも、星組のれおんくんも、みんながんばって「子ども」として作ってきた役なだけに、みわっちの大人っぽさに驚いていたの。
 まっつの役も、他組の「善良な、子どもらしい優等生」ではなく、大人びた少年だった。みわっちがスネているだけなのをお見通しでいるような、ちょっとこまっしゃくれた少年。
 えらくキャラクタ設定がちがうなあ、と思って観ていた、その答えは最後にありました。

 そうか、彼らはみんな、親方の手によってすでに「大人」にされていたんだわ。
 だからあんな、年齢とちぐはぐな大人びた雰囲気を持ってるんだ……!!
 すごい! 伏線だったのか!!

 
 もー、めちゃくちゃ愉快で、わたしとかねすきさんは肩をふるわせて笑っておりましたが。

 どうなんですか、アレ?

 演出家は自分がなにやってるか、わかってやってるの?
 それともあれは、ちはる兄貴のスタンドプレイ?
 兄貴が主役になってていいの?
 それってまちがいじゃないの?

 わたしは腐女子で兄貴の大ファンだから、全開な兄貴を見て大満足だけど、「作品」としてまちがってるんじゃないの?

 おそろしい一作。
 『春風さん』なのに、『風と木の詩』になったよ……。

 
 破壊力MAXの『春風さん』の余韻を残したまま、『恋天狗』へ。

 えーと。
 こっちも兄貴、すごかったです。
 笑いをとりまくってました。
 うまいです。
 場を動かすことを知っている人だ。舞台の中心を動かすことができる人。
 しかし……。
 アンタ、脇役やん……。
 2作連続だと、やりすぎだということがよくわかった。
 下級生たちのワークショップなんだから、場をかっさらうのやめようよ……。

 スタンドプレイだらけな印象の残る『恋天狗』。

 幕開きから、村人その1が引く引く、引きまくる。長い。この人主役? と首を傾げるほど、長い。
 だって客席から登場だよ。そして観客いじりするんだよ。今日は雪組のお客様がいたんで、そこで長々話し込む。
 おもしろいんだけどな。
 雪組トップ娘役は「サル」と呼ばれておりました。……同期なんだね……。でなきゃあそこまで「サル」を連発しないわなあ(笑)。
 おもしろいけど、バランス悪いよ。
 短い芝居なのに、何分の一かは、ただの村人その1、彼ひとりだけのシーンなんだよ??

 小天狗はちゃんと「少年」で「妖精」でした。
 ほっとしたわ。雪組はひどかったからな……。
 涙と鼻水流しての大熱演。感情移入激しい子だなあ。泣くのか……。さすがだ花形みつる……(漢字チガウ)。

 お八重ちゃんとお春さんの絶叫系娘も、役が役だから、全力疾走だし。

 なんというか、ひとりひとりスタンドプレイに必死というか、個人技競演、な舞台だった。

 愉快だけど散漫な印象。

 そのなかで、不思議なほど沈んでいたのが、らんとむ。
 主役だっけ……。
 忘れてたよ。
 もちろん、うまいんだよね。安定感あって。
 それが災いしたかな。
 スタンドプレイ上等! カチコミ上等! な舞台だったから、手堅く地味な彼は、沈んで見えたよ……。

 でも、主役カップルの歌は素晴らしかった(笑)。
 

 このメンバーの中では、兄貴をのぞいたらわたし、そのかのファンなんですが。
 いやあ、『春風さん』の猿回し、よかったっす。
 場が華やぐよー。
 そして顔が好みだー。
 ケロ系だよね?
 このまましぶい男に育ってくれ。

 短いながら、フィナーレめいたものがついていたのがうれしい。
 最後にまた、親方兄貴と角兵衛獅子の子どもたちに会えて、わたしとかねすきさん、悶絶(笑)。
 

 さて。
 せっかく全組観たんだから、個人的な順位付けなんかしてみようかと。
 世間の評価は知らん。
 わたしの価値観。好き嫌い。

『春ふたたび』
 作品最悪。大嫌い。という前提のもとで(笑)。
 いちばんマシだったのが、月組。演出家……ええっ? こだまっち?! びびびびっくりだ。
 つーか、ママ役の城火呂絵さんがよかった。ママが主役の話だから、ママ次第で出来が変わる。
 だから最悪なのが、宙組。最初にコレを観ていたから、ある意味最強。なにを観ても平気。演出家、川上氏。

『おーい春風さん』
 いちばん好きだったのは、宙組。演出家は小柳女史。登場人物のキャラクタが素直に表現されていて、好感大。

『恋天狗』
 文句なしのぶっちぎりで、オギー演出の月組。プロローグの「痛さ」だけで、わたしの好みをクリア。
 次が星組のお笑い作品。稲葉氏演出。
 次が花組のカチコミ上等! 小柳女史演出。
 最悪なのが、雪組。文句なしのこだまっち。作品の本質を理解せずにぶちこわし。

 そして、べつの意味で花組『おーい春風さん』を愉快だと思う。
 これほど笑えた作品はないぞ。
 ただ……今、こうやって全作品を思い返してみて気づいたんだが。
 川上氏という演出家は、出演者を野放しにしているのか?
 最悪だった宙組の『春ふたたび』と、花組の『おーい春風さん』の演出担当で、両方とも同じ失敗してるよ?
 宙ではタキちゃん、花では兄貴、のさばりすぎ。
 アンタたちだけの舞台じゃないっつーの。場をぶちこわしてワンマンショーするのは、役者としてどうよ?
 たまたま、宙はわたしの逆ツボを直撃、花はわたしのツボを直撃していたから、評価は変わってきたけど、それを考えなければ、どちらも演出家の欠点として目に余るよ。
 役者は演じすぎてしまう場合がある。故意にか無意識か知らないけど、加速して止まらなくなることがある。それをいさめるのが演出家でしょ? 手綱を取るのが仕事でしょ?
 たぶんタキちゃんも兄貴も、川上氏より年上で、新人演出家としてはやりにくいのかもしれんが、そこんとこは間違えないでくれよー。

 役者より、作品と演出ばかりを気にしてしまうのは性格か、職業柄か。
 生徒さんたちはみんながんばってたし、誰だけが特別「素晴らしかった!!」というわけでも「最悪!! へたっぴ!!」というわけでもなかった。……あ、ごめん、タキちゃん最悪だった。
 主役クラスの子たちに関しては、順位付けは無意味っしょ。
 やっぱ演出だよなあ、ポイントは。

 そして腐女子なわたしは、いづるんで『春ふたたび』か、ちはる兄貴親方の『春風さん』を観てみたいと思うのことよ……(笑)。


 結局行って来ました、トド様トークショー。
 あまり行く気はなかったんだが。5000円だし。ひとりだし。発売日をおぼえていたら、電話ぐらいしてみようと思っていたが、忘れてたし。
 ……でも昨日、掲示板に「譲ります」が出てたからさー。

 あまり熱意はなかったさ。でもさ。
 いざ、生トド様見たら、舞い上がったよ。
 ああ、やっぱわたし、ファンだったのだなあ、と再確認。
 阪急インターナショナル紫苑の間。ディナーショーで使われるところね。わたし、入るのはじめてナリ。なんせディナーショーは昔、新阪急ホテル時代に一度だけ行って、あんまりたのしくなかったので、それから一度も行ってない。……トド様にプロデュースの才能を期待してはイカンのだと思い知ったのさ。高い金だしてアレなら、ふつーに劇場に通うよ、と思った。
 トド様本人ではなく、舞台の轟悠が好きなんだ。
 それでも、こうして生の姿を見られるのはうれしい。
 思った通り、トークはとりたてておもしろくもないんだが(笑)、生だから許す(笑)。

 トド様はお美しゅうございました。

 そして、とってもとっても、小さかったです。

 ……いいんだ、色男だから。男の価値は身長じゃないさ。若造なら身長も重要ポイントだが、壮年の色男は身長じゃないのさ。

 個展開催記念、ということで、話題は絵のことが多かった。
 わたしにチケットを譲ってくれた人(岡山からの参加だそうだ)と話していたんだけど、トド様の絵には、トド様の性格がまんま出ていると思った。
 きれいで、繊細。とっても細かく細かく、描き込まれている。
 んでもって、トド様ファンばかりの集まりの中では言えないが……。

 トド様の絵は、たしかにきれいだ。しかし、退屈だ。

 トド様の性格がよく出てる……。
 真面目な人なんだろうなあ。こつこつと努力する人なんだろうなあ。
 そして、退屈な人なんだろうなあ。

 トド様の絵がうまいことは知っていたよ。今までも劇団発行の書籍にちょくちょく載ってたじゃん。
 最初に見たときは驚いた、あんまりうまいから。プロのイラスト(素描きだったから)を、ページの効果として載せているんだと思ったくらい。そしてすぐに納得した。お化粧がうまい人は、絵を描くのもうまいだろうさ。マンガ描いてる人たちが似たよーなことを言っていたもの。
 とってもうまい。でも、つまんない。そのときでさえ、わたしはそう思った。ページを盛り上げる効果としてプロの「カット」を載せていると思ったんだもん。……ページを盛り上げるためだけの「カット」ね。ただの効果。スクリーントーンみたいなもん。
 つまり、単品の「絵」としては、どーでもいー。
 「うまい」だけの絵なら、どこにでもある。写真をトレースしたら、わたしだってある程度のものを描けるさ。
 トド様の絵は、そういう「うまさ」だった。
 見たものを、そのまま写してあるような絵。写真でもいいじゃん系っていうかな。青年マンガの背景みたいな。

 個展のほとんどは油彩だったので、以前に印刷物で見たような「写真まんま」「青年マンガの背景」ってほど没個性ではなかった。
 さすがに油彩になると味が出るよね。
 ほんとに、きれい。
 初日だったからとても混んでいたんだけど、閲覧しているおばさま方(見渡す限り、おばさまばかり……あとはおじさまがぽつぽつ)が細かい草や葉の表現ばかりに感心しているのを、こちらも感心して眺めたり。「細密である」っていうのは、こんなにもわかりやすくおばさま方を感心させるんだな。
 細密さはトド様の性格から想像できるし、なまじ「写真系のうまさ」を持つ人だとわかっているだけに、わたし的にはどーでもよかった。写真を見ながら描いたんだろーなー、とか思ったし。(フランスの絵が多かったので、現物を見ながら1から10まで描いたとは思えん。秋のパリに何日も逗留して街角にイーゼル立ててたハズないよなあ)←実際、写真を見ながら自宅で描いたものが多いとトークでおっしゃってましたさ。
 それより注目したのは、構図と色だ。
 もとが写真だとしても、その写真を撮ったのはトド様自身だろうし、その写真を見ながら色を塗ったのはトド様自身だろうからだ。
 ……空が多い。
 ふつーならこの絵、中心点はもっと上にくるよね? てな感じに、微妙にバランス悪く空が多い。
 トド様、空が好きなんだな。
 それに気づいたから、空の色ばかり見ていた。
 きれい。
 自在に色を変える。
 宙としての空間と、そこに浮かぶ立体としての雲。それらが、とてもきれい。

 だとしても。
 純粋に「絵」として見るなら、どーでもいー絵だった。
 うまい。きれい。でも、つまらない。

 個展をする意味があるのかといえば、もちろんあると思う。たとえトド様がド下手であったとしても、彼が「轟悠」である限り、絵を描いたなら個展をしていいし、小説を書いたなら出版していいでしょう。
 TVタレントは本を出していいし、ブランドを作ってもいいのさ。
 だって、「売れる」もの。
 実力だけで売れるものなんて、そうそうないさ。ネームバリュー、それは立派な財産だ。趣味でしかないものをスポンサーがついて発表の場が与えられた、それだけの「名前」を作り上げたことを誇ればいい。……絵の実力とか才能とかではなくね。いや、トド様に絵の才能があるのかどうか、わたしは知らんが。

 「轟悠」という名があってこその商品価値。
 その名を誇れ。

 そしてわたしは、その名に踊らされるクチだ。トド様が描いたというだけで、眺めていてたのしいぞ、と。あの人がこんな絵を描くんだ、へええ、と感心するぞ。
 好みの絵ではまったくないけど、最初から好意を持って見るぞ。

 トークショーでトド様は、空や樹が好きだと言っていた。田舎育ちなので、どうしても自然を重点的に描いてしまうらしい。その話から、どれほど田舎で育ったかを語る。そこへ、対談相手のすばらしいツッコミ。

「信号はあるんですか?」

 ハラショー。
 トド様のお答え。一応、あるそうです。信号機。
 わたしは大阪生まれの大阪育ちなので、さっぱりわかりません。田舎って持ったことも見たこともないので、ぴんと来ない。鹿児島娘のBe-Puちゃんがよく語ってくれるけど。そしてそのたび、「緑野さんには想像がつかないだろうけど」と言われるくらい、ぽかんとして聞いているのだろうけど。

 生トド様もさることながら、トド様ファンばかりの空間が快適でした。
 ほら、わたしの周りにトドファンいないからさー。
 わたしのテーブルは「開始15分で電話がつながった人」の席だそうです。チケット発売日。「開始7分でつながった人」はその半分の数字のテーブルでした。情報収集。
 テーブルでの話題は、この間のディナーショーのこと。……すみません、わたし、まったく興味なかったんで知りません。「がんばって電話したけど、ぜんぜんだめだったわ。つながったときには売り切れよ」とか言われ、「売り切れるものなのか」と驚いていたなんて、秘密です。言えません。
 テーブルのナンバーは55までありました。1テーブル12席だったので、660人。……この会場って、こんなに詰め込むものなの? ものすごい圧迫感。「今日はケーキだからいいわよ。ディナーだってこの狭さよ」と教えられました。きっつー。
 はー。久しぶりにトド様を見て、トド様の話ができてたのしかった。
 同じテーブルだった方々、チケットを譲ってくださった方、ありがとうございます。とてもたのしかったです。
 ……純粋なトド様ファンには言えないいろーんなことを腹に詰め込んだ、ちょっとヨコシマなトドファンに親切にしてくれてありがとう。
 次の花組では華麗なホモを期待しているなんて……オサちゃんを転がして欲しいなんて……ちはる兄貴と攻対決して欲しいなんて……最近受なトドロキばかりでつまんねー、とかな。
 口が裂けても言えません。


 『GOOD LUCK!!』って最終回じゃなかったんですか?
 てっきりそうだと信じ切って見ていたんで、「つづく」だったから驚いた。

 それから、誰か『GOOD LUCK!!』というドラマのどこがおもしろいのかを教えてください。
 べつにおもしろくないわけじゃないけど、そんなものすごい視聴率を取る理由がわかりません。

 ……キムタクですか?
 それだけですか?
 それだけなんですか?

 それでいいんですか?

 とまあ、今期はわたし、ものすごーくドラマをたくさん見ています。
 今までなら、1話か、せいぜい3話まで見たらオシマイ、そこで切り捨てているよーなレベルのものまで、みんな見てます。

 それはすべて、DVDレコーダの功績です。

 今期のはじめに、全部設定しちゃったんだわ。
 めぼしいドラマを録画するように。時間とタイトルを入力してあったので、あとはわたしが忘れていても、勝手に録りつづけている。電源切ってても、コンセントを抜いていない限り、勝手に録りつづける。
 おかげで、いろんなものを見ちゃったよー。
 『GOOD LUCK!!』を1回も抜けることなく見つづけることができたのは、すべてレコーダのおかげ。
 日曜の夜とかに、他のデータを見ようとリストを開いたら、『GOOD LUCK!!』と新たにタイトルが出てる。……そっか、今日『GOOD LUCK!!』の放送あったんだー、すっかり忘れてたー。……の、繰り返し。
 もしレコーダがなければ、たぶん1話で見るのやめてた……がんばったとしても、2話でロンググッバイだな。

 おもしろくないわけじゃない。
 ただ、つまらない。

 なんつーんですか、熱帯魚とか観葉植物とか環境ビデオみたいな感じ。目にやさしーきれーなものを、ただ流している、というか。おもしろくはないけど、不愉快でもない。感動しないかわりにムカつきもしない。
 キャラもストーリーもみんな「薄い」。生きた人間はどうやらひとりもいない。書き割りの世界、予定調和とご都合主義だけの世界。美しくて毒のない人たち。スパイスに人情。痛みのない、お手軽プーな恋愛。おかわり自由なファミレスのコーヒーみたいな世界観。

 このドラマのいちばんの功績は、「キムタク」だなぁ。

 わたしは役者としてのキムタクは好きじゃない。
 つーかジャニタレのほとんどは苦手。
 だって彼らは「アイドル」であって「役者」ではないから。
 役者というのは、役になりきる。
 アイドルは逆。役になりきってしまっては、それは正しい「アイドル」ではない。
 演技しているつもりでも、結局は「アイドル」でしかない。それが役者とアイドルのちがい。
 つーか、「アイドル」はそうでなくてはならない。どんな色で覆われても、それをはねのけて自分の色で輝く。そういった天分の才を持った人を「アイドル」という。

 キムタクは、アイドルだ。

 なにをやっても、キムタクはキムタク。
 明るい役でも暗い役でも、コメディでも悲劇でも、なにやっても彼のキャラクタは同じ。
 そうでなければ、「アイドル」ではない。そうでなければ、「キムタク」ではない。

 それがわかっているから、ドラマ好きのわたしからすれば、キムタクのドラマは「つまらない」。
 なにやっても同じだから。
 わたしが見たいのはドラマであって、キムタク様のプロモーションビデオではないんだ。

 だから、おもしろそうな作品には、彼やジャニタレたちが出ないことを心から望んでいる。
 日本のテレビ界でジャニタレのいない世界はあってはならないそうなので、そのへんはもうあきらめているけど、せめて、主要人物では出ないでくれ。作品をぶちこわさないでくれ。

 だが、キムタク様はキムタク様だ。主演以外はなさらない。つーか、天下の視聴率ゲッターだ、主演が当然だろう。
 キムタク役しかできないキムタクを、どうするのが正しいか?

 答え。
 キムタクには、キムタク役を。

 キムタクのキャラに合わせたドラマを作る。キムタクまんまの主人公が、キムタクの言動に合わせたストーリーで動く。
 これが最強。

 新境地とか、これまでにないとか、そんなことはせんでよろしい。できないんだから。
 悪役とかクールとか神秘的とか、一生懸命やってたけど、なにやっても所詮キムタクだったじゃない。そして、所詮キムタクでしかない悪役とかクールとかだと、ドラマ自体をぶちこわしてきたじゃない。
 キムタクには、キムタク役を。

 そして、ドラマ『GOOD LUCK!!』。
 大正解。
 キムタク役を演じるキムタク。

 それ以外は見事にどーでもいいレベル。
 だが、キムタクが正しく作用しているので高視聴率。

 ……クリエイターは悲しくならないのかなぁ?
 どんな良作よりも、ただキムタクがキムタク役で出ているだけのヘボドラマの方が評価されるなんてさぁ。スマスマが高視聴率なのと同じ理屈でしかないなんて……シビアな現実ナリ。

 
 猫は狭いところが好き。

 最近の彼のお気に入りは、家具の隙間。部屋の角、ふたつの家具と家具の間に、20cm四方の隙間がある。そこにわざわざ入る。
 なんといっても20cmしかないので、なにもできない。苦労して入ってなにをするのかと見ていれば、そこで彼は神妙に正座している。
 正座。
 両手両足をきちっとそろえ、正面を見て坐っている。
 ただ、正座。
 他の体勢はとれないので、寝ることもできない。
 ずっと、正座。
 他になにもできない。
 ……やがて、彼はまたもそもそと出てくる。

 なにがしたいんだ?

 1日に1回は、絶対そこへ入る。
 入ってただ正座をし、また出てくる。

 猫は狭いところが好き。

 彼はマウステーブルの上がお気に入りだ。
 ぴったりと収まっている。
 たしかに、マウステーブルは猫が丸くなるにふさわしい大きさだろう。専用に作ったのか、と言いたくなるくらい、ぴったりだよ。
 猫は、カラダにぴったりの場所に入る、という習性がある。それも、飼い主のそばで、「ぴったりの場所」を探す。パソコンの前にいることの多いわたしの飼い猫だから、マウステーブルの上がお気に入り、ってのは、仕方のないことかと思う。

 でもな。
 すごく、不便だ。

 今も、彼のカラダの下敷きになっているマウスを使うべく、手を突っ込んだ。
 すると彼は、「なにするのっ?!」という驚愕の顔をしてわたしを見る。
 いや、なにするのって、マウスがね、あんたの腹の下なんだよ。
 ごそごそと猫のカラダ越しにマウスを動かす。
 猫は「信じられない……ッ!!」という顔でわたしを見る。
 なにを大袈裟な顔してんだよ、こっちは使いにくいのを我慢してマウステーブルの上を貸してやってるってのに。ああそれにしても使いにくい。ん?
 ふと見ると、わたしの手は猫の股間に突っ込まれる形になっておりました。
 ……えーっと……でも、そこにマウスがあるわけで……。
 両足の間に手を突っ込まれた猫は、まことにいやぁな顔でわたしを凝視している。

 ……えっと。
 わたしべつに、アンタの股ぐらをいじりたいわけじゃなくてだね。
 ただ、マウスを……。

 猫は傷ついた顔で去っていきました。

 ……痴漢? アンタわたしを痴漢だと言いたいのかっ?!
 ムカつくぞ、猫!!

 とゆー穏やかな昼下がり。

 
 『ビロウ』ふたたび。

 誘われるままに、もう一度映画『ビロウ』を見に行きました。
 ミステリだから、犯人がわかったあとで見てみるのも味があるかな、と。
 たしかに犯人は犯人らしい態度を取っています。こんなにぴりぴりしていたのは、犯人だったからなのね、とか。
 でも、新たな発見などは特になし。
 おどろいたのは、「けっこう覚えている」こと。
 ミステリ……とゆーか、ジャンル的にはホラーな映画なので、幽霊が出るシーンがいっぱいあるんだけど、その幽霊の出るタイミングを、おぼえてるんだわ。あ、ここで出る、と思ったところで出る。たしかここでこうくるよな、と思った通りにくる。
 けっこー覚えてるもんなんだわ。幽霊。
 つーか、あまりにべたべただったからなー、『ビロウ』。出るぞ出るぞ、なところでばかり出るからさー。

 にしても、客少なかった……。

 WHITEちゃん、他にふたり友人を誘い、ふたりともに振られて、最終的にわたしを誘ったらしい。……だってわたし、もう見てるもんな、『ビロウ』。
 その断られたふたりは、ふたりとも『ビロウ』の存在を知らなかったそうな。タイトルすら聞いたことのない映画に誘われても、そりゃ腰はあがらんだろう……。つーか、普段映画を見慣れていない人って、映画を見ること自体大層なんだよね。
 わたしもワゴンさんやきんどーさんに『ビロウ』って映画を見たよ、と言ってみたけど、ふたりとも「聞いたこともない」って言ってたし。
 そんなにマイナーだったのか、『ビロウ』。三番街シネマが封切館だったから、そこそこメジャーだと思うんだけど。

 ホワイトデーの金曜の夜だ、映画館はカップルだらけ。
 女ふたりはわたしたちだけか?(笑)
 『ビロウ』は閑古鳥だったが、映画館自体は若者であふれていたよ。マルチプレックス・シアターなので、ロビーには人がうじゃうじゃ。

 OLのWHITEちゃんがやってくるまでの間、わたしはひとりでお買い物。
 ……また鞄を買ってしまいました……。
 どーしてこうわたし、鞄が好きかな。いつもいつも鞄を買ってしまう。
 夏の有明で持つ鞄はコレです。たっぷりお買い物できるだろー鞄です。
 ……って、毎シーズン買ってるよーな……。
 鞄というアイテムのいちばんの問題点は、「置く場所にこまる」ということなんだよなあ。かさばるからなあ。

 WHITEちゃんに言わせるとわたし今、「ブタな気分」なんだそうです。
 どうも「ブタ」が好きでしょーがないらしい。
 『呪怨』を見に行ったときだっけか、わたし、使いもしないシャープペンの替芯を買ってしまったのよね。高校生以下ならともかく、大人はシャープペンなんか使いませんて。
 それでも買ってしまったのは、おまけのブタのマスコットが欲しかったから。
 ……かわいかったんだわ、それがまた。
 替芯もまあ、わたしゃあと50年は生きる予定だから、半世紀もあれば使い切ることもあるかもしれないしな。
 てなことがあっただけに、WHITEちゃんに言われたのよ。「緑野さん今、『ブタな気分』なのね」って。
 ……ええ。今日買った鞄も、「ブタ柄」なのよ。
drug store’sの小物はわたしには猫にマタタビなのよ。(小物だけっす。drug store’sの服は、見る分には愉快でいいけど、着たいとは思わない。でぶに見えるよね、あのデザイン……。小柄で華奢な人がだぶっと着るにはかわいいだろうけど)

 そうか、ブタな気分か……。何故今になってブタなんだろ……。まさか、自分の姿を投影している……?!(おがくず風呂に行ったとき1.2kg太っていたことにショックを受けた・笑)

 
 本日は、埋まってきました……。

 スパ好き三姉妹で、新規風呂へ。同じ風呂には二度と行かねえ、いつも行ったことのない風呂へ行くぜ!な3人組っす。
 長女のワゴンねーちゃんが忙しくて、最近とんとご無沙汰だったんだが、よーやく行くことができました。

 おがくず風呂!!

 酵素温浴ってやつです。
 酵素入りのおがくずのプールに入り、埋められて10数分。しっとり汗をかいて老廃物を出し、美容と健康をGETしちまおう、というスパです。

 昨日ちょいとかなしみに暮れ、悪夢にうなされていたわたしは体調悪し。ドア・トゥ・ドアでいつも送り迎えしてくれるワゴンねーちゃんの車で少々酔っておりましたが、おがくず風呂にふつーに入りました。
 人間なにごとも体験だ。
 おがくずの感触を肌で感じるのだ。どこで役に立つかわかんねーし。(どこでだ?!)

 貸してもらったお揃いのヘアキャップと、ムームーみたいな脇下からの貫頭衣だけを身につけて、いざおがくず風呂へ。
 見た目はシュールな、温水プールってとこ。温水の代わりに茶色いおがくずが満たしてある。材質は檜と杉だそうだ。酸っぱいよーな臭気。空気は湿気ていて、熱い。おがくずから湯気があがっているのがわかる。
 入ってきたわたしたちを見て、スコップを持ったオヤジが2人、おがくず風呂へ分け入る。脛まで沈むのよ。
 彼らが墓穴でも掘るかのように黙々と掘った穴に、寝そべるわけだ……死体のように。
 促されて、おそるおそるプールへ入る。
 おがくずはぬくく、やわらかい。足が沈む。独特の感触。飛び跳ねてみたい欲求にもかられるが……ムームーの下はすっぽんぽんだ。下手に転けてもめくれてもこまる。
 埋められる感覚は格別。
 無抵抗のわたしと、スコップでかけられる土……じゃなくておかくず。ぬくさとやわらかな重さ、そして臭気。
 ……この無抵抗感はいいなあ。されるがまま、という(笑)。
 最後は手で丁寧に首の下まで埋められ、顔だけ出ている状態に。
 ひとりだけ遅れて入ってきたきんどーさんが、今まさに埋められようとしているわたしとワゴンさんを見て爆笑していた。……ああ、わたしも見たいよ、友だちが無防備に埋められている哀れで滑稽な姿を。

 ぬくかった……。

 15分ほど埋まっていたんだけど、ほんとにぬくかったよ。汗がわいてくるのがわかる。
 独特のクッション感は気持ちいい。でも、身動きできないのはちょっとつらい。眠ってしまうにはやっぱ熱いから、起きてるし。となると汗の流れる顔とか、かきたくなってくるし。あ、顔の汗は拭いてもらえるんだけど。
 そのあと上体を起こして坐り、半身浴へ。腰から下だけ埋め直されるの。そして係のおばちゃんに、首筋から肩へおがくずをなすりつけるよーに軽いマッサージをしてもらう。
「肩、ぱんぱんに張ってるね」
 と驚愕される。ええ。いつでもどこでも、どんな人にも驚愕されます。肩もみ自慢の友人たちがみんな「硬くて指が入らない!」と悲鳴を上げる、筋金入りの凝りまくった鋼鉄の肩っすよ。

 たっぷりあったまったあとで、お風呂へGO。
 全部脱いで、シャワーあびて、髪もカラダも洗って湯船で一息。

 ……ショックなことがひとつ。
 ババシャツを着ているのは、わたしひとりでした。
 ワゴンさんもきんどーさんも、着てなかった……。
 てゆーか、わたしひとり着込みすぎ。フリースのジャケットのうえに、ロングコートまで着てたんだよ……あきれられたよ……。
 だって昨日寒かったんだもん! 某田舎町がな! 心底凍えたんだよ、宝塚ムラ!!

 おがくず風呂の施設はとても民宿テイストでした。
 住宅地のど真ん中にあるしさ。
 なんかひどく郷愁を感じる建物。スタッフもおっちゃんおばちゃんばかりで、手作り感にあふれている。
 みんな親切なんだけど……なんていうか……あか抜けないとゆーかびんぼくさいとゆーか。もっとお洒落なものを想像してたんだがな。
 客が意外に多かった。次々とやってくる。常連さんって感じ。金持ちだなー。わしゃ日常的にこの値段出して風呂には入れないよ。

 ま、それにしても。
 「おがくず」というと、『クーロンズゲート』。
 「埋まる」というと、『バロック』。
 大好きなゲームを連想してしまうあたり、わたしも業が深いですな。

 ……なんか『バロック』がやりたくなってきたな……。
 ダークでブラックな、ちょっと電波の入ったアクション・ロープレです。わたしのフェイバリット・ゲームのひとつ。
 「首の者」を埋めて、「心臓の種」を食べさせたい……。

 
 ちょっとというか、けっこう悲しいことがあって、悪夢にうなされました。
 神様、わたしなんか悪いことした? なんでこんなにひどいめにばかり遭うの?
 最近グレてもいいくらい、ひどいめに遭ってるよね?
 踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂。

 運と幸運の秤はつりあいが取れるというなら、わたしの幸運はいつやってくるんだろう……。遠い目。

 ま、それはさておき、宙組新公。

 たとえばコム姫がピエール役をやったら、どうだろう。
 コム姫の実力はこの際問わず、仮定として語らせてもらうが、たとえ迫真の演技をしたところで、説得力に欠けていただろう。
 そして、たとえばワタル兄貴がピエール役をやったら、どうだろう。
 兄貴の実力の真偽は問わず、仮定として語らせてもらうと、ただのウドの大木演技力皆無の立っているだけ男だとしても、説得力にあふれていたことだろう。

 つまりは、そういうことだ。

 本役のたかこより、新公のともちんの方が、説得力があったのさ。

 それってどうかなあ、と首を傾げるけどさ。
 たかこのピエールはやっぱり、どこかしら王子様で、線の細さはぬぐえない。彼がもっとはじけてくれたら別だと思う。やってやれない役ではないだろうから。
 だが、ともちんの場合、たとえ立っているだけでなにもできなかったとしても、その姿だけで「傭兵部隊のシェフ」たりえる。
 身長190cm(推定)の巨体だけで、十分荒くれ男だよ、アンタ……。

 いやあ、大男はいいねえ。かっこいいよ。甲冑の似合うこと。
 そして、横に立つ娘役たちの可憐なこと。

 だってさ。

 彩乃かなみが、「小柄」なんだよっ?!

 ピエールの腕に抱かれるジャンヌが、頭ひとつ小柄で肩幅半分華奢なんだよ?!
 あの、かなみちゃんがだよ?!
 信じられる?!

 ああ、視覚のマジック!!
 >−−−<
 <−−−>
 上記の線は、どちらが長く見えるでしょう? てな世界だよ。

 トマ役の七帆ひかる(推定身長185cm)、ロベール役の十輝いりす(推定身長189cm)と、冗談のような巨人ぞろいの傭兵部隊。
 とりあえずビジュアル勝ち。
 実力以前に見た目で勝負。
 タカラヅカですから、それは正しい。
 あとは正しく実力をつけてくれ。この大男たちが華麗にはばたくとき、コスプレの宙組は正しく昇華されるのだ。

 ……腐女子なわたしは、新公には多少期待してたんだけどね。
 本公演はホレ、腐女子のドリームに水を差しまくるあの方がいらっしゃるので、まったく萌えられないが、新公ならあるいは……!! と、期待してましたのよ。
 がっくり。
 なんか、薄いよ、みんな……。お手本通りに一生懸命演じてるのはわかるけどさ。そしてビジュアル勝ちしてるからそれでなんとか体裁は取り繕ってあるけどさ。
 本役を超える萌えは、どこにもなかった。
 たとえばトマなんかはさ、原作がどーなのか知らないが、もっとガチガチの冷静真面目小姑男にしてもいいんじゃないの? 中途半端に二枚目ぶらないで。本役の水差し男まんまのハンパな二枚目がさみしい……。トマとロベール、キャラかぶりまくってるから、「どっちかひとりでいいよ……ふたりいても意味ねーよ」な印象になる……。
 新公ってのは、たしかにお勉強の場だが、本役のコピーに成り下がらず、つたないながらも試行錯誤が欲しいと思うのことよ。

 そー思うと、雪組のいづるんは得難い男だなあ。ひとりで耽美突っ走ってくれるもんなあ。……地味だけどね。

 しかし、この巨人トリオには今後期待したいところです。大きいことはいいことだ。こいつらの横に並んだら、たとえわたしでも、「小柄で可憐」に見えるかもしれないじゃないか!!(笑)
 そして大きく強く育って、たかこ相手に攻をキメてくれ!! あのヘタレ受男にがつんと一発カマシてくれ!!(笑)

 ……ともちんといえばわたし、前回の新公、ともちんのFCでチケットを取ってもらったのです。
 チケットに添えられていたメッセージカードの、とーってもかわいい女の子女の子した文字と、ピエール隊長の男っぷりのギャップを思うと、大変愛らしく思います……。

 

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